ゲーム・ア・ライブ 作:ダンイ
なんで痛みがないんだ……直撃はしなかったみたいだが、ミサイルが至近距離で爆発して痛みがないなんてどう考えてもおかしい。
そんな事を思いながら俺はゆっくりと目を開こうとする。
開かれた目に映ったのは、王座ような背もたれに剣の柄が備え付けられた椅子だった。そして俺はその椅子に見覚えがあった。
精霊の持つ最強の矛である天使。その中でも今目の前にあるのは十香の天使である〈鏖殺公〉だった……でもそれは霊力を封印された十香では出すことが出来ないはずだ。
でも目の前に存在する。その事実に驚愕していると、所々に光る膜のようなものをつけた十香がやって来た。
「シドー、大丈夫か?怪我はしていないな?」
「ああ、助かったよ……でもどうしてこんな場所に居るんだ?って言うかどうして天使を出せるんだ?」
「そ、その、最初はシドーに言われた通り避難しようとしたのだが……道に迷ってしまってな。それでシェルターを探していた時に攻撃されているシドーの姿が目に入って……どうにかしようと思って力を入れたら天使を出すことが出来たのだ」
「そうなのか……本当に助かった。ありがとうな、十香」
十香がいなかったら怪我をするところだったからな……
でもどうして十香は霊装を纏うことが出来たんだ?見たところ完全な霊装ではないみたいだが……
そういえば、前に琴里が精神的に不安定になると霊力が逆流するって言っていたような。
霊装を纏うことが出来るまで霊力が逆流してしまったのか?
後で琴里に聞いてみるか……って琴里からの返事がないな?普通なら連絡をよこすと思うんだが……
そんな事を思っていると、ジェットエンジンによる特有の音が聞こえてきた。一瞬ASTかと身構えるが……俺の方にやって来たのは折紙だった。
「士道!?怪我はしていない?」
「ああ、大丈夫だ。十香に助けて貰ったよ」
「十香に……?」
俺の話を聞いた折紙は十香の方をじっと見つめる。
そして見つめられた十香は居心地が悪そうに顔をしかめる。
もしかして、霊力を封印されているはずの十香が霊装を纏っていることが気になっているのか?
すると折紙が口を開いて十香を追及し始めた。
「なんで貴方は霊装を纏っているの。士道に封印されたはず」
「私にも良く分からん。気がつけばこうなっていたのだ」
「理解不能、詳細な説明を要求する」
「そんな事よりも、なぜ士道を攻撃したのだ?私が居なければ危なかったではないか」
「撤回を要求する。流れ弾でも、私が士道を攻撃するなんてありえない」
「でも貴様らの仲間が攻撃したのだろう」
はぁ……
なんでこの二人は言い争いを止められないんだろうな。
これでも最初の命の取り合いをしていた時よりは、はるかにましになったとは思うんだが……
もう少し仲良く出来ないものなのかな、と思いつつ口論する二人をひきはがして無理やり口論を止める。
そんな事をしてる状況じゃないからな。
そう思っていると、折紙が俺に近づいてきて……俺の上着のボタンを外した。
「お、折紙!一体、何をする気だ!?」
「士道が怪我をしていないか、確認する。だから服を脱いで」
「必要ないから!俺は怪我なんかしてないから!!」
「本人がそう思っていても、重症を負っている可能性がある。知識ある人の診察が必要」
「こら!!折紙、やめないか!シドーが困っているではないか!!」
「貴方達……こんな場所でなにをやってるのよ」
突如聞こえてきた、呆れてような声……
その方向を見れば女神化したネプテューヌがこちらを見つめていた。
ネプテューヌに見られていることを知った折紙は、自分が不利な状況である事を悟ったのか俺の服から手を放すと何事もなかったかのようにその場に立った。
