火事オヤジがヴィラン連合に参加したようです   作:じoker

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お久しぶりです。
死穢八斎會編をどうしようかと悩んでいるうちに気づけば早四ヶ月……未だにどうするか決まっていませんが、とりあえず切りのいいところまで書いてみて、後はその時になってから考えましょうかね。


10時限目 補<つかまえた>

「只今戻りました」

 

 黒い靄のようなワープゲートを潜り、7人の男女がシックなバーへと姿を現す。

 半分近い面々は傷を負ったり、泥にまみれており、その姿からは彼らが簡単ではない仕事を終えてきたことが分かる。

 

「上手くやったな」

 弔の賞賛に荼毘が答える。

「ご注文どおり、爆豪ってガキを連れてきた。これでいいんだろ?」

「いやいや、最後の最後でショウに邪魔が入ってしまった。俺もマダマダかねぇ」

 仮面をつけた男、Mr.コンプレスはそう言うと、掌をかざした。手を握り、再度開かれたその掌には、ビー玉程度の大きさの球体。一瞬で何も握られていなかったはずの掌から現れたその玉の中には、こちらを凄まじい形相で睨みつける少年の姿がある。

「上出来だ、荼毘」

 弔は顔を覆う掌の隙間から見える口角を吊り上げた。

 

――自分の作戦が初めて思い通りの結果になって、ご満悦ってところか?

 

 嬉しそうな表情を顕にする弔の隣、愛用の煙草を燻らせる男の心は、その場にいる誰よりも冷めていた。

 ヒーローの卵を拉致するだけの仕事だ。とはいえ、弔なりに費用対効果を考え、大義を果たすには効率的な策を考えたことは事実だろう。だが、まだまだ甘さが抜けていない。それが男の今回の作戦に対する評価だった。

 

「ところで、荼毘。マスキュラーとムーンフィッシュが捕まったのは聞いていたが、マスタードはどうなった?」

 出撃時にはいたはずの三人がいないことに気づいた男の問いに対し、荼毘は淡々と応えた。

「マスキュラーは多分、あの緑谷ってガキにやられたんだろう。ムーンフィッシュも他の生徒にやられたみたいだな。マスタードも、ガスが晴れたタイミングからの推察だが、こちらが目標を確保する前にやられたと思う」

「だから、置いてきたと?」

「囮を回収するような余力はなかった。このガキ一人連れ去るのも余裕なんて無かったな。思っていたよりも、生徒も先生も場数を踏んでいて手ごわかった」

「まぁ、生徒っつったって、あれだけ襲撃に晒されれば耐性がつくし、強くもなる、か」

「葛西、何が言いたいんだ。作戦は成功しただろうが」

 暗に、自分のこれまでの失敗が雄英学園の生徒達を鍛えさせ、マスキュラーらが敗退し捕らえられる一助になったと指摘されたと思ったのだろう。弔の口調には僅かに棘があった。

「いえ、想像以上に梃子摺ったなと思っただけですよ」

「フン、あいつらは囮だ。あいつらが引き際も誤って捕まるのも、想定には入っているからこのアジトにも黒霧のワープゲート経由でしか連れてきたことはない。大した情報が聞きだせるはずはないな」

 自信ありげに説明する弔に対し、愛想笑いを浮かべる男。

 

――アンタのこれまでのお粗末な作戦の皺寄せがなければ、たかが学生程度にやられる連中じゃなかっただろうに。それに、暴れるしか能のないマスキュラー(バカゴリラ)ムーンフィッシュ(無計画殺人鬼)と違って、マスタードはオツムはともかく、優秀な駒だった。ヴァイジャヤには及ばずとも、使い道は無数にあったはず。まだまだ、戦略ってヤツが分かってねぇな。

 

 男にしてみれば、弔の言い振りは想定が甘いにも程があった。

 確かに、マスキュラーやムーンフィッシュは遅かれ早かれ切り捨てる必要はあっただろう。下手に手元に置いていても我欲を優先して暴走する可能性は棄てきれないし、それが作戦の実行に大きな障害となることも容易に想像できる。

