本編をどうぞ!
6/12〜誤字報告、ありがとうございます!
カナタ・キリト・フィリア・ルクスの四人は、今日 84層の迷宮区の攻略へと来ていた。しかし、イキイキとした様子で攻略してるのは約二名で…他の二名は、バーサーカーみたいに敵をバッサバッサと倒していく約二名を呆れた表情で見ていた。
「カナタ!そのアントコマンダーは俺が貰ったぞ!」
「チッ。なら…あたしはそっちのハニーマイトを!」
黒の疾風と橙の疾風が《暴食の寝座1階》の隅々まで駆け巡り、競うように…蟻型モンスター達をポリゴン片へと変えていく。黒の疾風は両手に持ってる二つの剣で、モンスター達を斬り裂き…橙の疾風は、基本 左手に持った愛刀を振りまわしては モンスター達を斬り裂いて行った。ここまで、一方的な攻撃…いや、ここは殺戮と言うべきなのだろうか? が続くと、倒されていく蟻型モンスター達が可哀想になってくる…。
「おーい!フィー、ルー!早くこっちにおいで〜」
「早くしないと置いていくぞ〜!」
最後のモンスター達を倒したらしい疾風達は、次の階が待ちきれないらしく…仔犬のようにブンブンと右手を振っている。そんな疾風…二人の様子をやれやれと言った感じで、フィリアは隣を歩くルクスと共に眺めている。ルクスは、苦笑いを強くすると…こそっとフィリアへと話しかけてくる。それにフィリアも頷く。
「なんだか、あの二人は似た者同士なのかもね」
「そうかもね、あんな戦闘狂ばっかりだったら…このゲーム、もう終わってるかもしれないからね」
「あはは」
フィリアはルクスと笑い合いながら、次の階に行きたくてウズウズした様子の二人の元へと歩いていこうとしたその時…階段のところで休んでいたらしい人影がキリト達めがけて歩いてきた。その人影は、薄紫の短い髪に 紫色で統一された戦闘着を身に付けた謎の女性だった。キリトに向けて、親しげに話していたかと思うと…キリトの傍らにいるカナタを見つめて、にっこりと微笑む。
「あっ、キリト!それと…」
「ん?」
「キリトのお友達?あなた、すっごく可愛いねぇ〜」
そう言って、カナタを抱きしめた謎の女性の豊満な胸元へと顔をうずめるカナタは…苦しそうに、両手をパタパタさせていた。そんなカナタと謎の女性の行動に、フィリアとルクスは。片方は心配そうに眉をひそめて…もう一方は、親の仇みたいな感じで目を細めると…カナタとその謎の女性を剥がしにかかる。
「むぎゅ〜っ」
「大丈夫!?カナタ様っ!」
「ちょっと、あなた!カナタから離れなさい!」
ルクスがカナタに声をかけている間、フィリアはカナタの腰へと両手を回すと自分の方へと引っ張る。しかし、謎の女性の力が尋常じゃないほど強く…また、フィリアの後ろに引っ張る力も強い為、カナタは柔道で決め技をされた時にトントンと畳を叩くみたいに、謎の女性の背中を叩いたが…カナタの奪い合いで必死の二人はそんな小さなヘルプに気づくわけもなく、綱引きは激しさを増していった。そんな二人の間でオロオロしてるルクスと、二人を止めようと声をかけるキリト。そんなキリトの呼び掛けに応じた謎の女性・ストレアがパッと抱きしめていた両手を離したもんだから…カナタとフィリアは二人して、後ろへと倒れこんだ。
「おいおい、二人とも落ち着けよ…。カナタが可哀想だろ?ストレアも突然、抱きつく癖は直した方がいいと思うぞ」
「んー、もう少し ギュってしたかったけど。キリトがそう言うなら仕方がないねぇ〜。はい!」
「ちょっ…そんないきなり離したら…」
「ぷぱっ!やっと、解放され…って!?なんで、あたし…後ろへと倒れていってんの!?」
騒がしい音が聞こえた先にあったものは…思わず、目を瞑りたくなる様なものだった。その証拠に、ルクスとキリトは気まずそうに両手で目を覆い…ストレアは、目を丸くさせていた。
「ん…」
「ン!?」
後ろへと倒れこんだ二人は、重なるように倒れ込んだ際にーーフィリアはカナタの胸元へと両手を添えてしまい、カナタはフィリアの唇へと自分の唇を重ねてしまった。そんなカオス状態を引き起こしている二人も、状況が飲み込めてないらしく…暫く、至近距離で目をパチパチさせあっていたが…。
カナタとキスしてるという状況に、脳が思考処理を超える速度で運動して…カナタはその倍くらいの動きで、フィリアの上から下りると…座って、こっちを見つめてくるフィリアに頬をゆでダコのように染めて、蒼い瞳に涙を溜めると何度も何度も土下座をして謝る。
「ごっ、ごごごごご…ごめんねっ、フィー。あたし…っ」
「ーー」
そんなカナタの様子をフィリアは心ここに在らずの様子で見つめる。ボヤーンとした視界で見えるのは…今までみたことないくらい顔を真っ赤に染めたカナタでーー
“ーーへ…?カナタ…照れてくれてる?頬、赤いし…”
どうやら、フィリアの最初の目標である《自分を意識させる》は思わぬ形とはいえ…達成したらしい。コツンコツンと迷宮区の床に頭をぶつけ続けるカナタを何とか止めて…キリト達は最後の迷宮区探索を始めた…
γ
結局、ボス部屋まで84層を攻略したカナタ達は後ろからの響き声に、眉をひそめる。
「ん?君は?」
振り返った先には、全身を茶色に染めてる金髪の女性が居た。頬のところに、鼠のような髭があるのは…わざとなんだろうか?
