──気がつくとそこは遊戯王の世界だった。
──気がつくとそこは遊戯王の世界だった。
昔、俺がガキの頃テレビで見た遊戯王GXの舞台。
『俺、高校はデュエルアカデミアに行く!』
などとほざいた幼少期は今でもよく覚えている。
少ない小遣いをカードに費やし、デッキを組むのに勉強にも使わない頭を回し、金を時間を労力を、1つのカードゲームに費やした。
新しいパックが出れば中身も知らずに買いあさり、レアカードが出れば効果も知らずに歓喜したもんだ。
年を重ねればそれも収まるかと思うのだが、むしろ逆だ。年をとって知識は増え、物の価値がちゃんとわかり、そして財力も整い始めた頃。
俺は日々を遊戯王に費やした。
バイト代はすべてカードに費やし、デッキを組むのにテストの時間を費やした。授業中もデッキ、コンボ、戦術。果てにはカードを引く確率なんかも計算したね。期待値が云々、今じゃあなんにもわかんないけどな。
そうして俺は大人になった。
大学を出て、就職して、上司にしごかれ嫌みを言われ、働かされて働かされて。何の代わり映えもない、はっきり言って空虚な毎日だ。
沢村浩二、25歳。独身、会社員、ついでに童貞。
アパート6畳1間、1人暮らしの自宅。プラスチックの棚を開ければそこにあるのは昔使っていたデッキ。
あの頃は楽しかった。馬鹿なガキだったから、何にも考えずにただ笑ってただ遊んでた。今みたいに人の評価を気にしてビクビクしたりおべっか使ったり、人を憎みながら当人の前で気丈に振る舞ったりなんかしなかった。嫌なものは嫌、そして好きなものは好き。
大人の難しい事なんか何も考えず、ただ遊戯王をしていた。
今でも覚えている。初代やDMは流石に記憶に薄いがGXはデュエルアカデミアなんていうデュエルの専門校なんかがアニメでやってて、学生たちの楽しそうな日常が語られていた。いずれは世界を賭けた大事件になったりしてな、救っちゃうヒーローには憧れたもんだ。
GXが一番記憶に残ってるよ。当時小学生高学年だったからね、一番そういうのに憧れた時期だ。
それから始まった5D'sにZEXAL。シンクロにエクシーズなんていう新しい召喚法にはその度に戸惑ったし、エクシーズのときには大学生だったから批判もしたな。だけど結局は楽しんだ。今俺の手にしてるこのデッキもエクシーズデッキだしな。当時19にもなって口上を叫んだくらいだ。
アニメもカードも最高に最高だった。10年以上ものめり込んだ最高のゲームだ。
今どうなっているかは知らないが──いや、大幅なルール改正に荒れているのはネットの記事を見かけたが、だがそんなものはどうだっていい。そんなもん俺の管轄外だ。俺が大事にしていきたいのはこの思い出と、そしてこのデッキだ。
だが強がってみても、悲しいものは悲しいし、虚しいものは虚しい。
寂しいものは寂しいのだ。
少年の日々はすでに遠く、そしてアニメのような波瀾万丈で刺激的な日々はもう確実にないのだから。
ああ、俺も決闘がメインの世界に生まれたかったな、デュエルアカデミアに通いたかったな。
そんな妄言を想いながらアルコールを入れ、俺は眠りについた。
それから目が覚めると──
──遊戯王の世界だった。
