sunny place 〜彼女の隣が私の居場所〜   作:律乃

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【★】カランコエを添えて004 ※ネタバレ喚起(かんき)



ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)※ネタバレ喚起(かんき)


 

【公理協会 100層】

 

「ふぅ……」

 

さっきまでの特大炎の道化師との戦闘で多少本気モードになっていたらしく、知らぬうちに深いため息を漏らしてしまったあたしは癒しの効果を持つ泉の水によっておでこに張り付いた長めの前髪をかき上げながら、心友(しんゆう)たちのところへと歩いて行く。

その際にぽたぽたと栗色の癖っ毛から滴り落ちる雫が広いホールの床へと落ちていき、かき上げている髪の毛から乾いていくのを感じ、労いを込めて鞘へと《泉水(あいぼう)》をしまってあげると鞘越しに撫でる。

 

なので、あたしは気づかないでいた……泉水へと視線を向けているあたしへと猛スピードで近づいている黄金の疾風の存在をーー。

 

「カナタ!」

「ぐへっ…!?」

 

体当たりしてきた黄金の疾風ことアリスの青色の騎士服の上に装備されている黄金の胸当てに抱きつかれた際にカッキーンと頭をぶつけ、ガシッと背中へと両手を回された時は胸の形に盛り上がっているところに喉元が丁度きて、息が出来なくなるくらい抱き寄せられる。

泣きっ面に蜂とはこの事か、いやちょい待て。今顔にあっているのは胸当て。つまり、本来ならばあたしの顔に当たっているのはアリスの胸ということに…? 逆にそれは役得ではないだろうか……うん、もう酸素が足りてないのかもしれないな、こんな事を考えるなんて……。

 

「怪我はありませんか? 無茶をしないなんて嘘ではありませんかっ。あれは私の中では無茶に入ります! 肌は至る所火傷をしていましたし、着物もこんなに焼けているではありませんかっ。そもそも貴女という人はいつもこうも無茶ばかりするのです! その都度、私がどれだけしんぱーー」

 

背中に回してあるアリスの両手を解き、ひとまずあたしから離れてもらったから深呼吸するように訴える。

 

「ーーOK、アリ。一旦落ち着こ? ほら、深く深呼吸して……ふぅ、は––––ぁ」

「私はいつだって冷静です!! そういう貴女こそもう少し真剣に人の話を聞くことは出来ないのですか?」

「oh……ごめんなさい……」

 

(アリス様が怖いです……いつにも増して、怖いです。もう激おこを越して、鬼おこプンプン丸で怖いです。誰か代わってください。ここに立っていたくないんです)

 

という心の訴えは結局アリス様に届く事はなく、延々と小言を頂戴することになった。

やっとこさ、説教モードON状態のアリス様から解放されたあたしは力無く黒い剣の刃先を床につけながら、床を見続けるキリト。そのキリトにどう声をかければいいのか、悩んでいる様子のユージオの近くまで歩いていく。

 

「カナタ、無事だったんだ……ね…………」

 

あたしとアリスの気配に気づいたらしいユージオがこっちを見た途端、バフっと顔を真っ赤にさせてから真っ正面を見るのを不思議そうな顔で見送ったあたしは改めて自分の装いを見てみることにした。

 

あたし、カナタ・シンセシス・サーティワンの戦闘着は隣にいるアリス・シンセシス・サーティや他の整合騎士とは異なっている。

何処が異なっているかというとアリス達が騎士服の上に胸当てや小手等の防具で自分の身体を護っているのに対して、あたしの肢体には防具類は一つもなく、着ているものといえば橙色の着物だけでその下に"さらし"と黒いサポーターを履いているくらいだ。

叔父さん、ベルクーリ・シンセシス・ワンもあたしと同じような服装で青い着物と長ズボンを普段は着用しているのだが、戦闘時には流石に胸当てをつけている。

ならば、何故あたしは防具をつけないのかというと……あたしの戦法が"敵の攻撃を交わし、懐に潜り込んでからの一撃"という超至近距離での戦い方を得意としている。

相手の攻撃に当たらなければ、防具をする必要はないし、素早く交わすためにも機動性は確保しておきたい……って事で、あたしは橙色の着物、そして泉水以外は身につけないようになったというわけだ。

 

だが、どうやらその考え方が仇になってしまったようだ、今回は。

 

というのも、さっきの特大炎道化師もの戦いでチリチリになってしまった橙色の着物は防ぎきれなかった攻撃によりかなり際どいところにも穴が開いてしまったらしい。

例えば、胸の辺りは右胸の方に空いた穴からはさらしが見えちゃってるし、襟首のところに空いた穴からはさらしで出来た谷間が露出してしまっている。また、下半身の方も派手に穴が開いてしまっており、下に履いているサポーターと太ももが見えている。

 

ふむ、自分でいうのもなんだがこの格好はなんか痴女っぽいな……っていうよりもあたしのこの格好でユオは赤面したのか。

 

