憐憫の獣、再び   作:逆真

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活動報告でIFルートを書くと言ったな?
すぐには書かない。
このタイミングだからこそ消費できるネタを先に書かせてもらう。

これも一種のIFルートなんだけどね。


番外編 夢の果てに死すとも・上

 ――誰かの夢を見ている。

 

 神に導かれた男がいた。槍に狂わされた男がいた。

 

 極々平凡な村に生まれ育った少年がいた。彼はある日、己が最強の神殺しの力を持ち、歴史に名を残す英雄の血筋を継いでいたことを知る。

 

 最強に至るかもしれない人生の転機がもたらしたのは、栄光などではなく、孤独の始まりだった。誰も信じられなかった。誰も頼ることができなかった。自分の人生を狂わせた槍こそが、彼の唯一信じられるものだった。

 

 力を蓄え、仲間を集め、名前を捨てた男はひとつの結論に至る。

 

 この力には意味がなければならない。この力を生まれ持った自分には栄光が与えられるはずだ。そんな強迫観念あるいは妄想が彼を突き動かした。

 

 “俺は異形の毒になる。人間がどこまでやれるか挑戦してみせる。”

 

 ある日、ある戦場、ある女から告げられる。男が為そうとしている偉業にとって、その力にも血にも意味などない、と。

 

 目を逸らしていた現実を突きつけられた。目を曇らせていた幻想を叩き壊された。

 

 そこで折れてしまえば楽だったのに、男は歩みを止めなかった。

 

 出会ってしまったからだ。知ってしまったからだ。平凡でありながら偉業を為した『彼』の存在を。『彼』に憧れた。『彼』になろうとした。

 

 その結果、男は恩師も、仲間も、無辜の民さえ守れなかった。男に許されたのは、小さな足掻き、僅かな抵抗、微かな希望。異形に貪られる人々をひとすくいでも救おうとした。死後の己さえ売り払って、その手を無理やりにでも伸ばした。せめてひとり、もうひとりと。

 

 脅威的な邪神を撃退した。目標にしていた魔王を打倒した。醜い異形の群れを滅ぼした。かつて男の求めていた英雄的偉業のはずだった。

 

 勝利の喝采も英雄への称賛もなく、男はひとり、空白を味わった。

 

 男はようやく気付く。己が何を求めていたのか。己が掲げた覇道が、どれだけ的外れなものだったのか。

 

 されど、男にとって苦痛の旅路はそれからだった。価値があると、本当に尊いものだと再認したはずのものを、壊す。男の手で、地獄が作られた。求めていた栄光などそこにはなく、在るのは血みどろの自分だけ。

 

 地獄を見た。地獄を見た。地獄を見た。

 

 同情などすべきではない。これは男の不適当で不相応な理想の代償。男が犯した過ちの清算なのだから。

 

 しかし、これが世界を救おうとした男の末路だと思えば、心が欠けそうになる。

 

 男が辿り着いたのは、過去の己。過ちを繰り返す前の自分。

 

 男は思い出した。己が何を手に入れたのかを。

 

 男は出会えた。己が残したものを受け継いだ救世主に。己が繋げられた未来に。そして、自分が目指していたものにちゃんと成れていたとようやく知れた。

 

 男は答えを得た。

 

 故に、此処にいる。

 

 

 

 

 

 

「ん、んん……?」

 

 小さなうめき声を上げながら、()()は目覚めた。

 

 頭を起こすと、その夕日のようなオレンジ色の髪が小さく揺れる。

 

 人理継続保障機関フィニス・カルデア所属、藤丸立香である。

 

「えーと……」

 

 長い夢を見ていた気がする。起きると同時にどんな夢だったかは忘れてしまったが。そんなことを考えながら、立香は自分がどういう状況にいるかを思い出す。

 