 だが、たかがヒーローの卵に拿捕されるような雑魚ではなかったはずだ。如何に素質があろうと、数で優っていようと、半年に満たないような訓練で彼らを相手に死者を出さずに勝利するなど、エンデヴァーの息子のような特殊な事情のあるものや、それこそ天賦の才を持ったものは例外として、普通の一五、一六の少年少女にできるはずがない。

 ましてや、彼らはここ数日の特訓で疲労を少なからず蓄積させている状態だ。コンディションは万全とは到底言いがたい。その状態での突然の強襲となれば、緊張、恐怖が身体を強張らせ、判断力を鈍らせる。こればかりは戦闘経験を積まない限りは克服できないものだ。

 本来の力を発揮できず、敗北するのが必然であった少年少女に勝利を与えたのは、USJ襲撃とステインとの対決の経験に他ならない。弔は生徒たちを強くしていたのに気づかず、彼らの戦闘力を過小評価していたというわけだ。

 その結果、(ヴィラン)連合は二人の戦闘員を失った。ただ失ったのではない。無為に失ったのだ。おそらく、彼らは仲間の情報もボロボロと口にするだろう。そこから警察が(ヴィラン)連合の構成員の身元を割り出し、彼らのデータを街中の防犯カメラの映像と照らし合わせ、足取りを辿る。骨格、顔、歩容などの認証システムはこの四半世紀で飛躍的な進歩を遂げており、それを活用するための仕組みも整備されているため、彼らの捜査の精度はとても高い。

 ()()()をたった数日の調査で窮地にまで追い込んだこの国の警察の力をもってすれば、早ければ明日にでもこのアジトまで踏み込んでくるかもしれない。それが成功すれば、弔の考えていた雄英とヒーローに対する世間の目を厳しくさせるという当初の目的は良くて七割ほどしか達成できなくなるだろう。

 男は最悪の想定として、ここまで考えざるをえなかったのだが、弔の中では、爆豪という少年を拉致した時点で作戦は成功となっていた。後は成果を待つだけと思っているのだろうが、反撃を受けてこちらが大打撃を受ければ成果も削られることには気づいていない。

 結果から見れば、ここでマスキュラーを投入したのは 悪手だったのだろう。生徒たちの能力を過小評価し、マスキュラーらに過ぎる情報を与えたという二点が弔の失策だ。

 戦闘力のみを期待するのであれば、脳無だって彼らと同等の力を期待できるだろうし、こちらの命令に対する従順さを考えれば脳無の方が断然に駒として優秀だ。加えて、仮に脳無が捕まったとて、彼らから得られる情報など皆無に等しい。せいぜい、解剖して得られる生体的なデータぐらいなものである。生徒たちの戦闘力と、マスキュラーの持つ情報という点を考慮していれば、脳無を投入するのがベストだったと男は思う。

 オールマイトを抹殺するぐらいの成果を挙げていれば、ヒーローと警察の逆襲を受けたとて世間に与えるインパクトは前者の方が遥かに上だが、今回のような規模の成果であれば、逆襲を受ければ損益が逆転することだってありえる。目標を達成した後、失敗した後のことまで考えるのが作戦というものだ。

 

「それに、人のことを言える立場か?お前だってシンリンカムイに犯行前に見つかるヘマを犯し、しかも倒したとはいえ、苦戦してボロボロにされたんだろうが」

「シンリンカムイ?葛西ちゃんが戦ったの?」

 長髪にサングラスをかけた大柄の男、マグネが意外そうな表情を浮かべながら男を見やった。

「煙草を買いに寄り道してたら偶然出くわして、つい()っとなっちまってこのザマだ。中年には若いモンの相手は厳しいな」

 実際、男は反省していた。運が悪かったとはいえ、あのシンリンカムイを相手に派手に戦ったのだ。下手をすれば周囲に他のヒーローも駆けつけ、自分の姿が見つかる可能性もあった。万全を期すならば、逃走用の着替えでも用意しておいて、何かあった時に着替えるくらいの備えをしておくべきだったのだろう。