折紙って結構図太い神経をしてるよな……その部分は精霊を攻略するうえで少しだけ見習いたい。
「ネプテューヌが此処に来たって事は……ASTは倒し終わったのか?」
「残念ながらまだだわ……でも、それどころではない事態が起こってね」
そう言ってネプテューヌが指さすのは、いつの間に出来上がっていた冷気による巨大なドーム。
なんでこんなものが出来たのか分からないが……だぶん四糸乃によるものだと思う。
でもそれ以上の事が一切分からない。状況打破のためにラタトスクからの支援が欲しいのだが、琴里からの連絡がない。
なんでだと俺が首を傾げると……ネプテューヌが何かに気づいたかのような声をあげた。
「士道、ちょっと待ちなさい。そのインカム壊れてるわよ。たしか……あったわ。予備のインカムよ。これに取り替えなさい」
「そうだったのか……ありがとうな」
道理でいつまで待っても琴里からの連絡がないはずだ。
俺が今まで耳に付けていたインカムを抜いて、ネプテューヌから渡されたインカムに変える。
すると耳からは琴里の声が聞こえてきた。
『士道!?怪我はしてないわよね?』
「ああ、大丈夫だ。十香が守ってくれた」
『十香が……ああ、霊力が逆流したのね。守ろうとして霊力を逆流させるなんて、あなた随分と十香に愛されているみたいじゃない』
「茶化してないで、今の状況を教えてくれ。あのドームは四糸乃の力だと思うんだが……なんであんなことになったんだ?」
『たぶん、ミサイルで士道が死んでしまったと勘違いしたんでしょうね。ミサイルが爆発して直ぐに四糸乃が作ってASTを閉じ込めたのよ。難を逃れたのはすでにくたばってた奴と、士道の元に向かった折紙だけよ』
やっぱり四糸乃が作ったのか……
たぶんだがあのドームは牢獄……ASTを逃がさない為に作ったのだろう。
凄まじい冷気とそれによって出来た氷のつぶてのせいで中の様子を窺い知ることは出来ないのだが……きっと中では四糸乃とASTが戦闘、いや四糸乃がASTを蹂躙しているだろう。
何時もは相手の心配して逃げ回っていた四糸乃が初めて攻撃に至った原因が俺……それを考えると少し嬉しく思う反面、それをやっては駄目だと思ってしまう。
優しい四糸乃の事だ……頭を冷やした後は攻撃した事に後悔してしまうだろう。四糸乃が悲しむ顔なんて見たくない。
「琴里……あのドームの中には入れないのか?」
『生身では不可能ね。通り抜ける前に全身が凍り付くか穴だらけになるわよ』
「それだったら、わたしが士道を連れてドームに突入するわ。生身で突っ込むよりは遥かにましなはずよ」
『それも無謀だって却下したいところだけど……方法はそれしかなさそうね。ちょっと待って頂戴。こちらで士道のダメージが最小限になるルートを調べてみるわ』
「話はもう終わったのか?何かやるのなら私も手を貸すぞ」
「それは……」
十香には申し訳ないけど、不完全な霊装であの中に突っ込むのは危険すぎる。
それに四糸乃は気が強くないから大人数で行ってしまえば混乱する可能性もある。
まあ、今はよしのんが一緒居るから多少なら大丈夫だと思うけど……不確定要素は増やしたくない。
俺が何も役目がないとは言いずらくて口を濁していると、折紙が十香の肩を叩いた後ある場所を指さして話す。
「私と一緒に陽動をしてほしい」
折紙が指をさす方向には宙に浮いているASTの姿が……
恐らく増援だろう。厄介なところに来たな……彼女達がドームを取り囲んだら下手に突入する事が出来なくなる。
「陽動と言っても……私は具体的に何をすればいいのだ?」
「私と戦ってほしい。それで増援をこちらに引き寄せる」
「そんな簡単なことで良いのか?それならば行くぞ、折紙」
