ゲーム・ア・ライブ 作:ダンイ
「これで……溜まってた分は終わりか?」
「はい、これで溜まっていた書類は全て終わりました。士道さんには申し訳ありません。本来はネプテューヌさんのお仕事なのに、お手を煩わせる事とになってしまって」
「俺の好きでやってるから気にしなくて良いよ」
俺はそう言って机の上に置いていたお茶に口に入れる。
今日は土曜日。
学校は休みの日なので、超次元の方に遊び――いや、ネプテューヌがため込んでいた仕事の処理をするために来ていた。
朝早くらからこちらに来て仕事をしていたのだが、ネプテューヌのため込んでいた仕事が多すぎたためか、正午近くまで時間がかかってしまった。
ネプテューヌの奴、どれだけ仕事をため込めば気がすむんだよ。
心の中でネプテューヌに愚痴りながら、俺は処理の終わった書類を片付けるイストワールの姿を見つめる。神次元のイストワールと同じで超次元のイストワールもプラネテューヌの女神の補佐をやっているのだが……超次元の方が身体が大きく、また性能も高いらしい。
神次元の方が気にしてるから口に出して言わないけどさ。
「本当に助かりました……高校を卒業したらこちらに就職しませんか?出来る限り好待遇でお迎えしますよ」
「それも考えたんだけど……神次元の方がな……」
まだ琴里にも言ってはいないのだが、俺は高校卒業、もしくは大学を卒業した辺りでこちらの方に就職することを考えている。
理由は簡単で、女神メモリーを使い女神となった俺は歳を取る事が出来ない。そんな状態であちらで就職しても最初の方はいいが歳を経る度に怪しまれていくだろう。
だったら最初からこっちで就職してしまった方が良いと言うわけだ。
もちろんそれは超次元の教会での事も頭には入れたんだが……神次元の方が気がかりで今のところはそちらに就職する……っていうか女神ブルーハートとして過ごす事になるんだろうな……
そう考える大きな理由としては、ネプテューヌもプルルートも等しく仕事へのサボり癖があるのだが……超次元の方にはそれをフォロー出来る女神候補生のネプギアがいる。
一方の神次元の方にはもう一人女神がいるののだが……彼女にはネプテューヌやプルルート以上に仕事に関することには期待できない。その結果、神次元ではイストワールたった一人がプルルートのフォローをする結果となっている。
それじゃあ気の毒だから俺は神次元の方に行くことを考えている。
本当はネプテューヌやプルルートが仕事してくれるのがいいんだけどな……
そんなことを思っていると俺の返事に首を傾げていたイストワールが、はっと思いいたったような顔になった。
「それでは仕方ありませんね……ネプテューヌさんのサボり癖がどうにかなると良いのですが……」
「それは無理だと思うな……ほら、三つ子の魂百までって言うじゃないか」
「はぁ……」
重々しいため息を吐くイストワール。
日ごろから苦労してるんだろうな……神次元でも似たようなものだったし。
イストワールは全次元共通で自国の女神について頭を抱えなければいけないのだろうか?
少し失礼だがそんなことを思ってしまった。
それはともかく、俺が一息つこうとお茶に手を……
「二人とも私を無視して話を進めないでよ!っていうか終わったならこれを解いてくれても良いじゃん!!」
声のする方向を向けば、そこには両足と腹を縄で椅子に縛り付けられているネプテューヌの姿があった。
なぜ彼女がこんな姿になっているのかと言うと……
俺が教会を訪れた時仕事から逃げ出そうとしているネプテューヌと遭遇、毎度の事なので手早く捕獲してイストワールに手渡し、また逃げ出さないように縄で椅子に縛り付けていたというわけだ。
「いーすん、これ早く解いてよ。足とかの縄が結構きつくて、足がしびれちゃいそうになってるよ」
「今解きますから少しじっとしていてくださいね」
そう言ってネプテューヌの縄を解きに始めるイストワールだが……思いのほか解くのに苦戦しているようだ。
それを見た俺を慌てて解く作業に参加したのだが……縄で縛った本人が言うのもあれだが、相当頑丈に縄が絞められている。縛る時に強く絞め過ぎたのかもしれない。
それから暫くの間は悪戦苦闘し……数分もの時間を要してようやくネプテューヌを縛る縄を解く事に成功した。
自由の身となったネプテューヌは椅子から飛び上がって、身体をほぐすように動き回っている。
