「……それでも、こんなの……間違ってる……」
カレンは力無く呟き、見つめる手をそっと握り締める。
誰も傷付かない方法で世界を変えたい。
それが綺麗事だと理解していても、力によって強制しようとするやり方を受け入れる事が出来ずに否定する。
“間違った方法で手に入れた結果に価値はない”
そんな彼女の姿に、スザクは過去の自分を重ねる。
その考えが間違っていた事に、自分は過ちを犯して初めて気付かされた。
いや、本当はもっと前に気付いたのに、認めるのが怖かっただけなのかも知れない。
自分は数多の命を奪った大罪人。
例え一生を費やしても到底償いきれない罪。
間違った方法によって生み出された結果。
ならば彼等の死に価値はなかったのか?
……分からない。
だけど自分は彼等の死を、彼等の命を奪った行為を価値のあるモノにしなければならない。意味のあるモノにしなければならない。決して無駄にしてはならない。
それが責任を課された自分に出来る唯一の贖罪であり、成さねばならない義務であったはず。
だが当時の自分にその覚悟はなく、自分で定めたはずのルールを都合良く曲解し、逃げ道として使っていた。
「スザクさん」
と、それまでスザクとカレンのやり取りを黙って聞いていたナナリーが声を掛ける。
「質問があります、答えて頂けますか?」
ナナリーは真っ直ぐとスザクの目を見て、そう告げた。
「なんだい、ナナリー」
スザクも逸らすことなく視線を返した。
「お兄様とスザクさんが導き出した答えが本当に正しいのか、正直私にはまだ分かりません。
ですが、どうして生きていたのなら、お兄様は今になって行動を起こしたのでしょうか?
もっと早く行動を起こしていたなら、犠牲になった方は今よりも少なかったはずです」
ゼロレクイエム(第一段階)から4年。その間に世界に刻まれた亀裂、広がっていった争いの連鎖、繰り返されてきた悲劇。
結果、生み出された多くの犠牲と被害。もし仮にゼロ、いやルルーシュがもっと早くに行動を起こしていたなら、その規模は現状よりも少なかったのでは、と考えてしまうのは至極当然の事だ。
理由は幾つか考えられる。
その中でも可能性が特に高い推論は二つ。
一つは何らかの方法で存命したルルーシュだが、活動を再開できるまで回復するには時間が掛かったという身体的な理由。
そしてもう一つが、彼得意の演出。緩やかに荒廃する現状の世界。またそれに対処できない無能な指導者達に民衆が失望感や不満を抱き、そして変革を望む。その想いに応えた英雄が再び立ち上がり、変わらない世界に挑む。
自分達の想いを体現する英雄の姿、行動に魅せられた人々は、例えそれが強行な手段だとしても、正義という名の幻想によって受け入れてしまう。
人々は英雄を支持し、英雄は望むままに力を振るう事が出来る。最も効果的な時期を選び、その瞬間に至るまで傍観に徹していたのかも知れない。
彼の性格や思考をよく知る者なら、後者で間違いないと考えた事だろう。
「いえ……、本当に聞きたいのはその事ではありません。
もしスザクさんの語った言葉がゼロレクイエムの本当の全容だとしたなら、どうして
彼女の言葉には多少の怒気が含まれていた。本人にはその意図はなく、本当にただ疑問をぶつけているだけなのかも知れないが、傍目には彼を責めているように思えなくもなかった。
彼女の疑問の真意は『何故約束された行動を取らず、お兄様を裏切ったのか?』に他ならない。
その事にスザクもすぐに気付く。
彼女の最愛の兄ルルーシュは自らの生命を懸けてまでゼロレクイエムを遂行し、英雄としての立場を、延いては二人が想い描いた世界の実現をスザクに託した。
魔王の死と英雄の誕生。
そして英雄による人類浄化がセットであると、スザクは自ら口にした。
だがこの4年間、ゼロの仮面を受け継ぎ、英雄としての立場を手に入れたスザクが強硬な手段に出る事はなかった。
第一段階の成否を見極めるのに時間を要した。
人の意志が変わる可能性に懸けた。
今はまだ時期ではないと考えた。
雑務に追われていた。
考えられる理由はいくつもあるだろう。
しかし、もしその理由が恐れからくる躊躇いによるものならば、それは最愛の兄に対しての裏切りに他ならない。
