ゲーム・ア・ライブ   作:ダンイ

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五話

「士道!見て、見て!!猫拾ったよ!!」

 

「えっと……ネプギア状況説明を頼む」

 

四糸乃との対話から一夜明けた翌日の午後、学校から帰って来た俺を出迎えてくれたのは両手で猫を掴んだネプテューヌの姿だった。正直頭を抱えたくなったがそれを我慢する。

いきなりそんな事を言われても困るんだが……たぶん状況からネプテューヌが捨て猫を拾って的なものだとは思うけどさ……

俺が取りあえずネプギアの方を見て説明を求めると彼女は苦笑しながらも説明してくれた。

 

「その……士道さんが帰ってくる少し前なんですけど、お姉ちゃんが窓からこちらを見つめるように佇んでいる猫を見つけたんですよ」

 

「それで、雨の中で立ってるのはかわいそうだからぁ~。家の中に保護することにしたの~」

 

「二人とも説明ありがとう……って二人してその傷はどうしたんだ?」

 

事の成り行きを説明してくれた二人の顔には赤い線のような傷がいくつも入っていた。

それは猫に引っかかれたような傷で……って言うか猫に引っかかれたのだろうがそうなった事情が知りたい。

と言っても今現在もネプテューヌの腕の中でもがいている猫を見れば一目瞭然なんだけどな。

 

「それが最初は私達二人で捕まえようとしたんですけど……」

 

「猫さんに引っかかれちゃったの~。それで、ねぷちゃんが私達が引っかかれてる内に後ろから襲って~、なんとか猫さんを確保したんだよ~」

 

まあ、何というか……大体俺の予想通りの答えだったな。

今もネプテューヌにタオルで濡れた身体を拭かれながら暴れてるしな……人への警戒心が強い猫なのだろうか?

首輪が付いてない事を見るに、捨て猫か野良猫だと思うけど……

 

「シドー!これが猫と言う生き物なのか?可愛い生き物だな!!私が触ってみても大丈夫だろうか?」

 

「やめておいた方が良いと思うぞ……下手に触るとプルルートやネプギアみたいな事になるから」

 

「む、そうなのか?それは少し残念だ……」

 

そういって寂しげに肩を落とす十香……悪いけど今猫に触っても二人の二の舞にしかならないからな。悲しそうな様子だし今度琴里に頼んで猫カフェとかに連れて行くのも良いかもしれないな。

それにしても、よくネプテューヌは爪による攻撃を器用に回避しながらタオルで拭くなんて器用な真似ができるよな……猫の世話に真面目に取り組んでいるからか?

その熱意を少しでも良いから仕事に向けてくれれば良いのに。

そう言えば、仕事って言えば……

 

「そう言えば、ネプテューヌ達はまだ帰らななくて大丈夫なのか」

 

「あたしは、いーすんにお願いして~、許可をもらってるから大丈夫だよぉ~」

 

「えっと……私たちは……」

 

「ネプギアってば、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ちゃんとわたしが、部屋の机の上に『今日は仕事を休みます』って書き置きを残しておいたからね。もう、ネプギアは心配性なんだからぁ」

 

どうやら明日の超次元のプラネテューヌには雷が落ちることが確定したらしい。

まあ、本人の自業自得なんだから何もフォローのしようがないけどな。でもいつもならサボり過ぎるとイストワールから電話とかが入ってくるんだけどな……

 

一応携帯を確認するとイストワールからメールが入っていた。えっと内容は『今、ネプテューヌさんはそちらにいますか?』だった。

嘘をつく理由は特にないので『今、家に居る』と正直に返信する。

これで雷が落ちる場所はプラネテューヌから俺の自宅に変更となったけど……別に良いか。たまにはお灸をすえないと駄目だろう。

 

そんな事を知ってか知らずかネプテューヌはタオルで拭き終わった猫の頭を撫でている。猫はそれに一瞬心地よさそうな顔をして……はっと何かに気づいたような顔をした後にまた暴れ始めた。

 

「あ、もう!?暴れちゃだめだよ!別に取って食おうなんて考えてないってば!ほら、落ち着いて……ね。お願いだから」

 

未だに暴れ続ける猫を宥めようとするネプテューヌ。

もう諦めて猫を放せばいいのに……と生暖かい視線でネプテューヌと猫の格闘を見守っていると、何を考えたのかネプテューヌは猫を自らのパーカーの中に入れてその上から両手で押さえつけてしまった。

