参加させて頂きました!
ちょっと本当にショートになってしまいましたが、書きたいことは書けたと思っています♪
前座扱いしたお2人、申し訳ありませんw
暑い。そして遅い。
もうかれこれ何十分待っているだろうか。
白く、透明に近い肌が徐々に熱を帯びていく。
彼──シンドバットから連絡が久々に来て、ランチでもどうだ、と誘われた。
最初こそ悪態を吐くだけ吐いたが、やはり久しぶりに会えるという事実に勝てなかった。
とはいえ、遅い。
常日頃から女の子に恥はかかせないだとか、レディファーストがどうのと抜かすくせに、私にはこの塩対応か。
……ダメだ、イライラしてはダメだ。
久々に会うのだ。笑顔で迎えよう、と少し冷静にため息をついた。
しかし。
目の前の道に昇る陽炎に不思議と親近感が湧きはじめた。
ゆらゆら、ゆらゆら
ゆらゆら、ゆらゆら
イライラ、イライラ───
「……よぅし」
陽炎ばかり見ていると自分の心が抑えられないような気がしてきたので、いっそのことここら辺一帯の温度を氷点下まで下げて、陽炎が昇らないくらいの温度にしたらどうだろう。
うん、それはいい。ついでにシンドバットのバカに私が怒った時どれだけ恐いか再確認させてやろう。
では善は急げというし、早速やろう。
そう彼女が意気込み、その両の手のひらに意識を集中させていく───
と、その時。
バッ!
「うわっ!」
目の前を何かが通り過ぎた。いや、走り過ぎた。
何か、とは言ったがそれはよく見れば彼女がよく見知った人物だった。
「…ん?カイじゃないか」
「あ、フリーズ様…」
カイと呼ばれた少年は立ち止まり、振り向く。
「丁度いい。少し私と──」
「すみません!急ぎますので!」
「あ」
そして踵を返し、再び走り去って行ってしまった。
フリーズとしてはいい暇つぶしが都合良く走って来てくれたなぁと軽く失礼な事を考えてはいたのだが、カイの行動に何も出来ずに棒立ちになっていた。
「…なんだ、また退屈になってしまった。皆して私をいじめているのだろうか……」
だんだんと自虐的になって来た頭に、唐突に大きな手のひらが置かれた。
待ちくたびれたその声とともに。
「よぉ、待たせたなぁ、フリーズ!いやぁ、こっちに帰ってくるのは久しぶりで……いってえ⁉︎」
「…っこぉんの、馬鹿者が!私を待たせるとはいい度胸だ!」
「だからって氷のハンマーは反則だろぉ!こっちにゃヘルメットもねーのによぉ…」
「うるさい!早く行くぞ、シンドバット!」
「へいへい…」
そうゆうやりとりをする2人の顔は今日の天気のように晴れやかなものだった。
腕を組みながら、フリーズはふと先ほど走って行ってしまった少年のことを思い出した。
「そういえば、あいつは何をそんなに慌てていたのだろう。
何か紙切れのようなものを持っていた気がしたのだが……」
「どうした?いきなり立ち止まって」
「…っ、うるさい!顔を覗き込むな!近い!そしてむさい!」
「何気に傷付くから最後のやめてくんね⁉︎」
その心配は、これから待ち受ける騒々しくも懐かしいそして、暑くも熱い1日に埋もれて行くのだった。
◆
カイは、焦っていた。それは誰が見ても一目瞭然だっただろう。
本人にもその自覚があった。
なぜなら彼の握っている紙に───
『 絶対に探して下さい!
アテナ より』
と書かれてあったのだ。
普通は探さないで下さい、なのだろうが、そんなことは彼の頭の中には無かった。
なぜこうなったのだろうか───。
回想
「おはようございます?カイさん?」
もう少しでお昼になるという時間だろうか。
彼の家を訪ねた者があった。
「……イージスさん?」
人の姿こそしてはいるが彼はアテナさんの神器(もの)であるイージスだった。
普段はアテナさんの邪魔にならないように盾の姿となってアテナさんの側に、頑なにいるはずだが…。
なぜカイの家の前に来てそんな不機嫌な顔をしているのだろうか。
「あなたが何を言いたいか、だいたいわかっています。その顔から」
「僕はイージスさんの顔から何を言いたいのか何もわかりませんけどね…」
イージスは自然な動作でポケットから可愛らしい便箋を取り出した。
薄いピンク色の、比較的小さな便箋だった。
「これを、アテナ様より預かって参りました。
必ずあなたに、間違いなくあなたに渡すように、と念を押されて」
「あ、ありがとうございます…」
随分と念を押されて不機嫌なのか、わざわざ使わされたのが不服だったのか。
それはわからないが、とにかく不機嫌なイージスにたじろぎながらも便箋を受け取る。
受け取って気付いた。彼女は、わざわざこんなことをするだろうか?
