ゲーム・ア・ライブ 作:ダンイ
「はぁ……」
フラクシナスの中にある指令室……そこで琴里は溜息をついていた。
その原因は今日知ることになった自分の兄である士道が異世界に行っていた事と、そこに住む女神と呼ばれる存在の事だ。
彼女はラタトスクの司令官として早速、彼女たちの情報を纏めて上に報告しようとしたのだが、情報が少なすぎて報告できるような書類を作る事が出来ないのだ。今ある情報としては士道達から聞いた話とネプテューヌが変身した映像くらいだ。
こうなるのなら、もう少し話を聞いておくべきだったと思っても後の祭りだ……
「……琴里、先ほどから全く休んでいないが大丈夫なのかね?」
「大丈夫よ……これからようやく動き出せるってのに、司令官の私が倒れるわけにはいかないでしょ」
令音にはそう返しつつ、時計の針を見ればすでに十二時を回っていた。
士道には一応、今日は帰れないかもしれないと伝えているので大丈夫だが、これ以上は流石に明日の行動に支障を出しかねない……仮眠でも取るべきだろう。
そんな事を琴里が考え出していると、令音が琴里の書いた書類を見ていた。
「……む、これには異世界への行き方が書いてないが……大丈夫なのかね?」
「素直に、士道の机ですって書いたら、何をしでかすか分からない奴らが何人もいるんだから、しょうがないでしょ」
士道はラタトスクの事を疑いの眼で見ていたが、琴里はそれで正しいと思っている。
琴里や、その部下は純粋に精霊を助けたいと思っている者が多いが、上の奴らははっきりと言って一切信用することが出来ない奴らばかりだ。
唯一信頼することが出来るのはウッドマンとその一派くらいなものだろう。他は皆利害関係で協力しているに過ぎない。
そこに精霊とは全く関係がない、しかも簡単に盗み出せそうなものが異世界に通じてると知ったら、彼らの内の何人かは、精霊の事は協力すると言ったが異世界の事は関係ないと机を盗もうとするなどして異世界からの利益を独占しようと動きだすだろう。
だから、ただでさえ少ない情報なのに全部書くことが出来ないのだ。
「そういえば、ネプテューヌが変身したとき霊力は一切確認できなかったのよね?」
「……ああ、フラクシナスにある観測機器を全て使ってみたのだが、霊力どころかどんな力を使っているのか調べることができなかったよ」
「さすが異世界の力と言えばいいのかしらね。まあ、書類を書かなきゃいけない私の身としては、何かしらの力が確認できた方が良かったのだけれどね……もう、遅くなってきたし、私は一旦休みを取るわ」
「……そうか、それじゃあ私は退室するとするが、無理をしないように気をつけるんだよ」
そう言って令音が部屋を出て行った後、琴里は再び溜息を吐いた。
しかし、今回の溜息は書類の事ではなく士道が異世界にいった事を自分に隠していた事についてだ。
士道は自分に異世界に行った事を隠していたが……本心を言ってしまえば隠さずに真実を言ってほしかった。別に士道は自分に意地悪をして隠そうとしていたのではない事は分かっている。
あちらの世界には危険なモンスターが存在するらしいし、他にも危険が沢山あるらしい、それを踏まえて自分に内緒にしていたのだろう。
でも言ってほしかった。
しかし、琴里は自分には士道を責める資格はないことを理解している。
自分だって兄に隠してラタトスクの司令官をやっていたし、まだ士道には話していない事が沢山ある。所詮は同じ穴の狢なのだ。
それでも、理屈では士道の言い分が理解することが出来ても、自分に責める資格がないとしても……正直に話してほしかった。
そしてきっと士道はまだ自分に隠している事があるのだろう。
長い間兄妹をやってきているのだ、それぐらいは簡単にわかる。でも士道は自分が問い詰めたところで決して話すことはないだろう。
彼はまだラタトスクと言う組織を信頼していない。その司令官である自分に重要であることを話そうとはしないだろう。
そう考えると、あの異世界に繋がっている机もどうとでもなる可能性はある。
「こんな時に限って司令官って地位が嫌になるわね」
自分がラタトスクの司令官でなければ全てを語ってくれたのだろうか?
