あ、葉山も野球部ということになってます。あと、ほかのキャラはあまり出てきません。最悪名前だけーって感じです。
できれば、ONE OUTSの5話、6話当たりまで見ていただければこの作品は楽しめるものとなっています。また、分かりにくいとこのことを指摘していただいた方に感謝します。
上記にある通り、ONE OUTSを知っている方であれば素直に楽しめますし、知らなくても読んでやるよという方もどうか楽しんでいただければと思います。
人には、大なり小なりの特技がある。そこには生まれつき持った身体能力のおかげや頭脳だったり、努力の果てに身につけた誰にもできないものだったりと様々だ。そして、無駄に思われていてもそれが、意外な場所で役に立つというのはよくあること。
もちろん、目の腐ったボッチの俺自身にも特技はある。
昔から人間観察は得意だ。自己紹介で言い放つと軽く引かれるが、今までの俺の周りの環境のせいかおかげかはわからないが人を見るだけでその心情がわかるようになったのだ。そして、同時にどう動けば相手の感情をかき乱すことができるかもわかるようになった。
そして俺は見つけたのだ。俺の特技の人間観察を活かせる場面を。
だからこそ言わせてもらおう。
「これは八百長じゃないって」
「八幡、誰に言ってるの?」
「ん?いや、なんでもないぞ戸塚」
どうしたの?と言いたげに首を傾げる二大天使の戸塚。どうやら俺を応援しに来てくれたらしい。もちろんもう一人は小町だ。
ふと、相手のベンチを見ると焦っている顔をしている。攻守交代の声がかかりベンチへと向かう。
そんな相手ベンチを見て俺は口の端を釣り上げる。球速が無いとか真っ直ぐだけだとか抜かしていたからだ。球速はもっと上げられるし、変化球だって普通に使える。それでもストレートだけしか使わないのは、相手を速くもないストレートだけで追い込んで、慌てふたいめいて自滅して行ってくれるから。その分俺も楽ができる。
「自分らで撒いたタネだ」
ボードを見ると、最終回。表が始まろうとしていた。
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事の発端はと言うと、いつも通り奉仕部に行き雪ノ下と由比ヶ浜が奏でる百合百合しい会話をBGMにしながら持ってきた本を読んで何事もなく帰る、そう思ってい先週の金曜日だ。
雪ノ下と由比ヶ浜は未だに仲良くおしゃべりしており、たまに俺も会話に混じっていた。そこで扉を叩く音が室内に響き渡った。
「どうぞ」
雪ノ下が入室を促すと入ってきたのは、総武高校のリア充王こと葉山であった。
「えっと、ちょっといいかい?」
毎回の如く思うのだが、雪ノ下の顔がすごいことになってるんですよ。もう、不機嫌オーラが凄いことに。由比ヶ浜は何も感じていないらしいが、残念ながら俺はそういう雰囲気に敏感なため勘弁願いたい。
一度解決を方法を考えた。結論を言うと葉山が来なければいい。俺もリア充オーラ満載の葉山を視界に入れなくてもいいからな。
「それで、要件は何かしら」
「来週の県内の強豪野球部と練習試合が入ったんだけど、今俺は肘が痛くてね。あまり負担かけたくないし、だからといって今更断るというのに引っ込みがきかなくて」
「でも、私たちにやれという訳では無いでしょう?あなたなら自分で探せばいくらでもでてくるでしょう」
雪ノ下のきつい言葉は今日も健在なようだ。それに対する葉山の態度も同じようなのだが。
まあ、何にしても面倒事の予感しかない。葉山は確かピッチャーだったはずだ。もし俺にしてくれなんて言ってきたらどうしようか。ほんとに。
「打つこと、軽く投げることは出来るから何とかファーストとして出れるんだけど、他にピッチャーを出来る人がいなくてね。だからヒキタニくん、お願いしていいかな?」
ここ総武高校は、野球部自体はそこまで強くないものの、葉山が入部してからというものの、県上位に食い込むようになったらしい。
おい、お前。プロからも声がかかっているはずの選手だよな?そんなんで大丈夫なのかよ?
