ゲーム・ア・ライブ 作:ダンイ
突然で悪いのだが選択と言う言葉を知ってるだろうか?
いや、別に某アニメのオープニングをパクったりするつもりはないのだが、選択と言うのは持ってるお金を何に使うかとか、休み時間に何をするかとか、そういったものだ。
これは時に重大な意味を持つことがある。俺の場合で例えれば、あの日買い物に行くという選択をした結果、ネプテューヌと出会うことになり異世界に飛ばされることにもなった。
もし俺が別の日に買い物に行こうと思えばネプテューヌと会うこともなかっただろうし、異世界に飛ばされることもなかったはずだ。
この事を踏まえると、何気ない日常の些細な選択が巡り巡って重大な結果を伴うことがある。
まあ、選択について長々と解説をしたわけだが、何が言いたいのかと言うとたった一言だけだ。
「シドー、こっちのパフェの方が美味しいに決まっている。早く口を開けるのだ!!」
「貴方のパフェは量だけの美味しさを考えられていないもの。五河士道には趣味を含めるとこちらの方が美味しく感じられるはず。あーん」
「そ、そんな事があるか!?でたらめを言うでない!!」
「一般論を言ったまで、潔く自分の負けを認めて帰るべき」
「なんだと!!」
俺は何処で選択を間違えたのかと言うことだ……
おかしいな……二人の間には火花が散っているように見える。十香は霊力を封印されているし、鳶一は顕現装置がないはずなんだけどな……
はっはっはっ、もう苦笑しかできない。本当にどうすれば良いんだろう?誰でもいいので教えてください。お願いします。
半ば現実逃避を始めた俺は、なぜこうなったのかを思い返してみることにした。
「……って事らしいんだよ」
十香の霊力の封印を無事に終えて数日が過ぎた休日。
俺は神次元にあるプルルートの部屋で、先日琴里から説明された、俺の霊力を封印する能力についての説明をネプテューヌとプルルートにしていた。
琴里が言うには俺には精霊とキスする事によって霊力を封印することが出来る能力があるらしい。ただし、どんな精霊にもできると言うわけではなく、好感度を上げて信頼関係を築かないといけないらしい。
そして封印された十香の霊力はどこかに消えたわけではなく、俺の身体の中に大部分は封印されていて、目に見えないパスを通って十香と俺の身体を霊力が循環していること、十香が精神的に不安定になると霊力が十香に逆流してしまう事を伝えられた。
その事を二人に説明したのだが……その二人の感想は……
「「ギャルゲーの主人公みたい」」
ですよねぇー
正直、俺も初めてその話を聞いた時は、声には出さなかったもののそう思ってしまった。
いや、だってギャルゲーとかだと主人公のキスが重要になってることが多いんだよな。実際に朗読プレイをしたキャルゲーにもそんな感じの設定があったし。
ちなみに俺になぜそんな力があるのか聞いてみたが……それについてはラタトスク側も一切分かっていないらしい。ただ俺に霊力を封印する力があると言う事実だけが把握できているらしい。
本当になんで俺にそんな力が……と思っているとプルルートが俺から微妙に距離を取り始めていた。
「プルルート……?一体どうしたんだ?俺がなにかしたのか?」
「だってぇ~、士道君はギャルゲーの主人公なんでしょ~。だからぁ、迂闊に近付いたら、あたしも落とされちゃうんじゃないかなって~」
「なんで、そんな結論になるんだよ!ネプテューヌからも何か言ってやってくれよ」
「あれ~?よくよく考えてみると、空から落ちてきたわたしってヒロインっぽくないかな?アニメとか漫画とかでもよく見かける奴だし、むしろ、わたしと会ったことで非日常に巻き込まれた事を考えると……はっ!!もしかしてわたしがメインヒロインなの!?どうしよう、ぷるるん!?このまま士道が誰かのルートに分岐するフラグを立てないと、わたしは主人公の座を奪われるだけじゃなくって、士道に身も心も落とされちゃうんだよ!!」
「ふぇ~、それは大変だぁ~。こうなったらぁ~、あたし達が士道君に攻略される前に調教を……」
「ちょっと待って!!今凄く不穏な言葉が聞こえたんだが!?」
「き、気のせいだよぉ~」
絶対に嘘だ。
俺の耳がおかしくなければ今プルルートが調教と言う言葉を言ったはずだ。それに背筋のあたりが凍りついたのかと思うくらいひやっとした。
調教って……まさか変身して俺に色々とする気じゃないよな。そんな事はしないよな。流石のプルルートでも………………本当にされそうだ
誤解であんなことをされるなんて洒落にならないぞ!!
