火事オヤジがヴィラン連合に参加したようです   作:じoker

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7時限目 描<えがく>

東京のとあるビル。昼間はそのビル内にオフィスを構える企業の社員でごった返していたのだが、既に日も沈みビルの中で光が灯っているのは警備員が泊り込む一室だけとなっていた。

「全く……こんなビルに夜中に態々忍びこむやつなんてそうそういないだろ。監視カメラだけで十分じゃねぇか。面倒くさい……」

 もっとも、そう言いながらも彼は先ほどまで誰も見ていないことをいいことに監視カメラすら見ずにイヤホンをつけながらゲームをしていたのだが。

 愚痴を言いながら見回りの準備をするこの男の名は藤田貫市。

 以前は起業していたのだが、このとおりのいい加減な性格が災いして借金だけが残って会社は潰れた。その後様々な職を転々とした末にこのビルの警備会社に短期のアルバイトで採用されたという経歴の持ち主である。

「どいつもこいつも俺の意見を理解できない、話にならないヤツばかりだ……道案内一つでも話のつうじないヤツが多すぎる……ん?うお!?」

 藤田は警備員室から一歩踏み出した途端に足元を滑らせ、しりもちをついた。

「痛!?何だこれは!?」

 藤田は尻餅をついた際に地面についた手に奇妙な感覚を覚えた。

「油……か?ったく、どこのどいつが溢しやがったんだ!!」

 もしも彼が真面目に勤務していたならばこの数分前にビルの全ての配管で同時多発的に燃料が噴出した音に気づき、そのことを会社に連絡するなどの適切な対応を取れたのかもしれない。

 また、この時点で周囲を確認して油が警備員室前だけではなくフロア中に撒かれていることを確認し、その異常さに気づいたかもしれない。

 しかし、それらは全てもしも(IF)の話である。

 そもそも、この警備員が勤務態度も真面目で誠実に仕事をこなしていたとしても、何れ彼を襲う運命からは逃れられなかったことには違いはない。

 何故なら、バチっという何かが炸裂したような音を聞いた直後、彼のいたビルは全フロアから同時に出火し、瞬く間に燃え盛る塔へと変貌を遂げたからである。

 燃え盛る塔の内部にいた藤田は、最後に視界全てを覆う真っ赤な奔流が自身に迫り来る景色を見て、永遠に意識を失った。

 

 

 

 

 

 藤田という男が永遠に意識を失ってからおよそ一時間ほど経過したころの(ヴィラン)連合のアジト。つい先日まで多くの人間が集まっていたが、今日は黒霧と弔の二人しかいない。彼ら以外の(ヴィラン)連合のメンバーは雄英高校の合宿地へと既に旅立っていたからである。

「予定通りならそろそろ、目標を確保して回収地点へと移動を始めているころでしょうね……しかし本当に彼らだけで大丈夫でしょうか?」

「うん。今回は俺の出る幕じゃない。ゲームが変わったんだ」

 黒霧の問いかけに対して弔は気楽に答えた。

「これまではRPGで、装備だけは充実していたけど、実質は初期ステータスでラスボスに挑んでた。だけど、本当に俺がやるべきだったのは戦略SLG(シュミレーションゲーム)だったんだよ」

「パーティとしてではなく、組織としての戦いということですね」

「そうさ。俺は指し手(プレイヤー)であるべきで、使えるコマ(キャラクター)を使って格上の勢力を切り崩していく。その場の戦いだけ見ればいいんじゃない。手持ちの全ての要素を勝利のために計算づくで使ってくのが、俺のやるべきことだ。そして、その為にまず超人社会にヒビを入れる。」

 弔は変わった。考え方が変わり、目的のために必要なことを段階を追って実行するということを知った。

 黒霧は、素直にその成長が好ましいものだと感じていた。

 ただ、計画に自信を持ちすぎている点だけは気になっていた。計画を綿密に練ったから大丈夫だという考えは過信でしかない。しかし、それを素直に指摘して聞き入れるほど弔は器量は大きくないことは彼も理解している。