そんな疑問を持ちながら彼女は備え付けられたベッドで仮眠を取ることにした。
「なあ、琴里?一つだけ聞いていいか?」
「なによ?」
本当は聞きたいことが沢山あった。
なぜ、朝学校に登校すると俺のクラスの副担任が令音さんに変わっている事や、前任者はどこにいったのかと言う事や、令音さんが何度訂正しても俺の名前をシンとしか言ってくれない事や、中学校があるはずの琴里がなぜ高校の物理準備室にいるのか……っていうか物理準備室が前の面影を感じさせないほど変化していることも尋ねたかったのだが……
今はそれらの事はどうでもよかった。俺が琴里に尋ねたい事はたった一つだった。
「これってギャルゲーだよな!?」
「そうよ、それがどうしたっていうのよ」
どうした……じゃないだろ!
休み時間の途中にいきなり精霊と交渉するための訓練をするからと物理準備室に連れていかれたと思ったら、いきなりギャルゲーをやらされそうになってるんだぞ。誰でも困惑するわ!!
なんでギャルゲーなんだよ!俺に女性との交際経験がないからこれで学べって言いたいのか!?余計なお世話だ!!
「……シン、君は聞いたところでは交際経験が全くないそうじゃないか?精霊は皆女性だからな……これで訓練を……」
「いや、交渉と交際は別物でしょ!?こんな事をして何の訓練になるんですか!?」
「うるさいわね。順を追って説明してあげるから少し黙りなさい」
琴里の言葉を聞いて俺は取りあえず黙って琴里の説明を聞くことにした。
全く理解できないと言うか……なぜ精霊への交渉とギャルゲーが結びつくか想像する事すらも出来ないが、一応は話ぐらいは聞いてみようと思っての行動だった。
琴里は俺が黙ったのに満足げにうなずくと、説明を始めた。
「まず、どうやって精霊と交渉をするかって話なんだけど……一言で言うと、精霊に恋をさせるのよ」
「はぁ……?」
琴里の説明に思わず俺は奇妙な声をあげてしまった。
いや……恋って……冗談だよな。そんな期待を込めつつ琴里を見つめるが、彼女はいたって真剣な顔をしている。
どうしよう……もうこの組織の事を信じられなくなりそうだ……
俺がそんな事を考えている間にも琴里の説明は続いていく。
「なに間抜けな顔をしてるのよ。変顔コンテストにでも出る気なの?悪い事は言わないからやめておきなさい、あなたが出ると他の候補者の自信を喪失させかねないわ。……っま、そんな事はともかく、説明を続けさせてもらうわね。精霊を恋させる理由だけど、よく言うでしょ。恋をすると世界が美しく見えるって。だから精霊に恋をさせて世界はこんなに美しいものだって知れば破壊をしようとなんて思わなくなるでしょ」
いや、それはおかしい。
どれだけ理論を飛躍させればそんな答えが出てくるんだよ。と言うかそれだと根本的な問題である空間震の解決にはならないんじゃないのか?あれは本人の意思に関わらず起こってしまうものだし……
なんかもう、ラタトスクを全く信頼出来ないのだが……ここまで来たら毒を食らわば皿までと言う言葉の通り、とことんやってやろうじゃねぇか。
もしかしたら本当に精霊を救う方法を知っている可能性がごくわずかにだがあるのも事実だ。まだ耐えられない仕打ちではない。
俺は覚悟を決めるとマウスを操作してゲームを進めていく。
「あら意外ね?彼女いない歴=年齢の典型的なチェリーボーイであるあなたがこんなゲームをやったことがあるだなんて思わなかったわ。一体どこで妹の私に隠してやってたのよ?」
「普通は家族だから隠すんじゃないのか?……まあ、色々と理由があってな……」
言えない……ゲームで負けた際の罰ゲームの一環としてギャルゲー(十八禁も含む)の朗読プレイをさせられたなんて、口が裂けても言えない。
皆、異常にゲームが強くてほとんど勝てたことのない俺は毎回のようにそれをやらされていた。しかも後の方になると徐々にマニアックな作品も増えてきて、最後の方には女体化した主人公の逆ハーレムゲーやホモゲーを朗読させられて一週間くらい精神が崩壊した。