場所はどうやら何かの会場みたいだ。俺は案内されるまま、会場にて他者の決闘を観戦している。決闘をしているのは青い服を着た大人と今の俺と同じくらいの子供だ。大人の青い服には見覚えがある。それはデュエルアカデミアの教員制服。つまりここは遊戯王GXの舞台なのだ。
そして行われているのは入学試験というやつ。
ここはデュエルアカデミア入学試験、実技会場。
召喚されるモンスター、投影されるソリッドビジョン。
あれだけガキの頃夢見た光景が目の前に広がっているんだ、俺は興奮冷めやまぬ気持ちでいた。
加え何の因果か、俺は今ガキの頃の背丈に戻っている。だが覚えているのは草臥れきった会社員の記憶。夢もなく、酒と煙草で誤魔化しながらデッキを宝とほざいた記憶だ。
これはもしかすると、もしかしたのかもしれない。
俺はデュエル場を離れトイレへと向かった。そこで開くのはデッキケース。
「これは……!」
あったのは俺が宝、としたそのデッキだった。
これは俗にいう異世界転成だかトリップだか。違いはわからないぜ。
そんなこと些末に思えるほど俺は昂ぶっていた。
俺が俺のデッキを持って若い頃の俺として俺がデュエルアカデミアの試験を俺が受けてるぞおい。日本語が不自由だが仕方ない。それくらいに今俺は有頂天で最高潮なんだ。オレオオレオお前の前の棚の俺のオレオとってオレオ。
デュエル場に戻り改めて会場内を見るといくらか発見があった。
──そこの誰もが、低レベルモンスターしか使わないのだ。いや、中級上級もいるみたいだけどそんなのは一握り、大抵のやつが低級モンスターを遣り繰りしているのだ。そして、これが一番重要、シンクロモンスターにエクシーズモンスターが、いない。
これがなにを意味するかと言えば、つまりこの世界がGXくらいの時代だということになる。
俺があれほど望んだその世界に、今、本当に来ている。
嬉しかった。ただ本当に嬉しかった。歓喜しかなかったね。
『俺、高校はデュエルアカデミアに行く!』
幼少期の俺の言葉だ。喜べ、お前の思いは戯言に終わらなかったぞ。
夢が叶ったんだ。戻りたかったガキの頃に、そして遊戯王の世界に、本当に来ちまったんだ。
そして、だ。今俺が持っているデッキはこの時代にない超テクノロジー、いわばオーパーツであるエクシーズデッキ。もちろんシンクロのギミックも詰め込んでいる。
これはなんだ、あれか、二次創作なんかで見る俺TUEEEEEEEEを本当にやっちゃっていいのか!?
このデッキでなら絶対勝てる。何てったって俺の宝だ。この時代の主人公の結城十代にだって勝てるに決まってる。融合? HERO? 漫画版を使わないHEROなんてたかが知れてる。オイオイこれじゃ…Meが主人公じゃないか!
沢村浩二。俺は俺の名前が嫌いだ。だって『ゆう』の字がないから主人公にはなれないし『じょう』の字がないから親友キャラでもない。ついでに『あ』から始まらないからヒロインでもない。どんなデッキかわかる名前じゃないから脇役ですらない。え、沢の付いたキャラクター? いねーよ。
こんなのモブだ。モブもいいところ、モブ中のモブ、カードで言えばバイオ僧侶以下だ。くちばしヘビにさえ負けるね。
だがこの状況、この与えられた機会。
今日、俺の物語は始まる。決闘生活が幕を開ける……!
