ターニャとレルゲンがらぶらぶちゅっちゅする話   作:佐藤9999

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ターニャとレルゲンがいかにしてちゅっちゅする関係になったか、その馴れ初めの部分です。なので残念ながららぶらぶしてません。

なんか書いてるうちに長くなっちゃったので二分割しました。

1話を分けてしまったのでこの話もちょっとまとまりがありません。
多少あれなところもあるかもしれませんが、どうか次話まで読んでいただけると幸いです…



ターニャとレルゲンの過去話①

 ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐は作戦行動中に撃墜された。

 何の事はない。ついにターニャの運が尽きただけのことだった。

 

 

 二〇三航空魔導大隊は即応部隊として常に「援軍が必要なほど厳しい」だとか「緊急に対処しなければならない」というような戦線に参加することを宿命付けられている。本来はそんな後ろ向きな用途だけのために作られた訳ではないはずなのだが、実質的にはそういう使われ方ばかりをするようになってしまっている。

 往々にして組織というものは、安定と成長をリスクの天秤にかけ、常にぎりぎりの状態で居たがる悪い性質がある。そして、即応部隊という存在は、ぎりぎりを攻めるための最後のひとさじとしてぴったりだった。つまるところ便利屋だったのだ。

 

 かつてレルゲン中佐がターニャの人格に深刻な懸念を抱く原因のひとつになったほど苛烈に鍛え上げられた人員。それに加えてターニャによる徹底したリスクマネージメント。これらを兼ね備えていたからこそ、二〇三航空魔導大隊は過酷な任務を可能とした。

 

 部隊長であるターニャ自身の戦闘能力も大きな要因だった。

 ターニャの所持するエレニウム95式は「自称"神"」が「聖遺物」として太鼓判を押すほどのアイテムである。それを操るターニャは、魔導師としてもはや無敵の領域にあった。最高到達高度に始まり、魔導障壁の堅牢さ、敵からの捕捉を逸らす特殊な能力、燃費、魔力量。全てにおいてターニャは一般的に考えうる魔導師の水準を遥かに超越している。

 最強の部隊に、無敵の指揮官。それが二〇三航空魔導大隊だった。

 

 しかし、それでも駄目な時は駄目なのだ。

 

 即応魔導大隊という構想の有効性自体は、もはや既に誰にも否定し得ないほどに証明されている。だが、有効さにかまけて参謀本部はそれを使い潰した。

 

 

 全くもってひどい戦場だった。

 

 まず、敵軍の数が多く練度も十分という事前情報が知らされたその時点で、既にターニャの苦悩は始まっていた。

 続いて、その中にあって、ターニャ達二〇三航空魔導大隊が撤退の許されない任務に従事しなければならないということが判明した時、ターニャは手に持っていた書類を床に叩きつけたいという衝動と戦わなければならなかった。

 

 ターニャには予感があった。同じような任務はこれまでにも何度か経験してきたが、これはそれらすらもこえる困難な任務だと。

 実際に戦場に立った時、その認識は実感となって降り掛かった。

 

 今にも障壁を突き破って肉体に突き刺さらんとする砲弾に、いくら戦えどもどこからか沸いて出て来る敵魔導師部隊。刻一刻と数を減らす大隊員の中、ターニャはついに己の死を強く懸念するまでに至った。

 

 かつて無い最大の窮地は、これまで生き延びるために様々な工夫をこらしてきたターニャに、ついに奥の手を使うことを決断させた。

 それはすなわち、戦線離脱である。

 撤退許可があろうがなかろうが、部隊員が戦闘中の負傷により後退することは当然の権利として認められている。ターニャは、うまく怪我を負うことで死地から逃れようと考えたのだ。

 かつてターニャが銀翼突撃章を受賞したときに用いた手段。一度実戦で効果が証明された確実な方法だ。

 

 しかし、あの時と現在では違う点があった。当時、ターニャは単独で飛行している時に敵勢力に出くわしたが、今のターニャは部隊の長である。ターニャが戦線離脱した後、おそらくヴァイスが指揮を引き継ぐことになるであろう大隊はどうなるか。ターニャが「もうだめだ」と判断するほどの戦いの中で、ターニャを失った大隊が果たして任務を完遂し得るかは大いに疑問だった。

 そして、大隊規模の戦闘集団の瓦解は戦線そのものの崩壊に繋がる。ともすると、ターニャは己の保身のために戦線をひとつ崩壊させることになる。

 まさかわざとそうしたなどと考える者は誰も居るまいが、ターニャのキャリアには予測不可能な規模の痛手となる。

 

 そもそもわざと撃墜されるという行為自体に死の危険が潜んでいる。

 以前は敢えて自分が死なないで済む程度の威力に調整して自爆することができたが、今回はそうはいかない。いかなる状況下であったとしても大隊長が任務の途中で自爆するのはおかしい。前回と違い、ターニャは敵弾によって撃墜される必要があった。

 

 結局、撃墜の自演など、とり得る手段としては下の下としか言いようがない。

 だが、それでもターニャはそれを選んだ。もはや他に選択肢は無かった。

 果敢に戦った結果、継戦能力を失って離脱。ここまでやって敵前逃亡と言われることはあるまい。あとは結果がどうあれ、生還した暁には「まだ戦えます」「次はうまくやります」と真顔で言う。もはやそれしかない。

 

 決意した瞬間から、ターニャは魂を削るような鬼気迫る戦いを演じた。自分の離脱を補助する人員を確保できるうちに被弾するために。そして、自分が去った後の戦況を少しでも良くしておくために。

