避けたりとかそういうのはしない。   作:銀座

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ようやく更新。

ハイパー難産でした。

長いので気をつけてください。


44話 プリンよりは茶碗蒸し!

 

 

やぁみんな、みんな大好きオーク系転生者の俺だよ!

 

 

 

拝啓、前世の顔すら思い出せなくなってきた両親様。

いかがお過ごしでしょうか?

今頃は私と同じく転生したりしてるでしょうか。

 

あの日、私が死んでからの事が少し気になります。もっとも、私が死んだ時にはとうの昔に他界していた両親達なら何のことか分からないでしょうが。

 

聞いてください。私は今、ゲームや漫画の世界の怪物的な存在になって三国志の世界を生きていますよ!

 

まぁ恋姫世界が三国志か、とか言われたら困りますが、とにかく前世の日本では見たことないような、いろいろ新しいものを見てきました。過去なのに新しいとか斬新ですよね!

 

何故か既にドリルやパイルバンカーとかが存在するので、これからの世界はきっと浪漫溢れるロボオタ狂喜の世界になるでしょう。その分ロボアニメは減りそうですが。グレンラガンとグラヴィオンくらいは残って欲しいですが、どうなることやら。

 

 

ああそうそう、私にもついに恋人が出来ました。綺麗で可憐で、大人びているようで子供っぽかったり、真面目なようでお茶目だったり、ふざけているようで一途だったり、ちょっと病んでたり。

 

私には勿体無いくらいの恋人です。ええ、毎日が幸せですよ!

 

・・・えっ?

 

今何してるか、ですか?ふふふ、それはですねぇ。

 

 

 

「・・・どういう事ですか?納得のいく説明をお願いします。それ次第では苦しまないように殺してあげます。」

 

「ふふ、最愛の男を奪われて納得する可能性が僅かでもあるのなんて・・・優しいのね?」

 

「時間の無駄ですな。皆、武器をとれ。」

 

「それはいい。お前達が死ねばその分道玄を独占できる。」

 

「ははは、やってみろ孺子。塵一つ残さず殺してやろう。」

 

「そうだな、序でに天下も手に入って一石二鳥だ。雪蓮、全軍を出すぞ。」

 

 

 

嘗てない規模の修羅場の真っ只中にいますよ!大絶賛絶体絶命です!!

 

助けて下さい!

 

 

 

 

 

 

 

・・

・・・

 

 

「・・・どういう状況ですか、道玄。」

 

 

険しい顔の愛紗が険しい声でそう言ってきた。残念ながら愛紗が不機嫌になる様な状況なのでその声色なのも理解出来る。だが。

 

い、いや、俺にもさっぱりわからん。袁紹さん達を無事保護してから何か急にこんな感じに・・・!

 

そう、俺も状況が分からないので俺に聞かれても困るのだ。本当に。

 

 

 

 

あの後。

 

そう、謎に春蘭達に捕獲され、華琳さんに衆人環視の中で伴侶呼びされた俺は、よく分からないが今、華琳さん達の天幕内でもてなされていた。

 

もてなされる、と言えば美味しい食事だったりお酒だったりなイメージを感じられるが、俺の場合はちょっと違う。確かに目の前には豪勢な食事と酒があるが、座っている場所は寝台だ。いや、これは天幕とかの色々な場所に何度も運んだりする上、来客を通す様なものでもない無駄な所(玉座とか)に金を掛けない華琳さんの嗜好だから構わないんだが・・・。

 

 

「どうしたのかしら?他人の目など気にしないでいいのよ?」

 

「そうだぞ道玄。むしろ早くしよう。ずっと待っていたんだ。」

 

 

何をだよ馬鹿か。

 

というかお前らが余計に訳わからなくしてんだよ!

 

 

現在の俺の状況。

 

膝の上に華琳さん。

 

右腕に秋蘭。左腕に春蘭。

 

後ろから抱きつくように見知らぬ元気っ子。

 

右足に寝そべる様に季衣ちゃん。

 

同じように左足に桂花。

 

そして左右によく知らぬ親子が大きな団扇で扇いでいる。

 

 

 

 

 

・・・なんだこれ。なんだこれ!!

 

 

 

 

ちょっと本気で意味が分からない。せめて知らない人混ぜるの止めるべきだよ!意味不明過ぎる。今合流したばかりの愛紗達なら余計に意味不明だろう。これで札束の山が置いてあればジャンプの後ろとかにある神秘的なパワーがある天然石の宣伝広告だと思うんだが・・・。

 

 

「・・・どうやら本当に道玄もわかってない様だぞ?」

 

「本当ですな。我が主人が浮気の露見以外であそこまで狼狽えるのも珍しい。」

 

「浮気以外ってあたりが道玄らしいわね。」

 

「そうですね、蓮華様。正直、夜の回数をもっと増やすべきかと。」

 

「それはお主がしたいだけじゃろう・・・儂の分も増やせよ?」

 

「では1人二回程度増やしてみますか?確かに最近怪しい女性の影がちらほらありますし。」

 

「あら、誰のことでしょうか。ひょっとしてあちらの方々ですか?」

 

「・・・まぁ、あれもそうですが。」

 

「いけしゃあしゃあと、なのー。」

 

「アンタ、本当にそろそろいい加減にしなさいよ?」

 

「あはは、ご主人さまもてもてですねぇー!」

 

 

いやお前ら、なんだかんだ俺が悪いって言ってるよねそれ。っていうか流れで一人当たりの回数増やさないで。死んでしまいます。つーかそろそろ説明してよ華琳さん。

 

流石にこのままでは話が進まない。美女に囲まれるのは悪い気はしないが、理由が分からんのに持て囃されても困る。何よりあそこにいるウチの女性陣が怖いからな。

 

「仕方ないわね、少し耳を貸しなさい。」

 

はいはい、なんぞって、んっ!?

 

「んっ・・・はぁ。ふふっ・・・貴方の味ね。」

 

 

・・・ベタな手を。思いっきり引っかかった俺が言うことじゃないけど。というかいきなり何すんねん。いや嬉しいけども。美少女からのキス嬉しいけども!

 

 

耳を貸しなさい、で頭下げた途端キスされるとは思わなかった。ラブコメかよ。いや、少年誌的ラブコメではないな。思いっきり舌入れられたし。

 

まぁとりあえず華琳さん。

 

「あら、何かしら?」

 

「時と場合と場所を考えろ。」

 

あれを見ろ。俺の女性陣が全員武器抜いたじゃないか。軍師組は武器持ってる人だけだけど。俺のじゃない黄忠さんとか七乃まで武器を抜いてる理由は分からないが、無駄に刺激するなよ。後で俺が大変だろ!

 

「馬鹿ね、華琳様は立場の違いを教えてあげたのよ。」

 

そう言ったのは桂花だ。何故か首輪をつけている桂花だ。あえて突っ込まないけど首輪をつけている桂花が足元から居丈高に言い放ったのだ。こいつよくこの状態でカッコつけられんな!

 

おい桂花、春蘭もだけどお前ら顔赤いぞ無理すんな。秋蘭はともかく、お前らそういうこと華琳さん以外にする奴じゃないだろ。というか、この両隣の人等と背中に引っ付いてる人は誰だよ紹介してよ。

 

 

「うっさい!華琳様と私にここまでしてもらえてるのよ!?黙って感謝してれば良いのよ!」

 

「無理などない!い、妹に出来て姉である私に出来ない事などない!」

 

いや桂花よ。感謝はしているが、無理してまでやられても困るぞ。春蘭、じゃあお前秋蘭の代わりに書類仕事やってみろ?出来ない事と出来ることはそれぞれ違って良いんだよ。無理すんな。

 

そう言って2人を宥めながら華琳さんに視線で抗議する。この2人に何吹き込んだ?あっ、鼻で笑いやがった!この強気な感じ、華琳さんの指示だけじゃない?どういう事だ?

 

「道玄、お前は本当に鈍感だな。実は気付かないフリしてるだけ、だったりしないか?」

 

いきなり何を言い出す秋蘭。獣が混じる俺以上に敏感な人間なぞいないぞ、たぶん。

それはない、と断言する秋蘭。こやつめ、ははは。でもなんか俺の知ってる秋蘭に戻りつつあってちょっと安心する。そんな事を考えていると、華琳さんが軽く女性陣をチラ見して言った。

 

「あの場に孫権や甘寧がいる、という事はもう春蘭や桂花の事も知ってるでしょう?」

 

なんの話、と言おうとしたが、春蘭や桂花の顔が真っ赤になったので思い出した。星のやつの濁り酒事件の話か。知ってるけど。俺あれのせいで死にかけたというか人数増え過ぎて現在進行系で命の危機だからな。

 

でもあれは華琳さんがいたと聞いたから、正直華琳さんの悪ふざけかな、と。なんだかんだ春蘭と桂花なら男相手でも華琳さんの命令なら聞くだろうし。・・・当の華琳さんは他の女性の艶姿観れれば参加しそうだし。

 

 

そう言うと華琳さんは少し不機嫌な顔をして、私だってそれだけの理由であんな事誰にでもする訳じゃない、的な事を言った。理由が足りないだけで否定はしてないのでそんな理由で参加したなこいつ。

 

ちょっと呆れた目で見ていたら、逆に俺がおかしいと言いたげな表情をした華琳さんはため息をついた。分かってないわね、道玄。そう言ってまるで母親の様な慈愛に満ちた目でこちらを見る華琳さん。

 

・・・あれっ、これ春蘭や季衣ちゃんを見るときと同じ目だ!あれっ、俺ひょっとして2人と同じ扱いされてる!?

 

「確かに私は2人に貴方のものに奉仕する様に指示したわ。けれど、強制はしなかった。2人がそれで私への愛を貫く為に拒否するならば咎める事は無かった。むしろ条件を出したわ。貴女達が道玄に身体を許してもいいと思ったならば、とね。

 

・・・ふふっ、口では色々言ってたけれど、2人は拒まなかったわよ?手だけでなく口に含んで最後は貴方のものを飲み干した。むしろ私の方が少し嫉妬したくらいよ。

 

何より、2人は今ここにいるのよ?()()()()()()()()()()()()?」

 

 

クスクスと楽しそうにすごい事を普通にバラす華琳さん。確かに居なかったけども!あの時は秋蘭と華琳さんだけだったけども!何か腑に落ちない!!だって2人の華琳さん愛はヤバいし。飲みに行った時に死ぬほど惚気られるし!・・・え、何真桜。春蘭はともかく桂花と2人で飲みに行ったのか?

 

え、普通に行ったけど。そんなに多くないよ4回くらい。あっ、浮気とか本当にしてないぞ!?本当だぞ!!桂花に聞いてみろ!

え?違う?そうじゃないの?じゃあどういうってあれ、華琳さんが凄いニヤニヤしてる。何かおかしいとこあった?

 

「私が知る限り春蘭や桂花が男と2人で出掛ける、なんて貴方以外では無いわよ。ましてや2人とも酒に強くないのに酒家?襲ってくれって言ってるようなものじゃない。」

 

「違っ、違います華琳様!!私はそこまでするつもりはっ!!」

 

「・・・そこまで?ほう。どこまでならするつもりだったんだ、桂花?」

 

「うぐっ・・・!」

 

何か反論しようとした桂花が即墓穴掘って沈黙した。というか、桂花や春蘭との2人飲みってそんなに珍しいのか?真名交換する前から行ってたから普通なのかと。

 

「・・・あんた以外の男と、私が行くわけないでしょ!」

 

えっ、そうなの!?付き合い始めてもう3年くらいになるけどたった今知った驚愕の真実!!つーか急にしおらしくしないで。今の状況だとキュンとしちゃうだろ。

ちょっと男友達みたいな関係だった女友達にいきなり告白された気分。急に意識しちゃうよね、こういうの。そんな経験今までに一度もないけど!

 

周りを無視して桂花と見つめ合っていたら、春蘭に私を忘れるなぁ!と怒られた。おっと、ついうっかり。あれ、でも春蘭は偶に部下の男どもと飲みに行ってなかったか?

 

「ふ、2人だけで行くのはお前だけだ馬鹿者!!何故気付かんのだー!」

「というかだな、道玄。姉者に至っては割と露骨に迫られてなかったか?」

 

あれ、そうだったか?えーと・・・んんん?何か良く考えたら春蘭と2人だけで飲みに行った日の記憶、全部曖昧だな。毎回ベロベロの春蘭を背負って帰ったのは覚えているんだけど。

 

何だと!?と怒る春蘭と、貴様、姉者にそんなに魅力が無いといいたいのか!と怒る秋蘭。いやちょっと待って。何か理由あった気がする。んー、何だっけな。

 

・・・うぅむ、思い出せない。何だっけな・・・?つーか今思い返して気付いたけどあまり春蘭と2人だけって記憶以外と少ないな。大抵秋蘭が一緒に・・・あっ!

