用務員さんは勇者じゃありませんが転生者ですので   作:中原 千

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遅くなってすみませんでした。
戦闘描写って難しいですね!




内包と管理

事実の審判の日、イチハラハヤトは激しい頭痛に苛まれていた。

なんとか耐えて礼拝堂には辿り着いたが、疲れ果ててすぐに椅子に座り込んだ。

 

事実の審判が始まる。

 

 

「アカリ・フジシロ、中へ。」

 

 

「これより、特別審判を執り行う。」

 

 

「ではまず、審判の受諾意思の確認を行う。アカリ・フジシロ、腕を前に。」

 

 

「アカリ・フジシロは、あらゆる者に強制される事なく、あらゆる者に恐喝される事なく、自らの意思でこの事実の審判を受ける事に相違ないか。」

 

 

「―――ありません。」

 

 

進んでいく審判、答えるアカリ、振るわれる大鎌、それらすべてをハヤトは遠い世界で行われている事であるかのようにぼうっと眺めていた。

脳裏に浮かぶのは頭が痛い、眠い、そんなことばかりだ。

平常時ならもっと気を張っているのだが、今日はどうにもおかしかった。

 

 

「偽りのないことを確認した。」

 

 

「では、事実の問――」

 

 

不意に起こった衝撃と破壊音、そして雷鳴。

礼拝堂に黒づくめの男達が侵入して場が騒がしくなる中、ハヤトは弾かれたように外へ飛び出した。

礼拝堂からハヤトを呼ぶ怒鳴り声が上がるがハヤトの耳には入らない。

 

雷鳴が聞こえた。

つまりはエリカが戦っている。

誰と?

決まっている、あの男だ。

あの男はヤバイ。

 

ハヤトは一直線に雷鳴の方向へ走った。

いつの間にか頭痛は消えていた。しかし、そんな事は気にも止めずにただ仲間の所へ走った。

 

近付くごとに戦闘音がよりはっきりと聞こえてくる。

さらに近付くと姿も見えてきた。

やはり、エリカとクーがあの男と魔獣に襲われている。

ハヤトは精一杯息を吸い込んで叫んだ。

 

 

「やめろぉおおおおおおおっ!」

 

 

魔獣を銃で撃ち抜き、聖剣の機能フルスロットルに強化魔法を全開で男に斬りかかる。

そして、二人の安全を確保して下がらせ、敵を追撃する。

 

しばらくして、相手が満身創痍になりほっと一息ついて二人に声をかける。

 

 

「二人とも、大じ―――」

 

 

不意に、ハヤトを鋭い痛みと焼けるような熱さ、そして、異物感を感じた。

掠れた声を出しながら振り向く。

 

 

「なん……で……?」

 

 

「ふむ、何故だと?戦闘中に敵に背中を見せたら刺されて当然じゃないかね?」

 

 

背後にはあの男がいた。

 

 

「お前、は……さっき……」

 

 

「さっきどうしたって?私はこの通り無傷だが?それよりも君のお仲間は大丈夫かね?あんなに激しく攻撃して、仲間割れか?」

 

 

薄く嗤ってそう言う男の言葉をうまく飲み込めない。

祈るような気持ちで先程自分が男を倒したはずの場所を見る。

 

そこには傷だらけで呻くエリカとクーがいた。

 

 

「ッ!どうして、おれは確かに!?」

 

 

痛みも忘れて叫ぶ。

 

 

「私を斬ったと?それでは聞くが何を以て私と雪白を判断した?雷を纏うブーツか、二刀流の大振りの刀か、それとも大きな黒い兎耳か?

…………一体、いつから彼女達を私達だと錯覚していた?」

 

 

この男は何を言っているんだ?仲間と敵を見間違えるわけがないだろう。

雷を纏うブーツも二刀流の大振りの刀も大きな黒い兎耳も"すべてお前らの特徴だろう"…………あれ?

 

おかしい。おれは何を言っているんだ?

