火事オヤジがヴィラン連合に参加したようです   作:じoker

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2時限目 会<であい>

 木椰区ショッピングモール。

 県内で最多店舗数を誇る巨大商業施設だ。

 期末テストを終えたばかりの雄英学園一年A組の生徒達は、林間合宿を目前に控え、息抜きと林間合宿の準備を兼ねてショッピングをするためにここを訪れたのである。

 そして、そこで緑谷出久は思いがけない相手と遭遇していた。

 

 

 

 

 

「俺と(ヒーロー殺し)と何が違うと思う?緑谷……」

 親しげに歩み寄ってきた相手の正体は、かつてUSJを襲撃した(ヴィラン)連合を名乗る組織の一員、死柄木弔。警戒を解いていた出久は、首に手をかけられるまでそれに気づくことはできなかった。

 弔は自分の組織の新メンバーの面接の途中でアジトを抜け出し、気の向くままに歩いた末にここにたどり着いていたのである。

 そして、のどもとに凶器(能力)を突きつけられながら、出久は死柄木弔の質問について考えさせられていた。

「何が……違うかって……?」

 死柄木弔と、ステイン(ヒーロー殺し)。やっていることは似たようなものだと出久は思う。

 どちらも、ヒーローの命を狙って暴れまわっており、出久の知る限りでも多くのヒーローが彼らの襲撃により死傷していた。

 しかし、こうして両者の行いについて考えさせられたことで、出久の頭には二人の違いが浮き彫りになる。

「…………僕は……お前のやったことも、やりたいことも、理解できないし、納得できない……」

 でも、と一言置いて、出久は続けた。

ステイン(ヒーロー殺し)がやったことは……納得はできなかったけれども、理解はできたよ。僕も、ステイン(ヒーロー殺し)も……始まりはオールマイトだったから…………」

 出久の脳裏に過ぎったのは、脳無から彼を庇った満身創痍のステイン(ヒーロー殺し)の姿。そして、USJにて玩具に飽きた子供のように目の前にあるものをほったらかしにして帰ろうとした死柄木弔の姿が続いて過ぎる。

「僕はあの時、助けられた。少なくとも、ステイン(ヒーロー殺し)は壊したいが為に壊していたんじゃない。だから、お前のように徒に投げ出したりはしなかった。やり方は間違っていたけれども、理想に生きようとしていたんだと……思う」

 出久の口からでた答を聞いたその瞬間、弔の態度が豹変する。

「ああ……何かスッキリした。点が線になった気がする。何でヒーロー殺しがむかつくか……何でお前がうっとうしいか、分かった気がする」

 首に添えられた弔の手を通して、出久は恐ろしいほど冷たい感情を感じる。寒気が走り、精神が震える。

「始まりはオールマイト……そう、全部オールマイトだ」

 弔の顔に浮かぶのは笑み。それも、底知れぬ狂気を孕んだ恐ろしい笑み。

「いつ誰が“個性(凶器)”を振りかざしてもいいこの世界でこいつらがヘラヘラ笑って過ごすことができるのも、全部オールマイト(あのゴミ)がヘラヘラ笑ってるからだよなぁ」

 出久の首を掴む弔の手にも力が入り、彼の気道を塞ぐ。

「救えなかった人間などいなかったかのように!!ヘラヘラ笑っているからだよなぁ!!」

 たまらず、出久は首を絞める手をはがそうとするが、個性(ワンフォーオール)を発動しない状態では彼の手にこもった力には敵わない。

「ああ。話せてよかった!いいんだ!ありがとう緑谷!」

「ぐ……」

「俺は何ら曲がることはない!」

 このままでは死ぬ。それを頭ではなく身体で理解した出久は、個性(ワンフォーオール)を発動して強制的に彼の手を引き剥がそうと試みる。しかし、彼が個性(ワンフォーオール)を発動させようとした瞬間、弔が小さく口を開いた。

「っと暴れるなよ!死にたいのか?民衆が死んでもいいってことか?ヒーロー候補生?」

 その言葉に、発動させかけていた個性(ワンフォーオール)を引っ込める。しかし、それでも状況が好転するわけではない。首を絞められた出久は目前に迫った自身の死に対して何ら手をうつことができなかった。

 

 ――このまま死ぬわけにはいかない。

 