──俺は、主人公になる。
そしてやってきた試験の順番。
「では試験管として君の腕を試させてもらうぞ。じゃあ先攻は……」
「先攻はもらった!」
「なっ……む、まあいいだろう。はは、元気がいいじゃないか」
試験管は苦笑する。
年甲斐もなくはしゃぎすぎな気もするがだが俺の今の外見年齢は中高生。そして俺はここが遊戯王の世界だと知っている。
この世界は基本的に勢いが命。最悪俺ルール──は無理だとしても、先攻の奪取くらいは可能なのだ。
「俺のターン、ドロー。俺は手札からレッド・ガジェットを召喚! 効果でデッキからイエロー・ガジェットを手札に加える。カードを2枚セットしてターンエンド」
レッド・ガジェット
効果モンスター
星4/地属性/機械族/攻1300/守1500
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。
デッキから「イエロー・ガジェット」1体を手札に加える。
「──ガジェットデッキ。面白いノーネ」
不意に聞こえたその声には聞き覚えがあった。そちらを見れば、かの有名なクロノス・ディメチ教頭先生。
まさか試験を見にきているのか。
観客席の一部、傍らに他の試験管を従えたその姿は正に大御所。大物の風格を纏いクロノス先生がいる。
クロノス先生はGXでもかなり好きなキャラだ最初こそアレな人だが、終盤にはとてもいい先生だった。是非とも仲良くなっておきたい。
そういえば先生のデッキは
なにせ俺には未来のカードがある。
入試に現れた謎の召喚使い! 俺こそが主人公だろう。
「ガジェットか、いいデッキを使うじゃないか。だが甘いぞ、ガジェットを攻撃表示で出すとは」
しまった。そうか、アニメは守備表示で召喚できるんだった。これはミス。アニメは若干ルールが違うのか。だとすればアニオリ効果もあるのか、そうかそうか。この俺、ただでは転ばんぞ。今後の対策にさえ変える俺。もうこのまま覇王になっちゃうわー(適当)
「私は手札からゴブリン突撃部隊を召喚。そして装備魔法デーモンの斧。ゴブリン突撃部隊に装備する!」
ゴブリン突撃部隊
効果モンスター
星4/地属性/戦士族/攻2300/守 0
このカードは攻撃した場合、バトルフェイズ終了時に守備表示になり、
次の自分のターンのエンドフェイズ時まで表示形式を変更できない。
デーモンの斧
装備魔法
(1):装備モンスターの攻撃力は1000アップする。
(2):このカードがフィールドから墓地へ送られた時、
自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動できる。
このカードをデッキの一番上に戻す。
ゴブリン突撃部隊の攻撃力が3300に跳ね上がる。
これじゃあ社長の嫁の3000でも粉砕☆玉砕☆大喝采じゃないか。
「どうだ中学生、この攻撃力。せめてレッド・ガジェットを守備で出してればダメージは受けず、そして次のターンでゴブリン突撃部隊をライフを減らさずに倒せたんだ。少しは学ぶんだな。ではゴブリン突撃部隊でレッド・ガジェットを攻撃!」
「果たしてそうかな。学ぶのは試験管、そっちの方だ! 罠発動! 聖なるバリア ─ミラーフォース─」
「なにィ!?」
破壊されるゴブリン突撃部隊。
「どんなに高い攻撃力でも罠1枚で沈むんだよ!」
こちとら3000オーバーが簡単に出せて簡単に倒れてく世界を知ってるんだ、こんなぬるま湯環境じゃ相手にならないね。
「クッ、俺はカードを1枚伏せてターン終了……」
「おいおい、何を勘違いしてるんだ、まだお前のバトルフェイズは終了してないぜ」
「は?」
「罠カード発動、地の代償! ライフを500払いイエロー・ガジェットを召喚。効果でグリーン・ガジェットを手札に。血の代償の効果発動、ライフを500払いグリーン・ガジェットを召喚。効果でレッド・ガジェットを手札に。血の代償の効果発動、ライフを500払いレッド・ガジェットを召喚。効果でイエロー・ガジェットを手札に」
血の代償
永続罠
500ライフポイントを払う事で、モンスター1体を通常召喚する。
この効果は自分のメインフェイズ時及び
相手のバトルフェイズ時にのみ発動できる。
イエロー・ガジェット
効果モンスター
星4/地属性/機械族/攻1200/守1200
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。
デッキから「グリーン・ガジェット」1体を手札に加える。
グリーン・ガジェット
効果モンスター
星4/地属性/機械族/攻1400/守 600
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。
デッキから「レッド・ガジェット」1体を手札に加える。
そう、俺のデッキはただのガジェットじゃない、代償ガジェットだ。
