火事オヤジがヴィラン連合に参加したようです   作:じoker

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篚口が変換で出ない……


9時限目 官<けいさつかん>

 警察庁、警視総監室。

 警察組織のNO.3の執務室の前に、二人の男が並んでいた。

 大柄な体格の男と、対照的にほっそりとした体型の男だ。

 大柄の男の名前は筑紫候平。警視庁の刑事部長である。学生時代は柔道をしていたためか、体格は非常にガッシリとしている。現在でもトレーニングを欠かさず行っているので、多少の衰えはあれども体型にはあまり変化はない。

 対して、ほっそりとした体型の男の名は篚口結也。警視庁情報犯罪課課長であり、日本有数の腕前を持つハッカーでもある。

 

「久しぶりだね、筑紫さん」

「お前も呼ばれていたのか、篚口」

「そりゃ、あんな事件が起きたら呼ばれるでしょ」

「相変わらず、フランクな口調だな。また『正しい礼儀作法』でも見直すか?」

「カンベンしてよ……ありゃ洗脳だって」

「その洗脳も僅か一年で効果を失ったみたいだがな……さて、おしゃべりはこのぐらいにしておくか」

 男たちは軽口をやめ、扉の前で姿勢を正した。

 

「失礼します」

 筑紫がノックをし、扉を開いて一礼して中に足を踏み入れた。それに続き、篚口が入室する。

「よく来た。用件は分かっているな」

 部屋の奥、窓際にもうけられたデスクに腰をかけている男が口を開く。

「例の、都心のビル放火事件ですね」

「その通りだ」

「こっちでは全国の監視カメラの情報を収集してる。都心部のものに限れば、後二時間もすれば解析が終わるよ」

「……口のきき方は相変わらずだな、ひぐち」

「笛吹さんも、堅物なところは代わってないよね」

「ふん……色々と言いたいことはあるが、生憎時間がない。本題を続けるぞ」

 

 この部屋の主の名は、笛吹直大。

 かつて世間を震撼させた連続爆弾魔ヒステリアを逮捕し、あの葛西善二郎と葛西が所属する組織を追い詰めたという経歴を持つ、警視庁のトップに立つ男――現警視総監である。

 

 彼と筑紫、篚口との縁は古い。

 日本中を揺るがしたHAL事件、都心を狙った未曾有の大規模連続テロ事件といった四半世紀前の歴史的大事件も彼らが一丸となって取り組んだ事件の一つである。

 当時はまだ将来有望なキャリア官僚と、特例措置として公務員をやっているハッカー上がりの捜査員に過ぎなかった彼らだが、四半世紀もの時は彼らを出世させ、能力と経験に相応しい肩書きと絶大な権限を与えていた。

「あのような犯行ができる犯罪者は葛西善二郎しかいない。そして、あの火文字……血族が再び動き出した可能性が高いだろう」

 笛吹が切り出したその言葉に、筑紫も僅かに表情を堅くする。

 シックス。それはかつて日本中を震撼させ、多数の犠牲者を出す未曾有の大殺戮を繰り返した犯罪史上他に例を見ない大犯罪者である。

 戦争や内戦による大量殺戮(ジェノサイド)は歴史上少なくない例が報告されているが、国やそれに準ずるような政治的な目的を持つ組織でもない犯罪組織を指揮して天災にも匹敵するほどの被害を出した例など、シックス率いる新しい血族による一連のテロ以外にはないだろう。

 もしも、このシックスと新しい血族が活動を再開したとなれば、四半世紀前の悪夢が再びこの国で繰り返される可能性が高い。それは、この国の治安を守る警察からすれば到底看過できるものではなかった。

 だからこそ、笛吹は事件の発生の報を聞くと同時にかつて共にシックスと戦った二人を総監室へと呼び寄せたのである。

「筑紫、捜査チームの準備状況はどうなっている?」

「現在、特別捜査チームの人選中です。明後日にはチームを発足できるかと」

「待てん。明日までにチームの人選を纏めろ。細かな経歴や能力、人格は態々資料を取り寄せて調べんでもかまわん。お前が知る限りで問題ないと思う人材を集めろ。どうしても人が足らないならば、その時はこいつを使え」

 そう言って笛吹はデスクからファイルを取り出して筑紫に手渡した。

「私が知る限りの優秀な捜査官たちのリストだ。問題児や厄介者、組織にすらそぐわない異端者などもいるが、少なくとも能力は申し分ないし、新しい血族の内通者である可能性は低いと私が保証しよう」

「へぇ、笛吹さん、準備がいいね」

「シックスが死んだとはいえ、血族という組織が完全に崩壊したという保障はどこにもなかった。それに、葛西の生死もついに確認できなかったからな。いつやつらが活動を再開してもいいように、使える捜査官は常に一定数確保していただけのことだ」

 淡々とした笛吹は説明するが、常に一定数の警察官を新しい血族に対する捜査員候補としてマークし続けることなど、簡単なことではない。警視庁の警察官でも三〇万人を超えるのだ。その中で使える人材をリストアップし、さらに可能な限り彼らのバックグラウンドを探るとなると、かなりの時間と労力を必要とするはずだ。

 警視総監も暇ではないだろう。しかし、笛吹は激務の合間を縫い、常に血族への備えを怠らなかった。そのことからも、笛吹が血族に対して並々ならぬ警戒を抱いており、それは血族の首魁が死した今なお変わるものではなかったことがわかる。