「二人共、無茶はするなよ」
戦いながらこの場から遠ざかっていく二人にそう声を掛けておく。
すると二人は器用にも戦いながら手を振って返事を返して、増援が来ている方向に向かっていた。
これでASTは十香の方に釘付けになって、こちらの方に来たとしても少数になるだろう。
『こちらとしては、十香にはあまり戦ってほしくないのだけどね』
「本人がやる気になっているのだし、止めるのは失礼よ。それに十香なら上手い事やってくれるわ」
「俺はやり過ぎないか心配なんだけどな……」
十香は俺とかがストッパーとして付かないとやり過ぎてしまう癖があったからな。
今回は力が落ちてるし、折紙もいるから大丈夫だとは思うけど……たぶん。
それよりも今は目の前のドームの中の事だ。四糸乃が直接傷つくことはないと思うが……ASTに過剰に報復して心に傷を負ってしまわないか心配だ。
一刻も早くドームに突入したいのだが……もうこの際、後で琴里に尋問されるのを覚悟で俺が女神化して突入するか。
『二人とも今計算が終わったわ。今からこちらの指示する通りに動いて頂戴。それともう一つ、ドームの中に入ったら通信は出来なくなるわ。こっちからのバックアップはあまり出来ないから注意しなさいよ』
「わかったよ……それじゃあ、ネプテューヌ」
「わかってるわ。それじゃあ士道、突入するわよ」
ネプテューヌが俺の腹に手をまわして持ち上げる……
そして地面から足が離れた瞬間、ネプテューヌは俺を抱いたまま猛スピードでドームの中に突入した。
どうしてこんなことになったのだろう?
ASTの隊員の一人はそんな事を思いながら目の前の精霊を見つめていた。
もう体力は限界で身体に力が全く入らないし、呼吸は非常に荒くなっている。
他の仲間達はとうの昔に精霊にやられてしまい気を失っている。この場で意識があるのは、この隊員と目の前にいる精霊だけだ。
少し前までは何時も通りの任務だった……現界した精霊に対して攻撃する。
しかし途中からそれは変わってしまった。霊力を一切持たない特殊な精霊、ヴィーナスが乱入してハーミットを守るような行動をしたかと思えば、その守られていたハーミットが冷気によるドームを作ってASTを中に閉じ込めたのだ。
弱虫ハーミット……誰が最初にそう言ったのかは分からないが、こちらに反撃することなく逃げ回っているだけのハーミットをASTではそう言って嘲笑っていた。
でも今目の前に居るハーミットを弱虫なんて言うことはとてもじゃないが出来なかった。
ASTを閉じ込めたハーミットは、今までの行動からは考えられない程の熾烈な攻撃をこちらに仕掛けてきたのだ。勿論、ただでやられてたまるかと反撃をしたのだが……その全てが無駄だった。
こちらの弾丸は届く前に全てが凍結させられ当てる事すらできなかった。
そして仲間は一人、また一人として倒れていき……ついにはたった一人となってしまった。
戦う力なんて残っていない隊員に精霊はゆっくりと近づいてくる。
一体何をされるのだろうか……そう思うと恐怖で身体が震えてくる。まさか自分は殺されてしまうのではないか。
気がつけば瞳からは涙を流して精霊に許しをこいていた。
「いや……死にたくない……許して……」
『なに今更泣き言を言っているのかなぁ』
突然聞こえてきた声に驚いて周囲を見渡す隊員。
しかし自分とハーミット以外にこの場に意識を保っている人物はいない……つまり今声を出したのは目の前にいる精霊だ。
そこまで理解する事が出来た隊員は精霊に話しかける。
「ごめんなさい……許して、私まだ死にたくないの……」
『今まで散々よしのん達の事を虐めてきたのに、よくそんな口がきけるよねぇ。それだけならまだ許せたけど、士道君まで……駄目だよ。絶対に許さない』
