sunny place 〜彼女の隣が私の居場所〜   作:律乃

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更新遅くなってしまいすいません(大汗)

会社の飲み会が立て続けに入ってしまって…更新するのに出来なくて…ほんとすいませんでした(土下座)

さて、いよいよ今回の話で"幼少期エピソード"がラストとなります!!

公理協会に連れていかれたカナタはアリスちゃんを守れるのか?

本編をどうぞ!!


【★】カランコエを添えて009

【公理協会・地下牢】

 

「ーーッ!」

 

力任せに自分の方に右手首に繋がれている鎖を引っ張ってみると薄暗い牢屋の中にチャリンチャリンと甲高い鉄と鉄がぶつかって発生する音が響く。

その音を辿ってみるとどうやらこの鎖は壁へとはめ込まれているタイプなのだろう、連れてこられた時は乱暴に服や髪を掴まれて、抵抗する間も無くこの手錠をはめられたものだからここまでじっくりと観察は出来なかったが、こうして冷静に観察してみるとーー

 

“ーーほんとなんもないな、ここ…"

 

いや、何もないというわけでない。

実際にはあるのだ、今もこうして腰掛けている簡素なベッドに磨きぬかれたタイルに窓が一つ。

そんな暗い牢屋を照らすのは、外の壁へと無造作にはめ込まれている安易な松明。

 

「はてはて、こっからどうしましょうかね」

 

小さな脚を組んだ後に(おとがい)へと左指を添える。

 

“まず、さっきも試した通りであたしの力ではこの鎖をどうか出来るとは思えない。だからといって、ここで黙って殺されるのを待つのはごめんだ。

 

左手首に巻かれている三つ編みにしている橙の紐をギュッと掴んだあたしはどこかに抜け道はないかと辺りを見渡そうとして、目の前のベットに座るアリスがあたしをじっと見ているのに気づき、"どうしたの?"の意味を込めて、小首を傾げてみる。

 

「カナタって本当おバカよね」

 

すると帰ってきたのは上の素っ気ないセリフときて、あたしは苦い笑みを浮かべると目の前に座っていらっしゃるルーリッド村村長のご息女様に伺ってみる。

 

「あー、アリスさん…?今まで一言も喋らなかったと思ったら…身体を張って貴女様を助けに来た幼馴染に対して、その言い分は如何程(いかほど)かと?」

「だってバカはバカじゃない。誰も飛竜にしがみついて付いてこようなんて思わないわよ。もし落ちたらどうするつもりだったのかしら?」

 

いつものお姉ちゃんぶった口調で逆に説教されて、あたしは冷や汗を一筋流す。

 

「あーはい…落ちたらですよね……その節は大変お世話になりました……」

 

というのもあたしが落ちないようにとアリスが自分の肩へと両脚を乗せるようにと言ってくれたのだ。

飛竜が羽ばたくたびにおこす風と横から吹きつけてくる突風に早くも落ちそうで鎖にしがみつくのに必死だったあたしはその言葉に甘えたのだが……今思えば、あの小さな肩であたしを支えてくれていたのだ。きっと重かっただろうに…道中文句の一つも言わなく、あたしを陰ながら守ってくれていた。

なので、そこを突かれれば弱くなってしまうのだ。

 

あの時のことを思い出し、潔くぺこりと頭を下がるあたしにアリスは「くすっ」と笑うと表情を引き締めると

 

「………ありがとう、カナタ」

 

そうボソッとお礼を言うのだった。

余りにも小さいその呟きにあたしは鳩が豆鉄砲を食らったようなアホ面をアリスへと晒す。

 

「へ?」

「…夜の約束、守ってくれたでしょう?私を一人にしないっていう」

「いつもはだらずなあたしだけど大切な人との約束だけは守りたいからね!」

「だけはっていうのが気になるところだけど…………ありがとう、カナタ。貴女が一緒に来てくれて、とても心強いわ」

 

ニッコリ微笑むアリスから視線を逸らしたあたしの頬はアリス曰く真っ赤なりんごのようだったそう。

 

 

τ

 

 

その日から3日後のある日の事、あたしとアリスは牢屋を守る門番に乱暴に叩き起こされた後に整合騎士を伴って廊下をトボトボと歩いていた。

 

