コードギアス オルタネイティヴ   作:電源式

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第1幕 【始まり の その後】

 

 

 全世界へ配信されたゼロの声明と蓬萊島壊滅の映像を受け、合衆国日本首都=東京より直ぐさま離陸した黒の騎士団日本支部所有の高速輸送機は、本拠地の蓬萊島へ向けて飛行する。

 第一便となった輸送機の格納庫には先行救助部隊──災害派遣を目的とした装備が施されたKMF=暁二個小隊。そして黒の騎士団の力の象徴とも呼べる特別なKMF、紅き鬼神=紅蓮聖天八極式の姿があった。

 もちろん紅蓮聖天八極式のコックピットには、黒の騎士団のエースパイロットとして結成時から活躍する紅月カレンが騎乗している。

 

 類い稀なる操縦技術を保有し、紅蓮弐式及び可翔式、聖天八極式を操り、神聖ブリタニア帝国との戦闘で初勝利を飾ったナリタ攻防戦以降、ブラックリベリオン、第二次東京決戦、ダモクレス戦役と数々の戦いでその能力を発揮。

 かつて神聖ブリタニア帝国が誇る最強の騎士と謳われたナイトオブラウンズ、さらには悪逆皇帝=ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに忠誠を誓った裏切りの騎士ナイトオブゼロ=枢木スザクとも対等以上に渡り合った過去を持つ。

 一部団員の間では、彼女は極東のジャンヌダルクと呼ばれ、その信奉者(ファン)も多いと聞く。

 

 ゼロレクイエムの後、一度は黒の騎士団を離れ、アッシュフォード学園に復学し学生生活を送る。

 けれど卒業後、世界情勢安定の想いを胸に再び黒の騎士団に復帰。

 ゼロ直属の第零特務隊隊長として部隊を指揮する一方、自らも前線に立ち、不当な武力行使に対する抑止力の一端を担う。

 

 しかし今現在、彼女の表情からは武勇に謳われる力強さは消えていた。

 否応なく耳に届く部下達の会話。

 

 本当に救世の英雄ゼロが自分達を見限り、攻撃行動を取ったのか?

 そもそもは今回の襲撃は本当に本物のゼロによるものなのか?

 彼の名を、その姿を騙ったテロリストという可能性は?

 

 黒の騎士団』に所属する多くの者にとって、ゼロは憧れと尊敬を抱く正義の象徴であり、その体現者であったはず。

 彼と共に正義を実現する為に、また彼が掲げる世界平和を目指し、黒の騎士団に入団した者も多い。

 そんな彼が自分達に対して、突如として断罪を下した。

 まるで悪を滅ぼすように……。

 自分の目で見た映像でさえ信じられず、広がる困惑と不安を押し殺すことが出来ない。

 

 今回のゼロの離叛、言ってしまえば黒の騎士団に対する裏切りは、彼の直属であるカレンにとっても寝耳に水の出来事だった。

 彼女もまた部下達と同様に困惑し、その胸に疑問を抱く。

 ただ彼女の場合、その意味が彼等とは大きく違ってくる。

カレンの疑問。

 そう、それは────

 

 今回の襲撃は本当に『今』のゼロが起こした行動なのか?

 

 というものだった。

 黒の騎士団創設時からの初期メンバーの一人であり、彼が初めて公の場に姿を見せた枢木スザク強奪事件よりも以前から、間近でその姿を見て、その言葉を聞き、行動を共にしてきた。

 そしてゼロレクイエムの真実を知るからこそ、彼女は気付けたのかも知れない。

 仮に彼の考えや言葉が正しかったとしても、『今』のゼロがあんな強行手段を取るはずがない、と。

 だとすれば────

 

「……ッ」

 

 脳裏を過ぎる、一人の少年の横顔。

 過去に押し込めた想い──後悔と淡い恋心──が胸を締め付ける。

 それと同時にある推論が導き出された。

 その可能性を思考は否定する。

 有り得ないと頭では理解している。

 だがそれでも、感情はその可能性を強く訴えた。

 

『まもなく蓬萊島上空に到達。後部ハッチを開放します』

 

 聞こえてくるアナウンスにカレンはハッと我に返る。

 今は答えのでない思考を巡らせている場合じゃない。目の前の事だけを考えなければならない。

 彼女は自らの考えを振り払うかのように首を数度横に振り、思考を最適化させ、操縦桿を握る手に力を込めた。

 漆黒の騎士を名乗るKMF部隊は、既に蓬莱島を中心とする索敵範囲から姿を消している。故に戦闘の可能性は低い。

 もちろん油断は出来ないが、今できること、しなければならない優先事項は生存者の救助。可能な限り一人でも多くの生命を救うこと。

 起きた事実は覆せない。だけど被害を最小限に止めることは現時点でも可能だった。

 

「これより降下する! 不安を抱くな、混乱するなとは言わないわ。だけど今は与えられた使命──人命救助の事だけを考えて!」

 

