今回、捻くれ要素がいつもよりも少なめです。
その代わりと言ってはなんですが、誠君のコールドリーディングが見られます。
個人的には、最後を見てほしいですね。
では、本編どうぞ!
「え~、この時代に起きた出来事は……」
あと五分程で授業が終わり、昼休みになるだろう。日本史の授業を聞きながら、彼女ら――降旗、愛原、黒宮の動向を探っていた。黒宮は別段変わったところはない。真面目に授業を受けている。クラス委員長は伊達じゃないか。後で吹雪から聞いたのだが、きっちりというべきか、勉強もできるようだ。勉強できるイケメンリア充とか、スポーツもできたら、非の打ち所がない。料理とかは案外できなさそう。
で、問題というか、引っかかるのはあの二人組。ちらちらと小鳥遊を見ている。あいつらは何なんだろうか。そんなに小鳥遊が好きかい? 俺はそんな特殊恋愛事情が好きなわけではないので、特段気になるでもない。ただ、その視線が好意的な目線だったらの話だ。
明らかにそうじゃない、少なくともそうじゃない。そう感じ取れる。小鳥遊はというと、黒宮と同じように授業に集中。彼女とあの二人組がギクシャクしつつあることには、既にもう気付いている。ただ、ここまでとは思っているだろうか。この調子だと、合宿の時には既に崩壊しきっているだろう。むしろ、彼女らはそれを狙っているのかとも思えるくらいだ。
「あの三人と組んだ黒宮君、降旗ちゃん、愛原ちゃんかわいそ~」という認識を貼り付ける。必然的に三人への同情の気持ちが強くなると共に、俺、吹雪、小鳥遊のイメージダウン。俺については痛くも痒くもない。だってもうここは底辺も底辺、最底辺ですから。俺が上から落ちる高さはない。悲しっ……。いや、ホントは悲しくもなんともないけどさ?
だが、二人はそうじゃない。吹雪は俺と違って友達もいるし、小鳥遊は転入して間もないわけではないが、早い時期。これから土台を作っていかなければならない。今はいいかもしれないが、後に厄介なイメージとなりかねない。入学して少しの一年生にとっては、これからずっとそのイメージが付き纏う可能性だってある。それは俺にも言えるが、例によってなんともない。
この際、俺の評価云々はどうだっていい。二人はできるだけ無傷に保たせなければならない。使命感ではないが、そうなったら、少なくともいい気分にはなれない。だったら、俺に傷を、攻撃を集めるのが得策だろうか。
そう考えを巡らせていたら、授業終了を告げるチャイムが鳴り響く。クラス委員長の黒宮が礼をかけ、昼休みに入る。次々にそれぞれの行動に入る。お友達と話す者もいれば、食堂に駆ける者も、教室で弁当やパンを取り出す者もいる。かくいう俺も、弁当を持って屋上に行く前に、小鳥遊に一言、さり気ないかつ静かに声をかける。
「小鳥遊、先、行っとくぞ」
「あ、うん。わかった。すぐに行くよ」
短いやり取りを終えて、出る前に教室を見渡して見えたものは、あの二人組の俺への視線だった。勿論、気になるとか、好きだとかとは程遠いもの。凍てつくような、相手を射抜く視線。
二つのそれを振り切って、屋上へ。
屋上に着いた。……今日の風は、少し弱々しくて、ぬるい風だな。もう夏で、もう少し……あと一週間程で夏服に変わろうとする頃だ。ぬるいのは驚くようなことではない。けれど。
――ただただぬるいだとか、弱々しいだとかじゃない気もした。
ドアから少し離れたいつもの位置に座り、小鳥遊を待つ。この前先に食べ始めて、「一緒に食べようって言ったのに」、と怒られたかどうかもわからんお叱りを受けて以来、小鳥遊を待って一緒に食べている。
五分、十分と経っても、まだ風が吹き続けたまま、変わらない。もう今から食べ始めないと、清掃並びに午後の授業に間に合わなくなる。
「……食べるか」
独り呟いて、弁当を開ける。
黙々と食べ続ける弁当の味は、いつもよりも薄かった気がした。
結局この日、小鳥遊は屋上に来なかった。食べ終わって少しだけ時間があったので待っていたが、昼休み終了と清掃前のチャイムが鳴って、断念。大体予想はついている。どうせあの二人組に何かされたのだろう。清掃区域に行った先に、小鳥遊が駆けてきて、謝っていた。別に、謝られるような迷惑を受けた覚えはないし、そんなつもりもない。
ただ一つ、俺には謝罪の言葉よりも、ほしい言葉があった。……二人の時に、聞いてみるか。
その日の授業とSHRを終えて、二人揃って下校。下校開始から数分、栄巻高校の制服が俺達二つになって、さっそく話をきりだす。ま、あっさりと答えてもらえるとは微塵も思っていないが。ここで、俺のコールドリーディングの見せ所。コールドリーディングは、相手の気持ちを読むだけじゃないんだよね。
「なぁ、昼休みはさ――」
「あ――ほ、ホントにごめんね。明日は来るよ」
……はぁ~。絵に描いたような、というか何というか。もう話すらさせてもらえないのだろうか。もしかしてわざと? 俺にこの話を持ち込ませまいとしているのか?