「ぷるるん……流石にそこまでするのはわたしも気が引けるんだけど。別にそんな事をしなくても、わたし達以外のルートに入るようにすれば良いだけだしさ」
「駄目だよ~、ねぷちゃん。最近のギャルゲーにはハーレムエンドがあるからぁ、ちゃんと対処しないと、全員落とされちゃう可能性もあるんだよ~」
「ねぷっ!?それは盲点だったよ。もうこうなったら士道を倒して主人公の座を奪うしかないよね。士道には恨みはないけど、此処で「てい」ねぷっ!?」
これ以上は収拾がつかなくなってきそうだったので、いつも通り強制的にネプテューヌを止めた。
なんと言えばいいのか……この二人が話し始めると話題が明後日の方向に飛んでいくんだよな。一応この話は俺の力に関するかなり真面目な話だったはずなんだけどな……
まあ、必要以上にシリアスにならないという良い面もあるんだけどな。
「あれ、士道さんこちらに来てたんですか?お久しぶりですね」
ドアの方から声が聞こえてきたので振り向けば、そこには人形のような小人が宙に浮いた本の上に座っていた。イストワールだ。
彼女は神次元のプラネテューヌの女神であるプルルートの補佐をしている……と言うか女神本人はめったに仕事をしないため、実質上プラネテューヌを治めている存在だ。
それにしても今までどこに行ってたんだろ?何時もは部屋に居ることが多いはずなんだが……
「イストワール、今までどこに行ってたんだ?」
「それがお茶菓子が切れていたので、買い物に行っていたのですが……想像以上に重くて三日かかってしまいましたよ(; ̄д ̄)」
相変わらず三日かかる事は変わりないんだな……
あまり付き合いは長くないがネプテューヌに話を聞く限りだと、超次元に居るイストワールもそこは変わりないらしい。思わず苦笑してしまう。
どうにかならないものなのかな……
ってこんな風に和んでいる時間はあまりなかったな。
直ぐに用事がある事を思い出した俺は、その場から立ち上がって元の世界に帰ろうとする。
「士道君、もう帰っちゃうのぉ~。こっちに来たのは久しぶりなんだからぁ、もう少しくらい遊んで行ってもいいんだよ~」
「もしかして……わたしとぷるるんの悪ふざけに怒っちゃったのかな?」
「そんな何時もの事で怒ったりしないから……ただ、鳶一の件でラタトスクから呼び出されたんだよ」
鳶一、その名前を聞いた瞬間、二人は納得がいったようで「ああっ!!」と手を打った。
鳶一折紙、対精霊部隊に所属しているクラスメイトなのだが。先日、俺がフラクシナスに戻る際に巻き込んでしまいラタトスクの秘密を知ってしまったため、現在はフラクシナスの牢獄に入れられている。
しばらくの間そこで鳶一は意識を失っていたらしいのだが、昨日の昼頃に目を覚ましたらしい。
目を覚ました鳶一を説得するべくラタトスクは手を尽くしているらしいが、彼女は何も話すことなくだんまりとしているらしい。
とここまでは納得できたのだが、それにしびれを切らした琴里に「彼氏なら話にも応じるでしょ」と言われてしまい。今日の午後からは俺が鳶一と交渉することになっている。
その手の専門家でも無理な事を、その道の素人である俺にどうにか出来るなんて思わないんだがな……
まあ、やれる限りはやってみるが。
「鳶一さんですか?初めてお聞きする名前なのですが、士道さんと彼女にはどのような関係があるのですか?( ̄ー ̄?)」
「いーすんには言ってなかったんだけど~。鳶一ちゃんはぁ、士道君が催眠術で落とした人の名前なのぉ~」
「へぇ?」
ちょ!?
まだそのネタを引っ張るのかよ!もう引っ張らなくてもいいだろ!!
