少し補足すると、この話のルクスさんはヒナタさんに好意と尊敬を抱いています。ヒナタのようになりたいと願い、時折 ヒナタに稽古をつけてもらっています。なので、シノさんとも仲良しなんですね〜(笑)
「はぁっ!」
茶色の岩洞を颯爽と駆け抜ける二つの人影がある。一人は右手に片手直剣を持つ白銀のウェーブの罹ったロングヘアーの少女で、垂れ目がちな髪と同色の瞳を今は鋭く細めて 前方にいる黒と藍色のアリ型モンスターへと斬りかかる。片手直剣スキル【スター・Q・プロミネンス】を発動し、血色の刀身がアリ型モンスター/Ant Soldierの身体を引き裂く。アントソルジャーの頭の上にあるHPバーが黄色まで下がったところで、ソードスキル後の硬直から回復した白銀の髪を持つ少女がアントソルジャーの攻撃を交わしながら、もう一度ソードスキルを叩き込む。黄色い刀身に引き裂かれたアントソルジャーの身体が水色のポリゴンへと変わったその時、白銀の髪を持つ少女の後ろからパチパチと拍手する音が聞こえる。ゆっくりと少女が振り返ると、ニコニコと満面の笑顔を浮かべているもう一人の少女の姿がある。
「おぉ〜っ、流石 ルーだね。この調子だとあたしの出番いらないかな?」
そう言って白銀の髪を持つ少女・ルクスを褒めるのが癖っ毛の多い栗色の髪と空のように透き通った蒼い瞳を持つ少女である。右腰に吊るしてある愛刀は抜いておらず、どうやらさっきの戦闘は全部ルクスに任せる予定だったらしい。ルクスは満面の笑顔を浮かべる少女・カナタの褒め言葉に頬を染めながら、自信なく答える。
「何を言ってるんですか、カナタ様。私なんてカナタ様に比べたら…まだまだ……」
「あははっ!ルーはもっと自信を持つべきだね〜。ルーは絶対、あたしなんかより強くなると思うものっ。そう確信できる何かがあるってあたしは思うよ。さぁ〜て、それじゃあ奥まで行こうか?」
「はい!カナタ様っ」
小さくそう答えるルクスに、カナタは彼女の背中をぽんと軽く叩くと右腰から愛刀を抜き取る。そして、広場の前まで来ると右手を広げて ルクスを止めると小声で話しかける。
「おそらく、そこの広場に中ボスがいるみたいだよ。今までと雰囲気が違うからね」
「確かにそうですね…、なんか嫌な空気が肌へと絡みついてきます」
「そういうことっ。だから、気を抜かずに行こう!」
「はい!」
互いの愛剣を構えた二人は顔を見合わせると、広場へと駆け出す。手始めに広場の前にいる二匹のAntlionへとそれぞれのソードスキルを叩き込んだ二人は手分けして、一匹のアントライオンを相手することにする。カナタは中ボス側のアントライオンを。ルクスはもう一匹のアントライオンを相手している。
「ふん!」
正面と背後で敵に囲まれながら、カナタは身体に染み込んだ身のこなしで二匹のサンドスモークを交わしては、その無防備な身体へと【卯月】を放つ。目に見えて、アントライオンのHPが減るのを見たカナタは、後方で同じくアントライオンと戦闘を繰り広げているルクスへと視線を向ける。こちらも安定した立ち回りと回避で確実にソードスキルでHPを削っている。
“ルーの方は敵のHPが赤か。流石ってとこかな”
「よっと」
アントライオンの前足の攻撃を交わしたカナタは、低い位置で【辻風】を放つとそのままの体制で、アントライオンへと斬りさくと、HPが0になったアントライオンはポリゴンの塊へと姿を変えて、岩壁へと吸い込まれていった。
「ふぅ…。次は、と」
「ぎゅるる!!」
「ふっ、少しは休ませろって!」
襲いかかってくる背後の敵を左手に持った刀を振り向きざまに斬りつけると、ぴょんぴょんと後ろへと飛んで 適当な距離を保つ。襲いかかってきたアントライオンに似たモンスターへと視線を向ける。すると、必然的に頭上に浮かんでいるHPと名前が見えて、そこにはこう書かれていたーーHM“UsurPer Of Nest Vorladung”と。
それを見ながら、カナタは眉を顰める。
「綴りからフォーアラードゥングって読むのかな?これ。ん?フォーアラードゥング??」
“キリに教えてもらった敵の名前ってこんな名前だったっけ?違うよね?キリは、確かマーベスクって言ってた気がする…。なんで、名前が違うんだ?それにさっきから感じるこの嫌な予感って…”
