ト或ル歌劇ノ迷狗達   作:星落

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獣殿の容姿を文章で書くのは難しいですが楽しいですね……!知らない人にも美しさが伝わって欲しいです。

そして早速評価をありがとうございます……励みになります…。




三日後。PM1:15

 

「首を……切られた?」

 

穏やかな昼下がり。横浜に看板を掲げる武装探偵社の事務所で、調査員の一人である中島敦は未だ少年の幼さが残る瞳を瞬かせて、長身の男の物騒な言葉を反芻した。

「そうだ。昨夜、街を歩いていた住人が何者かに首を切断されて死亡したらしい。お前もニュースか新聞で見ただろう。手掛かりになる証拠は何も無く、現場には足跡すら見つからない。しかし放置する訳にも行かん。そこで探偵社に依頼が来たと云う訳だ」

書類を片手に眼鏡を押し上げ、厳しい表情で説明するのは敦の上司である調査員、国木田独歩。

「普段なら乱歩さんの手を借りる処だが、あと人は現在東北に出張中だ。よって今回は、俺とお前で調査に当たる。良いな」

名探偵と呼ばれる調査員の不在を告られ、敦は表情を引き締めて頷いた。

 

 

国木田に連れられてやってきた現場である表通りの一角は、血の海と形容するに相応しい様相を呈していた。最も、時間が経った現在ではアスファルトの地面に赤黒い染みを作っているのみだが、それが余計に事件の凄惨さを物語っていた。

「被害者はごく普通の勤め人。市警の話によると、凶器は日本刀かそれに似たものではないかと云う事だ。しかし、それ以外は何も解らん。犯人の足跡も残っていないし、殺害の瞬間を目撃した人間もいないらしい」

白線が引かれた惨殺現場を見ながら国木田が苦々しく呟く。

「もしかしたら、異能力者の仕業……でしょうか?」

「その可能性は十分にある」

この横浜には、異能力者が少なからず住んでいる。そしてその中には、人の首を一撃で切断する事が出来る異能力者も存在している。

 

そもそも、手掛かりが何一つ見つからない、と云うのがおかしい。余程巧妙なトリックを使ったか、何らかの異能を駆使したか。それが敦の見解だった。

 

更に近隣の住人に更に聞き込みを行ってみたが、返って来る言葉は同じだった。知らない、見ていない。

 

再び現場に戻る時には、夕日が水平線の彼方へ沈もうとしていた。

 

 

「手掛かりは何一つ得られん、か……」

国木田が『理想』と表紙に記された手帳を閉じて溜息を吐き出す。

「いっその事、同じ時間にこの馬車で張り込むのはどうですか?もしかしたら、犯人は今日も此処で殺しをするかもしれませんし」

敦の提案に、国木田は頭を掻きつつも「それが善いかもしれんな」と頷いた。

市警も近隣の住人に注意喚起を行っている。正体不明の殺人犯が出た昨日の今日で、夜中に出歩く酔狂な人間も居ないだろう。だとしたら、必然的に殺人犯が狙うのはのうのうと外に出ている探偵社の敦と国木田と云う事になる。

 

最も、その殺人犯が家の中に押し入ってまで一般人を殺そうとするような鬼畜でなければ、の話だが。

 

張り込みの決行を市警に告げ、国木田は報告の為に一度社に戻ると云った。彼に続いて歩き出そうとしたその時、背後に視線を感じて敦は反射的に振り向いた。

 

そこには、一人の男が立っていた。

 

白い軍服に、黒衣を羽織った長身の西洋人だ。遠目からでも、探偵社一の長身である国木田よりも更に背が高いと確信する。均整の取れた体躯はまさに人体の黄金率とでも云うべきか。

緋色の黄昏に照らされ、風に靡く髪は獣の鬣の如き黄金。

凡百美辞麗句を尽くしても語れぬ、いっそ恐ろしいまでに整った容貌。

しかし敦が何より引き込まれたのは、自分を見つめる黄金の瞳だった。

静謐ながら凄烈。

対等ながら尊大。

その視線は他者を慈しむようであるのに、何故か獲物を狙う肉食獣を思わせた。

視線を逸らせない。

食われる────────

 

 

「敦!」

 

叩きつけるような怒声に、はっと敦は我に返る。振り返ると、国木田が鬼の形相で敦を睨んでいた。。

 

「仕事中だと云うのにぼんやりと何時までも立ち尽くしおって!お前まで俺の予定を乱すつもりか!」

「だっ、だって国木田さん、彼処に人が……」

敦は先程まであの金髪の男が立っていた場所を指差す。しかし、そこには誰も居なかった。

「?何だ、誰も居ないじゃないか。夢でも見ていたのか?」

国木田は呆れ半分、と云った調子で溜息をついた。

「そんな筈は………」

呆然と敦は呟く。あの存在感が嘘だったとは考えられなかった。

「おい敦。今夜は夜通し張り込みになるんだぞ。そんな事ではお前と云えども殺人犯に遅れを取る。幸いまだ時間はあるから、社に戻ったら医務室で仮眠を取っておけ。いいな」

有無を云わせぬ口調で国木田が云う。彼は彼なりに心配してくれているのだろう。未だ釈然としない部分はあるが、頷くしかない。

「はい………すみません」

「もういい。解ったら行くぞ」

 

早足に進み始めた国木田を追って、敦は駆け出す。最後にもう一度、男が居た場所を振り返るが、矢張り誰も居ない。

 

 

沈みかけた夕日が、敦には血の色に見えた。

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