 

思い出した。俺が春蘭と2人だけで飲んだ記憶が曖昧なのお前のせいだ秋蘭。

 

「あら、どういうことかしら。」

 

「む?秋蘭がどうかしたのか?」

 

「・・・・・・っ!」

 

いや、今思い出したけど、春蘭と2人だけで飲みに行った日って必ず秋蘭が密かに後をついて来てたんだよね。監視みたいに。春蘭にはバレないようにしながら、あえて俺の視界に僅かに入って餓狼爪(秋蘭の弓の名前。業物。)をチラチラ見せてきて、常に牽制されてた。そっちが気になって春蘭との会話結構聞き流してたなそういや。

 

あ、言い訳は無駄だぞ秋蘭。思い出したというか今気付いたが、良く考えたら俺と春蘭2人だけの飲みの会話で、俺が覚えてないのにお前が知ってるという事は、お前があの場に居たって事だからな!

 

「しまった、あの時は妨害することしか考えて無かった・・・!まさかこうなるとはっ!?」

 

「秋蘭、貴女・・・。」

 

「しゅ、しゅーら〜ん・・・。」

 

 

ああ、良かった。何か俺の知ってるダメな秋蘭がようやく戻ってきた感じ。凄いホッとする。あ、それはそれとして気持ちは凄い嬉しい。ありがとう。もちろん桂花もな。

 

まぁ周りに他の女性たくさんいる状況で出す会話じゃ無いけどなぁ!

 

っていうか本当にこれヤバい。友達が異性になる瞬間ヤバい!凄いドキドキする!ちょっと困惑してるけど凄い嬉しい。そしてどうしたらいいか分からない!何これどうしよう!こんな時どんな顔していいか分からない!

 

「断ればいいと思います。」

 

「と、言うか今すぐ断れ。」

 

「流されたらあかんで団長。」

 

「・・・だんちょ、ダメ。」

 

「拒否一択です、道玄様。」

 

「そうですね、断りましょう道玄さん。」

 

「早く断りなさいよ、道玄。」

 

「というか、いい加減離れんか。」

 

 

 

あ、はいごめんなさい。調子にのりました。何気黄忠さんにも怒られたけどその通りだから素直に反省しよう。でも離れるのはちょっと。いや、抱きつかれて嬉しいとかじゃなくてね。よく見て欲しい、両手両足塞がってるんだよね。え、無理矢理剥がせ?俺に女性が傷付けられると思ってんの?あ、待った愛紗、切り捨てるとかは待った。分かった分かった。でも最終的に剥がすにしても暴力は良くない。まずは最後まで話を聞こうじゃないか。今の話は結局春蘭と桂花がここに居る理由でしかないしな。だから剣を下ろせ雪蓮、思春。

 

 

何か女性陣を宥めるのが大変過ぎる!なまじ武将が多いから暴力には高い殺傷能力が基本装備されている。春蘭達はともかく桂花は危ないからな。

 

・・・っていうか、本当後ろの子とか誰だ。両隣の親子も分からんが背中にひっついてる子も全く知らん。実は会ったことある設定もたぶんない。というか、最近知らない人が普通にいて困る。程普とかひゃわわとか糜姉妹とか色々、恋姫の2次創作では見たことないぞ。いや、もしかしたら三国志には出てたのかもしれないが、恋姫世界にいるのかそれは。まさか俺が知らないだけで原作が新しいの出ててその新キャラとか?

 

まぁそもそも原作未プレイだし、そうだとしても不思議ではないが。いや、やっぱこの世界限定のキャラかも?

 

 

そんな事を考えていたら唐突に背中に抱きついていた子が顔を上げた。むふー、堪能したっス!とか言いだした。漸く顔が見れたってあれ、ちょっと華琳さんっぽい?と思ったら従姉妹さんらしい。曹仁さんと言う彼女は、元気一杯なワンコみたいな子だ。よろしくっス!と語尾にスがついて華琳さんとは大分タイプが違うが面白い子だ。というか以前手紙にあった人か。曹洪さんとかいう妹がいるんだっけ?

 

・・・違った。どうやら曹洪さんは同じく華琳さんと従姉妹に当たるが、姉妹ではないらしい。彼女の妹は曹純さんと言うらしい。間違えてごめんよ。許してくれた。ええ子や。というか芝犬みたいで可愛い。

 

思わず曹仁さんの頭を撫でていると、両隣の親子っぽい2人も自己紹介してくれた。予想通り親子だった。陳珪さんと陳登さんというらしい。母親の陳珪さんは腹黒微笑キャラで、陳登さんは・・・おい、華琳さんこの子普通に嫌そうな顔してんだろ何で連れてきた。え、何連れて来たのは陳珪さん?俺に会わせる為?へー。あ、その辺の心こもってないお世辞要らんよ。なんで俺の心象良くしたいか知らんが、嫌がる娘を連れてこない方が好感度高いから次から気をつけてくれ。

 

 

なんか驚いてる親子は無視だ。てかさっきから頭を撫でてた曹仁さんが満面の笑みで掌に頭を擦り付けてきてマジ可愛い。本当に犬みたい。ちょっと鈴々に通じるところがあるな!

 

 

というか、説明はまだか。いい加減向こうの女性陣が超怖いから教えてくれ華琳さん。

 

「仕方がないわね・・・。結論から言いましょう。私と道玄はこの度夫婦になったわ。側室は無く、妾の座は埋まっている。悪いけれど貴女達は新しい出会いを探しなさい。」

 

 

・・・は?

 

 

なにそれ聞いてない。

 

 

 

そんな華琳さんの爆弾発言と共に、話は冒頭に戻る。

 

 

⬛️

 

 

 

一触即発。

 

 

現在、正しくそんな状況だ。

 

特に愛紗がヤバい。既に華琳さん達を殺す気だ。俺以外にあのヤンデレの病ん部分がガチで向けられているのは割と珍しいが、あの顔はマジだ。洒落にならん。

 

どうするか、と少し考える。原因である華琳さんによると、よくわからないが華琳さんと俺は夫婦らしい。初耳過ぎて困る。

 

だが、冷静になって考えれば婚約も式もしてなければ籍を入れた記憶もないのでありえない。だとすれば何か別の目的があると思うんだが、目の前の華琳さんからはやたら強気な感情が嗅ぎとれる。今の自分に自信があるらしい。別の目的につながる狙いがあるかどうか分からん。

 

 

目の前には勝手に妻を主張されてブチ切れ寸前の愛紗達。これが見知らぬ人間がやったことなら等に武器が振り下ろされていただろう。冗談とかそういうのは関係ない。何せちびっ子の将来◯◯のお嫁さんになるー発言も相手が俺なだけでガチギレしちゃう女性陣だ。本当に何でこうなった。

今みんながまだ保ってるのは、相手が気心知れた華琳さんで、何か別の狙いがあるかも、と勘付いているから皆ギリギリで理性を保っている。いや、愛紗だけ殺す為の方法を考え始めてるけど。

 

 

まぁ他の冥琳とか星とか凪の怒りっぷりもヤバイが。正直目を逸らしたいレベル。

 

ひょっとしてこれが狙いか?と思ったが正直愛紗達を挑発する意味はない。それを伝って俺を怒らせたいわけでも無いはず。っていうか夏侯姉妹と華琳さんは良いが、曹仁さんと季衣ちゃんと、桂花が溢れる殺気に怯えている。なんでもいいけどとりあえず仲裁しよう。

 

華琳さんや、目的は何だ?いきなり夫婦、なんて嘘つく理由も分からん。まずは説明してくれ。

 

 

「あら、私は嘘なんてついてないわよ?」

 

 

・・・あん?ガチで嘘じゃないっぽいどういうことだ。秋蘭ならまだしも華琳さんと結婚するようなこと何もしてないぞ?よく知らないがそういうのって色々書類とか同意とか必要なんじゃ?というか俺にはまず戸籍もないんですがそれは。

 

「ふふ、貴方の事だから知らないでしょう。良い事教えてあげるわ、道玄。」

 

私は国を起こしたのよ、と華琳さん。

 

言われてそういえばそんなイベントあったな、と思う。というか雪蓮も袁術さんに勝ったので、建業に戻ったら晴れて孫呉を起こすらしいし、中々にタイムリーな話題だ。まぁみんなは冥琳とかから聞いていたらしいので驚きは無いっぽい。例によって聞いてないのは俺だけですね知ってた。さらに聞けば劉備さん達も何か備えているらしい。とりあえず曹魏の建国おめでとう、と祝っておく。

 

「あら、私の国の名を知っていたの?・・・否、やっぱり貴方は()()()()()のね。・・・まぁいいわ。つまり私は今王なのよ。」

 

あ、何か今やらかした。まぁ流してくれるらしいからいいや。王だからなんなのか。俺には関係ないけど崇めればいい感じ?

 

「ふふ、貴方に敬われるのも面白そうだけど、それはいいわ。重要なのは、()()()()()()()()()()()()()()()()という事よ。」

 

それこそ、軍も行政も司法でさえも、ね。そう言って笑う華琳さん。なんだそりゃ、と言おうとして気付く。俺より先に気付いた軍師組が声を上げた。

 

「まさかっ!?」

 

「はわわわ!もしかして道玄しゃんとの籍を!?」

 

「勝手に作ったとー?幾ら何でもそれはー・・・。」

 

「あわわ、強引すぎでしゅ!」

 

いやいや、強引通り越して横暴過ぎる。さ、流石にそんな無茶・・・しないよね?

流石にないだろう、とは思いつつ、思わず確認してしまう。幾ら何でもスマートじゃなさ過ぎるので華琳さんのやり方じゃないとは思う。華琳さんは自分で覇道を征く、というだけあって高潔な精神を持つ豪傑だ。もちろん本当に必要なら多少強引な手段や汚い策を用いることを厭わないだろうが、こんな無茶な囲い込みはしない筈だ。

 

何故なら、この方法では華琳さん側にこちらに対しての負い目しかない。本来?の外史で、袁紹さんに攻められた劉備さんが華琳さんの領地を抜ける時、対価として関羽を要求したように、相手側に最低限の負い目がない状態で、権力を使った横暴をするような人ではない。

 

横暴な条件を吹っかけるなら必ず対価を用意するし、大抵の場合は相手の意思を尊重するのが華琳さんだ。相手の意思を無視するような時は、必ず相手に出来る(と期待している)ことしかしない。一刀くんに春蘭と模擬戦させたり(一刀くんではなく春蘭の方に手加減ができるくらい力量差がある。)とかな。

 

まぁ身内に限った話だが。この場合俺は身内じゃないのでやられてもおかしくない気もするが、仮にこれで夫婦になったら身内である。華琳さんなら身内になる相手にそんな無茶をするような配慮ので無い人とは違う。・・・と思うんだが。

 

 

目で答えを聞いてみる。その瞬間、

 

 

目の前の少女を基点に、一瞬で世界が変貌した気がした。

 

 

 

ニタリ。と、口が裂けるように大きく歪み、空気がドロリと粘度を増したかのように部屋の中に禍々しい気配が充満した。殺気ではない。狂気だ。しかも身に覚えがある。

 

膝の上に座る少女が、小さき覇王から邪悪な魔王に変化したかのように感じる程に、その身から溢れる強く濃厚な狂気。彼女の持つ強大な覇気が全て狂気に変わったかのようにさえ感じた。

 

 

強烈なまでの存在感。しかし禍々しい気配。

 

 

誰だこれは、と一瞬考えてしまった。だがしかし華琳さん以外の何者でもない事は、俺が1番よく分かっている。何せ匂いも覇気の大きさも身体の重さも何もかもが彼女だからだ。それでも別人に見えるほどの強烈な気配の変化。

 

何だこれ・・・?悪意?いや、ちょっと違うな。妬み?いや、怒り?感情が混じりすぎて分からん!

