魔法少女リリカルなのはStrikerS-King Seong clone of another- 作:炎狼
「拒絶反応?」
聖が運び込まれた病院の待合室で、待機状態に戻ったクラウンから説明を受けていたなのははそんな声を漏らした。
あの後、シャマルによって応急手当を施された聖は、そのまま以前ヴィヴィオが入院していた病院に担ぎ込まれた。
最初は呼吸も荒かったものの、段々と落ち着きを取り戻してきたのでクラウンが今の彼の状態を六課の皆に説明していたのだ。
〈はい。元来、聖様の身体には二つのリンカーコアが宿っています。一つは聖様自身のもの、そしてもう一つはヴィヴィオ様と同じ聖王のものです。しかし、ヴィヴィオ様と違い聖様の中にある聖王の魔力はごく小さな物です。ですので、本来はさほど身体に影響はないのですが、今回の事態は聖王の魔力と聖様の魔力を融合させてしまったことにあります〉
「じゃあ聖くんは、本来使えへんほど小さな聖王の魔力を自分の魔力でブーストしてるってこと?」
話に疑問をもったはやてが首をかしげながら問うと、クラウンはそれを否定した。
〈いいえ、それは少々違います。聖様はいつかスカリエッティらを倒すために数年間をかけて聖王のリンカーコアに自分の魔力を送って育てていたんです。しかし、聖王のリンカーコアが大きくなれば身体にダメージが及びます。ですから聖様は私の機能の一つを使ってリンカーコアを来るべき日まで封印していたんです。
そして、今回自分のリンカーコアと封印を施していた聖王の魔力を解き放って体内で融合させた。と言うことです。しかし、聖王の魔力は聖様にとって身体を蝕む猛毒のようなもの、それを長時間維持し続ければ体への負担は多大なものです〉
「じゃあ今呼吸が落ち着いてるのは?」
〈一時的です。もし、このまま聖様を放置していればあの人は確実に死にます。最高で生きられたとしてもあと三日、最悪の場合あと二十四時間です〉
あまりにも残酷な宣告に六課のメンバー全員の顔が苦悶に歪む。同時に、フェイトがクラウンに問いを投げかけた。
「どうにかする方法はないの?」
その問いは六課全員が思っていたことであり、誰もが聖を救うための方法を模索していた。
すると、クラウンは静かに言い放った。
〈一つだけあります。これを使えば間違いなく聖様を救えます〉
「ど、どんな方法!?」
なのはが声を上ずらせながらクラウンに問うた。クラウンはそれに静かに答えようとした。しかし、
「ダメだよ、クラウン。その方法はあなたが壊れてしまう」
そう声を漏らしたのはマリエルだった。彼女は真剣な面持ちであり、皆もあまり見たことがないマリエルの真剣な様子に疑問を浮かべていた。
〈マリエル様、いいんですよ。私は既に死んでいてもおかしくはない身……だったらこの命、主のために使うと言うのがセオリーでしょう〉
「あなたが言いたい事はわかる。でも! それでも……! あなたを犠牲にして助かることを聖くんが望んでいると思う!?」
「ちょ、ちょ二人とも話が見えてけぇへんから説明を挟んで欲しいて! クラウン、アンタがやろうとしてることってのはなんなんや?」
マリエルとクラウンを仲裁するようにはやてが割って入る。マリエルのほうは「それは……」と口ごもってしまったが、クラウンはいたって冷静に告げた。
〈簡単です。私のシステムの中『魔力乖離』と言うものがあります。本来はリイン様のような融合機とユニゾンをした魔導師と融合機を強制的に引き剥がすシステムですが、それを応用して聖様の魔力と聖王の魔力を引き剥がすのです。
しかし、それをすると私は自身を維持することが出来なくなり、コアからフレーム私に関する全てのものが消えうせます。無論、再生や修復など不可能です〉
クラウンの宣言に誰もが息を呑み、マリエルは涙を流した。しかし、フェイトが最後の望みを見出すようにクラウンに問う。