「筑紫、これがあれば明日にはチームが組めるな?」

「はい。……お手数をおかけしました」 

「捜査チームの指揮はお前に任せる。令状が必要なら私に言え。証拠不十分でも構わん、お前が必要だと思うのなら遠慮なく請求しろ。後は私がなんとかする」

「はい」

 筑紫は見事な敬礼で笛吹に応える。そして、笛吹は篚口に視線を向けた。

「篚口、責任は俺が取る。全力でやれ」

「え?いいの?グレーじゃなくてギンギンのブラックなところまでやっちゃうけど?」

「この際法律上の白黒に拘っていられる余裕はない。それに、お前が案じることはない。お前達のような汚い存在の扱い方や処分方法はあの時に覚えさせられたからな」

「散々な言い草だよね。長い付き合いなのに」

「腐れ縁の間違いだろ。全く、お前の保護者を押し付けられて私がどれだけストレスを感じていたか……」

 あのころの心労でも思い出したのか。笛吹は米神を押さえ、眉間に皺を寄せていた。

「ま、胃痛と頭痛は管理職のお友達だからしょうがないよね」

 カラカラと篚口は他人事のように笑う。

「いや~やっぱ偉くなるってのもいいもんじゃないや」

「安心しろ篚口。お前も来年の人事で念願の中間管理職だ」

「へ?」

「私も目をかけてきた甲斐があった。まぁ、精々なれない職務と残業を頑張ることだな」

「そ、そんな~~」

 項垂れる篚口。しかし、隣に立つ筑紫はそれを全く気にすることなく笛吹に尋ねた。

「笛吹さん、そういえばあの“探偵”には連絡を取ったのですか?」

 探偵という言葉に、笛吹の眉が僅かに反応した。

「お前の言う探偵があの女のことを指すのなら、既に連絡済みだ……業腹だが、使えるものは何でも使わねば奴らには太刀打ちできん」

「彼女は、今どこに?」

「探すのに手間取るかと思ったが、案外簡単に見つかった。ヤツは今アメリカにいる」

 そう言って笛吹が筑紫に手渡したのは、印刷された電子新聞の記事だった。英語で書かれた記事だが、キャリアである筑紫にとって英語はできて当然のもの。日本語訳がなくともスラスラと読むことができた。

「世界ホットドッグ早食い選手権……日本人選手が連覇記録更新?」

「あ~、あいつならやりそうだね。というか、負ける姿が思い浮かばない」

「ヤツはアドバイザーとして捜査本部に非公式に参加させる予定だ……筑紫」

「はい」

「ヤツに出前を好き勝手にさせるなよ」

「あ~、前は二〇万近く笛吹さんが自腹切ったんだっけ」

「不用意な許可を出すことの愚かしさを思い知らされた。高い授業料だったがな……しかし、もしも捜査が行き詰ったなら、その時は私があの女の飲食費を出してやる。食費分の働きはするだろうからな。背に腹は変えられん」

 

 そう言うと、笛吹は席を立って窓から見える景色を見下ろせる位置に立った。

 

「かつて、二度も貴様等を取り逃がした。だが、警察を舐めるなよ。今度こそ、我々の手で引導を渡してやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻 アメリカ ロサンゼルス

 

 ステーキハウスの一席に、まるでバベルの塔が如く空になった器が積み重なっている。

 周囲の人間は一体何が起きているのか、好奇心から近寄る。漏れ聞こえてくる声が観衆の聞きなれた英語ではなく、さらに声の高さからして、女性らしいことも彼らの好奇心を刺激した。

 そして、塔の影からその向こうにいる建設者を除き見た彼らは驚愕した。この塔の建設者は、細身の東洋人の女性だったからである。

 どんな圧縮率でこれだけの料理が彼女の胃の中に納まっているのか、東洋の魔術か何かかと思わせるほど、その女は大量の料理を食べていた。

「う~ん、やっぱり本場の米国産牛肉(アメリカンビーフ)のステーキはボリュームがあっていいよね~。サイズも最初から大きいやつを出してくれるし、チマチマとお肉を食べるのは性に合わないから助かるなぁ」

 その時、女のバックから携帯電話の着信音が響いた。

「うん?吾代さんから?」

 女は電話を肩と頭ではさみつつ、食事を続けながら応答する。

「もしもし?どうしたの吾代さん」

『どうしたもこうしたもねぇ!!ポリ公からの直々のお仕事だ!!』

「え~。まだ本場のロブスターも食べてないのに……」

『え~じゃねぇだろ!!大体、四〇超えたおばさんがんな気色悪い声だすな!!ロブスターはこっちで手配するからとっとと空港へ行け!!チケットも手続きも全て済ませてある!!』

「分かりましたよ……あ、ロブスターは二〇匹ね。後バッファローウィングも一〇人前、食後のデザートのアップルパイも一〇人前用意しといてくださいね、機内食も一〇人前積み込んどいて下さい!!じゃ!!」

『はぁ!?おい、こらたんて』

 女は携帯の電源を切ると、再び目の前の皿に向き直る。

「まだ後二〇人前あるしなぁ……しょうがない、ちょっともったいないけれど、早食いするしかないなぁ」

 

 

 その一六分後、女はステーキハウスを後にする。当然のことながら、食べ残しは肉の一欠けらもなかった。

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