ゲーム・ア・ライブ 作:ダンイ
プロローグ
陸上自衛隊・天宮駐屯地。
その一角に存在するブリーフィングルームではASTの隊員達が集められていた。室内にぎっしりと並べられた椅子の一つに座っている日蔭一曹は頭を押さえながら隊長が部屋に現れるのを待っていた。
彼女は先日に起きた空間震なしで現れた精霊への対処をしていたのだが……民間人と思われる男性を確保しようとしてからの記憶が一切ない。医者の話では何度も頭を叩かれた跡があるらしく、戦闘で頭を攻撃されその衝撃で記憶を失ったのだろうとのことだ。
自分と一緒に居た同僚も同じ状態らしいが……敵の攻撃とはいえ二人仲良く記憶を失うと言うことはあるのだろうか?
まあ、事実を前に確率とかの話をしても仕方ない事なのだろうが。
それにしても日下部隊長はまだ来ないのだろうか?
かれこれ十分以上は此処に待たされているのだが……
そんな事を思っていると日下部隊長が部屋の中に入って来た……そしてそれに続いてもう一人入って来た。
『っ!?』
その者の姿を見たASTの隊員達は驚愕した。
それも当たり前のはずだ、そこには先日の高校での戦闘の時から行方不明となっていた鳶一一曹だったのだ。彼女は一週間近く行方不明になっていたにも関わらず、何事もなかったかのように日下部隊長の隣に立っている。
「皆、言いたいことがあるのは分かるけど、順を追って説明するから少しだけ待ってちょうだい」
そう言って、日下部隊長は目の前にあるスクリーンに先日のプリンセスとの戦闘の際に現れた正体不明の精霊と思われる生命体の姿が映っていた。
それに関しては予想の範疇だったのか、誰もが落ち着いて画面を見据える。プリンセスとの戦闘の際に突如乱入したこの生命体は凄まじい戦闘能力を誇った。それこそASTが一方的に叩きのめされるくらい……だがそれ以上の問題が一つあったのだ。
「この生命体、識別名は〈ヴィーナス〉とされたんだけど、こいつからは霊力が一切検知することが出来なかったのは皆知ってるわよね」
そう、目の前の生き物からは霊力を一切確認することが出来なかったのだ。
霊力がない以上は精霊ではない……しかし人間には考えられない程の力を誇っていたのだ。しかも顕現装置による魔力の反応すらもなかった。
つまりは未知の力を使ったと言うことになる。
「この生き物なんだけど、上層部は話し合いの結果、これも精霊の一つとすることにしたらしいわ。意味は分かるわよね。こいつも私達が対処しなければならないって事よ」
「あの、すいません。それで鳶一一曹は何か関係あるのですか?」
席に座っていた隊員の一人が手を上げて質問する。
此処までの話は納得することが出来た……しかしそれに鳶一がどう関わっているのか理解することは出来なかった。
「それについてなんだけど……鳶一一曹、貴方が直接説明してちょうだい」
「了解……私は先日、来禅高校でプリンセスとの戦闘中にヴィーナスを発見……そのまま追跡を開始した。でも相手にバレていたようで、ヴィーナスとは別の人物に後ろから襲われて先日まで意識を失っていた」
「えっ!?それって……」
「この怪物のような生き物がもう一人いて、二人で組んでいる可能性があるって事よ」
日下部隊長の言葉を聞いた隊員達がざわめき始める。
無理はないと思う……たった一人にすら自分たちは敵うことが出来ず、一方的に叩きのめされてしまったのだ。それが二人組んでいる可能性がある……考えたくない事だった。
「まあ、可能性があるってだけよ。もしかしたらただの人間なのかもしれないし……これからはより一層注意しなさいって話よ」
その言葉を最後に、今回のブリーフィングは終わりとなった。
「……と言った感じで上手く誤魔化すことは出来た」
「いや、それは分かったんだけどさ……なんで折紙は俺の家にいるんだ?」
俺は頭を抱えたくなるのを我慢しながら、リビングのソファに座っている折紙に声を掛けた。
いや、ASTを上手く誤魔化せたことに関して安心したんだが……なんで学校が終わったと思って家に帰ってきたらリビングに折紙がいるんだよ。俺、鍵をかけて家を出たはずだよな?
そんなことを思っていると折紙が説明を……
「合鍵は基本」
「なんの!?」
ストーカーのか!?
そういえば、異世界から帰って来て、感覚が鋭くなったせいか時折後ろからの視線を感じていたんだが……もしかして、それって折紙なのか。彼女がストーカーのように俺を後ろから見つめていたのか?
って言うかいつの間に合鍵を作ったの!?
なぜだろう……少し身体が震えて来た。
「それに家に入る許可はもらった」
「誰から貰ったんだよ」
「貴方の妹に協力してくれるお礼として、いつでも家に入って良いと」
「琴里!?」
やっぱりお前なのか!?
なんだ?好感度を上げるコツをつかむために、女性との付き合いを増やせと言うことなのか!?
