深い、深い闇が支配していた。
その闇に浮かび上がったのは、辺り一面を埋め尽くす無数のゼロの姿。
そしてそれに付随する情報群。
英雄を騙る者のキセキ。
『シンジュク事変』
それが全ての始まりだった。
事の発端はテロリスト=扇グループによるブリタニア軍の機密研究施設に対する襲撃。
彼等は当初の目的通り、施設からあるモノを強奪する。
化学兵器=毒ガスが充填されたカプセル、そう彼等は信じて疑わなかった。
だがそれは毒ガス以上の危険物。
まさに人の手に余るパンドラの箱だった。
対してエリア11総督にして第三皇子=クロヴィス・ラ・ブリタニアを司令官とするブリタニア軍は、カプセルの奪還とテロリストの殲滅を目的とした、シンジュクゲットー壊滅作戦を決行。
彼我の戦力差は誰の目にも明らかであり、予想された結末は時間の問題だと思われていた。
しかし実際に蓋を開けてみれば事態は一変する。
散発的な抵抗しか出来なかったテロリストが、突如として統率の取れた群と化し、ブリタニア軍へと牙を剥く。
結果、圧倒的優位に立っていたはずのブリタニア軍は──後手に回る対応しかできなかった事もあり──壊滅的な損害を受けることとなった。
窮地に立たされたブリタニア側は特派の試作嚮導兵器=ランスロットを投入。ランスロットの戦果は著しく、辛うじて敗北を免れるが作戦続行は不可能であり、停戦を余儀なくされてしまう。
けれどそれで事は終わらなかった。
停戦直後、クロヴィス・ラ・ブリタニアが何者かに暗殺され、遺体となって発見される。
後の事実と符合させた結果、テロリストを指揮していた者。
そして暗殺犯はゼロであるとされ、非公式ながらこのシンジュク事変こそが、彼の最初の介入行動として語られる事となる。
『枢木スザク強奪事件』
ゼロが初めて公の場に姿を現し、その存在を公式の記録として残すことになる出来事。
クロヴィス暗殺の容疑者として拘束された名誉ブリタニア人=枢木スザクの護送パレード。
その行く手に立ち塞がった正体不明の仮面の人物が、自らをゼロと名乗り、暗殺の真犯人だと堂々と宣言する。
混乱する現場を悠然と支配した後、毒ガスに偽装したスモークを利用して包囲を突破し、枢木スザクの救出を成し遂げ、劇場型犯罪者として認定される。
余談だが、現場を指揮していた代理執政官=ジェレミア・ゴットバルトのオレンジ疑惑もこの事件を発端としている。
『サイタマゲットー壊滅作戦』
クロヴィス亡き後、新総督として派遣された第二皇女=コーネリア・リ・ブリタニア発案の軍事行動。
敢えてシンジュク事変と同じ状況を作り出すことで、ゼロを誘い出す事を目的としていた。
その目論見は成功し、ゼロは戦場に姿を現すが、それ以上の行動はなく、プライドが高く自己保身に長けた人物という推測を裏付ける結果となった。
『河口湖畔ホテルジャック事件』
当時の国内最大武装抵抗組織=日本解放戦線のメンバー、草壁(旧日本軍中佐)を中心としたグループによって引き起こされた、愚かとしか言い様のない破滅的な示威行為。
国際的に注目を集めるサクラダイト生産国会議の会場となったコンベンションセンターホテルを襲撃。民間人を含む多数の人質を取り、ホテル内部に籠城する。
彼等の要求は同胞──収容された政治犯──の釈放と、公式文書での日本侵略に対するブリタニアの謝罪。
もちろんその要求がブリタニア側に受け入れられるはずもなく、現場は包囲展開したブリタニア軍との間で膠着状態に陥る。
業を煮やした草壁派は、見せしめとして人質の処刑という蛮行に及ぶ。
まるでその瞬間を待っていたかのように仮面の男=ゼロは舞台へ上がる。
演目は
ゼロを陽動、そして特派所属のランスロットを囮に使い、ブリタニア軍は人質救出作戦を実行する。
作戦は成功。ライフライントンネルに設置された敵移動砲台、超電磁式榴散弾重砲=雷光を突破したランスロットは、作戦通りホテル基礎ブロックを破壊。
ホテルが水没を始め、同時に別動部隊が人質の救出と、テロリストの掃射に向かう……はずだった。
しかし水没を始めたホテルは、人質が居たであろう中層区画から爆煙に包まれ、無残にも崩壊する。
現場に流れる悲愴な空気、そして絶望。
だがその絶望を払うように、ゼロは──その惨状を自ら創り出しながら──鮮やかな救出劇を演出し、人質の無事を伝え、またそれと同時に己の理念を国内外へと発信する。
“私は戦いを否定しない。
しかし、強い者が弱い者を一方的に殺すことは断じて許さない。
撃って良いのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ!”
