コードギアス オルタネイティヴ   作:電源式

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崩壊する世界
第24幕 【システムエラー】


 

 

 

 戦争は国家間の武力闘争であり、また政争と同じ側面を持つ。政治の延長線上にあり、外交手段の一つに過ぎない。

 もちろん経済活動と密接に関わり、愚かしい示威行為である側面も忘れてはならないが。

 

 政治とは何か?

 

 権力、政策、支配、自治に関わる現象また概念。

 主として国家の統治作用を指し、それによって生み出される統治権は国家を、国土と人民を事実上支配する権利を持つ。

 簡単に言えば、国家を運営する方法だ。

 

 国家とは何か?

 

 一定の領土と住民を治める排他的な権力組織と統治権を持つ政治社会。一般的に領土、人民、主権(統治権)が、国家という概念の三要素とされる。

 国家は国民の日常生活の隅々にまで深く関係を持ち、他のあらゆる社会集団を圧倒する巨大な中央集権機構として確立されている。

 つまり国家は秩序を築くと同時に、全ての国民を支配下に置いているとも言える。

 だからもし一度狂ったなら、強者が弱者を支配し、搾取する為だけの権力機構へと成り下がる可能性もあるだろう。事実歴史上、そう言った多くの独裁国家が存在していた。

 

 ならば国家が存在しなければ?

 

 その問いが無意味な事だと、多くの者が理解している。

 もし、この世界から全ての国家が消えれば、秩序を失った人間は混沌の中で獣と化し、現代社会は崩壊する。

 原始への回帰─────なんて事は起こらないだろう。

 国や国家という枠組みが消えれば、今度は企業が国家に代わり人民を支配する。既に今現在、発展途上国だけでなく先進国の中にも経済の傀儡となっている国は多い。

 生活の基盤となるエネルギー、通信、物流、金融を中心に企業は統合と吸収を繰り返し、やがて幾つかのメガコングロマリットへと集約される。それこそ国家という枷に囚われない、国境のない強大な存在となる。

 富を持つ強者による弱者の統治。

 国民は社員へと呼び名を変える。

 つまり世界は変わらない。

 

 果たして本当にそうなのか?

 

 それがゼロの投げかけた問いだった。

 ゼロが公開した情報を得た者の中には、少なからず現状の社会システムに疑念を抱いた者が居るはずだ。

 自分達は国家を運営する権力者に騙され、腐敗した民主主義によって支配されているのではないか、と。

 世界経済を支配する大企業の表の部分しか見ていなかったのではないか、と。

 

 だからこそゼロは世界平和という幻想の可能性を突き付ける。

 断罪の先、この世界に存在する全ての国家を解体し、軍事産業に携わった全ての企業を排除すれば、この世界から戦争はなくなる、と。

 

 もちろん民衆もその言葉を鵜呑みにするほど愚かではないだろう。

 全ての戦争、紛争の理由が国家による政治行為、経済活動によって引き起こされるものではない。経済格差、思想教育、宗教問題、人種差別、今となって始まりさえ定かではない歴史的対立。全ての争いには個別の要因が存在している。

 

 しかし、少なくとも領土問題は解決する。一部には国家への忠誠をアイデンティティーとする者も居るが、所詮領土や境界線も国家という概念を確立する為に人間が勝手に定め、作り出した概念であり、存在すら不確かな物を盲目的に信じ込んでいるに過ぎないのだから。

 

 馬鹿馬鹿しいと吐き捨てていた可能性が、今まで誰も考えなかった問題の答えが、当たり前だと思っていた現実が、果たして本当に正しいのか? と突き付ける。

 既定概念の破壊。それこそが、ゼロが本当に提起したかった事であり、全ての者に新たな秩序構築のために思考する事を求めた。

 それは考えすぎだろうか?

 

 だがゼロの思惑が何であれ、彼が投じた新たな一撃=国家解体戦争の宣戦布告は、この世界を更なる混迷へと誘う引き金となる。

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

「っ、離せ! げほッ……私はゼロを! ゼロを……くっ…はぁ…はぁ……」

 

 地に落ちた絶影と共に回収された黎星刻は、自らが吐き出した血でパイロットスーツを赤く染めながらも、決してその心が折れる事はなかった。

 

「絶影の補給と……換装を……くっ……急がせろ! すぐにゼロを追う……」

 

「落ち着いて下さい! 今は先に御自分の身体を────」

 