仮に彼女の考えが事実だとすれば、怒気を抱くのも無理はないことだ。
「君の言いたい事は分かるよ。でも……」
自分の手をこれ以上汚したくはない。そう少しでも考えなかったと言えば嘘になるだろう。
だけど動かなかった理由はもちろん別にある。
「第二段階、新世界構想としてのゼロレクイエムは凍結されたんだ」
そう、第二段階は実行されない。
してはいけない。
しないでくれ。
それが世界が少しでも良い方向へ変わるなら、自分の命を捧げても構わないと覚悟したルルーシュが見せた最後の弱み。
「何故ですか?」
素直に疑問を問い掛けてくるナナリーに対し、スザクは一瞬躊躇うかのような複雑な表情を浮かべる。
だがすぐにその表情を消し、彼女の問いに答えた。
「当初計画は概ね順調だった。多少の抵抗はあったけど、ブリタニアという国の仕組みを変える事に成功し、超合集国への参加──いや、その掌握に道筋を付ける事が出来た」
最大の反抗戦力だった旧ナイトオブラウンズメンバーの排除以降、ブリタニア領内における反乱は沈静化し、皇帝ルルーシュに表立った反抗の意志を示す者はいなくなった。
領内を平定したルルーシュは、神聖ブリタニア帝国の超合集国参加を表明。単身評議会開催地に指定したアッシュフォード学園へと乗り込んだ。
その目的は当時の超合集国の仕組みを利用し、事実上超合集国を支配下に置くこと。
だが当然、ルルーシュの企みは黒の騎士団幹部に予見されていた。
さらに言えば、彼等はルルーシュが特別な力=ギアスを保持している事を知っている。何ら対策を講じないわけがない。
ただ『黒の騎士団』が主導したその行為は政治と軍事力を切り離した超合集国の運営上、明かな越権行為であったのだが……。
故にスザクはランスロット・アルビオン単機での電撃作戦を実行。評議会場を強襲し、参加国代表を人質とした。
望んだ結果を得るため、ゼロレクイエム成功のためには、もはや手段は選ばない。武力によって制圧することになることも想定の内。
これで超合集国をある程度掌握することが可能となるはずだった。
しかし────
「だけど想定外の問題が起こってしまった。もう分かるよね? そう、浮遊要塞ダモクレスの出現だ」
浮遊要塞ダモクレス。神聖ブリタニア帝国第二皇子=シュナイゼルの指揮の下に建造された全高約3キロという巨大な天空城であり、大量破壊兵器フレイヤを搭載し、なおかつ鉄壁の防衛システムを保有。最終的に衛星軌道上まで上昇し、地上全てを攻撃範囲とすることを可能とした超戦略兵器。
第二次東京決戦以降、ブリタニアを離れ、姿を隠していたシュナイゼルだが、ダモクレスによるフレイヤ攻撃を以てルルーシュが治める神聖ブリタニア帝国に宣戦布告した。
それによりブリタニア帝都ペンドラゴンは消滅。中枢を失った事により、ようやく平定した国家の基盤が揺らぎ、結果的に事態はそのまま世界の覇権を懸けたダモクレス戦役へと突入していく事となる。
ダモクレスについては、ルルーシュが皇帝の座に就いた時点で、ある程度の情報を掴んでいた。
だからこそブリタニア領内の平定と超合集国の掌握を急ぎ、武力による制圧という手段を選ぶ最大の要因となった。
けれどダモクレスの完成は彼等が予想していたよりも早く、後手に回らざるを得なくなってしまう。
それでもルルーシュとスザクの協力と、フレイヤの生みの親であるニーナ・アインシュタインが開発したフレイヤ・エリミネータによって、鉄壁を誇るダモクレスを攻略。
ダモクレスの制御権を手中に収め、シュナイゼルを従属させる事に成功する。
本来なら問題はそこで解決するはずだった。
「……そしてもう一つ」
スザクは躊躇いを抱きながらも言葉を続ける。
「ナナリー、君だ」
「……え」
自分の名前を告げられ、ナナリーは困惑の表情を浮かべた。
「ルルーシュは君がフレイヤの発射スイッチを押してしまった事を知り、ゼロレクイエムの第二段階を凍結したんだ」
ルルーシュにとって最大の誤算だったのは、ナナリーがシュナイゼルの担いだお飾りの皇帝=自分に対する人質ではなく、彼女自らの意志でフレイヤの発射スイッチを押し、その手を汚してしまったという事実。
“撃って良いのは撃たれる覚悟がある奴だけだ”
