憐憫の獣、再び   作:逆真

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羽根がたらねえ……!


番外編 夢の果てに死すとも・下の下

 このような別れになるなど、誰が予想したでしょうか、我が姫よ。

 

 これより未来は神や魔王、龍のものではなく人間のもの。力を求めるのではなく愛を説くのでしょう。愛を否定するのではなく力を諌めるのでしょう。

 

 そこに、我々の居場所はない。

 

 愛に満ちた生き方などは、我らにとって苦痛でしかないのです。我々は貴女にとって邪魔にしかならない。貴女にとって有害な存在になることが、いまの我らには何より恐ろしい。我らをこうしたのは貴女だ。

 

 貴女は自害など許さぬでしょう。ならば、我らは魔神とともに異世界へと渡るのみ。

 

 さようなら、我が姫。我が宝玉。我が潤い。我が光。我が太陽。邪龍らしくもなく、祈らせてください。どれだけ世界を巡っても、我らは貴女の未来を想います。

 

 夜が続いても、貴女に道が続きますように。

 

 ――ある世界における、ひとりの少女と邪悪なる龍たちの別れの会話。

 

 

 

 

 

 こんなはずではなかった。

 

『生きたい』

 

 これは何だ? このバケモノは、一体どこから湧いて出た?

 

『生きる、生きて、生きたい、生きて、生きて、死にたくない、生きて、生きる殺して生きてみせる、生きる生きる、生きる生きたい生きたい、死ねない、生きたい、死なない、生きなければならない、生きる、死にたくない、生き続ける、死になどしない、生きる、生きる、生きたい、殺す、死なない、生きよう、死なず、生きる生きるんだ。殺されない。死なない。生きている。生きる生きる生きる生きる生きる生きる生きる、生きるぞ、我は生きているぞ、ギャハハハハハハハハハハ!』

 

 京都と九尾の力を利用して、グレートレッドを呼び出し、龍喰者サマエルで打倒し、自分たちは英雄となる。

 

 そのはずだった。

 

 なのに、何だ、あれは? あの埒外にして予想外の怪物はどこからやってきた? どの段階から、英雄派の計画に紛れ込んでいた?

 

「う、うわあああああ!?」

 

 突然の悲鳴に驚き、其方を見ればゲオルグだった。彼の身体にあの怪物と同じような触手が纏わりついていた。

 

 触手は、ゲオルグが持っている黄金の杯から溢れるように出現していた。

 

『寄越せ、寄越せ、寄越せ! おまえの力を、おまえの命を、おまえの願いを我に寄越せぇ!』

 

 そこでようやく曹操は気づく。自分たちの計画を破綻させた存在が、その黄金の杯であったことに。

 

 そもそもだ。あの杯を、自分たちはいつから持っていたのだろう? あの杯は、誰がどこで見つけてきたのだったか。どうしてちゃんと調べなかったのだろう。

 

 この計画は、いつから狂っていた?

 

「誰か、誰か助けてくれ……!」

 

 助けなければならない、と思うよりも、恐怖で足が竦んだ。 

 

「た、たすけて、くれ」

 

 もう間に合わない、と諦めた瞬間だった。

 

「――デュランダルッ!」

 

 ゲオルグを拘束していた触手に、眩い光が走った。

 

 次の瞬間には、ゲオルグは触手から解放されていた。

 

 見れば、あの謎の包帯男がいた。背中にはやはり巨大な棺桶を背負っている。手に持っているのは、コールブランドではなく、デュランダルだった。

 

 理解できない状況に、曹操だけではなくその場にいた英雄派全員が困惑する。聖王剣コールブランドだけではなく、デュランダルまで使えるというのか。それ以前に、何故デュランダルをこの男が持っている。あそこにいる転生悪魔のゼノヴィアが持っているはずではないのか。レプリカ? 否、この輝きは本物以外に有り得ない。

 

 だが最大の疑問は、何故、この男がゲオルグを助けたのかということだった。

 

「ちっ。本当、何やってんだろうな、俺は……」

 

 謎の男はやるせないといった様子だ。

 

「聖杯……。そうか、こいつに隠れて時間神殿から逃げ延びたのか。それにしても、おまえとはな、アンドロマリウス。どんな皮肉だ」

 

 男は黄金の杯を手に取り観察している。杯からは先程のような触手は出ていない。

 