 防犯カメラがなく人目のあまり無い道はあらかじめ逃走経路として全て頭に叩き込んでいたが、だからといって絶対に人の目に触れないわけではない。ボロボロで焦げ臭い服を着た男が誰かの目に留まる可能性は十分にあったのだ。

 男もまた、偶然が重なったとはいえ、警戒を怠っていたという反省はしていた。元々弔に一々駄目出しをするつもりがないのもあるが、男は自分にはその資格もないと思っていた。

「伝説の犯罪者の評判に偽り無しね。あの若手ナンバーワンを返り討ちにするなんて」

「……それに対して、俺はあのふしだらな女に翻弄される体たらく。ステイン様の遺志を継ぐものとして恥ずかしいな」

 マグネに続き、スピナーも男を賞賛する。

 男が認められている様子を見たからか、弔からは先ほどまでの上機嫌さが消える。

「……っち、まあ、いい。Mr.コンプレス、捕らえた生徒を解放してくれ」

「構わないが、いいのか?絶対彼は暴れるぜ?」

「この密室で、この人数差があれば取り押さえるもできるだろう。お前の能力が解除されたら、すぐに全員で取り押さえる。手錠と拘束具は手配済みだ。まずは、気絶させればいい。それほど難しいことじゃない」

 弔からの指示を妥当だと見たのだろう。Mr.コンプレスは何も言わずに部屋の中央に立って爆豪を捕らえている玉を右手で掲げた。それに合わせて、彼を包囲するように他のメンバーが陣取って警戒する。男もまた、この部屋の唯一の出入り口である扉の前に立ち塞がった。

 体育祭での成績や、拉致実行時の激しい抵抗からも、爆豪という少年の戦闘力が油断ならないものだと、ここにいる誰もが理解していたからだ。圧縮が解除された一瞬で反撃に出ることも十分に考えられる。だから、囲んで、確実に彼の意識を刈り取る必要があった。

 

「三、二、一でいくぞ。三……」

 トガはナイフを取り出し、姿勢を低くする。スピナーもその隣で刃物の塊のような武器を構えた。

「二……」

 マグネは身の丈ほどもある鈍器を構え、トゥワイスはその後ろでいつでも加勢に入れるように備える。

「一……」

 荼毘と黒霧は自然体。だが、自分たちのところに来たならばいつでも迎え打てるように備えている。彼らの後ろで椅子に座る弔は、自分の出る幕はないと思っているのか、深く腰掛けている。

「ゼロ!」

 Mr.コンプレスが能力を解除すると同時に走り出すトガ、マグネ、スピナー。先ほどまで誰もいなかったはずのコンプレスの眼前に現れた少年に向かって彼らは飛び掛る。だが、その直後彼らを襲ったのは視界を焼かんばかりの閃光と、一〇〇kgはあろうかというマグネの巨体をも押し留める爆風だった。

「ガッ!?」

 部屋にいたメンバーは突然の閃光と爆風で一瞬であるが動きを完全に封じられた。そして、解放された爆豪はその隙を逃さない。最初の爆発の勢いをそのままに、この部屋の唯一の出入り口であるドアに向かって突進する。

 誰もが一瞬、何が起こったのか理解できないでいるが、ドアの前に陣取っていた男だけは先ほどの閃光と爆風が意味するものを理解していた。そして、爆豪の狙いも一瞬で看破する。

「どぉぉけぇ!!」

 爆風で加速した爆豪がその右手を男に向けて突き出す。直後に爆豪の右手から男の顔面に向けて爆炎が放たれる。だが、男は全く避ける動作を見せなかった。男が行ったのは、僅かに俯き、爆炎を帽子に当てただけのこと。爆炎は帽子を半壊させるが、男の皮膚には熱以外は殆ど届かなかった。

