今年の水着はジャンヌに牛若丸に茨木童子ですって。
財布、殺す気なのかしら?!
ようこそおいでくださいました。
うむ、はじめまして、あちらのケイ卿とベディヴィエール卿、ガレス。ついでに、ガヘリス。そして、我らが王の末裔、ルフェイ・ペンドラゴン。
私が、僕が、俺が、儂が、拙が、我が、この世界のマーリンである。遠路はるばるアヴァロンの塔までご苦労様。リンゴしかないけど歓迎させていただくぜ?
ん? おっとぅ、すまぬすまぬ。人と会話するのは久しぶりですんで、自分がどんな喋り方をしていたのか忘れちまったよ。さて、己はどのような声音で、どのような口調で、どのような形態で人と会話していたじゃろうか。思い出すので待っていてください。
えーと、じゃあ……この喋り方でいいかな? うん、違ったような気もするけど、短い付き合いだ。君たちの知るマーリンに似せる方向でよろしく頼む。
改めて、僕がこの世界のマーリンだ。
会いたかった。ギャラハッドのおかげでソロモンの真実に辿り着いたあの日から、ずっと君たちに会いたかった。
特に、君だ。君に逢いたかったんだ、ルフェイ。我らが王の末裔よ。流石に面影は残っていないか。騎士王の血脈を繋げられたことを、僕たちは誇りに思う。……まあ、直系の女の子にモルガンにちなんだ名前をつけるのはどうかと思うけど。
こっちでもモルガンは色々やっちゃったからね……。僕を此処に幽閉したヴィヴィアンほどじゃないけど……。まあ、あのふたりどころかアーサー王伝説に記された事件のほとんどが、メフィストの奴に唆された姦計だと理解できたのは五百年ほど前だった。
してやられた、よ。
あいつとはちゃんと共犯関係を築けたと思っていたんだけど。まあ、所詮は悪魔か。信じた僕が馬鹿だったのさ。それも含めて悪魔の仕業ってことなんだろうが。
君たちの目的はおおよそ推測しているよ。早速……ん? 話の前にエクスカリバーの真相が聞きたい? ああ、書籍や伝承は『真理』に歪められているからね。影響を受けにくい当事者に聞くしかないのか。
カムランの丘にて、アーサーの代わりにベディヴィエールが死んだ。亡国の王となったアーサーは教会に身を寄せて、代償として聖剣を要求された。アーサーの末裔が教会と縁切りをした時に聖剣の所有権は教会に奪われていた。掻い掴んで説明するとそんな感じかな? 語るべき事件はもっと色々あるんだけど、そのあたりは割愛させてもらうよ。
あ、ちなみにアーサーは死後、妖精たちがアヴァロンに導いた。輪廻転生したって話は聞いていないからこのアヴァロンのどこかにいるんだろうけど、会っていくかい? 時間がないからいい? それはそうだ。では、こちらも本題に入るとしよう。
全ては四千五百年前から始まった。三千年前のソロモンより更に古代。人の営みが開始される原初の時代。
ざっくり言うと、この世界観は『星』と『神』と『人』によって構成されている。星とは宇宙の統合意思であり、神とは純粋な神だけではなく魔王や精霊を含めたあらゆる異形の総称だと認識してくれ。
当時、『人』は『星』や『神』と比較して圧倒的に脆弱な勢力だった。それを打開しようとしたのが、ギルガメッシュとモーセだった。ふたりの偉人は人を神や星から解放しようとした。だが、問題なのはこのふたりの挑戦の方向性が大きく異なったことだ。
ギルガメッシュは『人』を他のふたつと対等にしようとした。モーセは『人』を神の側と融合させようとした。そのためにソロモンの『真理』の原型とも言うべきものを創ろうとしたんだが、結局、失敗したのさ。その失敗がサマエルによってソロモンに受け継がれ、『真理』が生み出された。
だが、抑止力に対抗するために作り出された『真理』は抑止力によって悪用された。悪用は言い過ぎかもしれないが、とにかく利用された。世界の平和を守るため、星の未来を繋ぐために、忘れてはならない悲劇がなかったことにされ、ありもしない奇跡が語り継がれた。
え? 神々はどうしたのかって? 別に、どうもしなかったよ。
人を愛した神はいるが、人を救った神などいない。龍王ティアマットの逸話がかなり盛ってあることからも分かるだろう? 人を生んだ神はいても、
ソロモンの死後にも数多の英雄が誕生した。――だが、誰も彼もが真実に辿り着けなかった。辿り着いたとしても、ソロモンの遺志を継ごうなんて狂人はいなかった。たとえ、それが人類の寿命を縮めるとしてもね。
四千五百年前に人類は敗北した。――しかし、決して負け続けたわけでもない。
あえて言わせてもらおう。僕の手柄ではないが、この宇宙の人間だけの力というわけではないが、えらく時間がかかってしまったが。
今日を以って、人類の勝利が始まると!