少し小さめの便箋に目を落としながら、彼女のことを思い浮かべる。
用があるなら自分から会いにくるはずだ。自分で言うのもなんだが、2人の中は悪くは無い。むしろとても良いと言っても過言では無いはずだ。
「あの、アテナさん、他に何か……」
顔を上げながら、言ってませんでしたか、と続けようとした彼の前には、もうイージスはいなかった。
「なんだったんだろう…」
まるで嵐のように、突風のように起こった出来事に頭が追いつかないカイだった。
しかし大好きな彼女のことだ。
ラブレター、と言う気はないがそれでも心踊るものだ。
家の扉を閉めて早速便箋を開けてみる。
そこには手紙、と言うより、メモに近い一枚の紙が入っていた。
取り出してみると───
回想終了
家を飛び出したカイは行くあてもなくとりあえず走った。
最初はアテナの家には行ったものの、彼女はおらず、イージスも出てこなかった。
探して下さい、と言うのだからどこを探そうか。
事件に巻き込まれた可能性は?──いや、それはないか。もし何かに巻き込まれていればカイの前にアテナ第一優先でさらに忠実を誓っているイージスが現れるわけがない。
それに、とカイは思った。
今は自分よりも彼女は強い。男としては悔しいが、紛れも無い事実だし、それにもちろん悔しいだけでは無い。彼女が強く、明るく、可愛い。そんなことは彼氏として嬉しくて当然である。
だが、それは不安でもあった。こんな自分でそんな彼女と釣り合っているのだろうか?彼女は不満ではないのだろうか?
焦っているカイはついつい考えてしまう。最悪な方向へと。
思いたくは無い結末へと。
そんなことはないと思いながら、信じながら、彼は何かしていないと落ち着かなかった。
途中でよく見知った女性を見かけた気もしたが、今は彼女以外目に入らない。
時間感覚もないままにとにかく走る。
しかし、彼は失念している事があった。
もともとカイは暑い日は苦手なのだ。昔から暑い日はすぐに体温が上がってしまって半分のぼせてしまったような状態になる体質で、あまり自分から外には出ないのだ。
今日は炎天下。さらに走っている。となれば当然カイはその状態になってしまうまでに時間はかからなかった。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
流れる汗が地面に落ちて黒く滲む。
このままあてもなく走っていては倒れてしまう。
少し、ほんの少し休憩しよう、と独り言を呟く。
丁度よくこの近くには公園がある。そこで休もう。そしてそこで少し冷静になろう。
そうしてカイは公園のベンチに腰を降ろすのだった。
ベンチの後ろには大きな木があり、そのサイズにあった影ができている。
ふぅ、とため息をつく彼の背中はいつになく小さかった。
公園には誰もいなかった。子供も大人も誰もいなかったのだ。
ただセミの声とジリジリという地面が焼ける音しか聞こえない。
炎天直下の公園で地面と遊具が悲鳴をあげているようにも見えた。
こんな日に限って風の吹く気配すらない。
せめて風でも吹いてくれれば少しは楽なのに。
そう思いながら、彼女のことをおもいながら上へと顔を上げてみる。
どれくらい走っていたのだろう。木の葉の合間から見える日はもうすでに傾き始め、反対側からは薄っすらとではあるが月が見え隠れしている。
今日という日が終わるカウントダウンは刻一刻と迫っていた。
カイは考えてみる。考えてはみる。彼女のことを。
少し体を動かした後だからだろうか。先ほど手紙を見た後よりも冷静に考えられている自分がいた。
「…って言ってもなぁ」
冷静に考えられてはいるのだろうが、いかんせんヒントが、情報が少なすぎではないか。
朝(朝というよりは昼に近かったが)いきなりこれを渡されて探して…。
右手に握るそれをぼんやり眺めてみる。
探して下さい!という文字がやけに可愛くてクスリと笑ってしまう。
彼女はなぜこれを書いたのだろうか。どんな気持ちで書いていたのだろうか。
なぜ探して欲しかったのだろう。なぜ今日だったのか───
「…今日?」
そうだ、なぜ今日だったのだろう。
今日は何かあっただろうか。予定もなにも見ずに家を飛び出してきたのだ。
先ずは家に一旦戻り、もう少し考えてみる、というのはどうだろう。
家に戻れば予定を確認することも出来る。
「…よしっ」
少し気合いを入れたカイは少し急ぎ足で再び熱を帯びた道にでて、自分の家へと向かうのだった。
