sunny place 〜彼女の隣が私の居場所〜   作:律乃

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連れていかれるところまで行こうとしていかなかったです…ごめんなさい(土下座)

代わりに、読書の皆様が期待しているであろう"カナアリ"を差し込んだから…許して…

このとーりだから(両手を胸の前に合わせる)


【★】カランコエを添えて007

【ルーリッド村・カナタの自室】

 

ギシギシとあたしが身動きする度に木製で出来たベッドは真っ暗闇の中に音を響かせる。

夏という季節にしては心地よい室温を保っている寝室だというのに頬やおでこ、背中などにとめどなく脂汗が滲んでは寝間着として着替えた薄手の小さな体をすっぽり覆うTシャツへと大きなシミを付ける。

 

「……んーっ、んーー……」

 

べったりと背中に張り付く布地の冷たさに気持ち悪さを覚えたあたしは今まで寝よう寝ようと一生懸命瞼を閉じようと試みていたが、流石にこれ以上は我慢できそうにない。

 

“はぁ……。こっそり、外の空気吸ってるか…”

 

なので、このままでは寝るにも寝付けないと結論づけたあたしは薄いタオルケットを蹴飛ばして、上半身を起こす。

 

「……ふぅ」

 

小さなため息を一つついたあたしは「よっ…とッ!」と勢い付けると両手をベッドへと付けては両脚を浮かせるとピョーンとカーペットの上に見事着地を決めたあたしは汗がしみた寝間着を勢いよく脱ぎ捨てると代わりに普段着である橙のTシャツとスカートを着用する。

 

その後、抜き足忍び足で物音を立てずに外へとくりだしたあたしは日常的にはお母さん達やお婆さん達が井戸端会議に使用しているベンチへと腰掛ける。

 

“…はぁ、そよ風が火照った身体に心地いい…”

 

ベンチの背骨へと背中を預け、夜風へと癖っ毛の多い栗色の髪を遊ばせながら、気怠げに夜空を見上げる。

晴れた青空のように透き通った蒼い瞳へと映る星々は今のあたしの瞳には映らない。

映っているのは、あの時自分の手で払いのけた真っ黒な砂のような終わりの見えない底なし沼のような暗闇。

 

“……あの頭部は…一体何だったんだろう…”

 

ふと思うのはあの洞窟の中で出会った奇妙な頭部の事で、気掛かりなのはルーリッド村へと戻る道中、ずっとあたしの服を震える手で掴んでいた金を溶かしたような鮮やかな金髪を三つ編みにしている幼馴染の事だった。

 

ルーリッド村に帰った後はいつものような表情に戻り、重そうに両手で氷が沢山入ったバスケットをキリトから受け取った彼女はしばらくの沈黙後、にっこりと微笑むとこう言ったのだ…"明日のお弁当は楽しみにしててね。腕を振るうから"と。

そのセリフにいつものように"お腹空かして待ってる"とは言えなくて、その事が今になってちょっと後悔してたりしてる。

 

「……はぁ…」

 

“…明日も明後日(あさって)明々後日(しあさって)だって食べたいな…”

 

そんな願望にも似た事を思いながら、そろそろ帰って寝ようかなと腰を上げた時だった。

 

「……………」

「…カナタ?」

 

と鈴の音のような可愛らしい声だが隠しきれぬ天真爛漫さを含ませた声が聞こえたのは…。

あたしは上げた腰をベンチへと戻しながら、そちらへと視線を向けると思った通りの人物が立っていた。

 

「……その声はアリスお嬢様かい? こんな真夜中に外に出ていたら、村長さんにおこられちゃうよ」

 

そう言っておどけてみせるあたしへとムッと頬を膨らませるのは背中へと鮮やかな金髪を流した少女でどこまでも広がる青空のようなまん丸な青い瞳はまっすぐあたしを見つめたまま動かない。

そのアイコンタクトから話したいことがあると汲み取ったあたしがコクリとうなづくと彼女が側へと歩いてくる。

 

「それはあなたもでしょ。……隣いい?」

「お嬢様の御心(みこころ)のままに」

 

そう尋ねてくる少女・アリスへと不敵に笑い、クルクルと軽やかなステップを踏んで道化(どうけ)じみたコミカルな動きで一人分座れるように隙間をあけるとアリスへと左手を差し出す。

