火事オヤジがヴィラン連合に参加したようです   作:じoker

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お久しぶりです。


11時限目 糧<きょうくん>

 (ヴィラン)連合のアジトからほど近い神野駅前のパチンコ店。

 雄英高校から拉致した生徒を軽く捻って昏倒させた男は、煙草を補充するという名目で(ヴィラン)連合のアジトを抜け、一人パチンコに興じていた。

 黒霧からは早急に戻るように言われていたが、男には黒霧の言葉に素直に従う義理はなかった。弔も自分が呼ぶまでは戻ってこなくていいと吐き捨ていた。

 愛用の煙草を燻らせながら玉を弾いていた男は、ポケットに入れていた携帯電話が震えていることに気が付き、画面を確認した。

 今しがた受信したメールには、発信者の名はなかった。本文も「入ります」の一文のみだったが、男はこの一文ですべてを理解した。

 画面を一瞥した男は吸いかけの煙草を灰皿へ圧しつけ、銀玉で満たされている手元の箱を見やった。

 下皿の出玉を電子情報にして記録するタイプのパチンコ台が普及している中、男はあえて昔ながらの下皿に玉が出るタイプの機種を選んでいた。

 男は、パチンコは玉が溢れんばかりのドル箱を積み上げるのが醍醐味だと思っている。だから、現代の主流となっている出玉が数字でしかあらわされないタイプの機種には見向きもしない。例えドリンクホルダーやひじ掛けがなくとも、下皿に出玉がたまる機種でなければ座らないというのが男の考えだった。

「この台は悪くない放火と思ったんだが」

 この空間にいる人々は、鼓膜に断続的に叩きつけられる電子音に耳を塞がれ、目の前の玉と釘から目を離せなくなっていた。当然、彼らの周囲への注意は散漫となる。隣でこの台はもうダメだと見切りをつけて席を立とうとしている男が、つい先ほどのニュースで(ヴィラン)連合のメンバーの一人として取り上げられていたことにも彼らは気づかない。

「チ……湿気てんな」

 男の手元には両手で運べるだけの玉しかない。店員をその場に呼んで男は玉の入った箱を手に景品交換コーナーへと向かい、玉と交換した小さな金のチップと缶コーヒーを手に店を後にする。

 店の近くにある問屋で金のチップを現金に換金するが、負けた男の表情は渋いものだった。

「クソみたいなババァに絡まれるわ、負けるわで嫌な()だな」

 

 

 

 店を出ると同時に男は帽子を深くかぶり直し、目の前のビルの壁面に設けられたオーロラビジョンへと視線を移した。

「よくやる」

 男は手に持っていた缶コーヒーのプルタブを引き起こし、中身を一気に呷る。

 

『これは、先ほど行われた雄英高校の謝罪会見の映像です』

 

 オーロラビジョンに映るのは、背広を着た二人の教師と、服を着こんだネズミの姿。

 

『この度――我々の不備からヒーロー科1年生27名に被害が及んでしまった事、ヒーロー育成の場でありながら敵意への防衛を怠り、社会に不安を与えた事、謹んでお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした』

 

 雄英高校の謝罪会見。かのNo.1ヒーロー(オールマイト)No.2ヒーロー(エンデヴァー)をはじめ、数多くのヒーローを世に排出した名門高校の謝罪会見が夜のニュースのトップとして扱われるのも当然のことだった。

 担任教師のイレイザーヘッド――マスコミ嫌いで有名な彼が頭を下げた時には、たかれたフラッシュが画面を支配した。

 日ごろから雄英高校への取材を徹底的に拒否され、取り付く島もなかった鬱憤を晴らすかのように、記者たちはここぞとばかりに教師たちを責め立てる。真実の追求とやらをお題目に立てて誹謗中傷を行うことを生業としている記者たちが、ただ教師たちが非を認めるコメントを取りたいがために何度も似たような質問を繰り返す光景を見ていた男は、薄く笑った。

 やがて画面は雄英の記者会見の映像から、スタジオへと移りかわる。報道番組の司会を務める白髪の老人は、向かい側に座る中年の女性に意見を求めている。

 

『コメンテーターの井関さん、この雄英高校の会見をどのようにご覧になりますか』

『そうですね、雄英に本当に生徒を預かっているという意識も、危機管理能力もなかったのでは?あのイレイザーヘッドなんて生徒を何人も退学にさせているそうじゃないですか。そんな心ない人間が本当に生徒のことを案じているのか、信じられるものではありませんね。イレイザーヘッドに教師の資格がないというのが一般的な日本国民の認識ですよ』

 

 ――今のところはあの坊ちゃんの狙ってたとおりの絵が撮れてるわけだ。さぞかし鼻高々だろうな。

 

