コードギアス オルタネイティヴ   作:電源式

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第9幕 【介入 の 白き 騎士】

 

 

 世界は別れゆく、ゼロが起こした行動によって。

 正義は揺らぎゆく、ゼロが投じた波紋によって。

 そう、今世界に再び争乱が広がろうとしていた。

 

 相対するは二人の英雄。

 黒の騎士団を率いる者と、漆黒の騎士を率いる者。

 己が正義を掲げ、互いを否定し敵対する。

 

 それでも英雄は数多の想いと業を背負い、幾多の欲と感情のうねりと共に進み続けなければならない。

 時を刻む針を止めないためにも。

 

 一方、予期せぬ事態に多くの民衆は戸惑いを抱いた。

 

 果たして、どちらのゼロが本物で、どちらが掲げた正義が真に正しいのか、と。

 

 故に世界は別たれる。

 古きゼロを支持する者と、新たなゼロを支持する者に。

 

 いや、違う。

 そんなに単純な問題ではなかった。

 

 ある一部の者達は、今までその考えに至る事すらなかった疑問の存在に気付いてしまう。

 

 本当にゼロの行いが正義と呼べるものなのだろうか?

 本当にゼロは間違いを起こさないのだろうか?

 

 今はまだ、芽生えたばかりの小さな杞憂に過ぎないのかも知れない。

 しかしその疑念は、時間の経過と共に確実に人々の間に浸透していく。

 

 だからこそ、彼等──ゼロを憎む者達は胎動を始める。

 やがて訪れるであろう誕生の瞬間を待ち侘びながら……。

 

 その産声は新たなレクイエムとなる。

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 ゼロによるゼロに対しての宣戦布告を受け、精神的主柱=ゼロの帰還によって結束を取り戻した黒の騎士団は慌ただしく動き出す。

 東京湾の沖に停泊する旗艦迦楼羅に仮設司令部を設置。

 漆黒の騎士の拠点特定を急ぐ一方、支援国に特使を派遣。また各国支部から部隊を呼び戻し、戦力の再編成を図っている。

 

 対する漆黒の騎士は罪人に対する断罪、粛清行為を停止。

 黒の騎士団を正面から迎え撃つつもりなのか、それとも奇襲の為に動いているのか、表だった動きはなく静観の構えを見せている。

 

 一時の静穏は嵐の前の静けさなのだろう。

 二人の英雄による開戦の瞬間は刻一刻と近づいている。

 

 そう誰もが考えていた。

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 EuroUniverse、通称EU。

 元々国家集合体であったが、神聖ブリタニア帝国、中華連邦に並び、世界の三分の一を勢力下に置く超大国として君臨。

 しかし神聖ブリタニア帝国宰相=シュナイゼル・エル・ブリタニアが率いるブリタニア軍の軍事侵攻によって、国力・戦力・領土を削られ、また奪われてしまう。

 世界の覇権争いから脱落し、存亡の危機にあったEUは、超合集国連合の台頭と勢力拡大に伴うブリタニアとの外交対立に於いて、世界を二分する両勢力に取り込まれていった。

 その後、悪逆皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの即位に端を発するダモクレス戦役を経て、世界の覇者となった彼が支配する超合集国への隷属を強制され、超合集国憲章を批准。国家集合体としてのEUは解体され、各構成州は合衆国へと名を変え、超合集国の管理下に置かれる事となる。

 

 ゼロレクイエムにより悪逆皇帝の支配から解放された後、経済共同体としてのEUを再組織。超合集国内での地位向上を目指した勢力基盤を構築。

 さらに超合集国の創設に携わり、最高評議会に於いても高い発言力を保持し、黒の騎士団とも深い繋がりを持つ合衆国日本や合衆国中華、また未だ勢力を保つブリタニアへの対抗と牽制を目的に、欧州連合評議会を設立。

 ブリタニアとの宥和政策を進める合衆国日本や合衆国中華と一線を画す事で、反ブリタニア層の取り込みに成功し、勢力を増していく。

 