 まず、自分のいる場所がカルデア食堂のテーブルであることを確認する。テーブルの向かい側には自分と同じような姿勢に寝ているふたりの女性がいて、どちらも熟睡している。背中には毛布がかけられていた。見れば自分にも同じように毛布がかけられている。

 

「ああ、そうだ。ふたりと話してたら寝ちゃったんだ……」

 

 毛布には覚えがないため、周囲に誰かいないかと見渡す立香。

 

「目覚めたか、マスター」

 

 すると近くから声がした。

 

 声のした方を見れば、壁によりかかってひとりの男性が立っていた。

 

 自分の身長と同じサイズの棺桶を背負った、外套と包帯の男。アーチャーのサーヴァント。真名は××。

 

 中華圏らしい名前だが、立香はそんな名前の英雄を知らなかった。ドクターやマシュも知らなかった。正確には、彼に該当する英霊が歴史に存在しなかったのだ。もちろん、あまりにもマイナーすぎて、書籍などに記されていないことだって考えられる。西洋圏では有名だというアーラシュのことを、立香が知らなかったように。

 

 しかし、そうじゃないんだろうなと、立香は考えている。彼はきっと正規の英霊ではない。掃除屋、守護者、抑止力の尖兵と言われる存在なんだろう。二人の“エミヤ”のように。

 

 彼は最初の特異点で召喚された古株だ。彼がいなければ終わっていたような状況は多々あった。第一特異点で、巨大な邪竜に挑んだ。第二特異点で、破壊の大王の一撃を凌いだ。第三特異点で、大英雄の足止めをした。第四特異点で、冠位の暴力に抗った。第五特異点で、融合した魔神を撃退した。第六特異点で、聖槍の光を逸らした。第七特異点で、堕ちた女神に食らいついた。終局特異点で――。

 

「話に夢中になるのはいいがな。年頃の淑女が三人もこんな場所で眠るのはどうかと思うぞ? 三人とも、これから大変だというのに」

「ごめん。ちょうどそのことでね」

「……ああ、それは熱心にもなるというものか」

 

 ソロモン王を騙った人類悪ゲーティアとの戦いは、焼却された人類の過去を取り戻すための戦いは、つい先日終了した。いまは魔術協会や国連からの調査員待ちという状況だ。

 

 人類を救ったばかりだというのに、落ち着いて家に帰るのは当分先になりそうだ。

 

「最終的には、カルデアにいるサーヴァントは全員退去ということになるだろうな。織田信長や清姫あたりは居座りそうだが、来る時が来たら俺はさっさと帰らせてもらうよ。……今の内に言っておくが、貴女との戦いの日々は実に充実していたよ。不謹慎かもしれないが、楽しかった」

「それは私の台詞だよ。××がいなかったら、私やマシュや所長だって死んでいた」

 

 立香は未だに眠りから覚める様子のないふたりを見る。

 

 立香のファーストサーヴァント、マシュ・キリエライト。カルデア所長、オルガマリー・アニムスフィア。共に人類悪に挑んだ戦友であり、立香のかけがえのない友人である。

 

「マシュも所長も言っていたけど、××には何かお礼をしなきゃいけないって」

「だから感謝しているのは俺の方だ。そんな貴女たちに何かしてもらうなど――いや、あるか。俺から貴女たちに願うことがただ一つだけあった」

 

 その言葉には、強い決意を感じた。

 

「どうか、これから何があっても絶望しないで欲しい」

 

 敬虔な使徒が祈るような響きがあった。

 

「いや、貴女はきっと絶望なんてしないんだろうが。……おっと、そうじゃないな。これじゃ『期待』だ。自分の理想を他者に押し付けるような妄執は、すべきではない」

 

 妙に意味深な口調で、アーチャーはそう断じる。

 

 自分が期待を背負わされたというよりは、みっともない期待を抱き続けた誰かに失望している様子だ。

 