フォーアラードゥングが繰り出すアソッドダウンを刀で弾いて回避したカナタは、フォーアラードゥングに近づくと弱点であろう大きなお腹を愛刀で斬りつける。すると、悲鳴じみた声を上げるフォーアラードゥング。
「ふっ、はぁっ!中ボスなんだから、これくらいで根を上げないでよねって!」
前足を右左と動かして、カナタを攻撃しようとするフォーアラードゥングの攻撃をひょいひょいと交わしたカナタはその顔に向かって、血色した刀身を叩き込む。
「ぎゅるるる…」
「?なんだこの攻撃モーション…見たことなーー」
HPが黄色いゾーンに入ったフォーアラードゥングは、今まで見たことがない攻撃モーションを取り始める。何かを唱えるように口をパクパクしながら、前足をパタパタと動かす。遠目から見れば、何かの踊りのように見えるが…なぜか、その異様な踊りから漂ってくる粘っこい空気にカナタは左手に持った刀を強く握りしめるとフォーアラードゥングを睨む。そして、さっきまで考えていた違和感とこの気持ち悪い感覚の正体に気づいた瞬間、カナタは弾かれたようにフォーアラードゥングから距離を取る。
“フォーアラードゥングって確か、ドイツ語で召喚って意味だった気がする…。ならば…この攻撃モーションと謎の嫌な予感にも納得できるっ!くそっ、なかなか痛いところを突いてくるじゃないか”
しかし、この状況を知らない者が一人いたーー。
「カナタ様っ!」
「!?」
ウェーブの罹った白銀の髪を揺らしながら、顔色を変えて、フォーアラードゥングから距離を取るカナタに近づいてくるルクスにカナタは叫び声を上げる。
「ルー、ダメ!そこから逃げて!!あたしのところに来てはダメだッ!!?」
「へ?なんででーーわあ!?」
だが、時は遅く…攻撃モーションを終了させたフォーアラードゥングはその攻撃の対象をカナタではなくルクスへと向けた。カナタへと走り寄るルクスの足元に大きな蟻地獄が現れては、ルクスの身体を忽ち飲み込んでいく。それを見ていたカナタは、ルクスへと走り寄ろうとするが蟻地獄と共に新たに召喚されたアントライオンに行く手を阻まれる。
「クソ!ルーっ!」
「ギュルル」
「チッ、邪魔だっての!」
ルクスが落ちていった蟻地獄を取り囲むように召喚されたアントライオンの攻撃を避けながら、常に腰へと装備している小太刀へと右手を伸ばしたカナタはそのまま抜き取る。そして、ルクスが消えていった蟻地獄へと身を投じる。
身を投じて辿り着いた先には、アントライオンやアントワーカーとアントソルジャーに取り囲まれているルクスの姿があった。左端に小さく表示させてるルクスのHPが黄色から赤に変わった時、カナタの中にあった何かが外れた気がした…。
「貴様らぁああ!ルーから離れろぉおおおお!!!」
手に持った刀と小太刀が黄緑色に光を放ち、表情を変えたカナタがルクスを取り囲む敵へと走り寄り、ソードスキルを放つと荒れ狂うように刀と小太刀を振り回していく。蒼い瞳は鋭く細められ、その瞳は激怒で染められており…普段は蒼い瞳が今だけはその瞳が赤く見えた。
“カナタ…さ、ま……”
ありったけのソードスキルを放ち、次々と敵をポリゴンの塊へと変えていくカナタをルクスはただ呆然と見つめていた……
γ
「ーー」
「……」
ルクスを取り囲んでいた敵がものの三分でポリゴンの塊へと姿を変えて、漂うポリゴンの真ん中に立つ橙の和服を着た少女がゆっくりとルクスの方へと振り返ると、その顔をくしゃっと歪ませる。
「生きて…る、よね?ルー」
震える声でそう尋ねる少女・カナタにルクスは頷くと微笑む。
「はい、カナタ様が守ってくれましたから…」
「そっか…良かった…。っ、本当に良かった…」
そう呟いたカナタはギュッとルクスへと抱きつく。目を丸くして驚くルクスには構わずに、その華奢な身体をルクスへとグイグイ近づけると、ルクスの左肩に顔をうずめて泣きじゃくる。
「怖かった…ルーのHPが無くなったらって思うと、頭の中真っ白になっちゃって…。ルーを守らなくちゃって思って…っ、そのあとはがむしゃらだったよ…ごめんね、ルー。ごめんね、怖い思いさせちゃって…。本当にごめんね…ぅぅ…」
「…カナタさま…」
ルクスも戸惑いつつも、カナタを落ち着かせようとその華奢な背中を撫でると震えていたカナタの身体が少しずつ収まっていく。だが、収まらないものがあったーー
“カカカカ、カナタさまが私に抱きついて。なななな、涙流して?!”
