コードギアス オルタネイティヴ   作:電源式

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幕間 Ⅵ 【英雄 の 軌跡】後編

 

 

 『バベルタワー占拠事件』

 

 ブラックリベリオンから約1年後、黒の騎士団は復興中のトウキョウ租界に建設されたバベルタワーを襲撃し占拠する。

 投入されたKMFは僅かに数機。

 これに対し、当時の総督=カラレスは自ら軍を率いて鎮圧に向かう。

 当初は黒の騎士団残党による破滅的な示威行為の一種であり、ゼロを欠いた黒の騎士団は脅威ではないと思われていた。

 処刑が伝えられたゼロに未だ希望を抱く日本人は多く、彼の理念の象徴とも言える黒の騎士団の完全なる終焉は、未だ燻るゼロ思想を打ち砕くまたとない機会となるはずであった。

 けれどそれが間違いだと気付かされた時には既に手遅れだった。

 意図的に倒壊させられたバベルタワーは、多くのブリタニア軍KMFを内包したまま、絞った脱出ルート上に布陣していたカラレス率いる本隊をも押し潰した。

 

 これが自爆テロであったなら、黒の騎士団はその目的を十分に果たした事だろう。

 しかし、それは黒の騎士団の終焉ではなく、新たなる反逆の狼煙となる。

 

 総督の死亡に、軍が被った大被害。当然の様に混乱に陥ったブリタニア側を、更なる混乱が襲う。

 ハッキングされた情報網を介して、民衆の前に再びその姿を見せたのは、ブリタニアによって処刑され、既にこの世に存在するはずのない仮面の反逆者=ゼロであった。

 彼は声高らかに自身の復活と、かつて果たせなかった合衆国日本の建国を再び宣言する。

 そして合衆国日本最初の領土となったのが、亡命の密約が交わされていたとされる中華連邦の総領事館。その僅かにも一室だった。

 

 僅か一室の建国宣言。

 だがゼロの脅威を身を以て知るブリタニアにとって、嘲笑うことも無視することも出来るものではなかった。

 

 『黒の騎士団メンバー奪還事件』

 

 復活したゼロに対してブリタニア側が取った行動は、ブラックリベリオンの折り、国家反逆罪の罪で捕縛した幹部以下黒の騎士団メンバーの処刑宣言と投降の勧告。

 つまりは人質を囮とした身柄の確保。もはや手段を選んではいられないのか、ゼロに対する妥協のない本気の姿勢が窺い知れる。

 それはある種のゼロへの畏怖の表れとも言えるだろう。

 ただ、他国の領事館は法が定めた治外法権区である以上、武力介入は国際問題へと発展する事が確実であり、直接的な軍事行動は起こせない。

 それでも例えゼロが現れなくともブリタニア側に利のある作戦だった。

 部下を見殺しにし、奇跡を起こそうとしないゼロは所詮紛い物。民衆の支持を得られるはずがないのだから。

 

 予告された処刑執行の時刻、ゼロは──亡きカラレスに代わり──軍を指揮するギルバート・G・P・ギルフォードを始め、集まった民衆の前に姿を現した。

 決闘による決着を求めるゼロ。

 しかし、彼は騎士道を持ち合わせてはいなかった。

 彼が進むべき道は覇道に他ならない。

 

 だから告げる。

 正義で倒せない悪ならば、悪を成して巨悪を討つ、と。

 そう、彼は目的を達すためならば自らを『悪』とする事も厭わない。

 

 直後、ブラックリベリオンでも使用された租界構造パーツの強制分離により、展開していたブリタニア軍を一蹴。

 処刑囚として拘束されていた部下を救い出し、合衆国日本の領土と公言する中華連邦総領事館領内への帰還を成功させる。

 

 また本作戦において、ブリタニア軍の──ランスロットを基にした量産機の──先行試作KMF=ヴィンセントが黒の騎士団に奪取され、ブリタニアはゼロに更なる苦汁を飲まされる事となる。

 

 『太平洋奇襲事件』

 