 出久は酸素が欠乏し、苦しくなる中で事態を打開する方法を考える。個性(ワンフォーオール)を発動すればこの手を引き剥がすことはできるだろうが、当然弔も個性を以て応戦するだろうから、同時にこの場所は戦場となる。

 周囲には無警戒な多数の民間人。ここが戦場となれば多数の死傷者が出ることは避けられない。

 民間人を危険に晒す決断ができない出久は、苦しみながら周囲を見渡し、打開策を見出そうとする。そして、自身にジーンズのポケットに入っている携帯電話の存在に気がつく。

 

 ――誰か、頼む

 

 画面を見ることも出来ない中で必死に携帯を操作し、自身の窮状を伝えようとするが、苦しさは次第に増し、視界もないことから操作に集中できない。

 万事休すかと出久が思ったその時、ベンチに腰掛けている二人の頭上から男の声がした。

 

 

 

 

 

「そう()()するなよ、お坊ちゃん」

 

 

 

 

 

 その声に反応したためか、弔の手に入っていた力が緩み、圧迫されて塞がれていた出久の気道が再び外気へと通じる。出久は思い切り息を吸い込み、同時に彼の首にかかっていた手を引き剥がして弔から距離を取った。

 呼吸を確保したとはいえ、先ほどまで首を絞められていた出久は慌てて呼吸したためか、激しく咳き込んでいる。しかし、そんな彼を尻目に、弔は声をかけてきた帽子をかぶった男に訝しげな視線を向けた。

「……葛西。お前が一体なんのようだ」

「それは俺の台詞ですよ。お坊ちゃん、あんたはこんなところで油売って何してんですかねェ。ここで騒ぎ起している暇があったら、さっさと面接の続きやっちゃいましょうや」

「……あんたの指図を受ける理由はない」

「ここにいるのはそこの生徒だけじゃないんです。それに、そいつ今お友だちに連絡しましたぜ。流石に十何人いるヒーローの卵相手にするのはおじちゃんみたいな中年にはキツイ運動でね。労わってくれないものですかねェ?」

 弔が視線を出久にやる。拘束から抜け出した彼は同時に増援が不可欠だと判断し、かつて保須市の事件の際にクラスメイトに一斉送信したメールを再送信していたのである。

 あの時のメールが再送信されたということは、出久がピンチにあるということに他ならない。既に、ショッピング中だった彼らは出久と分かれたこの広場に向けて動き出していた。弔が周りを見渡すと、人ごみの中でチラホラとUSJで見かけた生徒の姿が見えた。

「ここは出直した方がいいでしょう」

「……いいだろう」

 弔は帽子の男に連れられてその場から立ち去ろうとする。だが、立ち去ろうとする彼の前に、出久が立ち塞がる。

「このままお前を帰すわけにはいかない……!!」

「おいおい、少年。ここはお互いのために手を引いておくのがいいと思うんだが。周りの一般人にも被害を出したくないだろう?」

「……お前達がこのまま何もせずに立ち去るっていう言葉を鵜呑みにはできない。周りの人が犠牲にならない保障だってないんだ」

()ャハハハ!!そりゃあ、それも正論だな。だがまぁ……こんな中年と駄々っ子を相手にするよりも、世の中にはもっと楽しいことが沢山あるんだぜ、少年」

 帽子の男は、自分たちの背後に陣取った数人の生徒を視認すると、ポケットの中に入れていた何かのスイッチを押した。

 それと同時に、木椰区ショッピングモールのあちこちで爆発音とともに火柱が立ち昇る。

「イッツア(ショウ)タイム!」

 突然の轟音と立ち込める黒煙、さらに、あちこちで上がる火の手。出久たちがそれらに気を取られていた一瞬の隙に、弔たちはパニックになって逃げ惑う民衆の中に紛れ込んでしまう。

 出久は一瞬追跡するべきかと考えたが、優先すべきは人命救助であることは明らかだった。彼は個性(ワンフォーオール)を発動させ、人ごみの中に消えていく弔たちに背を向けて火柱が立ち昇った方角へと向かおうとする。

 

「では、また()を改めて」

 

 帽子の男の飄々とした言葉に歯噛みしながらも、出久は壁を蹴り群集の上を飛び越えつつ進んだ。

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