しかも、よりによってネプテューヌが目を輝かせている……絶対に何か余計な事を言うつもりだ。
「いーすん早く逃げてっ!!士道の次の目的はいーすんだよ!士道は催眠術を使っていーすんを洗脳して自分のペットにするつもりなんだよ!!」
「だ、駄目ですよ! 私にはプラネテューヌを発展させるという使命があるのですから!するんだったら、プルルートさんを洗脳して真面目にお仕事するようにしてください!!Σ(゚д゚;)」
「いーすん、それはひどいよ~。あたしだって、仕事をする時はちゃんとしてるんだよぉ~」
なんか今のイストワールの意見ってちょっと良い意見のような……
一応、自己暗示は使うことは出来るし……この際だからその手の本を買って勉強をしてみようかな。
たぶん似たようなものだと思うから、勉強すればそれなりの速さで習得できると思うんだよな。
もし習得に成功することが出来れば、プルルートだけではなくネプテューヌも真面目に仕事を……
「あの……士道さん?目が本気と書いてマジって目をしてるんですけど……もしかして本気なの!?本気で催眠術を習得する気なの!!わたしとぷるるんを洗脳して何をやらせるつもりなの!?」
「仕事」
「うわぁぁぁああ!!ごめん、謝るから!悪ふざけしたのは謝るから、それだけは絶対にやめて!お願いだよ、士道!!」
「士道君、ごめんなさいぃ~!!」
「あっ、やっぱり二人の悪ふざけだったんですねε=( ̄。 ̄;) 」
俺の発言に慌てふためいて謝る二人……
これで少しはこり……ないだろうな。なんせこの二人だし。
一時間後くらいには忘れて何時ものように仕事をサボって悪ふざけをしていそうだ……その光景が目に浮かんでくる。
本当に少しはどうにかならないのだろうか……
って、そろそろ帰らないと約束の時間を過ぎてしまそうだ。
遅れたら黒いリボンをつけた司令官モードの琴里に「なに時間に遅れてるのよ。動物でも時間を守れるのよ。今すぐ紀元前に行ってやり直してきなさい」とか罵倒されそうだ。
本当に一体いつあんな趣味を持ってしまったのだろう……お兄ちゃん少しだけだけど悲しいよ。
「それじゃあ、そろそろ時間だから帰らせてもらうな」
「ちょっと待ってよ!わたし達を洗脳しないって、約束してから帰ってよ!!」
いや……だって、破るかもしれない約束って出来ないだろ?
鳶一の件が終わったら本屋にでもよってみよう。本気でする気はないが、良い脅しの材料になりそうだしな。
「……で鳶一はどうなってるんだ?」
「一応、昨日の夜に連絡したでしょ。こっちの言葉になんの反応も示さず、頑なに口を閉ざししてるわ」
空中艦フラクシナス……その内部にある牢獄への通路を俺と琴里の二人っきりで歩いていた。
一応、何かしらの変化があるかと思って琴里に聞いてみたんだが……何も変化がないらしい。
何度も言ってるんだが、俺にこの状況をどうにかできるとは思えないんだよな。戦闘ならまだしも交渉なんて俺はど素人に近い。こんな高難易度の相手をどうにかできるとは思えない。
そう、俺が今から始まるであろう鳶一との交渉に不安を抱えていると……
「そんなに緊張しなくてもいいわよ。別に士道に過度な期待を抱いてるわけではないわ。ただ士道は学校で普通に会話が出来てたから、もしかしたら……なんて甘い考えを抱いてるだけよ」
「と言われてもな……」
俺の交渉が失敗すれば鳶一は一生牢屋暮らし……なんて事になりかねないし……
その事を思ってしまうと、どうしても緊張してしまうんだよな。正直に言うと、精霊との交渉に向かう前よりも緊張してしまっている。
精霊の時は相手がどんな状態か分からなかったけど、今回の件はネガティブな情報しか聞こえてこないからな……
「こういった無口な精霊もいるかもしれないんだし、その練習とでも思っておきなさい……って、話をしていたら着いたみたいね。此処よ」
琴里が指をさした場所には一枚の扉があった。扉の中央にはガラスが設けられていて、こちらから中の様子を窺うことが出来るになっている。
そのガラスごしに中を覗くと、刑事ドラマの取調室のように机を挟んで二つの椅子が対面に置かれており、その片方……扉から遠い方の椅子には鳶一が座っていた。よく見れば脱走を防止するためか鳶一の両手足には手錠が掛けられている。
「それじゃあ、私は隣の部屋で様子を見ているから、頑張りなさいよ」
そう言って、琴里は鳶一のいる部屋の隣にある扉の中に消えていってしまった。
まだ自信はないのだが……ここまで来たのならやるしかないだろう。
深呼吸をして息を整え、覚悟を決めた俺はインカムを耳に入れるとその扉を開けて中へと入っていく。俺一人では対処しきれない事態となったら、インカムを通して助力してくれるらしい。
ともかく、俺が中に入ると鳶一は反応を示し俺の方をじっと見つめ始めた。
俺はその視線にさらされながらも椅子に座った。
「えっと……久しぶりだな身体の方はもう大丈夫なのか?」
「問題ない」
「そ……そうか」
やっぱり会話が続く気がしない……
でも、琴里の話ではこちらが何も言っても反応を示さなかったらしいし……一応言葉を返してもらえただけでも良い方なのだろうか?