 ターニャは限界を超え、狂気に取り憑かれたかのごとく戦い抜いた。

 そしてついに、意図した上でのことか自分自身でも判然としないほどのタイミングで敵弾に身を晒した。

 

 

 

 ターニャが意識を取り戻した時、ターニャの身柄は既に前線ではなく帝都の帝国軍病院にあった。

 

 目覚めは全く心地よいものではなかった。

 ぼんやりとした意識の中、得体の知れない不快感が身体を覆っていた。その不快感の源が己の左半身だと理解した瞬間、不快感は激痛に変わり、自分のあげた呻き声でターニャは目を覚ました。

 

 ナースコールなど存在しない病室だったが、幸いと言うべきか、ターニャが目覚めてすぐに看護婦が現れ、彼女が連れてきた軍医によって鎮静剤が投与された。

 ひとまずの落ち着きを取り戻したターニャは、意識の確認のための簡単な質問にいくつか答えた後、現状の説明を受けることになった。

 

 まず、現在の日付は記憶のものよりもさらに数日が経過していた。

 作戦行動中に撃墜されてから今に至るまでターニャは長い昏睡状態に陥っており、その間に身柄は前線から帝都の帝国軍病院に送り返されていた。

 そして、それに付随してターニャは己の身体がいかなる状況にあるのかを知った。

 

 ターニャの左上半身は、徹底的に破壊されていた。

 意識を失っている間に実施された治療により、生死に関わるような損傷はある程度修復されていたものの、未だにターニャの身体には生々しい傷痕が刻み込まれていた。特に重大なのが、左前腕と左目に負ったダメージだった。

 現代医学の粋を集めた治療をもってしても、跡形も無く失われた左腕を取り戻すことはできなかった。そして、潰れた左目はなんとか再生には成功したが、眼圧が正常ではないだとかのために未だ治療を要する。悪くすれば失明の可能性もあるということだった。

 薬物の投与によってはっきりとしない意識のままだったが、気遣わしげな表情をした軍医の言葉はなぜか明瞭に理解できた。

 

 説明を聞きながら、ターニャの脳裏を様々な情報が駆け巡った。

 肢体の欠損。これは相当にショックなことだったが、覚悟していたことでもあったからなんとか受け入れることができた。

 何十、何百と敵兵を葬っておきながら、自分は絶対に無事でいられるなどと考えられるほどターニャはおめでたい人間ではない。可能な限り己の安全を最優先にしようと思いつつも、その危惧は常に視野の中にあった。

 己が取り返しのつかない傷を負ったという衝撃よりも、ターニャの思考はさらにその先へと向かった。

 この戦いの結果を受けて、今後自分は一体どうなるか。そのことに思い至った瞬間、ターニャは思わず軍医の言葉を遮っていた。

 

 ターニャが従事した作戦は成就したのか。そしてターニャの二〇三航空魔導大隊はどうなったか。それは今、自身の怪我などよりもよほど重要なことだった。

 気づいてしまうと、他のことに意識を割く余裕がなくなる。ターニャは矢継ぎ早に軍医に尋ねた。

 軍医は渋い顔をして少々躊躇った後、口を開いた。

 

 

 端的に結論を言えば、ターニャの率いた二〇三航空魔導大隊は全滅。

 そして、それほどの被害を受けながらも敢行した作戦は、結局失敗に終わったとのことだった。

 

 

 全てを語り終えないうちに、軍医の言葉はターニャの耳には届かなくなった。

 人目の前で取り繕うことすら忘れ、ターニャは青褪めた顔で茫然自失していた。

 命こそ拾ったが、それと引き換えにターニャはあまりにも多くのものを失っていた。

 

 参謀本部肝いりで編成された大隊を自分の指揮下で溶かした挙句、従事した作戦は失敗に終わる。挙げ句の果てに、かろうじて生き残りこそしたが片腕と目を失った。

 それがターニャの得た戦果だった。

 これも覚悟していたことではあった。最悪の場合こうなる。そう思いながらターニャは撃墜された。しかし、本当にその最悪が己の身に降り掛かってきた時、流石にターニャは平静ではいられなかった。

 命あっての物種とは言うが、本当に命だけを拾って、そして後はどうすればいい。

 

 ターニャの尋常ではない様子を見て、軍医は慌ててターニャと二〇三航空魔導大隊がいかに勇敢に戦ったか、いかに戦線に貢献したかという伝聞を語って聞かせてくれたが、それらの言葉は全て耳を素通りしていった。それらの情報はターニャにとっては何の慰めにもならなかった。

 かつて、前世では大企業の人事部で人の進退を取り扱っていたターニャは、人の犯す失態と、それがその後のキャリアに与える影響について人一倍敏感だった。

 たとえ実行可能性の低い難題を与えられたからだとしても、経過の中で十分な貢献ができていたとしても、最終的に失敗であれば駄目なのだ。

 

 これまでに積み上げてきた実績をもってしても到底カバーし得ない損害。いかなる形でかはともかく叱責は避けられないはず。

 もしそれがもろに自分に降り掛かってきたとしたら。それを想像した時、ターニャは比喩ではなく震え上がった。

 

 上司、つまり参謀本部が庇ってくれるか否かが、己の運命を決める分水嶺となる。人事に携わる者として培われたターニャの勘がそう告げていた。

 

 

 

 そのわずか数時間後、まさに己の運命を握る者…参謀本部に所属するレルゲン中佐が突然目の前に現れた時、ターニャの動揺は極限に達した。

 

 

 

 




病床のターニャの元に突如現れたレルゲン中佐。
彼は言った。
「結婚しよう」


とかだったらいいなぁ

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