「どういうことかしら?」
「ヒッキー野球できるの!?」
由比ヶ浜よ、流石に聞き捨てならないぞ。そんなにスポーツできないイメージがあるのか?あ、俺の普段の行いのせいですね分かります。
「バカにするなよ、由比ヶ浜。一応男だから過去に挑戦したことはある。そしてここにいるのが答えだ」
「結局ダメだったんじゃない・・・・・・」
流石、雪ノ下は俺が言いたいことをすぐに理解してくれたようだ。由比ヶ浜は未だに首を捻って考えているようだが。しかし、ここで葉山から爆弾が落とされた。
「何を言ってるんたい?『勝負師』の君がダメだったなんて聞いたことないよ」
「っ!お前、それをどこで」
なぜこいつがその名前を知っているのかと疑問に思ったが、雪ノ下と由比ヶ浜は理解が追いついていないようだ。
「比企谷くん、何かを隠しているようだけど、説明してもらえるわよね?」
「ヒッキー、しょうぶし?のことについて説明して!」
面倒なことになったと思い、その元凶を見るとニヤニヤとこっちを見ている。久しぶりだな。こんなに顔面にボールを投げ込みたいと思ったのは。
「彼は中学校の時に公式の野球チームにいたんだよ。それだけならよかったんだけど、どのポジションもかなりトッププレイヤーレベルだったんだけど、ピッチャーとして登板した時の試合が問題でね」
「問題?なにか起こしたのかしら、犯罪者谷くん」
「おい、俺が何かした前提で話を進めるな。それと何だよ、犯罪者谷くんって。なげぇよ」
まあまあ、と興奮する雪ノ下と由比ヶ浜を落ち着かせると葉山がゆっくりと口を開く。
「全てストレートだけで試合を制するんだ」
しんとした空気になる。チラと横をみると、雪ノ下は驚いたような顔をこちらに向けて来るが、由比ヶ浜はどうやらわかっていない様子。
「ねぇ、ゆきのん。すとれーとって何?」
「由比ヶ浜さん・・・・・・ストレートって言うのは変化させないまっすぐのたまのことを言うのよ」
雪ノ下が由比ヶ浜を残念な目で見ている。まあ、仕方ないだろう。だが、雪ノ下の解釈は一般的な解釈であって、本来のモノではない。
「・・・・・・チッ、勝負師ってこと知られてんなら受けるよ、その話」
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「・・・・・・ああ、ほんとに嫌だ。ほんとに何でこんなことに」
「ハハハ、諦めて頑張ってくれヒキタニくん」
「他人事だと思いやがって。俺が打たれりゃお前らの評価にも繋がるんだぞ」
俺はそう返すが、葉山はそれをわかっていた上での依頼らしい。
「君が打たれるって?バカいっちゃいけない。勝負したことのある俺だから言うけど、チームに恵まれれば全国大会は行けただろうね」
「どこまで知ってんだよ。何なの?ストーカーなの?俺のこと好きなの?ごめんなさい無理です」
どうやら葉山の応援に来ていた大勢の観客たちの中に三浦たちが来ているらしく、三浦の隣にいる海老名さんが『キマシタワー!』とか叫びながら鼻血を出しているが無視だ。いいな?俺は何も見ていない。いいな?(威圧)
「はっはっは、俺だって無理だよ」
良かった。これで気があるようなこと言われたら本気で吐き気がするからな。海老名さんの餌食にされるのはゴメンだ。
そんなこんなではしていたらいつの間にか試合開始時間になっていた。俺たちはベンチの前に並んで一斉に走り出す。
プレイボール!審判の大きな声がグラウンドに響き渡った。
「俺たちは、まだお前のことを認めたつもりは無いからな・・・・・・」
総武野球部員たちからの言葉を聞き流し、どれだけ疲労を溜めさせないで相手を自滅させていくかを頭の中で組み立てていく。しかし、いくら頭で組み立てようと実際はリアルタイムでの状況変化に応じなければ勝てることは無い。
先日のあの話のあと、より詳しい依頼に対する説明を受けた。どうやら、監督はその練習試合で勝ちつつ夏の大会に向けての意識の向上が狙いだったため予定していのだが、急遽葉山が腕に小さな痛みという違和感を訴えたことによりこの依頼の話が出てきたというのだ。まあ、チーム全体に関わるのだから仕方ないとは思うが俺を使えば誰だって今のチームのようになるだろうな。
ットライク!ッターアウト!
「さて、どう料理してやろうかね」
俺は久々のピッチャーとしてのグラウンドに立つ。葉山の応援に来ていた観客たちはざわざわと騒ぎ始めているが、そんなこと俺が知ったことではない。負けることにおいては最強だと言ったが、勿論例外というのは存在する。野球のことだけは譲れないのだ。
「審判、投球練習はいらねーよ」
敢えて、敢えて相手チームに聴こえるような声で言い放つ。相手の感情を昂らせて、思考することなく感情を表に出しやすいからな。それに、それだけ単純になればバッティングも力んで自滅してくれる。
自チームからも困惑と相手チームから怒りの声、さらには観客たちのどよめきがそのグラウンドを覆う。
「ま、まあ、それでいいなら・・・・・・」
審判はそう言いながらも、一回裏が始まった。流石に相手チームの監督さんも顔を真っ赤にしながら、そんなピッチャーうち崩してしまえだのなんだのと言ってくる。だが実際はどうなんだろうなぁ・・・・・・。
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「おい、どういうことだよヒキタニ。なんで投球練習を拒否したんだよ」