 こういう時は、後で葛西にそれとなく指摘してもらうのがいい。開闢行動隊が許容範囲内の失敗をしてくれれば、きっと嫌味混じりに指摘してくれるだろうと黒霧は期待していた。

「開闢行動隊の奴らが失敗しても成功してもどっちでもいい。そこに来たって事実だけでヒーローを脅かすからな」

「捨て駒ですか……」

「バカ言え!俺がそんな薄情者に見えるか?奴らの強さはホンモノだよ。向いてる方向は皆バラバラだが、頼れる仲間であることには変わりは無い。ただし、葛西を除いてな」

「葛西を信用されていないのですか?」

「あんな胡散臭いやつを信用できるか。あいつに関しては、何故ここにいるのかが全く分からないわけだからな。まぁ……今回も仕事はきっちりこなしてくるだろうからその点だけは評価するが、それでも重要な仕事を任せる気にはなれない」

 葛西が胡散臭い男であることは、黒霧も承知している。ただ、オール・フォー・ワンは葛西について色々と知っているようだから、全面的な信用まではできずとも最低限の信用ぐらいは置いてもいいと彼は考えていた。

 それに、あれでいて葛西は真面目だと彼は思う。少なくとも仕事は不備もなくこなすし、時に意見を出すこともあるが、それもまた核心をつくような重要なものだ。場の空気が悪くなったところでガス抜きができるあのコミュニケーション能力も、我の強い面子が揃っているこの組織では欠かせないものだった。

 弔にも、葛西を全面的に信じろとは言わないが、ある程度の信頼を寄せるべきだと彼は思う。弔がムキになるだろうからこの場では言わないが、組織を運用する以上はあのような人材の使い方も学んでいってほしいと黒霧は密かに考えていた。

法律(ルール)や道徳とやらで雁字搦めの社会で抑圧されているのはこっちだけじゃない……開闢行動隊はきっと成功するだろうさ。それに、葛西だってやってくれると思っていることには変わりない」

 そう言うと、弔はテレビをつけた。

 そのチャンネルでは、普段ならば視聴率一ケタ台で何故打ち切られないのか不思議な長寿であること以外にとりえのないつまらないバラエティー番組を垂れ流しているはずだったが、今日は重苦しい空気のスタジオから緊急ニュースを報道していた。

 

『東京都港区で大規模なビル火災が同時に複数で発生しました!!』

 逼迫した口調でアナウンサーは手元の原稿を読み上げている。

『警察等によりますと、午後八時頃、港区にある若尾ビルほか三棟のビルが同時に出火し、火は瞬時にビル全体に燃え移ったとのことです。その後、熱によってビルが倒壊し。現在も燃焼は続いているとのことです』

 画面はスタジオから、現場上空のヘリコプターからの空撮映像へと切り替わる。

『現在の、現場上空の映像です。空からも、倒壊してなおも燃え続けているビルの姿が確認できます。炎上して倒壊したビルがまるで漢数字の『六』を描いているようにも見えます。過去に、このような炎上して倒壊したビルを使って数字を描く今回の犯行の同様の手口を繰り返していた元全国指名手配犯、葛西善二郎容疑者との関係についても、現在のところ警察からの発表はありません。この火災による死者、行方不明者などの情報もまだ確認中とのことで、未確認情報ではありますが、倒壊したビルに取り残された職員と、倒壊に巻き込まれた家屋に住んでいた数十人ほどの行方が分からなくなっているとの情報も入っています。また何か情報が入り次第、このスタジオからお伝えしてまいります』

 

「これだけ派手にやれば、(ヴィラン)連合が動いていると奴ら(ヒーロー共)は考えるはずだ。そして、俺たちを追っているやつらも手がかりを集めて現場へと駆けつける……当然、こっちにヒーロー共が集まるほど合宿地への増援は遅れることになる。失敗してもどうでもいい仕事だが、結果は上々だ」

 弔は、画面の中で灯る『六』の火文字を見て口角を吊り上げた。




葛西さん「フィーバータイムの始まりだ!!」
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