 自らに言い聞かせるようにカレンは部下に命令を下す。

 

『了解!!』

 

 現状に不安を抱く部下を鼓舞するカレンの言葉に、彼等もまた自分が今求められている事が何なのかを再認識し、思考を切り替えるように力強く応えた。

 彼女はその声を聞き、開いたハッチから紅蓮を空に投げ、赤いエナジーウイングを展開させる。

 部下達もその後を追い、騎乗する暁の飛翔滑走翼を起動させ、輸送機を飛び立った。

 

 すぐに外部カメラが捉えた蓬萊島の惨状。

 黒の騎士団を離叛したゼロの声明と共に配信された映像を目にしていたとは言え、目の前に広がる光景は想像を大きく上回るものであり、カレンは言葉を失った。

 拡散レーザーによって切り取られ、壊滅した街並み。

 KMFや浮遊航空艦の動力部に使用されているサクラダイト、及び兵器庫に保管してあった弾薬に引火したのか、複数箇所から火の手が上がっていた。

 けれどそれ以上に戦慄したのは、その破壊箇所の正確さだ。

 管制施設や司令施設といった中枢機関、迎撃兵器を初めとする防衛システム、KMFや浮遊航空艦の格納庫及び兵器庫を迷いなく的確に破壊している。一方、居住施設や商業施設などに対する直接的な攻撃の痕跡は皆無だった。

 

 さらにライフラインの基礎となり、最も重要となる電力系統。発電設備や主要送電網はもちろん、幹部でも全てを把握している者はいない変電施設や予備電源に至るまで、徹底的に破壊し、拠点としての機能を尽く潰してる。

 まさに最小限の被害で最大限の効果を上げたと言っても過言ではないだろう。

 その事実が、今回の破壊行動は映像の通り、黒の騎士団に関連する全情報を知り得た立場である者=ゼロによって齎されたものだと肯定していた。

 

 カレンは確かめなくてはならないという想いに駆られ、破壊された街並みを眼下に、島の中央に聳えていたはずの中枢施設を目指す。

 今日この施設の会議室で、非公式に協議が行われる事は彼女も聞かされていた。

 ただ参加国が超合集国最高評議会において高い発言権と影響力持つが故に、現状の世界情勢を考慮した結果──テロ行為などに対する代表者の身の安全を配慮した上で──開催は極秘扱いとなる。

もちろん彼女も警備に当たる事を考えたが、黒の騎士団の力の象徴である紅蓮とそのパイロットである彼女の動向は否応なく人目を惹き、様々な憶測を生む事から日本での待機命令を了承した。

 

しかし、もしも自分が警備に当たっていたなら現状は変わっていたのではないか、という思いをカレンは抱いてしまう。

 それは決して自惚れでも、思い上がりでもなく事実だった。

 彼女が駆る紅蓮聖天八極式は、現状の世界では間違いなく最強に位置している。例え襲撃を止められなくとも、被害を軽減することは可能だったはず。

 

 けれどそれは残念ながら仮定の話であり、たらればなどという考えは戦場では通用しない。

 何故こんなにも自分が焦りを覚えているのか、その理由を彼女は自覚していた。

 今回の協議にはゼロと共に守り抜く事を誓った少女=『彼』の妹が参加している。

 それが焦燥感の最大の要因だった。

 

 紅蓮が目的地上空に到着する。

 だが、そこに目指した建造物はない。モニターに映し出されているのは、崩れ落ちた瓦礫だけ。

 中枢機関が破壊されている事実は理解していた。

 だからこそ彼女は驚くことも取り乱すこともなく、すぐに行動を開始する。

 

「お願い、……生きていて」 

 

 彼女の切なる願いが天に届いたのか、起動したファクトスフィアを始めとする各種センサーが瓦礫の下に生体反応を捉えた。

カレンはすぐさま紅蓮を降下させ、慎重に瓦礫の塊を取り除いていく。

そして遂に瓦礫の下から現われた人影がモニターに映し出された。

 鋭角的な黒い仮面に同色のマント、騎士服を思わせる貴族的なデザインの濃い紫の衣装。

それは紛れもなく黒の騎士団CEOにして救世の英雄=ゼロの姿。

 

「……ッ」

 

 カレンは息を呑んだ。

 

 世界に黒の騎士団の粛清を高々と宣言したゼロと、瓦礫の下に横たわっていたゼロ。

 二人のゼロ。

 目の前の事実が振り払ったはずの思考を再燃させようとした時、彼女はゼロの胸に抱かれた少女の存在に気付く。

 長いアッシュブロンドの髪、まるで人形のように可憐で小柄な少女。いや、年齢的には女性と呼ぶべきか。

 神聖ブリタニア帝国第百代皇帝=ナナリー・ヴィ・ブリタニア。

 その挙動が超合集国に、延いてはこの世界に多大な影響を与える大国の頂点に君臨する存在だが、カレンにとっては『彼』の妹である事の方が重要だった。

 ゼロに守られた為、目立った外傷はなく、呼吸も正常に行われている。反応が乏しいのは気を失っている為だろう。生存の確認は出来た。それでも脳や内臓へのダメージを考慮すれば、まだ安堵は出来ない。

