sunny place 〜彼女の隣が私の居場所〜   作:律乃

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さて、今回は謎の歌い手さんが明らかになります!

本編を読みながら、誰かなぁ〜と推理しつつ読んで頂くとよりたのしく読めると思います!

では、本編をどうぞ!



6/12〜誤字報告、ありがとうございます!


虹章002 ひび割れた心に届く歌声

カナタは机から顔を上げると、ゆっくりと立ち上がる。濁った蒼い瞳で周りを見渡すが、周りには誰一人居なく…カナタはフッと掠れた笑みを浮かべる。

 

“心配してくれてた…フィーにあんな事言ったんだもんな…。それは嫌われても…仕方ないか…”

 

ふらふらとよろめきながら、カナタは真っ暗になった街へと繰り出した。寝れなくなったあの日から、日課となってる夜の散歩はカナタに多くの出会いを齎してくれる。例えば、昼間などでは分からなかった…このアークソフィアの夜景が綺麗とか、夜しかやってない不思議な店とか…繰り出してみると、このアークソフィアは面白い不思議に溢れていた…。

 

“ってね…。死にたいとか…言ってる割に、未練タラタラなのかな…?あたし…”

 

俯きながら、トボトボと石畳みを歩きながら…思い出すのは、冷たく突き放してしまったフィリアの事だ。自分の事を考えて…アスナに料理を習って、好物を作ってくれた彼女の好意を自分は何も考えずに、踏みにじってしまった…。幾ら、日々の疲れで…気だるく億劫になっていたといえ、あれは流石に無かった…。

カナタは、自分の癖っ毛の多い栗色の髪を掻き毟ると…小さく溜め息をついた。

 

「…はぁ…、本当に自分が嫌になる…。でもーー」

 

自分の身体に泣きすがりながら…フィリアが言った言葉が、脳内で再生される。

 

『…そんな事しても…ッ。シノさんは喜ばない…むしろ、悲しんでるはずだよ!わたしがシノさんだったら、カナタに自分の分まで生きてて欲しいものっ!だから、お願い…カナタ、そんな事言わないで…。わたしたちと生きようよ…、ね?』

 

「ーーフィーは、そんな事を言ってくれるけど…。あたしは…そう思えないんだ…よ…。目を閉じたり…暇な時になると…必ずっていうくらい、シノのことを考える…。シノは…あたしを憎んでるって…。…だって…、たまに見る夢やあたしの前に現れてくれる…シノ、は…いつも…あたしを…にら、んでる…。ふふ…自業自得だよ、な…ふふ…。あんな事を…言っといて…、守れなかった…裏切り者…睨まれて…当然、だよな…ふふ…」

 

疲れたような笑みを浮かべながら、カナタは立ち止まると上を向く。夜空には、複数の光が輝いていた…。

 

“…でも…、それとフィーは関係無いよな…。あたしの感情を…フィーにぶつけちゃあ…いけない、よな…”

 

カナタはまた、下を向くと歩きだす。

 

「…明日…、フィーに謝ろう…。あたしが…悪いんだから…。そう…全て…あたしがーー」

 

そう呟いた瞬間、カナタの耳は微かな何かを聞き取った気がした…。もう一度、耳を済ませてみると…何か、子守歌みたいな…心が安らぐような曲が聞こえてくる。

 

「ーー〜♪」

 

“これは…歌声?”

 

カナタはその歌声に導かれるように、そっちの方向へと歩き出すとーーアークソフィアの町の離れにある噴水に腰掛けて、手に持ったギターのようなものを鳴らしながら…目を閉じて、静かに唄ってる一人の少女の姿があった。

少女の周りをみる限り、少女以外に人の姿はない。なのに、なんで彼女はここで唄ってるんだろうか?