「・・・・・・落ち着けよ」
「落ち着いてられるか!俺たちはこの試合に勝つことが目的だぞ!お前一人の判断でそれをなくそうとするなよ!」
「まあまあ、2人とも落ち着いて。どちらにせよ、既にここまでの6イニングは無失点で抑えてくれてるんだ。今はこっちが勝ってるんだし、気を緩めなければ勝てるよ」
「おい!山本、お前からも言えよ!」
どうやら、自チーム全体からではなかったらしく捕手である山本というやつからは何も声を荒げられることは無かったようだ。
「い、いや・・・・・・俺はヒキタニの球を今まで取ってきたけど今にも膝が震えそうになるんだよ・・・・・・」
「はぁ?」
「球種は全部ストレート、球速は125〜135キロの速くない球。変化球なんて一度も投げてないし、打ちごろの速さなのに打たれない・・・・・・!それだけにとどまらず、ホントに打たれて当然の棒球をど真ん中に放ってくるんだよ!それなのに、相手はバットを振らない」
「「「・・・・・・」」」
「なぁ、ヒキタニ・・・・・・お前には何が見えてるんだ?」
「何って・・・・・・感情」
「「「はぁ!?」」」
ベンチに戻った俺は自チームの奴らから問い詰められていた。どうやら、キャッチャー以外に理解したやつはいなさそうだな。さて、面倒だけど説明しないと流石にダメか。
「お前らは、俺がなぜ投球練習を拒否したのかと聞いていたな?それは相手の感情を表に出させて読みやすくするためだ」
「感情・・・・・・?」
「見ただろ、一回裏の相手チームの顔を。あいつら顔を真っ赤にしてただろ。感情的になって、力んで、自滅して。その上に、あいつらは俺のたまの速さを見て思ったはずだ。大したことは無いって」
俺は今まで起きたことを淡々と語っていく。要は、感情を表に出しやすい状態へと移すことが目的だったのだ。さらに、油断してくれるというおまけ付き。
「そして、打順は二巡目に入ってからも打つ時にはニヤリと笑う。どれだけ油断すればいいことやら。そして、あいつらは後になって気づくんだよ。大変なミスを犯したって。焦って自滅して。ほんと、単純な奴らだ」
「「「・・・・・・」」」
「納得いかないって顔してるな?だが覚えておけ。この世界は『勝ち負け』という概念は何にでも存在する。人間的価値や社会的地位、はたまたこの試合のようなものでもな。この概念は俺に対して一方的に負けという概念を叩きつけてくる。今までだってそうだ。だから、それが今の俺の学校生活だ。『勝つ』ということは表面的に見れば華々しいものなのかもしれない。だが実際はその逆。余りにも残酷で、容赦なく敵を蹴落とすことなんだよ」
「「「・・・・・・っ」」」
「それでも、お前らは勝ちたいだろ?勝つつもりならハラを決めろ。それを覚悟して進んだ者に栄光は訪れる。退けば食われるぞ、進めば苦しむぞ。それでも、その先にあるのが甲子園だ」
「・・・・・・っらぁ!そこまで言われたらやってやろうじゃねえかよ!お前らも打つぞぉ!」
「「「「うおおおおお!」」」」
何だ急にこいつら。ちょっと、ベンチ内で騒がないでもらえます?うるさいんですけど。
「ホントに、君には敵わないなぁ・・・・・・。遠いよ、ホントに遠い」
「・・・・・・別に、あいつらが勝手に盛り上がっただけだ。俺は何もしてねぇよ」
「ハハハ、そういうことにしておくよ」
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どうやら、9回表のこの回は特に何事もなく終わったようだ。さっきは戸塚が俺だけを応援してくれた!え、違う?さて、俺を応援してくれたおかげで気分MAXな状態だ。戸塚にこの試合の勝利を届けてやるぜ!
「お兄ちゃーん、頑張れー!」
おお!なんということだ!二大天使の片割れマイエンジェル小町も俺を応援してくれている。っしゃあ、やってやるぜ!
じゃあ、最後の仕上げに入るか。
「どうだよ、感情的になって、力んで、勝手に自滅して。球速を見て、油断して、追い込まれた気分は」
「・・・・・・ぐっ!」
「お前ら、あとは内野ゴロで抑えてやるよ」
「・・・・・・ハッ、そう言って外野に飛ばされたらかわいそうだな」
「そうでもねぇんだよ。あんたらの感情が丸見えだしな。いいよ、焦んなくて。すぐに終わるから」
振りかぶり、今まで通りの球速で投げる。狙い通りミットに吸い込まれる。相手は今の言葉で折れかけだろうな。特に、最初の言葉は相手チーム全体に聞こえるように言ってやったんだから。
もう一球も振りかぶって投げる。相手はど真ん中のそのボールの上を叩きつけ、サードへの速いゴロ。難なく取ってファーストへ送球。葉山ももはや作業と言わんばかりに軽くとる。
「ワンアウトぉ!」
「「「おああああ!」」」
自チームからはそれに対する雄叫び。気合を入れ直しているのだろう。続くバッターも討ち取り3人目も既に
一度ボックスから出て落ち着かせている。それすらも俺の餌食になると知らないで。
「最後は最っ高のボールで締めてやるよ」
大きく振りかぶり、ボールを握るその手を頭の後ろから持ってくる。そして、リリースポイントで放たれたそのボールはゆっくりと、しかし確実にキャッチャーに向かい続ける。
そして───
バッタァ、アウッ!ゲームセッ!
なんで、審判って最後まで言わないんだろうな。
どうでしたか?感想などくださるととても有難いです。チラッ