■
ゲーティアはその幻影を見て、思わず固まった。ソロモンに向けた拳さえ止めて、その幻影に一瞬だけではあったが見入った。それは戦場において致命的な隙のはずだった。
「え……?」
だが、ソロモンの方が停止の時間が多かった。
幻影はそっとソロモンを背後から抱き締め、彼の頬に顔を摺り寄せた。ソロモンにもその幻影は見えていた。横目で自分に触れている『彼女』の幻に身体を震わせる。宝具も停止し、あらゆる思考が混線状態だ。
「……××××……?」
思わずソロモンが口にした名前。忘れるはずもないその名前を聞いて、ゲーティアの戦意が回復した。この世界でも『彼女』はそういう名前なのか、という妙な感慨を抱きながら。
「感謝します、女王よ――!」
人王は唯一神を殴り飛ばした。
熾天使もいない天界に、唯一神は倒れる。幻影は消えていた。
「まったく、余計な寄り道ばかりだったな」
ゲーティアは上を見る。歪な音を立てながら崩れていく天界の空に、かつて目指した極点を重ねながら。
『イポスより報告。これより真理崩壊は最終段階に入る』
『シャックスより報告。真理崩壊と共に天界の消滅が予想される』
『オセより報告。天界にいる天使の大半は下の階層だ。救援は不可。そも、彼らも混乱状態の模様。上位の天使は戦闘不可能状態』
『ウァプラより報告。円卓の騎士の反応あり。獅子王の目的にはいくらか天使たちを自陣に吸収することもあった模様』
『フォカロルより報告。しかし、天使の多くはこの勧誘に迷っているようだ。どの道、九割は天界消滅に巻き込まれるだろう』
『マレファルより報告。全七十二柱の起動に問題なし。イレギュラーが発生しない限り、計画は問題なく達成される』
しかし、ゲーティアも七十二の魔神もイレギュラーが発生しないなどとは思っていない。否、既に発生している。それを認識している。
「何故だ……」
幽鬼が吐き出す怨嗟のように、唯一神は呟く。
「何故、こうなる……」
心底、原因が理解できていないようだった。
「おまえ、本当にいい加減にしろよ。どうして過ちに気づいて負けを認めるなんて、誰にでもできることができないんだ」
「黙れ」
「私の仕事はここまでだ。おまえの仕事も、ずっと昔に終わっているんだぞ?」
「黙れ」
「誰もおまえを求めてはいない。誰もおまえのことを覚えていない」
「黙れ」
「もう誰も、おまえの愛を求めてはいないんだ」
「黙れ」
「だから――おまえはここで我々と終われ」
「黙れ!」
「黙るべきなのは其方だろう、■■■■」
「私の名を、貴様如きが、口にするなあああぁああああああ!」
この唯一神の中身は、ソロモンではない。
「汝、神の名をみだりに唱えてはならない、だったか。くだらん。貴様や貴様の教徒が守っていない十戒をどうして私たちが守らなければならん」
「私、わたしのため、わた、たわあああわたししし? わたしはかみかみKAMI、かみ? あがががあああみみいいいいいいいがあがががががががががああがめげげええめ! 全人類は私のためにある! 人間は私のためにあり、人間は私のために死ぬべきだ。私はそのために――
「ゲーティアより七十二柱に通達」
極点への道はあと少し。誰にも邪魔をさせてなるものか。
「この身の程知らずを黙らせるぞ……!」
今度こそ俺たちの理想を実現するために。見たかったものを見るために。
「ミカエル、ラファエルとウリエルは死亡。ガブリエルは戦闘不可能。メタトロンとサンダルフォンは離反の上に死亡。ならば、貴様らを起こすか。サマエルの遺産などに頼るのは業腹だが、貴様らも私のもの。ならば、使用している。消費してやる。いつまで寝ている。疾く在れ、ラジエル、ザフキエル、ザドキエル、カマエル、ハニエル……!」