 しかし、それは爆炎から顔面を守ると同時に、男の視界を大幅に狭めることにもなる。当然、その隙を逃す爆豪ではない。彼は視界を奪われた男の横をすり抜け、その背後のドアのノブに手をかけようとする。だが、ドアノブまであと数cmまで迫ったところで、爆豪は突然脇腹に激しい衝撃を受けて吹き飛ばされる。

「悪ぃな、そこは通行止めになってんだ。諦めな、爆発小僧」

 爆豪を吹き飛ばしたのは、男の膝蹴りだった。男は視界を封じられながらも爆豪の動きを完全に読み切り、その針路に膝を叩き込んだのである。

「クソジジィがぁ……!!」

「おいおい、確かに俺ァ中年に両脚突っ込んでるミドルだが、更年期にはまだ早ェえよ。流石にジジイ扱いはカンベンしてくれ」

「やかましい!!そこを退いて殺されるか、立ち塞がってブッ殺されるか、好きな方を選びやがれぇ!!」

 爆豪は再度、男に向かって飛び掛る。それを迎え撃つ男。そして、二人の腕がクロスする瞬間、爆豪は両手から爆発を放った。

 しかし、その直後、爆豪は床に勢いよく叩きつけられる。額を激しく床に打ちつけたためか、歪む視界と不確かな平衡感覚。肺から一挙に空気が押し出され、喉が詰まるような感覚。

 何が起こったのか、彼には理解できなかった。うつぶせのまま両腕を捻りあげられた爆豪に理解できたのは、ドアの前に立ち塞がっていた男の声だけだった。

「初手の自爆は、まぁ悪くねぇ。戦力差を理解していて、脱出という最終的な目標のために、リスクを理解して判断したんだろ?」

 彼とて愚かではない。この人数差で全員を制圧することは不可能に近い。特に、自分を拘束していたあの仮面の男に関しては、触れられるだけで終わりだ。だから、まず優先すべきは脱出だと判断していた。だからこそ、彼は解放された直後に自爆という手札まで切った。

 火傷を負ったが、代わりに近くで構えていた三人の動きを封じることができた。そして、周囲の敵が怯んだ隙を突いて一直線で脱出口であるドアを目指した。戦術に関しては弔よりも遥かに上を行っていると男は評価する。

「だが、相手が悪かったな」

 爆豪を拘束していたのは、男だった。手首を押さえられた爆豪は抵抗できなかった。彼の爆発は掌の汗腺から分泌されるニトロの特性を持つ液体を起爆させるものだ。だから、手首を押さえられれば、爆発の向きを変えられない。完全に詰みだった。

「てめぇ……!!」

「掌から爆炎を放出する際、身体は当然反作用の法則で反動を受ける。対人戦でそれを使うとなりゃあ、上半身のしなりと、下半身の粘りで反動を上手く受け流さなけりゃいけねぇ。その点、お前さんは中々上手くやってると思うぜ」

 爆豪は身体が動けば殺してやると言わんばかりの形相で男を睨む。

「だが、爆発の規模が読めれば、それを最大限に活かすタイミングも分かる。それが分かれば、後は身体のバランスをちっと崩してやれば自爆させられる」

 元々頭の回転の速い爆豪は、男の口ぶりから、男がやったことを大体理解していた。男は、爆豪が汗を起爆させるタイミングを完璧に読み切って、爆発の直前に爆豪の手首をいなし、爆発のベクトルを僅かに変えさせた。

 さらに、男は爆豪に脚払いをかけ、反動を受け止めるはずの足元を崩す。

 爆発の反動を受け流しきれずにバランスを崩した爆豪を転ばせるには、少し彼の手首を引っ張るだけで事足りる。後は、額を床に打ち付けた爆豪の背後から両手首を押さえ、背中を脚で踏みつければ拘束は完了だ。

「けどな、爆発は俺の専門だ。研鑽が足りねぇぞ小僧」

 爆豪の首筋に打ち込まれる打撃。おそらく、男以外の何物かの手刀だろうか。爆豪の意識は暗闇へと墜ちていった。

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