それはエリカとクーの……いや、でもさっきおれは……

 

 

「何を混乱しているのかね?すべて君が悪い。君の自業自得というシンプルな構図だろう。それに、また背中を見せたな。last(レスト)」

 

 

刺された剣が熱量を帯びる。

ハヤトは意識を手放した。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

倒れた勇者達を見下ろす。

 

私の魔術起源は内包と管理。よって、起源弾の効果は"対象の内包している物を管理する"だ。

一見、万能に思える私の起源弾だが致命的な弱点がある。抵抗のしやすさだ。

なんの準備もなく他人に使った場合、深い所までの干渉は十中八九止められ、せいぜい自然治癒力を多少高めたり弱めたりできるくらいだ。

認識操作をするには肉体と精神を徹底的に弱らせてから撃たなければならないため、とても戦闘に使えるような代物じゃない。

だが、例外が二つだけある。

一つは無機物や死体等の非生物だ。それらにはそもそも抵抗力が存在しないため準備なしで高い効果を発揮させられる。

 

もう一つは"自分自身"だ。

これが勇者君が犯したミスだ。

この世界に来る前、勇者君は私の加護、つまりは私の一部を盗んだ。そしてそれは彼の魂に癒着し、混じり合い、少々歪ではあるが今の彼を形成している。

 

如何に堅牢な砦だろうと穴が有れば侵入は容易い。我が身可愛さに盗んだ剣(力)が自分と仲間を斬り裂いたのだ。まさに、因果応報、自業自得―――そろそろ頃合いか。

 

クハハ、混ざり合った魂を分離させるのは少々手間だったがようやく終わった。

勇者よ、私の力は返してもらうよ。

「精霊の最愛(ボニー)」は私の物だ。精霊が見え、親和性も上がるという力は私の研究に必要だ。

そして何よりも、とある高明な人物の半生から、間男の芽は早々に摘むべきだと学んでいるのでな。

 

 

「『精霊の最愛(ボニー)』よ、帰ってこい―――何ッ!?」

 

 

術式を発動させようと近付くと、不意に勇者の魔力が高まった。何かが集まっていくような様子を見せて勇者の体が人形のような動きで持ち上がる。その周りでは火花が弾け、紫電が走り、冷気が漂い、風が吹き荒れ光が迸っていて、見るからにヤバそうな雰囲気を醸し出している。

勇者の口が小さく動き、巨大な火球が放たれる。

 

身体強化の魔術を使いなんとか避けたが、着弾した地面にクレーターが出来ていた。

…………一工程(シングルアクション)でこの威力か。その上、既に次弾が装填され発射段階に入っている。凄まじいな。厄介だ…………ここの神秘が薄ければなァ!

 

 

「Go away the shadow. It is impossible to touch the thing which are not visible.

 Forget the the darkness. It is impossible to see the thing which are not touched.

 The question is prohibited. The answer is simple.

 I have the flame in the left hand. And I have everything in the right hand.

I am the order. Therefore,you will be defeated securely.

(影は消えよ。己が不視の手段をもって。)

(闇ならば忘却せよ。己が不触の常識にたちかえれ。)

(問うことはあたわじ。 我が解答は明白なり。)

(この手には光。この手こそが全てと知れ。)

(我を存かすは万物の理。全ての前に、汝。ここに、敗北は必定なり。)」

 

 

目の前で炎塊と炎塊が衝突して弾ける。

冷や汗が出た。詠唱に5秒もかかってしまった。彼には遠く及ばない。高速詠唱は要改善だ。だが、魔術詠唱は一度きりでいい!

 

 

「Repeat!(命ずる!)Repeat!(命ずる!)Repeat!(命ずる!)Repeat……!(命ずる……!)」

 

 

一言毎に炎塊が発生して衝突し合う。私が発生させる速度を上げると相手もそれに合わせて高速化させてくる。

クハハ、流石我が力だ。なかなかに張り合いがある。

 

 

「素晴らしい!もう少しギアを上げるから付いてこい、『精霊の最愛(ボニー)』!」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

襲撃者を撃退し、事実の審判も終わったアカリやオーフィア達は鳴り続ける爆音の下へ急いでいた。

視線の先では巨大な炎塊が絶え間なく発生しては衝突してを繰り返していた。

 

 

「おいおい何なんだ!ドラゴンが喧嘩でもしてやがんのか!?」

 

 

「…………これは、あれか。」

 

 

「おそらくそうだろう。」

 

 

叫ぶマクシームの横でカエデとフォンが頷きあう。

 

 

「何か知ってんのか?」

 

 