後半からの明らかに怒気の含まれた言葉に、身体が竦んでしまう。
なぜかは分からないが、ハーミットはこちらに明確な殺意を持っている。
もう駄目だ……自分も弱虫と言ってハーミットを嘲笑っていたが、それはただ精霊が自分たちの事を露ほども思っていなかっただけなのだ。
少し本気を出せば自分達の命を容易く奪うことが出来る……精霊とはそんな存在なのだ。
今になってそれを再認識しても……もう遅かった。目の前に精霊は自分の息の根を止めるために一歩ずつ近づいてくる。そしてその手を上げて……
「四糸乃!!駄目だ!!」
「っ!?」
突然聞こえてきた大声と共に誰かが自分を守ってくれた……
それが分かった瞬間気が抜けてしまい意識を失ってしまった。
「士道……さん……?」
『士道君生きてたなら返事くらいしてよ。よしのん、てっきり死んだものだと勘違いしちゃったよぉ』
「十香に助けられて何とかな……」
間一髪だった。
もし俺達が到着するのがあと一歩遅れていたら、今ネプテューヌの後ろで気を失っているASTの隊員は無事では済まなかっただろう。
出来ればこのまま平穏に終わってくれるとありがたいのだが……巨大なウサギの氷像に乗っている四糸乃はASTの事を未だに睨み続けている。
一筋縄ではいなかなそうだ。
『それで、士道君。目の前に居る紫髪の娘は君の仲間なんだよねぇ』
「ええ、そうよ。ネプテューヌって言うわ」
『それじゃあ、お願いがあるんだけど、そこを退いてくれないかな……よしのん達、後ろの人にちょっとした用事があるんだよねぇ』
「悪いけど退くわけにはいかないわ」
そう言い切っネプテューヌと四糸乃達の間には微妙な空気が流れる。
四糸乃達は、俺の仲間だと言ったネプテューヌには襲い掛かるつもりはないようで、今の所はじっとしているみたいだが……視線の先にあるのはASTの隊員の姿だ。
いつ痺れを切らして襲い掛かってくるか分からない。
このままでは不味いと思った俺が二人の間に割り込む。
「よしのん!!もうやめろって、俺が生きてたんだからもういいだろ!お前たちが復讐する理由なんてないはずだ!!」
『士道君は生きていたのは、心の底から良かったと思ってるよ。でもそれとこれとは話がべつだよ。この人達にはけじめをつけてもらわないとね』
「……四糸乃も同じなのか?」
「……士道、さんを……傷つ、けようと……したのは、許せません……殺しは、しません……でも……痛い目、にはあって……もらいます」
やっぱり無理か……いや、諦めたらだめだ。
四糸乃の説得に失敗したらASTの人達が傷つくのを黙って見るか、四糸乃を止めるために戦いを挑まなければいけなくなってしまう。
贅沢な考えかもしれないが、俺はその両方ともやりたくない。
ASTの人達は俺とはやり方も違うし納得できない部分もある。でも人々の生活を脅かす空間震をどうにかしようと思い必死に戦っている人達なのだ。出来れば傷ついて欲しくない。
四糸乃と戦うことに関しては言わずもがなだ。
「四糸乃は人を傷つけるのが嫌だったんだろ!!」
「……それでも……許せません」
あの四糸乃がここまで固い決意を見せるなんてな。
成長と思えば素直に嬉しいのだが……出来れば別の機会でそれを見せて欲しかった。
しかし本当にどうしよう。このままではASTの人達は追い打ちをかけられだろう。
出来れば四糸乃とは戦いたくはない……でもしたくないって思ってるだけでは何も出来はしない。
やるしかないか……
そう決意した俺は一歩前に踏み出す。
「士道?」
「ネプテューヌ……悪いけど下がってくれ。俺がやる」
「分かったわ……でも怪我をしないようにね」