その理念に従えば、裁きの対象として最愛の妹を殺す事になる。
世界を敵に回し、自らの命を懸けてでも世界を変えようとしたルルーシュ。
その変革を望む想いの根底に存在していたのは、妹の無事と彼女が平穏に暮らせる世界の構築に他ならない。現に当初は彼女を守る事が出来るなら、どんな犠牲も厭わないと考えていた。
そんな彼が自らの手で、自らの策で最愛の妹を殺す事など、絶対に受け入れられることではなかった。
彼も完璧な人間ではない。特別扱いは出来ないと理性では理解していても、感情を押し殺し、本来の自分を否定する事が出来なかった。
故に彼は最後に世界よりも妹を選び、その代償を自らの命で支払った。
ゼロレクイエムは確実に実行する。
人類の歴史が続く限り、悪意と憎悪の対象として悪逆皇帝であり続ける。
約束通りお前が俺を殺せばいい。
他には何も要らない、だからナナリーだけは殺さないでくれ。
それこそが彼が本当に望んだ最後の願いであり、スザクはその願いを受け入れた。
なのに彼は再び、自ら人類浄化の道を歩み始めている。
その事実を考えた時、改めてスザクは疑問に思う。
果たしてあのゼロ=ルルーシュは、本当に自分が知るルルーシュなのか、と。
「……そんな……お兄様」
スザクの言葉にナナリーの瞳から涙が零れ落ちる。
ただ、その心中は複雑なものだった。
最愛の兄が世界よりも自分を選んでくれたことはこの上なく嬉しい。
しかし自分の存在が、起こした行動が兄達の計画を歪めてしまい、その結果、未だに世界は争い続けている。
背負った十字架が重みを増す。
兄が自らの命を懸けて守った世界を、自分は守り抜く事が出来なかった。
その状況に業を煮やしたのだろう。
“ナナリー、お前には失望した”
5日前、再会した兄が放った冷たい声が脳裏に響き、ナナリーはギュッと拳を握り締める。
「ねえ、スザク」
名を呼ばれ、スザクは声の主であるカレンへと視線を向ける。視界に映り込んだ彼女の姿は、先程までの弱さを感じさせなかった。
吹っ切れたのか、それとも思考を最適化したのか。いや、例え迷いながらでも、自分が求められた動きができる事が彼女の長所でもある。
「貴方の話が事実だとしたら、ルルーシュは新世界の構築、人類意志の浄化を行おうとしている。それで良いのよね?
でも、それならどうしてルルーシュはギアスを使わないの?」
ギアス、それは常識を逸脱した超常の力。
5年前、ルルーシュは『魔女』=C.C.との契約によってギアスを手に入れた。
発現するギアス能力は個々によって異なる。契約者の潜在的願望が影響すると考えられているが、彼に発現した能力は『絶対遵守の力』=他者に一度だけ如何なる命令をも下せる能力だった。
その力は対象者の想いや信念さえ無慈悲に歪めてしまう。
彼はギアスと持ち前の知略を用い、当時日本解放を掲げて神聖ブリタニア帝国に挑んだ黒の騎士団のカリスマ的指導者=ゼロとして、不可能を可能とする数々の奇跡を起こし、確固たる地位を築いた。
しかし4年前の第二次東京決戦直後、シュナイゼルの策謀により、黒の騎士団幹部にギアスの存在が露見。彼は指導者の立場を追われ、秘密裏に処刑されそうになった過去がある。
ただ、世界が超合集国とブリタニア帝国に二極化されていた当時の世界情勢──特に超合集国側への影響──を、そして黒の騎士団が置かれていた立場を踏まえ、ギアスの存在が公に公表される事はなかった。
その為、現在でもギアスの存在、またルルーシュ及び当時のゼロがギアス保持者であった事実は、極一部の者のみが知る極秘事項となっている。
当時からゼロの右腕だった紅月カレンも、ギアスの存在を知る者の一人だ。
スザクにも彼女の言いたい事が理解できた。ギアスの存在を知る彼女の疑問は極めて単純なものだ。
他者に絶対の命令を下せるギアスを使用すれば、英雄という仮面も、漆黒の騎士やフレイヤといった戦力も必要ない。
それこそ全人類にギアスを掛け、人類の意志をねじ曲げてしまえば良いだけのこと。
そうすれば、何もより多くの血を流し、これ以上生命を奪わなくても、スザクが語った新世界の構築は成し遂げられるだろう。
それなのにルルーシュは再びゼロを名乗り、漆黒の騎士を立ち上げ、フレイヤを使用する。
何故?