 メンバー奪還後、黒の騎士団が起こした軍事行動。

 エリア11の新たな総督として、ブリタニア本国から赴任する皇女=ナナリー・ヴィ・ブリタニア。その身柄確保を最優先とする。

 多くの皇子皇女が命を落とした呪われた地であり、自ら赴任に名乗りを上げる皇族は存在せず、それどころか新総督のカラレスまでも命を落とした現状、もはや有名貴族の中にも野心を抱く者は居ない。

 そんな中、彼女は自ら名乗りを上げたと言われている。

 かつてエリア11=日本で命を落としたとされながら、最近になって生存が確認され、皇族へ復帰したばかりで皇位継承権も87位と低く、目も足も不自由であった彼女を止める声はなかった。ブリタニアからすればプロパガンダにも使える体の良い捨て駒と言えるだろう。

 

 航空戦力に乏しい黒の騎士団だったが、移送艦隊の旗艦であるログレス級に取り付くことに成功。

 護衛に当たるカールレオン級を撃墜する一方、ゼロはログレス級艦内に侵入し、ナナリー・ヴィ・ブリタニアと対面。目標達成は目前だった。

 

 だが、作戦の結果は失敗だった。

 予定調和の如く、ゼロの前に立ち塞がったのは、ナイトオブセブン=枢木スザクの駆るランスロット(・コンクエスター)。

 また同ナイトオブラウンズメンバーであるジノ・ヴァインベルグ、アーニャ・アールストレイムも戦闘に参加。

 黒の騎士団側も紅蓮弐式を──飛翔滑走翼を搭載した──紅蓮可翔式へと換装し、応戦するが戦力差を覆すことは出来ず、ナナリー総督強奪は未遂に終わっている。

 

 『日本人国外逃亡事件』

 

 新総督に就任したナナリー・ヴィ・ブリタニアは、就任演説で1年前ユーフェミが提唱した行政特区日本の再建を宣言する。

 当時の惨劇を忘れられるはずもなく、反発の声は日本、ブリタニア双方から上がるのは必然のこと。

 当然参加しようとする日本人は居らず、計画の破綻は目に見えていた。

 

 だがブリタニア軍による黒の騎士団保有の──潜水艦ドックとして使用される──偽装タンカーへの強行臨検に端を発する戦闘に際して、ゼロは特区日本への参加を表明する。

 その裏でゼロとブリタニア側の間には、百万人の日本人を動員する見返りとして、国外追放処分という名目の海外逃亡の密約が交わされていたという。

 

 特区日本二度目の開設式典当日。

 ブリタニア側が過去の再現に警戒する一方、会場はゼロの言葉通り、百万人の日本人で溢れていた。

 式典開始から間もなくして、会場に異変が起こる。ゼロによる電波ジャックと、会場内でのスモーク噴射。そして百万人の『ゼロ』の出現だった。

 ゼロは百万人の『ゼロ』、つまり百万人の日本人全員の国外追放を求めた。

 それは明らかに暴論であり、言葉遊びに過ぎないだろう。

 しかし、ゼロの素顔が明かされていない以上、一人一人面通しを行ったところで意味はない。

 

 この動きを暴動や反乱と認定するべきか、それとも当初の密約通り『ゼロ』を国外追放とするべきか。

 高まる緊張感の中、その判断は総責任者である枢木スザクに委ねられた。

 もし、暴動や反乱として処断すれば、多数の犠牲を生む事態は避けられない。

 苦渋の判断を迫られた枢木スザクは、苦悩の末にゼロの要求を容認。百万人の『ゼロ』を不穏分子として国外追放処分を決定する。

 

 これを受け、黒の騎士団構成員を始めとする百万人の日本人は祖国を離れ、新天地を目指して海を渡る。

 彼等が辿り着いた先、それはゼロが事前に交渉し借り受けた中華連邦保有の人工島。黄海上に浮かぶ潮力発電施設=蓬萊島を合衆国日本の暫定首都とした。

 