なんかもう疲れてきた……ネプテューヌ達のおかげでこう言う事には慣れていたと思ったんだけどな……上には上がいるって事なのだろうか。
まあ、いいや……どうせ家に来たんだ。何もしないで帰らせるっと言うのもあれだろう。
「取り合えず、もう冷蔵庫の中身がないからスーパーに買いに行こうと思うけどリクエストとかあるか?」
「なんでも構わない。士道の好きなもので良い」
「えっとね。わたしはやっぱりプリンが食べたいかな……士道のプリンは絶品だしね」
「プリンはデザートだからな……それとネプテューヌはいつから居たんだ?」
「士道が、折紙から事情説明を受けている辺りからだよ」
つまり最初から居たと……
こっちに来たなら声の一つでもかけてくれれば良いのに……ネプテューヌが突然現れるのにはもう慣れたから何も言わないけど。
それにしても、最近は週に2~3回のペースで家に来てるんだが仕事の方は大丈夫なのか?まあ、あまりにも酷い場合はイストワールの方から俺に連絡をよこすはずだから大丈夫だとは思うが……
「えっとね~。あたしはハンバーグが良いかなぁ~」
「プルルートも居たのな……分かったよ。それじゃあ、スーパーでひき肉を買ってくるから留守番をよろしくな」
「やった~。士道君、ありがとう~」
「あ、士道。プリンの素も忘れないで買って来てね」
「分かってるって」
本当にネプテューヌはプリンが好きだよな……本人は一日一個食べないと禁断症状が出るって言ってるし。まあ、食べなかった日を見たことがないから禁断症状も見たことはないけどな。
どこまで本当なんだか……まあ、良いさ。
俺はリビングを出て玄関の方に向かう。そこで靴を履いて折紙が開けてくれた扉を出て……
「って折紙?どうして此処にいるんだ?待っていていいんだぞ。買い物は俺一人で行ってくるから……」
「構わない」
「でも……」
「構わない」
「分かったよ」
何だろ、このデジャブを感じるやり取りは……
なんかいくら言っても無駄な気がしたからもう諦めることにした。
それに見えないところに居るよりも、見える場所に居た方が安心できるような気がしたし。それに純粋に買い物を手伝ってくれるのならありがたいしな。
その後、折紙が手伝ってくれたおかげで直ぐに買い物を終える事が出来たのだが……なんか、時々折紙が俺に怪しい視線を向けていた気がしたが……気のせいだと思うことにしよう。
「琴里、折紙が来るなら事前に説明してくれよ。家に入ったらいきなりいたからビックリしたんだぞ」
「話したらサプライズの意味がなくなるじゃない。って言うか鍵は渡してなかった思うけど、折紙はどうやって家の中に入ったのよ」
ああ、やっぱりあの合鍵って琴里が渡したものじゃなくて、折紙が自前で用意したものだったんだな。
本当にどこで型を取ったんだか……まさか体育の時間で服を脱いだ時か?そういえばたまに制服の折り方が微妙に違っていた日があったような……
なんか深く考えるの怖くなってきたから、この考えは捨てることにしよう。
夕食を終えた今、折紙はネプテューヌやプルルートと一緒にゲームをしている。
最初は渋っていた折紙だったがネプテューヌのしつこい勧誘に根負けしたようで、一緒遊ぶことにしたようだ。
それにしても、よくネプテューヌはあの無表情に気後れすることがなく話を続けられるよな。その部分は素直にネプテューヌの事を尊敬するよ。
あ、そういえば一つ聞きたいことがあったんだ……
「十香の方は大丈夫なのか?」
「今のところは問題はないわ……色々な検査をしたけど特に異常はなかったみたいだし……」
十香は先日の誘拐騒動で折紙をかばって頭に怪我を負ってしまった。
といっても意識を失ったものの、そこまで傷は深くなかったし傷の治療も行った。意識もその日のうちに取り戻したのだが……頭に怪我をしたという事実には変わりない。
だから今日一日は様子見と言うことでラタトスクの施設で安静にしている。
きっと今頃暇を持て余してるんだろうな……
そんなことを考えていると折紙が立ち上がってキッチンの方に歩いて行った。
ネプテューヌが「プリン!プリンッ!!」っと騒いでいることを見るにプリンを取りに行ったのだろう。時間的にそろそろ完成する頃だからな。
折紙は冷蔵庫からプリンを取り出すと、それをスプーンと一緒に一つずつ手渡していく。そして全員に配り終わったところで、俺が自分のプリンを……
「ああっ!!士道ずるいよ。自分が一番でかいプリンを取るなんてさ。そう言った作った人特権って言うのは無くした方が良いと思うんだよね」
「そうなのか?別に折紙に渡されたのだから気にしてなかったけど……よかったら交換するか?」
「本当に良いの!?ありがとうね士道!!」
そう言って俺のプリンと交換するネプテューヌ。
交換されたプリンを見れば確かに俺のプリンは少し大きかった。でも器に入れる際は同じになるように入れたはずなんだけどな……見間違えたのかな?