 結果、一部強行派は超合集国連合からの離脱とEUの独立を画策する。

 その場合に問題となるのが安全保障に於ける軍事力の保有についてだ。現状で超合集国がEUの独立を認める事はあり得ない。最悪、軍事力の行使=黒の騎士団の派遣が最高評議会で決議され、十中八九承認されるだろう。

 その為、強行派は黒の騎士団EU支部の掌握に動き、自らの人員を上層部へ送り込むなど下準備を進めていた。

 

 そんな水面下の動きがある状況で起こった救世の英雄=ゼロの黒の騎士団離叛と襲撃。強行派はこれ幸いと手放しで喜んだ事だろう。

 混乱の収拾。また黒の騎士団内部からゼロに賛同する団員が出る恐れがある以上、造反の阻止と監視という大義名分の下に、堂々と介入する事が可能になる。上手くいけば、そのまま自分達の物に出来るとさえ考えたかも知れない。

 

 しかし彼等の思惑は、黒の騎士団CEO=ゼロが発した二度目の声明によって潰えた。

 

 

 

 黒の騎士団EU支部が所有する軍事飛行場。そこには複数の大型輸送艦と、それに搭乗するために整列する数多くのKMFの姿があった。

 ゼロの要請を受けたEU支部上層部は一部の駐留部隊を残し、精鋭及び主力部隊の派遣を決定。その指揮を支部の軍事統括であるノネット・エニアグラムに命じる。

 

 ノネット・エニアグラム。

 4年前、神聖ブリタニア帝国が誇る最強の騎士=ナイトオブラウンズの一人、ナイトオブナインの地位に就いていた女傑。当時行われたブリタニアと超合集国──いや実際には超合集国と契約した黒の騎士団が相手だが──との戦闘において、彼女はEU方面へ派遣され、同時展開軍を率いていた。

 

 だが第二次東京決戦の戦況──フレイヤによる殺戮──を受けて行われた停戦の合意と、それによって齎された混乱を機に、彼女は軍から離反し、一時身を隠す。

 以降、彼女が悪逆皇帝ルルーシュに対する反乱、またダモクレス戦役に参戦する事はなかった。

 彼女自身がその理由を明かしはしなかったが、戦士を必要としない矜持なき戦場に失望した、というのが彼女を知る者達の見解だった。

 

 しかしゼロレクイエムを経て、彼女は再び戦場へと舞い戻る。

 今度は何かを奪うためではなく、新たに歩み始めたこの世界を守る為に。

 だからこそ彼女の心中には焦りがあった。

 

「そこ、グズグズするな! 時間は待ってくれないんだからな!」

 

 彼女はラウンズ時代から騎乗する──どこか女性を連想させるフォルムが特徴的な──専用KMF=イゾルテのコクピット内部から指示を飛ばす。

 

 忌むべきフレイヤ弾が再び使用され、英雄という強大無比な力が振るわれた。

 その結果世界に戦乱が広がろうとしている。

 二つの導きの光によって世界は分断され、正義は氾濫する。

 それは矜持なき争いとは対極に存在する矜持だけの戦い。個人が信じる正義や誇り、プライドが支配する戦場。人の本質、人が人であるが故に避けられない事態。

 

 果たして誰がそれを間違っていると言えるだろうか?

 

 戦士である彼女には、現状を否定する事が出来なかった。

 故に彼女は恐れを抱く。次の戦いの幕開けが、世界の緩やかな滅亡の引き金となる可能性を感じているから。

 誰かが止めなければならない。

 けれどこの流れを止める事は彼女には不可能だ。

 いや、彼女だけではない。誰にも不可能な事のように思えた。

 それこそ英雄をも超越する存在が現われない限り……。

 

『統括。一番艦及び二番艦、積み込み作業全て終了しました。三番艦に関しても、予定の時刻に変更はないとのことです』

 

「何か問題は?」

 

『ありません。事前の計画に変更なし。間もなく離陸準備も完了します』

 

「そうか」

 