「貴女は貴女の願いを貫いて欲しい。着飾る必要もない。貴女がその胸に抱く願いは、生命として当然のものであり、最も尊いものだから。それが、この無力な弓兵の高慢な願いだ」

 

(私に私であって欲しい、か)

 

 その願いのどこが高慢と言うんだろう。他で似たようなことを言う英霊なんてカルナくらいだろう。そう口にしようとしたところで、警報が鳴り響いた。

 

「え……!?」

「ふぇ、な、何!? 火事!?」

 

 けたたましい音に、マシュとオルガマリーのふたりも起きる。

 

『所長! 立香ちゃん! マシュ! 緊急事態だ! 悪いが、すぐ管制室へ来て欲しい!』

 

 ダ・ヴィンチからの放送に、三名は頷き合う。

 

 警報が鳴り響く中、管制室へ入るとダ・ヴィンチを始めとしたスタッフが計器と向かい合っていた。

 

「どういう状況なの? 説明をちょうだい」

「詳しくはまだ不明だね。分かっているのは特異点らしきもの反応が出たってことだけだ。これまでの特異点との比較解析によって特異点Fとの類似点が高いところまでは判明したんだけど――」

「人理定礎のゆらぎ出ました。――ええぇ!?」

「驚いている暇があったら報告しなさい! そんなに大きいゆらぎが出たの!? まさか七つの特異点級の――」

 

 オルガマリーの問いに、担当スタッフは首を大きく振った。ただし縦にではなく、横に。

 

「逆です! 人理のゆらぎがまったく計測されていません!」

「……はぁ!?」

 

 驚愕の声を上げるオルガマリーを誰が責められるだろうか。むしろ、彼女と同じ反応をするものが多かった。特異点とは人理の礎だ。そこの異常があれば人理に何らかの影響が出る。だからこそ、カルデアに警報が鳴っているはずだ。

 

「これまで七つの特異点を見てきたんでしょう。何かの間違いじゃないの。特異点の反応が発見されたのに人理がゆらいでいないなんて馬鹿なことあるものですか!」

「そ、そんなこと言われても!」

「所長、お叱りは後で。計測の間違いなのか、それとも別の理由があるのか判明するまでそこで苦悩するべし!」

「りょ、了解です! 過去の特異点の比較分析開始します!」

 

 同時に、別のスタッフが大声で報告を始める。

 

「特異点発見しました! 場所は――日本の京都です!」

 

 

 

 

 

☆おまけ☆

 

クラス アーチャー

 

真名 ××

 

属性 混沌・中庸

 

ステータス

筋力:C+ 耐久:B 敏捷:A 魔力:C 幸運:E 宝具:A+

 

所有カード

Quick×2 Arts×1 Buster×2

 

クラススキル

対魔力:D 自身の弱体耐性を少しアップ

単独行動:B 自身のクリティカル威力をアップ

 

保有スキル

心眼(偽):A 自身に回避状態を付与(1ターン)+自身のクリティカル威力をアップ[Lv.1~](3ターン)

魔神の加護(真):A 自身のクラスを???に変化(3ターン)+自身のスター発生率を大アップ[Lv.1~](3ターン)

神滅具:EX 自身に[魔性]特攻状態を付与[Lv.1~](3ターン)+自身に[神性]特攻状態を付与[Lv.1~](3ターン)

 

宝具

宝具名 偽・焼却式ⅩⅢ(カタストロフ・ロンギヌス)

ランク ―

種類 Buster

種別 対神奥義

効果 自身の宝具威力をアップ(1ターン)<オーバーチャージで効果アップ>+敵全体に強力な攻撃[Lv.1~]+敵全体の防御力をダウン(3ターン)

 

【バトル】

開始

「さっさと片付けるぞ」

「戦いを楽しむ? そんな生き方は忘れたよ」

 

スキル

「これを知っているか?」

「侮るな!」

 

コマンドカード

「それはいい」

「良い選択だ」

「請け負った」

 