 医師や看護師と共に、今にも飛び出していきそうな星刻を簡易ベッドに押さえ付けながら、周香凛は制止を試みる。

 既に敵ダモクレス級浮遊要塞は姿を消し、漆黒の騎士率いるゼロ=ルルーシュの所在も再び闇の中となった。

 だが幾ら正論を用いて対応したとしても、復讐の刃と化し、自らの命にさえ執着を失った彼を止める事は出来ない。

 

「あの男を討つよりも先があるものかッ!」

 

 星刻は叫ぶように反論する。

 今の彼を突き動かしているのは、ルルーシュに対する復讐という名の情念だけだ。

 自らの手でルルーシュを殺す瞬間の為だけに生きている。

 

「御自分の立場をお忘れですか、星刻総司令!!」

 

 天子=蒋麗華を失った痛みは周香凛も同じだった。彼女も蒋麗華の事を実の妹のように思っていた。故にルルーシュに対する憎しみは理解できる。

 それでも自分は黒の騎士団中華支部代表指揮官であり、彼には黒の騎士団総司令官としての立場があった。当然その肩書きには責任を持って部下を率い、正しく導く義務がある。

 

「それがどうした!?」

 

「っ………」

 

 周香凛の目の前に居るのは、部下に慕われ、黒の騎士団が誇る沈着冷静な総司令ではなかった。事の大きさと精神状態を考慮すれば、冷静さを失うのも無理はない。

 今は混乱しているだけだと思いたい。

 だが蒋麗華の死は、星刻から『優秀な司令官』という仮面を無理矢理剥ぎ取ってしまったのかも知れない。

 何れにしろ、現状の星刻では総司令としての任を全うできない。

 またこれ以上醜態を晒せば、当然部下の士気にも影響を及ぼす。只でさえ朱禁城の消滅とゼロの3度目の声明、星刻の敗北によって動揺が広がっている。

 影響を最小限に抑える事も指揮官の仕事だ。

 

「ドクター、鎮静剤を」

 

 周香凛は医師に薬剤の投与を指示する。

 

「っ、止めろ! 私は……私が────」

 

「今は耐えて下さい、星刻様」

 

 それ以上の言葉は見当たらなかった。

 時が解決するのかは分からない。それでも今は……。

 投薬によって意識が混濁する中、医務室へと運ばれていく星刻を見送る周香凛。

 その瞳に僅かながら憐れみと軽蔑の色が浮かんでいるようにも思えた。

 

 暫くして周香凛は視線を眼下へと向ける。

 本来その場所に存在したはずの朱禁城は消え去り、代わりに大地を深く抉るクレーター状の大穴が存在していた。

 今日この場所でまた、敵味方、民間人を含めて多くの生命が奪われた。

 救世の英雄による断罪は次のフェイズへと移行したと考えて間違いない。

 対象は軍から政府へ、そして国際社会=超合集国連合へ。

 国家解体戦争?

 あり得ないと誰もが思う。

 例え浮遊要塞と数多くのKMFを保持していたとしても、一武装集団でしかない漆黒の騎士が、全世界を敵に回し、果たして勝機はあるのかと。

 ただルルーシュには歴史的な事実として、全世界を敵に回し、勝利した過去がある。

 類い希なる知略と軍略、そして悪魔のような異能の力=ギアス。

 そして何より彼はゼロの仮面、その魔力の使い方を熟知していた。

 その事実を知れば、あり得ないがあり得るへと姿を変える事だろう。

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 朱禁城の消滅を受け、合衆国中華は首都機能を国内第二の都市=経済特区上海へ移転。仮設政府を組織し、事後処理及び洛陽の復興に当たる事となる。

 だが超合集国最高評議会はゼロが公表した情報を基に、合衆国中華(及びフレイヤ製造に関わった国家・企業・組織)に対する制裁決議を可決。合衆国中華は超合集国内での地位を失い、政府は超合集国の管理下に置かれ、様々な制約が課された。また統治権の失効期間は無期限とされ、事実上合衆国中華は滅びへと向かう事となる。

 

 そして合衆国中華と共に、悪としてゼロに名指しされた皇コンツェルンの解体決議も可決。一時的に日本政府によりその全てが接収され、最高経営責任者(CEO)である皇神楽耶は最高評議会議長の座を即時解任された。これにより超合集国内での合衆国日本の地位が下がったことは言うまでもなく、監督責任を怠ったとして制裁も検討されている。

