憐憫の獣、再び   作:逆真

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ハイスクールD×D原作において、神器を抜き出された場合、その人は死にます。即死はしないようですが、とにかく死にます。殺さずに抜き出す方法が確立されたという情報は原作で登場していません。

神器を抜き出されたパターンは三つ
・アーシアパターン
 神器を抜き出されて死んで、その後悪魔に転生することで生き返った。
・曹操パターン
 帝釈天に神器を抜き出される前後で冥府に落とされた。後に這い上がってきた。おそらく「地獄に堕ちた」=「死んだ」というインドらしい頓智の抜け穴。
・ヴァレリーパターン
 実は複数個でひとつの神器だったため、一つ二つが奪われても意識不明になるだけで死ぬことはない。


番外編 夢の果てに死すとも・下の中

 英雄派所属の少年、神滅具『魔獣創造』所有者レオナルドは戦慄していた。他の英雄派構成員も同じだ。曹操たち英雄派の主力が九尾の狐を使用してグレートレッドを召喚するまでの時間稼ぎ。それが自分たちの仕事だったはずだ。レオナルドがいる以上、安全で確実に遂行できる任務のはずだった。

 

 目の前には、黒い外套に身を包んだ男がいた。外套に加えて、包帯で顔を覆っているため人種も正確な年齢も分からない。体格と声で成人男性であることだけは確かだが。男の背には人が入るほどの棺桶。

 

「生物は災害と成り得る」

 

 彼らの周囲にはレオナルドの創造したアンチモンスター、の残骸が散らばっている。

 

「生物が災害となる形は大きく二つ。ひとつは『質』だ。大雑把に言えばドラゴンに代表される巨大なモンスターだ。常人では相手にできない、英雄や勇者、聖人によって倒される存在。これらは飢饉や洪水、地震の擬獣化と言われている。そしてもうひとつは、『量』だ」

 

 アンチモンスターの死骸には人間の拳ほどの大きさのモンスターが群がっている。そのモンスターは象に群がる蟻のようにムシャムシャとアンチモンスターを食らっていた。

 

「蝗の群れと言えば分かり易いか? あるいは蟻の群れか。圧倒的な数ってのは暴力だよな、本当。『これ』の境地に辿り着いた男はかつて、おまえのように特定の異形に対して強いモンスターを創り出すことに拘っていた。だが、当時の俺たちが相手にしていた双貌の獣は厄介な異形でな。質も高いが、数が多かった。だから、あいつは、同じように数で対抗したわけだ」

 

 小型モンスターの形状は、バッタやコオロギのような蝗型だった。よく見れば一体一体の形状が微妙に違うのだが、レオナルドも他の英雄派構成員もそれに気づくことはない。まさか――こうしてアンチモンスターを捕食している間にもこのモンスターたちが進化を続けているなど気付くはずもない!

 

 これこそがこの世界とは別の世界線のレオナルドが辿り着いた『魔獣創造』の禁手亜種。質と量を同時に対処するための戦い方。『王の極点は在らず、されど光の道は消えず(アバドン・サクセッション・ゴエティア)』。捕食と再生と進化を繰り返す蝗の群れ。

 

 ××は精々二万体が限界だが、本来の所有者であったレオナルドならば千四百万体の同時展開が可能だった。それでもなお、ラフムの群れを完全に滅ぼすことはできなかった。

 

「なあ、レオナルド。逃げるなら今だぞ?」

 

 その言葉を、英雄派の面々は怪訝に思う。内容以上に、その言葉に乗せられた感情にだ。

 

「あー、何と言ったものかな。……極々個人的な感情で、おまえたちには生きていて欲しいんだ。こんな未練たらたらの自分に呆れるしかないんだが、うん。やっぱり形はどうあれ、おまえたちはおまえたちなんだよ。アーシアやゼノヴィアもそうだ。結局、俺はあいつらがどんな形であっても、生きていてくれて嬉しかったんだよ」

 

 意味不明な発言だった。だが、強い感情が込められていた。推し量るのが難しい、何かが。

 

 突然、包帯男が声の調子を変える。見れば通信機のようなもので会話していた。

 

「ん? どうした、マシュ……はあ? グレモリー眷属が乱入してきた、ん? ヴァーリってやつもやってきた?」

 

 予想外の出来事に、××は叫んだ。

 

「誰だ、そいつは!」

 

 

 

 ■

 

 

 