それ以来は罰ゲームとしてやらされたことはないが、そういった経験からこの手のゲームは慣れっこである。
「……ちなみのそのゲームはラタトスクが総監修して、可能な限り現実に近づけている。シンがどのようなゲームをやって来たかは知らないが、ゲームだからと言って甘く見ない方が良い」
「ちなみに、士道が選択を間違う度にこれが公開される手筈になって居るから、よく考えてから選択をした方が良いわよ」
琴里が残虐な笑みを浮かべながらノートを開いて俺に見せつけた。そしてその中身を見た俺は……声を失ってしまった。
このふざけた文章は間違いない……俺が中学の時にある病気にかかっていた時に書いたものだ。だがそれが記されたノートは俺が異世界にて持てる権限の全てを使って灰に変えたはずだ。もうそれがこの世に存在するはずがないのだ。
すると琴里はその顔で「コピーをしてないとでも思ったの?」と伝えてくる。
「ほら、これなんて傑作だと思わない。全てが闇へと塗り替えられた暗黒の世界、その中で唯一「やめろぉぉぉぉお!!」そんな大声で騒がないでくれないかしら。安心しなさい、士道が選択を誤らなければ、これらは私の胸の内にとどめておくわ」
どうやら俺は、ここでギャルゲーをクリアーする以外の選択肢を失ってしまったらしい。
もし俺がこれから逃げ出したりすれば、琴里は容赦なくノートの中身を世界中に公開するだろう。
まさかこんな事になるなんて……もしかしたら、あの時彼女を助けられなかった報いを受けているのかもしれない。
俺が覚悟を再び決めて、ゲームを進めていくと妹が主人公を起こす場面へと変わった。画面に表示されているCGにはパンツ丸見えの妹が映っているのだが、現実では起こるかどうかはともかく、この手のゲームにはよくあることなので突っ込んではいけない。
その後も淡々と進めていくと選択肢が表示された。
①「おはよう。愛しているよリリコ」
②「起きてたよ。ていうか思わずおっきしちゃったよ」
③「かかったな、アホが!」
「どれもまともな選択肢がねぇじゃねか!!っていうか二番は犯罪だぞこれ!」
「どうでもいいけど、制限時間があるんだから早く選択することね」
クソ……落ち着くんだ五河士道……今までの経験を思い出せ。
まずこの選択肢にはロクなものがない。どれを選んでも好感度が下がるか、下手をするとBADENDに直行するだろう。だったらこの際は第四の選択肢、時間切れまで待ってみるしかない。
俺が何も選択する事無く時間切れまで待つと、好感度の変化はなく普通にゲームが続いていった。
「あら?よくわかったじゃない。私はてっきり一番を選択するものだと思っていたんだけど?」
「昔やったゲームにこの手と同じような事をされたんでな」
あの時は最初に変な選択肢を選んでしまって、ネプテューヌ達から冷たい視線を向けられたんだよな……
とあまり思い出したくない事を思い出しながらも俺がゲームを進めていくと、場面が変わり足を踏み外した女教師に押し倒されている場面となった。
また正気の沙汰とは思えない選択肢が表示されたのだが……たぶんだが今回は時間切れを待つのではないはずだ。
先ほど場面と違って今回は押し倒されている。このままだと痴漢と思われる可能性が高い……だったら先ほど文章に書いてあったキャラの設定を使うまでだ。
『隙ありぃぃぃ!』
『はっ!させないわよ!!』
俺の選択肢がまた成功したみたいで、今回は主人公と女教師が絞め技を掛け合っているCGが表示された。どうやら文章にあった柔道部顧問という設定を使って正解だったらしい。
そして絶妙なアングルによってまたパンツが見えている……そこまでして見せる必要があるのか?最近のギャルゲーでもここまで露骨なのはないはずだぞ。
「また正解したみたいね……今回は結構難しいと思ったのだけど……」
「その……昔の経験でな」
あの朗読プレイは罰ゲームとして数えきれないほどやらされた。
しかもネプテューヌ達に変な選択肢を選択されることを懸念して、選択肢を自分で決めるって言ってしまったのがさらなる苦行の始まりだった。