 皇家には日本政府、延いては超合集国から事情聴取や責任追及の為に、彼女の身柄引き渡しが要求されているが、蓬莱島襲撃の際に負った怪我の治療を優先させる名目で遅延交渉が行われている。

 社会的信頼を失い、築いた地位を失い、ゼロの断罪によって中核企業の取締役達を失い、世界的コングロマリットは二度と這い上がれないほど完膚無きまでに没落する。

 禁忌への渇望が齎した重い代償。

 それは当然の報いなのかも知れない。

 世論の反応も明確な証拠を突き付けられてしまえば、自業自得という声が大半を占めていた。

 

 しかし制裁を下す側である超合集国も崩壊の一歩手前と言える。

 主要参加国であった合衆国中華を始めとした複数の国家が失脚し、内部のパワーバランスは大きく崩れた。

 本来なら欧州連合評議会や強行派が体制を掌握する為に暗躍しただろが、彼等の中からも制裁を受ける国家が出たことにより混乱の渦中にいる。

 結局は彼等もまた一枚岩ではなかった。

 

 一方、各国政府に対する民衆の信頼は大きく揺らいだ。現状、自国の政府は本当に信用できるのかという疑念を拭う手段はない。

 その不安を煽るように一部では反超合集国勢力や独立派、無政府主義者を中心とするデモ運動、テロ事件が発生。現地の警官隊や治安部隊との衝突が報道されている。

 ただ、その影響は局地的であり、すぐに国家を転覆させるほどの力はまだない。が、予断を許せる状態ではなかった。

 果たして導火線に点された火は爆発を齎すのか、それとも爆発の前に消えてしまうのか。

 世界は張り詰めた空気に覆われていた。

 

 確かに今回のゼロの声明と、彼の齎した情報により国家への信頼は失われた。ならば代わりにゼロが全幅の信頼を勝ち得たかと言われれば、そうとも言えない。

 賛同の声はあまり広がりを見せておらず、さすがに今回ばかりは懐疑的な意見が多く聞かれた。

 ゼロによって曝かれた国家の腐敗、権力形態の病巣が放置できない問題であることは間違いない。知ってしまった以上、何れ訪れるであろう崩壊を前に現状を放置する事は出来ず、したいとも思えない。策を講じる必要がある。

 だが対策としてゼロが提唱した国家解体は飛躍し過ぎていた。

 変革に痛みを伴うことは理解しているが、あまりに事を急いでいるように見えるゼロと、それによって齎されるであろう急速な変化=混乱に対し、多くの民衆は不安と畏れを抱いた。

 

 ゼロに対する敬意が畏怖へと代わり、心の奥底に埋もれていた疑念、杞憂が表面化し始める。

 自分達が求めているモノと、ゼロが求めているモノは果たして同じモノなのか?

このままゼロを信じ続けても良いのか?

 魔王を討った英雄である事実は変わらない。

 けれど人々は知っている。

神話の中の英雄も、何らかの切っ掛けで狂乱し、自らその栄華を捨てる物語が数多く存在している事実を……。

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 一方、人質救出作戦の失敗、また漆黒の騎士との戦闘における事実上の敗北によって疲弊した黒の騎士団は洛陽を離れ、旗艦迦楼羅は蓬莱島の仮設ドックへ寄港。日本支部から派遣された補給部隊からの補給を受けていた。

 その迦楼羅のブリッジに二つの重大な報告が届けられる。まるで追い打ちを掛けるかのように、その内容は酷く悪い報せだった。

 

 戦力再編のためにEU支部から派遣されるはずだった主力部隊が、飛び立つ直前に空港施設で襲撃を受けて壊滅。派遣部隊はもとより施設その物も完全に破壊され、生存者も居ない。また襲撃時には強力なジャミングが掛けられていたらしく、襲撃者の姿は如何なる記録にも残されていないという。

 同様にブリタニア支部を飛び立った派遣部隊が太平洋上空で忽然と消息を断った。こちらは戦闘の痕跡や、理由は何であれ墜落した艦体の残骸なども発見されてはおらず、神隠しに遭ったとさえ囁かれている。

 だが社会情勢とEU支部からの報告を加味すれば、襲撃を受けた可能性が極めて高かった。

 

 共に派遣部隊を指揮していた元ナイトオブラウンズ、ノネット・エニアグラムとジノ・ヴァインベルグの消息も途絶えており、MIA認定も検討されていた。

 だがノネットの騎乗機=イゾルテが大破した状態で発見されたにもかかわらず、コクピット内にも施設敷地内からも彼女の遺体が発見されなかった事実から、襲撃者に捕らえられ、連れ去られた可能性が高く、また生存の可能性も高いとされている。