 英雄派が作り出した結界空間の二条城に、英雄派の首魁、曹操と幹部――ゲオルグ、ジークフリート、ヘラクレス、ジャンヌは集結していた。京都の総大将八坂の姿もあったが、目は虚ろで意識がないようだ。

 

 この空間への侵入者は三組。

 

 まず、言わずと知れたカルデア一行。××の姿がないことに英雄派は残念がっていた。

 

 駒王学園勢とも言うべき者達。兵藤一誠、木場裕斗、ゼノヴィア、アーシア・アルジェント、紫藤イリナ、ロスヴァイセ、匙元士郎だ。

 

 三つの陣営による乱戦が開始されようとするその時に現れたのが、ヴァーリチーム。白龍皇ヴァーリ・ルシファーが率いる特別な権利を持つ集団。人数こそ少ないが、その全員が一癖も二癖もある連中だ。今回は流石に全員ではなく、ヴァーリとペンドラゴン兄妹だった。

 

「馬鹿な、何故ここにいる、ヴァーリ!」

 

 曹操からの問いに、ヴァーリはクールに返答する。

 

「邪魔だけはするなと言ったのに先に干渉してきたのは其方だろう、曹操。それに、あんな妙な連絡が入ったら探りを入れてみるのは当然だろう? 案の定、こんな面白いことになっているんだ。参戦しないわけがない。それで、アルビオン。あれはまさか邪龍アジ・ダハーカか?」

『ああ。奇妙なことになっているとは予想していたが、しかし、まさか邪龍が復活しているとはな』

「相手にとって不足はない。さて、自己紹介は必要かな?」

 

 ヴァーリとしては自分のことは既知だと思っていた。一誠や曹操も同じだ。ヴァーリ・ルシファーの存在は禍の団とともに世界に周知されているのだから。

 

『誰だ、おまえ!』

『ふーあーゆー?』

『知らん、知らん!』

 

 邪悪なる龍の三つの首から返された言葉はいずれも『否』だった。

 

「え」

「あのアジ・ダハーカ? 本当に知らないの?」

『ああ、マスター殿。全く知らん! そもそも、俺やあの失敗作が知る白龍皇は舌足らずの餓鬼のはずなんだ。いや、年齢的にはこいつが死んでいたらギリギリ間に合うのか? うーん?』

 

 ××ほどではないが、彼に付き合っている邪龍たちもある程度記憶は摩耗している。ともすれば、この白龍皇のことを生前に聞いたかもしれないが、重要性が低かったのだろう。全く記憶に残っていなかった。

 

「ま、まあ、いい。知らないのなら名乗るだけだ。俺の名はヴァーリ。ヴァーリ・ルシファーだ」

 

 その名を聞いて、邪龍の顔が変わった。人間とは表情筋が全く別物であるが、そこに生じた感情が怒りであることだけは間違いなかった。

 

『ルシファー、だあ?』

「そうだ。魔王の直系である俺に白い龍の力が宿った。もしも奇跡という存在があるなら、それは俺――」

『てめえ、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーの子か孫かよ』

 

 今度は、ヴァーリの顔に怒りが宿った。

 

『ああ、言われてみたらそっくりじゃねえか!』

「俺があのクソみたいな奴に似ているだと?」

『はっ! あの野郎のことが憎いか? なら、そんな誇らしげにルシファーなんて名乗ってんじゃねえよ!』

 

 臨戦態勢に入る三つ首の邪龍を見て、マシュが慌てる。

 

「アジ・ダハーカさん!? 貴方がいなければ八坂さんが――」

『知るか! あのクソの血縁者なんぞ生かしておけるか! 俺の――俺たちの誇りに傷をつけた野郎の血を許してたまるものか……!』

 

 言うが早いか、ヴァーリとの戦闘に入るアジ・ダハーカ。

 

「やっぱり葬儀屋がこっちの方が良かったのではないか?」

「いま呼んでいます……もしもし? ××さんですか? はい、実はかくかくしかじか……はい、知りませんか。了解です。××さんもヴァーリ・ルシファーなんて知らないとのことです」

「つまり、彼も歴史の分岐点?」

 

 立香は状況を振り返る。目的は八坂を取り戻すこと。アジ・ダハーカの方は問題ないだろう。となれば、英雄派のメンバーをどうするか。手札は知っている。と言っても、××の知識はかなりズレのある世界線のものだ。あの白い鎧姿に変身した少年のこともあるため、あくまでも参考程度に留めておくべきか。

 

