憐憫の獣、再び   作:逆真

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やりたい事とやるべき事が一致する時、世界の声が聞こえる
『STAR DRIVER 輝きのタクト』より


分岐点

 ンンン!

 

 舞台はまだまだ整いませぬ、か。魔神どもも随分と悠長にことを進めていると見える。対して三大勢力は世界の揺らぎに気づいてすらいない。ン、ンン? それどころか世界中の修羅神仏が察知すらしていないといったところですか。最初に気づくのはどこの何というマヌケか見物ですな。

 

 無論、理解しておりますとも。

 

 三大勢力において最も警戒すべき存在は、あの天使。天使長であるミカエルではない。シバの女王と繋がっていたガブリエルでもない。サマエルの理想に共感していた元人間のサンダルフォンやメタトロンでもない。堕天使の総督など話にならない。魔王など旧も新も眼球に入れるべきではない。何よりも問題なのは、彼奴が生きているという矛盾について誰も気づいていないという点。

 

 もっとも、それよりも危険視すべきなのはゲ―ティア率いる魔神柱でありますが。あれらが召喚した五騎のサーヴァントによる歴史の変化。それは貴方の認識と知識の外にある。貴方様の知識では、三騎であった上、此度の五騎に三騎は含まれていない。これにより、禍の団英雄派との接触が遅れることは少々まずい。ゲ―ティアや三大勢力にとってはともかく、我々にはまずい。聖書の神にとってもあまり望ましくない。人類にとっても損失と言わざるを得ないでしょうな。

 

 トライヘキサの覚醒が大きく遅れるのは、非常によろしくない。世界を滅ぼすためだけに生まれた獣に惰眠を貪る時間など勿体ない。直ちに滅びをもたらし、速やかに死んでもらわなくては。あれの汚らわしい獣は、盛大に死ぬためだけに生きているのですから。

 

 だからこそ、余計な手出しが必要であると。結末を正しい方向に導くために、時代を破壊する。秩序を混沌に貶め、正義を狂気に塗り替える。楽園を築くために、地獄の窯の蓋を開きましょうぞ。

 

 そのための剣豪英霊でありましょう。そのための宿業でありましょう。

 

 ライダー・叫喚地獄。バーサーカー・焦熱地獄。そして、セイバー・無間地獄。キャスター・リンボたる拙僧も含め、四つの枠は埋めてありますが……ここは我が霊基に刻まれた『下総国』に倣い、七騎を揃えるとしましょうか。

 

 七騎の化生を揃えることで貴方様の理想の礎としてみせましょう、サタン様!

 

 いえいえ、いえいえいえ! このリンボも聊か以上に皮肉とは思いますが。しかし、貴方様の目的を考えればまさか真名を口にするわけにもいきませぬでしょう。どこに耳があるとも限りませぬし、ライダーあたりが口を滑らせるかもしれませぬ故。

 

 ねえ、■■■■様?

 

 

 

 

 

 

 俺――兵藤一誠は、リアス・グレモリー様の下僕悪魔である。俺のご主人様はオカルト研究部の部長という立場であるため、俺は専ら部長と呼んでいる。

 

 今日、部長の婚約者だとかいうライザー・フェニックスがオカルト研究部の部室に来た。イケメンだけどチンピラとホストを足して二で割ったようなやつだ。しかも自分の眷属でハーレムを作ってやがる。部長が嫌がっているのにべたべたとするし、とにかく気に入らないぜ。

 

 部長との結婚は部長が大学を卒業するまで先だったらしいけど、それが早まったとか何とか。部長はライザーのことがあまり好きではないみたいで、そのことで非常に憤慨している。ライザーだけではなく自分のご両親にも多分にして思うところがあるみたいだ。

 

 ハーレムを作っている上に部長と結婚するだって? クソ、美女や美少女に囲まれるのがそんなにいいのかよ! いいよね、俺だって囲まれたい! 早く上級悪魔になって俺の眷属でハーレムを作るんだい!

 

 純血の上級悪魔だって言うけど、あんな種まき野郎の焼き鳥なんて、高貴な部長に相応しくない! 眷属でハーレムなんて作ってやがるし羨ましい……じゃなくて、結婚しても部長を蔑ろにするに決まっている! 部長の両親も、何で部長が嫌がっているのに結婚させようとするのか分からない。上級悪魔には上級悪魔のルールがあるんだろうけど、部長の気持ちを考えてくれてもいいのに。

 

 おまけに俺のことを下僕下僕と馬鹿にしてがって……覚えてやがれ!