その足取りは先ほどの焦りを含んだ軽い足取りではなかった。
いつもの優しく、素直で一直線なしっかりした足取りで先を急ぐのだった。
◆
「…はぁ〜あ」
大きなため息が波音と共に聞こえてくる。
彼方に見える水平線に夕陽を捉えている彼女の瞳は憂鬱と退屈に染まっていた。
靴を脱ぎ、砂浜に座りながら両手をアゴに当てながら時間を持て余していた。
愛しい愛しい彼のことを、ずっと待っていた。
パンドラと共に考えたこの作戦は自分で言うのもなんだが、なかなかにイケてると思った。
イージスも、嫌な顔1つ…とまではいかなかったが協力してくれた。
あとは彼が来てくれるのを待つだけだった。
だが。いつになっても彼は現れない。
計画ではお昼過ぎには来てくれる、はずだった。
だが、だがどうだろう。いくら待てど彼は来なかった。
わからなかったのだろうか。今日という日を。今日という日の意味を。
そう考えると少し、いや、かなり落ち込んでしまう。
イージスの報告によれば手紙を渡してすぐ何処かに走って行った、ということは聞いた。
やはりいきなりは混乱させてしまっただろうか。
色々な考えが彼女の頭を巡る。
しかしもう目の前が赤く染まりかけているのだ。時間は大きく過ぎている。来ないかもしれない、その考えに埋め尽くされてしまっていた。
砂を摘んではゆっくりと落としていく。
まるで砂時計のようだ、と彼女はぼんやりと思った。
しかしもうその砂も落ちきってしまいそうだ。
「…カーイくーん……」
一人寂しく彼の名前を呼んでみる。
返っては来ないその声は期待していない。
「はい、アテナさん」
思わず振り返ってしまう。期待していなかったはずの声に心踊る。
アテナの数歩後ろだろうか。そこに、彼は立っていた。
「カイくん…」
「遅くなって本当にすみません、アテナさん」
彼は優しく、申し訳なさそうに微笑んだ。
ホントだよ、と口にしたかった。しかしそれよりも早く。
思わずホロリと涙が落ちる。
来ないと思っていた。てっきり今日のことを忘れていたと思っていた。
「あ…アテナさん…そ、その…ごめんなさ…」
「か、カイくん!」
「は、はい!」
「答え合せをします!」
「は、はい…」
「今日は、なんの日ですか…⁉︎」
アテナの真剣な表情に一瞬大きく目を開いたカイだが、その表情は徐々に柔らかくなり、そして笑顔に変わる。
ゆっくりとその解答を口にする。
「今日は、アテナさんと付き合った記念日です。そしてここは…」
そう言いながらゆっくりと海の方を向きながら懐かしそうに、愛おしそうに言った。
「僕達が一緒に告白し合った場所、ですよね」
その解答を聞いたアテナは迷わず彼の胸に飛び込んだ。
未だ涙を流しながら。
カイは出来るだけ優しく、彼女を受け止めた。
「…大正解、です」
「な、ならアテナさん…どうして泣いてるんですか…?」
「前にも言ったはずですよ?嬉しい時にも涙は流れるものだと」
「……ふふっ、そうでした」
抱き合いながら笑い合う二人は空気を読んで未だ沈まない夕陽の色の中でお互いの存在を確認していた。
もうお互いがどんな顔をしているのかわかっている。
それが嬉しく、今までの焦りや不安はすっかり忘れてしまったようだ。
暫くの間抱き合っていたが、ふとアテナはカイの腕から逃げてみせた。
不思議に思ったが、カイは彼女の言葉を待った。
すると唐突に。
「カイくん、私は…あなたの事が大好きです。愛しています」
後ろ手に組みながら彼女は微笑んだ。
その白い服が。
肌が。
顔が。
唇が。
瞳が。
全てが同じ色に染まっていた彼女が、カイにはとても美しく、華やかに見えた。
その胸の高鳴りは、静かに熱く、そして強く、彼の心を打った。
いや、『撃った』と形容した方がこの時はいいのかもしれない。
「僕も──」
彼は言った。今この世界で最高の愛の言葉を。
この告白はどんな顔で言おうかなどと無粋なことは考えない。
ただ目の前のただ一人の女性だけを想って。
「アテナさんが大好きです。愛してます。
そして、これからも愛し続けます」
彼女は笑った。不満など微塵もない素敵な笑顔で。
そしてずっとです、約束ですよ、と上目遣いで信じた。
──そして二人は
約束のくちづけを交わすのだった。
それを祝福するかのごとく、潮騒の音色は大きく、微かな風が二人の背中を未来へ向けて確かに押していた。
fin