火事オヤジがヴィラン連合に参加したようです 作:じoker
普段は煙草を燻らせる中年男と、適当に飲食する痩せた少年、それと靄のようなものを纏う男性しかいない
「生で見ると……気色悪ィなァ」
「うわぁ手の人!ステ様の仲間だよねぇ?ねぇ?私もいれてよ!
「……黒霧、こいつらトばせ」
――オール・フォー・ワン。貴方、見誤ったんではないですかい?
男が死柄木弔のサポートにつけられてからまだ数日しか経っていない。しかし、その数日で男は半ば死柄木弔という少年を見限りつつあった。
「俺の大嫌いなものがよりによもってセットできやがった……餓鬼と、礼儀知らずだ」
お前さん、鏡を見てからその台詞をいいなさいな。という言葉が男の喉まで出かかったが、煙草の煙を吐き出すことでそれを誤魔化す。
こういうとき、煙草は便利だと男は思う。
何か吐き出したいものがあるときも煙草の煙と一緒に吐き出せば色々と誤魔化すことができるし、周囲に漂う煙は喫煙者に対する注意を僅かながらに緩和してくれるからだ。
一方、内心をごまかしながら静かに見守る男とは対照的に、大物ブローカー『義爛』の仲介によって
そもそも、ここ数日弔の機嫌は最悪だった。保須市の事件では、ステインと彼の主張に対して世論の注目が集まっているのに対し、弔が投入した脳無への注目は、まさに添え物程度であったからだ。
自分の目論見が外れ、自分が世間に相手にしてもらえず、何かと気に喰わなかったステインが注目されているからといって機嫌を悪くし、戦力の増強という次の一手に必要な判断を見誤る。
このような小物が
「まぁまぁ……折角ご足労いただいたのですから、話だけでも伺いましょうよ死柄木弔。それに、あの大物ブローカーからの紹介ですから、戦力的にはまず間違いないと見ていいでしょう」
黒霧が弔をどうにかなだめようとする。
生ガキのお守は大変だと男は思う。かつてのあのお方の最も信用された五本指も癖のある犯罪者ぞろいだったが、サポートの手間も弔ほどではなかったし、彼らの手筈は中々のものだった。サポートのやりがいがあるのがどちらなのかは言うまでもないと男は思っていた。
「葛西さん。貴方もボーっとしていないで、手伝ってください」
「
窘めるような黒霧に対し、男はいつもどおりの飄々とした態度を崩さない。
「葛西。今回ばかりはお前は正しかった。お前に何か言われる筋合いは俺にはない」
弔の言葉に、男女を連れてきた義爛が眉を顰める。
「葛西?……なるほど、あの伝説の犯罪者、葛西善二郎か!?懐かしいビッグネームじゃねぇか。本当に久しぶりにその名を聞いたが、まさか生きていたとはな」
「
この時、義爛は表面上は心底驚いたような態度をとっているが、実際は
葛西善二郎といえば、一昔前の
全国に指名手配され、燃やした建物も焼き殺された被害者も数知れず。おまけに刑務所すら大火を起して脱走したという逸話まであった。
しかし、その葛西も表舞台から消えて四半世紀が経とうとしている。また、彼の姿が最後に目撃された事件の際には、警察に追い詰められた葛西が逮捕されることを良しとせずに重傷を負ったままビルの倒壊に巻き込まれたとことが確認されていた。
本人が生きているのかも怪しいし、生きていたとしても当時とほとんど変わらない風貌であることはありえない。
商売であるからこそそれを指摘せずにおべっかをつかうが、義爛はこんな怪しい男を組織のトップのサポートにすえなければならない
「黒霧さん、あんたのところも中々順調にいい人材を集めているようだな。先に期待が持てそうだ」
「ええ、まぁ……」
「それで、俺のことよりもそこの嬢ちゃんと兄ちゃんの自己紹介をお願いできないか?」
話を振られて、最初に自己紹介を始めたのはセーラー服の少女の方だった。
「トガです!トガヒミコ!」
「名も顔もメディアが守ってくれちゃいるが、連続失血死事件の容疑者として現在進行形で追われている娘だ」
超常黎明期に起きた能力者のプライバシーの侵害、謂れの無いバッシングなどの人権侵害を受け、この国では犯罪者以外の情報を当人の許可無く情報発信することは法律で固く禁じられている。
トガの場合も、警察が容疑者としてマークしてはいたものの、逮捕にいたる決定的な証拠もなかった。そのため、メディアはこれまで彼女の情報を発信することはできなかったのである。
「生きにくいです!生きやすい世の中になってほしいものです!」
「ステ様になりたいです!ステ様を殺したい!だから入れてよ弔君!」
「意味が分からん。破綻者かよ」