 

あまりの威圧感に周囲の女性陣が大きな反応を示す。武将組は一瞬で武器を構え、侍女組、軍師組はその後ろへと回る。突発的に戦闘が起きた時の為に仕込んだ陣形のうちの一つだ。しっかり出来てて何よりだ。

 

何気に黄忠さんも軍師組に混じって下がり、後ろで弓を構えている。急なこの事態に対応した上に、うちの女性陣に咄嗟に混ざれる辺りは流石だ。冷静な視野と迅速な判断力を持った確かな傑物なのだろう。

 

 

尚、呉の女性陣は蓮華と穏と呂蒙さんを後ろにやった後は全員臨戦体勢だ。地味に冥琳が下がらないのが凄いな、と思いつつ、こっちも凄いなー、と内心褒める。そんな現実逃避をしていたのは僅かな時間だったが、華琳さんの両手が俺の頭を固定するように自分に向けさせてきたので意識を戻す。

 

俺と華琳の視線が噛み合う。暗い瞳だ、と思うが早いか引き寄せられ、再び口付け。侵入してくる彼女の舌が、先程よりも荒々しい。同時にギリ、と歯を噛みしめる様な音を俺の耳が捉える。顔が固定されているので分からないが、多分愛紗な気がする。・・・後で頑張ろう。うん。

 

 

先程よりも少しだけ長く、されど比にならないほど濃厚な交わり。終わる瞬間には互いの唇に唾液の橋が架かった。それを舐め取る様に舌で切った彼女が、そうよ。と呟く様に言った。

 

 

「そう。その通り私は貴方と結ばれる為に勝手に2人の婚姻を済ませたわ。これで私が治める場所に於いて貴方は私のモノ。そしてこの地は今日から私の領地。故に私と貴方はここでは夫婦。ほら、何も間違っていないわ。」

 

 

確かに理論上はその通りだ。俺の意思とか意見とか、夫側の存在感が皆無な事を除けば、だが。ちょっとというかだいぶ強引すぎる。俺は人間じゃないので人権無視は仕方ないとしても、周りへの配慮のなさや、華琳の矜持的にも、かなりらしくないやり方だ。

 

 

何故そんな事を?いくら何でも無理矢理過ぎる。俺が他国に渡らない様に、とはいえ自分が妻になる理由がない。秋蘭辺りにやらせても問題無いはずだ。

 

「駄目よ。それでは貴方は私を見ない。こちらを、振り向かない。」

 

何の話だ、とは言わなかった。分かっていたからだ。分かっていて気付かない振りをしていた。彼女なら言わないだろうと思ったし、俺の口からは言えない事だったからだ。

 

だからこそ疑問だった。何故今になって?つい、そう問いかけてしまった。

 

途端に彼女の顔から僅かに狂気が抜け、悔しそうに彼女は言った。

 

「後悔しているわ。あの日、貴方と初めて会った日を。」

 

私が驕ってさえいなければ、と自虐的に笑う華琳。俺の顔を押さえる腕に力がこもり腕が震える。その腕から、彼女の想いが伝わる様だった。

 

華琳と俺の顔の距離は拳一つ分くらい。かなり近い。自然と目線が合う。一切逸らさず、腕の動きだけで秋蘭と華琳の向こう側にいる女性陣に合図する。

 

ちょっと賭けだったが、秋蘭は華琳の変貌について行けない周りの女性達をやんわり動かして離れてくれた。助かる、秋蘭以外は今の華琳に気圧されて固まっていた。たぶん、彼女達としても此処まで本心を露わにする華琳を見た事はないのだろう。当然、この狂気も知らなさそうだ。俺も知らなかったが、向けられた俺はともかく、彼女達は今の華琳の近くにいない方がいい気がしたのだ。

 

うちの女性陣や呉のみんなも動く音が聞こえないので、待機指示を聞いてくれたらしい。できれば外に出ていて欲しいが、状況的にウチの女性陣は確実に拒否する。これ以上は無理だろう。しかしまぁ、念のためハンドサイン教えといて良かった。・・・後が怖いが仕方あるまい。必要経費と思おう。

 

 

「あの日・・・あの日に、私が既に王であったなら。貴方の望む存在であったなら!貴方を、何処へも行かせはしなかった!」

 

 

再び彼女の顔に狂気が浮かぶ。激情をそのままに、思いの丈をぶつけるように叫んだ。放出する強大な鬼気に比例するように、彼女の身体が小さくなるような錯覚、元から小さな彼女が、更に幼子の様に思えた。

 

思わず叫ぶ彼女を抱き寄せる。妙な手ごたえ、どうも嫌がっている感じ。抱き寄せは中止、と思ったら彼女から身体を寄せてきた。素直じゃないな、と彼女らしさに内心苦笑いする。

 

落ち着けよ華琳。例えあの時既にお前が王だったとしても、俺はやることがあったし、結局旅を続けたさ。後悔なんてらしくないぜ。

 

「嘘ね。貴方は誰にも目的を話さないけれど、それは誰に話しても貴方の目的を叶えられないからでしょう。否、理解が得られない、のかしらね?だから貴方は旅をした。どこかに肩入れし続けるわけでもなく、目的の為に自ら渡り歩いた!

 

・・・でも、それはつまり、理解者がいて、目的を叶える為のきちんとした協力が出来れば貴方が旅を続ける理由はないという事。違うかしら?」

 

 

・・・まぁな。

 

本当にそれが出来たら、確かに俺がこうしてちょろちょろ動く必要は無かったかな。

 

そういうとやはりね、と華琳は少し寂しそうに笑い、その後方では驚愕する声が聞こえた。まぁ、誰にも話してないから仕方ないね。

 

しかし良くそこまで分かったな。俺が誰にも話してない以上、よっぽど俺の事を調べて考えてないとそこまで俺を理解できない筈だが。何故なら当時の俺はそこまで詳しく考えて動いて無かったからな!流琉仲間にした時とか殆どその場の勢いだぜ!というか三羽烏とか董卓組、袁術組以外はだいたい流されただけ!

 

 

「考えていたわ。ずっと。貴方のことを、片時も忘れた事はなかった。いえ、気付いた時には忘れられなくなった。」

 

ははは、まぁ記憶に残りやすい見た目なのは自覚している。そういって戯ける。即座に茶化さないで、と懇願される。あ、はい。どうも空気を軽くして誤魔化すのは無理らしい。

 

「その頃には、貴方が私以外の女といる事に、少しずつ不満を感じ始めていたわ。でも、考えないようにしていた。貴方を思う秋蘭がいたし、私は覇道を進む者。色を好んでも色にのめり込んではならない。王とは、孤高であるもの。そうでしょう?」

 

 

そうだな。少なくとも俺は華琳の中にそんな覇王を見たな。

 

だから俺も此処に長居しなかったわけだし。

 

 

「・・・道玄?」

 

どういう事ですか、と問い掛ける愛紗にハンドサインで後でな、返事をする。今は華琳さんだ。

 

「・・・やっぱり、貴方は私を誰よりも理解するのね。嬉しいわ。

 

 

 

・・・そうよ。結局私は貴方を諦められなかった。

 

私の中の女が、貴方をずっと、ずっと求めて止まなかった。」

 

「なのに貴方は私の側にいない。いつだって他の女の側にいる。私以外の、女の為に動いている!それがどうしても、我慢出来なくなって・・・ッ!」

 

 

 

そうか。まぁだいたい理由は分かった。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そう言って強制的に会話を切ると、そのまま華琳の腰を両手で掴む。彼女が驚愕するのを無視して持ち上げ、俺の上から下ろす。立てるように床に立たせたのだが、下半身の力が抜けたかの様にへたり込む。

 

椅子代わりの寝台から立ち上がり、華琳を見下ろす。んじゃな、どう声をかける。華琳どころか全員が呆然とするのが分かるが無視だ。何故?と華琳が呟いた。

 

「何が足りないの?関羽達や秋蘭達が良くて、私だけが違うのは何故?・・・道玄、何故貴方は私の下を離れていくの?」

 

 

理解できない、と呆然としたまま話す華琳。

 

違うね、お前は理解できないんじゃない。自分の理想と想いが絡まって、どうしたいかという考えから逃避してるだけだ。

 

中途半端な状態で、決断を拒否して、お前の中の俺を扱いかねているだけだ。だからこそ、こう答えよう。

 

「お前が、俺の為に王であるうちは、俺とお前の関係は変わらん。」

 

それだけだ、と背を向ける。

 

 

実際、華琳の元に留まらない事に難しい理由は本当に無かった。

 

まぁ確かに俺は元々誰かに仕えるつもりなどなかったし、俺と関係を持った後に愛紗達がそれぞれ別の主人を望んでも、その主人に敵対はせずとも仕える事はなかっただろう。最悪、()()()()()()()()()()()()()()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()しな。

 

そんな俺が、仕えても良いかな?なんて考えるくらいには、俺自身かなり華琳を気に入っているんだろうし、その自覚も既にある。だが、だからこそ俺はまだ華琳に仕える事はない。何故なら、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

いつか華琳自身が言った。俺に相応しい存在になって俺を臣下に迎えると。俺はその時はまだ誰かに仕える気など微塵もなかったから、気のない返事を返した。

 

だが、そんな彼女の努力する姿や在り方を見るうちに、彼女に仕えることも考えるほどに感化された俺は、1つだけ決意したことがある。

 

 

それは彼女が努力するに足る、彼女が望む俺であり続けること。

 

 

「圧倒的強者である俺」を「臣下にするに相応しい存在」である為に努力を続け、日々覇道を邁進する華琳に応えるには、俺は「華琳が様々な努力の果てに手に入れる価値のある存在」であるべきだと思ったのだ。それが特典任せで本来なら大した価値のない俺の為に努力を重ねる彼女に対しての俺が出来うる最大の誠意だと思った。

 

 

だからこそ、華琳が俺への恋慕で自分が俺に相応しい王として揺らいでいる事に苦悩した時、華琳自身が望む理想の覇王であれるように俺の方から線を引いた。

 

他でもない俺自身が、俺に相応しい存在になる努力をする華琳の妨げになると知ってしまったから。

 

華琳が最初に求めた豪傑たる俺。そこに想い人としての俺を重ねてしまった彼女は、自分がどうあるべきか分からなくなっていたんだと思う。王であらねば俺は臣下にならない。だが、恋人、あるいは夫としても俺といたい。劉備あたりなら臣下のまま恋人になっちゃえばいいんだよ!なんて呑気なことを言いそうだが、俺の為に理想を目指した華琳はそれが出来なかった。恐らく、そうしてしまえば自分が俺の望むものとは別の存在になると彼女は考えてしまったのだろう。

 

 

彼女の中で、俺が仕える王としての自分と、俺と愛し合う恋人としての自分は違い過ぎた。だからそんな自分は同一に存在しない、どちらか片方しか選べない。

 

俺を臣下にすれば。王である彼女は俺と恋愛的には結ばれない。

 

俺を恋人にすれば、彼女が求めた臣下としての俺は手に入らない。

 

 

実際のところは全て置いといて、恐らく華琳はそんな思考のループに嵌まってしまったんではなかろうか。

 

だから俺は華琳が悩まないように、臣下にしたい俺であり続けた。彼女が、俺と出会ってから生まれた恋慕の感情。その気持ちは非常に嬉しかったが、俺みたいな蛮族相手にそんな感情を抱いてしまうのは間違いだと思ったし、彼女の努力を、苦労を知った俺には、一時の気の迷いかもしれない感情で、彼女が必死に積み上げてきた日々を、否定しまうのが嫌だった。

 

 

だから何かと理由をつけて、彼女の下で働いている時も彼女の側での仕事はほとんどしなかった。俺がなるべく警邏隊に居ようとしたのも、華琳との接触を減らす為だった。

 

 

まぁ、だから劉備さんの事で華琳に思いっきり頼らねばならなかった時とか割と断腸の思いだったわけだが。劉備さんマジ許さない。後で村の桃買い占めてやる。そして流琉と2人で美味しく調理した挙句分けてやらない。今や流琉の料理はそんな脅しになるくらい旨さがあるのだよ!ふははは!

 

 

長々と語ったが、そんな訳で未だどっちつかずの状態の華琳には俺も応えてやれぬ。彼女が今回とったやり方は王としても、ただの華琳としても中途半端だ。支離滅裂ギリギリの話し方だったし、訳分かんなくなったままここまで来てしまったのだろう。

 

 

どうにも追い込んでしまったのは俺らしいので申し訳なさも感じるのだが、此処は厳しく行かなければならない。彼女がどうしたいかは分からないが、今の彼女は()()()()()。何故なら、俺の知ってる華琳は、誰かに媚びるような真似はしない。どの様な立場にあっても、彼女の誇り高さは曇らないはずだ。

 

 

そんな事を考えながら華琳に背を向け、ウチの女性陣の方へ向かう。

 

グイッ

 

向か・・・向かえなかった。後ろ足のズボンを華琳が摘むようにして引き止められていた。しかし振り向かない。

 

「・・・いや。」

 

そう小さく呟いた華琳。

 

その姿は普段の威厳をまるで感じさせなかった。先ほどまで彼女を中心に渦巻いていた狂気的な鬼気もいつの間にか失せていた。

 

俺を僅かに摘んだ右手が微かに震え、行かないで、と想いを叫ぶ瞳は涙で潤んでいた。そこにかの覇王の姿は何処にもなく、年相応の少女にしか見えなかった。

 

駄目、と彼女が霞むほど小さな声で囁き、へたり込んだまま、今度は縋る様に、両手で俺の足を掴む。

 

 

「貴方は私のものよ。何処にも行かせないわ。・・・何処にも、行かないで。」

 

 

 

ズキュゥン!

 

 

 

何この可愛いはおーさま。最強かよ!

 

俺の誓いが秒で崩れそうになる。即振り返って頭を撫でそうになった。むしろならなかったのは奇跡と言っていいだろう。

 

 

ピタ、と身体が固まる。振り返りたいが気合いで堪える。何時もなら動きが止まった時点で愛紗達に腕を引っ張られるが、あの殺気立っていた愛紗達でさえ俺の後方、華琳を見て固まっている。どっかの華琳大好き2人は、さっき俺と甘酸っぱい空気を出したとは思えないほど鼻血出しながら華琳しゃまー!状態だ。たぶん直視できる皆には、広過ぎる視野でうっすら確認しているだけの俺よりも遥かに可愛い華琳が見えていることだろう。

 

 

ああああ、振り返りたい!振り返りたいが・・・!

 

が、我慢だ俺!ここで負けるな俺!ここで負けてはならないんだ俺!