 男は、あのバーで自慢げに今の社会の矛盾を捕えた子供に解説する弔の姿を幻視する。

 弔が作戦前に勿体ぶりながら今回の作戦の戦略的目標と題し、自身の狙いについて男らに説明していた。

 第一段階として、繰り替えされた雄英高校への襲撃と、防げなかった生徒の拉致という結果をもって、無責任で流されやすい世間がヒーローを非難するという構図を作り上げる。

 そして、拉致された生徒を奪還できないヒーローへの不信が広がったところで、第二段階として拉致した生徒を(ヴィラン)連合の仲間として実践に投入。ヒーローを育成するはずの雄英高校から(ヴィラン)が排出された事実は、ヒーローに、そしてそれを治安維持のために用いる社会制度そのものに不信感を抱かせることになる。

 弔自身は癪に障るのか敢えて説明しなかったが、ヒーロー殺し(ステイン)の逮捕により世間に広く認知されるようになった「英雄回帰論」もまた、弔の目標達成に大きく貢献することになるだろう。

 

 これまでの弔の行った作戦は、オールマイトを殺すためにオールマイトが教師を勤めている雄英高校の授業を襲撃するだとか、ヒーロー殺し(ステイン)への嫌がらせのために脳無を投入するといった作戦の結果が目標達成とイコールというよく言えばシンプルな、悪く言えば捻りのないものばかりだった。

 しかし、弔が自分たちのやるべきことはそもそもRPGじゃなく、戦略SLGだなどと零していたことを男は黒霧から聞いている。そして、既に目標は達成したものと考えている。

 

 ――ゲームなら一度達成された目標がスコアになる。けどな、そこからさらにひっくり返せるから現実(リアル)なんだ。

 

 男は、この会見を行ったヒーロー達の思惑を察知していた。

 

『現在、警察と共に捜査を進めております。我が校の生徒は必ず取り返します』

 

 前提として、このような会見でヒーロー側が「捜査は順調に進んでおります」などと馬鹿正直に言うことはまずない。自分たちの捜査状況を秘匿することが、(ヴィラン)側に対するアドバンテージとなりうるからだ。

 ただ、(ヴィラン)側が自分たちに追跡の目が向いていないという自信があり、かつヒーロー側が捜査が進捗している具体的な結果を出せていない場合、(ヴィラン)側の心理として多少なりともヒーロー側の捜査が難航しているという印象を抱くのは不思議ではない。

 おまけに、今回は事件発生からこの会見まで一日しか時間が経っていない。このことも(ヴィラン)側に油断を抱かせる。

 そして、その油断をヒーロー側は突く。

 

 ――警察から得た情報をもとに誘拐された雄英高校の生徒の居場所を突き止め、精鋭部隊をもって突入。生徒を保護すると同時に、(ヴィラン)連合の中心メンバーを一網打尽か。悪くない。けどまぁ、やはりヒーロー共は生温ィな。

 

 しかし、男はそんなヒーロー側の思惑もすべて看破していた。遠からずヒーローの突入があることを察知したからこそ、男は(ヴィラン)連合のアジトであるバーから抜け出したのである。

 No.2ヒーロー(エンデヴァー)を筆頭にNo.4ヒーロー(ベストジーニスト)No.5ヒーロー(エッジショット)が動いていることは男の協力者によって、男の知るところとなっていた。このタイミングでヒーローランキング上位のヒーロー達が一斉に動く理由は、雄英高校の生徒奪還以外には考えられない。

 男からしてみれば、ヒーロー達の捜査能力は御粗末なものだった。犯罪者を捕縛する能力はかつての警察の実働部隊をも上回るだろうが、ただそれだけとも言えた。

 

 警察による広範囲に亘って迅速かつ綿密に行われた調査と、逃走ルートを完全に遮断する完璧な包囲網。通常、警察がこのような大規模な動きをすれば当然葛西の部下達の知るところとなっただろう。しかし、常識を超える少人数の調査によって調査も包囲網も血族に全く察知されることなく実行できたならば、伝説の犯罪者、葛西善二郎を追い詰めることだってできた。

 自分たちの動きを悟らせないことこそが、犯罪者を追い詰める側に求められる大きな要素の一つであるが、男からしてみれば、ヒーロー達の動きは隠密とは言い難いものだった。

 ヒーローは基本的に活動範囲を限定していることや、メディアへの露出や世間からの注目が大きく一挙手一投足がSNSに書き込まれることから、その動向が見えやすい。調査は警察の仕事の部分が大きいということもあるが、ヒーローには調査や臨場を隠密に行う意識が乏しい。

 ヒーローたちの行動の隠匿は、社会の表で暴れる(ヴィラン)相手であれば十分であっても、悪意を研ぎ澄ませた本物の犯罪者相手では不十分だった。

 

 

 

 ――贔屓の生ガキのピンチだ。さて、どうするんだオール・フォー・ワン。

 

 

 

 男は神野駅前のオーロラビジョンに背を向け、アジトの一つがある歓楽街方面へと足を向けた。

 

 

 

 




葛西さんと言えばパチンコ

玉足りなくてとなりのドル箱山のように積み上げてるじっちゃんから一掴み玉を借りるところまでがお約束。
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