真・恋姫†無双~日の本の恋姫~   作:ゲーター

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宴席

 闇が陳留を包む頃。

 準備を終えた頃合いに、主催の声がかかった。付けられた侍従を引き連れ、宴会場に向かう。

 侍従たちは手に手に大きな籠を提げている。客人の荷物、それも大事な物だと言ったから少々おっかなびっくりだ。重たい荷物を運ばせるのに申し訳なく思うが、これも私たち、ひいては曹操陣営のため。これも職務と諦めてもらう。

 

 場所は城の中庭だった。白砂の広場に植木や花がのびのびと並び、壮麗な四阿(東屋)がいくつも島のように散在している。屋内にも宴会場はあろうに屋外を選んだのは、単に人数の都合か、或いは催しでも考えているのか。それが十中八九後者だろうことは、余裕の笑みから容易く見て取れた。

 笑みの端を解いて鈴の声が鳴る。

 

「あら、随分と大荷物ね。一体何が入っているのかしら」

「このような場を設けてくださったことへの、ほんの気持ちで御座います。武器などではありませぬので御安心を」

「そう? ならいいのだけれど」

 

 手斧すら入りそうな包みを前に、訝るふうでもない。むしろ楽しみそうですらある。いくら火が照らしているとは言っても、ここから暗器を取り出し斬りかかることなど造作もないのに。

 自信があるのだろう。自分なら跳ね除けられる自信が。そして、私たちがそんなことを仕掛けない確信が。でなければ、今日会ったばかりの人間を厨房になど入れないし、剣を振るうに困らない広場など選ばない。

 

 ──何を企んでいるのか知らないが、精々自分を楽しませてみせろ。

 

 そんな声が聞こえてきそうだ。

 

「期待しているわ」

「是非に」

 

四阿がまるで玉座の間。

最も絢爛なこの島で謁見は成り、群島に居並ぶ両者の臣下たちが見守る中、主宰は高々と杯を掲げる。

 

「東海の遙か万里の先より忠勇の士が渡り来た。ともに歌い語らい、存分に親しみを深めようぞ」

 

穏やかな声が夜闇に羽を広げ飛んでいく。

応じて流れ出した楽士たちの演奏に乗って、島々で乾杯の声が響いた。

 

 

 

 宴会はつつがなく進んでいった。

 現代のそれと同じ、ホストとゲストの挨拶を経て杯を空ける。あとは近場で互いに自己紹介などしながら、和やかに会話を繋いでいく。

 私と曹操、双方のトップ同士二人きりのこの庵からは周囲の様子がよく見える。ほぼ連結した隣の楼では幹部級が居並び、やや離れて群れを成す東屋では両軍の兵たちが机を突き合わせて酒を酌み交わす。

 異民族ということで多少の隔意があるかと思ったけど、州内で盗賊退治をしたり礼節を保ったりしたからか、概ね好意的に接してもらえているみたいだ。理知的な人間はビジネスライクな部分も含んでるだろうけど、純朴な相手は素直に認めてくれている。特に夏候惇。「華琳様のために働くとは殊勝な心がけだ!」ってかんじ。

 参加者は幹部級で数えて大和側4名に対して曹魏側7名。ほぼ倍にもなろうかという人数差だけど、私たちは遠征軍、向こうは本拠地での対応だから、これでも合わせてくれた方だ。それに兵と指揮官ばかりのこちらを気遣ってか向こうも文官は不参加。いるのは軍師の荀彧や曹洪に曹純、武官だが知略も得意そうな夏侯淵くらいのものだ。ウチの男どもは策謀専門の狗古智卑狗と内政上手な難升米と天才肌の卑弥弓呼(伯父上)とみんな頭は回るから、彼女らの知的な話にも諧謔を交えて乗れるだろう。……ちょっと荀彧と曹洪の雰囲気が剣呑だけど。温和な難升米はともかく野卑で陰険な狗古とスケコマシの伯父上への警戒感がすごい。難升米と曹純の柔らかな雰囲気の寒暖差がヤバい。

 

 

 そんなギクシャクしたところはあれど、全体的には柔らかなムードだ。みんな軍務に携わる人間ということもあって、堅苦しい礼儀作法は問われなかった。異国の作法に疎いだろう遠方の東夷に気遣ったところもあるかもしれないが、むこうの参席者を見る限り、ちょっとは自衛の意味もあったんだと思う。

 

「春蘭さまー、こっちのお料理もおいしいですよー」

「こら季衣、客人の前でそうがっついては……おおっ、これは美味い!」

 

 昼間にも見た夏候惇と、その妹分らしき許緒。

 天真爛漫というのか、細かいことを押し付けてはこっちが無粋に思えるような二人。それを微笑ましそうに見る者、少し眉を顰める者それぞれだが、主たる曹操自身は、それを面映ゆそうに眺めているだけだった。

 