“力ある者よ、我を恐れよ!
力なき者よ、我を求めよ!
世界は……我々、『黒の騎士団』が裁く!!”
その理念を体現する為に作り出された武装組織『黒の騎士団』。
武器を持たない全ての者の味方。
分かりやすく表現するなら、彼等は正義の味方だった。
民間人を巻き込んだテロ。
横暴な軍隊。
汚職政治家。
営利主義の企業。
人身売買組織、違法薬物の密輸入及び供給組織、売春斡旋業者、悪徳金融業者といった犯罪者。
表の法では裁くことの難しい罪、そして咎人nに断罪を下す。
黒の騎士団の行為は民衆──少なくともブリタニアの圧政に反意を持ちながら、テロという手段を執ることに賛同できなかった日本人──の心を惹き付け、瞬く間に支持を拡げていった。
熱狂と賞賛の声が黒の騎士団、延いてはゼロへと向けられる。
しかし見方を変えれば、その実体はゼロの私兵と言って良いだろう。
彼等は彼の命を受け、彼と共に力を振るう。
力を否定しながら、それを上回る暴力によって強者を裁く。
まるで人を裁く権利が自分達にはあると言うかのように。
正義。断罪。弱者の味方。民衆の希望。英雄。
耳障りのいい言葉。つまりは綺麗事。嘘のヴェールに包まれた偽りの正義。
傲慢な行為によって独善を押し付ける矛盾した存在。
そう、所詮彼等はゼロを柱とする、力に酔った狂信者に過ぎなかった。
一方、黒の騎士団の動きに対して、ブリタニア側はすぐに干渉することなく、逆に情勢安定のために利用していた節がある。
だが程なくしてそれが過ちだと気付かされる、多大な犠牲を払って……。
『ナリタ攻防戦』
日本解放戦線の本拠地とされたナリタ連山に対するブリタニア軍の包囲殲滅作戦。
投入されKMFは優に百騎を超え、それがブリタニアの本気と作戦規模を物語っている。
同時にそれがブリタニアと黒の騎士団の初戦だった。
包囲内部に潜伏していた黒の騎士団は、初の純国産KMF=紅蓮弐式の輻射波動を利用し、地下水脈を水蒸気爆発。大規模な斜面崩落を引き起こし、流れ出た土石流は展開していたブリタニア軍に大打撃を与え、指揮系統の分断に成功する。
その混乱に乗じて山頂より奇襲を仕掛け、ブリタニアの魔女と畏れられるコーネリア率いるブリタニア軍を各個撃破。壊滅寸前にまで追い込み、孤立した彼女の身柄確保まで後一歩まで迫った。
勝利を確信した黒の騎士団だったが、そこで予期せぬイレギュラーが出現する。
もはや彼等の鬼門と化したランスロットの介入により、コーネリア確保を断念。
唯一の対抗手段であった紅蓮弐式もダメージを負い、一転して戦略的撤退の決断を余儀なくされた。
初戦の結果は両者の痛み分けではあったが、戦力差と損害を比較し、また日本解放戦線リーダー=片瀬(旧日本軍少将)の逃走という事実から考えても、ブリタニア軍の敗北は明らかだった。
この一戦以降、ブリタニア軍は黒の騎士団を駒ではなく、速やかに排除すべき明確な敵として認定する。
『日本解放戦線タンカー爆破事件』
サクラダイトを手土産に国外逃亡を図った片瀬以下日本解放戦線の残党捕縛作戦時に起きた出来事。
海兵隊を投入したブリタニア軍に対して、もはや日本解放戦線に対抗する力は残されていなかった。
いや、唯一彼等に残されていたのが、タンカーに搭載した流体サクラダイトだけだ。
流体化したサクラダイトは極めて引火性が高く、高性能爆薬と同等の性質を持つ。
つまり最後の抵抗手段は、船の周囲の海兵隊を巻き添えにした自決だった。
発生した爆風が湾内を蹂躙。その衝撃波は陸上に布陣していたコーネリア率いる本隊へと襲い掛かる。
そしてそれは衝撃波だけではなかった。