まあ、ちょっと大きいくらいは大丈夫だろう。ネプテューヌは俺と交換して手に入れたプリンをスプーンで口に運ぶとそれを飲み込んで……
「うげぇ!?なにこれ、プリンとは思えない苦みがするよ!?士道作り方間違えたんじゃないの?」
「いや、そんなはずはないと思うんだが……」
確認のために自分のプリンを取って食べてみるが普通に美味しい……何時もの通りの味だ。
ってことは、あのプリンだけが苦かったのか?それともネプテューヌの舌がおかしくなったのか?
でも同じ材料から作ったプリンの味が変わるなんて考えられないよな……でも後者の可能性も低いし、ネプテューヌが嘘を言っている可能性はないだろうし……
一体どうしてなんだ?
「何を言ってるのよ。別に苦くなんて……うぅ!?本当に苦いわ……」
「ねぷちゃん、あたしも一口だけ貰うね~……ひやぁ~!?士道君、これ本当に苦いよ~」
ネプテューヌのプリンを少しだけすくって食べた琴里とプルルートも顔をしかめて苦いって言ってるし。ネプテューヌのプリンだけが苦かったのか?
でも俺は何時も通りに作ったはずだ。一つだけ苦くなるような原因なんて……そういえば作る際に鳶一に手伝ってもらったけど……いや、それはないな。
料理を手伝ってもらった際には、下手をすれば俺以上に作るのが上手かったし……
ガチャーン!!
突如室内に響く音……音源を見ればネプテューヌがスプーンを落としたようだ。
それは問題なかったんだが……ネプテューヌは頬を赤く染め、荒い息をしていて……その一言でいうと扇情的な姿をしている。
一体どうしたんだ……そんなことを思っていると、突如彼女が近づいてきてソファーに座っていた俺を押し倒して、そのまま覆いかぶさった。
「ネプテューヌ……?おい、一体どうしたんだ?」
「なんか……身体が熱くなってきてぇ……お願いだよぉ……わたしをたすけてぇよぉ……しどう……」
「おい?一体どうしたんだ?琴里、ネプテューヌの奴が……」
「おにぃちゃん……わたしも、からだがあつくなってきぇ……」
「士道君~……あたしもぉ……からだが……あったかくなってきちゃってぇ~」
ネプテューヌだけじゃなくて、琴里とプルルートもなのか!?
三人何があったっていうんだよ……三人の共通点なんて俺が渡されたプリンを食べたくらいで……
あれ?なんか少しだけ引っかかるものがあったような……これまでの経緯を含めて考えてみよう。
プリンに火を入れる前に最後にプリンをいじったのは折紙だ。そしてそれを冷蔵庫に入れたのも折紙……最後にプリンを俺に手渡したのも折紙だ。
ってことは……俺は視線を折紙の元に向ける。すると彼女は視線を露骨にそらした。
これはクロだ。
「おい、折紙?」
「…………………………入れたものをネプテューヌが食べると思わなかった」
「何を入れたの!?」
やっぱり折紙が犯人だったのか!?
入れたって、それって食べた人の反応を見るに間違いなく最初にびの文字が入る薬だよな!?
道理で俺に手渡されたプリンだけ量が多いはずだよ!なにせ余計なものが入っていたんだからな!!
折紙は、一体どこでそんなものを手に入れたんだよ。って言うか食ってすぐに効くってどれだけ強力なものを入れたんだ。
ともかく今は三人をどうするかだ。今は折紙と協力して三人を止める方法を見つけないと……
そう思って折紙の方を向けば媚薬入りプリンを食べる折紙の姿が……
「折紙さん!?何をやってるんですか!?」
「大丈夫……こうなってしまった以上、責任は取る。私が発情して士道が私だけにしか手を出さなければ何も問題はなくなる」
「問題しかないだろうがぁぁぁぁ!!」
なんで事態を悪化させてるんだよ!?
ともかく今は非常にやばい状況だ……徐々に四人の目が捕食者の目に変わってきてる。そして勿論、標的は俺だ……
なんでだろう……目から涙が出て止まらない……ともかく家の外に出ることは出来ない。そんなことになれば、見境をなくした四人が何をしでかすかわからない。
「しどぅ……わたひをらくにしてぇ……せつなくてぇ……がまんできないのぉ……」
「ネプテューヌ、悪い!!」
そう言ってネプテューヌを突き飛ばすとリビングの方から階段を駆け上がって逃げていく……まずは異世界に通じる机の棚を封じておかないと大変なことになる。
そう思った俺は自分の部屋に素早く入ると引き出しの鍵を閉めた。その鍵は窓から外へと放り投げる……正気を失っている彼女達には見つけることが出来ないはずだ。
「しどぅ……どこにいくのぉ」
「にげてもぉ~むだだよぉ~」
「おにーちゃん?どこにいったのぉ」
「絶対に見つける」
なんか一人だけ正気を保ってそうな人物の声が下から聞こえてきたが、気のせいにしておこう。
何はともあれ、俺はこうして一夜に渡る命がけのかくれんぼを繰り広げる事となった……かくれんぼと言う物にこれほどの恐怖を感じた事は今までなかったよ。
結果だけ言うと俺の勝利だったが……俺はその日を境にホラーものに恐怖を感じることはなくなってしまった。だってそれ以上に怖いものを見たんだから……