とにかく言葉は返してくれるんだし、何度も俺の方から話題を振ってみよう。そのための時間は大量にある。
「悪かったな……いきなり攻撃する事になってさ」
「なぜ貴方が謝るのか理解出来ない。貴方は私に攻撃をしていないはず」
「いや……なんて言うか、一応攻撃したのは俺の仲間だからさ」
「やはり、貴方はこの組織の一員?詳細を教えて欲しい」
「…………」
どうすれば良いんだろう……
流石の部外者に組織の情報を少しでも教えるなんて俺の独断じゃ無理な話だし……
かと言って、適当にはぐらかしても鳶一は追及をやめそうにないしな……最悪の場合は俺の言葉に反応を示さなくなる可能性もある。
俺がどうすれば良いか悩み口をつぐんでいると、インカムから琴里の声が聞こえて来た。
『士道が精霊の力を封印できること以外は話していいわよ。彼女を説得できない限りは地上に返せないんだし、懸念材料は少ない方が良いでしょ』
流石に目の前に鳶一が居るので声を出して返事を返すことは出来ないので、机を小指で叩いて了解と言う意思を返す。尋問を始める前に琴里から伝えられた合図の一つだ。
これでラタトスクの事は話せるようになったが……できる限り慎重に話さないといけないな。
「ここはラタトスクって組織の施設だ」
「……貴方はラタトスクの一員?」
「いや……俺はただの協力者だ。鳶一を攻撃したのも協力者の一人で組織に本格的に関わっているわけじゃない」
「そう……」
協力者って言ってしまったけど……間違ってはいないよな?
俺がするのは一番重要な役目である霊力の封印だが、それ以外ラタトスクには一切かかわっていないし、この組織におけるなんの権限もない。
実際、琴里はまだ何かこの組織に関する事を隠してそうだしな……長い付き合いだからそれくらいは理解することが出来る。まあ、琴里が素直に話してくれるまで待つしかないだろう。
「色々聞きたいことがあるけど……ラタトスクと言う組織は何を目的とした組織なのかを教えてほしい」
「それは……信じられないと思うが落ち着いて聞いてくれ。ラタトスクって言う組織は、ASTとは真逆の方法で精霊に関する問題を解決しようとしている組織なんだ」
「意味が分からない。精霊は武力で対処する他はない」
「えっと、ちょっと分かり難くて悪かった。一言で言うと精霊と交渉しようとしている組織なんだ」
俺がラタトスクの目的を伝えると、鳶一は今までの無表情とは打って変わり目を開いて驚いていた。その顔には信じられないと書いてある。
そして暫くの間、驚いた表情のまま固まっていた鳶一はようやく顔を元の感情が全く見えない顔に戻して俺に……いや、たぶん俺の後ろに控えているラタトスクと言う組織に対して睨み殺さんとばかりに鋭い視線を向ける。
「本気でラタトスクと言う組織はそんな事を考えてるの」
「少なくとも俺の目には本気でそう考えてる人達にしか見えなかったよ。それに遊びでこんな施設を作る奴なんていないだろ」
「…………貴方がラタトスクの協力者と言う事は……貴方もその考えに賛成しているの?」
「……ああ、そうだ。俺は精霊を助けたいと思ったからこの組織に協力している」
俺の答えを聞いて黙り込んでしまう折紙……
やっぱり、武力での解決を考えているASTにとっては理解できない考え方なんだろうか……
俺としては、相手に何も聞かずに一方的に攻撃するのは納得することは出来ないし、話し合いで終わればそれでいいと思ってるんだが……きっと鳶一は俺とは真逆の事を考えているんだろうな……
暫くの間、鳶一は黙ったままで、こちらになんの反応も示そうとしない。そろそろ声を掛けてみるかと思った矢先、彼女は小さく呟き始めた。
「私の両親は五年前に精霊に殺された」
「っ……」
「貴方の考えが理解不能な事とは言わない……でも納得は出来ない。精霊はその場にいるだけで周囲を破壊する危険な存在。だから私は精霊を殺さなければならない…………私と同じような人を二度と作らないためにも……」
強いな……
鳶一の言葉を聞いて俺はそう思った。
五年前と言えば鳶一がまだ小学生の頃の話だ。まだ自立も出来ず親に頼らなければ何も出来ない時期。そんな時期に両親を殺されてなお彼女は自分と同じ人を作りたくないと言えるのだ……たぶん俺には出来ない。
きっと世界に絶望してふてくされているだろう。それこそ、母親に捨てられて琴里の両親に引き取られてすぐの時のようにな。
それに鳶一の言ってることも分かる……
もしかしたら……いや、きっと鳶一の方が正しくて俺の方が間違っているのだろう。
俺の意見なんて所詮は、現実ってものを知らないガキが感情的になって言っている意見に過ぎないのだろう。
でも……
「鳶一の言いたい事は理解出来る……でも納得する事はできない……だっておかしいだろ?なんで存在するってだけで攻撃されないといけないんだよ。もしかしたら、こっちを攻撃する意志なんてないかもしれないじゃないか」
「それでも、精霊は存在するだけで空間震を引き起こす。たった数人の存在のために何百、何千もの人間を危険にさらす事は出来ない」
「それは分かってる……でも俺は……」