プレイした後になって気づいたのだが、人が選択したものなら自分はそんな選択はしないと言い訳ができるのだが、皆の前で自分の意志で選択すると言うのは、自分がそういう場面に出くわした際はそんな選択をしますと宣言するようなものなんだよな。
変な選択をしてしまって何度ネプテューヌ達に冷たい視線を向けられたことや……
気分が鬱になって来たからこの辺でやめよう……
俺は再び溜息を吐きながらもゲームを進めていった。
「はぁ……ようやく終わった」
「士道君、おめでとう~」
俺はプルルートの称賛を受けながら力なく机に倒れた。(ちなみにネプテューヌは仕事が終わってないので今日は来ていない)
あれから休日も含む一週間、俺は休み時間や放課後の時間などを使ってギャルゲーの攻略を進めていた。
流石に全ての選択肢で正解を進めることは出来なかったが、大きく好感度を下げる選択肢を選ぶことはなくBADENDを一度も見ることなく全ルートをクリアすることが出来た。
まさか、あの苦行でしかなかった経験が役に立つなんて、世の中何があるか分からないものだ。
「っち……もう少し失敗するもんだと思ってたんだけどね……、まあ、これらは別の機会で使うことにしましょう」
「なぁ……今、舌打ちしなかったか?」
「気のせいよ……そんな事よりも、第二段階に進める……」
「……琴里、すまないがその前にやっておきたい事があるので、少しの間私に時間をくれないか?」
「なによ……早く終わらせなさいよね」
令音さんが琴里の会話を遮ると、彼女は懐から小さな紙を取り出し俺に手渡して来た。
大きさと、掴んだ時の触感から察するに何かの写真だとは思うのだが、裏面にして手渡されたため何が撮影されているかは分からない。
俺が手渡された写真に困惑していると、令音さんに声を掛けられた。
「……世の中には飴と鞭と言う言葉があるだろ?だから、鞭(士道の黒歴史の公開)だけでなく飴も渡すべきだと言う意見がクルーから出たのだよ。だから、今回のゲームの正答率が八割を超えていたから、それを褒美として渡すよ」
これはそういう事なのか……
別に褒美が欲しくってやっていたのではないが、貰えるなら正直に言って嬉しい。
でもこれは一体なんの写真なんだろうか?女性に見せられないような写真じゃないといいんだがな……
とにかくどんな写真か確かめようとして裏返しにしようとしたところでプルルートが俺に近寄って来た。どんな写真か彼女も興味があるみたいだ。
俺は意を決して写真を裏返して……
「ぶぅぅぅぅ!!」
「うわぁ~。琴里ちゃん綺麗だねぇ~」
思わず吹き出してしまった。
プルルートは何時ものようにゆったりとした口調で話しているが、彼女は褒美としてこれを渡す意味が分かってないのだろう。っていうか褒美にこれを渡すだなんて何を考えているんだよ!?
「ちょっと、一体どんな写真……っ!?」
俺の様子が気になったのか写真を奪い取って、それを見た琴里は固まって放心状態となってしまった。
それも無理もないだろう。だってあの写真は…………琴里の半裸姿が映った写真なのだから……
どう考えたら褒美で兄の俺に妹の半裸写真を渡す事が出来るんだよ。アングルも妙にエロくなっているし……
俺が女性だったらちょっとした冗談ですむのだろが、男の俺に褒美としてこれを渡すだなんて犯罪を推奨しているようにしか思えない。
と言うかこれって絶対に盗撮だよな……琴里を盗撮した?……相手は誰なんだ?少しお話をしたい。
俺が相手がだれか考えていると、ようやく琴里は意識が戻って来たのか写真を机に叩きつけると令音さんに詰め寄っていた。
「ちょっと、この写真は何なのよ!?一体どこでこんな写真を撮ったのよ!」
「……悪いが私にも分からない、写真は褒美の事を提案したクルーから渡されたものだからね。私は一度も見ていなかったのだが……何かまずい写真だったのかな?」
「まずいってもんじゃないわよ!?一体どこの誰よ、こんな写真を撮ってあまつさえ褒美にしようだなんて言い出したのは!?今すぐに教えなさい!」
「……ん、副司令だが……」