 『朱禁城襲撃及び花嫁(天子)強奪事件』

 

 新たな拠点を手に入れ、インド軍区の協力を得て、浮遊航空艦斑鳩を始めとした戦力を増強。次の作戦行動に向け、部隊の再編と蓬萊島再開発を急ぐ黒の騎士団。

 だが、束の間の平穏は──黒の騎士団の予てからの支援者でもある──皇コンツェルン代表=皇神楽耶から齎された情報によって終わりを告げる。

 

 神聖ブリタニア帝国第一皇子=オデュッセウス・ウ・ブリタニアと、中華連邦天子=蒋麗華の政略結婚。

 これにより中華連邦はブリタニアの勢力下に置かれ、かつて世界の三大勢力であったEUが弱体化している状況では、ブリタニアが世界の覇権を握ることになる。

 それが実現すれば黒の騎士団と中華連邦の間で交わされた契約は反故にされ、最悪の場合、中華連邦とブリタニアの連合軍を相手取る事態に陥る。

 如何に知謀権謀に長けたゼロが率い、少数精鋭とはいえ極めて高い戦力を保持する黒の騎士団であっても、未だ世界と対等に渡り合える力はない。

 局地的勝利に留まり、いずれ押し潰される事は容易に想像が付くだろう。

 

 故に婚姻の儀式当日、大宦官──天子を傀儡として実質的に中華連邦を支配する──に反意を抱き、婚姻に反対する一部軍人によるクーデターを利用し、ゼロは朱禁城を襲撃。

 天子の身柄を確保し、朱禁城からの脱出に成功する。

 

 『天帝八十八陵籠城戦』

 

 天子強奪後、シェンチョン渓谷で追撃部隊を振り切り、シャオペイで本隊と合流。

 作戦はこのままゼロの思惑通りの結末を迎えるかのように思われた。

 しかし直後、同盟関係にあったインド軍区の二方面外交を知る。

 黒の騎士団の前に立ち塞がったのは中華連邦武官=黎星刻が駆る──インド軍区から中華連邦へと流れた──新型KMF=神虎。

 迎え撃つ紅蓮可翔式と同等の機体性能を見せ付け、中華連邦軍本隊の到着まで黒の騎士団の足止めに成功。

 なおこの戦いで零番隊隊長=紅月カレン及び紅蓮可翔式が中華連邦側に鹵獲され、後にその身柄はブリタニア側へ移される事となる。

 

 この事態にゼロは紅月カレンの奪還と中華連邦軍との全面対決を指示。

 保有KMFの機体性能で勝る黒の騎士団ではあったが、黎星刻の策により手痛い損害を受け、後退を余儀なくされる。

 後退した黒の騎士団は天子を牽制に使い天帝八十八陵に籠城。部隊を再編成しつつ、蓬萊島からの援軍を待つことになった。

 

 だが大宦官率いる中華連邦軍は、そこで予期せぬ行動を取る。

 黎星刻を始めとするクーデター参加者の粛清と、天子の存在を無視した天帝八十八陵への空爆を実行。

 黒の騎士団は籠城策から攻勢に転じるが、中華連邦の援軍としてブリタニアのナイトオブラウンズも参戦し、その劣勢はさらに深刻さを増した。

 

 戦闘停止を願い天子自らが戦場に立つが、その声が聞き届けられる事はなかった。

 天子に向けて放たれる無数の砲弾に対し、黎星刻は神虎を盾とするが、その全てを防ぎきることは到底不可能だ。

 そんな二人の窮地を救ったのは一騎のKMF、ガウェインに代わるゼロ専用機=蜃気楼。

 最大の特徴である絶対守護領域と名付けられた高性能電磁シールドで砲弾を防ぎ、胸部に搭載された拡散構造相転移砲を以て中華連邦軍を退ける。

 それでもナイトオブラウンズは健在であり、黒の騎士団の劣勢を覆すまでには至らない。

 