鳶一に言われた事は現実で……昔俺も思った事がある。
あの時は俺に霊力を封印することが出来る力があるだなんて思いもしなかった。だから誰もが納得できる答えなんて出すことが出来なかった。
でも今は違う。俺の理想論のような考えを実現させるための方法がある。鳶一に今それを言ったら納得してくれるかもしれない……でもそれだけは琴里に止められている。
だから……
「偽善って言われるかもしれないけどさ……それでも精霊を助けてやりたいんだ。俺は一人しか知らないけどさ……話し合ってみると良い人なんだよ」
「そう……」
やっぱり納得はしてくれないのだろう。
ほんの少しだけだが不満があるような顔をしている。あまり表情の変化がないから俺の主観も入ってるけどな。
ともかく……交渉は失敗になるのか?鳶一に精霊を助けると言うことを納得してもらわない事には、ASTである彼女はきっと上にラタトスクの事を報告するはずだ。
それでは彼女を地上に帰すわけには……
「それで……私の処遇はどうなるの?このまま処刑でもするの?」
「いや……そこまではしないから。なんでそんな話に繋がるんだよ」
「秘匿された組織が秘密を守るために、目撃者を消すのは当たり前のこと。私はましてやAST……消えて欲しいと思う人が多いはず」
ああ……確かにアニメとか漫画だとそういうことが多そうだ。
でも精霊を救うことを目標に掲げている組織がそんな事をする事はまずないと思う。人間すら簡単に切り捨てるような組織が精霊なんて救おうなんて思わないはずだからな。
もしあったら、それは精霊を利用しようとしているだけだ。
「えっと……今のところはそう言った考えはないようだぞ」
「そう……」
鳶一は聞きたいことが一通り終わったのか、それを最後に俺に質問することはなかった……
俺から話題を提供した方がいいのだろうか?でも日常系は場の雰囲気に合わないってかこんな場所でする事じゃないし、精霊関係は平行線に終わるだけだろうし……
どうしたものか……そんな事を考え始めた時だった。
『士道、もう十分よ。ここらへんで一旦切り上げましょう』
インカムから響いて来た琴里の声……
もう時間になったのか……俺の体内時計ではまだまだ時間があったと思ったのだが……
とにかく、事前に決めた合図で了解と琴里に返した。
「悪いけどもう時間みたいだ……えっと、それじゃあまたな」
「分かった」
俺はそういった後、椅子から立ち上がると扉を潜って部屋を出る。
部屋を出た俺は、身体中の力を抜いて壁に寄り掛かった。
はぁ……思ったよりも疲れた。やっぱり俺こういったのに向いてないと思う、泣き言を言ってる暇もないけどな。
「琴里、これでよかったのか?」
『会話出来ただけでも上出来よ。あの女、他の人じゃ返事どころか反応すら示さなかったのよ。まあ交渉自体には失敗したけど……それは根気よく話していくしかないわね』
だよな……
でも鳶一の意志は固いみたいだし……正攻法じゃ最低でも数年単位、下手をすれば一生首を縦に振らない可能性もある。流石にこのまま牢獄で一生を迎えるとか、出られたと思ったら老人になってましたなんてのは嫌だぞ。俺としてはそこまでしたくないし……
何処かASTには連絡の取れない場所まで……ああっ!!
そんな場所があったじゃないか!!
「琴里、鳶一を神次元や超次元に送るってのは無理なのか?」
『確かそこって……ネプテューヌやプルルートが住んでいる世界よね。そうね……目隠しとかをして異世界にわたる方法を分からなくすれば不可能ではないけど……難しいわね…………上の奴がうるさいし、行く方法を報告してないし……』
「なんか最後に言ったか?よく聞こえなかったんだが?」
『なんでもないわよ』
俺の気のせいだったのか……
それよりも、鳶一を異世界に送って暮らして貰うってのは無理だったか。良い考えだと思ったんだけどな。異世界に送れば一般には売られてない特殊な機材をそろえないと通信が不可能だし、ゲートの方を見張っていればこっちの世界に戻ってくるのも阻止する事は可能だ。
でもそれが不可能となると、やっぱり、正攻法を積み重ねていくしかないのか……
『ん?ちょっと待って……士道、その異世界ってのには遊ぶ施設とかはあるのよね』
「当たり前って言うか、この世界から一番進んでるのが娯楽系の技術だからな」
そう言ったのが女神の力の源であるシェアに直結するから、何処も国家予算を使って進めてるんだよな。あっちのゲームを一度遊べばこっちのゲームがつまらなくなるって言うか……正直シナリオ以外に勝てる要素がない。
ネプテューヌ達に言わせるとこっちのゲームはシナリオが面白いのが多いらしいけど……
って、そんな事よりも琴里はそんな事を聞いて何をする気なんだ?なんかすごく嫌な予感がするんだが……
『士道、私に考えがあるわ。取りあえず士道は明日学校を休みなさい。欠席理由はこちらで考えておくわ』
「はぁ?別に良いけど……何をする気なんだ?」
『善は急げって言うでしょ……私に考えがあるから任せなさい。明日は自分の部屋で待機しておくこと……いいわね』
琴里は一体なにをする気なんだ?