「する気もさせる気もねぇよ」
俺の言うことに素直に従ってくれたネプテューヌは宙へと飛び上がり、その場から退避する。
そして俺はネプテューヌと場所を入れ替わるように四糸乃の前に立ちふさがる。
四糸乃はそんな俺の行動に怪訝そうな視線を向ける。
でもそれは当たり前の話だろう。今の俺はASTのように顕現装置を持っているわけでもなければ精霊のような霊装を纏ってる訳でもない……はっきり言えば自殺行為だ。
『士道君?もしかしてよしのん達を力尽くで止めるつもりなのぉ?悪い事言わないから、それはやめておいた方が良いと思うよ。士道君じゃ、よしのん達を止める事なんてできないんだしさ』
「ここが冷気に囲まれていて助かったよ……ここならバレる心配はないからさ」
「士道さん……どうしたん、ですか?」
精霊の正面に立つのは自殺行為だ……それが普通の人間だったならな。
あいにく俺は普通の人間とは違うらしい。キスをすることで霊力を封印する力があるし、隠されていた力もあった。
そして……異世界に行ってもう一つの力を手にする事ができた。
でもこの力はあまり使いたくないんだよな……
「それじゃあ四糸乃……ちょっとだけ待ってくれよ」
俺は四糸乃達にそう言うと自らの力を開放……そして俺は光に包まれて……
「待たせてごめんね……これでもう大丈夫だよ」
『「…………………………」』
二人とも私の姿を見て固まってるね。
でも、しょうがない。多少の面影があるとはいえ今の私は完全な女性になっている。
短く切っていた髪は腰に掛かるくらいに伸びているし、色も変わっている。胸のサイズだって大きくなっているし……これに関しては昔ブランに切れられちゃったんだよね。
まあ、今はそんな話はどうでもいいけど、二人は何時まで固まっているのかな……
私から話しかけた方がいいかな?
「えっと……士道さん、は……女性だった……ですか?」
『違うよ。きっと士道君は女装癖のある男だったんだよ。あっ!!それとももしかして男装癖ある女の子だったのかな?』
「どっちも違うんだけど……詳しい説明は後でするから、出来るだけそう言った事を言わないで貰えるとありがたいかな。そう言う事を言われると変身前の私の心が傷つくんだよね」
「わ、わかり……ました」
四糸乃が素直に頷いてくれて良かったよ。
最初の方は変身する度に心に傷をつけていたみたいだからね……
なんか変身前の私は、私が女らしい口調と仕草をするのが気に入らないみたいなんだよね……私は別に良いと思うんだけどな。
って今はそんな事よりも四糸乃達だね。
「四糸乃……今からちょっとしたゲームは始めない?」
「ゲーム……ですか?」
「そうだよ。ルールは簡単、二人で戦って最初に攻撃を当てた方が勝ち……そして勝った者は負けた者になんてでも言う事を聞かせられる」
それを言った瞬間、四糸乃は驚いたような顔をする。
私が戦うなんて言い出すと思わなかったんだろうね。でもよしのんはそれとは打って変わって、私の方を見て納得したような顔(顔は変わらないので動作で判断)している。
『なるほどねー。よしのんは別に良いけど士道……「今は士織って言ってほしいな」うっと、士織ちゃんは本当にその条件で良いのかな。それだと負けちゃったらよしのん達が好きな命令を出せるんだよ』
「それで構わないよ」
よしのんが嬉しそうな顔(動作で判断)をしてるね。一体私に何をするつもりなんだろう。
まさか今度こそ私を全裸にする気じゃないよね……今の姿だと本当に洒落にならないんだけどな。
でも四糸乃は未だに戸惑っている見たいだ……やっぱり優しい性格の四糸乃じゃ、私を攻撃したASTは攻撃できても、私自身は不可能かな?