カナタは、少女が腰掛けてる噴水の前にあるベンチへと腰掛けると…改めて、目の前にいる少女を眺める。

腰辺りまで伸びてるさらさらの髪は薄焦げ茶色で、目を閉じてる少女の顔立ちは幼さが残るものの…何処か、大人っぽい雰囲気がある。身につける服装は、吟遊詩人をイメージしてるのか…頭の上にちょこんと可愛らしい帽子を被り、ワイシャツの上にボロボロなマントみたいなものを羽織っていた。下は、どうやら短パンに…ニーソックスを履いてるらしい。

 

“…この子…誰だろ?見たことが…無いな…”

 

攻略組にも、こんな子は居なかった気がする…。カナタは目を閉じて、気持ち良く楽器を鳴らす少女の澄んだ歌声に…次第にウトウトとし始めた。コックンコックンと船をこぎながら…ゆっくりとベンチへと身体を横たわらせた。

 

「〜♪」

 

“…眠たい…”

 

「〜♪」

 

少女の歌声に混ざり、カナタの寝息が混ざる頃…近くにあった店の灯りが一つ、また一つと消えていった…

 

 

γ

 

 

少女は歌い終えると、目を開ける。そして、そこでベンチの上で眠りについてるカナタに気づき…少女の頬は即座に真っ赤に染まった。その赤さは、暗闇の中でも分かるくらいで…ドクンドクンと聞こえてきそうなほどに脈立つ心臓の鼓動は、ベンチの上で蹲って眠りについている少女に好意…恋心を持っている何よりも証拠だった。

 

“うそ…なんで、この人が…”

 

ドクンドクンとうるさい鼓動をどうにか、抑えつけて…少女はカナタへと歩み寄ると、その華奢な身体を揺さぶる。スヤスヤと寝息を立てているカナタに、恐る恐る声を掛けるが…カナタの瞳が開くことはなかった…。

 

「あの〜、ここで寝たら…」

「すぅ〜、すぅ…」

 

“どっ、どうしよう…。仕方がない…ここは…”

 

少女は迷った末、ある事を考えて…それを実行した…。

 

 

γ

 

 

視界が明るくなっているのに気づき、カナタは目をこすりながら…ゆっくりと身体を起こした。寝ぼけ眼で辺りを見渡すと、見知らぬ物が置いてあることに気付いた。そして、今の今まで寝そべっていたベッドが自分のではない事に気づき…このベッドの主を探して、その主が思ったよりも早く見つかった。

近くにあったソファに座り、こっちを見ていた腰まで伸びた薄焦げ茶色の少女がにっこりと笑いながら、歩いてくる。

 

“…?…ここは…”

 

「あっ、起きたんだね。おはよう」

「…ぁ…ん…おはよう。…ここは?」

 

少女の声が思っていたよりも可愛らしいのと、普通に挨拶されたことに…カナタは驚きつつ、少女へと頭を下げる。そして、さっきから疑問に思っていた質問を少女へとぶつけると…思っていた通りの答えが返ってきた。

 

「ここはわたしの部屋だよ。ごっ、ごめんね…勝手に連れてきちゃって…」

「…んぅん。君が謝ることはないよ…。あたしの方こそ…あんなとこで寝てごめんね…。君に…迷惑かけちゃった…。………ふっ、つくづく…あたしは…愚か者だ、な…」

 

淡く微笑みつつ、そう謝ると少女がジィ〜とカナタの顔を見つめる。カナタは眉をひそめつつ、少女へと小首をかしげる。

 

「ーー」

「…あたしの顔に何かついてる?」

 

尋ねてくるカナタに、少女は突然 焦ったような表情を浮かべて…頬を赤く染めつつ、早口でカナタへと質問を返した。

 

「うっ、ううん…何でも。ただ、その…なんであんなところに寝てたのかなぁ〜って思ってね」

「…あぁ…、君の歌声が聞こえてきたんだ。…澄んだ歌声で…ずっと聞いていたいって思って…彼処に座ってたら、いつの間にか…寝てた…」

 

カナタの答えに、少女は顔を更に真っ赤に染めると横を向いてボソッと何かをつぶやく。そんな少女にカナタは淀んだ蒼い瞳で見つめて、様子のおかしい少女を心配する。

 