 部下の報告に対し、ノネットは頷く。

 

 ここまでのプロセスは順調に消化しているが、安堵など出来はしない。

 本当に気を引き締めるべきはこの後だ。

 現状では静観している漆黒の騎士だが、部隊の再編を黙って見逃すとも思えない。

 よって航行中に襲撃を行ってくる可能性も少なくはないだろう。

 

「なら予定通り私は三番艦に搭乗する。一番艦と二番艦のブリッジに離陸許可を伝えておいてくれ。それと航行中の警備行動についてだが─────」

 

 半瞬、目の前で閃光が煌めき、継いで発生した爆風が周囲を蹂躙する。

 

「ッ!?」

 

 突如襲い来る衝撃に戸惑いながらも、咄嗟にバランスを崩す機体を直ぐさま立て直す。

 

「一体…何が起きた……?」

 

 状況が理解できない彼女の視界に映り込んだメインディスプレイの映像。

 そこに表示されていたのは、今まさに飛び立とうとしていた大型輸送艦が見る影もなく破壊され、炎に包まれている光景だった。

 

 緊急事態を告げる警告音が施設全体に鳴り響く。

 

 事故、それとも敵襲か?

 

 その疑問も問い掛けも、彼女は必要としなかった。

 歴戦の戦士である経験や本能がそうさせたのか、既にその身は戦闘の構えを取っている。

 

 彼女の視線の先、炎の中から姿を現わす一体のKMF。

白銀の鎧とマントを身に纏い、蒼い光の翼(エナジーウイング)を広げ、機体の二倍近い──敢えて形容するなら長槍か──巨大な刃の塊を手にした騎士。

 その姿は優美にして荘厳、力強くも気品に満ちていた。

 

 しかしそれ以上に、白銀の騎士は言い知れぬ異様な重圧を放つ。

何もそれは、そのKMFが裏切りの騎士=枢木スザクの専用機、白き死神と畏れられたランスロットに似ているからではない。

 そもそもその事自体は決して珍しい事ではない。

 優れた機体性能を誇ったランスロットはその高い有用性が認められ、後のKMF開発に大きな影響を与えた機体だ。現に黒の騎士団が保有するKMF──特に新型KMF──にも、ランスロットの系譜に属する機体も少なくない。

 

 だが目の前の機体は明らかに何かが違う。

 何故そう感じるのかは自分でも理解できない。

 勘といってしまえばそれまでだが、それは信じるに足るものだ。

 ノネットは自分が嫌な汗をかいている事に気付き、一度額の汗を拭う。

 

『統括ッ!?』

 

「分かっている。いいか、お前達は手を出すんじゃないぞ」

 

 対応を求める部下の声に応え、ノネットは操縦桿を握る手に力を籠めると、背面パレットに携行していた折り畳み式の長柄戦斧(ハルバード)型MVS(メーザーバイブレーションソード)を抜き、展開させながら機体を進める。

 

 果たして相手は何者なのか?

 

 やはり最初に思い浮ぶのは漆黒の騎士に属する者だ。

 ただその場合、相手の機体に違和感を覚える。

 まず機体色だ。武装蜂起の起点となった蓬萊島襲撃を含め、以降の襲撃や粛清に参加した漆黒の騎士保有のKMFの機体色は全て、その組織名が示すように黒色だった。

 そもそもゼロが率いる漆黒の騎士に属する者が、彼が討ち果たした魔王=皇帝ルルーシュの騎士の専用機を思わせる機体を使用するとは考えにくい。使用するにしても機体色の変更は当然のこと、外装も変更するだろう。

 

 だとすれば目の前の相手は黒の騎士団にも、漆黒の騎士にも属さない第三勢力と考えるべきか?