『四糸乃、よく考えてみてよぉ。よしのん達が勝ったら、士織ちゃんにどんな事でも一回だけ言う事を聞かせられるんだよ。攻撃って言ったて怪我をさせない程度のものにすれば良いだけなんだからさ……ねぇ、士織ちゃん』
「それで構わないけど……もしかして四糸乃とよしのんが一人ずつ私に命令するつもり?」
『勿論~♪』
あははははっ……
負けられない理由が一つ増えちゃったかな。
まあ、よしのんはともかく四糸乃は手痛い命令をしないと思うから大丈夫だろうけど……と言うか未だに気を失っているASTの為にも負ける事は出来ない。
私が負けたら止める事なんて出来ないからね。
でも、その前に四糸乃がこのゲームに頷くかと言う問題があるんだけど……未だに悩んでいる四糸乃によしのんが顔を近づけて何かを語りかけていてる。
なんでかな……よしのんが天使を誘惑する悪魔に見えてきたよ。私の気のせいだと思いたいけど。
よしのんが四糸乃を説得し始めて一分くらいかな。ようやく四糸乃が首を縦に振ってくれたんだけど……なんで顔が真っ赤になってるのかな?
よしのんは一体どんな事を言ったんだろう?
『それじゃあ、士織ちゃん……よしのん達から行かせてもらうよ!!』
そういって作り出すのは巨大な氷の塊、それは私が怪我をしないように配慮しているのか先が丸く潰されている。
その数が一つや二つなら問題はないんだけど……私の目の前にはその塊が何十個も存在している。
この数を飛んで避けるのは難しそうだね。
他の手段としては私の武器である拳銃を使って迎撃するって方法もあるんだけど……これを使う気はない。
これ結構威力が高いから、手加減しても当たったら四糸乃に傷を負わせる可能性があるからね。
そんなこんなを考えているうちに氷は出来上がってしまった。
『それじゃあ、怪我をしないように気をつけてね!!』
そういってこちらに向かってくる無数の氷の塊。
全部が私の方に向かってくるんじゃなくて上手く拡散させている……これだとやっぱり飛んだりして回避するのは難しそうだね。
まあ、はなから回避する気はないんだけどね。
でも同時に負ける気もない……だから私呼ぶ。私に隠されていたもう一つの力の名を……
「……〈灼爛殲鬼〉」
私がその名を呼んだ瞬間、目の前に炎の壁が出来上がりこちらに飛んできた氷の塊は、私の届く前に溶けて地面へと落ちる。
そしてそれを見た二人は驚愕している……でもどちらかと言うと私が女神化した時の方が驚いてたかな?
この事実で変身前の私が傷つかないと良いんだけどな……
『あれれ?もしかして士織ちゃんてよしのん達と同じ存在?』
「悪いけど私にも良く分からないんだよね……でも、一応私としては人間のつもりだよ」
まあ、女神メモリーを使ったから正確には女神なんだけどね。
それよりもこの力、なんで私が使えるか未だに分かってないんだよね。
分かっている事と言えば、この力は霊力によるもので、十香の使う〈鏖殺公〉と同じで本来は精霊が持っているはずの天使ってことだけ。
イストワールにも調べてもらったけど……流石に異世界の事だから分からなかったみたい。
でも、便利な力であるのには変わりないから、神次元での冒険ではとてもお世話になった。
〈灼爛殲鬼〉の持つ力は二つ……自他を癒す青い炎と、全てを燃やし尽くす赤い炎。
この二つでも特にお世話になったのは癒しの炎のほうかな……これのおかげで無茶な訓練を……
って思い耽っている場合じゃなかったね。
「それじゃあ今度はこっちから行くよ」
私はそう言って小さな炎の塊を無数に作りそれを四糸乃達に目掛けて飛ばす。
それを見た四糸乃達は直ぐに冷気によって防御、その全てがかき消されてしまう……まあ、こうなるのは分かってたけどね。
流石にあの程度じゃ当たりはしないだろう。だったらなんでそんな攻撃をしてのかと言うと……