そっと後ろを見てみると燃えるような炎のように赤い重量感あふれる鎧へと腕を通している大男がある。

竜頭のような兜の下にはきっとその巨体に似合った強面な顔をしていることだろう。

 

そんな整合騎士から横へと顔をスライドすると怯えた様子のアリスお嬢様がいらっしゃる。

何故、怯えているかというと…恐らく、あたしたちの後ろにいる真っ赤な整合騎士殿が自分達を公理協会に連れてきた当人だからだろう。

 

捕縛してきた張本人が顔を出すのだ。きっとこの先に待つのは審問(しんもん)処刑(しょけい)

恐らく、審問とやらを上手くやれば処刑になることはないと思うのだが……それを決めるのはあたしではなく、人界の絶対管理者が決めるのだ。

その人が"首をはねろ"といえばそれが産まれたばかりの赤子だろうか平気ではねるのがこの世界というものだ。

あたし達平民…もっというとなんの権利も与えられてない子供に何が出来るというのだろうか?

 

“でも、それを理由に諦めるなんてことはしたくないよねっ”

 

そう、諦めずにいればきっとユージオとキリトが迎えにきてくれるはずだから。

 

だから、今は隣で泣きそうな顔をしているお姫様を安心させることに努めるとしよう。

それが今のあたしに出来る最初の事だろうから…。

 

「…カナタ」

「…大丈夫、だいじょーぶ。そんなに怖いなら、手でも握る?」

「…し、仕方ないわね。カナタがどうしてもっていうから」

 

こういう時でもお姉さんぶりたいのか、お得意のツンデレをご披露なされるアリスお嬢様にあたしは両肩を上下させると黙ってアリスお嬢様の右手へと左手を添えるのだった。

 

そんなやりとりから更に時間が経過し、あたし達は不思議な場所へと連れてこられていた。

 

“なんだここは…?”

 

それが初めてこの場所に来た時に感じた感想だった。

どこまでも白い広場の至る所にはカプセルのようなものが複数埋め込まれており、その中には正気が感じられない人の頭部が入っている。

真っ白な骨張ったその頭部は老若男女すらも分からない……幼い(あお)と青の瞳には恐怖としか映らなかった。

自分達が瞳を通して脳へと送り込んでいるこの光景は果たして"本当の事なのか?""誰かのイタズラではないのか?""あの頭部はあたし達と同じ人間というのか?"など疑問が生まれては驚きの海へと沈んでいった。

 

無意識にお互いの手を強く繋ぎなおすあたし達から顔を上げたあの真っ赤な整合騎士は奥からトクトクと歩いてきているまん丸なシルエットに声をかける。

 

「チュゲルキン閣下。例の子供達を連れて来ました」

「意外と遅かったですね。何をしていたのかとは聞かずにおいてあげましょうか。7号もう下がっていいですよ。お前はもう用済みです」

「…はい」

 

しっしっとおさがりに右手をふる目の前のまん丸なシルエットに頭を下げた後に真っ赤な整合騎士は姿を消した。

そして、残るのは目の前であたし達の顔をジロジロ不躾に見てくる赤と青の道化…ピエロじみた服装に身を包むふくよかな小柄なおじさんときた。

 

“えーと、このおじさんがあたし達を処罰するひ、と…?”

 

なんだよね?多分。

あの真っ赤整合騎士は消えちゃったし、残るのはこの小さなおじさんしかいないし…。

ならば、この弱そうなおじさんからアリスを守りきれば、あたしの勝ちということになるのだろう。

 

あたしは横にいるアリスをそっと後ろへと移動させるとキョロキョロとこっちを見てくる小さなおじさんを睨む。

 

「さてさて、どちらがアリス・ツーベルクですかね…と聞くまでもありませんでしたね。後ろにいる方がですか」

 

そんなあたしに臆することなく小さなおじさんはズンズンとあたしへと歩み寄るとムカつく笑みを浮かべながら下から顔を寄せてくる。

 

「それでお前はなんです?」

「なんですって何?あたし、なんですって名前じゃないけど」

 

同じように薄ら笑いを浮かべて軽口を叩いてみると間近にある真っ白な顔へとメキメッキと血管が浮かぶのを見て、"してやったり"とほくそ笑む。

 