 

「――それで、ゲームをして勝ったら婚約ごと白紙にできることになったのかい?」

「そうなんすよ、ロマンさん」

 

 そんなことがあった日ではあったが、悪魔として召喚の依頼があった。お得意様のひとりであるロマンさんに召喚された。内容はテレビゲームの対戦相手だ。はじめてやるタイトルだったけど結構面白い。

 

「明日からゲーム当日まで特訓するらしいんで、それまでは来られないと思います」

「そうかい? それは寂しいけど、健闘を祈るよ」

「……ロマンさんは、この婚約をどう思います?」

 

 質問しながらも、答えはなんとなくわかっていた。俺や部長の言い分なんて、大人からしたら子供のワガママなんだろうから。

 

「そうだね。まあ、本人が嫌がっているなら、やめた方がいいに決まっている」

「……意外っすね。大人はそういうこと言わないと思ってました」

 

 当事者じゃないから、適当なことを言っているのかもしれないけど。

 

「えーっと、これは僕自身の過去にも関係しているんだけど……わざとスケールを大きくした例え話をしてもいいかい?」

「はい、どうぞ」

「じゃあ、世界が滅んだとしよう」

 

 本当にスケールの大きな話だと!?

 

「魔神……は分かりづらいか。強大な力を持った魔王が世界を滅ぼした。でも、その魔王を倒したら世界の滅びはなかったことになる」

 

 よくSFものである歴史の修正力みたいな話かな? まあ、そういう設定でもないと救いがないよな。世界を魔王が滅ぼしました、魔王を倒したけど何も残りませんでした、じゃ話としてお粗末すぎる。

 

「だけど、魔王を倒せる権利を持つ勇者は、何の特別性もない普通の少年だったんだ。由緒正しき家系の生まれの魔術師でもなければ戦場を駆け抜けた傭兵でもない。ずば抜けた才能も努力を続けた経験もない。怪物でもなければ英雄でもない。そんな少年」

 

 普通。普通か。普通の定義にもよるよな。俺なんかは普通の高校生だったけど、もう普通じゃない。一回死んで悪魔に生まれ変わった。そして、普通の転生悪魔とも言えないだろう。だって俺の持つ神器は――レア中のレア、神滅具の一つなんだから。

 

 俺の中にあった異能、聖書の神が人間に与えた力、神器。俺のそれは所有者の力を倍にするっていう『龍の手』だと思われていたんだけど、実際は違った。

 

 神さえ滅ぼす十三の具現のひとつ、『赤龍帝の篭手』。『赤い龍』の力が宿る、十秒ごとに俺の力をどんどん倍にしていくって力だ。理屈上は神様だって殺せる。……問題は、強くなるのに時間がかかるってことだ。相手が強くなるのを見過ごす奴なんていない。悪魔に転生したばかりで魔力も弱い俺じゃ十秒もあれば殺される。

 

 だから、神様を殺せる力があると言われても、本当に神様が殺せるかって言われたら無理だろう。道具がどれだけ強くても所有者の俺がへっぽこすぎる。今日だってライザーの眷属で一番弱いっていう『兵士』の娘に瞬殺されっちゃったしね。それこそ魔王様くらい強くないと神様は殺せないだろう。

 

 じゃあ実際、どのくらいの力があれば世界が救えるのか。……イメージできない。俺よりもずっと強い部長やライザーより更に強いのが魔王様なわけだけど、それがどのくらい強いのか知らない。篭手の力で十回や二十回の倍加をしたところで足元にも及ばないだろう。

 

 そもそも、ひとりで世界を救うなんてできっこない。漫画やゲームでさえ仲間とかの助けがあってどうにかできているんだから。

 

 普通の高校生だった俺に、世界がどうこうなんてスケールは把握できない。貴族のあれこれでさえ意味不明なのに。

 

「彼しか、いなかったんだ」

 

 ロマンさんの声が震えていた。

 

「本当は分かっていた。僕が、僕たちが、彼に、彼らに何を背負わせていたのかを。でも僕は言えなかった。言う権利なんかなかったし、言えない義務があった。彼に『諦めていい』『逃げていい』と言えなかったんだ。『そんな場合じゃなかった』としても、やっぱり許されることじゃなかったんだよ」

 

 ……部長も別に諦めるとか逃げるって話じゃないとは思う。貴族ってものがどういうものなのか、日本の一般家庭に育った俺には掴み兼ねる。

 

「彼しかいなかった。彼が救いたいものを諦めろと言ったこともある。見せちゃいけない残酷な光景を見せてしまったことがある。本来ならば、僕が受けるべき罰を随分と肩代わりさせてしまったと思う。ひどい大人だったと思う。払ったはずのツケさえ、こんな形で有耶無耶にされた」

 

 どうしてだろうか。

 

 例え話を聞いているはずなのに、まるで罪の告白を受けているような気分だった。いや、これはむしろ罪の告白そのもの――

 

「話が長くなったね。とにかく抗えるなら抗うべきさ、悪魔くん。無責任かもしれないけど、激励させてくれ」

 

 いや、考えすぎだな! だいたい魔王が世界を滅ぼしたなんてわけのわからない話だし。世界が滅んでいたら、俺たちがこうして呑気にゲームだってできないし。そもそも、世界が滅ぶってどういう状態なんだろうか。具体的な定義なんてないだろう。もし世界中の女性のおっぱいが小さくなった、とかなら世界の破滅だとは思うけど。

