火事オヤジがヴィラン連合に参加したようです 作:じoker
雄英高校から拉致した生徒を軽く捻って昏倒させた男は、煙草を補充するという名目で
黒霧からは早急に戻るように言われていたが、男には黒霧の言葉に素直に従う義理はなかった。弔も自分が呼ぶまでは戻ってこなくていいと吐き捨ていた。
愛用の煙草を燻らせながら玉を弾いていた男は、ポケットに入れていた携帯電話が震えていることに気が付き、画面を確認した。
今しがた受信したメールには、発信者の名はなかった。本文も「入ります」の一文のみだったが、男はこの一文ですべてを理解した。
画面を一瞥した男は吸いかけの煙草を灰皿へ圧しつけ、銀玉で満たされている手元の箱を見やった。
下皿の出玉を電子情報にして記録するタイプのパチンコ台が普及している中、男はあえて昔ながらの下皿に玉が出るタイプの機種を選んでいた。
男は、パチンコは玉が溢れんばかりのドル箱を積み上げるのが醍醐味だと思っている。だから、現代の主流となっている出玉が数字でしかあらわされないタイプの機種には見向きもしない。例えドリンクホルダーやひじ掛けがなくとも、下皿に出玉がたまる機種でなければ座らないというのが男の考えだった。
「この台は悪くない放火と思ったんだが」
この空間にいる人々は、鼓膜に断続的に叩きつけられる電子音に耳を塞がれ、目の前の玉と釘から目を離せなくなっていた。当然、彼らの周囲への注意は散漫となる。隣でこの台はもうダメだと見切りをつけて席を立とうとしている男が、つい先ほどのニュースで
「チ……湿気てんな」
男の手元には両手で運べるだけの玉しかない。店員をその場に呼んで男は玉の入った箱を手に景品交換コーナーへと向かい、玉と交換した小さな金のチップと缶コーヒーを手に店を後にする。
店の近くにある問屋で金のチップを現金に換金するが、負けた男の表情は渋いものだった。
「クソみたいなババァに絡まれるわ、負けるわで嫌な
店を出ると同時に男は帽子を深くかぶり直し、目の前のビルの壁面に設けられたオーロラビジョンへと視線を移した。
「よくやる」
男は手に持っていた缶コーヒーのプルタブを引き起こし、中身を一気に呷る。
『これは、先ほど行われた雄英高校の謝罪会見の映像です』
オーロラビジョンに映るのは、背広を着た二人の教師と、服を着こんだネズミの姿。
『この度――我々の不備からヒーロー科1年生27名に被害が及んでしまった事、ヒーロー育成の場でありながら敵意への防衛を怠り、社会に不安を与えた事、謹んでお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした』
雄英高校の謝罪会見。かの
担任教師のイレイザーヘッド――マスコミ嫌いで有名な彼が頭を下げた時には、たかれたフラッシュが画面を支配した。
日ごろから雄英高校への取材を徹底的に拒否され、取り付く島もなかった鬱憤を晴らすかのように、記者たちはここぞとばかりに教師たちを責め立てる。真実の追求とやらをお題目に立てて誹謗中傷を行うことを生業としている記者たちが、ただ教師たちが非を認めるコメントを取りたいがために何度も似たような質問を繰り返す光景を見ていた男は、薄く笑った。
やがて画面は雄英の記者会見の映像から、スタジオへと移りかわる。報道番組の司会を務める白髪の老人は、向かい側に座る中年の女性に意見を求めている。
『コメンテーターの井関さん、この雄英高校の会見をどのようにご覧になりますか』
『そうですね、雄英に本当に生徒を預かっているという意識も、危機管理能力もなかったのでは?あのイレイザーヘッドなんて生徒を何人も退学にさせているそうじゃないですか。そんな心ない人間が本当に生徒のことを案じているのか、信じられるものではありませんね。イレイザーヘッドに教師の資格がないというのが一般的な日本国民の認識ですよ』
――今のところはあの坊ちゃんの狙ってたとおりの絵が撮れてるわけだ。さぞかし鼻高々だろうな。
男は、あのバーで自慢げに今の社会の矛盾を捕えた子供に解説する弔の姿を幻視する。
弔が作戦前に勿体ぶりながら今回の作戦の戦略的目標と題し、自身の狙いについて男らに説明していた。
第一段階として、繰り替えされた雄英高校への襲撃と、防げなかった生徒の拉致という結果をもって、無責任で流されやすい世間がヒーローを非難するという構図を作り上げる。
そして、拉致された生徒を奪還できないヒーローへの不信が広がったところで、第二段階として拉致した生徒を
弔自身は癪に障るのか敢えて説明しなかったが、
これまでの弔の行った作戦は、オールマイトを殺すためにオールマイトが教師を勤めている雄英高校の授業を襲撃するだとか、
しかし、弔が自分たちのやるべきことはそもそもRPGじゃなく、戦略SLGだなどと零していたことを男は黒霧から聞いている。そして、既に目標は達成したものと考えている。
――ゲームなら一度達成された目標がスコアになる。けどな、そこからさらにひっくり返せるから
男は、この会見を行ったヒーロー達の思惑を察知していた。
『現在、警察と共に捜査を進めております。我が校の生徒は必ず取り返します』
前提として、このような会見でヒーロー側が「捜査は順調に進んでおります」などと馬鹿正直に言うことはまずない。自分たちの捜査状況を秘匿することが、
ただ、
おまけに、今回は事件発生からこの会見まで一日しか時間が経っていない。このことも
そして、その油断をヒーロー側は突く。
――警察から得た情報をもとに誘拐された雄英高校の生徒の居場所を突き止め、精鋭部隊をもって突入。生徒を保護すると同時に、
しかし、男はそんなヒーロー側の思惑もすべて看破していた。遠からずヒーローの突入があることを察知したからこそ、男は
男からしてみれば、ヒーロー達の捜査能力は御粗末なものだった。犯罪者を捕縛する能力はかつての警察の実働部隊をも上回るだろうが、ただそれだけとも言えた。
警察による広範囲に亘って迅速かつ綿密に行われた調査と、逃走ルートを完全に遮断する完璧な包囲網。通常、警察がこのような大規模な動きをすれば当然葛西の部下達の知るところとなっただろう。しかし、常識を超える少人数の調査によって調査も包囲網も血族に全く察知されることなく実行できたならば、伝説の犯罪者、葛西善二郎を追い詰めることだってできた。
自分たちの動きを悟らせないことこそが、犯罪者を追い詰める側に求められる大きな要素の一つであるが、男からしてみれば、ヒーロー達の動きは隠密とは言い難いものだった。
ヒーローは基本的に活動範囲を限定していることや、メディアへの露出や世間からの注目が大きく一挙手一投足がSNSに書き込まれることから、その動向が見えやすい。調査は警察の仕事の部分が大きいということもあるが、ヒーローには調査や臨場を隠密に行う意識が乏しい。
ヒーローたちの行動の隠匿は、社会の表で暴れる
――贔屓の生ガキのピンチだ。さて、どうするんだオール・フォー・ワン。
男は神野駅前のオーロラビジョンに背を向け、アジトの一つがある歓楽街方面へと足を向けた。
葛西さんと言えばパチンコ
玉足りなくてとなりのドル箱山のように積み上げてるじっちゃんから一掴み玉を借りるところまでがお約束。