「ふん!クソ生意気なガキですね、お前」

「お前って何ですか〜ぁ?あたしの名前はお前でもないんですけど〜ぉ。お・じ・さ・ん♡」

「クーーーーッ!!!?」

 

おぉ…いい歳して地団駄とはその服装に似合って幼児のようですな〜、こりゃ滑稽(こっけい)滑稽(こっけい)

 

「か、カナタ…」

「どしたの?アリス」

 

小さなおじさんイジメを満喫しているあたしの袖を弱々しく後ろへと引っ張るのはアリスだ。

その顔が青ざめている理由がさっきまで楽しんでいた小さなおじさんイジメでない事を願いたいが、そうにはいかないらしい。

 

「…そんなに怒られて大丈夫なの?その人、きっと偉い人なんでしょう?」

「…さぁ〜?きっと大丈夫なんじゃない?」

「…大丈夫じゃなかったらどうするのよっ」

 

アリスお嬢様とのコソコソ話を右耳ムギ〜ュで終わったあたしを見た地団駄おじさんはやっと自分の役割を思い出したのか、あたしの耳を掴むアリスを指差す。

 

「今はクソガキに構っている場合ではないですよ。

アリス・ツーベルク。お前は神聖術に秀でているそうですね」

「ーー」

 

耳を掴んでいた手を背中へと回し、ギュッとシャツを握りしめるアリスはコクリと素直にうなづく。

 

「その秀でた才能を無下にするのはもったいないという陛下のお優しい慈悲によりお前は整合騎士になれる権利を得ました」

「…整合騎士…?私が…?」

 

まん丸な青い瞳が更に丸くなり、今にも飛び出しそうにも思える。

 

「えぇ、これから整合騎士になる為に必要なとある術を唱えてもらいます。しかし、その術を唱えた後は今までの事を全て忘れてしまうことになります。別にいいですよね?」

 

ニンヤリといやらしく笑う小さなおじさんの言ったセリフにあたしもアリスも一瞬固まる。

 

“…え?整合騎士になったら今までの記憶が無くなるの?”

 

って事は、さっきの真っ赤整合騎士も整合騎士になる前はあたし達と同じ人間だったというこ、と?天界の使いなどではなく?

もしあたしの仮説が正しければ、人界に住む全民はこの公理協会に騙されていたということに…そして、その被害者は整合騎士ということになる。

 

と怒りで震えているあたしと違い、アリスは小さなおじさんの"今までの記憶を失う"のところを重要視したらしく、その青い瞳は溢れ出しそうなおけの水のように波紋を数回水面に広げた後に遂に溢れ出してしまった。

 

ポロポロと頬を流れる透明な雫を見ながら、ニヤニヤと笑っている小さなおじさんを見ているとさっき湧き上がってきた怒りよりも更に強い衝動に駆られ、小さなおじさんの首根っこを掴み、その真っ白な顔に一発拳を埋め込んでやろうと駆け出す。

 

「…ゔぅっ……お願い、忘れさせないで。私の大切な人たちを忘れさせないで」

「アリスを泣かすな!このちびちびじいさーーぐっハッ!?」

「カナタ!」

 

その襟首を鷲掴みにしてやろうとした時だった、あたしの身体が見えない壁に阻まれ、壁へと叩きつけられたのは。

肺に溜まった空気を外へと吐き出したから床へと倒れこむあたしをゴミを見る目で見るのは小さなおじさんだ。

 

「さてお前はどうしましょうかね?勝手に付いてきたお前の処分は私が全部担っていますからね」

「がばっ…ごっ…ほ…」

 

尖った靴をあたしの頬へと置いて、グリグリと踏みつけながらニタニタと笑う。

 

「さっきまでの無礼を謝り、私の靴を豚のように舐めるっていうのなら処刑は取りやめてもいいですよ〜?ほらほら、どうするのです?」

 

頬肉が歯に当たって痛い…くっそ…それにさっき吐き出した空気の分の空気を取り込めてないし、何よりこんな奴の靴を舐めるという屈辱を味わうくらいなら、このまま死んでもーー

 

「やめ……やめてくださいっ!」

 