なんか嫌な予感がするっていうか……身体が微妙に震えてきたんだが……
まさかこれから起こるであろうことを無意識に察知して恐れているのか?
なにも起こらなければ良いのだが……叶わぬ願いなんだろうな……
ああ、そうだ。確か昨日はそんなことがあったんだった。
今になって思えば思いっきりフラグを立てていたよな……なんであの時に気づけなかったのか……少なくとも異世界に関する事を言わなければこんな目には……きっとあの時に選択を間違えたんだろうな。
あの後、普通に家に帰って寝た俺は、朝起きてリビングに行くと十香と鳶一の二人が待っていた。その事実に驚く暇もなく俺は琴里に神次元の方に行って二人とデートして来いと言われてしまった。
琴里が言うには、実際に精霊と触れ合えば考え方が変わるかもしれない、との事らしい。
そんな訳で、着替えを終えた俺は目隠しをされた鳶一を連れて神次元の方に来ているのだが……なぜ神次元にデートなんかをしているのかと言うと、鳶一が逃走してもASTと連絡を取る前に確保するのが容易なこと、そして街中でASTなどと鉢合わせる可能性がないためだ。
確かに今の鳶一がASTに見つかったら大変な事になるからな。
ちなみにラタトスクは本格的な機材の持ち込みは出来なかったので、今回はあまり大掛かりなサポートは出来ないらしい。出来るのは精々、辺りを飛んでいる透明化したカメラやインカムを通じてアドバイスをするくらいだ。
それと完全に余談だが、ラタトスクがここで行動する許可は一番偉い人から「いいよ~」ととても軽い返事でもらった。隣にいた補佐役は頭を抱えていたが……
しかし琴里には悪いが、これは失敗かもしれないと思ってしまう。
この数時間の様子で分かったが十香と鳶一は致命的なほどに仲が悪い。水と油なんてもんじゃない、例えるなら酸素と水素だ。二つ合わせてほんの少し刺激を加えてやれば爆発する。
この二人が仲良く会話する姿を想像することが出来ない。
と、とにかく、今は目の前の状況をどうするかだよな……
十香と鳶一の二人はスプーンですくったパフェを俺の方に持ってきてる。このうちどちらかを選ばなくてはいけないのだろうが……どちらを選んでも最悪な未来が待っていそうで選び取ることが出来ない。
なので俺は、口を広げて両方のパフェを食べる。
「どっちも美味しいぞ」
「今のは私の方が0,04秒早かった」
「なに言ってるのだ!!貴様の目は節穴か!?今のはどう見ても私の方が早かったではないか!!」
『ちなみに、スローカメラで解析すると折紙の言っていることが正しかったわよ、ヘタレ』
悪かったな、ヘタレなお兄ちゃんで。
仕方ないだろ、此処はラタトスクが契約を結んでいる店ではなくて普通の店なんだぞ。騒ぎなんて絶対に起こすことが出来ない。昔、十香の起こした騒ぎで俺がどれだけ書類作業に没頭する事になったのか知らないからそんなことが言えるんだよ。
ともかくこれで一触即発の事態から逃げきれたのだが、二人は未だに言い争いをしてる……店員がこちらを睨んでるし、そろそろ止めないとまずいよな。
出禁はくらいたくないし……
「二人共、喧嘩するなって」
「むぅ……貴様のせいでシドーに怒られたではないか」
「訂正を要求する。貴方のせいで私が怒られた」
「なんだと……今までは我慢していたがもう限界だ!立て、この場で叩き切ってやる!!」
「望むところ」
「いいのか二人共、こんな所で騒ぎを起こしたら…………変身したプルルートが飛んでくるかもしれないぞ」
カシャンッ!!