猫は顔だけをパーカの中から出して身動きが取れない状態になっている。うん、ちょっとだけだけど可愛いと思ってしまった。

そんな状態になって猫も抵抗を諦めたのか、ついに大人しくなってぐったりとしている。

 

「ようやく落ち着いてくれたよー。そういえば士道さっき携帯いじってけど誰と連絡してたのかな?」

 

「あー……それは、もう言う必要がないな」

 

だってその人物がもう後ろに居るからな……

怒りによって後ろに凄まじいオーラを纏ってる。なんて言うか、怒りで覚醒するどこぞの宇宙人のようになってる。正直もの凄く怖い。

それに全く気づかず首を傾げてるネプテューヌをよそに、俺達はそっと距離を取っていく。そして俺達が部屋の端に退避したところでようやく原因が自分の後ろにある事に気づいたネプテューヌは後ろを振り向いて……

 

「げっ!?なんでいーすんがこんな所に居るの!?」

 

「げっとは何ですか。士道さんから先ほど此処にいると連絡を受けたので、急いでこっちに来たんですよ」

 

「士道の裏切者!!って誰もいない!?もしかして……皆私を見捨てたの?」

 

ネプテューヌには悪いけど、今のイストワールには関わりたくない。

だからネプテューヌ一人を部屋に残して、廊下に避難している俺達を許してくれ。

 

「今日という今日は許しませんよ。ネプテューヌさん?覚悟はよろしいですね?」

 

「えっと……お手柔らかには……お願いできないよね?」

 

「当たり前です。それでは行きますよ!!」

 

「ね、ねぷうううううぅぅぅぅぅぅぅっ!!」

 

その後、イストワールによるネプテューヌの説教は三十分にも及び、その間ネプテューヌの悲鳴が絶えずリビングから漏れてきた。

説教の終わったイストワールは、迷惑を掛けて申し訳ないと俺に謝った後、直ぐに机の引き出しを通って超次元の方に帰っていた……どうやら今日一日はこちらに居る事を許してくれたようだ。

なんだかんだで、イストワールもネプテューヌに甘いからな……

 

ちなみ完全に余談だが、ネプテューヌのパーカーの中に居た猫は完全に巻き添えを受けたらしく、説教が終わった後は生まれたての小鹿のように身体を震わせていた。

可愛そうに……と皆が猫に同情したのは当たり前の話だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいません。お姉ちゃんのわがままに付き合ってもらって」

 

「別に何時もの事だからな……もう慣れたよ」

 

ネプテューヌが一度言い出したら中々意見を変えないのは今までの付き合いで分かりきってるからな。

そんな事を思いながら俺はネプギアと一緒に近くのペットショップで買ってきた荷物を片手に傘をさしながら、雨が降っているなか家への帰り道を歩んでいた。

 

なぜこんなことになっているかと言うと……ネプテューヌがあの猫を飼うと言い始めたからだ。最初は説得して諦めさせようとしたのだが、ネプテューヌの意志は固くそれに失敗。更には十香やプルルートまでもネプテューヌに賛同してしまい、早々に諦めざるを得ない状況になってしまった。

そういう訳で俺とネプギアが猫を飼うのに必要な道具一式を買いにペットショップにいく事となった。

 

それにしても最近はよく雨が降るよな……梅雨はまだ先だと思ったんだけどな。

 

「そういえば士道さん、十香さんの霊力の封印に成功したんですよね。一体どうやって封印したんですか?お姉ちゃんは聞いてもはぐらかして教えてくれないんですよ」

 

「えっと……それは、だな……」

 

どうしよう……凄く言いにくい……

ネプテューヌがはぐらかすのも当たり前だよな……キスすることで霊力を封印するなんて普通は思わないだろうし……純粋なネプギアにそれを言うのは憚られる

頼むから俺をそんな期待のこもった眼差しで見つめないくれ……心が折れて言ってしまいそうだ。

でも手伝ってもらって内緒にするなんてしたくはないし……諦めるか……

 

「その……好感度を上げて……精霊とキスすると封印できるみたいなんだ」

 

「そうなんですか。精霊とキスを……へ!?えぇぇぇぇぇぇっ!?な、なんでそんな事で封印する事が出来るんですか!?」

 