一言で言えば目隠しのためだ。現に四糸乃達は私の放った無数の火の塊と自らの放った冷気によって私の居場所を見失っている。
『士織ちゃん?どこに行ったのかな?まさか逃げ切れるなんて思ってないよね?』
「大丈夫だよ!思ってないから!!」
「っ!?」
四糸乃達の真横まで移動した私は〈灼爛殲鬼〉の炎を背中から噴出して一気に四糸乃の元に近づく。
四糸乃達は直ぐに氷の礫で迎撃しようとするが……その全ては私が身に纏う炎によってかき消される。そこでよしのんはあちゃっと言ったような動作をした……
よいのんには気づかれてしまったみたいだね。
実を言うとこの勝負、私がかなり有利に出来ている……だって四糸乃の氷による攻撃は炎で溶かせば良いだけだもん。相性が悪すぎたって話だね。
まあ、四糸乃が私を殺すつもりで本気で攻撃をすれば話は別なんだろうけど……
そんな事を考えているうちに四糸乃はすでに目と鼻の先、私は四糸乃の頭に右手を近づけて……
「えいっ!!」
「い、痛い……です」
デコピンをした。
でもちょっと力を入れ過ぎたかな?四糸乃が涙目になってる。
霊装による防御を抜くためには多少の力が必要だったんだけど……やっぱりこういった微妙な力加減は難しいな。
ともかくこれで私の勝ちだ……私は四糸乃に勝者と特権として命令を下す。
「それじゃあ、四糸乃……ASTに対する攻撃はやめてね」
「は、はい……わかり、ました」
『やっぱり士織ちゃんはその命令をしちゃうんだ。もうちょっと面白い命令とか考えつかなかったのかな?それじゃあ、つまらないよ』
「それじゃあ、よしのんには別の命令を下そうか?四糸乃にはしたけど、よしのんにはしてないから問題ないよね」
『ありゃ!?よしのんとしたことが藪蛇だったよ!』
頭を抱える動作をするよしのんを見て私はクスクスっと笑う。
なにはともあれこれで解決……はしてないか。
まだ四糸乃の霊力の封印が終わってないし、なんで四糸乃がこんな事をしようとしたのか聞いていない。
よしのんはただの報復だと思うけど……優しい四糸乃があんな行動に出るなんて普通は考えれない。
私は四糸乃を真っ直ぐと見据える。彼女は私を不安そうな表情で見つめている。
この顔……前も見たことがあったな……と少し前の事を思い出した私はあの時と同じように四糸乃の頭を優しく撫でながら語りかける。
「四糸乃……なんで私が生きてるのが分かっても報復しようとしたの?教えてくれないかな?」
「……ダメ……だと、思ったんです」
「ダメ……?」
一体何が駄目なのだろう?
私には四糸乃の言う駄目が何かが分からなかったので……彼女に話の続きを促した。
「士織さんは……私を、強い……って言って、くれました……でも、そんな事……なかったんです……だから、よしのんも……失って……士織さん、にも……危険な目に……今の、私じゃ……ダメだと……思って」
「それでASTを襲って……」
「本当……いやで、した……でも、我慢……しないと……また、二人が……消えて、しまいそうで……また……一人になるって思って……それ以上に、二人が……酷い目に会うのが、嫌で……だから変わろうと、思って」
「そうだったんだ……ごめんね、寂しい思いをさせてしまって」
四糸乃はきっと自分なりに変わろうと思ってあんな行動に出たのだろう。
間違っていたのかもしれない……だってASTを倒したら四糸乃の危険度が跳ね上がるだけ。今までより熾烈な攻撃をASTがしてくる可能性がある。
でもそこを知らない四糸乃は……ASTを倒せば……こいつらが居なくなれば私もよしのんも傷つく事はない……そう思ったんでしょうね。
「士織、さん……私……間違って、ましたか?」