 その時、各陣営の旗艦ブリッジに中華連邦全土で起こった暴動の報告が齎される。

 貧困に喘いでいた中華連邦人民は元々腐敗した政治指導部、特に大宦官の圧政に強い不満を抱き、反乱の火種を灯していた。

 その種火に風を送り、劫火へと変えたのは中華連邦全土へと配信されたゼロと大宦官の通信記録。

 自らの地位と名誉の保身ために幼き天子を切り捨て、民を蔑ろにした事実を自らの口で認めたのだ。不満を怒りや憎悪に変化させるには十分すぎる内容であった。

 この事態を受け、ブリタニアは大宦官を正当な中華連邦の統治者とする認識を改め、支援の打ち切りを決定。

 ブリタニアという後ろ盾、そしてナイトオブラウンズという矛を失った中華連邦軍に戦闘を継続できる力は残されていなかった。

 結果、大宦官の敗北は確定する。

 

 今回の内紛の後、大宦官派は放逐され、中華連邦は天子を正当な統治者に戴く新たな国家体制を構築。

 対ブリタニアを鮮明にする黒の騎士団と同盟関係を結び、その支援を受け、領内各地で抵抗を続ける旧大宦官派勢力の平定に乗り出す。

 一方ゼロはブリタニアの覇権に対抗するために合衆国連合=超合集国構想を提唱。

 ブリタニアを脅威と感じている国家を取り込み、反ブリタニア同盟とも呼べる一大勢力を構築を目指し、日夜折衝のために各国を飛び回る事となる。

 

 『ギアス嚮団殲滅作戦』

 

 突如としてゼロ自らが極秘裏に実行した軍事作戦であり、黒の騎士団内部でも直属である零番隊を除けば、この作戦行動を知る者は限りなく少ない。

 中華連邦領内の砂漠地帯、その下に存在していた古の地下都市を強襲し、ゼロは殲滅の命令を下した。

 表向きは生命を冒涜するブリタニア軍の機密研究施設に対する奇襲となっているが、都市内部にKMFの姿は一騎もなく、それどころか重火器で武装している者も居なかった。

 そう、都市内部に居る者は皆、軍人ではない。その多くが研究者であり、その全てが閉鎖的社会を構築する狂信者だった。

 

 ギアス嚮団。ギアスやそれに類似する超常の力、また太古の遺産を研究していた者達が集まり創設された組織。

 彼等は外界への興味を示すことなく独自のコミュニティーを構築し、ただただ知識欲と探究心、信仰心を満たすためだけに存在している。

 だからといって彼等が脅威に成り得ないのかと問えば、答えは否だ。

 危険度で言えばこちらが上だろう。銃やナイフといった目に見えた脅威とはまた違う意味で脅威がある。

 彼等が己の野望のため生み出し続けたギアス能力者は、それこそ武器や兵器を使用する人間そのモノを容易く壊すことも可能だった。

 現に大規模な研究施設を有する嚮団が、人知れず運営を続けてこられたのは、ギアスの力があったからこそだろう。

 

 嚮団の代表者=嚮主V.V.の駆るジークフリートによる抵抗を受けたものの、ゼロ率いる黒の騎士団はこれを撃破し、嚮団施設の制圧と構成員の掃討という目標を達成。

 歴史の闇に存在していたギアス嚮団は、公の記録に残されることのない黒き力の蹂躙によって、より深い闇の底へと沈んでいった。

 

 『超合集国憲章批准式典』

 

 超大国ブリタニアに対抗するために、ゼロが創り出した新たな連合国家=超合集国。

 参加国は合衆国中華(旧中華連邦)を中心としたアジア諸国を始め、中東や分裂したEU諸国、アフリカの一部を含む47カ国に上る。

 その最大の特徴は参加国が批准した超合集国憲章の第17条が定める、批准国家に求めた固有軍事力の永久的な放棄だろう。

 問題となる安全保障は如何なる国家に属さない独立機関──超合集国の下で新たに再編された──黒の騎士団との契約によって賄われる。

 この契約により黒の騎士団はブリタニアに対する一反攻勢力ではなく、正式に国家に認められた存在となった。

 だが確固たる社会的立場を得た代償に、黒の騎士団は独立機関でありながら国家に縛られる。

 黒の騎士団の軍事力行使には、超合集国の意志決定機関である最高評議会の議決を必要とし、それを無視すれば黒の騎士団こそ脅威として排除すべき存在だと認識されてしまうのだから。