「手を借りるのは不本意だけど……スカリエッティならどうにかする方法を知っているんじゃない? 聖を生み出したのがスカリエッティなら直す方法だって、それにクラウンが消滅しない方法だってあるはず」
〈ありませんよ〉
まるでフェイトの言葉を断つ様にクラウンは冷たく言い放った。
〈いいですか、フェイト様。もとよりスカリエッティは聖様を道具として利用するつもりだったんですよ? その道具が壊れれば聖様の生態データからまた新しいものを作り出せばいいとも考えていました。そして何より私に自壊プログラムをつけたあの男が私が消滅しないようにするなどするはずがないでしょう〉
「自壊……プログラム……?」
〈あぁ、そういえばまだ話していませんでしたね。先ほど言ったと思いますが、私は本来であれば壊れている身です。ですがなぜこのようにまだ生き長らえているかと言うと、マリエル様のご助力があったからです。私の中に存在する自壊プログラムは決して解くことのできない古代のもの。しかし、マリエル様のお力によって私は何とか生きていると言う感じです。
そして、それももうすぐ終わります。そうでしたよね、マリエル様?〉
クラウンが彼女に聞くと、マリエルは目尻に涙を溜めながら悲しげに言った。
「……うん、私の力でも、管理局のどんなに高度な技術を持ったエンジニアでも……クラウンを延命できるのは最高であと少ししかないんだ……。
でも、だから残された時間を聖くんと過ごして欲しいんだよ!」
「マリーさん……」
なのはも目尻に涙を溜めていたが、そこでクラウンは少しだけ声を荒げたような声音で強く言い放った。
〈その残り短い命を使って聖様が助かるのなら、私は喜んでこの命をささげます。私だけが犠牲になれば、あの人は助かるんですよ……!! 目の前で死に掛けている聖様を私を使って救うか、このままありもしない別の方法を探し続けて彼を死なせるか……どちらが有意義かなんて皆さんわかっているでしょう〉
「せやけど、それは……」
はやては肩に乗って話を聞いていたリインを見つめつつ、首から下がっているシュベルトクロイツを握り締める。
彼女自身、過去に初代リインフォースを亡くしている。それも自分達を救う形でだ。それは決して忘れることなど出来ない記憶であり、シグナム達も同様であった。
誰もが答えを見出せないまま、俯いたり涙を流す者が出る中、凛とした声が響く。
「私は、クラウンの方法が最善だと思う」
そう告げたのは毅然とした様子のシグナムだった。
「シグナム……」
はやてがシグナムを見やるが、シグナムは彼女に軽く会釈をするとクラウンに問う。
「クラウン、お前が言う『魔力乖離』を起動するにはどうすればいい?」
〈簡単です。シグナム様ほどの方であれば私に少量の魔力を注入してくだされば後は私が進めます〉
「そうか、わかった」
シグナムは静かに頷いたが、そこでスバルを含めたフォワードメンバーが悲痛な声を上げた。
「待ってくださいシグナム副隊長! 確かにクラウンを犠牲にするしか方法がないのは私たちもわかります……でも! もう少しだけ猶予を与えた挙げたりとか」
「そうです! もしかしたら聖さんが目を覚ますかも知れないじゃないですか! そのときに聖さんに許可を取ったりからでも!」
声を上げたのはスバルとエリオだった。二人はシグナムに懇願するように前に出てくるが、その二人の肩をヴァイスが掴む。
「ヴァイス陸曹……!」
「……お前等、あきらめるってことをしろ。何でもかんでも万人が幸せになんかなれねぇんだ。いいか? 誰かを救うときに別の何かを犠牲にするなんて事はざらにある。今回お前等が隊長たちを救出できたのはたまたま運がよかっただけだ。人を助けるには犠牲だって必要なんだよ……!!