その疑問こそが疑惑の最大の核心なのかもしれない。
ギアスを使用しない理由も、幾つかは思い付く。
全人類にギアスを掛けて創造した世界は、果たして本当に人類の意志を変えた事になるのだろうか?
答えは否だ。それでは人類自らが新しい未来へ踏み出したのではなく、押し付けられた理想を否応なく実行しているだけ。そうなれば多分二度と人類は自らの意志で先へ進む事は出来なくなる。
それでは結果的に彼等が否定し拒絶した──今日という現在で世界を固定しようとした──シュナイゼルの考えと同じ、変化なき日常となってしまう。
だが彼等が望んだのはあくまで新しい明日。
その実現の障害となるのなら、ギアスの使用を躊躇い、拒む事も頷ける。
また別の理由で考えられるのは、使用しないのではなく使用出来ないという事態だ。何らかの理由でギアス能力自体を失った、もしくは封じられている可能性がある。
その場合、この場でスザクだけが持ち得たルルーシュ生存の仮説が現実味を帯びる。
コードの継承。
コードを継承したギアス保持者は不老不死の肉体を得ると同時、保持していたギアス能力を失う。ギアス能力に依存していた者にとって、まさに無限地獄と呼べる日々なのかもしれない。それが、コードが呪いとも呼ばれる要因だ。
けれどギアスに頼りきることがなかった彼にとっては、呪いでも何でもないだろう。
ギアスの授与者であり、コード保持者であったC.C.は、最後までルルーシュにコードを押し付けるような事はしなかった。
だけどコードは一つではない。4年前、Cの世界で対峙した彼の父親=シャルル・ジ・ブリタニアも、兄=V.V.からコードを奪い、コード保持者となっていた。
最終的にCの世界に呑み込まれ、その存在を失ったシャルルだったが、もしその前後に彼が保持していたコードを、ルルーシュが手に入れていたとしたら……。
それはあまりに突飛で荒唐無稽な考えだろう。
しかしこの世界に常識を逸脱した存在、力、システムが現存している事実を知り、関わってきたスザクには、それは簡単に否定できる考えではなかった。
「確かに可能性は幾つか思い付く。けど、本当のことは僕も分からない」
スザクは自分の考え=推測を語ることなく、事実のみを告げる。
「……そう」
対するカレンは望んだ答えた手に入らなかった事に対して、スザクを責めることなく、落胆する様子も見せなかった。
「どうやら直接本人に聞くしかないみたいね」
その言葉にスザクは少し驚いたが、彼女らしい考えだと納得する。
「で、これからどうするの?」
カレンは過去の疑問を振り払い、現状自分達が直面している最も重要な問題をスザクに突き付けた。
「漆黒の騎士から襲撃を受けた立場としては、現状彼等は黒の騎士団の敵という認識で間違いないわよね? だけど世界はもう
黒の騎士団を強襲した漆黒の騎士は本来なら加害者の立場であり、超合集国連合が目指した秩序を乱すテロリスト扱いが妥当だったはず。
だが世界は彼等をテロリストとは認識していない。
彼等は既にこの世界から一時的でも紛争を根絶したという実績を残してしまった。
何より彼等を率いているのは救世の英雄であり、正義の象徴たるゼロなのだ。ゼロレクイエムから4年が経過した今でも、彼の事を崇拝する者は数多く存在する。
まさにこの世界に対して、フレイヤよりも強力な、最も強大なカードを握っている事になる。
ゼロの言葉が受け入れられた結果、窮地に立たされる事になるのは黒の騎士団の方だ。
「そんな状況下じゃ組織を立て直す事すら出来ないわよ」
カレンの言葉は正しい。
今回の一連の事態を受け、黒の騎士団を支持する人も国家も減っていく。