 問題は、駒王学園勢の存在だった。京都側は手出し無用の通達をしたらしいが、伝わっていなかったと見るべきか。それとも意図的に無視したか。とにかく此方に好意的な様子はない。共同戦線は厳しいかもしれない。

 

「余計な邪魔が入ったが、実験を開始しよう!」

 

 曹操はそう言うと槍の石突きで地面をトンッと叩く。

 

「う……うぐ……うぁぁあああああああっ!!!」

 

 その刹那、八坂が悲鳴を上げ始める。体が光輝くと同時にその姿を変えていき、やがてそれは夜空に向かって咆哮をあげる巨大な金色の獣となった。

 

 ゲオルグが数多の術式を同時展開する。北欧式、悪魔式、堕天使式、黒魔術、白魔術、精霊魔術と多岐に渡る。京都という強大な地を使い、真龍を呼ぼうとする大儀式だ。それくらいは必要だろう。

 

 サーヴァントを従える以外に魔術師としての資質がない立香だが、神代の魔術師に手解きを受けている身でもある。それらの術式がまずいものであることくらいは明白だった。

 

「っ! あの魔術師っぽい人をどうにかしないとダメか。ランス……じゃない、カリヤーンは××、じゃなくて曹操を 茨木と沖、んん! 琥珀さんは隙を狙って、魔術師……ゲオルグだっけ? をやっちゃって欲しい。マシュは私と九重を守って」

「了解です!」

「お任せを!」

 

 即興で作戦を立てる立香を見て、一誠たちは焦燥を覚える。

 

「英雄派やおまえたちの好きになんかさせるもんか! 何が何やらよくわかんねえが、行くぜ、皆!」

「うん!」

「やっちゃうわ!」

 

 グレモリー眷属やイリナが戦意を高めるのにつられて、匙元士郎も覚悟を決める。彼以外のシトリー眷属はディフェンスに回っていて、無茶をするなとも言われているが、この状況では多少活躍しなければみっともない。

 

「ヴリトラ! 今日は暴れられそうだぜ!」

 

 匙の背後に、うねうねとしたドラゴンが出現する。彼の所有する神器に封じられているヴリトラが具現化したものだ。ヴリトラは己の分身とも言うべき匙に問いかける。

 

『我が分身よ、獲物はどれ――』

 

 

 

 

 

   『――――()()()()

 

 

 

 

 

 その声に、え、と言ったのは誰だったか。

 

「う、うわああああああああああああ!」

『ぐあああああああああああ!?』

 

 突然上がった悲鳴は、匙とヴリトラのもの。

 

 見れば、匙とヴリトラの身体には、何本もの醜い触手が絡みついていた。よく見れば、それは醜い肉の塊であり、赤黒い眼球がいくつも犇めいていた。

 

 その触手は九尾の足元――影から這い出ていた。何本も何本も、匙たちの身体を拘束するように締め付けていく。否、押しつぶすように飲み込んでいく。

 

「馬鹿な、魔神柱だと――!」

 

 ランスロットが驚愕の声を上げる。立香やマシュも同じだ。

 

 時間神殿の敗北者。あの人が自らの消滅と引き換えにすることでようやく倒せた人類悪、ゲーティアの眷属にして一部。

 

『――い、生きたい』

 

 そんな醜い肉柱から発せられたのは、あまりにも懸命な言葉。

 

『――死にたくない』

 

 文字通りの、命乞い。

 

『死にたくない、生きたい、殺さないで……死にたくない生きたい殺さないで死にたくない生きたい殺さないで死にたくない生きたい殺さないで死にたくない生きたい殺さないで死にたくない生きたい殺さないで死にたくない生きたい殺さないで死にたくない生きたい殺さないで死にたくない生きたい殺さないで死にたくない生きたい殺さないで死にたくない生きたい殺さないで死にたくない生きたい殺さないで死にたくない生きたい殺さないで死にたくない生きたい殺さないで死にたくない生きたい殺さないで死にたくない生きたい殺さないで!』

 

 恐怖さえ覚えるほどの、生への渇望。

 

 神殺しの槍を持つ人間が、魔王の血を引く白龍皇が、異質な進化を続ける赤龍帝が、人類史を取り戻した少女が、その純粋な願いに忌避を抱いていた。

 

 やがて影から這い出ていた魔神柱の身体が全てヴリトラに巻き付く。同時に、八坂が九尾の大狐から人間の姿へと変化する。八坂は大地へと倒れ、九重が駆け寄る。

 

「母上!」

「く、のう……?」

 