ああ、あの時の変態か……たぶん彼はドMだから琴里にお仕置きをされたくて、そんな事をしたんだろうな……
でも琴里を盗撮した……それだけはどんな事があっても許されない事だ……
「あれ~。士道君、急に笑顔になって一体どうしたのぉ~。それに少しだけど雰囲気が怖いよぉ~」
誰だっけな……人は完全にブチ切れると一転して笑顔になるって言ってたのは……
今ならその言葉の意味を実感できそうだ。確かにこれは笑う事しかできないよな。
俺はプルプルと肩を震わせて怒りに震えている琴里にそっと手を掛けた。
それに気づいた琴里は俺の顔を見て……そこからは言葉はいらなかった。俺も琴里もこれからする行動なんてたった一つだった。俺達はお互いに笑顔を一度浮かべた後、教室の扉の方に足を進める。
「令音……一旦外に出るからフラクシナスで回収してもらえないかしら」
「……分かった、私の方から連絡をしておくが……二人とも一体何をする気なんだね」
何をする気かそんなのは決まっているじゃないか……
「「あいつを処刑しに行くに決まってるだろ(でしょ)」」
俺達は笑顔を浮かべたまま、校舎の外へと進み始めた。
あとこれは完全に余談なんだが、プルルートに聞いた話によると、あの時たまたま通りがかって俺達の顔を見てしまった人が気絶すると言う事態が起きて、事態を収拾させるのが大変だったらしい。
『それじゃあ、これから生身の女性に対する訓練を始めるわよ』
「了解……」
無事に神無月を処刑し終えた俺は訓練の第二段階として実際の女性の口説きの練習を始める事になった。
ちなみに俺の近くには高感度の小型カメラが飛んでおり、それと俺が身に着けているインカムを使って琴里達は俺の情報を得ているし、俺は琴里たちからの指示をもらえる状態となっている。
『まあ、そんなに重く考える必要はないわよ。失敗しても士道の社会的信用を失うだけだし』
「いや……それってすごく大事なことだと思うんだが……」
『……そうならないように、こちらからは最大限サポートさせて貰うよ』
『あたしも出来る限り手伝うからぁ、士道君も頑張ってねぇ~』
「……頼りにしてるよ」
俺はプルルートにそう返事を返したものの、彼女には悪いがこの手の事にはあまり役にたたないだろうなと思っている。
彼女は良くも悪くも感性が普通の人とは少し違うため、恋愛関係のアドバイスは難しいだろう。
ちなみ、先ほど行われた神無月の処刑には彼女は一切かかわっていない。理由を聞いてみたところ、自分は相手が泣いたり苦しんでいる姿を見たいんであって、やって喜ぶ奴にやっても楽しくないと、背筋が凍えそうになる回答をもらった。
正直、聞かなければ良かったと後悔するはめになったよ。
『そうね……誰がいいかしら。もう校舎にはあまり人が残ってないのよね』
『士道君と琴里ちゃんのお仕置きが長かったからぁ、殆どの人は帰っちゃったんだよぉ~』
『もうこの際、街に出て見知らぬ女性にアプローチでもしてみる?そのほうが失敗した際の社会的損失が少ないわよ』
『……それでは、こういった経験が少ないシンには難易度が高いのではないか、せめてある程度接点のある女性にしなければ』
「……できる限り早く決めてくれよ」
インカムで琴里たちの会話を聞きながら廊下を歩いていると、廊下の曲がり角から一人の女性が現れた。鳶一折紙だ。
彼女は俺の事をじっと見つめている、それに気づいた俺は思わず冷や汗を流してしまった。実は彼女は俺と目が合う度に俺の事を見つめているのだが……最初の方は空間震の現場にいたことがバレてしまったのかと思った。
でもそれに関して聞かれることは一切なく、それが逆に不安に感じてしまい今ではこんなふうに汗を流してしまうようになった。
「何かあったの?」
「え……あ、いや?」
「あなたは最近、遅くまで学校にいる。何か用事でも?」
「そ、その、最近妹が友達を家に連れて来ることが多くさ。俺が居たんじゃ邪魔かと思って気を使ってるんだよ」
「そう」
流石に精霊と交渉するための訓練としてギャルゲーをしていましたなんて、素直に言う訳にも行かず無難な嘘でやり過ごすことにした。