俺が呟くようにそう言った瞬間そんな音が響いてきた。その音の源は十香の落としたスプーンだ。
彼女からは先ほどまでの鳶一を倒さんと息巻いていた様子はすでに消え去っており、ぷるぷると捕食者に狙われた小動物のように身体を震わせている。
ちょっとやり過ぎたな……喧嘩をやめて欲しかっただけで、此処まで怖がらせる気はなかったのだが……ここまで反応されると、十香には罪悪感を抱いてしまう。
十香が怯える一方、鳶一は意味が分からないのか首を傾げている。
「プルルートと言う人物が変身する事になんの問題があるの?」
「と、鳶一折紙、貴様はプルルゥトの真の恐ろしさが分からないから、そのようなことが言えるのだ……大変不本意だがここは一時休戦としようではないか……」
「意味が分からない?……けど五河士道に迷惑が掛かるから、それは受け入れる」
十香が予想以上に怖がってしまった事を除けば、俺としては理想的なことの成り行きとなっている。
でも鳶一は未だに十香が怖がっている理由が分からないのか、首を傾げたままだ。今度プルルートが変身した時の映像を見せておこう……確かプルルートの部屋にしまっていたはずだ。
彼女がプルルートの事を知らないまま地雷を踏み抜いて変身する事態となったら洒落にならないからな。
「えっと、それじゃあ食い終わったらゲームセンターにでも行くか?」
「私はそれで構わないぞ。そこで鳶一折紙との決着をつけてやる」
「問題ない、そこで夜刀神十香を合法的に叩き潰す」
頼むからリアルファイトにだけは発展しないでくれよ。
『一体何回負ければ気が済むのよ。負け犬だってここまで負けたりしないわよ』
「そんな事を言われても……」
相手が強いんだから仕方ないだろ。
俺はそんな事を思いながら自動販売機に小銭を入れていく。
食事が終わった後、ゲームセンターに行って遊ぶ事にしたのだが……正直相手が悪かったと思う。
なにせ片方は霊力を封印しているとはいえ、人間離れした身体能力を持つ十香と全国模試でトップの成績を誇る天才美少女の鳶一、そんな中にゲームの腕前は並み程度の俺が入り込む……結果は目に見えていた。
二人が次々とスコアの更新をしていく中、並みの成績しか残せず次々と大差で負けていく俺……最初に美少女を二人も連れやがってと言った周りの嫉妬の視線が、同情と哀れみに満ち溢れたものに変わるのにそう時間はかからなかった。
最後の方には元気出せよって、クレーンゲームの景品を一つもらったし……
ともかく連戦連敗した俺は、罰ゲームとして公園で待っている二人にジュースを買っていく事になっている。あの二人の気まずそうな雰囲気を見るに標的は俺じゃなかったみたいだがな。
ごめんな……ゲームの腕前が並みで。
ともかくジュースはこれで買えたし……
「もしかして士道?久しぶりじゃない」
「ん?誰かと思えばアイエフじゃないか?元気してたのか?」
後ろから掛けられた声に振り返ればそこには長い茶髪の一部をリボンで纏めた少女、アイエフがいた。
彼女とは長い付き合いって言うか、アイエフが赤ん坊の頃からの付き合いで、オムツを取り替えたり哺乳瓶でミルクを飲ませたりしたこともある間柄だ。
だから友達と言うよりは、親代わりと言った感じの方が近いかもしれない。
「元気にしてたか、っじゃないわよ。こっちに来てたのなら連絡の一つや二つくらいよこしなさいよね。コンパも寂しがってたわよ」
「悪い……一応今日は遊びに来たわけじゃなくてな……終わったら直ぐに帰らないといけないから連絡しなかったんだ」
そう言いながら頭を下げて謝っていた時……俺は確信に似た予感を感じた。奴が来ると……
そう思った俺は身をかがめてこれから来るであろう衝撃に備える。そしてそれから一秒も満たない内だった……腹のあたりに物凄い衝撃を感じた。
相変わらず物凄く痛い……事前に準備をしてなかったら意識を持っていかれたかもしれない。
「痛たたた……ピーシェ、出会いがしらのタックルはやめてくれって言ってるだろ」
「シドー、ひさしぶりだっ!!」
俺の話は聞いてくれないのか……
俺は痛めた腹を押さえつつ、俺に殺人タックルをした相手……ピーシェを見つめた。
金色の髪を一本にまとめた彼女は本来は目の前に居るアイエフと同い年なのだが……ピーシェはとある事情で成長が止まっているため身長はアイエフの半分ほどしかない。
まあ、本人はそのことは気にしてないみたいなんだがな。
「シドー、いっしょにあそぼっ!」
「こら、無茶を言ってるんじゃないわよ。士道は今日、こっちに遊びに来たわけじゃないのよ」
「シドー?ぴいとあそべないの?」
「悪いな……今日はちょっと遊べないんだ。また今度こっちに来るからその時にな」