「謝るのはいい。で、何があった?」
「い、いや、大したことじゃないし……」
「大したことじゃないならすぐ来るだろ。俺は別にいいけどさ、小鳥遊がどうしたのか気になるんだよ」
そう言っても、答えることを渋り、中々本題に入れない。ま、こうなることはわかっていた。それも最初から。もう小鳥遊の性格は大体わかった。こうやって、自分の困っていることは、他人に頼らないようにすることもお見通し。
だったら、俺が引き出すまでだ。
「いやまぁ、言いたくないのはわかる。あんなことがあったら、普通そうだ」
「え……!? み、見てたの……?」
「ちょっと心配でな。ほら、俺って優しいから」
ちょっとふざけた感を出しつつ、ブラフ。カマかけ。見ている体で話を進めて、相手に情報を勝手に漏らしてもらおう。果たしてこれがコールドリーディングかどうかはわからんが、俺の得意技。ただ、かからない人は本当にかからないのが難点ではある。コツは、いつものおふざけを入れること。何も隠し札がないことを確認させる、ということだろうか?
「あぁ……見てた、のか……」
突然に、小鳥遊が沈んだ笑顔を見せた。まさに灰色の笑顔。……え、地雷踏んだ? この後に、「じゃあ、もう死んでもらうしかないね……」とか言われながらナイフ取り出されたら、即刻ゲームオーバー。ヤンデレCDよりも怖い。だっていきなり刺されるんだもん。対処のしようがない。こっちには愛すらもないしね。ただ病んでるだけ。なにそれ怖い。俺には、笑いながら包丁を持つ女の子にゾクゾクすることはない。
「……大変だったな。俺にできることがあれば、何でもする。だから、詳しいことを教えてくれ。俺も、詳しくはわからないんだ」
簡単にもわからんがな。でも、俺は「見た」、なんて一言も言っていない。騙してはない。小鳥遊が勝手に喋ってるだけ。嘘は何一つ言わないで引っ掛けるあたり、俺の
「……最初は、そんなにひどくはなかったの。二人がね、『小鳥遊さんと同じ班は嫌だ』って言ったの」
はい、出たよ。もう名前が出てなくてもわかる。やっぱり俺はエスパー。降旗・愛原コンビだろ? 予想通り過ぎて笑いそうにもなるが、今この状況で笑ったら、小鳥遊の俺への好感度がマッハで下がってしまう。好感度があるわけでもなければ、最初から攻略対象でもないので、好感度が下がる心配もなし。
てか、皆の前で言ったのか。図々しいというか、親衛隊はどうしたよ。俺が勝手にいると思いこんでるだけか? いないとして、誰か注意する奴がいるだろうに。
「私は『わかった』って言ったんだけどね、黒宮君が二人を止めようとしたの」
やっぱり平和主義者というか、音沙汰なしをモットーにしているみたいな感じだからな。そういう点では、俺と似ているのかもしれない。何もないのが一番。だって俺に何かがあったら大抵が誹謗・中傷の類なんだもの。はっきりとしてない分まだいいが、「お前、うざい!」とかを直接言われた日には泣いてしまう。泣かないけど。
「そしたらね、その……柊君を、悪く言い始めたの」
あっ、はいそうですか。取り敢えず困ったら俺を
「いや、それは別にどうだっていいよ。気にしないし。で、その後は?」
「え、っと……私、
……はい? 止めて、俺が貶されて、小鳥遊が泣いた? ワケガワカラナイヨ。話が飛びすぎにも程があるだろう。小鳥遊は笑って誤魔化しているつもりなのだろうが、俺は誤魔化される間もなく意味がわからない。誤魔化せる、誤魔化せないの問題じゃない。
「は? え、急にどうしたんだよ」
「そ、それがね……私でも、わからないの」
自覚症状もなし。本人にわからないことを読めと言われても、できるわけがない。大体、泣いた理由もわからないって、ホントに何があったんだよ。
「い、いや、何があったんだよ。ホント」
「……あれ? 私が泣いてること、知らないの?」
「……あ」
ここにきて、大失敗。やらかした。見てきたなら、間違いなく目に入るであろう光景が、目に入ってないというのだ。これが示すのは、その現場を見てないということ。話す友達もいないから、泣いてることが耳に入ることもない。ぼっちであることの欠点がここで俺の足を引っ掛けた。
「ま、まさか……嘘?」
「いや嘘じゃないんだよ。見たなんて一言も言ってないしさ? 俺は悪くない」
なんて清々しい自己弁護。ここまでくると、もはや美しさまであるんじゃなかろうか。ただのナルシストじゃないか、それ。