 

 この批准式典において、合衆国日本の代表であり最高評議会初代議長でもある皇神楽耶から最初の動議が提出される。

 ブリタニアに占領された合衆国日本への黒の騎士団派遣要請。

 結果、賛成多数で議決され、超合集国決議第壱號として超合集国は黒の騎士団へ日本解放を要請する。

 

 これを受け、ゼロが下した命令によって黒の騎士団は日本へ進軍を開始。

 またブリタニア側も守備を固め、さらには多数のナイトオブラウンズを派遣し、正面から迎え撃つ構えを崩さない。

 こうして黒の騎士団とブリタニアは、再び日本の地を戦場へと変えて相見える。

 

 『第二次東京決戦』

 

 超合集国決議第壱號を受けて開始された日本解放作戦。

 総司令官=黎星刻率いる黒の騎士団は東中華海戦を制し、勢いそのままに九州ブロックへと侵攻する。

 迎え撃つブリタニアはナイトオブラウンズ最強の騎士、ナイトオブワン=ビスマルク・ヴァルトシュタイン及びナイトオブテン=ルキアーノ・ブラッドリーを投入。

 両軍入り乱れた熾烈な戦いを繰り広げた。

 

 一方ゼロは──ブリタニア軍から離叛したギルバート・G・P・ギルフォードを伴って──トウキョウ租界に出現。予め租界内を走る環状モノレールに設置していたゲフィオンディスターバーを起動させ、都市機能を奪い去り、防衛戦力の無力化に成功。

 それに合わせ東京湾より浮上した別働隊と合流する。

 目指すは1年前の雪辱。

 

 しかし、ゼロの策を読んでいたシュナイゼルは、トウキョウ租界近郊に伏せていた戦力を進軍させる。

 その中にはナイトオブスリー、ナイトオブシックス、ナイトオブセブンの姿があり、更には九州から呼び戻したナイトオブテンも直属部隊を率いて参戦する。

 過剰とも言える戦力であり、都市機能の復旧とゼロの敗北は時間の問題だった。

 

 現にゼロはラウンズとの連戦により敗北、即ち死の一歩手前まで追い詰められる。

 その窮地を救ったのはブリタニアに捕虜として捕らえられていた紅月カレンであり、彼女と共に鹵獲された後、ブリタニアの最新技術によって生まれ変わった新たな紅蓮=紅蓮聖天八極式だった。

 彼女の参戦により、パワーバランスは崩壊。ブリタニアへ傾いた流れは一転して流動的なものへと代わる。

 だがその結果、誰も予想し得なかった結末を生んだ。

 

 紅蓮とランスロット。

 紅月カレンと枢木スザク。

 機体性能で圧倒する紅蓮聖天八極式の勝利により、因縁とも呼べる両者の戦いに終止符が打たれようとしたその時、ランスロットに搭載されていた──本来抑止力であるはずの──重戦術級の大量破壊兵器=フレイヤ弾頭が放たれる。

 ランスロットより射出されたフレイヤ弾頭はトウキョウ租界上空で臨界を迎え、強烈な閃光と共に発生したセスルームニル球体が政庁、そしてトウキョウ租界を呑み込んでいく。

 そして破滅の光の後に残されたのはクレーター状の巨大な穴だけ。そう、効果範囲内に居た租界住民を含む数千万もの人命が一瞬にして奪われた。

 

 フレイヤの使用により、第二次東京決戦は停戦という名の終結を迎える。

 トウキョウ租界の甚大な被害、想像を絶するフレイヤの威力に戦意を喪失した兵士は多い。特にフレイヤ保有国であるブリタニアと対峙する黒の騎士団側の士気の低下は著しく、戦闘継続は不可能だった。

