本編をお楽しみください(礼)
5/30〜誤字報告、ありがとうございます!
83層の迷宮区に足を踏み入れた私はまず《強欲なる盗人の王国1階》で、私の身長の三倍…いや、五倍くらいある大きなキノコのモンスター・ファニーキュップ三匹との戦闘を繰り広げる。
「シャアァアア!!」
「ふっ!」
私目掛けてパンチしてくるファニーキュップの一体の攻撃を地面に転がるようにして避けると、すぐに弓を引いて…ソードスキルを放つ。弓ソードスキル【タイム・オブ・スナップ】は弱体能力を持っており…、習得したその時からよく使っているソードスキルだ。
「!?!?」
パリンというポリゴンの音が聞こえたので…さっきのソードスキルで、一体は始末できたらしい。
“よし!この調子で…”
私は、弓から短剣へと武器を変えると…残り二体へと切りかかった…。
「ふぅ…。何とか…勝てたわ…。やっぱり、三体を一気に相手っていうのはきついかも…」
次の階へ向かう階段を上がりながら、ポーションを口に含む。すると、酸っぱいような…甘いような微妙な味が口に広がり、私は眉を顰める。
“良薬は口に苦しっていうものね…。ポーションも薬なのだから…こんな味がして、当然なんだけど…もう少しどうにかならなかったのかしら?”
思わず、そんな事を考えながら…足を進めて行くとどうやら、次の階へと着いていたらしい。《強欲なる盗人の王国2階》は、敵の配置がそれぞれ一人ずつで…殆どがゴブリンソードマンやゴブリンシャーマンなどが多かった、ので…遠くから弓で攻撃して、近づかれる前に倒してしまうということも出来た。
最後の部屋にいるゴブリンアーチャーをソードスキル【ヘイル・バレット】で倒すと、「ふぅ…」とため息をつく。右手を横にスライドして…ステータスを見ると、Levelが三つ上がっていた。
“Level…93…か。ダメね…まだまだ…”
こんなのじゃあ、またキリト達の…足を引っ張ってしまうに違いない。それに、もっと接近戦の練習をしなくては…一人でも、この迷宮区を攻略出来るほどに強くならないとーー私はあの人の…あの子の力にすらなれない。
“だから、もっと…もっと強くならないと…。もっと…もっと、敵を倒して…レベルを上げて…。いつかは、ヒナタの元へ…”
お守りの蒼いマフラーをギュッと握りしめ、私は次の階へと続く階段を踏みしめるように上がる。
「…ヒナタ…。あと少しで…そっちに行けるよ、私…」
小さく呟き、次の階へと足を踏み入れると…最初に小部屋が見えた。どうやら、その小部屋から上の道に行くか…右の道に行くかを決めるらしい。
“ん…、どっちがいいのかしら?”
悩んでいると、右側の道の奥に赤い何かが見える。右側の道へと歩いていくと…中央に立っている柱をグルグル回るように、大きな斧を持った牛型モンスターが居た。頭上に浮かぶ名前を見ると…どうやら、オークジェネラルというらしい。
“赤い帽子に…赤い服ね…。なんだか、本当の人間みたい…”
グルグル回るオークジェネラルから離れたところに陣取った私は、真っ黒な牛の顔を怒りで歪ませ…ギラつく赤い目を忙しなく動かしているオークジェネラルへと視線を向ける。赤いカーソルに浮かぶレベル表示は103というものだった…。
“Level103か…。10レベルも上だけど…挑戦してみる価値はあるわよね…?”
レベル10も上の相手を敵に回していいものか…?しかし、さっき階段を登っている最中に私は思った筈だ…。もっと強い敵と立ち回れるほど…強くなりたい…と、なら もう迷うこともないではないかっ。
「よしっ!私なら…大丈夫!……ヒナタ、見ててね」
私は、既に癖になりつつある蒼いマフラーをギュッと握りしめると…右肩から弓を引き取ると、私よりもずっと大きいオークジェネラルへ向けて…ソードスキル【タイム・オブ・スナップ】を放った。
「がァ!?」
「命中。動きながら…矢を放つ…ッ!」
ソードスキルが命中したオークジェネラルのHPが少しばかり減るのを見て、その場から離れてから…すぐに狙撃する。
「やっぱり…。レベル差が激しいものね…通常攻撃だけじゃあ、減らないか…っ」
近づかれては離れて攻撃を数十回繰り返した末に、漸く HPが黄色へと変わった。
“よし!ここで畳み掛けるっ!!”