「ユオは想像通り、純真なチェリーボーイなんだね……」

「なんで生暖かい視線で僕が見られているのかな!?」

 

喚くユージオとニヤニヤとからかうように笑うあたし。

 

「カナタ、ユージオ、おふざけはそこまでにしてください。最高司祭様が何か仕掛けてくる様子です」

 

そういうアリスの険しい視線を辿り、今だ優雅に空気椅子をしている最高司祭・アドミニストレータが此方……いいや、自身が作り出した血の海に沈んでいるチュゲルキンへと華奢な左手を差し伸べているの視界に収める。

 

(何か仕掛けるつもりなのか!? まさか、治療術を……いいや、蘇生を……施すつもりなのか?)

 

ユージオの方を向いていた身体を正面へと向け、ギロリと鏡のようにあらゆるものを跳ね返す…無機質な瞳を睨む。

 

(いいや、アドミニストレータは完全な蘇生術を完成させてられなかったはず…)

 

整合騎士として帰ってきた時にリネル・シンセシス・トゥエニエイト、フィゼル・シンセシス・トゥエニナインという年端もいかない整合騎士に出会った事がある。

 

そんな彼女達と話をしていくうちに聞いたのは、目の前の最高司祭が行なった悪魔の実験の内容だった。

リネルとフィゼルを合わせた三十人の子供達はアドミニストレータが塔内にいる修道士と修道女に命じて作られたのだ、完全に失われた天命を回復させる《蘇生》神聖術の実験を行うためだけに。

 

思わずギリと奥歯を噛み締めてしまう、"こいつは人の事をなんだと思っているのか"と。

 

5歳という子供達に「お互いを殺し合え」とだけ命令して、ナイフを渡したのだ、こいつは。

本来ならば外でキャキャと元気一杯に走ったり、仲間達と泥遊びしたり、探検をしたりして、服を汚して、親に怒られる……それがあたしが信じて疑わなかった子供の特権であり、幸せだ。

そんな些細な幸せを、こいつは蘇生術の実験と評して、奪い、踏みにじった……。

 

目を瞑れば、当時のことをまるで他人事のように…誇らしげに、楽しげに話し合っている幼い整合騎士達の話し声が、表情が…聞こえ、浮かんでくる。

あの子達は早くアドミニストレータから飛竜と神器を貰い、戦闘に赴きたいと喜々とした表情で話し合っていた。

 

(でも、あたしはね。リル、フル)

 

君達には戦闘以外の幸せも感じて欲しいんだ。

産まれたその時から人を殺すことでしか存在意義を見いだせなかった……そうする事しか教えられなかった君達にも知って欲しい。戦う以外にも君達が心踊る出来事がこの世界には溢れていると……。

 

(ふ、我ながら柄じゃない事を思い、浸ってしまった……)

 

鼻で笑うあたしはもう一度目の前の銀髪の少女の出方を伺うと一切の感情が伺えない最高司祭の声がゆるりと流れ、続けて無造作に向けていた左手を横に振る。

 

「片付けるだけよ、見苦しいから」

 

途端、チュゲルキンの骸は紙の人形のように宙に浮かび、グシャという音ともに壁へと激突し、その下の床に落下して小さくわだかまる。

 

「……なんということを……」

 

隣でそう唖然と呟くアリスを見ることなく、あたしはただ最高司祭を、アドミニストレータを睨む。

チュゲルキンはあんたの為に命を懸けて戦ったんだぞ、あんたの為だけに。

それなのに、あんたはどうだ?

その骸を手厚く葬るのではなく、まるでゴミのように投げ捨てた……。

 

(やはりこいつはここで暮らす人を、自分を慕う人をなんとも思ってないっ)

 

睨み付けるあたしを見下ろし、口元に微笑を浮かべたアドミニストレータは無垢な美声をホールに響かせ、見えない寝椅子に体を横たわらせた姿勢のまま、ふわりと空中を移動し円形の広場の中央までくる。

 

「退屈なショーではあったけど、それなりに意味のあるデータも少しばかり拾えたわね」

 

さらっと風になびく薄紫色の光る銀髪をひと筋指先で払いながら、七色の光を放つ鏡のような瞳があたしを見据え、続けて今だ俯いたままのキリトを視界に収める。

 

「カナタもだけど、イレギュラーの坊や。詳細プロパティを参照できないのは、非正規婚姻から発生した未登録ユニットだからかな、って思ってたんだけど……やっぱり違うのね。あなたたち、あっちから来たのよね? 《向こう側》の人間……そうなんでしょ?」

 

囁くように投げかけられる言葉を聞いた途端、ユージオはキリトを、アリスはあたしを見つめる。

青い瞳と蒼い瞳に映るのは"あっち側ってなんのこと? "という疑問だろう。

 


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もっとスピードを上げねば、間に合わないかもしれない……4月の後半戦のスタートに。

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