「〜ッ」

「…どうしたの?…あたし、君が嫌なことを言っちゃったかな…?」

「…君はズルイよ、そうやって…わたしをどんどん虜にしていくんだから…」

「…へ?」

 

小首をかしげるカナタに、少女はひらひらと両手を前で振りながら…ドアへと指差す。少女が早口で言うセリフに、カナタは頷きつつ…立ち上がると、先導する少女の後を追いかける。

 

「なんでもないよっ!それより、君は仲間の所へ帰らなくてもいいの!?今頃、心配してるんじゃないかな?」

「…あぁ…そうだね…、君の言う通りだ…」

 

少女の宿屋の前で、カナタは少女に見送られながら…自分の宿屋へと歩いていこうとしていた。しかし、カナタはある事に気付いて…振り返ると、少女の目の前まで歩いてくる。帰ってきたカナタに、少女は目を丸くすると微笑みながら…カナタへと問いかける。

 

「気をつけてね」

「ーー」

「どうしたの?もしかして、忘れ物?」

「ううん、違うよ…」

 

カナタは、問いかけてくる少女に淡い笑みを浮かべつつ…照れたように、自分の髪を撫でながら…少女へと質問する。その質問に、少女はこっくんと元気良く頷く。

 

「…今晩も君の歌、聞きに来てもいいかな?」

「うんっ、もちろんだよ!」

 

満面の笑顔を浮かべる少女に、カナタは小さく微笑むと…少女へと頭を下げる。

 

「…ふ、ありがとう。…そうだ、助けてもらったのに…お礼も言ってなかったね…。助けてくれて…ありがとう…、あたしは…カナタって言うんだ」

「……うん、知ってるよ…。ずっと…見てきたんだから…」

「?」

 

ボソッと呟かれたその言葉に、カナタは少女を見つめる。翳りのある蒼い瞳でジッと見つめられて…少女は挙動不審に、視線を彷徨わせる。

 

「あっ、えっと!?カ、カナタか〜っ。うんっ!君にお似合いのかっこいい名前だね〜」

「…そうかな?…あたしは、そうは思わないけど…。君の名前は…?」

「わたしはレイン。レインって名前なんだ」

「…レインか…、君にお似合いの可愛らしい名前だ…。レイン…、…しっかり覚えておくよ…。じゃあ、また今晩」

「うんっ、またね〜」

 

ふらつきながら、自分の宿屋へと歩いていくカナタの背を見つめていたレインは小さくボソッと呟いた。

 

「…すごくやつれてた…。君に何があったの…?わたしは…それが知りたいよ…」

 

 

 

ー続ー




ということで…謎の歌い手さんは、レインさんでした〜(((o(*゚▽゚*)o)))

読者の皆様の予想は当たったでしょうか?当たっていた方には景品をーー



ーーということはありませんが…、代わりに この章の名前の由来を紹介しようと思います(微笑)

この章は【虹章】。そして、今日登場したレインさんの本名は【枳殻 虹架/からたち にじか】。
この章のヒロインは、今回の話を読んで頂いた通りに…レインさんにしようと思っています(^ω^)
と、いうことで…レインさんの本名の【虹架】の最初の文字をとってーー【“虹”章】としたわけです!なので、この章の名前から…謎の歌い手はレインさんでは!?と推理させた方も多いと思います(微笑)

そして、本編で登場したレインの服装ですが…仮なので、決まったわけでないんです(汗)しかし、吟遊詩人姿のレイン…想像してみたら、可愛くって…このままてもいいかなぁ〜とか、思ってみたり…(^◇^;)




そんなレインさんとの出会いを果たしたカナタですが…この先、どんな風にレインさんと仲良くなっていくのか?レインさんはカナタの闇を取り除けるのか?

次回をお楽しみに、です(礼)



そして、この【虹章】ですが…毎週土か日のどっちかに更新しようと思ってます!それ以外の曜日は、ゆっくりですが…メインの方を更新していこうと思います!


では、長くなりましたが…【虹章】二話、読んで頂きありがとうございました!
次の土曜日か日曜日をお楽しみに、です!ではでは〜ヾ(@⌒ー⌒@)ノ

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