まるでその瞬間を待ちかねていたかのような、少数精鋭による黒の騎士団の奇襲。
日本解放戦線が黒の騎士団に護衛を依頼していたという不確定情報があるが、そのタイミングを考える限り、黒の騎士団が日本解放戦線を捨て駒に使ったことは明白と言える。
当初自決と考えられたサクラダイトの爆発も、黒の騎士団の工作によるものと推測する声もあるが真偽は不明。
ただ結果的に彼等の奇襲は失敗に終わる。
またしても黒の騎士団の前に立ち塞がったのは白き騎士=ランスロットであり、再びコーネリアの窮地を救う活躍を見せた。
『チョウフ収容所襲撃事件』
ブリタニア軍によって拘束された日本解放戦線最重要人物=藤堂鏡志朗(旧日本軍中佐)。
極東事変における本土決戦、KMFを投入したブリタニア軍に日本軍が唯一勝利し、厳島の奇跡と呼ばれる戦いを指揮した事から奇跡の藤堂と呼ばれる男。
ゼロ出現以前、彼はまさに日本に残された唯一の希望であり、反攻の象徴であった。
ゼロが台頭した当時でも、その生死が大きな影響力を持っていたことは間違いない。
そんな藤堂に忠誠を誓い、行動を共にしていた四人の部下=通称四聖剣は、彼の救出の為に黒の騎士団に助力を請う。
ゼロはそれを承諾し、新型量産機=月下を彼等に与え、自らも藤堂奪還に動いた。
ゼロという有能な指揮官に、四聖剣という優秀な兵士が加わり、作戦は容易く完了する。
しかし──否やはりというべきか──藤堂の奪還を果たした黒の騎士団の前に白き騎士は姿を現した。
黒の騎士団率いるゼロとランスロットが相対する因果は、もはや奇跡的な偶然ではなく、運命的な必然と言って良いだろう。
ランスロットの動きを完全に読んだゼロの指示により、藤堂及び四聖剣はランスロットを追い詰めるが、増援の到来を察知したゼロの命によって黒の騎士団は撤退する。
なお、この戦いおいてランスロットのパイロットが名誉ブリタニア人──しかもクロヴィス暗殺の容疑者であった──枢木スザクであることが露見。
様々な物議を醸す事となるが、第三皇女=ユーフェミア・リ・ブリタニアが自身の専任騎士に選出する事によってそれを封殺している。
以後、黒の騎士団の天敵=枢木スザクはユーフェミアの騎士としての道を歩む事となる。
『式根島基地襲撃事件』
元日本人──しかも日本最後の首相の息子──である枢木スザクが皇女の騎士という立場を手に入れ、恭順派の象徴と成り得る事態は、ブリタニアの政策を否定する黒の騎士団にとって大きな痛手だった。
その対応策として黒の騎士団が取った作戦行動の一端。
要人──第二皇子にして帝国宰相=シュナイゼル・エル・ブリタニア──の出迎えのため、式根島へと出向いたユーフェミアと、彼女の警護に当たる枢木スザク。
それを好機と見たゼロは、式根島における枢木スザク及びランスロットの捕獲作戦を実行する。
式根島基地司令部を襲撃し、作戦の障害となる基地所属のKMFを破壊。
同時に枢木スザク及びランスロットをゼロ自らが囮となり砂地へ誘い込み、予め設置していたゲフィオンディスターバーを起動。
ユグドラシルドライブ内の伝達粒子を停止させ、最大のイレギュラーであったランスロットを沈黙させた。
程なくしてゼロと枢木スザクの対話が始まる。
彼は暗殺による排除ではなく、言葉による懐柔を選んだ。人心掌握に長けるゼロの言葉という名の毒が、枢木スザクの思考を侵食していく。
だがその時、ランスロットを沈黙させてなお、彼等の前にイレギュラーが立ちはだかる。
基地からの地対地ミサイルの発射。
そして世界初の浮遊航空艦=アヴァロンの出現。