 そこから推測し、襲撃者の狙いは派遣部隊ではなく、彼等の身柄が目的だったのではないか、との憶測が報告には追記されていた。

 襲撃者が何者であるのかは定かではないが、元ラウンズと対等以上に渡り合える戦力を保持している事は確実だった。

 

 やはり最もその可能性が高いのは漆黒の騎士だろう。

 ただ静観の構えを見せていたはずの漆黒の騎士による奇襲と断定するにはまだ早く、違和感が残る。朱禁城への奇襲と、その後の国家に対する宣戦布告を含めた声明が控えていた状況で、果たしてそれは意味のある行動だと言えただろうか?

 いや、だからこそ批判を受けるであろう奇襲を急がせたとも考えられる。

 もちろんそれが事実だとするなら、敵ダモクレス級浮遊要塞が追撃部隊は疎か、迎撃部隊さえ展開しなかった最大の理由となるのかも知れない。

 

 いずれにせよ、これで戦力の再編はより困難になった事は間違いない。

 先の戦闘=朱禁城奪還作戦では、離叛と粛清によって中華支部最精鋭部隊七星を失っている。

 残された主要戦力は旗艦迦楼羅を中心とする小規模艦隊(主に日本支部所属部隊)と第零特務隊のみ。主要支部を除く各支部に配備されている戦力には旧式の物が多く、漆黒の騎士が保有するダモクレス級浮遊要塞や、数多くの新型搭載騎に挑むには心許ない陣容だった。

 

 さらに、今のところ超合集国は平静を装っているが、場合によってはゼロ=ルルーシュに賛同する国が超合集国連合から離脱。国家解体を宣言する可能性を孕んでいる。

 それによって超合集国憲章下で抑圧されていた争いの火種が再燃する可能性が高い。いや、抑圧下でも散発的な紛争が起こっていることを考えれば確実だろう。

 また不安定な社会情勢を好機と考える反超合集国勢力、第二第三の流浪の獅子による大規模テロやクーデターも想定される。

 そうなれば必然的に黒の騎士団は超合衆国の要請を受け、事態に対処しなければならない。その対処に忙殺されれば、漆黒の騎士との戦闘に専念する事は出来なくなり、ただでさえ対等と言い難い戦力差を考慮すれば勝機を得るのはさらに難しくなる。

 

 今後世界が、漆黒の騎士がどんな動きを見せるにしろ、戦力の立て直しが必要な事には変わりない。

 故に齎された予期せぬ報告に動揺する部下を宥めた後、ゼロ=スザクは再び一人迦楼羅を降りた。どれだけ英雄が言葉をつくしたところで、もはや動揺を完全に抑える事は不可能だと理解している。

 だからこそ優先順位を間違えず、為すべき事のためにスザクは蓬莱島の地を踏んだ。

 

 

 

 非常灯さえ疎らで酷く暗い通路を進み、突き当たりの扉の前で足を止めた。固く閉ざされた鉄の扉が冷気を放っている。

 スザクが取り出したカードキーを装置に通した直後、装置は反応し、壁に埋め込まれていたコンソールと網膜認証用カメラを展開する。コンソールにパスワードを打ち込み、仮面のスライドシステムを起動させ、露わになった左目をカメラの前に晒す。

 幾重にも張り巡らされたセキュリティが解除され、扉がゆっくりと開いていく。

 スザクはその先に歩みを進める。

 

 漆黒の騎士の蓬莱島襲撃において──予備電源も含め──完全に潰され、復興もままならない電力系統だったが、その場所の電源だけは生きていた。そう、その場所は通常でも予備でもない専用の電源が特別に確保されている。

 蓬莱島の最下層、秘匿領域。そこには周到に隠され、厳重に守られ、隔離された格納庫が存在していた。

 その場所こそゼロレクイエムの後、超合集国最高評議会で可決された決議=浮遊要塞ダモクレス及びフレイヤ弾頭の太陽焼却処分を受け、処分実行までの期間フレイヤ弾頭の保管場所として用意されたものだった。

 大量破壊兵器の保管に際して、当然その安全性や機密性は約束された物でなければならない。

 故にその事実を知る者はゼロ=スザクを含めた極少数であり、またその事実は如何なる記録にも残される事はなかった。

 だからルルーシュはこの場所の存在を知らず、蓬莱島襲撃において悉く損害を受けた格納庫の中で、唯一この場所だけが無傷だったとも考えられる。もちろんそれが真実であるとは限らず憶測でしかないが。