「うー、わかった。またこんどにする」
残念そうにしながら俺から離れるピーシェ。
彼女には本当に悪いけど今日は十香と鳶一の面倒を見るので精一杯だからな。さすがにピーシェまで面倒を見きれないし。
十香はともかく鳶一の機嫌を損ねる恐れがある。それに目的の達成が困難になるからな。
「それじゃあ私達はもう行くけど、何をするか分からないけど頑張りなさいよ」
「ああ、そっちも楽しく遊んで来いよ」
そう言って俺は、ピーシェを連れてどっかに行くアイエフを見送った。
そう言えば、春休みはネプテューヌとプルルートが遊びに来てたから神次元や超次元にはあまり行かなかった。今度の休日は琴里と交渉して十香と一緒に神次元に来れるように頼んでみよう、アイエフもピーシェも十香が一緒の方が喜ぶはずだ。
そんな事を考えて十香達が待っている公園に戻っていた時だった……
『随分と仲がよさそうじゃないの。私の知らないところで随分の交友関係を広げてるのね……美少女ばかりに』
「なにを勘ぐってるんだよ……アイエフとかピーシェとは琴里が考えてるような仲じゃないからな。オムツを変えたりしたことがある関係だぞ……そんな事になるわけ……」
『士道?ちょっと待ちなさい。彼女は見た目で判断すると二十前後よね。それのオムツを変えたことがあるって……』
「あ……その……」
やばい……ついうっかり話してしまった。
どうやって誤魔化そう……正直な事は話せないって言うか、話したくはない。
これは琴里が信頼できないと言う理由ではなく、俺の妹で親しいからこそ黙っていた事なんだが……本当に不味い。どうやって誤魔化せばいいか思いつかない……
必死に考えるんだ俺……絶対に突破口が……
ってあれ?確かこの辺りに十香と鳶一は待っていたはずだよな?どこに行ったんだ?
「琴里!?」
『何よ、誤魔化そうって言うわけ?そうはいかないわよ。今日と言う今日こそは、徹底的に問い詰めて……』
「そんな事よりも十香達はどこに行ったんだ!?さっきまでは此処に居たはずだろ!!」
『え?確かにそこで待っていたはずね。ちょっと待ってなさい、カメラで辺りを探してみるわ』
「分かった、俺のほうでも探して見る」
そう言って公園の中を走って駆け巡る……鳶一の性格はまだ詳しくは知らないが十香がいきなり居なくなるってのはないはずだ。
だったら一体どこに……クソ、こんな事になるんだったら変な意地を張らないでジュースを買いに行くのをやめればよかった。二人がしなくてもいいって言うのを無理やり買いに行ったからな。
俺が必死に探してる時だった……怪しい黒ずくめの集団に車の中に連れ込まれている二人を発見したのは……
「おいっ!!お前ら何やってるんだ!!」
「!?」
俺が声を上げると連中は急いで二人を車の中に押し込め、仲間が一人取り残されているのにも関わらず車を発進させてしまった。
クソ、感情的になり過ぎた。黙って近づけば良かった。でも幸いな事にまだ車の速度は出ていない。このまま走れば車に取り付くことが出来るはずだ……しかし。
「邪魔はさせんぞ!!」
取り残された一人が車と俺の間に割って入った。
思わず舌打ちをする……相手は剣を構えていてこのまま通り抜けられそうにはない。
でも目の前の男に対処すれば、車に追いつく事が出来なくなる……言いようのない怒りを抑えながらも目の前の敵を素早く打ち倒すべく走りながらも手を構える。
「はぁぁぁぁああ!!」
相手は馬鹿みたいに声を上げて刀を俺に振り下ろす……他の奴までは分からないがこいつは素人だ。
そう判断した俺は、左手で相手の手を叩いて剣の軌道をずらす、あとは残った右腕をラリアットの要領で首元に叩きつけてやった。
「かぁ……」
そのまま、倒れた相手に見向きもせずに車を追いかけるが、やはり追いつけない。
車との距離は見る見るうちに離れ、ついには視界の外に消えて行ってしまった。あの時冷静に動いていれば……いや、後悔するのは後にしよう。
今一番の問題は十香たちがどこに連れ去られたのかと言う事なんだが……一応気絶させた誘拐犯の仲間がこの場にいるが、簡単に口を割るとは思えない。
いっその事、こいつをプルルートに……いや、駄目だ。本当の事を言う前に精神が破壊される可能性が高い。
何か手がかりは……
『士道、カメラで車を追跡させているから心配しなくてもいいわよ』
「本当か?」
インカムから聞こえてきた琴里の声に思わず安堵する……二人の居場所さえわかれば手の出しようはいくらでもある。
取りあえず、最初はこの国の一番偉い人への連絡からだなと思った俺は、携帯を取り出すと登録されている電話番号に電話を掛けた。
続きですが、今日か明日の内に投稿したいと思います。