 

彼女が正しく覇王である為に、ここは心を鬼にするんだ俺!人に厳しく自分にもっと厳しく!そういうの凄い苦手だけど頑張れ俺!

 

何とか一歩を踏み出す。後たった10歩ほどの距離。びっくりするぐらい足が重く感じる!死ぬほど後ろ髪引かれるけど・・・!ま、まけぬ!

 

ふと前を見たらもはや俺を見てない女性陣。レズっ気のある雪蓮なんか俺の代わりに華琳を抱きしめそうな勢いで身体が前のめりになっている。

 

しかしそれでも!

 

歯をくいしばって更に一歩を踏み出す。

 

それでも、守りたい世界があるんだー!!

 

 

うおおお、俺は修羅になるぞジョジョー!!

 

 

「お願い、道玄・・・、こっちを見て。私を、見て!」

 

 

 

はい喜んでー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

可愛いはおーさまには勝てなかったよ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イチャイチャ、イチャイチャ。

 

 

「離れてください。そこは私の場所です。」

 

 

「知らないわ。この国に於いてこの場所は私の場所よ。」

 

 

「ならば今すぐその首を落としましょうや。そうすれば名実共に私のものですな?」

 

「させるわけないだろう。今日からここは私達の場所だ。諦めて帰るが良い!」

 

「姉様、殺しましょう。待つ理由がないわ。」

 

「そうね。冥琳?」

 

「とうに指示は出してある。お前達はどうだ、凪。」

 

「いつでも殺れます。」

 

 

まぁまぁ皆落ち着けよ。いつもはお前達が優先されているのは確かだし、今日ぐらい「「ああ〝〝!?」」すいません調子に乗りましたごめんなさい。

 

 

現在。

 

結局可愛い過ぎるはおーさまには勝てず、振り返って抱きしめてしまった俺は、衆人環視の中戦争で離れ離れになった恋人同士の再会並に劇的なハグをかました後、それはもうディープなキスをした。

 

そして、そのまま人間のドロドロなアレを見せない為にちびっ子組と一緒に避難させてた璃々に隙間から覗き見られてガチ落ち込んだ。

 

今は少し落ち着いて、さっきと同じ様に華琳を膝の上に乗せながら周りを春蘭達に固められている。もっとも華琳は先ほどと違い俺に向かい合う様に膝の上に座っているので、先ほどから猫の様に顔を擦り付けてきたり甘噛みしたりキスしたりとイチャイチャっぷりが跳ね上がっている為、先ほど華琳の可愛さにやられていた女性陣が正気に戻ってしまい、再び修羅場に突入してしまった。むしろ先ほどより苛立っているだろう。超怖い。

 

なお、肝心の華琳は無茶苦茶ご機嫌である。膝の上で誰だこいつレベルで可愛らしくしていて、私は貴方の前では覇王でありながらただの華琳でもあることにしたわ、と、とても楽しそうに笑った。無茶苦茶可愛い。色々吹っ切れたみたいでそれはいいけどもうそろそろ女性陣煽るのやめて?あ、駄目?了解でーす。

 

元気一杯な曹仁さんと一緒に、覗いていたちびっ子どもを遊びに行かせて良かった。これは教育に良くない。何が良くないって曹仁さんの居なくなった背中側を争っているのが黄忠と陳珪さんっていうね。お前は一体何してんだ、紫苑ェ・・・。

 

 

んー、これ以上は不味いな。華琳が可愛過ぎてされるがままになって居たが、これ以上は流石にヤバイ。愛紗が俺に触れなさ過ぎる&他の女が触り過ぎるでどんどん顔から表情が無くなっていってる。

 

仕方ないのでそろそろ何とかしよう。ちょうどうちの女性陣と争っているので俺自身の拘束は緩い。さっくり手足を引き抜いて立ち上がり、華琳を引き剥がす。

 

私じゃ嫌なの?と本当に俺の知ってる華琳じゃないような事を言われるが、苦笑いして誤魔化す。華琳を寝台の上に降ろすと同時に愛紗が右側に抱きついてきて、左側にはなんと蓮華だった。いつもの星や凪は春蘭達と睨み合ってて出遅れた様だ。唖然としている。反対側の秋蘭や、桂花と争ってた冥琳はしてやられた!って顔をしている。

 

もう離しません、と苛立ちを露わにしがみ付く愛紗を見て、やれやれと、どう宥めるか考えていたら後ろから軽く衝撃、ついでに軽い重み。

 

鈴々が戻って来たのかと思ったら、鈴々よりずっと長い脚が見えた。あれ、この脚は恋か?いきなり肩車したから鈴々かと思った。どうしたいきなり。なんかあったか?

 

「・・・恋も、したくなった。」

 

肩車をか?鈴々みたいだがまぁよかろ。とりあえずそのままにして、雪蓮に向く。このままじゃここに来た意味無いしな。おい雪蓮、ひと段落ついたし、よく分からんが華琳に用があったんだろ?それは良いのか?

 

「・・・あー。確かにこんな予定じゃなかったわね。ある意味今既にやってると言えばやってるけど。」

 

「確かに。何を仕掛けて来てもおかしくはなかったが、流石にあそこまで強引な手を打ってくるとは・・・!」

 

え、何それ。心理戦的なサムシングだったのか。って事はあれ一応華琳の策でもあったのか。本人が情緒不安定過ぎてなんか最後の方よく分からない感じだったけど。あのまま行ったらたぶん華琳と俺でキングゲイナーのオープニングしてた。

 

「当然よ。まぁ、私が王となり、道玄が私の領地に足を踏み入れている時点で私の勝ちは決まっていたけれど。」

 

やや不満そうな顔しながらはおーさまから覇王様に戻った華琳がそんな事をいう。え、俺関係してんの?マジで?初耳ですけど。

 

そんな俺を差し置いて、孫呉と曹魏のみんなの言い合いが続いている。祭が凄い勢いで秋蘭と睨みあってたり、華琳と雪蓮が無言で覇気のぶつけ合いみたいなこの状況。俺に説明してくれる親切な人は1人もいないらしい。

 

うちの女性陣は割と静観の構えだ。星とか凪とかは普通に混じって睨みあってるけど。その横で流琉が季衣ちゃんと仲良く話してるのが凄いシュール。どうでもいいけど季衣ちゃんよく分かってないみたいだから混ぜないであげてね、流琉。

他の皆はどう成ろうと俺と共にあるのは変わらないらしい。いや、それは嬉しいけど、まず俺がどう関係してるか教えてよ。訳が分からん。そう言っても当然の如くスルーされた。

 

 

どうしたもんか、と頭をかく。埒あかんなこれ。

 

 

こうなったら一旦放り投げて帰るか。もうウチの娘達と璃々に癒やされたい。そう提案すると引っ付いていた3人と、蓮華の側に控える思春から賛成が取れたので、抜き足差し足でひっそり天幕から抜け出す。

 

 

 

 

そんな時だった。

 

 

「どこへ行くんですか?」

 

 

唐突、としか言いようがない。

 

 

 

正しく唐突にそれは来た。俺の知らない圧倒的なオーラを纏い、強烈な熱気と共にやって来た。

 

 

 

「駄目ですよ、道玄さん。ここは分水嶺。この中華の行く末を左右する、大事な大事な分水嶺。貴方が逃げちゃ駄目です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

王。

 

 

 

 

それ以外の認識が出来ない。

 

大きな声では無い。威圧感があるわけでも無い。普通に話しているだけなのに、否応なく全身に染み渡る、声。

 

 

嫋やかな佇まい。殺気も殺意も感じないのに息苦しく感じる程に強大なオーラが漂う。彼女はその瞳に決意を込めて、強い意志を吐き出すように言った。

 

 

「さぁ、参りましょう。今日が歴史の転換点です!」

 

 

・・・その前に1つ良いだろうか。

 

 

「?・・・何でしょうか?」

 

「誰だお前。」

 

 

 

 

世界が凍った。

 

 

 

 

 

 

・・

・・・

 

 

 

あ、ありのままに今起こった事を話すぜっ!

 

この場を離れようとしたら王に話しかけられた!

 

王だと思ってたら劉備さんだった!

 

な、何を言ってるか分からねーと思うが俺も分からねー!

 

あれは演技だとか、猫被りだとか、そんなチャチなもんじゃぁ断じてねー!

 

頭がおかしくなりそうだぜ・・・!

 

 

 

「もうっ!そこまで言わなくても良いじゃないですかぁー!!」

 

酷いです!!とプンプン怒る劉備さん。

 

そう、さっきの覚醒したメルエムさん並に王。なオーラのカリスマはまさかの劉備さんだったのだ。

 

 

いや確かに見た目とか何も変わってなかったけどマジ分からなかったレベル。どんな進化をしたらこうなるのか。え、まさか原作だと最終的にこうなるの?

 

 

・・・原作やっておくべきだったか。

 

 

今更だが反省しておく。まあ次に活かせないからどうしようもないけど。まぁいいや、俺たち飯食いに行ってくるから積もる話は後にしてくれ。華琳ならあそこで雪蓮となんか睨みあってるから。んじゃな。

 

「ちょちょ、ちょっと待って下さい道玄さん!話聞いてました!?」

 

あれ、一刀君じゃんおひさー。さっきの戦いは見事だったぞ!うちの女性陣も褒めてた。華琳と一緒にいるから是非報告しといで。あと俺飯作ってるって女性陣に伝えといて。何気さっき覗いてたちびっ子達が俺の為に華琳が用意したらしいご馳走たべちゃったから自前で用意しないと。なぁ恋、華琳の手料理は美味かったか?あ、一緒につまんでたのは知ってる。はは、凄いスピードだったな。怒ってないから安心おし。

 

「あ、お久しぶりです。本当ですか!?いや師匠達に褒められると嬉しい・・・ってちがぁーう!何普通に世間話して帰ろうとしてるんですか!何の為に此処に来たんですか貴方は!?」

 

おお、ナイスなノリツッコミ!相変わらずキレッキレだな!あ、劉備さん、後ろの愚連隊みたいな暑苦しい熱気を放つ兵下がらせて。鬱陶しいし、こんなにたくさん天幕に入らないぞ。え、近衛兵?知らんよ

 

さておき、何の為とか言われても・・・雇用主の孫策について来ただけだし。特に目的はないよ?

 

しぶしぶ兵を戻らせる劉備さんを横目に、一刀君にそう言ってやる。そう言うと兵と戻らなかった太眉の女の子達が驚き、先頭の十文字槍を持った女の子はとぼけるな!と怒り出す。とぼける?何をだよ。

 

「ちょ、落ち着いて翠。この人相手に喧嘩売っちゃ駄目だよ。道玄さんもこんな時までふざけないで・・・あの、ふざけてるだけ、ですよね?」

 

俺のこのキョトン顔が冗談に見えるか?

 

「北郷殿、彼は本気ですよ。」

 

「一度ちゃんと説明したけど、妹達と遊ぶのに夢中で聞いてなかったらしいわ。」

 

ええええ・・・!と驚愕する劉備さん達。槍を持った太眉な女の子達がマジかよお前、みたいな顔をするがマジで何の話かわからぬ。というかこの太眉さん達は誰だ。華琳さんも劉備さんも俺の知らない人材だし過ぎだぜ。あ、どうも。私は羌毅と申す。見ての通り蛮族どすえ。ちなみこちらは孫権。孫策の妹です。さっきから楽しそうにキョロキョロしてる上の子は呂布。2人は初対面だよね?

 

「あ、すいません。こっちの子は馬超で後ろが馬岱、その後ろのってええっ!?孫権っ!?そんでもってりょりょ、呂布ぅ!?」

 

あの万夫不当がこの女の子・・・?と驚きまくる一刀君。まぁ驚くよね普通は。呂布と言えば普通はモリモリ筋肉の俺みたいな大男を思い浮かべるもん。まさかこんな少女だとは思うまい。俺も前世知識がなければ詐欺を疑う。それはそうと一刀君、紹介されてない2人が不満気な顔してるよ?あと劉備さんが1人キョトンとしてる。まぁ太眉さん達は会ってないだけで反董卓連合来てたらしいけど、一刀君と劉備さんは来てないからね。知識で知ってる一刀君は分かるけど、劉備さんは分からないよね。

 

言われて気付いた一刀君は、劉備さんに説明を始めてしまったので、本人たちが自己紹介してくれた。何故か馬岱さんもしてくれたが、残りの2人は馬休さんと馬鉄さんというらしい。へー、またしても前世の2次創作知識に無い人達が出てきたぞ。オリキャラはどう扱えばいいか分からないから困るね!