「まったくもう、春蘭も季衣もあんな醜態を晒して。華琳様のお顔に泥を塗るつもりかしら 」

「いいじゃない桂花。今日は都の高官相手の接待じゃないもの、賓客が不興を感じないなら構わないわ」

「私たちに人の作法をとやかく言えるほどの学はございま……ないよ。それに、あれはあの姿こそが素敵だと思う」

「ふふっ、よく分かっているじゃない」

 

 幼い許緒はともかく、ぱっと見凛とした大人の夏候惇まであの調子なのはちょっと思うところがないでもない。黙ってれば妹さながらのクールビューティだから尚更。

 でもま、あの子供みたいに純真なところが彼女の魅力なんだろう。アホの子って言うのかな。正直言ってかわいい。

 

 対して、その二人を苦々しい顔で見るのは荀彧。

 軍師である彼女にとって、自陣営の品位を損なうようなことをされては困ると気が気でないのだろう。ストッパーを任せた夏候淵へとしきりに視線を送るも、気付いているのかいないのか、二人を止めることもなく静かに微笑んでいるばかり。しばらくアイコンタクトを送っていたものの、そのうち諦めたのか、少し荒っぽく杯を傾けた。

 

 むぅ。確かに作法としてはアウトなのかもしれないけど、別段失礼とは思わないんだけどなぁ。

 礼を尽くすまでもないと見下した雰囲気でやられたならともかく、対等っていうか、割と評価されてる感じだし。私だって畏まらなくていいってタメ口になってるし。

 

「文若殿、さっきも言ったけど、別にあれを見たって無礼とか粗野とか思わないよ。彼女たちの勇名はよく聞いてるし、その一端も目にしたしさ」

「そう言ってもらえるとありがたいわ……」

「それにほら、見てよ。あれ」

「あれ?」

 

 示した先には、きゃぴきゃぴとはしゃぐ少女に囲まれ、いい気になって酒を飲む馬鹿共の姿が。

 

「やー、良い飲みっぷりやなぁ。顔も男前で酒も飲めるなんて、ほんまにエエ男やで」

「ふふん、なんの。これしき呑んだうちに入らんわ」

「此方こそ、こんなお可愛らしい方々と同席できて光栄です」

「きゃー、可愛らしいだって! そんな本当のこと言われたら照れちゃうのー♪ ねー、凪ちゃん?」

「あまり舞い上がるな、沙和。客人に迷惑だろう」

「そんなことはない。楽進、お前の綺麗な顔を見ているだけで俺は愉しいぞ」

「き、綺麗などと……」

「あー、そないに面と向かって言っちゃあ凪が茹で上がってまうわ。ほれ凪、飲んで冷ましぃ」

 

 やいのやいの、まるで三対三の合コンのよう。ウチの男どもはとりあえず顔は良いから、年頃の三人が寄っていったのだろう。幹部級の楼には最初いなかった娘たちだから近くの四阿から流れてきたらしい。置きざられたテーブルからは両軍のむさくるしいのが(まなこ)を嫉妬に燃やして立ち尽くし、ややあって互いに向き合うとガッチリと手を握り合った。……うん。まあ、仲良くなってるぶんにはいいや。

 それにしても、身内の男が若い娘に鼻の下伸ばしてるのを見るのは頭が痛い。夏候惇と許緒の無邪気さなんかよりよっぽど醜態だ。

 

「……男って」

「フケツだわ……」

 

そのフケツなヤツらの上司の前で嫌悪を隠しもせずにドン引きする荀彧、曹洪。本当に申し訳ない。

 

「……なんだか、すごく生き生きしていないか? あ奴ら」

「凪ちゃんは照れてるけど、沙和ちゃんと真桜ちゃんは元気いっぱいですねー」

 

 放漫だった二人すら驚いた顔で眺めている。どっちかと言うとカシマシ三人娘に対してみたいだけど。

 

「楽しそう~!私も行ってくるっすー!」

「あ、ちょ、ちょっと姉さん!?」

 

曹純の悲鳴も虚しく、曹仁が騒ぎに飛び込んでいく。

私ももっと飲むっすー、と元気に杯を空け、盛り上がった全員により空になった酒壺(しゅこ)がどんどん山になっていく。

それは他の四阿でも同じようで、酒が回りお偉方の盛り上がりに緊張も解けた様子でどんどん喧騒は広がっていく。

 

……そろそろ頃合いかな。

 

「難升米」

「はっ」

 

団子になった酒席からすっと離れると、難升米は控えていた給仕と共に城内へ消える。酔いが回った宴席では誰も気にするものもおらず、狗古の飲みっぷりに喝采を送り伯父上の歯の浮くようなセリフに黄色い声を上げ呆れた視線を向けるだけだった。

 

「──さて、お手並み拝見といこうかしら?」

 

 ひとり、曹操を除いては。

 

 

 

 




8年ぶり
やっぱり書くのは楽しい
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