 娘の声に反応を返す八坂。九重は泣きじゃくりながら母親に抱き着いた。

 

「母上……良かった……」

「九重は泣き虫じゃのう……」

 

 娘の頭を撫でながら、八坂は匙とヴリトラを完全に飲み込んだ触手の塊を見る。

 

『わたしは生きたい生きたい、生きる、生きたい、死にたくない、死なない、死なない、死なない、死死、死、生きたい生きたい! ボクは、生きる、生きるんだ、生きて、生きる生きる生きる死にたくない生きる死なない生きる生きる生きる生きる生きる! 俺、たちは生きるのだ!! 殺されてたまるものか、生きる、生きる、生きる、生きる生きる生きる生きる我らは生きるぅううう!』

「さらばじゃ、同盟者。じゃが……おぬしの命題は破綻してしまったな。せめて安らかに逝くことを願っておるよ」

「……母上?」

 

 九重と八坂の再会に喜びながらも、立香とマシュは魔神を注視していた。誰がどう見ても、八坂の身体に巣食っていた魔神が匙を捕食した場面だ。

 

 だが、彼女たちの関心はむしろこの光景よりも魔神から発せられる言霊にあった。

 

「マスター、私の勘違いでなければ、これって――人間の悲鳴ではないですか?」

「……うん」

 

 声こそ魔神だが、この言葉に込められた感情は魔神に由来するものではない。魔神が誰かの感情を代弁しているように感じる。それはつい先程まで寄生していた八坂でもなく、現在身体を乗っ取ろうとしている匙元士郎やヴリトラのものでもない。

 

「でも一体、何をこんなに怖がっているの?」

『ぼくから――――』

『――ワタシから――』

『――――俺から』

「ん? 吾、これ知ってるぞ」

 

 茨木童子は何でもないことのように、こう言った。

 

「人間から生きたまま肝を抜き取るとこんな悲鳴を上げよるわい」

『『『()()()()()()()()』』』

 

 

 

 ■

 

 

 

『はは』

 

 何かが俺――匙元士郎の中に流れ込んでくる。

 

『はははははははははは――ギャハハハハハハハハハハ!』

 

 強大にして邪悪な気配だ。まるで激流に飲まれていくみたいに抗えない。このままだとやばいってのが分かっても抜け出せない。

 

『これは負ける! これは勝てぬ! 嗚呼、そうか。これが欲望か。これが生きたいという願いか! 我は――我々はこんなものを不要と断じていたのか! 負けるはずだ。勝てぬわけだ。我々は理想を掲げた時点で敗北していたのだ!』

 

 その忌々しいほどの高揚を孕んだ絶叫が、頭にガンガン響き渡る。

 

『計画が成功直前で失敗した? 逆だ。そう、逆なのだ。失敗して当然の計画が偶然上手くいっただけだったのだ! 節穴はフラウロスだけではなく、我ら七十二柱全員だ。生命の定義改変は、逆光運河・創世光年は開始した段階で破綻していた。何せ――こんな当たり前の感情を否定していたのだから……!!』

 

 その言葉のひとつひとつが、意味不明だった。

 

『この記憶……堕天使の組織、神の子を見張る者、グリゴリ? 神器……人体改造……人間から奪われた願い、ああ、そうか。そこに行けば、コレはもっとあるのか。この死の恐怖が、生への渇望が込められた玩具が集まっているのか! それは良い、実に良い、ギャハハハハハハハハハハ!』

 

 俺の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜるだけじゃなくて、大切な部分まで抉り出そうとしてくる。

 

『奪おう。奪い尽くそう! 人間の生きたいという欲望を! この純粋すぎる感情を!』 

 

 だ、駄目だ。何故かは分からないが、こいつは堕天使の研究所を狙うみたいだ。不本意とはいえ、俺にヴリトラの力を渡してくれた恩人の大切な場所なんだ。それをこんな奴なんかに……!

 

『我が分身! 急いでこのバケモノから離れろ! このままでは神器を塗り潰され、おまえの自我さえ喰い尽くされるぞ!』

 

 な、何だよ、それ。ふざけんな!

 

『――ふむ。この身体の持ち主か』

 

 数多の眼球に睨みつけられるような錯覚を覚えた。このナニカが話しかけてくる。

 

『これは相談なのだが、おまえが持つ神器をすべて我に譲る気はないか?』

 

 突然何言い出してんだ。これは俺の力だ。何でおまえみたいな意味不明なやつにやらないといけないんだ!