「いや……俺もそれが出来るって事実しか知らなくて……」

 

「え!?ちょっと待ってください!十香さんの封印に成功したって事は…………士道さんは十香さんと……」

 

言葉の先の事を想像してしまったのか、ネプギアは顔を真っ赤にして湯気を上げている……

うん……概ね予想通りの反応だ。

当事者の俺が何を言っても無駄だと思うので固まったネプギアの事を足を止めて見守る……そして数分ほどで再起動したネプギアが俺に声を掛けてきた。

 

「えっと……それだと士道さんは、その……これから精霊が出る度にキスをしないといけないんですよね……?」

 

「そういう事になるな……」

 

あはははっ、と二人そろって苦笑する……

ネプテューヌみたいにギャルゲーの主人公みたいだって茶化してくれないから、微妙な雰囲気があたりに流れてるよ。

よく見ればネプギアは俺になんて声を掛けようか迷ってるみたいだ。ネプギアは真面目で周りに配慮出来る娘だからな……プレイボーイや遊び人なんて俺を傷つけるような言葉を言えなくて迷ってるんだろうな……

と言うかネプギアにまでそんな事を言われたら立ち直れそうにない……

 

「その……頑張ってくださいね」

 

「うん……できる限り頑張るよ」

 

これは、精霊を助けるためだもんな……

息をしてない時に人工呼吸をするのと同じだ……そう思ってないとやりきれそうにない。

しかし精霊って何人いるんだろうな……琴里の話を聞くに二桁に届くか届かないかってところらしいけど。それでも全員とキスすればプレイボーイなどの不名誉な称号を間違いなく貰うだろう。

俺は精霊を助けたいだけなんだけどな……やってる内に慣れるだろうか?

でも慣れたら慣れたで人として大事なものを失ってしまったみたいでいやだな……

 

そんな事を考えながらネプギアと一緒に歩いていた時だった……とても小さい、今にも消えてしまいそうな声で聞こえてきた。

士道さん、よしのん……と

 

「四糸乃……?」

 

「士道さん?どうしたんですか、いきなり立ち止まったりして……」

 

「えっと、悪いけどこの荷物を持って先に家に帰ってくれないか?ちょっと用事が出来た」

 

「は、はい。それは構いませんけど……」

 

俺は頭を下げて自分の持っていた荷物をネプギアに預けると、路地裏の方に駆け出した。

ただの空耳だったらそれで良い……でもなぜか俺にそうは聞こえなかった。彼女が……四糸乃が俺を呼んでいるように聞こえてしまった。

俺は雨に濡れるのなんか気にせず路地裏を走っていく……そして曲がり角を抜けた所だった。

そこに四糸乃が今にも泣きそうな顔で佇んでいたのだ。

 

「四糸乃……」

 

「っ!?……士道、さん……?」

 

四糸乃がゆっくりと俺の方を向いた……そして俺だと分かった瞬間、四糸乃は我慢していた涙を瞳から流し俺の方に駆け寄って来た。

そして俺に勢いよく抱きつくと四糸乃はそのまま顔を俺の胸に埋めて泣き出してしまった。

昨日俺が去ってから何があったのか。俺は困惑しながらも四糸乃を慰めようとその頭を撫でようとして……気がついた。

ないのだ……何時も左手に付けていたよしのんの姿が……

 

「四糸乃……よしのんはどうしたんだ?」

 

「昨日……落として、しまいました……だから……必死に、さがして……でも、見つから……なくて……私、私……よしのんが居なくなったら……」

 

「よしのんなら大丈夫だって……俺も一緒に探すからさ……な?」

 

「あ……ありがとう、ございます」

 

ポケットにしまっていたハンカチを取り出して泣きじゃくる四糸乃の涙を拭いながら、優しく語りかけた。四糸乃はそれにコクっと頷くとよしのんの捜索を再開した。

まだ泣きそうな顔をしているが……先程の絶望しかけていた表情よりははるかにましだ。

 

俺はそんな四糸乃を横目で見ながら、彼女に気づかれないようにそっと携帯を出した。掛ける先はもちろん琴里だ。

四糸乃には悪いけどよしのんはここら辺には居ないと思う……居るとすれば現在立ち入り禁止になっているデパートの周囲だ。あの周囲には当たり前の話だが自衛隊の関係者がうようよと居る……となれば精霊である四糸乃を連れて行くわけには行かない。かと言って俺も今の四糸乃を置いていくわけには行かない。

そうなれば残された手段はラタトスクに頼んで探してもらうしかない。

まあ、それ以前にも支援を貰うために連絡しないといけないんだけどな。

 

ともかく俺は琴里に電話を掛けた。

 

『士道?一体どうしたのよ?今は確かあの猫を飼うための用具を買いに行ったはずじゃなかったの?