矢が淡い光を放ち、ソードスキルの【ヘイル・バレット】が発動すると…複数の矢がオークジェネラルの大きな身体へと突き刺さり、目に見えて…HPが減る。
“あと…少しね、ここであのスキルをーー”
ソードスキル特有の硬直状態が解けると、すぐ様 ソードスキルを放つために矢をつがえる。
「ーーぐァあああ!!!」
近くで、そんな声が聞こえた時には…もう何もかもが遅かった…。振り回される斧の風圧に体勢を崩し、その無防備な身体にソードスキル【アルティメット・ブレイカー】が叩き込まれる。
「ぐっ…はぁッ…」
エフェクトの衝撃波をまともに食らった私は、肺に溜まっていた空気を吐き出し…後ろに迫ってきたもう一匹のオークジェネラルの攻撃を防御するために、短剣を構えるが…全ての攻撃をさばきれるわけなく…二発程、受けてしまう。
「ぐォおおお!!!」
「ッ!さばきれな…」
体勢を立て直し…後ろへと飛んで、二匹から距離を取ると…ハイポーションを取り出し、口に含む。チラッと左上に浮かぶ自分のHPを見ると…緑に戻った様子だった。
“だからって…油断は出来ないわね…。ハイポーションはさっきので、あと一つになってしまったし…ポーションに至っては…あと三つ…”
それに比べて、相手のHPは一匹が赤いゾーン。もう一匹はフルHPときた…
“少し…分が悪いかしら?でも…やるしかないのよね!”
短剣を仕舞い、矢をつがえ…赤いゾーンのオークジェネラルを狙い撃ちする。追いかけてくる二匹からは距離を保ち…あと少しで、赤いゾーンのオークジェネラルを倒せそうと思ったその時だった…
「がァああ!!」
「ぎュるる!!」
“嘘…。なんで、こんな時に…モンスターポップ…”
私の下がった場所に、二匹のオークウァーリアが姿を現して…その二匹から距離を取ろうとした時に、後ろから来ていたオークジェネラルの攻撃を背後から食らう。
「ぐァああ!?」
「しまっーーがァッ!?」
前に転がる私に群がる二匹のオークウァーリアと二匹のオークジェネラル。慌てて、腰から短剣を取り出して…赤いゾーンのオークジェネラルを攻撃したが…もう既に遅い。次から次へと叩き込める攻撃を避けれるわけもなく…袋小路にあった私のHPはみるみるうちに赤いゾーンへと向かっていく
「っ…」
こうなった時に取らなくちゃいけない行動は分かってる。敵の隙を見て、安全なところまで逃げるとそこでポーションや結晶…HPが回復するものを使う。そして、体勢を整えてから…反撃へと向かう。
そう、分かってはいるのだ…しかし、身体が動かない。まるで、そこに根を張ったように…両足が迷宮区の深緑色した道へと張り付いては離れないのだ。
“お願い…離れてっ。私、こんなところで死にたくない…っ”
しかし、想いとはうらはらで…身体が私の言うことを聞いてくれるわけもなく…あと一撃食らったら、HPが0になる時には地面に腰を下ろしていた…。そして、昨日買った蒼いマフラーを目の前へと持ってくると、ピンチになると必ず助けてくれるヒーロー的な存在の恋人を思い浮かべる。心の中で、呪文のように繰り返しで唱える…“助けて”と
“…こんなところで死にたくないっ。ヒナタに会えないまま…死ぬなんて…”
「助けてぇ…陽菜荼ぁ…っ!」
両手で蒼いマフラーを握りしめて、ギュッと両眼を瞑るとーー
「うぉおおおおおっ!!!」
ーーそんな叫び声が聞こえたかと思うと…パッリンパッリンとポリゴンが砕ける音が聞こえてくる。ゆっくりと目を開けると…目の前が青白いポリゴンの欠片で埋め尽くされた。突然の出来事に、ポカーンとしていると…ポリゴンの先にいる人影がこちらに向けて歩いてくる…。
「ーー」
しかし、舞う複数のポリゴンが邪魔で、肝心の顔が見えない…。
ポリゴンの隙間から覗くその人の特徴は、橙の羽織に折れてしまいそうな程に華奢な両手に掴まれているのは刀と…もう一方は…短、剣だろうか? にしては…長いような…
“…あなたは…誰…?ポリゴンが邪魔で…顔が見えないよ…”
大事に両手で握りしめていた蒼いマフラーを力無く膝の上に置いてから…、その人が来るまで…夢心地の感覚で待つ。そしてーー
「やっと見つけた…シノン」
ーー凛としたアルトよりのその声に導かれるように、上を向いた私は助けてくれた人物を視界に収めると目を丸くした…
次回は、シノンと駆けつけてくれた誰かとの話ーー
ーーではないんです…、ごめんなさい…(汗)そして、もう一つ残念なお知らせで…シノ編はこれでお終いです。
というわけで、次回はヒナタ編をお送りします。此方も、シノ編程に荒れると思うので…よろしくお願いします(礼)