 

『おまえの力? 勘違いするな。これは盗品だろう』

 

 何言ってんだ。盗むどころか、俺はアザゼル先生を始めとするグリゴリの人たちからこれを押し付けられたんだぞ! ダチの力になれるのは嬉しいけど、毎回こんな戦いに巻き込まれるなんてうんざりしているんだ。

 

『ならば尚の事、我に寄越せ。おまえのような――叶える気もない無価値な夢に生命を消費する大馬鹿者よりも、我の方が有効活用してやれる』

 

 ――は?

 

 夢。俺の主人、会長、ソーナ・シトリー様の夢。下級悪魔や中級悪魔でも通えるレーティングゲームの学校を作ること。

 

 こいつは会長の、俺たちの夢を笑ってやがる。叶える気がないだって? 無価値だって? 俺自身のことならともかく、俺たちの夢にだけは――

 

『――では何故、おまえの仲間には下級悪魔がいない? 下級悪魔の可能性を信じているというなら、おまえの主人は下級悪魔こそを眷属にしなければならないのに』

 

 言葉が出なかった。

 

『おまえたちは自分たちの覚悟を示すために、試合に命をかけた。だが、あの戦いに何の意味があった? 彼らに勝てば夢が叶うわけでもないのに。彼らはおまえたちの夢を否定する輩でもないのに。評価が低いことが壁のひとつだった? その程度の壁を壊すのにどうして、命を消費した? 夢を叶える頃には、おまえたちは死んでいる。そして、おまえたちの夢は、おまえたちが死んだ後も形を残すが、それが悪用されるとは考えなかったのか?』

 

 違う。悪用なんてされない。俺たちは学校を作った後もちゃんと生きる。大勢の生徒を立派な選手にしてやるんだ。

 

『虚言はやめておけ。おまえたちは結局、誰のことも信じていないのだ。下級悪魔のため? 違うな。おまえたちは己のためだけに行動している。誰かのためになど動いていない。否、何かのためにすら、なっていない。無意味で無価値で無駄な努力。夢に生きる自分たちに酔っているだけに過ぎん! 夢見る乙女の妄想とはよく言ったものだ!』

 

 違う。違う。違う。

 

 そう思うのに、反論できない。

 

『恩を抱く女を孕ませたいなどと考える不忠者だ。さぞかし素晴らしい教師になれただろうな。何の意味もない勝利に命を捨てるような馬鹿者を大勢作り出せるだろうさ!』

『耳を貸すな、我が分身! 早くしなければ――』

『嘘つき』

 

 そっと囁くように、その言葉は向けられた。

 

『嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき。詐欺師、ほら吹き、ペテン師、虚言者、誇大妄想狂。おまえたちの理想に、何一つとして真実などない。絶望すら、する必要はない。おまえたちの夢に、最初から価値も意味もなかったのだから。誰もおまえたちに期待などしていないのだからな、ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!』

 

 嘘なんかない。会長の夢は素晴らしいものだ。俺たちの夢は、確かに価値のあるものだ。おまえなんかに笑われるために抱いているんじゃない!

 

「黙れよ……」

『ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!』

「黙れって言ってんだろうが――!」

『残念だったな。時間切れだ』

 

 ぐちゃり




匙がヴリトラ怪人になるためには、最低でも三人死んでいる。
この三人が死んでも構わないような悪人だったかと言われると、情報がないので何も言えない。マジで何の情報もない。追加された三つの神器が元々保管されていたのか、新たに入手したのかさえ不明。

匙は3巻で「ソーナとできちゃった婚するのが夢だ」と言っています。この時点でやばい奴です。恋人になりたいでも結婚したいでもなく、貴族相手にデキ婚したいと言っているのですから。しかもイッセーよりも『悪魔』が分かっているという言動をしているのにこれです。まあ、この夢についての発言はこの巻だけなので、4巻から5巻の間にソーナの夢を聞いて「先生になる」に考え直したと考えることはできます。悪魔になったばかり、ドラゴンの神器を持っていると判明しているばかり、でイキっていると片付けることは可能です。
が、DX4巻で「両親とはすでに死別しており、弟妹をソーナの庇護のもと悪魔稼業で稼いだ金で養っている」という設定が判明。……無理です。そんな大恩ある相手を孕ませようなんて発想、狂人以外の何物でもないでしょう。この設定に関して「両親が死んでる? え? 五巻で母親がどういう言ってなかった?」って意見をよく聞きますが、デキ婚狙いとの辻褄の方が気になりますわ。

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