さらにアヴァロンに格納された世界初のハドロン砲搭載型KMF=ガウェインから放たれるハドロン砲。
絶体絶命の窮地に立たされたゼロだったが、皮肉なことにハドロン砲は未完成であり、また枢木スザクの不可解な行動に伴い窮地を脱するのだが、その後の彼の足取りは途切れ、忽然と姿を消した。
いや、彼だけではない。
ゼロをランスロットのコクピット内に拘束していた枢木スザク。
現場に居た黒の騎士団零番隊隊長=紅月カレン。
現場に向かっていたはずのユーフェミア。
彼等もまたゼロと同時に消息不明となっていた。
その後の捜索及び調査報告でも、ハドロン砲の衝撃で海に流された可能性が記載されてはいたが、詳細は不明のままとなっており、一部では非科学的な推論が囁かれていた。
『ガウェイン強奪事件』
式根島で消息不明となった四名が流れ着いたとされる無人島=神根島。
その島に存在していた 古代文明のものと思われる 遺跡の調査に、ガウェインに搭載された
何らかの要因で遺跡上部が崩落し、シュナイゼル率いる調査隊の前に行方不明となっていた件の四人が現れる。
ブリタニア軍はゼロ捕縛に向かうが、シュナイゼル及びユーフェミアの身の安全を第一とした為、取り逃がし、あまつさえガウェインを奪われる結果となってしまう。
以降、ガウェインはゼロの騎乗機として黒の騎士団の重要な戦力となり、完成されたハドロン砲の照準はブリタニアへと向けられることとなった。
『キュウシュウ戦役』
中華連邦へ亡命していた澤崎厚(旧日本第二次枢木政権閣僚)は、ゼロの台頭及び黒の騎士団の活動に伴う情勢不安を好機とし、人道的支援を大義名分とする彼の国の援助を受けキュウシュウへ侵攻。
天候を味方に付け、キュウシュウ最大の要害であったフクオカ基地を占拠。
キュウシュウブロックを独立主権国家=日本の再建を宣言する。
当然それをブリタニア側が容認できるはずもなく、コーネリアは軍による鎮圧を即座に決定。
自ら軍を率いてキュウシュウへと赴くが、天候の悪化は著しく、予測以上の難局を強いられる事となる。
そんなブリタニア軍の先駆けとなったのが、試作フロートユニットを搭載したランスロットであった。
単騎による航空戦力の突破とフクオカ基地司令部への奇襲、つまりは陽動と攪乱。
アヴァロンより発艦したランスロットは、目論見通り航空戦力を寄せ付けず、フクオカ基地への到達に成功する。
しかし、問題はパイロットにあった。
この事件の首謀者とされる澤崎厚は権謀渦巻く政界に長く身を置いていた。
故に彼にとっては如何に優れたパイロットであったとしても、枢木スザクは子供に過ぎなかった。
枢木スザクは澤崎の言葉に僅かながらでも気を取られてしまう。
それは戦場において致命的な隙を生み、唯一の遠距離攻撃武装である可変弾薬反発衝撃砲=ヴァリス、更にはフロートユニットをも失う結果を呼ぶ。
相手の地上主力兵器は砲撃性能に特化した中華連邦製KMF=鋼髏。
機体性能ではランスロットに遠く及ばないものの──航空戦力を含めた圧倒的な物量による──包囲陣形から放たれた砲弾の嵐の前に、ランスロットは次第に追い詰められていった。
さらに追い打ちを掛けるかのように──フロートユニットによる飛行に次ぐ戦闘に伴い──無情にも計器はエネルギー残量の低下を告げる。
無敗の騎士であったランスロットに、敗北の瞬間は刻一刻と近付いていた。
だが死を覚悟した枢木スザクの前に降り注いだ暗き光は、ランスロットの周囲を取り囲んでいた鋼髏を呑み込み、その悉くを破壊する。
舞い下りた黒色のKMFは、ゼロによって奪取された実験機=ガウェイン。
