ターニャとレルゲンがらぶらぶちゅっちゅする話   作:佐藤9999

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朝のらぶらぶちゅっちゅ


ターレル(ターニャ×レルゲン)の気運の高りに堪えきれず書きました。
あなたもターレル沼にはまってみましょう。皆ではまれば怖くない。




ターニャとレルゲンの爽やかな朝

 エーリッヒ・フォン・レルゲン中佐はエリートである。

 彼は、若くして少佐、中佐と昇進し、いずれは将官へと成り上がることが約束されている男である。それは彼の才能と努力と実績に裏打ちされた正当なる評価だ。

 泥と血と汚物に塗れながら浅い眠りに落ちた所を敵弾の音によって強制的に目覚めさせられる生活を送っている前線の将兵達とは違い、エリートたるレルゲンの朝は実に優雅なものだ。

 

 

 朝、レルゲンはいつも決まった時間に起床する。

 元々彼は己を律することに長けた人間だ。初めて軍人を志した時より1度たりとも寝坊などという失態を犯したことはない。

 最近、同居人の小さな手に揺り動かされて目覚めるようになってからは分単位でのズレすら無くなった。

 

 起床の後、手早く洗顔と更衣を終えて朝食をとる。

 どこで得た知識なのか、レルゲンの同居人はいささか独創的な料理を作ってくれることがあるが、どれもうまい。贅沢に食材を使うわけでは無いが、暖かく、ちゃんと味があり、風味がある。

 芋を適当に煮転がしたりソーセージを焼いたりしただけではない、昨今の情勢ではおいそれとは望むべくもない上等な家庭料理である。

 食事には漏れなくコーヒーがついてくる。これもやはりうまい。レルゲンの同居人はコーヒーに対してなかなかの情熱を持っているらしく、豆や淹れ方に拘りがあるのだ。

 丁寧に淹れられた代用品でない本物のコーヒーは、なるほど「嗜好品」と呼ぶに値するだけの味わいがある。

 

 食器が洗われる音を聞きながら、香り高いコーヒーを嗜む。そうして一通り新聞に目を通し終えるころには家を出る頃合いになる。

 参謀本部付きの高級将校に与えられる送迎が訪れ、玄関の呼び鈴が鳴らされる。

 軍服に袖を通し、玄関で靴を履くと、同居人が食器の片付けを中断して見送りに来てくれる。

 少し濡れたエプロンを身につけた同居人は、レルゲンに微笑みかける。

 

「いってらっしゃい。エーリッヒさん」

「ああ、行ってくるよ。ターニャ」

 

 屈んで頬を差し出すと、柔らかい感触がそっと触れる。

 

 以上のルーチンをもってレルゲンの一日は始まる。

 

 

 

 

 家の前にはワーゲンが待機しており、レルゲンが乗り込むとすぐに走り出す。

 乗り心地はお世辞にも良いとはいい難い。しかし、徒歩や自転車に比べれば時間が節約出来るし、遥かに格好がつく。まあ、格好がつくとはいえ、一々乗車のたびに優越感を感じたりはしないくらいには慣れてしまったものだが。

 

 職場へと続く見慣れた景色が窓の外を流れるのを眺めながら、無意識にレルゲンは己の頬を指でおさえた。小さな同居人の唇が触れた場所だ。

 

 レルゲンは呟いた。

 

 

「どうしてこうなったんだ…」

 

 

 小さな同居人が彼の家に来てからもう暫くの時間が経つが、未だに折に触れて思う。

 いや、一日に何度も思う。

 

 なぜ、かつて化物とまで呼んだターニャ・フォン・デグレチャフが自分の家に居て、まるで新妻かなにかのように振る舞っているのだ…

 

 

 ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐は、エーリッヒ・フォン・レルゲン中佐と同居しており、互いに名前を呼び合う仲である。あまつさえ、ターニャはレルゲンの頬に毎朝口づけをしている程である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて…」

 

 同居人を見送ったターニャは、レルゲンの頬に口づけした唇を右腕でごしごしと拭う。

 初めてレルゲンに「行ってらっしゃいのキス」をした時にはかなりの決心を要したが、今となっては慣れたものだ。

 ターニャは玄関の鍵を閉めると、台所に戻って食器を片付ける作業を再開した。

 

 ターニャは自分がおおらかな人間であるとはちっとも思わない。そして、レルゲンは見るからに神経質な部類の人間である。暮らし始めたばかりの頃、やはり二人は互いにすぐには馴染めなかった。特にレルゲンは二人の共同生活に強い違和感を感じていたらしく、二人の間で交わされるコミュニケーションは随分とぎくしゃくしていた。

 リビングでも玄関でも軍人のような会話が繰り広げられたし、名字と階級で互いを呼ぼうとしたり、果てはつい敬礼までしてしまったりする始末だった。

 