ライフが残り2500しかないが、これでモンスターは揃った。あとは次のターンでガッチャだ。
「なん、だと? 一度に3体のモンスターを召喚だと……?」
会場全体が驚きに包まれる。
なんだあれ、おいあいつすごいぞ、一度に3体!? どんなイカサマだ、イカサマじゃねえよ、すっげぇ、よくあんなの思いついたな……。
囁かれる賞賛の声。いいぜいいぜ。盛り上がってきた。
「さあ試験管、お前のスタンバイフェイズ2だ」
「くっ、私はカードを1枚伏せてターンエンドだ」
「俺のターン、シャイニングドロー!」
カードは創られて──いない。まあノリで言っただけだし。
「この瞬間罠発動、リビングデッドの呼び声! 私は墓地のゴブリン突撃部隊を特殊召喚! どうだ、これでもう攻撃できまい」
リビングデッドの呼び声
永続罠
(1):自分の墓地のモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。
そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。
そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。
「いーやいや。甘い、甘いなあ。お菓子は甘いけど俺はマシュマロンみたく甘くないぜ」
「ガジェットの攻撃力は高くてもグリーン・ガジェットの1400。2300のゴブリン突撃部隊を倒せるはずがない!」
「魔法発動サイクロン。攻撃力? 関係ねぇよ! リビデと一緒に地獄へ逝け!!」
リビングデッドの呼び声の破壊によりゴブリン突撃部隊も一緒に破壊される。
「くっそ、俺の出世がまた遠のいた」
「関係ねぇよ! 出世と一緒に地獄へ……はどうでもいいか。さあいくぜ、せっかくだから召喚するぜ、俺の最強モンスター!」
「何!? まだ召喚するのか!?」
さらにざわめく観客席。
俺はクロノス先生を見る。さあ見ててくれよ先生、そして会場の全員。お前等は今から始まる俺の伝説の生き証人だ!
「俺はレベル4、レッド・ガジェットと、レベル4グリーン・ガジェットで──
──オォォォォヴァアアレェェェエエエイ!」
高らかに、叫ぶ。
「2体のモォンスターでオーヴァーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! ランク4、No.39 希望皇ホープ!」
ランク4、攻撃力2500、そしてエクシーズ召喚という未知なる召喚。
さあ群衆よ、湧け。そして歓声を上げろ!
現れた黄色い戦士に会場は盛り上が──らなかった。
そもそも、そこに戦士は召喚されなかった。
ここにあるのは4体のガジェットと、困惑した会場の空気だけだった。
「あれ、あっれー、おっかしーなー。おい、おーい。デュエルディスクが反応しないぞー?」
ぺしぺしとホープをデュエルディスクに叩きつける俺だが、デュエルディスクはうんともすんとも反応を示さない。
──まさかっ。No.はダメなのか? そうかまだ遊馬くんがクルゾの記憶を散らしてないもんな。仕方ないね。
仕方ないからもう一回やろう。
俺はクロノス先生を見る。さあ見ててくれよ先生、そして会場の全員。お前等は今から始まる俺の伝説の生き証人だ!
「俺はレベル4、イエロー・ガジェットと、レベル4レッド・ガジェットで──
──オォォォォヴァアアレェェェエエエイ!」
高らかに、叫ぶ。
「2体のモォンスターでオーヴァーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! ランク4、カチコチドラゴン!」
ランク4、攻撃力1900の2回攻撃、そしてエクシーズ召喚という未知なる召喚。
さあ群衆よ、湧け。そして歓声を上げろ!
現れた岩石の竜に会場は盛り上が──らなかった。
そもそも、そこに竜は召喚されなかった。
ここにあるのは4体のガジェットと、困惑した会場の空気だけだった。
「あれ、あっれー、おっかしーなー。おい、おーい。デュエルディスクが反応しないぞー?」
ぺしぺしとカチコチをデュエルディスクに叩きつける俺だが、デュエルディスクはちっともなんとも反応を示さない。
そうして思い至る。
──まだエクシーズには、対応していない!
「……」
誤算だ、大誤算だ。いやそんなまさか、でも、この時代に存在してないカードですもんね。天下の海馬コーポレーション様も知らない召喚法までソリッドビジョンに展開してくれませんよね。
明らかに海馬コーポレーションもインダストリアル・イリュージョン社も関与していないカードがアニメではソリッドビジョンシステムに対応してるけど、あれはその時代のアニメ制作会社が関与してるだろうしなあ。部外者の俺にまでご都合主義は恵んじゃくれないのか。
「ならば致し方ない、俺は手札からTG ストライカーを召喚」
エクシーズがダメならシンクロだ。俺の伝説が今始まるッ!