単騎で戦場に現れたゼロは、エナジーフィラーを手土産に、枢木スザクに対して共闘を申し出る。
この戦いにおいて彼等の目的はある意味では同じと言える。
澤崎厚及び彼が建国を宣言した日本、またそれを支援する中華連邦兵力の排除。
後ろ盾に中華連邦が存在している以上、例え今回の軍事行動によって日本(自称)の独立が果たされたとしても、中華連邦の傀儡となる事は明白。
中華連邦にとってエリア11は喉元に突き付けられた刃も同じであり、サクラダイトの分配にしても苦汁を嘗めてきたのだから。
名ばかりの日本。
日本独立の期待を背負う黒の騎士団が、これを是とする事はあり得ない。
一方、生殺与奪権を握られていると言っても過言ではない枢木スザクに、ゼロの申し出を断るという選択肢は存在しなかった。
故に、ここに幾度の刃を交えた仇敵が手を結ぶ。
極限まで高められた機動性能を誇るランスロット。
当時のKMF技術では明らかなオーバーキル兵器であったハドロン重砲、更には電子戦にも対応したガウェイン。
最新鋭KMFの共闘の前に、フクオカ基地の防衛網は崩壊。
脱出を図った澤崎厚及び中華連邦遼東軍管区曹将軍を確保し、戦闘終結へと導いた。
『ブラックリベリオン』
ユーフェミアが提唱した特区日本構想。
ブリタニアが認めた箱庭の中では、イレブンと呼ばれ蔑まれてきた日本人が、権利と誇りを取り戻すことを許される。
彼女はこの特区日本を足掛かりに不平等な現状を打開し、両国が手を取り合える未来を夢見た。
だが果たしてそれが夢物語だったのかどうかは、もはや知る術はない。
特区日本構想に黒の騎士団は大きく揺れた。
参加すれば武装解除を余儀なくされ、やがて体制に取り込まれる。
参加しなければ自由と平等の敵となり、民衆の支持を得ることが出来なくなる。
どちらを選んでも黒の騎士団に未来はない。
行政特区日本開設式典当日、会場に姿を現したゼロはユーフェミアに対して二人きりでの対話を求めた。
騒然とする会場。
ユーフェミアは周囲の反対を押し切り、それを了承。二人は会場に隣接するブリタニア軍の地上母艦=G1ベース内部へと消えていった。
その内部で二人がどのような行動を取り、どのような会話がなされたのか、それを知る者はいない。
程なくして、足早に式典会場へと戻って来たユーフェミアは、待機していたブリタニア軍に日本人の虐殺命令を下し、自らもその手を血に染める。
そして、血の惨劇は幕を開けた。
ユーフェミアの命を受けたブリタニア軍の攻撃が始まり、夢と希望に満ちていた式典会場は一転して絶望と血臭、狂気に支配される。
この事態に対して会場周辺に伏せていた黒の騎士団は式典会場へと雪崩れ込み、虐殺の限りを尽くすブリタニア軍の殲滅と日本人の救出を開始。
地獄のような光景の中、ゼロはユーフェミアと対峙した。
魔女を討つ英雄、それは御伽噺のワンシーンを思わせる。
ゼロが放った銃弾を受け、倒れるユーフェミア。
直後、枢木スザクの駆るランスロットが負傷したユーフェミアを保護するが、治療の甲斐なく彼女は永遠の眠りに就く。
そのあまりの豹変ぶりに、ゼロによる催眠や洗脳によって引き起こされたとする憶測もあるが、その真相が解明される事はなく、彼女は虐殺皇女の悪名と共に歴史に名を刻むこととなった。
黒の騎士団によるブリタニア軍の掃討が完了した式典会場で、生き残った日本人の熱狂的な歓声で迎えられたゼロは、ブリタニアからの独立と新たな日本=合衆国日本の建国を高らかに宣言し、トウキョウ租界への進軍を開始する。
