ト或ル歌劇ノ迷狗達   作:星落

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お久し振りの更新になってしまい申し訳ありません。この春大学生になるので、その準備やらバイトやらでバタバタしてたらいつの間にかこんなに……。

もうちょい書きたかったのですが、前回と同じく文字数やらのバランスの関係で削りました。また直ぐに続きを投稿したいと思っています。




翌日。PM1:25

 

「ふむ、中々に美味。善い腕だな、卿」

「ふふ、ありがとうございます」

紅茶を一口啜った金髪の美丈夫の賛辞に、事務員の春野綺羅子は爽やかな笑顔で返した。

 

「却説……改めて、私はラインハルト・ハイドリヒ。この探偵社にあの『影』についての調査を依頼したい。勿論丸投げ等はせんよ。頼んだ手前、私も同行しよう」

「ちょっと待て」

さも当然のように言い放ったラインハルトに対し、真っ先に異を唱えたのは国木田だった。

「当然のように言うが、そもそも何故お前があの影について知りたがる。それを教えられん事には依頼は引き受けられない。殺人の実行犯の物であろう異能について、警察でも無い部外者においそれと教えられる訳が無いだろう」

「ふむ………卿の云う事も尤もだ。しかし、其処まで信用出来ないかね、私は」

「出来ないな」

即答した国木田に、ラインハルトは苦笑しただけだった。

「国木田さん、何であんなにラインハルトさんにきつく当たってるんだろう…」

隣接されている資料室の扉を僅かに開き、社員の仕事場と区切られて併設されている応接スペースの二人のやり取りを見守っていた敦が、音を立てないよう慎重に扉を閉めて呟いた。独り言に近い疑問に答えたのは、隣で彼に関する資料を捲っていた調査員の谷崎潤一郎だ。

「それが……調べてみたんだけど、彼、旧大戦時代に独逸軍で秘密警察───ゲシュタポの長官をしていたみたいなンだ。階級は大将」

「大将!?あの人が?」

「しっ!敦君、声抑えて」

「す、すみません、つい…」

旧大戦については敦も知っている。十四年前に起こった、世界中を巻き込んだ殺し合いだ。

見た所、ラインハルトの年齢は三十代前半から中頃と云った所だ。その若さで軍のトップである大将位に上り詰めた事がどれだけの偉業なのかは、軍事に疎い敦にも容易に想像出来た。

 

軍の大将、しかも秘密警察の長官ともなればあの威容も納得出来る。しかし、だからこそ敦には国木田の態度が今ひとつ腑に落ちない。

「それがそんなにいけない事なんですか?」

「いや………」

敦の質問に、谷崎は歯切れ悪く言葉を濁した。資料に目を落とし、しかしすぐに敦を見る。

やがて、静かに扉から離れると敦を手招いた。

「いいかい敦君。今から喋る事、人に云ったら駄目だよ」

「………?」

敦の顔に疑問符が浮かぶ。谷崎は周囲に目を走らせ、そして小声で云った。

 

「彼、大戦中に暗殺されてる筈なんだ。記録ではそうなってる」

「!」

 

敦は思わず大きく目を見開いた。ラインハルトが既に暗殺されていると云う話には驚いたが、それ以上にそれに納得している(・・・・・・・・・)自分に衝撃を覚えていた。

「だからあの人は既に亡くなった『ラインハルト・ハイドリヒ』の名前を騙った誰かか、若しくは本人が殺されたふりをして今迄隠れていたか───って敦君、聞いてる?」

呆然とした意識を、谷崎の声が現実に引き戻す。

「す、すみません。ちょっと考え事してて……」

「そう?なら良いけど……最近ぼんやりしてる事が多いって国木田さんが云ってたけど、大丈夫?何か悩み事?」

谷崎に気遣わしげな視線を向けられるも、敦は「大丈夫です」と苦笑を返すしか無かった。

 

既に暗殺されているらしいラインハルト。

しかし現に、扉一枚を隔てて国木田と話しているのはラインハルトと名乗る男。

「もしかしてあの人、幽霊だったりして……」

敦はぽつりと漏らした。そう思ってしまう程、ラインハルトには浮世離れした雰囲気がある。あんな存在感のある幽霊なんて考えたくもないけれど。

「いや敦君、幽霊は流石に無いよ」

谷崎が苦笑しつつ否定の言葉を返す。

「…でも、あの人、何処か僕らと違うような感じがしませんか?なんとなく…」

「それはそうだけど……」

 

「ほう、私が幽霊か。愉快な事を云う」

 

突如耳に飛び込んで来た張りのある声に、敦と谷崎は揃って飛び上がる。いつの間にか扉が開き、ラインハルトが薄く笑いながら二人を見ていた。その隣には鬼の形相の国木田が立っている。

「く、国木田さん!ラインハルトさん!」

「貴様ら!覗きをしている暇があるなら仕事をせんか仕事を!」

国木田の一喝が響き、谷崎は急いで仕事場へと駆けて行った。その後を、何故かラインハルトが悠々と歩いてついて行く。

二人の姿が資料室から消えた時、国木田が敦に耳打ちした。

 

「敦、今晩十一時、例の殺人現場に向かえ。其処で影の招待を突き止めろ。今の所何の手掛かりは無いが、ラインハルトは影に心当たりが幾つかあるらしい。そして奴は、同行人にお前一人だけを指名した」

「ええっ!?なんで僕が…でも国木田さん、ラインハルトさんってそもそも暗殺されてるんじゃ……」

 

敦の頭の中に疑問符が吹き荒れる。急な命令に脳が連いていかない。

「それでも依頼だ。否応は無い」

国木田は眼鏡を押し上げて苦々しく云った。

彼にも思う所はあるのだろう。だが、先に云った通りに依頼は依頼だ。犯罪の片棒を担ぐ訳では無いのだから、断る理由など無い。

 

「奴は自分は正真正銘のラインハルト·ハイドリヒであり、ある目的の為に暗殺された振りをして身を隠していたと云うが、それも信用出来るか解らん。その目的とやらも訊いてみたが答えなかった。そんな奴の傍にお前を置いておくのは俺としても気掛かりだ」

 

国木田は其処で言葉を切り、そして重々しく続けた。

 

「良いか敦。危険を感じたらすぐに逃げろ」

 

敦はその言葉に、頷く事も返事をする事も出来なかった。

 

 

 

 

**

 

 

 

日は刻一刻と傾き、秒針は静かに、しかし確実に世界を夜へと誘う。

「却説………どうするのかな、虎の子よ。君の隣に立つのは破壊公(ハガル·ヘルツォーク)。愛すべからざる光の君」

メルクリウスは一人、ただ黄昏に堕ちる横浜の街を眺めている。

「嗚呼──しかし、黄金の足元にも及ばぬとは云え君もまた獣。であるならば、己の成すべき事が何なのか自ずと見えて来よう」

黒髪と軍服の裾を汐風に靡かせながら、水銀の蛇は笑う。嗤う。

 

「踊れ───女神の治平で、私に新たなる未知を魅せてくれ」




探偵社の構造は「開化録」を見て書きました。便利です。第二弾の「深化録」と漫画最新刊も楽しみです。

アニメDies iraeのpv、見ましたよ……獣殿が神々しい。そしてシュピーネさんがいらっしゃった…。アニメアレンジのBGMも素敵です。
ソシャゲにもなるんですよね。獣殿の為に課金する人はそれこそ総軍の如く居そうです。
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