 

 いや、何にしろ現時点で相手の素性を知る術はない。

 

『おい、貴様』

 

 彼女はオープンチャンネルで回線を開き、相手との対話を試みる。

 僅かでも情報が得られるなら、それに越した事はない。

 

『弁解する気があるなら、一応聞いてやるぞ』

 

 状況から考えて、事故という可能性は限りなく低い。

 その一方で、主力戦力が集結する軍事施設に対し、単騎での襲撃敢行が事実であるなら、相手パイロットの能力、またその機体性能が極めて高いことは容易に想像が付いた。

 本来ならば愚行だと嘲笑っていたかも知れない。けれど相手が放つ重圧は、それを許さない。

 

 白銀の騎士はノネットの声に応える事なく、ゆっくりとその巨大な長槍を構えた。

 所属不明機が完全に敵機と認定される。

 

 次の瞬間、白銀の騎士はエナジーウイングを羽ばたかせ、瞬時にイゾルテとの間合いを詰め、躊躇うことなく長槍を振り下ろした。

 

「っ、速い!?」

 

 対するノネットはハルバードで長槍を受け止めようとした。しかし、長槍の刃が触れた瞬間、ハルバードは歪み、ただ一度の斬撃で耐久限界を超えて砕け散る。

 

 だがその時、既にノネットは次の行動に移っていた。

 さすがは元ラウンズと言うべきか、ハルバードが耐久限界を超えると悟ると同時に手放し、背後へと跳躍して相手と距離を取る。

 さらにその動きの中で脚部に装備していた大型二丁拳銃を抜き、冷静に銃口を白銀の騎士に向けて、マガジンが空になるまでトリガーを引く。

 

 放たれた弾丸は、長槍を大地に打ち付けた白銀の騎士を確実に捉えていた。

 けれど彼女が望んだ結果は訪れない。白銀の騎士の腕部に内蔵されていたブレイズ・ルミナスが展開され、容易く銃弾を受け止める。

 

「ちっ」

 

 ある程度予想は出来ていたとは言え、ノネットの表情は落胆の表情を隠せなかった。

 

 エナジーウイングが可能とする高機動性。そして何よりも長大な武器を苦もなく扱い、MVSを軽々と粉砕する圧倒的な出力。

 少なくとも相手の機体性能が第九世代以降であることは間違いない。

 

 対するイゾルテは元々第八世代相当の中でもランクが低い。強化・改修を重ねてはいるが、第九世代には遠く及ばないのが実情だった。

 それを踏まえた上でも、得意とする近~中距離戦闘ではまるで歯が立たないだろう相性最悪の相手だ。

 

「……まずいな」

 

 機体性能が優劣の全てだとは思っていない。元ラウンズである誇りと経験、培われた操縦技術は、疑う事なき彼女の力となる。

 

 それでも現在、目の前の相手に埋める事の出来ない絶望的な差を実感せずにはいられなかった。

 

 そんな相手にどう立ち回ればいい?

 

 思考するノネット。

 直後、彼女の耳に部下達の声が届く。

 

『統括を援護する!!』

 

『イエス、マイ・ロード!!』

 

 白銀の騎士を取り囲むように展開する濃紺のKMF。

 EU諸国が仇敵ランスロットを解析し、研究開発した新型KMF=ジオナハト。優れた地上戦闘性能を誇り、EU支部の精鋭部隊に配備されていた。

 各国が合衆国憲章を批准した後、それでも散発的に続いた戦闘行為だったが、その戦力はフロート搭載型KMF以前の旧式兵器が大半を占めている。

 特にKMFの研究や製造、その運用に関しては超合集国が厳しい管理下に置き、一部国際機関と黒の騎士団と関連のある企業に限定されていた。

 よって世界の流れに抗う武装組織が入手できる兵器は、各国軍の解体の際に裏社会やブラックマーケットに流出した旧式兵器が主となっている。となれば当然戦場は空ではなく、再び地上へと移り変わる。

 その流れを受け、地上戦闘性能を見直して生まれたのがジオナハトだった。もちろん空中戦闘能力が特段低いという訳でもなく、フロートユニットの搭載にも問題はないが。

 

「よせ────」

 