黒の騎士団が繰り返し流したブリタニアの虐殺映像と、ゼロの宣言によって日本人は憎悪を抱き、憤怒に叫び、そして狂乱した。
各地で暴動が発生し、今まで武器を手に取ることの無かった民衆も、溜まった負の感情を吐き出すかのように暴動に参加する。
個は反ブリタニアという意志を持つ群となり、その牙を剥く。
黒の騎士団の軍事侵攻と日本人の武装蜂起、それが後のブラックリベリオンと呼ばれる反乱の始まりだった。
『第一次東京決戦』
式典会場を立った黒の騎士団は、各地の反攻勢力を取り込みながら勢力を増し、ブリタニア側の防衛ラインを次々に突破。
ブラックリベリオンにおける主戦場=トウキョウ租界へと迫り、租界外縁部に布陣したコーネリア率いるブリタニア軍と睨み合う。
しかし膠着状態はそう長くは続かなかった。
午前零時、ゼロの策略により租界外縁部が突如として崩落。
それに巻き込まれたブリタニア軍は多大な被害を出し、前線を立て直すために政庁まで後退を余儀なくされる。
その混乱に乗じた黒の騎士団は、後退するブリタニア軍を追走しながら租界内部へと侵攻を開始。
短期決戦を目指す黒の騎士団は初手の勢いそのままに、エナジーフィラーの保管所を始めとする軍事関連施設、メディア地区、学園地区を制圧。
制圧した教育機関の一つ、私立アッシュフォード学園に臨時指令部を置く。
その後、敵最大戦力と目されたランスロットの無力化に成功。戦略を戦術で覆すイレギュラーの排除により、戦いは黒の騎士団優勢が揺るぎないものとなる。
故に勝利──黒の騎士団による政庁の陥落及びコーネリアの身柄確保──は時間の問題だと思われた。
だが想定外の出来事が重なり状況は一転し、黒の騎士団の優勢は容易く崩れ去った。
一つはブリタニア軍が極秘裏に開発を進めていた試作兵器
二つ目は浮遊航空艦=アヴァロンによる指令部強襲により、ランスロットの無力化が解かれたこと。
そして最大の理由が、総司令官=ゼロの不可解な失踪。
突如として指揮権を放棄し、戦場から姿を消したゼロ。
その理由を知らされない黒の騎士団は疑心暗鬼に陥り、副司令である扇要の負傷も相まって指揮系統は崩壊した。
指揮系統の崩壊により統率を失った黒の騎士団と、態勢を立て直したブリタニア軍。
両者の力関係が逆転するのにあまり時間を必要としなかった。
次第に劣勢に立たされた黒の騎士団は、やがて全面降伏を余儀なくされる。
それに伴い扇要と藤堂鏡志朗という二大幹部以下多数の構成員が拘束され、黒の騎士団は事実上壊滅。暴動に参加した日本人も敗走する。
日本側、ブリタニア側双方に多大な被害を出したブラックリベリオンは、疑問と謎を残しながら、日本二度目の敗北を以て幕を閉じた。
一方、ブリタニアの公式記録によれば、トウキョウ租界から逃亡したゼロは、ジークフリートの追撃によって騎乗機であるガウェインを失い。
さらにランスロットの追撃を受け、そのパイロットである枢木スザクにより身柄を確保される。
なお、その功績により枢木スザクはナイトオブラウンズの一員=ナイトオブセブンの地位を手にする事となる。
そしてブリタニアへと引き渡されたゼロは、ブラックリベリオンの発端となった式典会場の暴動はイレブン側が先に発砲した事が原因とする公式見解の下、その首謀者として処刑された事が発表された。
敗北による死亡。
所詮ブリタニアという強者の前では、救世主を謳うゼロも弱者に過ぎなかった。
何ら珍しくもない有り触れた結果。
だがそこで『英雄』の物語は終わらなかった。
そう、平和を願い捧げられてきた犠牲を嘲笑うかのように、『世界』はさらなる生贄を求めた。
英雄譚のページを進めるために……。