その左掌へと右手を添えながら、アリスがクスクスと笑う。

 

「ふふふ」

「…やっと笑ってくれたようだね」

 

アリスがベンチに座った後に続くように腰かけたあたしが顔を覗き込めながら、淡く微笑みながら呟く独り言に青い瞳をまん丸にするキョトンとしているアリス。

 

「…へ?」

「……アリスはいつも笑顔の方がよく似合うと思うよ、あたし」

 

その一言でやっとあたしの言いたいことが分かったように目を見開くアリスは"まいったな…"といったように苦笑いを浮かべるとあたしへと問いかけてくる。

 

「そんな深刻そうな顔してた?私」

「……んー、別れた時はそうとは思わなかった。でも、今のアリスはあまりにも強張っているからね」

「……はぁ……そう。カナタって人のこと見てないようでよく見ているのね」

「……あはは、すっごい貶されている気がする」

 

失笑しながら夜空を見上げるあたしの手へと自分の手を重ねるアリス。

 

「……ね、カナタ。私、どうなっちゃうのかな……」

 

重なり合う手から伝わってくる小さな振動からヒシヒシと伝わってくる不安を包み込むとにっこりと笑う。

 

「………だいじょーぶ。ユージオも言ってたでしょう?あんなの禁忌にすら入らないよ」

「……でも……っ、私……」

 

今に不安げなアリスの繋いでいる手をワザと自分の方に引っ張ると目を丸くしたアリスが胸へと倒れ込んでくる。

倒れ込んできたアリスの華奢な身体を抱きしめながら、彼女の右肩へと(おとがい)を載せて、耳元で囁きながら、不安を払い落とすかのようにポンポンと背中を優しく叩く。

 

「……カナタ…?」

「……大丈夫って言葉じゃあ不安だと思う。でも、心配しなくていいからね」

 

アリスの右手首に巻かれている黄と青の紐とあたしの左手首に巻かれている橙の紐を見つめながら、穏やか声音で言の葉を繋げる。

 

「……この紐は……あたし達が四人で一つって証なんだから。前に約束したでしょう?あたしとアリス、キリトにユージオは死ぬ時も一緒ってさ…その約束を果たすまで、この紐は外れないってことになってる」

「ただの紐なのに?」

「ただの紐なんかじゃないよ。この紐はあたし達の固い絆を表しているんだよ。だから、アリスが連れていかれるときはあたし達も一緒さ。その場にあたし達も居たんだから」

「………うん」

 

あたしの(おもい)を聞いたアリスもやっと落ち着いてきたようであたしの右肩へと顎を乗っけてくる。

その動作によってあたしの頬を擽る金髪へと手櫛を入れながら、髪の毛を優しく撫でる。

 

「それにあたしがアリスを一人なんてさせないよ」

 

そう、一人になんてさせない。

誰がアリスを連れていこうとあたしも彼女へとついて行く、それで処刑させようが何させようが別に構わない。

だって、あたしのことだから…きっと、そんな恐ろしい所にアリス一人で行かせてしまったことに後悔してしまうと思うから。

 

「……ね、カナタ。もうちょっとこのままでいい?」

「……ん、いいよ」

 

そううなづいたあたしは怒られない事をいいことにアリスの髪の毛へと手櫛を入れ続ける。

そんなあたしの拙い手櫛でも落ち着くのか、アリスが気持ち良さげに瞳を細める中、ボソッと呟く。

 

「……貴女って、不思議な人ね。ただ抱きしめられているだけなのに…心がポカポカしてくる……お日様なのような……ううん、この優しい暖かさはまるで日向(ひなた)みたい…」

「……そう…かな?」

 

そう小首を傾げるあたしにアリスがいつものように笑うと

 

「そうよ」

 

と言うのだった。




これまでの連続更新が効いているのか……メモデフで【トワイライト・キス アリスちゃん】が当たりました…(驚愕)

また、明日はユージオくんの誕生日であると同時にSAO第1巻が発売された日でもありますよね!!
なので、この連続更新を進めていこうと思うのですが……もしかしたら、間に合わんかもです(汗)

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