ーーそんな事を思うあたしの耳へと涙声で懇願する可愛らしい声が聞こえてくる。

目の前に広がる青いドレスに白いフリルのついたエプロンの組み合わせを見て、あたしはあの小さなおじさんの脚にしがみついているのがアリスだと知る。

 

「この子はっ…私の…大切な…幼馴染なんです…っ。だから、許してください…っ!!この子は私を守る為に……私との約束の為に付いてきただけなんです…!!」

「それがどうしたというのです?このクソガキが私に無礼を働いた事は事実でしょう?なんです?このクソガキがしない代わりにお前が靴を舐めるというのですか?」

「それでこの子を……カナタを助けてくれるのなら……私は舐めます……」

 

“やめろ!そんな事するな、アリス!!”

 

こんな奴に媚びることなんてないっ!!顔を見てみろ!?こいつのことだ。きっと舐めさせた後にあたしも舐めなければ取り消さないというに決まってる!そんな奴なんだよ、このピエロおじさんはっ。

このおじさんにとってあたし達は単なる暇つぶしのおもちゃでしかないんだよ。

 

「ほーぅ?なら、その言葉が嘘じゃない事を早く証明する事ですね。じゃないとこのクソガキがどうかなってしまいますよ」

 

あたしの頬をグリグリと踏みしめてから脚にしがみついているアリスを見下ろした小さなおじさんの言葉に従い、青い袖に包まれた小さな腕から屈辱と恐怖や他の感情をかきかき混ぜて震える掌がタイルにつき、続けて両膝をタイルへとつけてから腰を持ち上げる。

 

「…っっ!!」

 

強く踏みつけられているせいで声が出せない代わりに首を横に振っているあたしへと淡く微笑んだ後にアリスはキュッと唇を噛みしめる。

そして、尖った黄色い靴へと幼さを残しつつも整っている顔を近づけると桜色の小さな唇からチロッと小さな舌が顔を出す。

 

“……やめ…て……アリス……。君がそんな事をする必要なんて……ないんだ……”

 

あたしの一時の感情に任せた我儘により降りかかっている大切な幼馴染への荼毒(とどく)に涙が止まらない。

しかし、そうしている間にもアリスの小さな舌は黄色い靴へと近づいており、あと1センチで付いてしまうと思った時だった。

小さなおじさん以外の声が聞こえたのはーー

 

「さっきからなんの騒ぎかしら?チュゲルキン」

 

ーーと不機嫌な声が聞こえた後に小さなおじさんはピクッと震えた後に声を裏がらせる。

 

「ーー!?へ、陛下ぁ!?今日はもうお休みになられたはずでは?」

「あなた達の声が大きくて、つい目が覚めしまったわ」

「申し訳ありませぬっ。私としたことが…この非礼はーー」

「ーー別にいいわ。それよりもチュゲルキン。その脚に引いているのは何かしら?」

 

恐らく、陛下という人の圧に押されたのか?

小さなおじさんはあたしの頬から靴を退けると数歩後ろへと下がる。

 

「…へー、あなた面白いわね」

 

そう言って、あたしの顔を覗き込んできた恐ろしいほどに美しくもどこか冷たい雰囲気を漂わせている女性はクスッと笑う。

 

「チュゲルキン。この子達は私が貰っていくわね」

 

そして、そう小さなおじさんに言うとあたしを抱きかかえ、アリスを呼ぶとどこ変わらない所へと歩き出すのだった。




これにて幼少期エピソードの完結です(敬礼)
あたしなりに考えたオリジナルが多めとなりましたが楽しんでもらえたでしょうか?

オリジナルすぎて…キャラが変わってないといいけど…(大汗)

因みに、チュゲルキンが整合騎士の真実を話したのは、シンセサイズすればカナタもアリスちゃんもチュゲルキンから聞いた事を忘れちゃうからです。
"今まで"という事は、その事実さえも含まれているのですから…。

さて、次回からはいよいよ久しぶりのシノンちゃんとの絡みです!!
久しぶりのシノンちゃんとカナタのやりとりが書けるのが楽しみな分、感覚を忘れてないか?不安だったり…(苦笑)







では、次回の話にてあいましょう!
ではでは〜(ぱたぱた)

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