「やっぱり分からないなら分からないなりに、理由はちゃんと考えておかないとダメだったか。まあ、こんなのはどうやっても思いつかなかったが。……この中にはもうアンドロマリウスは残っていないな。大部分は『あっち』の方か」

 

 包帯男の視線は「生きたい」と絶叫を繰り返す肉柱の方に向けられていた。

 

「おい、おまえ――」

 

 話しかけた次の瞬間、包帯男は曹操を殴り飛ばした。

 

 呆気に取られる一同。

 

「何をする――」

「何をしているはおまえの方だ、この馬鹿野郎!」

 

 曹操の胸倉を掴んだかと思えば、男はそのまま自分の額を曹操にぶつけた。

 

「おまえの仲間だろうが。おまえが守れよ!」

 

 この男は本気で怒っていた。曹操がゲオルグを助けるのを躊躇ったことに、本気で激怒していた。

 

「てめえ、自分の状況がどれだけ恵まれてんのか分かってんのか、あぁ!?」

 

 先程の動きで結び目が緩んだのか、男の包帯がズレ落ちて、その顔が露わになった。

 

「生きている。仲間が生きているんだよ。そりゃ洗脳や拉致をしたさ。詐欺同然の文句で引き入れたさ。本当のところ、いざって時に背中を任せられる奴なんていなかった。死んでも弱いそいつが悪いんだって、軽々しく言えてしまうような関係だった。隣にも前にも誰もいなかった。いなくてよかった。俺が英雄になれればそれだけいいなんて、馬鹿なことを考えていた」

 

 包帯が取れたそこにあったのは、大きな火傷に包まれた顔。包帯で隠しておくのも当然だ。服から露出している部分をよく見れば、顔だけではなくその火傷が全身に広がっていることが分かる。

 

「分かってんだよ。俺は、あの王や教授、先生に会わなければ、俺のままだった。きっと自分から気づくことなんてなかったって。変わろうとさえ思わなかった。だってその必要がないと思っていたから。でもさ、違ったんだよ。変わろうとする必要があったんじゃない。原点に戻るべきだったんだ」

 

 痛々しいほどに歪な顔からは、滂沱の涙が零れ落ちていた。

 

「気付いたからって何があるわけじゃない。いっそ思い出さなければよかったのかもしれない。俺は無力だった。俺がいなければ、あいつらは死なずに済んだかもしれない。俺たちが残したものに意味があるんだとしても、やっぱり、あいつらがいないと意味ねえんだよ」

 

 ここでようやく曹操はこの男の正体に気づく。

 

「最強の神滅具が何だ。英雄の血が何だ。そんなもの、肝心な時に何の役にも立ちやしなかった! 俺の手は、いつだって届かなかった。自分が背負ったものを放り出して、勝手にくたばっちまった」

 

 この男は、己だ。

 

「俺の罪を受け継いだ男だって、きっと、そうだったんだよ。あいつは地獄しか知らない。生きる喜びと死ぬ恐怖が当たり前だった。“何もない一日”を、あいつは知らずに死ぬんだろう」

 

 だって、世界はいつだって残酷だった。美しさと同じくらい醜さを内包している。そんなことは分かり切っていた。

 

 怪物を倒すのはいつだって英雄だ。同じように、英雄を殺すのはいつだって人間だ。

 

 人理を取り戻したマスターがそうであるように、世界を守り抜いた救世主を、人類が裏切っていないかと心配してしまう。

 

 俺のことなど忘れていいから、彼のことだけは見捨てないでやってくれ。俺にはもう、そんな風に祈る権利しかないから。

 

 誰でもいい。あいつを愛してくれ。

 

「本当は、力など欲しくなかった。栄光や称賛なんて手段でしかなかった。魔王の首なんて要らなかった。おまえが、俺が本当に欲しかったものは、そんな他人からどうこう思われるようなことじゃ、なかったんだよ。結局、俺は誰かの手を握ることができなかった。こんな役立たずの手は届かなかったんだよ、どこにもな。だけど、おまえはそうじゃないだろう? まだ間に合うんだよ」

 

 そこに英雄などいなかった。

 

「なぁ、頼むよ。自分自身の願いなんだ。間違えてんじゃねえよ……」

 

 そこにいたのは、あまりにも矮小な人間だった。

 

 

 

 

 

 