オーバーでトップなクリアでマインドが俺を待ってる。逝けスピードの境地、デルタアクセルシンクロ! 俺はゴールドレアだぁぁあああ!!
……そして、何も起こらなかった。薄々予想してはいたけど、チューナーもダメなんですね。これじゃシンクロもダメでしょうね。
俺の高速回転するやる気は空回りして遙か彼方まで突き抜けていく。それは大気圏を超え、オゾンより上に行くのだが問題なかった。
「人生上手くいかねえなあ」
夢が叶ったと思ったら叶っていなかったり。
こんなんじゃ満足できねぇぜ。
「君、いい加減にしなさい。故障なら故障と早くいいなさ……なんだねこのカードは」
見回りにきた、審判のような役回りの人が俺のカードを取り上げる。散々デュエルディスクに叩きつけた、未来のカードを。
「おいなんだこのカードは、こんな真っ白なカードと真っ黒なカード、見たことないぞ」
「バトルフェイズ! ガジェット4体でダイレクトアターック」
「ぐあぁーっ」
試験管 LP 4000 → 0
「君、ちょっと来なさい」
「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜって、痛い!」
俺の腕を掴む審判。痛い、外れない。
審判は何かを確かめるように観客席を見た。釣られて見れば、そこではクロノス先生が残念そうに首降っていた。そしてまるで、『連れて行きなさい』とでも言うように余所を指さした。
「おい痛いって、感じねぇよ蟹じゃねえもん。リアルファイトとかやめろよお前も決闘者だろうが。おい決闘しろよ、俺を決闘で拘束しろぉぉぉぉぉおおおおおお!!」
結果から言えば俺は今日、決闘に勝って試験に落ちたのだった。
自宅までの道中、俺は落胆し続けた。
成り行きで帰ってきてしまったが、自宅は俺の実家と同じ場所にあった。
「どうだった、結果?」
母親が期待した顔で聞く。
「落ちたよ」
「……負けたの?」
「いや、反則だってよ」
いわゆるジャッジキル。自分で作ったカードを持ち込むなと俺は厳重注意を施され強制送還。
母は血相を変え、一体何をしたのか問いただした。
俺だって正々堂々やった結果なのだ、こちらが悪いなんて言われたって納得なんかできない。
「俺は落胆したよ! この世界に! 自分の甘さに!」
勝手に願って勝手に叶えられて。そうして与えられたこの世界で、俺はただ調子に乗って無様を晒しただけだった。
夢のエクシーズ召喚? 俺こそが主人公だ? うるせえ。
俺が一番甘ちゃんじゃねーか。
見事シンクロとエクシーズと一緒に地獄に逝ったよ!!
俺が抱いたのは落胆。だが不思議と、気持ちは落ちちゃいなかった。
むしろ、煮えたぎ上がる闘志が俺の中じゃ渦巻いていた。
「母さん、ごめん。俺普通校に進学するわ。でさ、俺。大学行ってさ、卒業したら海馬コーポレーションに就職するわ」
「は!? お前急に何言ってんの。今までデュエルしかしなかったくせに、いきなりそんな事……。いい? 決闘者と開発者は違うんだよ? 決闘の腕だけじゃ……」
「わかってる。だけど決めたんだ、俺が世界を変えるって」
世界を変える。それは開発者として。
この世界に連れてこられて、この世界に落胆して。
──なら、全部壊してしまえ。気に入らないなら変えてしまえ。未来を知っている俺ならそれができるだろう。
いつだったか、酒と煙草で延命する、目的すらない俺がどこかにいたらしい。
そんなやつもういない。今いるのは1つの目標を持った、この俺だけだ。
それを成し遂げてこそ、俺が主人公の物語だ。
シンクロとエクシーズ。失われた未来の産物。
紙束と化した、俺の宝と共に。
──もう一度始まった俺の人生。俺の決闘生活は、ゼロから始まる。