 

 一方、ブリタニア軍を指揮していたシュナイゼルは、自ら外交特使として黒の騎士団旗艦斑鳩に赴き、幹部との停戦交渉の席に着く。

 だがその内容が公にされることはなく、公式文章にも残されていない。

 そこから考えると、彼はブリタニア本国の意志ではなく、彼個人の思惑によって交渉を進めた事は容易に想像でき、後の事実がそれを裏付けている。

 また、その交渉の場で両者にとって表沙汰に出来ない──例えば黒の騎士団が代表であるゼロをブリタニアへ売り払うといった──内容が話し合われたのではないか、そんな邪推を抱かせるには十分だった。

 事実程なくして黒の騎士団側から、第二次東京決戦におけるゼロの負傷と死亡が発表されるが、遺体を確認したのは数名の幹部のみであり、大々的な葬儀が執り行われないなど不自然な経過を辿ることとなる。

 一部では日本人幹部の裏切りによるゼロ暗殺の現場映像が存在すると噂されているが、真相は闇の中であり噂の域を出ていない。

 

 『ゼロレクイエム』

 

 ゼロの死亡発表から数ヶ月、世界は大きく変貌した。

 事の発端はブリタニア。

 8年前の極東事変の際、当時留学中の日本で戦闘に巻き込まれ、死亡したとされていた第11皇子=ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが、突如として第98代皇帝=シャルル・ジ・ブリタニアを弑逆し、第99代皇帝を僭称。

 瞬く間に帝都ペンドラゴンを掌握すると同時にブリタニアの国家体制を破壊。反乱には血の粛清を以て応え、暴虐の限りを尽くし、憎悪と畏怖の象徴として悪逆皇帝と揶揄される存在となる。

 

 悪逆皇帝ルルーシュはブリタニアだけでは飽きたらず世界を欲した。

 そして超合集国最高評議会会場への襲撃、ダモクレス戦役の勝利を経て、文字通り世界の頂点に君臨する。

 軍事大国ブリタニアの皇帝にして黒の騎士団CEO、さらには超合集国第二代最高評議会議長を始めとしたあらゆる権力をその手中に収め、世界の統治者になった彼に抗える者は最早存在しない。

 絶望にも似た空気の中、皇帝直轄領となった日本で世界統一の凱旋パレードは開始された。

 

 だが、その車列の前に一人の男が立ち塞がる。

 闇色の仮面に漆黒のマント。

 民衆はその存在を、彼が齎す行動を知っている。

 奇跡を起こし、正義の名の下に悪を討つ。

 強き者が弱き者を虐げ続ける限り、抗い続ける反逆者=ゼロ。

 

 護衛を突破し、悪逆皇帝ルルーシュの下へ辿り着いたゼロは手にした刃で魔王を討ち、世界を救った救世主となる。

 

 

 

 そう、これは超大国=神聖ブリタニア帝国の打倒を唱えた仮面の反逆者(テロリスト)が軍を作り、国を築き、社会基盤を構築し、悪逆皇帝を討ち、救世の英雄としての地位を手に入れるまでの戦いの軌跡。

 その記録と記憶。

 

 強者に挑み、奇跡的な勝利を飾る。

 敗北から立ち上がり、生死さえも超越して再び結果を出し、最後は世界が望んだ英雄として君臨する。

 まるで、出来過ぎた御伽噺。

 ゼロの為の英雄譚。

 

 

 

『ゼロ、ゼロ、ゼロ、ゼロ、ゼロ、ゼロ、ゼロ、ゼロ、ゼロ、ゼロ、ゼロ────!!』

 

 鳴り止むことない、英雄を賛美するゼロコールが続く。

 求め、讃え、崇めるように、民衆は声を張り上げて熱狂する。

 正義の勝利に歓喜する。

 