 

 フレイヤ弾頭が運び出され、がらんどうとなったはずの秘匿格納庫の内部に、唯一それは存在していた。

 保護シートに覆われた一騎のKMF。

 スザクはKMFに歩み寄り、初めて自らの意志でシートの固定具を外す。

 シートの下から現れたその姿を見るのは、この場所に搬入されて以来二度目だ。

 目の前に存在している鋼の巨人は彼にとって、もはや半身とも呼べる愛機の姿だった。

 

 ランスロット。

 その名は数々の出来事・事件と共に歴史に刻まれている。ロイド・アスプルンド率いる特別派遣嚮導技術部=通称特派が設計・製造した世界初の第七世代KMFとして完成。以降、デヴァイサーである枢木スザクと共にシンジュク事変を始めとする激戦に投入され、その全てで多大な戦果を上げ、後のKMF開発に大きな影響を与える。

 また枢木スザクがナイトオブラウンズに名を連ねた後、畏怖の念を込めて白き死神と呼ばれる事となる機体であった。

 その後もバージョンアップを繰り返し、最終発展型である第九世代KMF=ランスロット・アルビオンは、実用化されたエナジーウイングを始めとする最新技術が組み込まれ、ナイトオブゼロの座に着いた枢木スザクはナイトオブワン=ビスマルク・ヴァルトシュタイン率いるラウンズ4名との戦闘において圧倒的な勝利を収めた。

 

 しかしダモクレス戦役終盤、双璧をなす紅蓮聖天八極式に敗北を帰し、枢木スザクの戦死と共に、その存在は過去の物となる────そのはずだった。

 スザクは沈黙のまま機体を見上げる。

 ダモクレス戦役における紅蓮聖天八極式との戦闘データを基に、紅蓮聖天八極式を上回る最高のKMFを目指してロイド達が製造し、スザクへ託した究極のランスロット=ランスロット・リベリオン(通称リベリオン)。抗いを原動力として、世界に変革を齎してきたゼロの乗機に相応しい機体名と言えるだろう。

 ゼロ専用機として生まれ変わった新型ランスロットは、当然のように機体カラーを白から──ゼロのパーソナルカラーとして既に定着している──黒へと変更されていた。

 また頭部の形状も兜を被った騎士然とした風貌から、仮面を身に着けたような形状へと変更されている。それは裏切りの騎士=枢木スザクの愛機であるランスロットのイメージを極力抑える処置でもあった。

 さらにOSやフレーム構成素材を始め、多数の改良と新装備が加えられていた。

 外見で分かる部分としては脚部内蔵型となったランドスピナーと、代わりに追加された自在に動くスラスターユニットがそれに当たる。追加ユニットによりさらに機動性が増し、より高度な三次元高速戦闘に対応する事が可能となった。

 

 スザクは手にした金色の起動キーを握るしめる。

 ゼロレクイエムによって英雄(ゼロ)となったスザクは、騎士であることを辞めていた。

 最初の主は守る事が出来なかった。

 次の主には刃を向けた。

 最後の主はこの手で殺した。

 自分は騎士の器ではなかったと改めて思う。

 誰かを守るなんておこがましい事だったのかも知れない。

 ゼロに求められるものは──極端に言えば──救世の英雄という偶像。

 次いで民衆を惹き付けるカリスマ。指揮官としての優れた統率力と状況判断力、そして決断力だった。

 つまりは直接的な戦闘能力ではない。紅蓮聖天八極式を有する黒の騎士団最大戦力=第零特務隊を直属としている以上、それが大きな問題となる事はなかった。

 

 だが今、世界はそれを許さない。

 ダモクレス級浮遊要塞と最新型KMFを多数保有する漆黒の騎士。

 そしてその存在、暗躍が見え隠れする第三勢力の影。

 不安定化する国際情勢。

 その全てに抗う為には力が必要だった。

 

 たった一騎のKMFに何ができると嘲る者も居るだろう。

 しかしスザクは自分の能力を、また愛機の性能を過小評価するつもりはない。

 一騎で戦局を左右する。それこそがランスロットに求められるものであり、その力を引き出すことの出来る者は自分しか居ない。

 だからスザクは再び騎士として新たな剣を取る。

 例えそれが主無き力だとしても……。

 

 

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