 部下を制止しようとするノネットだが、その声が届くよりも速く白銀の騎士が長槍を薙ぎ払う。

 そう、それだけで全ては決した。

 ハッキリ言ってしまえば、ランスロット系譜に属する新型と言えど所詮は量産機。

 いくら最新パーツが組み込まれていたとしても、敵機との基本ポテンシャルが違いすぎる。

 

「ッ………」

 

 最悪の展開だ。

 例え自分がどうなろうとも、出来ることなら犠牲は最小限に抑えたいとノネットは願っていた。

 力ある者が力なき者を守る。

 それが彼女の理想とする騎士像であり、胸に抱く信念。矜持だった。

 しかし、彼女の矜持は破られる。いや、破られ続けていた。

 だからノネットはその心の内に怒りと悲しみ、そして言い表せない罪悪感を抱くのだろう。

 

 爆散するKMFが爆煙を舞い上げ、視界を覆い隠した。

 

 彼女は思考を巡らす。

 部下が自分のために、命を懸けて作ってくれたこの刹那を無駄にする事は出来ない、と。

 一時退き、態勢を立て直し、装備を改めるべきなのかも知れない。

 それでも部下に、自分よりも力を持たぬ者達に守られ、敵に背を向けることなど、彼女の信念が到底許せるはずがなかった。

 それは強者の傲りと呼べる物だったのかも知れないが、彼女に迷いは無い。

 

 ノネットは両手の拳銃を捨て、新たに通常型MVSとナイフを抜いて身構える。

 

 半瞬、周囲に立ち込めた爆煙は白銀の騎士が──長槍を回して──起こした風によって霧散する。

 

 正面から挑んでも勝ち目がない事は誰の目にも明らかだ。

 けれど小細工が通用する相手とも思えない。

 ならばやはり正面から挑み、急所に一撃を叩き込むしか勝つ方法はない。

 幸い相手の武器は、あの巨大すぎる長槍。一撃の威力は計り知れないが、躱せば確実に隙が生まれる事は実証済みだ。

 その隙にブレイズ・ルミナスさえ突破できれば、勝機はある。

 もちろんそれは敵機が射撃武装を搭載していないと仮定した場合だが……。

 

「……やるしかないか」

 

 ノネットは呟き、敵機を睨み付けると、再び操縦桿を握る手に力を込め、フットペダルを踏み込んだ。

 

 彼女の駆るイゾルテが白銀の騎士へと迫る。

 対する白銀の騎士は迎え撃つように長槍を横一線に薙ぎ払う。

 イゾルテは跳躍し、長槍を躱すと同時に腰部のスラッシュハーケンを射出する。

 だがハーケンは展開されたブレイズ・ルミナスによって、当然のように弾かれた。

 

 それを見たノネットは満足げに笑みを浮かべ、手にしたナイフを投げ放つ。

 

 結果は変わらない。投擲されたナイフも、やはりブレイズ・ルミナスに受け止められる、または弾かれる────はずだった。

 

 イゾルテが投じたナイフは予想に反し、ブレイズ・ルミナスへと突き刺さり、完全に刃を埋める。

 そしてナイフは刃を輝かせ、閃光と共に爆発。

 その瞬間、爆発の影響からか、ブレイズ・ルミナスが消失した。

 

 ブレイズ・ルミナス、または輻射障壁と呼ばれる電磁シールド搭載機の増加に伴い、ナイトオブラウンズ専属の研究開発機関キャメロットが開発を進めていた対シールド兵器。一時的にシールドの形成を妨害する特殊粒子が仕込まれた刃。

 

 元ナイトオブワン=ビスマルク・ヴァルトシュタイン等、ナイトオブラウンズメンバーが悪逆皇帝ルルーシュに対して起こした反乱と、その敗北による混乱を機に試作品がノネットの下に流れてきていた。

 あの時点で生存が確認され、なおかつ機体が無事だったのはラウンズ内では彼女一人。彼女の手に渡るのは必然だと言える。

 ただ、ゼロレクイエムを経た現在、本来なら使用機会が訪れることの無かった代物である事は言うまでもない。

 