「や、やられたよ~……見てないなら話さなかったのに……う~……」
『う~』とか可愛い。ギャップというか、黒髪ロングは大人びた印象があるから、こういう子供っぽいことは逆にグッとくるというかなんというか。結論。可愛い。
「ま、俺の持ち味だ。相手の心を読むとか、そういったのは得意だ」
「へ~、じゃあやってみてよ」
あ、あれ? さっきの話は? で、でも、こっちをキラキラした目で見つめる小鳥遊。可愛い。興味津々。
……じゃ、あれやってみるか。結構成功率は高い方だし。
「なぁ、小鳥遊。今週の土曜と日曜、どっちが暇?」
「え、っとね~……土曜かな? ……え? それって、で、デートの……?」
「今ので終わりだ。どうだ? 意外と簡単な感じだろ?」
小鳥遊の首をかしげた姿の可愛らしさ。庇護欲がそそられまくる。犯罪に手を染めそうで怖い。というか、意味がわかってないな、これ……
「あのな、今のは『ダブルバインド』って言うんだよ。選択肢を誘導したんだよ」
「それは、土曜に選ばせたってことなの?」
「あ~……悪い。言い方があれだったな。選択肢を
小鳥遊は、依然としてきょとんとした顔を続けている。可愛い。何でも可愛いな。素の顔が見れてる気がする。
「じゃあさ、さっきの質問がデートとか遊びの誘いだったとして、
「あ、なるほどね。最初から選ばせる段階に立たせたんだね」
そう、これの強みは、論点をズラせる、ということだ。論点と言うと変かもしれないが、今の質問だと、一緒に行く・行かないの選択肢をぼかすことができる。とある商品のCMでも用いられた手法だ。買う・買わないの選択肢をぼかし、買うことを前提として、その後をどうするか考えさせる、というものだ。『バインド』という言葉通り、相手の意識を縛り付けるのだ。
これを実行し、成功させるコツは、隠したい・ぼかしたい選択肢をスルーさせるように仕向けることだ。さっきの質問を例にすると、デートに行きたいんだけど、という前置きはNGだ。あくまでも、話題に挙げない。ぼかしたい選択肢を自ら出しては意味がない。
さらに言うと、ある程度親しい人にしか効かない。見ず知らずに人にさっきの質問をしても、気持ち悪がられ、不審に思われるだけだ。そして、相手にとって、提示した選択肢がどれも嫌だったり、都合が悪い場合もダメだ。それは、強引感や拘束感を生み出す原因になるからだ。これに至っては、実際にやってみないとわからない。相手の予定の下調べも難しい。下調べをした時点でダブルバインドを使ってしまう。この日は暇? と聞いたら、もうそれはダブルバインドだ。
具体性に欠けるものも好ましくない。断る抜け口が簡単に開いてしまうからだ。アバウトだと、どうしてもぼかしたい選択肢を選ぶ確率が高くなってしまう。なので、デートに誘いたい気持ちが強いけど、自信がない。そんな人ほど、質問を具体的にして、意識を向けたい選択肢に向けることが秘訣だ。
ダブルバインドの説明をしている内に、いつの間にかマンションに着いていた。そのままエレベーターに乗って、8のボタンを押す。昇降機が稼働し、どんどんと上へ。ベルが鳴って、エレベーターのドアが開く。一緒に出て、後は左右に別れるだけ。いつもは挨拶をここでして、それぞれの部屋に入るのだが。彼女の口が、開かれる。
「……さっきの、本気にしてもいいの?」
「は? いや、何が?」
えっと、さっき、さっき……もうどれが『さっき』かわからない。我ながら間抜けだ。
「……
爽やかな笑みを浮かべて、ウインクをしながら、804号室へ入っていった。
……え? 土曜、楽しみ? さ、さっきのって……ダブルバインドのあれ? 俺はいつでも暇。予定なんて少しもない。家でぐーたらと遊んでいるのみ。今日は水曜だから、十分に考える時間もある。従って――
「……マジで、デート?」
今週の土曜日、俺は超絶可愛い女の子と、デートすることになりました。
ありがとうございました!
一旦、合宿編の前に距離をある程度近づけようと思います。
ちなみに、デート場所はぜんっぜん決まってません。
大丈夫なはず。この中身のない自信はどこから来るんでしょうね。
余談ですが、四女神オンライン買いました。土曜に。
ベールちゃんのエロ可愛さは異常ですね。格好が女神様のそれ。
ノワールちゃんも、とてもとても可愛い。
ではでは!