 

その辺りで劉備さんが一刀君から説明を聞き終えたらしく、驚愕の声を上げた。そして俺の頭の上の恋をいきなり勧誘し始めた。そして話してる途中で拒否られた。

 

「恋、だんちょの女。だんちょの側が、恋の居場所。何処にもいかない。」

 

え、何この子。急にきゅんと来ること言わないで感動するだろ!でもありがとう嬉しいよ!とりあえず頭を撫でて感謝を示す。肩車してるから非常にやりにくい。恋が身体を屈めてくれたので何とか撫でる。

 

 

あの呂布が・・・!と驚愕しまくってる馬家の皆さん。なんぞ?と不思議に思ってたら、反董卓連合の際、俺らが後方待機している時、孫策と一緒に呂布に挑んで全員薙ぎ払われたらしい。退き際を無視した馬超さんなんかは孫策と一緒でうっかり死にかけたとか何とか。

 

 

そうだったのか。いや、恋と戦って良く生きてたね。うちの女性陣が10人単位で戦わないと本気も出させられないレベルなのに。そう言って褒めたらいやぁ其れ程でも!と照れて嬉しそうになる馬超さん。さっきまでの剣幕は一瞬でなくなった。あ、げろチョロだなこの人。

 

 

「まぁその私達が束にならないと勝てない呂布を含めた全員を相手にして無傷なのが道玄なのですが。」

 

 

「しかもそれで全力でないからな。私の剣で跡もつかない・・・!」

 

 

「だんちょ、強い。」

 

「あはは、見ているだけの私でさえ有り得ないって思うから、実際に刃を交える愛紗達は余程でしょうね。」

 

 

え、何それ怖い、と馬岱さん達が一歩下がる。あ、反董卓連合の時の俺と恋の闘いは見てないの?馬超さんの看病してた?なるほど。

 

その言葉で褒められて舞い上がってた馬超さんは固まった。劉備さんと一刀君はまたお前か、みたいな顔でジト目である。失礼な!俺は素手だから刃を交えた事はないぞ?え、なに思春、余計に駄目?

 

 

こら、知らない人の前で人をバケモノみたいに言うんじゃない。これでも必死でやってるんだぞ?

 

「それは私達に怪我をさせないように、の話であって、負けないように、ではないでしょう?」

 

・・・はは、何を馬鹿な。

視線が泳いでる?き、気のせいだよ!

 

ジト目の女性陣の追及から目を逸らして誤魔化す。慣れている愛紗はもはや諦めムードだが、思春はまだちょっと悔しいらしい。そんな目で見るな。手を抜くと怒るのお前達だろ。

 

咄嗟に左手に巻きつく蓮華を思春ごと押し飛ばし、その手でそのまま肩の上の恋を片手で引っこ抜いてそのまま上に投げる。右腕の愛紗は腕ごと背中に隠す。次の瞬間!

 

ガキィッ

 

俺の左胸に十文字の槍が殺到し、しかし皮膚一枚通らず弾かれた!

 

「っ!?」

 

落ちてきた恋が危なげなく元通りに肩に着席する。蓮華は驚愕しているが、思春は反応してくれたようだ。転ける事なく着地し、武器を抜いて鋭い視線をこちらに飛ばしている。争いになりそうなので先に話しかけるか。

 

おい、いきなりするのは構わんが、他に人がいる時は最低限配慮しろ。巻き込んだらどうする。

 

「は、弾かれた?生身なのに?」

 

いや、聞けよ。

 

何でか急に馬超さんに攻撃されたでごわす。最初から目的は俺みたいだが、あれだけ密着してたら女性陣も危ない。そこはマジで気をつけてもらわないと困るよチミ。

 

「どう言うつもりだ貴様ッ!!」

 

「ちょ、お姉様っ!?いきなり何してんの!??」

 

「翠ちゃん!?何を!?」

 

一歩間違えれば蓮華が巻き込まれていたので、案の上ブチギレた思春と、予想外だったらしい馬岱さんと劉備さんが馬超さんに詰め寄る。一刀君達は予想外過ぎてまだ固まってる。おやおや、一刀君、いくら強くなってもこの程度で固まってたら駄目だよ?戦場で止まることは死を意味するって教えたろ?

 

「ハッ!?す、すいません、油断してました・・・。あの、大丈夫ですか?」

 

ん?大丈夫大丈夫。恋も蓮華にも怪我はないよ。俺?俺を殺したきゃせめて音速以上で攻撃しないと。にしてもいきなりどうしたの馬超さん。脈絡なさ過ぎて少し驚いた、あの子戦闘狂か何か?

 

「い、いえ、そんな事は無いです!す、翠、どうしていきなりこんな事を!道玄さんのことは散々教えただろ!?」

 

「あ、いや・・・ごめんご主人様、余りにも隙だらけだったから本当に話の通り強いのかって疑問に思っちゃって。つい・・・。」

 

「つい!?ついでいきなり人に攻撃したのお姉様!?あ、頭大丈夫?」

 

 

ああ、何となく殺せそうだったからか。まぁ俺自分の身に関しては警戒とかまるでしてないからな。殺しやすく見えるよな!はは、ウケるw

 

ん?何蓮華。何がおかしいって?そんな怒るなよ。お前の姉も初対面あんな感じだったぞ?寧ろもっと殺意全開だった。思い出して笑いが止まらないぜ。

 

「姉様・・・!い、いや、それどころじゃ無いでしょ!貴方今命狙われたのよ!?」

 

「うるさいわね、さっきから何を騒いでるの蓮華。・・・あら?どういう状況かしら?」

 

「道玄、伴侶の私を置いてどこに・・・劉備、説明して貰えるかしら?」

 

「主人、私達を置いて逃げるなど・・・むっ?」

 

あ、いっけね。抜け出したのバレた。どう誤魔化そう。そんな事を考えながら愛紗の肩を抑えて引き止める。待て待て、誰も怪我してないから落ち着け。

 

「え?うわっ!いきなり何するんだお前!」

 

「きゃぁっ、嘘っ、いつの間に!?」

 

「邪魔しないで下さい、道玄。下手人を仕留め損ねました。」

 

俺が止めた事でギリギリ愛紗の矛が馬超さんの胸を貫く事なく止まり、気付かなかったらしい馬超さんと馬岱さんが驚く。どうでもいいけどいきなり槍で突いた人のセリフじゃないよ、馬超さん。

 

「うぐっ、武人の癖に油断する方が悪いだろ!?」

 

いや俺武人じゃないし蛮族だし。常在戦場関係ないし。というかうっかりやらかして引っ込みつかなくなってるのは分かるけど落ち着け。落ち着いて自分の非を認めて謝罪しなさい。俺は特に怒ってないからそれで治まる。つか、俺だって腕は二本しかないから抑え切れない。

 

「何を言ってーー・・・ッッ!?卑怯だぞっ?!」

 

いや、だから君が言うなって。

 

まぁでも皆も落ち着け。誰も怪我してないから。

 

そう言って周りの皆を牽制する。いつの間にか皆が劉備さん達を完全に包囲して武器を突き付けていた。

 

流石にこの状態のヤバさが分かるらしい劉備さん達が慌てている。馬超さんもやらかした事を漸く察したようで、ちょっと顔が青い。

 

「よく分からないが、我が伴侶を馬超が手に掛けようとした、ということか?答えよ、劉備。」

 

「まだあんたのものじゃないわよ、華琳。まぁそれはさておき、どうなの劉備。事と次第によっては・・・分かってるわよね?」

 

 

「・・・すいません。私の監督が行き届いて無かったです。」

 

 

ああ、もう誰も話聞いてないな。完全に劉備さん達を処断する構えである。いいじゃないかうっかりなんだし。俺にダメージ無いし。まぁこれが女性陣にやったならもう木っ端微塵にしてる。あの地球人の様にな!誰だよって話だよねー。

 

やれやれ、と一歩前に出る。仕方ないので鎮圧しよう。おい、と馬超さんに声を掛ける。

 

なんだよ、と武器をこちらに向けて威嚇する馬超さん。完全に引っ込みがつかなくなってるらしい、後ろで顔真っ青の馬岱さんが怯えている。やれやれ、とため息を吐いた。そして俺に向けられた馬超さんの十文字の槍の穂先が交差する部分を掴む。

 

グシャ

 

「ハァッ!?わ、私の銀閃がっ!!」

 

さっくり握り潰してやると馬超さんが驚愕し叫んだ。そこで全員の意識がこっちに向いたのでもう一度落ち着く様に言う。今度は聞こえたらしい、武器は降ろさないままだが、皆闘気を消した。

 

やれやれである。とりあえず馬超さんには俺はともかく、他人に配慮しなかった罰だと言って砕いた武器のカケラを更に握り潰し、粉末レベルにしてサラサラと目の前で地面に捨てる。これで手打ちだ。文句は?ないな、よし。

 

勝手に話を終わらせ、納得のいかない連中が騒ぐ前に俺から話を切り出す。おい雪蓮。

 

「私?なによ?」

 

なんかさっきからやたらと何のためにここに来たかって怒られるんだけど。何か理由とかあったの?誰も教えてくれないんだけど。

 

 

「あんたねぇ・・・!私が何度軍議で話したと思ってるのよ!!再三確認もしたのよ!?」

 

そうなの?すまん、軍議なんかより娘と遊ぶ方が優先順位高いんだ、俺。そう素直に言ってみる。あ、雪蓮が落ち込んで冥琳に泣き付いた。

 

「いや雪蓮、お前も戦場ではあんな感じだぞ?私の話毎回無視するし、無茶な突撃はするし。道玄は兵に被害がない分、お前の方が酷い。」

 

はぅっ、と胸を押さえて仰け反る雪蓮。心当たりがあるようで、今までごめんね、と逆に反省しだした。いや、それはいいから。

 

「あんた本当にどこでも軍議聞かないわね・・・。」

 

疲れたような顔の桂花がやれやれと頭をさすりながら言った。

 

 

 

「いい?一回しか言わないから良く聞きなさい。ここに皆が集まった理由それはーー・・・、

 

 

あんたの所属を決めるためよ。」

 

 

 

 

・・・え、何それ俺の意思は?

 

 

 

 

だから何度も話したって言ってんでしょうが!と、全員から怒られました。

 

 

テヘペロリン!

 

 

 

◼️

 

 

「議論の余地など何もないわ。私と道玄は既に夫婦。我が曹魏こそ彼の無二の居場所よ。」

 

「貴女が勝手に決めた、貴女の国の中だけの話でしょう?そもそも道玄の了承を得てない時点で話にならないわ。どう考えても彼の寵愛を受ける女が数多く居る我が孫呉こそがふさわしい。」

 

「愛人の数で道玄さんを語らないで下さい。あの方はアレで自分から女性に手を出したりはしないです。愛人が多いということはそれだけ貴女達から迫ったというだけのはしたない話、何の自慢にもなりません。かねてよりずっと協力関係にあった私達と共にあるのが自然でしょう。」

 

 

険悪、という他ないプレッシャーの中、絶賛三国会議(仮)が行われております。ちなみに(仮)がつくのは、正式に国として独立を果たして居るのは魏だけだからだ。孫呉とか劉蜀とかは国民に通達してないのでまだ国じゃないが、一応天下は殆どこの3人の誰か、という事でこうなったらしい。

 

華琳はきっちり覇王様モードだし、雪蓮は珍しくシリアスな面構えである。そんな覇気溢れる2人と平然とやりあえてるのがあの劉備さんだと思うと、正直夢でも見てる気分だ。この人いつの間にこんな進化したんだ?え、原因俺?・・・どうしよう、まさかあの八つ当たりでここまで人間性変えちゃうとか。今更謝罪しても駄目だよね、ヤバい。

 

 

さて、あの後だが結局話を有耶無耶にし損ねて、逃げ出したことを皆に叱られた。そしてその後なんやかんや揉めたが、とりあえず俺たちも長い行軍して来たし、華琳と劉備さんは今日戦が終わったばかりだ。お互い疲れているし、まずは休もう!との事で、一旦解散し、会議は翌日の昼以降に持ち越しになった。

 

 

そしてそのまま女性陣に昼間の態度はなんだ!と怒られ、特に長く定位置を奪われていた愛紗なんかは何の容赦もなかった。そしてさも当然の様に交じった秋蘭を含めた女性陣全員のお相手をさせらていたところ、特別待遇の捕虜扱いだった顔良と田豊がお礼を言いに来たと言って天幕に侵入、何故か事を覗くという事態になり、またしてもいつの間にか覗きに来ていた黄忠や美羽達も連座で発見されたことで何とか三日三晩くらいでお開きになった。俺的には結果オーライだ。

 

最近は人数が増え過ぎて夜は早く爆睡しちゃう筈の俺が徹夜に慣れるという異常事態もさる事ながら、最近またしても精力が強化されたらしい俺の身体にも疑問は尽きない。

 

それと、袁紹さんと文醜さんは騒がしいので2人とは別々に隔離されているらしい。2人は心配していたが、フォローする2人がいない以上無茶は出来ない筈なので、袁紹さん達が解放されるまでの短い休暇を素直に楽しめ、とアドバイスしておいた。心配で逆に休まらない、と即答される。これがワーカーホリックか。

 

仕方ないのでしばらく俺たちと一緒にいる事を提案する。何せウチにはスーパー料理人の流琉が居る。あの素晴らしい料理の数々と、うちの娘達と璃々の愛らしさがあれば癒されることは必至である。むしろ逆にハマって抜け出せなくなるレベル。おまけに今は仕事が終わったばかりなので丸ごと休暇である。前世の俺ならそのまま堕落する幸せ空間だ。

 

そんな話をすると2人も案外乗り気だ。心配だけど偶には解放されたいらしい。よかよか、しっかり癒されるといいよ。そして是非また2人の保護者頑張ってくれ。万が一にも俺は嫌だ。なんて内心はもちろん語らずにおく。

 

え、対価?いや別に何もいらないけど?あれ、何で顔赤いんだお前ら・・・あっ(察し。

安心してくれ、誰に言われたかはあそこに居るメンマで大体把握した。もちろん対価に身体を要求したりしないので、気兼ねなく休む様に。俺はちょっと今から用事が出来たので失礼する。またな!