そうなれば超合集国参加国から受けていた数々の支援が止まる。
一方物資の面だけなく、『象徴』を失った事により、人材の面でも流出が始まるのは目に見えている。ゼロの存在しない黒の騎士団に所属する意味はないと考える者は少なくない筈だ。
このままでは黒の騎士団という組織の瓦解は、時間の問題なのかも知れない。
「わ、私は一度ブリタニア本国へ戻ります」
兄の想いを改めて知り、自分の愚かさに打ちのめされ掛けていたナナリーだったが、自分が今、本当に目を向けなければならない問題に対して、為さねばならない事を自覚していた。
流石は皇帝の地位に就く人間ということか。
「コゥ姉様からの連絡によればシュナイゼル兄様と、4年前お兄様に仕えていた元兵士の方々が5日前=ゼロが行った宣言の直後に姿を消したそうです」
「ッ……」
初めてその事実を聞かされ、ナナリーの言葉にスザクは動揺する。この展開はゼロが宣言──いや、力ある者に対して宣戦布告を行ったと聞いた時点で考えられた事だ。
ルルーシュがシュナイゼルに掛けたギアスは、自分にではなく「ゼロに仕えよ」というものだった。事実ゼロレクイエム以降、シュナイゼルはゼロとなったスザクに仕え、知略の面から彼を支えてきた。
しかし、真のゼロが蘇ったとしたなら、彼が起こすべき行動は一つしかない。
そして4年前、ゼロレクイエム成功のために、ルルーシュが兵士=駒とした者達には「奴隷となれ」というギアスが掛けられていた。
もし、彼等がゼロの下へ集うために姿を消したとすれば、ゼロ=ルルーシュとする考えはより確実なものとなる。
「国内が混乱している現状、国の代表としてこれ以上自国を離れているわけにもいきません。
それに黒の騎士団に対する支援をこれまで通り行うように、議会を説得してみるつもりです」
ナナリーはルルーシュの妹としてではなく、皇帝としての立場でブリタニアへと戻る決意を固めていた。ブリタニア国内においてナナリーは──ゼロには及ばないが──高い支持を得ている。
彼女が議会を説得できれば、漆黒の騎士へと傾きつつある流れを、一時的にでも止められるかも知れない。
そうなれば世界最大の国家であるブリタニアからの支援は継続され、黒の騎士団としても当面の物資は確保できるだろう。
「ありがとう、ナナリー」
カレンは心から感謝の意を述べた。
「いえ、私にできる事は本当に限られています。私にはカレンさんのように戦う事ができませんから……」
ナナリーは一度視線を動かない自らの脚に視線を落とし、複雑そうな表情を浮かべた。
もしこの脚が動いたなら、もしKMFの高い操縦技術を持っていたなら、自分は再び兄と直接戦えたのだろうか?
兄の本当の想いを知り、兄の居ない世界に絶望さえした自分が……。
脚が動かず、戦う能力を持っていない。
それが兄と直接戦わなくても良いという免罪符なのだろう。
果たしてそれを忌むべきなのか、それとも歓喜するべきなのか……。
「大丈夫よ、ナナリー」
カレンはナナリーの下に歩み寄り、そっと彼女の手に触れる。
「貴方には貴方にしか出来ない事があるわ、ナナリー。
それは絶対に私にはできない事よ。
でも……もし彼と、ルルーシュと戦う事になったとしたら、私は貴方の分まで戦うわ」
彼女は自らの決意を告げ、ナナリーに誓う。
「カレンさん」
ナナリーはその想いに応えるように手を重ね、カレンもまた強く頷いて応える。
「スザク、貴方はどうするの?」
カレンはスザクに問う。
ルルーシュと戦うのか、と。
戦えるのか、と。
「僕は……」
スザクは続く言葉を濁すように躊躇いながら呟いた。