 ブレイズ・ルミナスの消失を確認し、イゾルテは上空から白銀の騎士へと向け、MVSを振り下ろす。

 一方その時、既に白銀の騎士も次の行動に移していた。イゾルテが上空から襲撃してくる事を予期していたのか、手にした長槍を勢い良く振り上げている。

 振り上げられた長槍の刃がイゾルテを襲う。

しかし、対シールド兵器の爆発の影響を受け、長槍の軌道は僅かにずれていた。

 刃がイゾルテの胸部装甲を切断する。けれど斬撃は浅く、大破には至らない。

 

『もらったあぁ!』

 

 ノネットは勝利を確信する。今なら無防備な敵機にMVSを叩き込み、致命傷を負わせることが出来ると……。

 だが次の瞬間────

 

『愚かな』

 

 白銀の騎士のパイロットが初めて言葉を発する。

 まるでノネットを見下し、侮蔑し、嘲笑うかのような声だった。

 

 直後、イゾルテを衝撃が襲う。

 

『……っ、増援か!?』

 

 機体ダメージを知らせる警告メッセージがディスプレイに表示され、レーダー画面に無数の影が映り込む。

 予期せぬ上空からの攻撃を受けたノネットは敵増援の出現だと考えた。

 けれど彼女の予測を現実は否定する。

 

 上空を捉えた映像に敵増援の姿はなかった。

 そこに映し出されていたのは、白銀の騎士が手にしていたはずの巨大な長槍。

 いや、もはやそれを長槍とは呼べなかった。

 長槍=刃の塊から分離した数多の刃。

 半瞬、それがイゾルテへと降り注ぎ、頭部を、肩部を、腕部を、腹部を、脚部を貫き、その機体を大地へ磔にする。

 

「がっ……。くそ……動け、動け!」

 偶然か、それとも必然か、辛うじて損傷を免れたコクピットの中でノネットは声を荒げる。ただその望みは物理的に不可能な願いだった。

 

 白銀の騎士は沈黙するイゾルテの下へゆっくりと近付くと、イゾルテを磔にする刃の一本=剣を引き抜き、剣先をその胸部に突き付ける。

 もし白銀の騎士が少しでも力を込めれば、剣は容易くイゾルテの胸部装甲を、そしてコクピットをも貫き、ノネットの生命を奪う事が可能だった。

 

「ここまで……か……。すまない……みんな……」

 

 相手に生殺与奪権を握られ、ノネットは抵抗を諦め、死を覚悟した。

 敗北=死である事実は、疾うの昔に受け入れている。

 自らの力のなさが招いた敗北。

 相手との戦力差。

 自身の死に関しては最早言うべき事はない。

 けれど、死した部下の想いに応えられなかった事が、彼等の死を犬死にさせてしまった事が後悔の念を抱かせた。

 もし死後の世界が本当に存在するのなら、詫びを入れなければならないとノネットは考える。

 

 しかし敗者に訪れるべきその瞬間は訪れなかった。

 白銀の騎士は剣を退き、踵を返し、イゾルテに背を向ける。

 白銀の騎士の瞳には、既にイゾルテの姿は映っていない。

 その視線が捉えていたのは、施設内に残る多くの目撃者達。

 故に白銀の騎士は目撃者を殲滅するために翼を羽ばたかせた。

 

『っ、止めろ、止めてくれ!』

 

 ノネットは白銀の騎士の思惑に気付き、制止の声を上げる。懇願の声と言ってもいい。

 だが、その声は届くことなく、戦う術を失った今の彼女にはどうする事も出来なかった。

 聞こえてくる銃声と爆発音。

 そして悲鳴。

 

 繰り広げられるは、圧倒的強者による容赦のない蹂躙。

 

「ヤメロオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!」

 

 コンソールに拳を叩き付けたノネットの叫びが、叶わぬ願いがコクピット内に響いた。

 

 

 

 この世に漏れ出した白き闇は、黒き英雄が統べる世界を侵蝕する。

 

 

 

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