「ああ、原因はおそらく、ハヤトの『精霊の最愛(ボニー)』だろう。以前、ドラゴン型の怪物(モンスター)と戦ったとき、他の勇者を守るために似たような状態になった。その時は怪物(モンスター)を倒した後も、一昼夜暴走が続き山が一つけし飛んだ。このまま暴走を続けると、この山一帯が主要な精霊の無軌道な破壊行為で地形が変わる可能性が高い。」

 

 

フォンの説明に皆が騒然となる。

 

 

「どうにかできんのか?」

 

 

「分からない。前回は魔力が枯渇するまで暴走していた。」

 

 

話している内に人影が見えてきた。

 

 

「ハヤトッ!」

 

 

アリスが叫ぶ。

 

 

「もう一人は、やっぱりアイツか。」

 

 

ため息を吐くようにマクシームが呟いた。火精との親和性が低かったはずの蔵人が極大の火球を高速で発生させていることに疑問を持ったが口に出すことはしなかった。

 

 

「クラウドさん!」

 

 

「あれは…………そうか、あれは用務員さんか。彼もやはり、来ていたんだな。」

 

 

アカリの言葉でアオイは納得したように、そして、申し訳なさそうに呟いた。

 

 

「エリカッ、クーッ!」

 

 

少し離れているところに倒れている二人を見つけて近付こうとしたカエデ、フォン、アリスを魔獣が吠えて威嚇する。不意に、炎塊の破片がエリカ達に降り注いだ。

 

 

「雪白さん!」

 

 

アカリが声をあげて心配するが、雪白は咆哮して魔法を使い危なげなくそれを防いだ。その姿は怪我人を護る騎士よりも宝物を護る番人に近かった。

それを見たカエデ達は一先ずの安全は確保されていると判断して無理やり自分を納得させた。

 

駆けつけた人達はそのまま、何も出来ずに火球を撃ち合う二人を見守った。

 

均衡は突然破れた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

相手の火球が止んだ。勇者が炎に飲まれる。

 

…………漸くか。そもそも私と勇者とでは保有する魔力が違う。魔術へと懸ける思いと掛けた年月が違い過ぎる。いくら『精霊の最愛(ボニー)』の技量が高くとも使えるリソースに差があれば拮抗した時点で魔力不足による決着は目に見えていた。

だが、良い闘いだった。やはり、魔術師同士の秘術を尽くした競い合いは素晴らしい。余韻に浸っていると雪白が二人を乗せて駆け寄ってきた。

 

 

「雪白、ありがとう。よくそれらを護ってくれた。」

 

 

雪白を撫でていると後方から破裂音が聞こえた。水銀で防ぐと、それは銃弾のような石粒だった。飛来してきた方向に目を遣ると、

 

 

「ハヤトをッ、ハヤトをッ!」

 

 

取り押さえられながらも泣き叫びながらこちらを睨み付ける少女がいた。彼女を取り押さえている制服の少女と獣人の少女も私を憎々しげに見ている。よく見ると周りにはアカリやオーフィア達もいる。

 

 

「ふむ、いたのか。それで、彼女はなんだ?私は何故狙撃されたんだ?」

 

 

そう聞くと薄着の少女が口を開いた。

 

 

「彼女はアリス・キングストン。私達を召喚した人物で、ハヤトのパーティーメンバーです。」

 

 

ほう、彼女が。なるほどなるほど、彼女がそうなのか…………ん?

 

 

「ところで、君は誰かね?」

 

 

「豪徳寺葵です。お久しぶりです、用務員さん。覚えてますか?」

 

 

「ふむ、嘘つき斬り殺すガールか。…………そういえば顔に見覚えがある気もするな。たしか三年生だったか。うむ、覚えている。…………年頃だからオシャレしたい気持ちも分かるが流石にその服は攻めすぎではないか?」

 

 

私がそう言うとアオイは少し頬を赤くして、儀式用の服だとか、好きで着ているわけじゃないだとか呟いた。

 

 

「『事実の大鎌』は後で体験させて貰うとして、アリス・キングストンだったか。」

 

 

近付いて声をかけるがアリスは私を睨み付けたまま動かない。

 

 

「ふむ、無視か。まあ、仕方あるまい。そのまま聞いてくれたまえ。…………ハヤト君のことなのだがな。条件次第では助けられるぞ。」

 