普通の人にも言えるわけがないのに、ましてや鳶一は精霊を攻撃しているASTなのだ。正直に言ったらどうなるか想像がつかない。
鳶一が俺の嘘に騙された事に安堵しつつ、この場から去ろうとした時だった。
『士道、ちょうどいいわ。彼女で訓練をしましょう』
「大丈夫なのか?鳶一はASTなんだろ?ばれたら……」
『わかってるわ。でも今回はあくまで士道が彼女にプロポーズするだけよ。士道がへまをしない限りラタトスクの事はバレはしないわよ』
「わかった……」
琴里からの通信は終えた俺は、正直気が乗らなかったが鳶一に改めて向き直して声を掛ける事にした。
琴里に逆らったらあれが公開される可能性があるからな。ともかく、まずは無難なところから行こう。
「鳶一、俺はこれから家に帰ろうと思ってるんだが、用事がないなら一緒に……」
「構わない」
「へ……いや、用事とかがあるんなら、別に無理しなくてもいいんだぞ」
「構わない」
「そ、そうなのか……それじゃあ、玄関に一緒に行くか……」
なんか若干話がかみ合っていない気がしたが、もうそれを無視することにした。
ネプテューヌの相手をする際にはこのスキルが必須になってくるからな……彼女以外に使うことになるとは思わなかったけど。
とにかく、俺が玄関の方に向かうと、鳶一も無表情のまま俺の少し後ろ辺りについてくる。なんとか接点を持つのに成功したなと思っていると、インカムから琴里達の通信が入って来た。
『なんか、すごく簡単に誘うのに成功できたね。もしかして士道って、ゲームをイージーモードで進めるタイプ?駄目なんだよ。いくらストーリーが見たくてもノーマル以上でゲームを進めなきゃゲーマーの名が廃るってものでしょ』
「俺、ゲーマーじゃないし、人生のイージーモードってどうやったらできるんだよ……っていうかネプテューヌ、お前は今日は仕事があるんじゃなかったのか?いつから来たんだよ」
『ねぷちゃんはねぇ~。仕事が嫌になって士道君を手伝うって名目でここに逃げ……』
『うわうわうわっ!!何を言ってるのさ、ぷるるん!!私は純粋に士道の事を心配して来たに決まってるでしょ!もう、いやだな。いくらわたしが仕事が嫌だからって、そんな方法で逃げたりはしないよ』
「で、実態は?」
『ついさっきここに来たとき、「士道のおかげで、いーすんを説得できたよ」って言ってたわよ』
『こ、琴里!?それは内緒の約束だよ!なんでばらしちゃうのさ!!』
どうやらサボる名目に俺を利用したようだ。
はぁ……本当になんで真面目に仕事ができないのかな。イストワールも最低限の仕事さえしていればネプテューヌがゲームをしていようが怒ったりはしないのに、その最低限すらもやらないから説教されているんだよな……
取りあえず、俺は後でイストワールの仕事を手伝う事を決意するのと同時に、ネプテューヌに釘をさしておく事にした……
「ネプテューヌ、何も役にたたなかったら今のをイストワールに暴露するからな」
『ねぷっ!?士道、それだけは勘弁してよ!最近はいーすんが怒りっぽくて毎日のように説教を喰らってるんだよ!それなのに、この事がバレたら……』
自業自得だ……声には出さなかったけど、今のネプテューヌに俺はそう思った。
「どうしたの?」
「あ、いや……なんでもない……」
危ない危ない……もう少しでバレるところだった。
少しインカムでの会話に集中し過ぎたようだ。鳶一の方に意識を向けるのを忘れていた。
俺はインカムの方から聞こえる俺に必死に頼み込む声を無視して鳶一に話しかける。
「折紙の家ってどこらへんにあるんだ?」
「街の中心のマンション」
「俺の家は街の外れにあるんだが……遠くないのか?途中で別れた……」
「問題ない」
「そ、そうなのか」
やっぱり微妙に会話がかみ合っていない気がする。
まあ、今はそんな事よりもどう会話を続けていくかだ……なんかどんな問い掛けもをしても一言で返されそうなんだよな。会話が続いていく気配がない。
昔やったギャルゲーを参考してもいいのだが、それはリスクが多すぎるし……
『……シン、話すことがないのなら、私が手伝おうか?』