 

逃げるなこの残念メンマコラァ!

 

 

・・・そんなこんな流れであっという間に翌日の昼。俺だけ一切疲れが取れないままに三国会議に出席である。正直既にどうでも良い気がする。

 

なお、この会議は代表者こそそれぞれの王がやっているが、周りには俺と関係の深い者達が並び、各々言い争っている。何でも俺を慕い、本当に俺と未来を想える者だけがこの場に立つ資格がどうとか言ってた。俺を想うならまず俺の意思を確認しようよ・・・。

 

 

ちなみに、一応女性以外にも良く酒を飲んだ男性兵や仲の良い一刀君も並んでいたのだが、女性陣の覇気についていけず、始まって五分で壁際に並んで置物と化している。

 

 

どうやらこれが以前祭が言ってた祭が行かねばならない理由って奴の様だ。なるほど、このために華琳は俺の知らない女性をも連れて来たのか。俺が知らない時点で意味ないと思うけど、数が多ければ発言も増える、ということか。

 

 

 

とはいえ、それなら確かに孫呉が1番強い。なんだかんだ俺が手を出した相手が1番多いし。まぁ劉備さんの言う通り、そんな理由で所属を決めるわけじゃ無いしなぁ。というかその方法なら蜀は始まる前から惨敗である?

 

にしてもあれだな・・・なぁお前ら、もし何処かに所属するとしたらどこにする?

()()()()()()()()()()()()、ちょっと気になってウチの女性陣に聞いてみた。ちょうど俺の膝の上で眠る璃々に薄手の毛布をかけてくれた愛紗が、即答で魏以外ですね、と答える。他の皆もとりあえず其処は同意見らしい。ちょっと意外だ。確かにあの場の誰とも仲がいいが、中でも華琳達とは1番古株な関係の為、もっと協力するかと思ったんだが。

 

激しく言い争う3人も聞いていたらしい。露骨に華琳さんが不満気な顔をし、他の2人が1人脱落、とでも言いたげに勝ち誇る。華琳が何故、とこちらに文句を言う。当たり前でしょう、と愛紗が呆れた。

 

「彼を慕うものこそが彼を手に入れるに相応しい、というならば。常に彼の側には私達が居ます。その私達を無視して道玄の妻?あり得ません。・・・何より、道玄の正妻は私です。」

 

「勝手に決めるな、愛紗。我が主人には女が多い、お主の様な独占主義が正妻では主人が苦しむ。夫を苦しめる妻などおらぬ。正妻には私の様な大らかな女がなるべきだ。」

 

「お二人共、その辺にしましょう。妻を名乗るならまず夫の為の料理が出来ないといけません。・・・私は既に良いお嫁さんになれると道玄様からお墨付きを頂いてますが、お二人は・・・失礼しました。それ以前の話でしたね。」

 

「なはは、まぁこの3人はともかく、ウチらをおいて兄さんの正妻を気取る国はちょっと、なぁ?」

 

「沙和は正妻にこだわりはないからどうでもいいの!でも妾か愛人の立ち位置は譲らないの!」

 

「だんちょ以外じゃ、恋が1番強い。だからだんちょーの隣は、恋。」

 

「恋殿が正妻でねねが娘なのが1番ですぞ!」

 

「まぁ、私達軍師組は正妻を特に希望してませんが、頭ごなしに彼の正妻を名乗られるのはちょっと・・・。」

 

「風ちゃんも別に正妻にこだわりはないですー。お兄さんから言われたら嬉しいですけどー。」

 

「はわわ、最低限私達の中から正妻を選んで欲しいでしゅ!」

 

「あわわ、私達は娘枠でずっと一緒でしゅ!」

 

「私は兄さまの妹ですから。妻とか伴侶とか別れる可能性のある不安定な関係よりもっと固い絆で結ばれてますから。」

 

「ウチらはまぁ新参者やしな。団長から直接言われたら喜んでうけるけど、最低限妾に居られれば文句ないで。」

 

「私も最悪子種さえ・・・いや、やはり妾くらいには収まりたいところだな!」

 

「わ、私は別に正妻じゃ無くても・・・あ、でも道玄に言われたらどうしよう・・・うへへ。」

 

「えぅ、私はずっとお側に居られれば何でも・・・でもご主人様から求めらたら・・・きゃっ。」

 

「私は月と一緒に側に置いてくれれば何でも構わないわ。まぁ確かにウチの誰かが正妻な方が納得いくけど。」

 

「私は侍女兼愛人枠でお願いしますぅー。」

 

「わ、妾はお嫁さんが・・・ひぃっ!?娘がいいのじゃ!」

 

「鈴々もおっきくなったらおとーさんと結婚するのだ!」

 

 

 

鈴々が可愛過ぎる定期。とりあえずそこの3人は落ち着け、俺を挟んで暴れるな。あと美羽を脅すな。というか寝てる璃々が起きるから黙らんと向こう2週間ローテーションから外すぞ。

 

他の女性陣の落ち着いた回答に安心する。皆ありがとう。なんでこんな蛮族に惚れたのか分からんし正直趣味悪いと思うけど、大切にしたいと思います。え、ならまず浮気止めろ?俺自身はだいたいなにもしてなあっ、はいごめんさい。

 

音音の頭を撫でながら、飛びつく鈴々を優しく受け止める。とりあえずもう可愛い娘がいるからなんかもう色々どうでもいいや。おとーさんは幸せです!あ、そんな感じで魏は駄目らしいよ華琳。やっちまったな。無かったことにしたらどうだろうか?

 

「嫌よ。今まであの子達は一緒だったのだから、正妻の座は譲らないわ。何より貴方を迎える為に王まで昇りつめたのよ?妾なんてあり得ない。」

 

 

え、そうなの?初耳なんですけど。イケメン過ぎるなにその理由。あれっ、これアレじゃね?おれと華琳さんキャスティングミスじゃね?立ち位置逆の方が良かった気がする!

 

自分の女体化を想像したら頑張っても恋姫卑弥呼にしかならなかったので記憶ごと思考を放棄した。女体化?知らない子ですね。

 

そんな感じで話を聞き流しつつウチの女性陣といちゃいちゃグダグダしてたら何か三国会議がちょっとストップしていた。おや、もう終わりなの?帰っていい?駄目?そっか。

 

「というかお主らずるいぞ!儂らがこんなに頑張っている横でそんなに和気藹々と・・・!道玄、お主も何とか言わんか!お主自身の話じゃぞ!?」

 

「そうだな、結局道玄は何処に所属したいんだ?もちろん私のいる曹魏だとは思うが、いい加減お前自身の口から聞きたい。」

 

「もちろん私達のいる孫呉よね?王どころかその一族から臣下の全てが貴方の女になるわよ?」

 

「あの、むしろその通りにしたら道玄さん死んじゃうんじゃ・・・。」

 

 

一刀君がちょっとだけフォローしてくれた。雪蓮達どころか華琳達にまで睨まれてすぐ壁際に戻ったけどありがとう!その通りです!むしろ俺のためを思うなら増やさないで欲しいです。その点だけで蜀に仕えたくなるレベル。怒られるから言わないけど。

 

てかさ、何でみんな俺取り合ってんの?俺傭兵だし、もっとこう・・・交渉的なのをまず俺とするべきじゃね?

 

ふと疑問に思ったので聞いてみる。なに言ってんだこいつ、みたいな顔される。何故だ。え、俺が介入したところが勝つ?いやもう面倒だから否定しないけど、三国で何処も俺を雇わない協定でも結べば?あ、誰もそれを考えなかった感じ?ウケる。

 

「言われてみれば盲点だったわね。確かにそれなら純粋に私達の闘いだわ。被害は増えるけれど。」

 

「悪くはないわ。勝者が全てを得る。分かりやすいわね。・・・それまで道玄がお預けになるのは嫌だけれど。」

 

「それをすると私達が1番不利ですが、確かにそれなら公平です。異論はありません。」

 

 

他の人たちも不満は無いらしい。なら決まりね、と雪蓮が確認し、皆が頷く。どうやら合意が取れたらしい。やれやれ、本当に俺が怒られたのは何だったんだ。

 

まぁ言っといて何だがガチ争いはちょっと困るけども。なんか考えねば。

 

早速舌戦的なアレをしてる3人。いつの間にかこんなところまで来たんだなと思うと感慨深い。いやはや3人ともそれぞれテコ入れして来たけど、もうすぐ俺にとっての山場かぁ。いやー、長かったような短かった様な・・・。まだ三年だけど。

 

 

 

 

まぁ、皆頑張ってくれ。俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

何気なく戦線布告する。

その瞬間ウチの女性陣以外が全員ピタリ、と止まった。相変わらずこういう時だけは何故か俺の話を聞いてくれる不思議。

 

「我が主人、教えてしまってよろしかったのですか?」

 

「はわわ、警戒されてしまいましゅ!」

 

良いんだよ。これで公平だし、警戒してくれた方が俺の目論見に近い結果になる。

そういうと、一同驚愕の表情を浮かべた。そんな、と悲しそうな声が誰かの口から漏れる。裏切られたと感じたのだろうか。一応その為に傭兵なんだけどね、俺ら。

 

「道玄、一応聞いておくわ・・・どういう意味かしら?」

 

はは、当然分かってるだろうに。

俺は俺で好きにやるという事さ。雪蓮、お前が知りたがっていた俺の目的を今こそ教えよう。

 

「ーー国を造る。」

 

お前達と同じ様に、俺も俺の理想とする国を造る。

 

今までもこれからも、その為に俺はこの地を守る。

 

にやりと悪役みたいに笑ってそう告げる。王である3人が、鋭い視線でこちらを射抜く。いいね、楽しくなってきた。

 

すると視線はそのままに、何故?と問われる。華琳さんだ。

 

「何故、今なのかしら?貴方がその気なら、わざわざこの場でそれを宣言せずとも、最初から貴方1人でこの国全てを従えられたはず。それを煩わしいと思ったにせよ、それならこの場の誰かについて、乗っ取るだけで済む話。何故今なの?」

 

「それだけではないです。そもそも道玄さんが造る国とは何ですか?貴方程の人が国を造る、なんて事を思い付きで言うとは思えません。様々な下準備も無しに今、それを宣言する理由も不明です。」

 

「・・・王として聞きたい事全部言われちゃったから、私からは個人的に1つだけ。

 

・・・貴方の目的は、私達の誰かと一緒では叶わないものだったのかしら。私達では、貴方の側にいる資格は無いと、そういうこと?」

 

 

あら、やっぱそれ聞いちゃう?説明面倒なんだがなぁ。

 

んー、そうだな。俺が今この状況でわざわざこんな事を言い出したのは、この三国が揃うのを待っていたからだ。君ならこの意味が分かるだろ、一刀君。君達には諸葛亮が居ないけど、君なら分かる。そうだろ?

 

「っ!天下三分の計・・・!貴方は、やっぱりっ!」

 

正解だ、一刀君。この中華がちょうど3つに分かれるこの時を待っていた。この時こそが分かれ目だ。この時の為にわざわざ本来いるべき場所から人を引き抜いた。この時の為に、戦場を渡り歩いた。全ては、今日この時の為!

 

「道玄さん、貴方って人はぁー!」

 

一刀君が激昂、こちらに向かって走り出す。違うな一刀君。そこは更に何なんだあんたはぁー!だよ?まぁそれはさておき。

 

「ちなみに、今の話は嘘だ。」

 

ズザーッ!!

 

おお、何という古典的リアクション!やるな一刀君!まさかそのまま顔面からコケるとは!素晴らしい、実に素晴らしいぞ一刀君!・・・あれっ?どしたのみんな?なんか思いっきりコケたみたいなカッコで。

 

「道玄・・・貴方はもっと真面目な雰囲気を維持できないのですか?流石に北郷殿や、彼女たちが可哀想です。」

 

「主人、毎度毎度その場の空気を粉砕する必要はないのですぞ?」

 

「事情を知る私達でさえこれは・・・皆様、心中お察しします。」

 

なんだよー。険悪な雰囲気や真面目な空気を長々続けるのが悪いだろ。壊してくれって言ってるようなものじゃ無いか!

 

そんなノリで力説したら全員からメチャクチャ怒られた!一刀君は何か落ち込んで馬岱さんとかに慰められてた。・・・解せぬ!