ーーそれはルクスの心拍数であった。
好意と尊敬を抱いている少女の突然の行動に、ルクスの思考回路は崩壊寸前で、顔はゆでダコのように真っ赤に染まっていた。しかし、そんなルクスのパニック状態に気づいてないカナタは何を考えたのか更に身体を密着させるとルクスの耳元で囁く。
「ルー、ごめん…もう少しいいかな?。なんかね、安心したら力が抜けちゃったんだ…。もう暫く…肩、借りるね…」
「?!」
「本当に少しだけだから…、寄りかからせてね…」
そう言って、ルクスへと体重を預けるカナタはゆっくりと目を閉じる。そんなカナタに、ルクスはカッチンコチンに固まる。さっきの涙と寄りかかってくるカナタの服越しに感じる体温を感じた瞬間、ルクスの思考回路は完全に崩壊してしまい…キャパオーバーした脳からはプシュ〜と白い湯気が出ているようにさえ見える。
“#@☆¥$%○*€$¥”
パニック状態のルクスはもう何を考えているのかさえ分からなくなり、無意識にカナタの背中へと両手を回してしまう。そして、そんな状態が三分ほど続いた後、カナタはゆっくりとルクスから身体を離して…ルクスへとにっこり微笑む。
「あんがとね、ルー。おかげで元気になれたよ」
「ーー」
固まって動かないルクスに、カナタは眉をひそめつつも立ち上がるとルクスへと右手を差し出す。しかし、ルクスはその差し出される右手を見つめたままで動く様子はない。
「さて 取り敢えず、安全なところまで移動して…って、ルー?」
「ひゃい」
「ぷっ、ひゃいって…そんな返事する人、あたし初めて見たよ。ほら、立ち上がれる?行くよ」
「はいぃ…」
カナタに手を引かれながら、安全エリアへと辿り着いた二人は床へと座り込む。そして、どちらともなくため息をつくと…今後のことを考える。
「さて…困っちゃったね〜。隠しダンジョンってことは間違いないんだろうけど…、帰り道がわからなければ帰れないし…ん〜」
「ーー」
隣でぶつぶつと考え事を言っているカナタの右手は今だにルクスの左手を握っており、ルクスは自然に繋がったままの両手をジィと見ている。
「どうすっかな…。一応、ここは安全エリアに指定されてるみたいだから…ここで休んでから…明日、攻略ってとこかな?…と、その前に心配するだろうから…みんなに連絡」
「ーー」
「チッ、無理か…。みんなに迷惑かけちゃうな…、迷惑かけないためには…一刻も早く攻略すべきなんだけど…。ルーが疲れてる感じだし…」
「……」
カナタは黙ったままのルクスの表情を覗き込もうとして、今だに繋がったままだった両手に気がついて離す。
「あはは…ごめんね、ルー。あたし、そういうこと気づかないからさ〜。嫌になったら、言ってね」
「嫌なんてそんな。むしろ、私の方がこんなに幸せでいいのかって…あわわ、私は何を口走って…。でも、幸せなのは事実で、今日のカナタ様のことを可愛いなんて思えてーー」
「ぁ〜あ、ルー ごめん。早口で何言ってるのかわかんないよ。もう少しゆっくり言ってくれるかな?」
「なっなんでもないですから!!」
顔を真っ赤に染めて、そういうルクスにカナタは小さく注意する。
「うお!!?突然、大きな声出さないでよ」
「ご…ごめんなさい…」
しょんぼりするルクスに、カナタは笑いかけるとその顔を覗き込む。
「あははっ、そんなにしょんぼりしなくていいよ。さて、ルー 今日はここで休もう?」
「ここでですか?」
「ん、ここで休んで、明日頑張ろう〜。ということで、少し待っててね〜、こうなることを想定して…そういったものを確か買ったはず〜」
右手をスライドして、おそらくアイテム欄を見ているカナタはそれを見つけて、オブジェクト化したものを見たルクスは隣にいるカナタを見る。
「あっあの…カナタ様っ…これは?」
ルクスの視線に、カナタは髪をかきながら言う。
「ご、ごめんね…。そういえば、あるのあるけど…あたしって今ごろ、キリと攻略してて…一人分しかそういうの買ってなかったんだった。嫌なら…あたし、壁に寄りかかって寝るからさ…」
「いえ、そんな…カナタ様のなんですし…私がーー」
「ーーそんなのダメだよ!なら、こうしよ?二人で寝ようよ。狭いけど…充分、寝れるばず」
「へ?」
カナタの発言に目を丸くしたルクスはその後、簡単な食事をとり、眠れない夜を迎えたのであった……
ー その3へと続く ー
と、大変なことになってしまったヒナタとルクスですが…、はっきり言って…今回の話での二人は恋人みたいでしたね…(汗)
仲間思いが強すぎるのも考えものですね…、これはシノさんから見たら確実に浮気に入りますよね?あぁ…帰った時に、矢が飛んでこないことを祈るのみですね…