宝具カード

「出番だぞ、覆すべき終末のⅠ(アナザー・エンド)

 

アタック

「せい!」

「はっ!」

「くたばれ!」

 

エクストラアタック

「こいつは予想外だっただろう?」

 

宝具

「聖槍起動。宝具多重展開。俺たちの生き様を教えてやる! 偽・焼却式ⅩⅢ(カタストロフ・ロンギヌス)!」

「魔棺開放。神器複合連結。人の過去と未来を紡ぐ。偽・焼却式ⅩⅢ(カタストロフ・ロンギヌス)!」

 

ダメージ

「ちっ!」

「こいつは……!」

 

戦闘不能

「また、なのか……?」

「今度は守りたかったな……」

 

勝利

「勝鬨はいいものだ」

「次も勝つさ、必ずな」

 

【強化】

レベルアップ

「礼を言う」

 

霊基再臨

第一「こんな身に堕ちても、強くなると興奮するか」

第二「悪いが包帯は取れない。俺の罪の象徴のようなものだから」

第三「ひどい顔だろう? どこぞの看護師には見せられないな……。くくっ、マスターもそう思うか?」

第四「感謝するよ、マスター。この負け犬を……いや、今の俺を卑下するのは貴方にも彼にも失礼か。ああ、任せてくれ。貴方のサーヴァントは最強だ。今なら神さえ殺してみせる」

 

【マイルーム】

絆Lv

1「こんな男に構っても良いことはないぞ」

2「あー、何だ。貴方の目は、この敗北者には眩しすぎる」

3「こんな弱っちい俺に、どうしてそこまで期待してくれるんだ。底抜けの楽天家だな、マスターは」

4「昔を思い出す。こんな役立たずを信じてくれた馬鹿どもを。……今度こそは」

5「もう槍は使わないと決めたのだがな。貴方のためならば、今一度この聖槍を使うのも吝かじゃない。マスター、貴方に未来を」

 

会話

「不謹慎ではあるが心躍るよ。これほどの英雄たちと轡を並べられるなんて」

「かつて掲げた覇道があった。そのために力を求めたが……」

「間違った理想などない。問題なのは手段と評価だな」

「げえ! いえ、何でもありませんよ、先生。ええ、清潔と衛生は何より優先すべきですね、ええ。……向こうが俺を知らないというのも複雑だな」(フローレンス・ナイチンゲール所持時)

「やはり貴方もいたのか。隣に立てる程度には成長を見せよう」(カルナ所持時)

「この星の英霊たちか。あいつらがいたら何て言うかな」(ジャンヌ・ダルク、ヘラクレス、シグルド所持時)

「俺たちはあくまでテロリストだったから噛み合ったし、心底から尊敬していたが……。マスター、あの老人はあんまり信用しない方がいいぞ?」(新宿のアーチャー所持時)

「そうか。彼女が……」(ミドラーシュのキャスター所持時)

「俺は! 何も! 見なかった! ゼパルなんていなかった、そうだな」(殺生院キアラ所持時)

 

好きなこと

「田舎育ちなものでね。土いじりは得意だよ」

 

嫌いなこと

「神は、好きじゃないな。あと悪魔も。特に下品なやつ」

 

聖杯について

「この棺桶にも一応、入ってはいるんだが……。比較できるものでもないしなぁ?」

 

イベント開催中

「騒がしいのは嫌いじゃない。行くなら準備を手伝おう。人生は楽しんだ奴の勝ちだ!」

 

誕生日

「喜ばしい日だ。純粋なお祝い事は久方ぶりだ」

 

【その他】

召喚

「こんな役立たずを呼び出したのは誰だ? まぁ、精々使い潰してくれ。名前? 忘れたよ。いや、捨てたんだったかな。好きに呼んでくれ」




次回、男は黒歴史に出会う。
具体的にはハイスクールD×D原作九巻に辿り着く。

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