 

「一言で言うと……四糸乃が目の前に居る」

 

『……はぁ!?ちょっと待ちなさい!静粛現界がどれくらいの頻度で起こってるか分からないけど、貴方精霊と会い過ぎじゃないの!?……まぁ、いいわ。とにかく現在の状況を説明して頂戴』

 

「ああ……実はな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「四糸乃?大丈夫か?」

 

「は……はい……」

 

路地裏で四糸乃と遭遇してから二時間後……あの後はデパートの周囲(自衛隊が居ない少し離れた場所)に移動して探索を続けていたのだが、もう日が沈んできたのと、四糸乃が精神的に疲れてきたのもあって一旦俺の自宅に招いて休憩をしていた。

ちなみに現在ネプテューヌ達は皆、四糸乃がなくした人形の捜索を手伝っているので家はもぬけの殻だ。

まあ、それ以外にも人見知りが激しい四糸乃に配慮したってのもあるんだけどな……ただでさえ今はよしのんを失ってかなり精神が不安定になってるみたいだしな。

出来るだけ早くよしのんを見つけてやりたいんだが……今のところ、ラタトスクから見つかったとの連絡は来ていない。

攻撃で粉々になった……そんな最悪の事態になってないといいのだが……

 

とにかく今の俺にできることはないので、お腹が空いている四糸乃の為に親子丼を作っていた。

っと、そろそろ出来上がる頃だな……俺は出来上がった親子丼をソファーに座って不安そうな顔をしている四糸乃の方に持っていく。

 

「ほら、出来たぞ。腹が減っては戦ができぬって言うしな、腹を満たしてからよしのんをまた探しに行こう」

 

「は、はい……」

 

そういって頷いた四糸乃はスプーンを手に取って、どうすれば良いか分からず首を傾げている。……俺がスプーンを使って一口食べて見せると、四糸乃はそれに見習って親子丼を食べ始めた。箸だと食べるのが難しいんじゃないかって、スプーンを持ってきて正解だったな。

四糸乃は十香のようにあまり人間社会に詳しくない精霊みたいだ……って言うか詳しい精霊が居るのかどうかすらわからないんだけどな。そもそもの情報量が少なすぎる。

でも静粛現界と言う空間震を起こさずこちらに精霊が現れる方法があるのだ。人間社会に紛れ込んでいる精霊が居たとしてもおかしくは……って話が脱線しすぎたな。

四糸乃は俺が考え事をしている間に食べ終えたみたいだし……声を掛けてみるか。

 

「どうだ?口に合ったか?」

 

「はい……おいし、かったです……」

 

そう素直に言ってもらえるのは嬉しい。

料理人冥利に尽きると言えばいいのだろうか……って俺はレストランのシェフとかじゃないんだけどな。

さてと腹ごしらえは終わったんだが……この後何をしよう。

もう日が沈んで夜になっている。こんな時間帯に四糸乃を連れて歩けば下手をすれば警察に補導されそうだ。俺は別に良いが、四糸乃が警察に補導されたら洒落にならない。

でもよしのんを見つけない事には……取りあえず少しの間で良いから休憩を取るついでに四糸乃と会話をしてみよう。

 

「なあ?いくつか質問しても大丈夫か?」

 

俺の言葉にコクっと頷く四糸乃。

何を聞かれるか分からないからか……少しだけ不安そうに俺の事を見つめてる。

あまり変な質問はしないように気をつけよう。

 

「四糸乃は、よしのんと何時から友達になったんだ?」

 

「よしのん、とは……攻撃……されてる、時……会いました……よしのんは、弱い私を……引っ張って、くれて……いつも攻撃、された……時に、助けて……くれます」

 

「助けて?」

 