それに、クラウンはもう覚悟を決めてんだ。それに水をさすような事はここにいる誰にも出来やしねぇ!」
ヴァイスの言葉にスバルとエリオは顔を曇らせる。そして二人はそれぞれティアナとキャロの下に戻ったがその二人にクラウンが声をかけた。
〈スバル様、エリオ様。私のことを思ってくれての発言、本当にありがとうございます。ですが、もういいんですよ。私は十分すぎるくらい楽しい時間を過ごしました〉
まるで笑いかけるようにクラウンは言った。そしてクラウンはマリエルを呼び彼女に礼を告げる。
〈マリエル様、短い間でしたが私のメンテナンスなど本当にありがとうございました。貴女には感謝してもしきれません〉
「……ううん、私も貴女みたいな子の面倒を見られて楽しかったよ。さっきはごめん、覚悟を揺るがすようなことを言っちゃって」
〈いいえ、貴女はお優しいですから。では、なのは様、フェイト様お二人にはお渡ししたいものがあります。レイジングハート様とバルディッシュ様を前に〉
クラウンに言われなのはとフェイトはそれぞれレイジングハートとバルディッシュを前に掲げる。
すると、クラウンのコアが光り二機に何かが送られた。
「今のは?」
〈私の遺書のようなものです。レイジングハート様に預けたものは聖様に、バルディッシュ様に預けたものはお二人かヴィヴィオ様も含めてごらんになってください〉
それだけ言うとクラウンはシグナムの手のひらに乗るように彼女の手に収まった。
「では、行くか」
〈はい。よろしくお願いします〉
シグナムはクラウンを持ちながら聖の病室まで歩みを進めていく。その後ろに続くようになのはやフェイト、はやて達も彼女に続く。
やがて聖の病室まで来ると、聖はベッドの上で一定の呼吸をしていた。どうやら呼吸が落ち着いて眠っているようだ。
それを確認したクラウンはシグナムの手を離れ、フワッと浮かび上がって聖の胸のちょうど真上に浮遊した。
〈では始めます。シグナム様、今から私が陣を展開しますので合図をしたら魔力を送ってください〉
「わかった」
シグナムはレヴァンティンをデバイスモードにすると鞘から抜き放つ。それとほぼ同時にクラウンが発光を初め、ベッドを囲うように陣が形成され始めた。
数秒の後、完全に陣が完成するとクラウンがシグナムに告げた。
〈シグナム様、お願いします〉
その声にシグナムが静かに頷くとレヴァンティンの切先をクラウンに向け、魔力を注入した。
すると、クラウンが静かにシステムを解放し始める。
〈他システムをシャットダウン。全ての魔力を『魔力乖離』へ。魔力チャージ二十パーセント……三十五……五十……六十五……八十……九十五……魔力フルチャージ。『魔力乖離』起動〉
クラウンが告げると、凛の胸元から虹色と銀色の魔力が融合したリンカーコアが抽出された。
その際聖が一瞬苦しげな顔をしたが、『魔力乖離』は進められ、リンカーコアの前に魔力で形成された一本の刃が現れた。
刃はその切先をリンカーコアに向けており、やがてそれは音もなく振り下ろされた。
瞬間、二つに交わったリンカーコアは真ん中から真っ二つに引き裂かれ、そのうち虹色の魔力は空気中に霧散し、銀色の魔力だけが聖の胸に戻っていった。
〈全工程……終了……。ご協力……感謝、します。シグナム……様〉
「礼には及ばないさ。……ゆっくりと休め、我が盟友クラウン」
シグナムに言われ、クラウンは満足げにコアを光らせた。すると、それを見ていたレイジングハートやバルディッシュが声を発した。
〈おやすみなさい。クラウン〉
〈静かに休め、我が友〉
〈は……い、おやすみ、なさい。お二人……とも〉
クラウンの音声はノイズ混じりになってきており、フレームやコアにはビシリと生々しい亀裂が入っていく。
それに目を背ける者もいたが、はやての肩に乗っていたリインがそんなクラウンに触れてキスを施した。
「お疲れまでした、クラウン……」
〈そう、ですね……貴女ともたくさん、話すことが……できて、楽しかった……ですよ、リイン様……では、皆さん……本当におやすみなさ……〉
そこまで言ったところでとうとう限界が来たのか、クラウンはその姿をサラサラと砂のように崩れながら消した。
その後には本当になにも残らず、クラウンのかけら一つさえも何も残らなかった。
しかし、なのはとフェイトは最後の言葉の続きを聞いたような気がした。それはクラウンが残した聖に対しての最後の言葉……。
……貴方と過ごせて、私は幸せでした。さようなら、聖様……。
こうして、スカリエッティたちの事件は本当の意味で幕を閉じた。幸い魔導師の犠牲者は出なかったものの、ただ一機。主の命のために己の命を擲ったデバイス『クラウン』が尊い犠牲となった。しかし、これを知るのは六課のメンバー達だけである。
クラウンがその命を犠牲にして聖を救った翌日の夕刻、聖は目を覚ました。
最初は聖が目を覚ましたことになのはとフェイト、ヴィヴィオが涙を流して喜んでいたが、やがて、話はクラウンのことに切り替わる。
しかし、なのはもフェイトもなんと言えばいいものかと悩んでいた。しかし、言わないわけにもいかず二人はおずおずと話し始めた。
「あの、ね。聖くん、落ち着いて聞いて欲しいんだ。クラウンのことなんだけど……」
「ああ……死んだんだろ? 俺を救うために」
「え?」
「聖、誰から聞いたの!?」
二人が疑問を浮かべていると、聖は悲しげな笑みを見せながら肩を竦めた。
「夢の中でさ、クラウンが『さようなら』っていってたんだよ。だから、なんとなくかな。あとはいつもみたいにやかましく声を出してこないからさ。……そっか、アイツ死んだのか……」
聖は天井を仰いだものの、その目尻には涙がたまっていた。それを見ていたなのはとフェイトが顔を見合わせると、なのはは昨日クラウンから預かったものを端末に送信して聖に見せた。
「聖くん、昨日クラウンから預かったものなんだけど聞いてくれる?」
「クラウンから?」
聖は端末を受け取ると画面を見る。画面には音声ファイルを再生していると思しきウィンドウが展開されており、数秒の後クラウンの声が聞こえた。
『どうも聖様、これを見ているという事は私は既に……なんてことは言いません、え? 何でかって? めんどくさいからですよ。ありきたりでしょ?