「ふー、ようやく自由の身になれたよ。それにしたって、わたしを縛り付けることはないじゃん。なんでこんなことをするの?」
「ネプテューヌさんが何時まで経ってもお仕事をしてくれないからですよ。日頃からちゃんとお仕事をやってくれるのであれば、このようなことはしません」
「だって、仕事とかめんどくさいしー。ゲームとかしてた方が楽しいしー」
「女神がそれでいいのかよ……」
「いいの、いいの。そこら辺を含めて女神って認めて貰っているのが、わたしって女神だからね」
そこを言われてしまうと痛いんだよな……
実際に、どれだけネプテューヌが仕事をサボっていても最低限のシェアの確保は出来てるわけだし。それにイストワールの話だと、転換期となっている今、一番その被害が少ないのがネプテューヌが統べるプラネテューヌらしいからな。
たぶん普段がどん底だから、悪い噂がたってもこれ以上下がらずに済んでいるだけなんだろうけど。
「だからといって、サボっていも良い理由にはなりません。そんな事を言うのでしたら今から説教を……」
「冗談!冗談だから!!説教だけは勘弁してよ!今は仕事をして疲れてるんだよ!そんなところにいーすんの説教まで喰らったら、わたし倒れちゃうってば!!」
そう言いながら必死にイストワールに許しを請うネプテューヌ。
それはもう必死で……そうする気持ちは分からなくない。イストワールに説教された後のネプテューヌは顔をげっそりとさせて痺れた足を抱えているからな。
でも、そもそもネプテューヌが真面目に仕事をやっていればイストワールも怒ることはないので、自業自得なんだけどな。
「イストワール様、大丈夫でしょうか?」
「は、はい。入ってきても大丈夫ですよ」
扉をノックした後に聞こえてくる声、イストワールが許可を出すと、協会の人が部屋の中に入ってきた。
それを見てほっと一息を吐くネプテューヌ……イストワールの説教から逃れられたと思って安堵しているみたいだな。
そしてそのままこっそりと抜け出そうとしていたので……俺が捕まえた。
「ねぷっ!?士道、放してよ!後でプリン買ってあげるからさ!!」
「それで買収されるのはお前くらいだからな……それと放しても良いけど、逃げた後が怖いぞ」
「そ、それは確かに……うぅぅ、分かったよ。大人しく説教を受ければいいんでしょ……」
ネプテューヌはどこか諦めたような顔してその場に正座をする。
覚悟を決めたみたいだな……そんなネプテューヌの元に教会の人から話を聞き終えたイストワールがやってくる。
そしてイストワールがその口を開き……
「ネプテューヌさん、その覚悟は結構ですが説教は後回しです。急用が出来ました」
「た、助かった……でも、何があったのいーすん」
「それなんですが……ベールさんがこちらを訪ねてきたようで……」
ベール……たぶん俺の良く知っている方じゃなくて超次元のベールだよな。
一体何の用なんだ?
「なあ……俺も一緒に行っていいのか?」
「大丈夫だって、一応士道もプラネテューヌの女神でしょ。だったら一緒に居ても何も問題ないじゃん」
「異世界のっと前置詞に付きますけどね。ただ、私も一緒に居るのは問題ないと思いますよ。ネプテューヌさんだけでは話がこじれるので……」
「そうそう、わたし一人だけだと……あれ?なんか今すごく失礼な事言われてない……」
「ネプギアがいるだろ?」
「ネプギアさんはネプテューヌさんには甘くて……」
「そういえばそうだったな……なんか、ごめん」
「い、いえ……士道さんが悪い訳ではないのでお気になさらず。全ての元凶はネプテューヌさんですので……」
「なんかわたしが悪者にされてる気がするよ……うぅぅ、どうして二人とも私に厳しいのさ」
だって、俺やイストワールが厳しくしておかないと、ネプテューヌがダメ人間になりそうで怖いんだよ。他の人達は基本的にネプテューヌの事を甘やかすからな……
仕事を少しでもやってくれるのならイストワールも怒ったりしないのに……
ってそんな事を思ってる間に客間の近くまで来たみたいだな。
「そういえば、ベールってこの部屋で一人で待ってるのか?」
「いえ、ネプギアさんが気を利かせてネプテューヌさんが来るまでの間、代わりに対応をしてくれているみたいです」
「流石ネプギア!!私も姉として鼻が高いよ」
此処に来るまで少し時間が掛かったからな……一人で待たせてないか心配になったよ。
でもネプギアがベールの……あれ?この状況ってすごくやばくないか?