唯一神の号令をかけたのは、生命の樹の守護天使たち。四大天使たちや双子の天使には劣るものの、聖なる力を帯びた神の力の一端。
「貴様らおぞましき魔神如きに、私の『システム』が奪えるものか。私の天界が壊せるものか。私の、私だけの人類が滅ぼせるものか。貴様らが薄汚い蛇をばら撒いたというなら、私はそれを食い殺す災厄を生み出すのみ」
この神は人間の堕落を粛清するために硫黄と火の雨を、洪水を、落雷を起こしてきた。度し難い醜さに対して、それに相応しい滅びを与えてきた。今回も同じだ。相手が神王や抑止力さえ恐れぬ獣ならば、それを滅ぼす禍を見せつけてやるだけだ。人王の人理救済が失敗すれば、全人類は目を覚ますだろう。自分たちが何のために生きているのかを思い出すはずだ。
「
■
赤龍帝の前に、鮮血が舞う。
「どうしてだよ……」
赤き龍と成り果てた少年は問う。
「どうして、その女を庇ったんだよ、英霊!」
赤い龍の爪が引き裂いたのは、紅髪の女悪魔ではなく、桃色の髪をした騎士だった。
問いという形で放たれた怒号に、ヴァーリを除く全員がたじろいだ。
「ほんと、どうしてだろうね」
元より脆弱な英霊であるアストルフォ。即消滅というわけではないが、霊核を破壊された。すでにエーテル体としての消滅が始まっている。
その場にいた全員がアストルフォの消滅など意識になかった。
その怒号が、その怨嗟が、ソロモンを発生源にしているのではないと気づいたのだ。この気持ち悪いほどの敵意が、兵藤一誠本人から放たれていると理解したのだ。
しかし、彼らはその真実を拒絶する。
何故なら、アストルフォが庇う形になったとはいえ、兵藤一誠は本気でリアス・グレモリーを殺そうとした。もしも彼の言動がソロモンに汚染されたものではないとしたら、そんな馬鹿な話があるはずがない。眷属である一誠が、主人であるリアスを殺そうとする理由などどこにもないはずなのだ。よりにもよって、情愛の深いグレモリーに主人殺しなど有り得ない。
裕斗はこの瞬間にソロモンから解放されたのだと推測した。小猫は姉のように力に飲まれたのかと恐怖した。ギャスパーはソロモンの演技だと断じた。朱乃は錯乱しているだけだと頭を振った。リアスは呆然となるだけだった。
「きっと、ここではないどこかで出会っていた誰かと、君が同じだからもしれないね」
「誰か?」
「世界の裏側でのんびり待っている誰か、だよ」
人理焼却とは無関係の記憶だ。故に、魔神や一誠も知らない出来事。人が手を伸ばした星を奪い去った邪悪な竜との思い出。
「君は普通の人間だったんだってね」
英雄の血を引いていたわけではない。勇者の転生体でもない。特別な才能があったわけではない。ただ、神滅具をうまれもっていたというだけの少年。それが兵藤一誠だ。
「街に行って人と会って、誰かを好きになったり嫌いになったりして、愉快に人生を過ごしてきたはずだ」
その通りだ。
あそこに戻りたい。戻れない。
だったら、一緒じゃないか。どうして止める? その女を殺したら、戻れなくなるとでも? どうせ戻れやしないのに。
「君はそれを台無しにされたって事だろう? それに怒ってこんなことになったんだとしたら、それは―――困るな。とても、困る。だってさ――」
ボクは君を見捨てたくなかったんだ。
「お願いだから、ここで逃げて欲しい。いまそうすることだけが、君が求める場所に戻れる、最後のチャンスなんだ」
そんな理性蒸発騎士に似つかわしくない、それでいて彼らしい慙愧を抱きながら、ソロモン陣営のライダー、アストルフォは消滅した。