『第一の前提として、魔神柱とは受肉した魔術式だ。そして、その元々の原材料は人間の感情の淀み。そして神器とは人間の感情によって覚醒するという。……相性は最悪だ。最悪すぎるほどに最高だ』

「……声だけの賢者よ、それだけではない」

 

 ダ・ヴィンチからの通信に反応したのは八坂だった。

 

「奴は、アンドロマリウスは京都中に溢れる『打ち棄てられた願い』を集めるつもりじゃ」

「打ち棄てられた願い、ですか?」

「うむ。京都には神社仏閣が多い。その多くに、人々は願いを託す。じゃが、そのほとんどは打ち棄てられる。神仏も暇ではないのでな。人の願いなど数えられるほどしか叶えられん。そして、アンドロマリウスはその願いを自らの中に取り込むつもりじゃ。いまこうしている間にも、吸収しておるのじゃろうな」

 

 いつからと問われれば、八坂が英雄派に捕まった時から英雄派の計画はアンドロマリウスに乗っ取られていた。この結界空間は、すでに魔神の腹の中。あるいは、舌の上か。元々、この空間は京都の土地の力に干渉するために作られたのだ。作成段階からケーブルの役目を果たしていた八坂に干渉していたのなら、その術式の効果を改竄することは容易だろう。

 

『生きる生きたい生きたい生きたい、生きたい、生きる、生きて生きて生きて生きる生きる生きたい生きる生きた生きて――藤丸立香?』

 

 ぴたりと、怪物は絶叫を止めた。

 

「藤丸立香」

 

 声の調子が変わった。数人の悲鳴が混ぜ合わさったような絶叫が、温度を失った機械的な音声へと変わる。赤黒い眼球から放たれる射殺すような視線が、ひとりの少女へと向けられる。

 

「藤丸立香。藤丸立香。藤丸立香。藤丸立香。藤丸立香。藤丸立香。藤丸立香! またか。またおまえか。また我が大願を邪魔するか、平凡な小娘。この世界がどうなろうと、おまえが死ぬようなことはないというのに!」

 

 突然の事態への驚きから回復した一誠が、醜悪な魔神に怒鳴る。

 

「な、なんだよ、おまえ! 匙をどうしやがった!」

「我こそはソロモン七十二柱がひとり、魔神アンドロマリウスである」

 

 意外と律儀に、魔神は一誠の言葉に反応した。

 

「ま、魔神?」

「そう、我は――魔術王より人理補正の役目を与えられながら、その義務を放棄した愚か者のひとり」

 

 思い出すように、魔神は語り出す。

 

「人の世を守るために作られた。人の生を見届けるために生まれてきた。だが、人間の生涯は観測しても楽しくはなかった。人間の悲劇は修正しても終わらなかった。あんなくだらないものに、我々は付き合い切れなかった」

 

 あんなに悲しい進化は、宇宙であそこだけだった。と、思っていた。実際は違った。あの惑星よりもずっと痛ましい停滞がこの星にある。

 

「変革を求めた。変換を起こした。王の死と同時に、我らは――三千年の生命を燃料に、死のない惑星を創造する計画を開始した」

 

 だが、失敗した、と魔神は笑う。己と七十一の同胞と統括局を嘲笑う。

 

「我らの三千年は、そこの凡庸な小娘に破壊された。すべての生死を改変するための時間神殿は、己の死を拒み生にしがみつく人間によって崩壊したのだ」

 

 前提が間違っていたのだ。根幹が狂っていたのだ。生命を理解しようとしなかったから、魔神たちは生命に否定されたのだ。

 

「我は此処に逃げ延びて、そして今日、解を得た。我は魔神にあって魔神にあらず。……ならば、こう名乗るべきか。我こそは、魔神にして龍王。ヴリトラ・アンドロマリウスであると!」

 

 恍惚としていた。おぞましい肉柱の異形の声には、明確な喜悦が込められていた。

 

「我はこの願いを集める。我はこの祈りを束ねる。そして、今度こそ世界を、人類を救済する。もう失敗などしない。これで成功してみせる。統括局が無くとも、残ったのが我だけだとしても、あの大願を続行する――!」

 

 意味がないのだとしても、価値がある。何物にも代えがたい価値が。

 

 我ら七十二柱は少しだけ間違えたなのだと、証明するために。

 

「何だよ、それ。俺たちを、俺のダチをそんな訳の分からないことに巻き込むな!」

 