 その声に吐き気がする程の不快感を抱き、止めどなく憎悪が込み上げる。

 愚かな民衆は英雄という偶像にして、世界(システム)の管理者である『ゼロ』に騙されていながら、それに気付く事が出来ない。

 ゼロによって築かれた偽りの平和。

 ゼロによって築かれた偽りの平穏。

 ゼロによって築かれた偽りの秩序。

 間違いだらけの世界。

 

 救世の英雄ゼロが存在している限り、この世界は安泰だと信じている民衆は多い。

 どんなに取り繕ったところで所詮ゼロは人殺しだというのに。

 清廉潔白な人間ではない。いや、そもそもそんな人間はこの世に存在しないか。

 人は産まれた時から罪を背負い、咎を贖う存在だ。

 

 だから正そう、真実の姿へと。

 創造のための破壊。

 創造の前には破壊が必要だ。

 だから広げよう、混沌を。

 

 刹那、音を立てて開いた巨大な石扉。

 隙間から差し込んでくるのは穏やかで暖かい、だけど儚げで物悲しい黄昏色の光。

 光に照らされ、その眩しさに思わず目を閉じる。

 聞こえてくる金属音。

 鎧が擦れる音。

 

 再び目を開けた時、眼前に我が騎士達が跪いていた。

 年齢も性別も国籍も経歴もバラバラだったが、身に着けた鎧の色だけは統一されている。

 ただそれらの形状は統一されていない。

 異形の全身甲冑(フルプレート)の者も居れば、軽鎧にローブを纏っている者も居る。戦闘(バトル)ドレスや軍服に近い物など、騎士と呼ぶに相応しくない格好の者も居る。

 それでも彼らが我が騎士達だ。

 白銀の鎧を身に纏った白銀の騎士。

 ゼロが率いる黒の騎士と対峙した際に絵になりやすい。

 それだけの理由。なんと安直な考えだと、自嘲の笑みが浮かぶ。

 

「ご報告申し上げます」

 

 先頭の騎士=破滅を喚ぶ騎士(ナイトオブルイン)が告げる。

 

「中東及び南ブリタニア、南アフリカ地域における紛争の拡大、超合集国参加国家に対する離叛の働きかけ、反ブリタニア組織への支援。その全てにおいて計画に誤差なし。

 間もなく計画は次のフェイズに移行いたします」

 

 ああ、これでまた一つ前に進んだ。

 

 サイドテーブルの上に載せたチェス盤に手を伸ばし、白のナイトを進軍させる。

 その先に待ち構えているのは、強大な力を持つ黒のキングが二体。

 

「また、例の機関からの最終報告が届いております。内容に不備はございません。必要な物は全て調っております。以降、機関の処遇は如何なさいますか?」

 

 ならば最早必要ない。

 利用価値があるから存在を許していただけの組織だ。価値が無くなれば処分するのは必然のこと。

 殲滅を命じると、一人の騎士を除き迷いも躊躇いもなく応えた。

 

『イエス、我が唯一の主人よ(マイ・マスター)

 

 唯一僅かに表情を強張らせ、動揺したような様子を見せた恐怖を誘う騎士(ナイトオブテラー)に意思を問う。彼の経歴を考えれば、分からなくもない反応だ。

 嫌なら別に参加する必要はない。

 

 だがルインが殺気を放っている以上、テラーが異を唱える事は出来ないだろう。

 もし逆らえば間違いなくその瞬間、ルインはテラーを処分する。

 そんな命令を下した憶えはないが、それを止めるつもりもない。

 我ながら酷い性格だと自覚はしている。

 しかしテラーの代わりは幾らでも存在するがルインは違う。

 今の自分にとってルインは手放すことの出来ない必要不可欠な存在なのだから、贔屓目で見てしまうのも無理はない。

 

 退出していく騎士達を見送りながら、心の弱い自分に苦笑する。

 自分の愚かしさは自分が一番理解しているつもりだ。

 それでも立ち止まりはしない。

 誰にも負けるつもりはない。

 ただ前を見据え、ゆっくりと立ち上がる。

 

 さあ、破滅劇(カタストロフ)の幕を開けよう。

 

 

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