 

アリスが目を見開いた。

 

 

「炎塊を落としたときにな、直接当てずに頭上で炎塊同士をぶつけ合わせていたのだよ。よって、彼は瀕死ではあるだろうが私なら助けられるが?」

 

 

「ハヤトを助けられるならなんでもするわッ!」

 

 

私の問いかけにアリスは間髪を入れずに答えた。

 

 

「そうか!ならば助けよう!魔術の基本は等価交換、君の協力に見合う働きはしよう!diffusio(拡散)」

 

 

立ち昇る水蒸気や湯気、そして粉塵を魔術で散らす。

予想外にヴィヴィアン召喚のための近道を見付けてしまった。すぐに済ませて早く研究しなければ!

意気揚々と近付いて驚愕する。

倒れているはずのハヤトが全身焼け爛れて、一部は欠損したまま、立ち上がって剣を振りかぶっていた。剣の先には極光が煌めいていた。

『精霊の最愛(ボニー)』の野郎、死んだ振りして溜めていたのか!ご丁寧に探知阻害までして私の目を欺いていた。

…………少しマズイな。相殺するには今の魔力量は心許ない。ここは『緊急回避』で―――ダメだ!

射線上に召喚少女がいる。こいつが死んではヴィヴィアン召喚が遠退いてしまう。厄介だ。ハヤトと下手に分離させたせいで見境がなくなっている。剣を振り下ろす手に迷いは欠片もない。

 

 

「仕方ない。残しておきたかったがここで一つ使おう。令呪よ、私に力を与えろ!」

 

 

令呪一画が無色の魔力に変換されて未だ嘗てないほどの力が湧いてくる。これなら充分過ぎる程だ。

 

 

「束ねるは星の息吹。輝ける命の奔流。受けるが良い! 『永久に遥か黄金の剣(エクスカリバー・イマージュ)』!」

 

 

極光同士が衝突し合う。轟音が轟き、地面が蒸発し地形が変わっていく。『精霊の最愛(ボニー)』による光精魔術はすぐに聖剣の輝きに飲み込まれた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

辺りを静寂が支配し、ハヤトが倒れる音だけが響き渡る。もう『精霊の最愛(ボニー)』が表に出ている様子はない。急いで『精霊の最愛(ボニー)』を摘出して分割し封印する。

 

 

「curatio(治療)sanitas(回復)reparatione(修復)sterilitate(殺菌)munditia(衛生)addito(補強)emendationem(改善)」

 

 

次いで治療行為を行う。応急処置は一工程(シングルアクション)の魔術で充分だ。濃い神秘での魔術はマジでヤバイ。とりあえずこれで 容態が安定した。

 

 

「ふむ、こんなものだろう。残りは私の研究室で行おう。雪白、アリス、着いて来たまえ。」

 

 

アリスは神妙な面持ちで頷いた。

クハハ、クハハハ、ついに、私の悲願への大きな足掛かりを掴んだ!待っていてくれヴィヴィアン、後もう少しの辛抱だ!

 

 

 




難しかったです。起源弾の説明などうまくできたか心配な部分がたくさんあります。後で技量が上がったら書き直しする予定です。

起源弾についておさらいすると、
用務員さんの魔術起源は内包と管理。よって、起源弾の効果は対象が内包している物を管理する。
抵抗されやすく、健常な相手に使っても大きな影響は与えられない。効果を発揮させるには、肉体面と精神面を徹底的に追い詰めなければならないため戦闘には使えない。一度でも深い部分まで影響させると起源弾の効果は永続する。
例外的に勇者は用務員さんの力を盗んだことにより魂に用務員さんと共通する部分ができてしまいそこから侵入された。

イメージはコンピューターウイルスです。
ファイアウォールによって阻まれるがそのシステムに穴が有れば侵入し、一度侵入すると初期化しない限りずっと感染状態みたいな感じです。

今回は、勇者の持つ判断能力を管理し、用務員さんと雪白を判断する基準とエリカとクーを判断する基準を逆にして同士討ちさせた感じです。

書いてて、この感じどこかで見たことある、藍染様やんとなりあのセリフです。


没ネタ

用務員さん「水精魔術「鏡花水月」効果は霧と水流の乱反射により敵を撹乱させ同士討ちにさせることだ(ウソ)」

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