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

「・・・で?どっからどこまでが嘘なの?」

 

あん?なんだ分かってたのか雪蓮。

 

・・・えぇ、勘?カマかけただけ?クッソこんな奴に嵌められた。

 

まぁいいや。とりあえずそもそも目的が後付けかな。国を造るって奴。だから当然それまでの過程も嘘だ。別に俺が考えて誰かを引き抜いた事なんか一度もない。というかその辺の決定権がまず俺にない。戦場に至っては仕事で無ければそもそも参加してない。

 

「ほ、ほとんどノリじゃないですか!?」

 

 

そう言われても困るなぁ、一刀君や。事実だけども。本来俺自身は君達の下に愛紗達を連れて行ったら山に帰って悠々自適に生活するつもりだったしな。今でこそこいつらを置いていくような真似はしないが。

 

「兄さん、それやとうちら兄さんとまず遭うてへんのやけど。」

 

「兄さま、私はどうなるんですか?」

 

どうなるんだっけ、一刀君?俺三国志ごく一部しか覚えて無いんだ、興味なかったから。

 

「俺っ!?覚えてない・・・なるほど、だからか。

 

あ、えっと確か楽進、李典、于禁、典韋、張遼は曹孟徳の下にいたはずですけど・・・。」

 

へぇ、そうだったんだー。だってさ。

 

 

割と軽いノリで話したら無茶苦茶怒られた。実際やってないし良いじゃないかよぅ。あ、止めて愛紗。山に帰るつもりだったことバラさないで!!

 

華琳さんには私のものを盗んだのね!?とガチギレされた。失敬な、人をモノ扱いするでない!というか、俺についてくるとか言われた俺の方がびっくりしたわ!

 

第一、俺の知る歴史とここ色々違うんだよ!初対面で関羽は死にかけてるし、趙雲は自殺しようとするし、諸葛孔明と龐統は何故か幼女だし!そもそもだいたい女だし!だから色々違っても何も悪くはない!たぶん。

 

「それは・・・まぁ。俺も劉備や関羽が皆女性だった時は驚きましたから。でも死にかけてたって・・・?」

 

「主人、主人、私は自殺しようとしてないですぞ?彼処から大逆転で賊の全てを薙ぎ払ってですな?」

 

「星、お前は私と道玄が行かなかったら確実に死んでいただろう。あの数を何も考えずに正面から突撃するのは自殺で間違ってない。・・・私は道玄と会えましたから、あの危機に感謝しています。」

 

 

おお、そう言われると嬉しいな!愛い奴め。うりうり。

 

愛紗が可愛いので撫で回す。急にイチャイチャしたら一刀君にジト目されたがふはは、効かぬわ!あ、星ごめん止めて、今は愛紗とってヤメロォ!ゆったりした服だからって体ごと入ってくるな!なんかぞわぞわするだろ!?分かった、分かりました!だから出ろ!

 

 

「まぁ貴方の正体は薄々勘付いていたから良いとして・・・まさか、貴方が私達を倒して王になる、なんてね。」

 

「仕方ないんじゃない?誰にでもその権利はあるわ。かなり苦しくなったのは事実だけど。」

 

「そうですね、私達がここまで来れたのは道玄さんのお陰ですから、その導いてくれた道玄さんにも王なる資格はあります。

 

あ、そう言えば道玄さんはどんな王を目指しているのか聞いても良いですか?」

 

 

複雑そうな顔でそんな変な事を言いだす3人。何気俺の正体バレバレでわろた。まぁやらかしまくってるから不思議では無いけど。てかさ、劉備さん、って言うか3人とも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・さっきから一体何の話?俺別に王になる気は無いけど。

 

 

 

 

 

あれっ、何でまた皆さん固まってんの?俺一度も王になるとは言ってないじゃん。

 

何故か唖然とする皆さんに聞いてみる。人の話聞いてた?俺国造るとは言ったけど、俺が王をやるつもりはないよ?てーかできん。知ってると思うけど、まだ文字の読み書きも出来ないのよ俺。え、じゃあどうするって、もちろん王は配置するよ3人くらい。

 

俺は何も出来ないので、一般的な蛮族として、必要な人材をかっぱらってくるだけだよ。民も文官も王も、そこに変わりはない!と、ドヤ顔しておく。

 

 

「あの、それって・・・何の意味が。」

 

「道玄、それだとお主が何したいか分からんのじゃが・・・?」

 

いやだから国造りだよ国造り。別に王以外が国造りしても良いだろ。俺は俺の理想の国が作りたいだけさ。その為に王を連れてきて働かせるだけだ。一刀君にも分かりやすく言うなら、俺は店主を雇って方針だけ投げて後は任せる株主的な奴になりたい。何というか、誰かに仕える気もないけど、誰かを使う立場も向いてないからさ。

 

「ねぇ、道玄。それは私や姉様には手伝えない事なの?私達は孫呉を取り戻し、平和を築けるならば何でもするわ。わざわざこんなことをしなくても・・・。」

 

最初はそれも考えたよ、蓮華。だがそれだと孫呉に肩入れして周りをまるっとぶっ潰す感じになるだろ?それでは駄目だ。各陣営にせっかく残した兵力がなくなってしまう。何の為にうちに武将をおいておいたかわからん。なにより、それをやると後が時間かかる。()()()()()()()()()()()。そうなれば全て台無しだ。お前達が全てを賭けて目指すもの全てが無駄になる。それは駄目だ。できるだけ全ての兵力と国力は温存したい。

 

まぁ本当にそれをするなら俺が1人で各国の王を捉えて人質にしちゃうのが1番被害が無くて楽チンなんだが、それでは理不尽過ぎてお前達も納得いかないだろうし。

 

 

「ちょっと待て道玄、お前の言い方ではまるで兵力を温存する理由があるみたいだが、この天下を賭けた戦い以上に力を使う理由があるのか?」

 

・・・たぶんな。なんとも言えない。っていうか皆グイグイくるな今回は!?深くは聞かんといてよいつもみたいに。あまりまだ言えないことがあるんや。

 

「たぶん?随分曖昧な発言ね。・・・さっきからアンタの言ってる事がいまいち要領得ないのは、それが関係してるの?」

 

 

ぎくっ!

 

馬鹿な、いつもならこれくらいの情報量で勝手に勘違いしてくれるはずなのにバレただと!?だから話が長いのは嫌いなんだ!いや、ま、まだだ!まだ、終わらんよ!

 

「ハァ・・・無駄ですよ、道玄。前と今では彼女達の理解度が違います。嬉しくないですけど。」

 

「そうだな。お前と実際に触れ合った今と、そうでない前では、お前に対する理解も深まっているし、なにより想いが違う。お前が何か隠してるのは私()()分かるぞ?」

 

「冥琳、さりげなく自分だけ分かってるみたいな言い方をするでない。儂にもそれくらい分かるし、荀彧も分かっておる。」

 

「むしろ、これぐらい分からずに道玄様の女を名乗られても困ります。」

 

ぬぬ、こーゆー時に限って勘違い系補正が働かないから困るな。とりあえず宣戦布告したら逃げれば良かった。てか凪や愛紗は祭達を褒めてるのか貶してるのか。

 

どうしようか、流石にまだちゃんと戦ってないうちにこの後の事をバラしていいのだろうか。いや、万が一泥沼バトルの時の強制介入の為に俺がラスボスになるフラグを今立てたわけだが、ナルトの最終決戦並みにテコ入れみたいな無理矢理だからな・・・。むむむ、悩むなー。

 

などと考えてたら、華琳が目の前に来ていた。どうした、と訊ねるより早く、膝の上の璃々を抱き抱えるとそのまま入れ替わるように膝の上に乗ってきた。さりげなく璃々が起きないように気を遣って丁寧な動きな辺りがこの人の身のこなしを匂わせる。流石だ、思わずそのまま乗せてしまった。

 

可愛いわね、なんて笑いながら璃々を撫でる華琳。寝てる璃々も心なし嬉しそうだ。まぁ璃々が可愛いのは全世界共通の常識なので当然である。なので璃々に手を挙げた兵士はアポ郎並にワールドエネミー。成長する前に殺されても仕方ないね!

 

なんて考えてたら、膝の上の華琳が見上げるように背を逸らし、左手を俺の頰に添えて、優しく言った。

 

 

「道玄。貴方が私達の為に何かを遠慮して、今まで何も言わなかったのはもう、分かっているわ。今、唐突に私達に宣戦布告したのもきっと、私達の為なのでしょう?

 

だからこそ、教えて頂戴。貴方がしてきたことの意味を。貴方が抱える、()()()()()()()を。」

 

・・・むぅ。まぁ色々失言したから分かるとは思ってたけど。なんかちょっと悔しい。なんというか、サプライズがバレた気分。

 

「何を変な顔してるの。貴方が自分で言ったんでしょう?今日こそ自分の目的を教えるって。・・・・さぁ、ちゃっちゃと吐きなさい。それがどんなに荒唐無稽な話でも、最後まで聞いてあげる。」

 

そう言って雪蓮が左側の紫苑を押し退けて間に座る・・・座ろうとして紫苑が譲らず逆に押し避けられた。すぐさま睨み合いになる。えぇー・・・。

 

なんであんないい感じの雰囲気をそこで破壊しちゃうのか。そう突っ込んだら凪に道玄様が言いますか?と更に突っ込まれた。そうか、皆こんな気分だったのか。俺結構最悪だったな、ごめん。

 

反省してたらため息ついた愛紗が、だから言ったでしょう?と疲れたように言った。

 

「諦めて全部話しましょう、道玄。皆、貴方が思うほど弱くはありません。むしろ、彼女達を信じてあげるべきです。」

 

・・・あれ。俺、信じてないように見える?

 

「実際はどうあれー、そうとられても仕方ないようには見えますー。」

 

風がそう言い、ウチの女性陣全員が頷く。マジか。

 

・・・ぬぅ。仕方ない。じゃあ全部話す。ただ、分かっていると思うが、この話は確証は無い。杞憂の可能性もある。良いか?

 

「全てよ。どんな話でも、一切合切全て話してもらうわ。全てはそれからにしましょう。」

 

分かった。じゃあ聞いてくれーー・・・。

 

 

▪️

 

 

 

「五胡の大軍・・・!?」

 

 

「それが、貴方がずっと備えてきた中華全域の危機・・・。」

 

 

何故知ってるかとか言われると困るので、胡蝶の夢的なサムシングで色々な人の部下として最終決戦を生き残ったら毎回その直後に五胡の大群に襲われた事にして話してみた。意外にもみんな信じてくれている。ちょっと驚きだ、自分で言うのも何だが、かなり胡散臭いことを言ってるとは思うのだが。実際穴だらけだし。

 

 

「道玄、それはどのくらいの規模なのかしら。中華全域、と言うくらいだからかなりの数なのは分かるのだけれど。」

 

 

・・・さぁ?(2次創作だと)毎回数が違うからな、今回がどのくらいかは分からんな。ああでも300万を下回った事はないはずだ。。

 

 

「さんびゃくまっ!?・・・そんな!!それが本当なら何でもっと早く・・・!」

 

 

いやだからまだ本当に起きるか分からないんだって一刀君。確かに俺がみた夢では毎度毎度状況は違えどこの場に居る全員が揃ってたし、最終的に天下をかけて争った後、必ず五胡の大軍に襲われていたが、所詮夢だ、と言われてしまえばその通りだし、俺自身必ず来ると言う確証もない。

 

 

そんな状況で未来がヤバいから備えてくれって言われて君は信じられるか?よしんば君が信じたとして、目の前は乱世突入してて国は腐敗しまくり、民は飢え、人心乱れ放題、そんな自国を憂いて平和を取り戻す為に必死に頑張ってる他の奴らに確証ないけど将来ヤバいからみな協力しろって言えるか?言われてはいそうですかって手を取り合って協力するか?