そんな風に、カナタが思っているとキリトがその謎の女性の横に立つと左手の親指で指しながら…謎の女性の説明をしてくれる。
「カナタ、フィリアにルクス、ストレア。こいつが前に話してた情報屋のアルゴだ。アルゴの情報は正確でな、俺やアスナ達も利用させてもらってる」
「キー坊、褒めても何も出さないゾ」
「俺は事実を述べてるだけであってだなっ」
ニヤニヤと笑いながら、キリトをからかっているアルゴに説明を受けた三人が問いかける。
「じゃあ、私たちも知ってるってこと?」
「まぁーナ。何故か…キー坊の周りには噂の絶えない連中が集まるからナ〜。例えば、そこの青い服に金髪のお嬢さんはトレジャーハンターのフィリアだロ?」
「!?なんで…わたしの名前…」
アルゴが一瞥して、カナタの右横にいるフィリアを見ると…観察するように、フィリアの顔を見つめる。
「この世界でトレジャーハンターを名乗る者は多く居ないからナ〜。ごく最近では、レアアイテムもゲットしたそうじゃないカ。でも、不思議なんだよナ…そのレアアイテムはカップルで身につけてないと発動しないんダ、あっそうカ〜 そこにいる《蒼目のさむーー」
「ーーダァ〜〜〜っ!!」
「うわ!?何さ、フィー 突然、大きな声だして…」
余計な事を口走りそうになるアルゴを大きな叫び声で遮って…フィリアは荒く息しながら、アルゴを睨みつけた。その水色の瞳には〈余計な事は言うな!〉と書かれていた。アルゴはそれに肩を竦めると…今度は、カナタの左横にいるルクスへと視線を向ける。
「そこにいる白銀の長い髪のお嬢さんも中々の実力と聞いてるよ、ルクス」
「わたしの名前。そうか、フィリアの名前を知ってるなら…わたしのことも知ってるか?でも、わたしの情報なんて集めても得にはならないと思うよ?」
「そう…謙遜するのはよくないゾ、ルクス。あんたはそこいやの攻略組よりも腕がタツ。ここまで、あんたが実力を付けれたのは…そこにいる《蒼目の侍》様の指導がよかったノカ…もしくは、もともとあんたが自分の実力を隠し持っていたカ、ダナ」
ルクスはアルゴのセリフに首を横に振ると、穏やかに微笑むと左隣に立つカナタへと視線を向ける。その視線に尊敬とは違う色が混ざっているのに、気付いたアルゴはルクスの情報をもう一度整理するべきだな…と思った。
「アルゴさんの仮説だと…前の方が合ってるよ。わたしは、ここにいるカナタ様のおかげで…ここまで強くなったんだから」
「…ナルホド、覚えておくヨ」
「じゃあ、次はあたし!」
元気良く右手をあげるストレアに、アルゴは困った顔をする。
「…残念だガ、お嬢さんは分からないナ」
「そっか〜。あたしはストレアっていうんだっ」
「成る程、ストレアか…。こっちもしっかりと覚えておくヨ」
ストレアからカナタへと向けたアルゴは、キリトにしていたようなニヤニヤとした笑みを浮かべる。その笑みに、カナタは眉を顰める。
「そして、最後が色々と噂の絶えない《蒼目の侍》カナタだナ」
「噂の絶えない?あたしが?」
“あたし、その噂とやらに全然…身に覚えがないんだが…”
「あア…色んなのがあるゾ。そうだナ…例えば、女性なのに女性に異常モテてるとカ。本領を発揮したら、実力が…《黒の剣士》を超えるとカ。…とっておきは、《黒の剣士》よりも女たらしって噂だナ〜。攻略組の女性プレイヤーやら《アークソフィア》にいる女性をとっかえひっかえらしいじゃないカ」
「…もしかして、カナタって…わたしやシノン以外も?」
「…流石、カナタ様。英雄色を好むっていうからねっ」
「…俺よりも…?俺よりもって何だ?」
「…うん、みんながあたしの事。ろくな目で見てないことだけが分かった、その噂たちで」
其々がアルゴのセリフにコメントした後、アルゴがニヤニヤと微笑むと…カナタへと手を差し伸べた。
「にゃハハハ。そんなカナタ…いや、カー坊はキー坊よりも難儀になりそうだかラ…オレっちが手伝ってやるヨ」
「あ…うん、よろしく…」
その後、宿屋に戻った四人はゆっくりと今日の疲れをとった…。約一名ほど、眠りにつけない者が居たが…それはまた今度の話で…
フィリアとのラッキースケベでのキスから…アルゴに聞いた自分に関するロクでもない噂の数々ーー今日は恐らく、ヒナタにとって、とても疲れた日となったことでしょう(微笑)
次回は、84層のボス戦か85層での話を書こうと思ってます(礼)