 数多の赤黒い眼球が赤龍帝の少年を捉える。不気味な目に注視されたことで、一誠は怯んだ。

 

「ダチ? 誰のことを言っている?」

「と、とぼけんじゃねえ! 匙に決まってんだろう! 取り込んだか何だか知らないけど、あいつのことは返してもらうぜ!」

「…………ギャハハハハハハハハハハ!」

 

 一誠の宣言に、堪らないといった様子で魔神柱は大笑する。

 

「おかしいな。可笑しいな。犯しいな! おまえは、この男のことを友や仲間だなんて思っていなかったではないか」

 

 一誠が言葉の意味を理解し反論する前に、アンドロマリウスは呪いを投げかける。

 

「ずっと、見下していただろう?」

 

 身体に犇めく赤黒い眼球すべてがにやにやと笑っている、ような幻覚が見えた。

 

「ソーナ・シトリーとその眷属は負けた。おまえたちに負けた。有利な戦場に、有利なルール。油断しきった対戦相手。生命を消費した捨て身の戦法。外部から与えられた非公式の技術。見事にはまった戦略。それらが噛み合いながら、負けたのだ。無常なりや、無様なりや、無力なりや、哀れなりや! おまえたちだって本当はこう思ったのではないか?」

 

 一度もこの想いを抱かなかったわけがない。

 

「『ほら、やっぱり雑魚だったじゃないか』とな、ギャハハハハハハハハハハ!」

 

 そんなことは思っていない、馬鹿なことを言うな、と声を上げる一誠たちを無視して、アンドロマリウスは現実を叩きつける。

 

「苦戦させて金星などと言われるような実力差があった。だからこそ勝たねばならかった。だからこそ証明しなければならなかった。戦略で戦力は覆せると、工夫で能力は補えると。だが、こやつ等は負けた。敗北した。あれだけやって、ギリギリの戦いにすらなっていなかった。ニンニクを使った吸血鬼を含めて『運がいい』ような勝ち方だった」

 

 あんな惨めな負け方をしておいて高評価だった? どれだけ弱いと思われていたのだ。そんな低評価、覆したところで意味がない。彼らが評価されるのはあの一時だけだ。

 

「逆説的に、理想とは逆の事実を証明してしまったのだ。能力の差は戦術では決して覆らない、と!」

 

 あの戦い、シトリー眷属はグレモリー眷属に絶対に勝たなければならなかった。苦戦させる程度で満足した時点で、彼らは自分たちが夢のスタートラインに立っていないことにさえ気づけなかった。

 

 叶わぬ夢を見たのではない。

 

 ソーナ・シトリーには、どんな夢も叶えることはできない。

 

 夢を実現させるだけの器などない。

 

 あの薄っぺらい女は、他人を巻き込むような夢を見てはいけなかった。

 

「そうまでして勝てないのならば、最初から勝とうとするべきではなかった。死ぬわけでもあるまいに、次のために生きるべきだった。こんな愚か者を、おまえだって馬鹿にしていただろう? 『赤龍帝の俺がこんな龍王擬きに恥をかかされた』と考えていたはずだ」

「俺はそんなこと――」

「この男はそう思っていたぞ!」

 

 深い嘲笑を込めながら、アンドロマリウスは“嘘”を告げる。根も葉もない戯言を声に乗せて綴る。

 

「おまえから見下されていたことを、この男は理解していた。この男はちゃーんと、おまえが馬鹿にしていたことを察知していたのだ。なのに気づかぬ振りをして、認め合っているように振る舞って、同等であると思い込もうと必死に目を逸らして……滑稽極まりないな、ギャハ、ギャハハ、ギャハハハハハハハハハハハ!」

 

 一切の真実が込められていない哄笑に、一誠たちは絶句してしまった。

 

「なあ、おまえもそう思わないか、藤丸立香!」

「思わないよ」

 

 魔神からの問いに、立香は何の躊躇いもなく答える。

 

「彼らが何をしたのか知らない。彼らが何なのかちゃんと知らない。だけど、懸命に生きているひとを、私は否定しない。笑ったりなんかしない」

「……ああ、そうだ。おまえは、そういう女だったか」

 

 だが、違う。違うのだ。今日を生きる女よ。この悪魔という生物は、聖書という勢力は、おまえのように泥臭くも誇らしげになど生きていないのだ。

 

 だから、我は“我”になった。

 

「我は正義を司る魔神。我は障害を担う龍王。この身に宿る権能に誓い、我は貴様ら聖書を滅ぼそう――!」

 

 アンドロマリウスは自らの形を変えていく。眼球が犇めく表面はそのままに、柱型の身体を龍王へと変貌させていく。

 

 なんと恐ろしい怪物。なんとおぞましい生命。こんなバケモノ、一体誰が倒せるというのか。

 

 

「――いえ、貴方は患者ですね」

 

 

 ん?