 正直なところ、当初ターニャとしてはその程度の事態は想定の範囲内だったので、特にその状況に不満を抱いていなかった。そもそもターニャは山ほどの事情を抱えており、家に転がり込んだだけでもレルゲンには十分な迷惑をかけている。そう思って、敢えてそれ以上迷惑をかけないように距離を置くように接していたのだ。

 しかしある日、ふと気づいた。

 レルゲンの生活をターニャの存在が乱しているのだと考えると話は変わってくるのではないだろうか。

 レルゲンには居候をさせて貰っている上に、他にも様々な世話を焼いてもらっている。何より、この生活はターニャが望んでレルゲンに乞うた結果実現したと言っても過言ではない。

 この上さらに彼の生活を乱し続けるなどということが許されると思う者は集団生活に向いていないとターニャは考える。少なくとも塹壕では生き残れない。

 つまり、二人の関係は改善されなければならない。そして、それはターニャが主体となって取り組むべき課題だったのだ。

 課せられた課題を見逃し続けた己の怠慢に気づき、ターニャは青ざめる思いだった。

 

 課題を解決するにあたって、ターニャは日課となっている礼拝(呪詛)の際に教会のシスターにアドバイスを求めてみた。餅は餅屋。人生の悩みといえばシスターと相場が決まっている。

 親ほども年の離れた同居人とうまくいっていないという特殊な状況を分かりやすくするために、ターニャは仮に「養父」という言葉を使って説明した。

 

 ターニャの説明を聞いたシスターは「ターニャが他人行儀に接しているのではないか。だとしたらそれが問題だろう」と端的に指摘した。

 ターニャとしては図星を突かれた思いだった。

 確かに上官だった延長のように接していたことは否定できない。レルゲンはターニャにとっては大恩人であり、節度を欠いた接し方をするのには強い忌避感がある。ターニャが節度を守った調子で接する。すると、レルゲンもそのように対応する。ターニャはそれで二人の関係がうまくいっていると思っていた。

 しかし、シスターはそれが間違っているのだと言う。

 節度を守り続けるということは、別の言い方をすれば他人行儀であるということだ。レルゲンがもしターニャが他人行儀に接してくるのに違和感を覚えていたのならば? シスターの説明は理にかなっていた。

 そうなのだとしたら、ターニャの個人的な感想など二の次にして早急に状況を変えなければならない。ターニャは課題の根本的な部分を理解するに至ったと確信した。

 

 しかし、気を使って接することが許されないことなのだとしたら、人でなしを自認しているターニャにはもうどうしていいのか皆目見当もつかない。

 頭を悩ませるターニャに、シスターは解決策も提示してくれた。

 曰く「家族のするように甘えてみろ」とのことだった。その一例として挙げられたのが「行ってらっしゃいのキス」だったのだ。

 ちなみに他にもいくつかの例が挙げられ、ターニャはそれらも実践できる範囲で実践してみたが、決定的と言えるほどの効果は得られなかった。

 

 最後に残された選択肢を前に、ターニャは悩んだ。

 ただでさえ「行ってらっしゃいのキス」などというのは一大決心を要する作業だというのに、それが的外れだったとしたら、もうターニャはレルゲンの持つピストルを奪って自分の頭を撃ち抜くしかない。

 

 ターニャは悩みに悩んで、本当に悩んだ。

 不審に思ったレルゲンが何事かと尋ねてくるくらいにターニャは悩んだ。

 

 そして悩んだ挙句、ターニャは結局実行した。

 

 

 ある朝、ターニャは家を出ようとするレルゲンを引き止め、屈むように指示した。

 そして訝しげなレルゲンの顔を右手で掴み、その頬に自分の唇を押し付けた。

 その時に多少の問答はあったものの、その出来事から確かにレルゲンの態度が目に見えて軟化した。

 

 それ以来、毎朝ターニャはレルゲンの頬に口づけをしている。

 多少怪しいと思っても人の助言は真面目に聞くものだとターニャはしみじみと思った。

 

 レルゲン中佐が精悍で清潔な男だったという事実はターニャにとって幸いだった。

 ターニャは不衛生な孤児院で育ち、そして汗と尿とたまに吐瀉物の臭いの立ち込める塹壕生活を何度も経験している。

 レルゲンに恩を返すために必要な手続きだと思えば、彼の頬に唇をつける程度のことならばターニャにとっては許容範囲内だった。

 ついでに言えば、レルゲンはロリコンやペドフィリアでもなかった。これも大事な要件である。

 ターニャはレルゲンを信頼している。彼が非常にまともな理性と感性を持った良い大人であると信じている。もしかしたらレルゲンはターニャがこの世界で最も信頼している相手とも言えるかもしれない。だからこそ彼の頬に口づけなどということができるのである。