四糸乃の言葉に少しだけ首を傾げる……確かに攻撃されるのは嫌なことだとは思う……

差別するつもりはないのだが、四糸乃は精霊だ。ASTを撃退するのなら話は別になってくるだろうが、逃げ回るくらいなら四糸乃でも可能なはずだ。

もしかしてASTの攻撃が怖いのだろうか……そう思った俺だが四糸乃の口から語られたのは予想だにしなかった答えだった。

 

「私じゃ……ダメ、なんです……私は、弱いから……攻撃、されると……驚いて、攻撃しちゃいます……でも、よしのん……は、そんな私を……助けてくれる……です……よしのんが、いるから……私は反撃……せずに、いられます」

 

「AST……じゃなくて攻撃してくる奴は敵なんだろ?少しくらい反撃って思わないのか?」

 

「私は……痛いのが、いやだから……あの人、達も……きっと、それは同じはず……だから」

 

四糸乃の答えを聞いて……俺はやるせない気持ちになった。

四糸乃は優しい少女だ。あんな状況に置かれてなお他人を思いやれる。そんな事を出来る人間など果たして何人いるだろうか?

彼女の境遇を人間に当てはめれば、自分を襲い掛かろうとする殺人鬼や銃口を向けるテロリストに慈悲を掛ける。酷く言えば狂人の域に達した優しさだ。

 

でも四糸乃が人間であれば、きっと周りの人達が彼女に向けられた以上の優しさを向け彼女を救っていただろう……でも四糸乃は精霊。彼女に優しさを向ける人も救いの手を差し伸べる人もいない。

こんな事って……許されて良いのかよ。

でも今の俺は四糸乃に何もしてやることが出来ない……精神が不安定過ぎて現状での封印は困難だからだ。ならばせめて、彼女を勇気づけようと、俺は自分一人ではなにも出来ないと落ち込む四糸乃にそっと語りかけた。

 

「俺はさ……四糸乃の考えを全面的に賛成することは出来ない。確かに相手も痛いかもしれないけどさ……俺だって傷ついたりしたら悲しむ人が居るんだ。四糸乃だって自分が傷ついたらよしのんが心配するだろ?だから俺は四糸乃と同じ状態になったら反撃するかもしれない……」

 

四糸乃は俺の事をじっと見つめる……自分の全てを否定されるんじゃないか……

そんな不安の入り混じった俺に縋るかのような視線を向けている。

 

「でも一つだけ言えることは……四糸乃は弱くなんかないって事だ」

 

「私……が、弱くない……?」

 

「ああ、だって俺にだって無理な事を四糸乃はしようとしてるんだろ?だったら、きっとそれは四糸乃の強さだよ。だからさ……そんなに自分の事を悲観しないで、もうちょっとだけ自信を持ってみてもいいんじゃないか」

 

「私が……強い……?」

 

四糸乃の言葉を肯定するようにゆっくりと頷く。

 

「ああ、四糸乃は十分に強いよ。よしのんにも、俺にもない……四糸乃だけの強さを持ってるんだから」

 

「…………」

 

俺の答えに返事を返すこともなく、茫然として立ち尽くす四糸乃……

そのまま数秒……いや数分たったころだろうか?四糸乃はクスッとほんの少しだけ笑みを浮かべて「ありがとうございます」と答えてくれた。

 

うん、やっぱり四糸乃は普段の困ったような顔や不安そうな顔よりも笑っている顔の方が似合う。

四糸乃の霊力を封印さえすれば、直ぐにとは言わないが暫くすれば人間のような生活を送れるようになるはずだ。そうなればきっと四糸乃はもっと笑うようになる。

だったら、早くよしのんを見つけないとな、と気合を入れなおす。

 

『士道?もしかして今の計算でやった?』

 

「ん?琴里どうしたんだ?俺が何かやったのか?」

 

『な、なんでもないわ』

 

計算ってなんの事を言ってるんだ?