「四糸乃の自分を変えようとした意志は間違ってないよ。ただ手段をちょっと間違えちゃっただけ……だからさ、今度からは二人で……いやよしのんも入れて三人で考えていこう」
一人で間違ってしまうのなら二人で考えれば良い……それでも間違えてしまうのなら三人で考えれば良い……
それは人間に取っては普通の事でも精霊である四糸乃となると話は別になってくる。
でも私はそれを可能とする手段がある。
『話に水を差すようで悪いんだけどさ……どうやって四糸乃と一緒に考えていくの?よしのん達は時間が立つと消えちゃうんだよ』
「それを解決する方法はあるんだけど……四糸乃、キスって知ってる?」
「えっと……すいません。分かりません」
『ちょっと、士織ちゃん。四糸乃に変な事を教える気じゃないよねぇ』
「勿論違うよ。ただ私には唇を互いに合わせると……っ!?」
私は思わず口を止めてしまった……理由は簡単、四糸乃が唇を突き出して私の唇を塞いでしまったからだ。
そしてその瞬間、私の中に何かが流れ込んでくるのを感じると共に、くっついたままの唇をそっと放す。
「これで……良いん、ですか?」
「う、うん。これでもう大丈夫だよ」
私と四糸乃が見つめ合っていると、乗っていた氷像が壊れ、ドームも薄くなり始めた。
このままだと琴里にバレる……そう思った私は慌てて変身を解除をするとともに、四糸乃が落ちた時に怪我をしないようにしっかりと抱きしめる。
女神化の事が琴里に知られたら、私は大丈夫でも変身前の私の心がへし折れる可能性があるからね。
後は事は変身前の私に任せることにしよう。
私は力を抜いて……いつも通りの男の姿に戻った。
「っと、怪我はしていないよな?四糸乃」
「は、はい……ありがとうございます」
俺は両腕抱えた四糸乃をそっと地面へとおろす。
その最中に俺はある事に気付いてしまった……そう四糸乃の服が光の粒となって消えて言っているのだ。そういえば十香の時もそうだった。
このままでは四糸乃を真正面から見れなくなると思い、上着を抜いてそれを四糸乃に差し出す。
「こ、これ!これを来てくれ!!」
「?わ、わかり……っ!?」
俺に言われて自分の状態に気づいたようで、四糸乃は俺が出した服を直ぐに手に取った。
そして四糸乃から大丈夫と言われたので背けていた顔を元の位置に戻すと、そこには顔を真っ赤にして今にも泣きだしそうな四糸乃の姿があった。
なぜだろう……何も悪いことはしていないはずなのに罪悪感で押しつぶされそうだ。
『四糸乃をあんな早業で全裸にするなんて……っ!!そんな技術一体どこで覚えたのぉ』
「脱がせてないから!!だた、霊力を封印したから霊装が消えただけで……」
「……封印?」
四糸乃が首を傾げてこちらを見つめている。
後で四糸乃には今の状態がどうなっているかちゃんと説明しないといけないな。
でもこれで一件落着だろう。途中から色々と不安を感じる出来事はあったけど……こう、無事に四糸乃の霊力の封印に成功したんだし良かったことにしよう。
「士道、無事に封印に成功したみたいね」
「ネプテューヌか……十香の方はどうなってるか分かるか?」
『それなら心配しなくていいわよ。ついさっきこちらで回収したわ。貴方たちもこっちで回収するからその場で待機して頂戴』
「了解」
通信が回復したのか、インカムから再び聞こえてきた琴里の声に従って、その場で待っていると一瞬の浮遊感を感じた後、フラクシナスの艦橋に立っていた。
いきなり風景が変わったせいで四糸乃は非常に混乱しているが……それをよしのんが宥めている。
この二人には此処の事も説明しないといけないんだよな……艦長席を見れば琴里が清々しい顔で親指を立てていた。俺に説明をしろって事なのだろう。
これはばっかりは専門のスタッフにやらせた方が上手くいくのではと思いつつ、俺は二人で話し合っている四糸乃達の元に近づくことにした。