 そうでなければ彼の家に転がり込んで暮らすなどという発想自体浮かぶはずもない。

 

 

 

「ふう…」

 

 食器をすっかり片付け終えた後、ターニャは一息ついて、ひとりごちた。

 

「しかし、慣れるものだな」

 

 ターニャは布巾で水気を拭った右手を使ってエプロンを外すと、リビングを通るついでに自分の椅子の背もたれにぞんざいに被せた。自身が発した言葉の通り、慣れた手つきだった。

 初めて作業に従事したときよりも、ずっと手際よく済ませることができるようになっている。

 

 悪くない。そう思いながら部屋を出ようとする…が、机に左肘がぶつかり、ガンと大きな音をたてた。慣れたと言ったそばから。

 左肘はジンジンとした痛みを発し、肘以外の余計な部分まで猛烈に痛くなってきたような気がした。

 

「………」

 

 些細なことで上がった気分は、些細なことで急降下する。

 むすっとした表情で鼻を鳴らし、ターニャはレルゲンが読み残していった新聞を引っ掴むと書斎へ向かった。

 

 

 書斎はレルゲンの性格が現れたようにきっちりと整頓されており、中々雰囲気がある。この場所はターニャのお気に入りだった。

 

 書斎の主の椅子は幼女の身には大きい。クッションを放り込んでからターニャは腰掛けた。

 そのまま新聞を読もうとするが、ふいに左目のあたりに不快感を覚えたため、左目を覆っている布を外して右手で左目のあたりを拭った。ずっと覆われたままになっていたせいで多少汗ばんでいる気がした。

 この作業は一日の中で数回繰り返されるが、そのたびにターニャは自分の行動が中断されたように思えて口惜しい気分になる。

 

 実に忌々しい。ただでさえ視力がほとんど無いのだから、不潔にして眼病にまでなっては堪らない。そう思ってつとめて常に清潔に保つようにはしているが、それにも限度がある。

 そうでなくてもたまに呻き声を我慢できない程の痛みを発することがあるのだ。この左目はターニャにとってこの上なく不愉快な存在だ。

 とはいえイライラしていても始まらない。深呼吸して一息ついた後、ターニャは布を付け直した。

 

 気を取り直し、ターニャは机に置いた新聞を左肘でおさえながら開いた。

 一度開かれた新聞は閉じなおしてもおさまりが悪いものだが、几帳面なレルゲンは後で読むターニャの事を考えてくれているのか、きちんと折り目を合わせた状態で読み終えてくれる。実に有り難い。このような些細な気遣いが共同生活を送る上で大切になるのだ。ターニャは少し気分が回復するのを感じた。

 

 新聞を眺める限り、相変わらず帝国の戦況は芳しくないらしかった。

 半ば退役に近い形で軍を離れ、直接的に戦争に関われる立場ではなくなったターニャにとって、帝国の戦況は常に憂鬱の種である。ターニャの考えるままに事が進めば、帝国は勝ち目のない戦いへと挑んだ挙句、無残な敗北を喫することになるだろう。

 ターニャには数年間のお勤めで稼いだ金があり、これからも銀翼突撃章に付随する年金や傷痍恩給が収入として手に入る予定なわけだが、これらは帝国が戦争に敗北すれば紙クズに変わってしまう。

 特に傷痍恩給など、第二次世界大戦後の日本では大いに配給が滞って社会問題になっていた。当たり前だ。社会的弱者に心配りをしてやれる余裕など敗戦国にあるわけがない。帝国でも同じ事が起こるということは想像に難くない。

 

 ターニャは右手で頬杖をついてため息を漏らしながら、肘から先の服の布地がだらりと垂れ下がった己の左腕を眺める。

 ため息混じりにターニャは呟いた。

 

 

「どうしてこうなった…」

 

 

 

 

 

 

 ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐は、エーリッヒ・フォン・レルゲン中佐と同居しており、互いに名前を呼び合う仲である。あまつさえ、ターニャはレルゲンの頬に毎朝口づけをしている程である。

 

 そしてもう一つ。

 

 ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐は傷痍軍人である。

 このことは、ターニャがレルゲンの家に居候することになった経緯と密接に関わっている。

 

 

 

 

 

 




 本当になぜこうなったのか。
 ほとんど説明がないまま終わります。

 もし続くようだったら次話以降で色々説明したいと思います。


 自爆して墜落したターニャが1ヶ月くらいしたらもうピンピンして軍の仕事をしているなんて、ライヒの医療技術は世界一! といったところですが、流石に腕がもげたら治せないんじゃないかなぁ。
 でもターニャは腕がもげても可愛い。眼帯でも可愛い。だから大丈夫。
 レルゲンさんもきっと同意してくれる筈。


 それではまたいずれ…

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