 

「それは・・・まぁ、確かにそうですよね。」

 

「まぁ、今ならともかく、知り合う前にいきなり言われたら普通にしないわねー。まず話半分も信用しないし。」

 

「正直、私達でも半信半疑ですから。道玄が人を巻き込んでまでこんな嘘をつくはずないって分かっていますけど・・・。」

 

だろ?まぁそんなこんなで言わなかったんだよ。正直今でも俺の夢ならそれでいいと思ってる。だが、そうでなければ俺1人じゃ流石に手が回らん。どうしたって脇を抜かれる。どのくらいくるかは分からんが、最小でも300万と仮定したら俺を無視して走り抜ける奴らは一万や十万じゃあ効かない筈だ。

 

 

流石に俺はゲームの世界に転生しちゃった!君ら登場キャラなんだー、とは言えないので色々ぼかしながらだが、とりあえず俺が主要国の兵を減らさない為に戦闘頑張ったり、国の発展にうすらぼんやり協力したり、武将引き抜いて兵をたくさん編成できなくして互いの消耗減らしたりと密かに暗躍した内容を盛ったり減らしたり語らなかったりしながら話す。

 

 

だいたい話し終えたところで一息つくと、白蓮がそう言えば、と口を開いた。

 

「元々道玄は五胡の大軍が来ても死なないからどうでもいいや、って感じだったんだろ?それで愛紗達に会ってから愛紗達が住むこの国も仕方ないから守ろうとした。それで1人じゃ守りきれないから協力者を育ててた。・・・何で育ててたんだ?敵国が幾つあろうがお前が本腰入れて取り組めば何処だって簡単に堕ちるだろ?わざわざ待たずとも一つに纏めてから五胡に備えればいいじゃないか。天下を取ってきちんと収めれば平和になるし、余裕も出来る。こんなギリギリに協力仰ぐような形にしなくて良かったんじゃ・・・?」

 

 

・・・白蓮は本当にこういう時気付かなくてもいいこと気付いちゃうよねー。珍しく長文を話しやがって。とりあえず引き寄せて胸を揉みしだく。有耶無耶にしようとしてるんじゃない、誤魔化そうとしてるんだ!あ、膝の上だからって華琳も揉むなよ。これは俺のだぞ。え、代わりに春蘭の揉んでいい?・・・むむ、秋蘭とは感触違うのかちょっと気になる。あ、一刀君、喘ぐ白蓮をガン見するのは構わないが後ろで劉備さんがナントカ伝家抜いてるから気を付けろよ。

 

いい加減にしろ!と白蓮に怒られた。くっそぅ、喘ぎ始めてたから後ちょっとだったのに。誤魔化そうとしても無駄よ、と膝の上の華琳がとてもいい笑顔で言った。お前はさっきまでおっぱいに夢中だっただろ。

 

「それは簡単ですよ。行く先々で相手の女に情が湧いて手を出せなくなったんたんです。最終的にはその女の夢や理想の邪魔をしないどころか手助けしながら、離れたところで見守る母の様なモゴッ」

 

愛紗、何故それを知ってるかは置いといて、バラしちゃいけないこともあるんだよ?友達と敵対出来ないから戦わない様にしてたとか言っちゃダメでしょ!恥ずかしくて俺死んじゃうよ?何平然とバラしてるのかな?かな?

 

 

「へぇ・・・そういうこと。それだけの力があるのに士官も旗上げもしなかったのは、しないのではなく出来なかったのね。」

 

「見た目と違ってとんだ甘ちゃんね。・・・まぁでも、道玄に好いてもらえるっていうのは、悪い気はしないけど。」

 

ああああ!ほら見ろ鬱陶しいニヤニヤされるじゃないか!クッソ鬱陶しい!言っとくけどな、俺の女の為であってお前らの為じゃないって雪蓮俺の女だったー!言い訳通じねー!

 

むっちゃ周りにニヤニヤされる。壁際の男性兵は愉悦wって顔してるし、うちの女性陣は浮気者!って不満気だ。唯一価値観が近い一刀君だけ、友人と敵対は出来ないですよね、と理解を示してくれる。流石イケメン略してさすいけ!

 

ぐぬぬ、ニヤニヤが鬱陶しいので膝の上の華琳を下ろしてやりたいが、更にその上の璃々が寝ているので手荒な真似は出来ない。汚い、流石覇王様汚い!っていうか覇王様の上で平然と眠れる璃々が大物過ぎる。将来は凄い奴になるに違いない。

 

そんなことをしていると、先程から何かを考えるように黙っていた劉備さんにあの、と声を掛けられる。なんだね?

 

 

「私達の為を思って今まで見守ってくれていた道玄さんが、私達を巻き込んでまで造りたい国って、何ですか?貴方がわざわざ私達の力を必要とする理由が知りたいです。」

 

むむ、それか。はずかしいけど、大した理由ではないんだ。それでも聞きたい?そか、本当に大したものではないんだがね?

 

 

「飢えない国を、造りたい。」

 

 

変な意味じゃ無く、俺は子供達が好きだ。子供達こそ皆の理想の世界に繋がる存在だと思っているし、そうでなくても慈しむものだと思う。

 

だから、飢えで死んでいく子供を見るのが、嫌なんだ。瘦せ細り、話す力も、体を震わす力さえなく、冷たくなっていく手の軽さが何より辛い。やりたい事もなりたいものも、何かを思い描く事さえ知らずに、ただ食うことだけ望んで、それすら叶わず無念に死んでいく子供達を、何度も見た。

 

そう、俺はこっちに来てから、結構のほほんと街や村に滞在していたが、この恋姫世界でも飢える人は沢山いて、華琳のところみたいな大きく栄えた街でも必ず一定数貧困に喘ぐ者たちはいる。俺や一刀君が現代知識を使ってだいぶ減らしたが、ゼロにするにはもっと抜本的な改革が必要だし、それをしても結局、救えるのはその場所の人間だけだ。昔はそんな事を気にしたりはしなかったんだがな、なんて自嘲する。

 

最初は仕方ないと気にしてなかったが、自分に娘が出来ると何か駄目だな。この小さな命が失われていくのが、どうにも我慢できん様になってしまった。

 

思い出す。街や村で鈴々と遊んでいてもおかしくない小さな子が、冗談の様な軽さで道端に転がっている光景を。

 

思い出す。お腹いっぱい食べるのが夢!と笑う子供が、食べたものを消化する力も無いほどに飢えて死んでしまう姿を。

 

思い出す。飢えた子供にと食糧を盗んだ母親が、子供と共に賊として殺されてしまった事件を。

 

俺には米がほぼ無限湧く4次元袋があるから、ウチの子達が飢えることは無い。まぁ無くても飢えさせる事などないが。だけど、ある時ふと考えてしまった。これがもし鈴々や音音だったらってな。

 

俺の4次元袋は俺にしか使えない。俺がいないところで死ぬのはどうにもならない。ひたすら米を出し続けて一時的に食糧難を解決できても、結局俺が死ねばそれで終わりだ。頼られて結果堕落されたら未来で詰む。身内に甘い俺にそのへんの制御が出来る気はしなかったから、公的に四次元袋をこれまで使う事はしなかった。下手な施しならしない方がマシだ。

 

この中華で飢える子供を失くすのは本当に難しい。華琳や雪蓮のところでかなり色々やったけど、それでもゼロには全然出来てない。何より一つの場所で頑張っても、どこかで必ず見落としや取り零しがでる。目に入らなかった、なんて理由で助けられた命を無くしたくない。

 

だから全部まとめて、全員で食糧難を完全に無くした国にする。超農耕大国にして誰もが最低限食には絶対に困らない国を造る。金が無くとも飢えない、学が無くとも腹が空かない、それぐらい食べ物に困らない国を創る。飽食と呼ばれ、食べ物が余って処理に困るぐらいの食料があり、2度と空腹で死ぬ子供を見ない国にする。

 

もちろん国には他に必要なものがたくさんあるのは知ってる。俺にそれを補う知識も能力もない事も、知っている。そんな奴に人を纏めて国を成す王になどなれない事も十分に理解している。だから、別に俺は王じゃなくていい。

 

とにかく、腹が減ったから、という理由で人が武器を取らない国を、空腹を理由に他者を害さない国を造る。幸い俺には若干の農業知識と、未来の重機顔負けのパワーがある。戦でも兵を無駄にしない程度に収めたから五胡の案件を上手く乗り越えれば平和になって、労働力の過剰な余りが出る。それの殆どを開墾と街道工事に当てれば超大規模農耕も夢じゃない。今の兵には国の無茶な税で農業が続けられなくなった奴がかなり混じってるからな。

 

「開墾はともかく街道ですか?」

 

農耕が向かない土地はどうしても存在する。そこでよく整備された国の隅々まで行ける道があれば、流通を作れる。色々な施策が必要だろうが、上手くすれば食糧を自給自足できない土地にも食糧を供給出来るはずだ。

 

「そっか、高速道路と流通事業・・・!さらに、工事を国営にすれば平和になって仕事が無くなる兵達の雇用にも繋がる!!」

 

まだ取らぬ狸の皮算用だがな。屯田兵システムをきちんと作れれば一応国防にもなる。更に言えば何故かある無駄に高度な絡繰作りが得意な真桜がいる。上手くすれば運搬速度も運搬方法にもかなり改善が出来るはず。あとはどれだけきちんと中身を詰められるかだが・・・俺の女には頭の良過ぎる奴らが沢山いるからな。

 

そこまで話したところで、一息着く。まぁ穴だらけな話だが、俺があらゆる事を覚悟すれば本当に重機より遥かに早く地形を変えられる。やってやれないことはないだろう。農業や畜産に関する専門家は育てるところから一緒に試行錯誤を繰り返して行く必要はあるだろうが。

 

とりあえずこんな感じだ、と劉備さんを見る。彼女は何か思案しているようだった。そんな劉備さんが口を開くよりも早く、下から声がかかる。華琳だった。

 

「つまらないわ。せっかく天下を手に入れたのにやる事が食糧事情の改善だけ。それでは国は成り立たない、やれることはもっとたくさんあるはずよ。」

 

ピシャリと断言する華琳。まぁ事実だ。だが俺がしたいことは本当にそれだけだった。別に構わん、他に必要な事は王にぶん投げる。無論俺がしたい事を最優先で手伝わせるが。

 

「・・・はぁ、貴方は本当に仕方ないわね。()()()()()()()()()()()国民全てが満たされる幸福な国ぐらい言って見せなさい。それぐらいでなければやり甲斐が無いわ。」

 

・・・華琳?お前それだと、

それ以上話すことは出来なかった。華琳に唇を無理矢理奪われていたからだ。隣の愛紗が反応するより早く離れる、早業だった。彼女は有無を言わせずに笑って断言する。

 

「その王の役職、私に寄越しなさい。貴方の望む世界を作ってあげるわ。・・・元より夫の願いを叶えるのもまた、妻の仕事だもの。」

 

不敵に笑う彼女。誰よりも可憐、だがどうしようもなく覇王だった。

 

良いのか、お前自身の手で全てを手に入れなくて。やらなかった事を、挑戦しなかった事を、後悔するぞ?お前は誰よりも自分の手で全てを手に入れる事を望んでいたはずだ。

 

「そんな気遣いは無用よ。貴方の望みを叶える為に力を尽くすけど、それ以外なら私は私で好きにして良いのでしょう?それなら貴方は私に仕えてないだけで私の国にいると言う事。他所に行かないならそれで構わない。ただし、終わってもずっといてもらうわよ。」

 

え、住む場所は自然豊かな山村か、魚の取れる海の近くが良かったんですが。山にくっつくように城を新築?・・・悪くないかも。山部分に俺の家を建ていいなら?ウチの女性陣は街に住みたい派もいるし。

 

「道玄、私はもちろん同じ部屋ですよ?」

 

間髪入れずに愛紗が主張する。同じ家をすっとばして同じ部屋を要求してくるのが愛紗らしい。まぁ直ぐに同じ事を言い出す訳だが。とりあえず華琳に採用を伝えようとしたら雪蓮に止められた。

 

「勝手に話を進めるんじゃ無いわよ。それじゃ華琳が貴方を手に入れるのと変わらないでしょう?

 

・・・どうせ天下を取って孫呉に平和をもたらせたら蓮華に後を任せるつもりだったし、良いわ。私も王やってあげる。その代わり、家臣をちょっとぐらい連れてきても良いわよね?」

 

構わない、というかむしろ雪蓮より蓮華の方が真面目に仕事してくれそうだから蓮華をウチの王にして冥琳達を家臣に連れてくるのは・・・?あ、現王は私だから家臣である妹は好きに仕事をふれる?なるほどなるほど、後ろでブチギレてる蓮華は自分でなんとかしろよ?

 

いくら姉様でも道玄は譲らないわ!と怒りを露わにする蓮華を見なかった事にする。すると劉備さんが私もやります、と元気よく言った。平和になるならそれに越した事はないし、食糧事情の改善は素晴らしい。何より私も王になればそのまま私の望む国作りが出来ますから、と劉備さんは笑った。流れに乗らずに自分の意見を、と思ったが、隣の一刀君も笑っているので良いのだろう。

 

 

なんだかんだ皆いい奴だな、と思いつつ。赤壁の戦いなくなっちゃうな、とくだらない事を考える。ならば後は五胡の大軍をなんとかすればってえ、何劉備さん。

 

「国の名は、どうなるんですか?」

 

・・・一応あるけど。ウチの女性陣と話し合った時でた奴で、俺が1番気に入ってるやつが。暫定だけどな。

 

「へえ?興味があるわ。なんていうの?」

 

 

雪蓮が楽しそうに言った。むぅ、いずれは分かる事だけど、なんかちょっと恥ずかしいな。

 

・・・笑うなよ?と言って、あまり意味の無い釘を刺す。興味津々の皆の顔見て、溜め息一つ。

 

 

 

 

 

・・・その場所では、常に腹が満たされ、心も満たされる。そんな願いと想いを込めて・・・国の名は「満」。それが俺が造る国の名だ。

 

 

文句は?と聞く。

 

返事は満面の笑みだった。

 

 

 

 

続く?

 

 




可愛いはおーさまの元ネタはピクシブで見つけたシーツ被ってシャツ掴むはおーさま画像です。

なお、両親宛のあたりで彼女の特徴が矛盾しまくってるのは複数いるクズヤローなのをごまかすためでした。

クズはクズだかなぁ!

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