いや、待て待て、確かに神次元でのベールはネプギアを妹にしようと執拗に迫っていたけど……それが超次元のベールも同じだとは限らないはずだ。
それならネプテューヌが急いで止めようとするは…………なぜが、すごく不安になって来た。
一応確認をしておこう。
「ネプテューヌ……こっちのベールは大丈夫なんだよな?」
「へぇ?一体なんの話?」
「いや……神次元のベールみたいに、ネプギアを妹にしようとしてないのかと思ってな」
「…………………ま、不味いよ、士道!!このな呑気に歩いてる場合じゃなかったよ!!早くしないとネプギアがっ!!」
どうやら大丈夫ではなかったようだ。
俺の話を聞いて固まったネプテューヌはほどなくして再起動。
非常に慌てた様子で客間の前に行くと、扉を蹴飛ばす勢いで開けるとその中へと入っていく。
急いでその後を追ってやってきた俺達も部屋の中に入ると……そこにはベールの胸に寄り掛かっているネプギアの姿が……
取りあえず……すごく幸せそうな顔をしてるな……
「あーっ!!ネプギアは私の妹なんだからダメなんだってばっ!!」
「あらあら、ネプテューヌ。もういらしてしまいましたのね。もう少し遅く来られても良かったのですのに……」
「いいから、ネプギアを早く放せ!!」
「わたくしは別にお放ししても良いのですが……ネプギアちゃんがですね」
そう言いながらベールはネプギアを抱きかかえていた両手を放して自分が無理やりやっているのではないと示す。実際にネプギアはベールの胸に寄り掛かったまま離れようとはしない。
まあ、あんな幸せそうな顔をしてたんだから当たり前の話だよな……
でもネプテューヌは違ったようでネプギアを信じられないような目で見つめる。
なぜ自分を裏切ったのか……そう言いたそうな顔だ。
「ネプ……ギア?」
「ご、ごめんね、お姉ちゃん……でも抗えないの、身体が言う事を聞かなくて……」
「うがぁぁっ!!もう、こうなったら実力行使だよ!ネプギア、お姉ちゃんが助けるから待ってってね!!」
そういってベールに目掛けて突撃を始めるネプテューヌ。
でも女神化していない状態じゃ……
すると案の定、ベールに足払いをくらって、すッ転んでしまうネプテューヌ。そして頭からベールの胸にダイブ……
そこまで見た俺はネプテューヌ達の方から顔を逸らした。健全な一人の男性としてこれ以上は見ていられない……
「もしかして、ネプテューヌもわたくしの胸に寄り掛かりたかったのですか?仕方がありませんわね」
「ねぷっ!?誰もそんな事を言ってないよ!!放して……ふぁ……」
「ふふふっ、その割には幸せそうな声をあげてますわよ。そうですわ!ネプギアちゃんを妹として御貸しいただけるのでしたら、好きなだけ寄り掛かってもよろしくてよ」
「そんな……わたしが承諾すると、思ってるの……ベールの胸なんかに、負けないもん……ふぁ……」
颯爽とネプテューヌが負けフラグを立てたよ。
しかも言ってるそばから幸せそうな声をあげてるし……数分後には負けを認めたネプテューヌの姿が拝めそうだ。現に「一週間でよろしいのですのよ」っとベールに囁かれて悩み始めている。
しかし俺の予想は外れる事となってしまった。
「皆さん?」とこみかめを引きつらせたイストワールが静かで――それでいてドスの効いた声を放ったからだ。
その効果は絶大でベールの胸に寄り掛かっていた二人は一瞬で離れ、ベールも姿勢を正す……そして全く関係ない俺も姿勢を正すことなった。
いや、だって滅茶苦茶怖かったんだから仕方ないだろ。
「まったく……それでベールさんはどんな要件でいらしたのですか?まさか、ネプギアさんを妹にするため……という理由ではありませんよね」
「あわよくば……と思っただけですわ。本当の理由は別にありますわよ。早速説明をしたいのですが……そちらの方は……………………ああっ!!あの時のネプテューヌと一緒に行動していた……女性?ですわよね?」
「ごふっ!!」
や、槍が……こ、言葉の槍が……!!
いや、これはきっと俺の女神化を一度見ているから俺を女性と勘違いしただけなんだ。俺が女顔をしてるって事ではない。絶対にそうに決まっている。
だから俺を女性って……でも完全な男顔だったら間違えないよな……
やっぱり俺って女顔してるのかな……学校で流行ってる腐カップルでは俺が受けになってるし……
もういやだ……
「ベールの渾身の一撃、効果は抜群だ。士道は力尽きてしまった。」
「お姉ちゃん、変なナレーション入れてる場合じゃないよ!士道さん、大丈夫ですか!?」
「大丈夫……なのかな?」
「士道さん、血!!目から血を流してますよ!!」
はっはっは……
これからは殿町の事を何も言えないな……
でもそんな事なんかどうでもいいや……すべてがどうでも良くなってきた。
「えっと……ネプテューヌ、わたくし何か失礼な事を言ってしまったのでしょうか?」
「失礼ってもんじゃないよ。士道は、ああ見えて……っと言うか見た通り男だよ」
「ええっ!!……ですが先日女神化をしていましたわよね。わたくしてっきり女性かと……」
「士道は男だけど女神化出来る非常に稀な存在なんだよ。いいから早く士道に謝って来た方が良いと思うよ」
「そですわね。あ、あの士道さん?もうしわけありませんわ。女顔でしたのでつい……」
「女顔……」
「ああっ!!駄目ですよ、ベールさん!!女顔って言ったりしたら……」
「ふふふっ……ふはははっ……もう、死のう……」
「ど、何処からナイフを出したんですか!って言うかそれを手放してください!!お姉ちゃん!!ベールさんも手伝ってください!!このままだと士道さん自殺しちゃいますよ!!」
「ねぷっ!?士道が血迷った!!……って何時もの事なんだけどね。ほらベール突っ立てないで士道を止めに行くよ」
「え……ええ、分かりましたわ」
「はぁ……本題はいつになったら説明できるのやら……取りあえず微力ながら私も力添えさせてもらいますね」