俺は思った事を口にしただけなんだけどな……うまく言葉に出来たかは分からないけど、四糸乃を元気づけられたみたいで良かった。

それよりも、話し合いもそろそろ終わりか……不安だが四糸乃と一緒に街に出てよしのんを探した方が良いのか?でもそうなると警察とかそこら辺が不安になってくるんだよな……

俺がどうすれば良いものかと悩んでいると「ピンポン!!」とチャイムの音が鳴った。

 

一体だれが来たんだ?ラタトスクがよしのんを見つけた……とかだったら先に琴里がインカムで伝えるだろうし……

とにかく玄関に向かわないとな。

 

「四糸乃、ちょっとお客さんが来たみたいだからリビングで待ってくれるか?」

 

「わ、わかり、ました……」

 

四糸乃に断りを入れた俺はリビングを出て玄関の方に向かう。

玄関に掛けられた鍵を解いて扉を開ける……そして開いた先に立ってたのは折紙だった。

 

「折紙か?今日は一体どうしたんだ?悪いけど今は……」

 

「事情は把握している。今士道の家に居る精霊について話がある」

 

俺の家に四糸乃が居る事を知ってるのか……一体誰から聞いたんだ?

いやそれよりも今は折紙が一体何をしに家に来たのかって事だな?四糸乃について話があるみたいなんだが……一体何の用事なんだ?四糸乃は危険な精霊だから倒せってのは、四糸乃の性格と行動を考えるとあり得ないよな。

俺が首を傾げていると、折紙が言葉を紡ごうとして……

 

『士道何をやったの!?四糸乃の精神がすごく不安定になってるわよ!!』

 

「四糸乃が……!!」

 

琴里の言葉を聞いて俺は急いで後ろを振り返る……するとそこには少しだけ顔を出してこちらを見つめている四糸乃の姿があった。

今の俺を見て不安定になったのは間違いないだろうが……なんでなんだ?ここにには折紙……あっ!そうか折紙と俺が話していたから四糸乃は不安を感じてしまったんだ!!

なにせ折紙はAST……きっと四糸乃は自分を攻撃してきた相手の事を覚えていたのだろう。そんな相手と俺が会話しているのを見て、俺が自分を攻撃してくる人の関係者だと勘違いしたんだ。

 

「四糸乃。ちょっと待ってくれ!誤解なんだ!!」

 

俺は怯えている四糸乃に声を掛けるが……自分が見つめていたことに気付かれた四糸乃はビクッと肩を震わせるとリビングの中に入っていた。

俺は靴を履いている事など気にせずに四糸乃の事を追いかけるが……リビングの中には四糸乃の姿はなくなっていた。どこかに隠れたのかと一瞬思ったけどそれは違う……人の気配が全くないし、そもそもリビングに隠れる場所なんてない。

となれば答えはたった一つ……最悪なタイミングでしたもんだなと思いながらも琴里に確認を取る。

 

「なあ……琴里」

 

『士道の考えてる通りよ。ついさっき四糸乃は臨界に消失したわ。まったく、最悪のタイミングで消失したものね。もうこうなったら、次にあった時に挽回するしかないわ』

 

「そう、だな……」

 

四糸乃が俺の話を大人しく聞いてくれるかも分からないけどな……

いきなり攻撃……はされないだろうが、逃げ出されたらどうしよう。土下座とかすれば話を聞いてくれるだろうか。

そんな事を思っていると玄関から上がった折紙が俺の隣に来て俺に頭を下げた。

 

「ごめんなさい。私が士道の家に来なければこんな事にはならなかった」

 

「いや折紙のせいじゃないって、俺の方が四糸乃に気を使うべきだったんだ」

 

「士道は悪くない……私の用事は電話で済ますことが出来た。でも私が士道に会いたいと思って家を訪ねたのが原因。精霊が私の顔を覚えている可能性を踏まえれば迂闊な判断だった」

 

そういって改めて自分が悪いのだと頭を下げる折紙。

彼女は結構強情なところがあるからな……俺がいくら折紙のせいじゃないって言っても無駄だろう。彼女を納得させられる言語能力なんて俺にないからな。

かと言って下手に謝罪を受け取ればそれはそれで嫌な予感がするし……

こうなったら、もう話題を変えるしか方法はない……ってそういえば何を折紙は俺に伝えようとしたんだ。

 

「四糸乃の件は置いておくことにして……結局、折紙は何を伝えたくて俺の家に来たんだ?」

 

「その件だけど……よしのんが何処にあるのか分かった」




最後の投稿から一年も待たせてしまいすいませんでした。
リアルの方が忙しく、まとまった時間が取れなかったため遅くなってしまいました。
四月に入るとまた忙しくなりますが、それまでは以前と同じペースで投稿できるように頑張りたいと思います。

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