まぁそんな事は置いといて、どうやら無事助かったようで何よりです。けどあれでしょ? どうせ私がいなくてなきそうにでもなってるんでしょ? もしそうならなっさけないですねー、そんなんでなのは様たちとやっていけるんですかねぇ。先が思いやられますよヤレヤレ』
すると、聖はそこで再生を止めた。二人が彼の顔を覗き込むと、聖のおでこに血管が浮き上がっていた。
「コイツは……死んでなお俺をおちょくるのか……」
「ま、まぁクラウンらしいと言えばらしいからさ、続き聞いてみようよ」
フェイトに言われ聖はため息をつきつつ再生を始めた。
『あ、今もしかして再生止めました? どうせ「死してなお俺をおちょくってんのかコイツは」とか思ってるんでしょー。まっ、そんなことはわかりきっているのでここからは真面目なお話です。
聖様、今回は私の独断をお許しください。しかし、わかって欲しいのです。貴方を救うために致し方なかったと。あのままでいれば聖様は死んでいましたから、多くの人を悲しませない為の処置だったのです。あぁ、あと私の介錯をしてくれた方……多分シグナム様あたりですかね。もし違ったら場合は違う人にお礼を言って置いてください。
はい、ではそろそろ最後にしたいと思います。え? 「短すぎじゃね?」って? 何を言ってるんですか、こういうのは短い方がいいんですよ。私の後継機についてですが……決して私の名をつけないように。間違ってもクラウンⅡとか安綱弐式とかにしてはだめですからね。その理由としてはいつまでも私に執着しないでくださいってことです。私は私、後継機の子は後継機の子です。その子にはその子の生を送ってあげてください。
さて、それではこれで本当にお別れです。あぁ、一応言って置くとこれは聞き終わると五秒後に自動的に削除されますのであしからず。それでは! 今度こそ本当にさようならです。貴方と過ごせたこと、私は誇りに思ってますしとても楽しかったですよ。なのは様、フェイト様、ヴィヴィオ様と末永くお幸せに。ではでは何かいいことあったらいいですね、お相手は安綱ことクラウンでした』
若干おちゃらけた言葉を最後に音声はそこで終わっていた。そして、同時に音声の自動削除が始まった。
「クラウン……」
「最後まで明るく振舞ってたね」
二人が言うと、聖は大きなため息をついたあと、背筋を伸ばすように大きく伸びをした。
ずっと眠っていたためか背骨がボキボキとなったが、聖は大して気にせずにベッドから跳ね起きた。
「ったく、最後まで人をおちょくっていきやがって。まぁアイツらしいって言えばアイツらしいか。さて、それじゃあ皆のところにでも行くかね」
「動いて平気なの?」
「ああ、これぐらいどーってことねぇよ。つか、いつまで寝転がってたら体が鈍っちまう。それに、過去のことをくよくよしたってしょうがねぇ。さぁ、皆のところ行こうぜ」
ベッドから降りた聖だが、なのはとフェイトはそれに若干心配そうな顔を見せた。しかし、聖の瞳にいつものような力強い光りが灯っていたのを確認すると聖の横を歩きながら皆のところへ向かった。
その途中、夕日に顔を照らされながら聖はクラウンに心の中で告げた。
……命救ってくれてありがとな、クラウン。お前は俺の最高の相棒だったぜ。
彼はそのまま満足げな笑みを見せながら病院の廊下をなのは達と歩いていった。
ふいー
今回は前回ほど時間が経たなかった……よかったよかった。
話の内容的には重いような感じでしたがね。
クラウンは犠牲になりました。
最後の方でやたらいろいろ言い当ててますが、その辺は長年一緒だった経験ってやつですね。
次回はどうするか……最終回ってことにしてもいいけどもう一話くらい……
まぁ聖の新しいデバイスが登場するとだけいっておきましょうかね。
ではでは感想などあればよろしくお願いします。