 

「……はい! 男兵藤一誠、ご主人様のために頑張ります!」

「その意気だ。でも大丈夫、気負い過ぎることもないよ。勝っても負けても――」

 

 ――世界が滅ぶわけじゃないんだから。

 

 

 

 

 

 

「バアルより提起。疑問の起点は、駒王町の価値とそこに根付いていた堕天使勢力の錯誤だった」

「フラウロスより説明。駒王町は古くより旧七十二柱のバアルとグレモリーが管理していた。数年前、当時の管理者であるベリアルの娘クレーリア・ベリアルと悪魔祓い八重垣正臣が思慕の関係となる。当時の関係者はこれを不祥事として両者を処分、情報の秘匿を行った。教会サイドは駒王町から事実上の撤退、現在のリアス・グレモリーへの引き継ぎにかなりの時間を要し、その隙に堕天使勢力が町に潜り込んだ」

「ベリアルより補足。クレーリア・ベリアルの処分に関しては、八重垣正臣との思慕以上の謎が存在する。彼女の従兄である『皇帝』ディハウザー・ベリアルも何らかの形で関与しているおそれがあるため、詳しい調査を続行する」

「オリアスより回帰。現在の悪魔側の管理者リアス・グレモリーは現ルシファー、サーゼクス・ルシファーの実妹である。また、駒王学園の高等部生徒会長支取蒼那に扮しているソーナ・シトリーも現レヴィアタン、セラフォルー・レヴィアタンの実妹である」

「ガミジンより定義。七十二柱の家が古くから管理している点、魔王の血縁者が二名もいる点。これらによって、悪魔側には価値のある土地である。結果的に教会を破棄した天界サイドにとってもそうだが、悪魔と冷戦状態の堕天使にとっても非常にデリケートな土地である」

「パイモンより提示。――だが、あの町に根を張っていた堕天使たちがあの土地にあるべき能力や知性があったとは言い難い。彼らの行動次第で開戦になっても不自然ではないというのに、バアルやフラウロスの報告ではその自覚があったのかさえ怪しい」

「ウェパルより意見。無論、レイナーレたちが非常に程度の低い堕天使であったとは推測できる。だが、堕天使上層部まで駒王町の重要性を理解していなかったとは考え辛い。駒王町の管理の経歴はともかく、魔王の血縁者二名は無視できるレベルではない」

「アガレスより推論。堕天使上層部が悪魔の動向を正しく確認できていなかった。あるいは、レイナーレたちの能力を過剰に評価していた。もしくは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という可能性がある」

「アモンより評価。どの可能性を検討しても、堕天使の勢力としての動きは非常に杜撰と言える」

「グシオンより訂正。トップ陣の技術力と『狗神』と『白い龍』については依然として警戒をすべきではある」

「ゲ―ティアより確認。堕天使へ警戒はあくまでも個人に重点を置くべきか。……神滅具所有者のどちらかを引き込めれば話は早いが……」

「サレオスより報告。『白い龍』ヴァーリに関しては経歴などの詳細不明。強さのランクは勢力の中では上位。『狗神』黒瀬鳶雄も同程度の強さを持つ」

「カイムより了解。白龍皇ヴァーリの調査計画を立案する」

「ウァプラより報告。極東、日本、京都にて我らの世界のキングゥの存在を確認した」

「ストラスより疑問。我ら以外にも、あの世界よりの来訪者があると解釈して良いのか」

「オセより解答。その可能性は高い。我らが復活した原因が不明である以上、そう考えるのが妥当だ」

「バアルより要請。万一の可能性を考慮した場合、私はこれ以上の恥辱と恐怖に耐えられない。統括局よ、戦闘許可を」

「ゲ―ティアより通達。()()()。ただでさえ目立つ行動は避けるべきなのだ。おまえの要請――初代七十二柱への襲撃など断じて認められるものではないよ、バアル。気持ちは分かるし、実行するだけの意味はあるが……もう少し情報が集まってからだ。要らぬ手間など増やしたくはないのでな」

「……了解」

「バルバトスより提案。情報室および観測所の調査により、所在不明であった神滅具の情報が集まった。先の現白龍皇の件も含め、特使五柱に調査を頼みたい」




真面目な話なんですけど、三大勢力和平前における駒王町の立ち位置が分からん。
堕天使上層部ってちゃんと駒王町に魔王の妹が二人いたっ実は知らなかったんじゃないかなー、ってレベルでレイナーレたちがお話にならん。原作じゃレイナーレ以外の三人に関してはほぼ名前だけだし。おそらく原作で彼らの背景が語られることもないだろうなーって。
日本の土地なのに悪魔が管理するようになった経歴も不明だし。
なので、逆真的にはレイナーレたちをあの町に派遣したのはコカビエルみたいな開戦派で、満州事変でも起こそうとしたのかなって考えてみたり。

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