sunny place 〜彼女の隣が私の居場所〜   作:律乃

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投稿の時間、あけてしまい申し訳ありませんでした。
色々とバタバタしてしまって、ここまで時間がかかってしまいました……

それでは、本編どうぞ(リンク・スタート)



詩章007 モテ期

 

モテ期。

人生の中で異様に異性に好かれる期間、それを略称したのがモテ期というらしい。

そして、厄介な事に。

どうやらそのモテ期とやらにあたしは該当しているようだ。

ほんと、厄介だ。

 

あの郵便局襲撃事件に巻き込まれてから、あたしは小学生時代をしばらく病院で過ごした。

その間、詩乃への恋心を自覚し、その後は彼女が訪れてくれる夕方の時間が何よりも楽しみになった。

ベッドの横の椅子に腰掛け、今日は学校でこんなことがあった、図書室で読んだ本が面白かったなど色んなことを話してくれる詩乃に時々相槌を打ちながら、彼女のまっすぐ見つめてくる瞳を受け止める。

焦げ茶色の瞳が窓から差し込む光に反射してキラキラと輝くのを綺麗だなと思ったり、一生懸命会話する彼女の姿が可愛く感じたり、時々見せてくれる笑顔が愛おしかったり……詩乃と触れ合う時間を過ごせば過ごすほど、胸に芽生えた恋の種が着々と花をつけ始めていく。

 

サラサラと揺れる焦げ茶色のショートヘア、伏せた瞼の端で揺れる大きなまつ毛、小さな唇。彼女の全てが愛おしくて、好きという気持ちが溢れてくる。

 

今すぐ、その華奢な身体を強く抱きしめて、驚く彼女の耳元で"大好き"と自分の気持ちを打ち明けたい。

 

でも、またねと去っていく詩乃にそれを実行することは出来ない。そんな勇気もない。出来ることといえば、無理矢理作った笑顔で手を振りかえすことくらい。

 

自分でも何がしたいのか、よくわからない。気持ちばかり先走り、考えがまとまらない。

自分の気持ちを打ち明ける事によって、詩乃が離れてしまうのが一番怖いし、あたしの為に引っ越しまでした父をこれ以上私的な事で迷惑をかけたくないという気持ちもあるのだ。

 

"このまま、あたしは気持ちを隠しかけるのだろうか"

 

去っていく詩乃の姿を窓から見ながら、溢れてくる好意に時間をかけて何重にも扉を閉めては、幼馴染という仮面を顔に貼り付ける。

 

何も感じないように。

何も反応しないように。

何もーーーー。

 

そう自分に言い聞かせ、詩乃と関わるようにした。

そうする事が正しいと信じて。

 

その後、病院生活を堪能したあたしは父と共に退院した。そして、地獄の補習続きの小学校生活を終えてから、近くにある中学校になんとか進学する事が出来たのだが……。

 

中学生になった途端、あたしは件のモテ期に突入してしまったのだ。

 

最初は入学式の次の日、放課後にいきなり知らない男子生徒に声をかけられて、"一目惚れがどうとかで付き合ってほしい"と言われた。あたしには恐怖でしかなかった。名前も学年も顔も見た事ない男子生徒にひとけのない所に連れていかれ、いきなりそんな事を言われたのだから。あたしは強張りそうになる顔を必死に真剣な顔にシフトチェンジし、"好きな人がいるので付き合えない"と素直に答えた。答えた後は残念そうな顔をする男子生徒に"だったら、友達なら"と言われ、友達ならと了承してメアドを交換した。

その後、知ったのだが、あたしに告白してきたその男子生徒は中学校では校内一のイケメンと評判の三年生だったようで、あたしは彼が好きな女子生徒達に仕返しという名のイジメをされる事よりも男子生徒の容姿に首を傾げていた。確かに目鼻はすっきりしていたが、イケメンだっただろうか?と。どうやら、恋というものをすると周りとの基準がズレてしまうようだ。いや、あたしは元々基準なんてバグっていたか。

そんな事を思いながら、学校生活を送っていたあたしは件の三年生のファンとやらにイジメを受けたが、それも受け流しているうちにいつの間にか終わって、その後は下駄箱や引き出しにラブレターが溢れかえるようになった。

手紙の封を開け、あたしのどこに惹かれたとかどれだけ好きかとか流し見した後は下の方に書いてある指定場所と指定時間に沿って行動しては"ごめんなさい。今、好きな人が居るんです"と言い、だったらと友達というのを繰り返す。男女問わず、アドレスの名前だけが増えていく日々にあたしはげんなりしていた。

 

「……陽菜荼。そろそろ、詩乃ちゃんが迎えにくるぞ」

 

「んー」

 

父が用意してくれた朝ごはんをもぐもぐしながら、生返事を返す。ことんと目の前に牛乳を置かれ、所々苦いトーストをミルクで流し込みながら、こちらも黄色の面積よりも茶色の面積が多めのスクランブルエッグをもぐもぐしていく。

 

急ごうとしないあたしに父さんはこりゃダメだと顔の半分を覆い、ピンポーンという呼び出し音に救われたような顔をする。

 

おいおい。いくら、あたしか朝で困らせるからってその反応は傷つくのだが。

 

そんな事を思いながら、玄関へと向かう父の背中へとむくれた顔をむけるあたしはいいよーだとグレながら、朝ごはんを片付けていく。そんなあたしの耳には玄関先での会話が入ってくる。

 

「おはよう、詩乃ちゃん」

 

「おはようございます、おじさん。陽菜荼は?」

 

「陽菜荼ならまだ朝ごはん。さっきまでこっくんこっくん船を漕ぎながら、食事を口に含んでいた」

 

「今日もですか」

 

「うん。ごめんだけど、詩乃ちゃん今日もお願いできるかな?」

 

「はい、いいですよ」

 

「別に詩乃に肝焼かれなくても、準備くらい自分で出来る」

 

驚く父の側をすり抜け、行ってきますと言ってから後ろをついてくる詩乃の前をずかずかと歩いていく。

 

学校に着いてからは好奇の目、好意の目、囁き声を素通りし、自席に着く。そして、ごそごそと引き出しを探れば、出てくるわ出てくるわラブレター。

 

「今日も手紙?」

 

後ろ斜めの席にスクールバッグを置いた詩乃が引き出しの中から取り出した三通の手紙を机の上に置き、疲れた顔をするあたしの肩から覗き込むように手元を見る。

 

「今日も多いわね。良かったじゃない」

 

「良くないよ。毎回フる度に胸がザクザクするんだって。人事だと思って……」

 

「だって、私には人事だもの」

 

「さいですか」.

 

はぁーとため息をつきながら、ホームルームが始まる前にちゃちゃと読んでしまおうと封を開けていくあたしは最後の一通に手を伸ばした時に一瞬固まる。

 

"香川 夜"

 

それはお隣さんの名前だった。

恐る恐る手紙を見るとそこには場所と時間の指定のみ書かれており、あたしは残り二通の手紙と共にリュックサックへと手紙を入れたのだった。




 008へと続く・・・・

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