 ただそれでも怪我の程度で言えば、ナナリーよりも彼女を庇い守ったゼロの方が深刻だと思われる。

 

 二人に早く治療を受けさせなければと焦るが、紅蓮が同時に二人を安全に運ぶ事は不可能に近い。今に限っては紅蓮を紅蓮たらしめる──輻射波動機構を内蔵し、敵機の装甲を裂く鋭利な爪を持つ──戦闘にのみ特化した右腕部の存在が酷くもどかしい。

 

 取捨選択を考えた時、迷う事は許されない。

 いや、最初から選択の余地は残されていなかった。

 ゼロを助ける。

 もちろん怪我の程度を考えれば当然の事だが、それ以上に今はゼロの存在を隠さなければならない。もしゼロが二人存在している事実が知れ渡れば、現場だけでなく、黒の騎士団全体の混乱が極限に達する事は必至。

 

 そもそもこの場では治療する事もできない。治療の際、当然仮面を外さなければならないが、そうなれば別の問題が起きてしまう。

 仮面の下の素顔を知る者、また気付いている者は黒の騎士団幹部内でも極僅か。

 その正体を絶対に隠し通さなければならないだけの理由が存在する。故に治療に当たるスタッフも信頼できる人材である必要があった。

 しかし、今は治療を優先させるべきだろう。

 人命の救助、その為に今自分はこの場に居る。

 紅蓮は左手にゼロを載せると、再びエナジーウイングを起動させ舞い上がる。

 

「待ってて、ナナリー。すぐ戻ってくるから」

 

 カレンはもう一度ナナリーを見て、通信回線を開いた。

 

「紅蓮より各機、生存者を発見! まだ瓦礫の下に生存者の存在している可能性が高い。救助部隊を回せ、最優先だ!!」

 

『了解!!』

 

「私は重傷者の搬送のため、この場を一時離れる。出来るだけ早く戻るつもりだけど、その間現場の指揮は朝倉、貴方に任せわ。頼んだわよ」

 

『はっ、了解しました! 弐番機と参番機は俺についてこい!!』

 

 カレンは現場の指揮を部下に任せ、紅蓮を飛び立たせた。

 蓬萊島のライフラインが機能しない以上、治療を行う為に設備の整った施設に搬送する必要がある。ここからだと合衆国中華か、それともやはり合衆国日本へ戻るべきか? どちらにしろ輸送機を使った方が────

 

『はぁ~い、カレンちゃん。どう、人命救助は進んでる?』

 

「ッ、ラクシャータさん!?」

 

 カレンの思考に割り込むように、突如ディスプレイに通信回線用のサブウインドウが開かれ、どこか緊張感のない白衣を身に着けた女性の姿が映し出される。

 その姿にカレンは困惑した。

彼女の名はラクシャータ・チャウラー。黒の騎士団が保有するKMFの開発・整備を統括する科学長官であった。

 

『もうすぐ第二埠頭に迦楼羅が帰港する予定だから、負傷者の収容準備をお願いねぇ』

 

 ソファに横になり、煙管を吹かしながらラクシャータは告げた。

 斑鳩級浮遊航空艦迦楼羅(カルラ)。ダモクレス戦役で大破した斑鳩に変わる黒の騎士団の旗艦であり、KMFの高速展開を可能とする戦闘母艦。当然その内部には高度な医療機器が揃い、並の医療施設を上回る能力を持つ。

 黒の騎士団東南アジア支部との軍事演習に参加していた迦楼羅、またデータ収集を名目に随伴していたラクシャータは、今回の事件=ゼロの離叛と襲撃による被害を免れていた。

 

「ラクシャータさん、よく聞いて下さい」

 

 これ以上ないタイミングだが、到着を待ってはいられない。

 カレンは真っ直ぐディスプレイ内のラクシャータを見据える。

 

『なぁに? どうしたの、そんな怖い顔して』

 

「ゼロが負傷しました」

 

『…………』

 

 端的に事実を告げたカレンの言葉に、ラクシャータの顔付きが変わった。

 一瞬の戸惑いの後、その視線は鋭さを増す。

 

『急いでいらっしゃい、治療室の準備はしておくから』

 

 そう言ってラクシャータは立ち上がる。

 聡明な彼女のことだ、その一言で全てを理解したのだろう。

 同時に自分が要求されていること、成すべきことを理解している。

 

「はい!」

 

 カレンは応え、紅蓮を帰港中の迦楼羅へと向ける。

 直接本人に訪ねた事はないが、彼女も『今』のゼロの素性に気付いているであろう一人だ。

 それに彼女は医療サイバネティクス技術の第一人者であり、当然医学にも精通している。

 そう言った意味でも現状彼女の存在は心強かった。

 

 

 

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