男は珍しく弔と意見が一致したと思った。弔のサポートも中々面倒だが、このJKはさらに輪をかけて面倒なタイプだった。
「……会話は一応成り立つ。きっとやくに立つよ」
「会話ができても、意思の疎通ができてねぇよ」
イラついた様子でそう溢した弔の言葉を聞き流しつつ、義爛はトガの隣に立つ男の紹介を始めた。
「次はこちらの彼だ。目立った罪は犯していないが、ヒーロー殺しの思想にえらく固執している」
義爛に紹介された男は、身体中に火傷らしき爛れがある不気味な男だった。
「今は荼毘でとおしてる。ヒーロー殺しの意思を全うするためにここにきた。……が、不安だな。この組織に本当に大義はあるのか?それに……」
荼毘は弔から視線を後ろにずらした。
「葛西善二郎。ホンモノか?」
「…………」
「葛西善二郎は俺が生まれる前に表舞台から消えたはずだ。お前は亡霊か?それとも名を騙る別人か?」
荼毘に疑惑の目を向けられた男に、義爛やトガの視線も集まる。
何も言わないが、弔でさえ男に意識を向けていた。
「俺は俺だ。でかいスケールの思考ができない、どこにでもいる運動不足なしがない中年に過ぎねェよ。それに、俺が何をすればアンタの疑念を晴らせる?」
「…………」
荼毘は答えない。元々、彼は証明を強く望んでいたわけでもないし、伝説の犯罪者と称された葛西善二郎という男に対する興味も、さほどあるわけではない。ただ、名を騙る偽者をホンモノだと信じ込んでいるおめでたい組織ではないかと考えただけであった。
「
葛西善二郎を自称する男が、自身を戦力として期待するなと明言する。
この男が伝説の犯罪者のネームバリューを使って表立って組織を動かそうとする人間ではないと察した荼毘は、それ以上の追及はしなかった。
この男がただのしがない中年として振舞い続けるのであれば、別に正体が誰であろうと大した問題ではないと考えたからだ。
「……まぁいい。ともかく、ヒーロー殺しの意思は俺が継ぐ」
「どいつもこいつもステインステインと……」
元々、ステインの件で気が立っていた弔の前に現れた、ステインに大きく感化された参加希望者。それは怒りで燃える弔の心に新たな燃料を追加するようなものだった。
「良くないな……気分が。良くない」
ようやく腰を上げた弔だが、その顔に浮かぶのは新たな仲間を歓迎するときに見せるような表情ではないことは一目瞭然だった。
――流石に、これは止めますかね。
流石にこれ以上癇癪を起されてはまずいと判断した男は、弔が二人に向けて手を伸ばすよりも先に動いた。ジャケットのポケットに入れていた手を引き抜くと同時に、弔とトガたちの間に炎の壁が出現する。
突如目の前に現れた炎に、弔も彼の攻撃を迎撃しようとした荼毘とトガも動きを止める。
しかし、彼らの視界を塞いだ巨大な炎の壁は一瞬で消滅。彼らの注意が自分に向いたところで、男はパンパンと手を軽く叩いた。
「沸点が低いぜ小僧共。
「葛西、邪魔をするな……」
邪魔をされた弔は苛立ちを隠さない。そこに、黒霧がフォローに入る。
「落ち着いて下さい、死柄木弔。貴方が望むままを行うのであれば、組織の拡大は必須です」
「組織づくりで好き嫌いに拘るなとは言いませんがね。多少の齟齬や反抗は許容するぐらいの余裕を見せましょうや。それぐらいの器を見せるのが大事を成す人間には必要ですぜ」
「…………」
弔は不服らしく、未だに険しい目つきで男を睨みつけている。それを察したのか、黒霧が弔の耳元で何かを囁いた。
「……利用し…………彼……全て…………」
黒霧の説得が功を奏したのか、弔はひとまず手を下ろす。しかし、彼は結局納得することができなかったのか、不貞腐れるようにトガたちに背を向けてアジトの裏口へと足をすすめる。
「うるさい……」
「待ちましょうや、まだここから話が」
「うるさい!!」
止めようとした男の言葉を振り払い、弔はアジトの裏口をくぐり、姿を消した。
――オール・フォー・ワン。あんたが見込んだ後継者とやらにはもう
男は溜息をつく。
まさかここまで聞き分けがないとは思わなかった。サポートをするのはいいが、子守りをするだなんて聞いていないと男が思ったのも無理もないだろう。
「仕方がねぇな……黒霧さんや、ここはアンタにまかせるぜ」
「申し訳ありません、葛西。弔をよろしくお願いします」
「
男もまた、後ろに手を振りながら弔の後を追って裏口へと消えていった。
葛西が弔を止めたときに使った炎のタネはニトロセルロースのしみこんだ紙片です。
簡単に言えば、マジックとかで使うフラッシュペーパーですね。