「……お願いします」
話すネタがなかった俺は素直に令音さんの助けを借りることにした。
若干の不安があるものの、そういった経験が全くない俺が考えるよりはましな話のネタをくれるだろう。俺は令音さんの言葉に従って話を続けている。
「あのさ、鳶一……実は俺、前にお前を見た時からさ、見惚れていたんだ」
「そう…………私も、あなたに見惚れていた」
「っ!?……そうなのか」
鳶一の意外な返答に俺は思わず声をあげてしまいそうになるが、それを必死に抑える。
鳶一は相変わらずの無表情のだが、雰囲気は先ほどよりは着実によくなっている。このまま続けば上手くいけば口説くことが出来るかもしれない。
俺は再び、インカムから聞こえてきた令音さんの指示に従う。
「だったらさ……俺と付き合ってみないか?」
令音さんの指示に素直に従ってしまったが、これはないと思う。
話のつながりは間違ってないと思うがいきなりすぎる。俺の記憶が間違ってなければ鳶一のは今年同じクラスメートになって知り合った仲だ。
いくら何でもこんなので落ちる女だなんて……
「わかった……構わない」
「そうだよな、急に変な言葉を掛けて……はぁ?」
今、鳶一はなんて言った……構わないって……無理だって方の意味だよな。
でもなんか少し顔が赤くなっているし……もしかして良い方の意味、俺と付き合ってもいいって意味の方なのか?
どうしてそうなるんだ……なんで今のでOKになるんだ?
俺が困惑しているとインカムの方からも戸惑っている様子が聞こえて来た。
『なんで今ので口説けるの!?これじゃあ、イージモードなんてちゃちなもんじゃなくて、ベリーイージーモードだよ!アクションが苦手な人が簡単すぎてコントローラーを投げ出す難易度になってるよ!一体どうなってるのさ!?』
『わかった~。きっと、士道君は催眠術師なんだよ~。だから今のはぁ、催眠術を使って鳶一ちゃんを一瞬で落としたんだよぉ~』
『な、なるほど……でもその考えだと、わたし達も催眠術を使われている可能性があるよね。はぁ!!まさか、わたし達が今まで士道君と仲良くしてたのは、催眠術にかかっていたからなの!?もしかしてあの夜に士道のベットに潜り込んだのも……』
『ふぇ~、あたし、催眠術に掛けられてたのぉ~!?ねぷちゃん、このままじゃ鳶一ちゃんのように簡単に落とされちゃうよぉ~。……あれ~、それだと琴里ちゃんが無邪気な姿をみせるのってぇ~』
『そうよ……実は私は昔に士道に催眠術に掛けられてしまってね。家では士道が理想とする妹の姿を強制的にやらされているのよ。私はもう手遅れだけどあなたたちは違うわ。早く士道の元から離れなさい……手遅れになってからじゃ遅いわよ』
『な、なんだって!?まさか士道がそんな事をやっていたなんて……でも琴里、心配しないで!わたし達が士道の目を覚まさせてあげるんだから!!行くよぷるるん!!』
『ねぷちゃんわかったよぉ~。あたし達の手で士道君の目を覚まさせてあげようねぇ~』
「なあ……俺が突っ込まないと、どこまでこの茶番が続くんだ」
『いや~、みんな困惑してたから気を紛らわそうと思ってやったんだけど。思いのほかにのっちゃて……ごめんね』
確かに一時的に折紙が直ぐに付き合うことを了承したことはどうでもよくなったけど……なんて言うか頭が痛い。
もう俺一人じゃ突っ込みきれない……ノワールでもネプギアでもいいから突っ込み役がもう一人ぐらい来てほしい。最もネプギアの方は姉であるネプテューヌには強く出られないんだがな。
それよりも今は鳶一の事だ。俺が再び鳶一に声を掛けようとしたところで……
警報が鳴った。
「っ!?」
「急用が出来た。ごめん」
折紙は短く俺にそう伝えるとどこかに走っていてしまった。
彼女がASTであることを考えると基地の方に向かったのだろう。……この場合は付き合った事になるのだろうか?なんか中途半端に終わった感じがする。
『士道、空間震よ。一旦こっちで回収するから校舎の外に出なさい』
「了解。出現する場所はどこなんだ?」
『士道が今居る所……来禅高校よ』