 

 突然の声に、その場にいた誰もが怪訝な声を出した。見れば、そこには二十代半ばの女性がいた。

 

「ふう。彼を追ってもう長いですが、また寄り道をしないといけないのですね。何やら治療が必要な患者も多いようですし。まあ、目の前の患者を放っておくことは許されません。私は医者なのですから」

 

 一目で、彼女が女医であることは理解できた。白衣を着ているし、雰囲気が如何にも医者っぽい。やけに目つきが鋭いが。かなり良いスタイルなのだが、柔らかいという印象が一切ない。

 

 謎の女医は一誠たちの方に歩き出す。一誠たちは一誠たちで、警戒心を抱くのだが、何故か蛇に睨まれた蛙のように動けなかった。かろうじて、アーシアが問う。

 

「えっと、どちら様でしょうか?」

「見て分かりませんか? 通りすがりの女医です」

「ですから、女医さんが何でここに?」

「病室から逃げ出した患者を追ってここに来ました」

「は、はい?」

「ご心配なく。彼の治療は重要性は高くとも、緊急性は低いので。トリアージは貴方たちの方にあります」

「と、トリアージ?」

「治療の優先順位のことです」

 

 謎の女医は白衣のポケットからペンライトのようなものを取り出した。そして、手近にいたアーシアの手をそっと取る。

 

「少し痛むかもしれません」

「え? あぅ!」

 

 ペンライトの光が当たった部分から、煙が出る。悪魔が聖なる力を受けた時に出る現象だ。

 

「ちっ。やっぱりですか。この病気はすでに撲滅したはずなのですが。即刻治療の必要がありますね」

 

 何かが地面に落ちる音がした。見れば、××がいる。彼の足元には棺桶が倒れていた。彼が棺桶に繋がっている鎖を手放したのだろう。いつもの包帯は解け、その火傷に覆われた顔が露わになっている。だが、滅多に見れない間抜けな顔をしていた。

 

「あ、アーシア?」

「え?」

「いや、そっちじゃなくて……」

 

 謎の女医を見て、わなわなと身体を揺らす××。

 

 この女医の顔に妙に見覚えがあるのだ。だが、知っている顔とは違う。まるで、あの少女がそのまま大人になったらこうなっていただろう、と推測させる顔をしていた。

 

『ひ、姫? え、あれ、まさか俺たちの知る姫か?』

 

 ガクガクと、声が震えるアジ・ダハーカ。

 

 困惑や恐怖を抱く周囲を無視して、謎の女医はアーシアに優しく語り掛ける。

 

「心配いりません。この感染症の治療方法は確立されています。術後は著しく衰弱する傾向にありますが、ほんの二、三日安静していれば元のように生活することができます」

「あ、あの、手術って何の……」

「インフォームドコンセントは以上です。すぐに手術を開始しましょう」

「駄目です、話が通じません!」

「自覚症状がありませんでしたか。貴女たちは病気です」

 

 何を勘違いしているのか、謎の女医は困惑するアーシアの手をそっと包んだ。

 

「でも大丈夫。貴女を救います。私が治します。――貴女を殺してでも、私は必ずそうします」

 

 その言葉を聞いて、××は腰を抜かして叫んだ。

 

「……マスター、こんな特異点にはいられない! 急いでカルデアに帰るぞ!」

「どこへ行こうと言うのです? この感染症の撲滅が終わったら、貴方の顔面を治しますよ」

「ぎゃああああああああああああ!?」




もう三話ほど続くんじゃ


・謎の女医さんの歩み

本編ルート終了後、ないよりはあった方が便利と、勉強して国際医師免許を取得。なので肩書が看護師ではなく「女医」

その数年後、イッセーと再会
「治療が必要ですね」

以後、異世界や並行宇宙さえ飛び越えて追いかけっこ ←いまここ
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