用務員さんは勇者じゃありませんが転生者ですので   作:中原 千

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一週間に間に合いました!
言ったそばから反故にするような事にならなくてほっとしています。





鳥系獣人

「どうした?聞いてやると言っているんだ。早く話したまえ。」

 

 

私が再度尋ねると、鳥系獣人の一人はしばらく体を振るわせた後、顔を憤怒に染め上げて言葉を発した。

 

 

「貴様ッ!賤しい人種の分際で…………!」

 

 

「そういうのはいいから、早く用件を言いたまえ。こちらも暇ではないんだ。」

 

 

さらに逆上し、「貴様ァ!」と叫びながら胸ぐらを掴んできたのでその手を捻り上げて地面に押さえつける。

一応、認識阻害の魔術をかけて周囲からはただ話しているだけに見えるようにしておく。

鳥系獣人の男は拘束から逃れようとじたばたする。

 

 

「貴様ァ!協会内での魔法使用は―――」

 

 

「―――"魔法"など使っていないさ。君もそれは分かっているはずだろう?」

 

 

喚き散らす鳥系獣人の男の言葉に答えてからもう一人の鳥系獣人を見る。

 

 

「まったく、君では話にならんな。悪いが話が纏まるまではこのままにさせてもらうぞ。それで、そちらの君はどうだね?」

 

 

「…………先程も言ったはずだが、もう一度言う。貴様が買ったその蝙蝠系獣人(タンマイ)を我が一族に返せ。」

 

 

鳥系獣人は苛立ちを隠しきれない様子で答えた。

視線は私と押さえつけられている鳥系獣人の間をせわしなく行き来している。

 

 

「ふむ、それで不十分だから話を聞くと言ったのだが、まあいい。既に二つほど異論がある。第一に君達が何者か不明だ。彼女の元夫という訳でもあるまい。そして、彼女は正当な取引によって購入したのだ。返却を迫られるような謂れは無い。」

 

 

男は目を鋭く細めて答える。

 

 

「私はルワン家の使いだ。仮にも人の二妻(ソンパーヤ)を奴隷落ちさせて奪っておいてよくそのような事が言えるな。まあ、せいぜい五千か一万パミットだろう。割り増しして二万パミット払ってやるからさっさと返せ。」

 

 

「話にならんな。弟子の小遣いにもならん。せめて、六十万パミットくらいは用意したまえ。」

 

 

まあ、六十万パミットでも弟子の小遣いにはならんがなと、心の中で付け足す。

 

 

「蝙蝠系獣人(タンマイ)に六十万だと?貴様、私を謀ろうとするならば実力行使も厭わんぞ。」

 

 

「買取に十万、衣装に五十万だ。もっとも、買取の手数料は外してあるし、衣装も素材と仕立ての品質、何よりもオーダーメイドである事を加味すればこれでも捨て値に近い安さだと自負しているがね。」

 

 

脇ではその金額を聞いたヨビが密かに卒倒しかけ、それをアカリが慌てて支えていた。

 

 

「よくもぬけぬけと。それでは、どうあっても解放するつもりは無いんだな?」

 

 

鳥系獣人はあまりの怒りに逆に冷静になったのか、能面ような表情で確認してきた。

 

 

「無いな。買取金額である十万パミットすら払えん様では話にもならないだろう。それに、人を育てる経験は大きな糧となる。私の弟子の成長のために彼女は必要なのだよ。」

 

 

学問であれ戦闘であれ人に教えるというのは上質な経験になる。異世界魔術を教えさせるのも良し、場合によっては、契約(ギアス)で縛った上でなら、型月魔術を教えさせるのも考慮してある。

最近のアカリは今までにも増してやる気だからな。成長したアカリと共同で魔術研究をする日が来るかもしれないな。その時は、ヴィヴィアンも交え三人での研究になるな。

それはきっと素晴らしいものになるだろう!

 

 

「…………何をにやけているんだ。馬鹿にしているのか?」

 

 

鳥系獣人の苛立ちの籠った声で我に返る。

 

 

「ああ、すまんな。素晴らしい未来を夢想していた。まあ、ほぼ話は決着していたんだから許したまえ。そうだ、この男の拘束も解かなくてはな。」

 

 

抵抗できないように両肩を脱臼させた上で解放する。

すると、男は激痛により失神したようだ。情けないヤツである。

 

 

「有意義とは言えない時間だったな。もう君達とは会わないことを祈るよ。」

 

 

それだけ言って、後ろの騒ぎを無視して立ち去った。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「それで、事情は話して貰えるのだろうな?」

 

 

拠点への帰り道で何故か茫然としているヨビに問いかける。

無論、街の外ではあるが盗聴防止の魔術は起動してある。

 

 

その後、気を取り直したヨビが語った内容は、ルワン家の栄光と没落、特に、没落の方に重点が置かれていた。数代前までは有力な武官として王族から官位をさずかっていた名家であったが、精霊魔術によって飛行のアドバンテージを失ったルワン家は没落、現在は役職についていない名ばかりの名門で、だからこそプライドが高い。

もともと、実家から疎まれており、夫の方に離婚するよう何度も実家から要請されていたが、夫は了承せず、終には妻の方から奴隷落ちまでして離婚を"される"始末。

この国では女性側からの離婚が許されておらず、唯一の抜け道が奴隷落ちで、それをされるのは非常に屈辱的な事らしい。

この醜聞を実家は揉み消そうと躍起になっているのだろうということだ。

 

 

「ふむ、概ね理解した。それで、君はそもそも何故奴隷落ちを選択したのかね?家庭内暴力だけでは無いのだろう。蝙蝠系獣人はここでは差別対象だ。購入した人物がその夫よりましという保証も無い、実家から暗殺されるリスクを背負うには少し弱いだろう。」

 

 

「…………私には息子がいました―――」

 

 

ヨビは躊躇いながらも答えた。

要約すると、その息子は強盗によって殺害された。

その下手人として、夫の実家が疑わしく、また、夫の関与も否定できない。

その真実が知りたくて奴隷になったということらしい。

この事はアカリも知らされてなかったらしく、悲痛な顔で聞いていた。

 

 

「なるほど…………ふむ、これに勇者がどう関わってくるのかね?聞いたところ、君の家の事情に勇者との関連性は無いように……、と。アカリ、説明してくれ。」

 

 

これ以上辛い身の上を語らせるのは酷かと思いアカリに説明を引き継がせる。

あまりヨビを追い詰めてしまってはアカリに嫌われ兼ねないからな。

 

 

「ハイ。ヨビさんの夫は探索者だったらしく、一年前にここに派遣された勇者が仕事場にしていた遺跡を踏破してしまい収入が減り、その後は収入を全て酒とカジノに使っていたらしいです。」

 

 

「なるほど…………おや?」

 

 

遠くの方から人に乗った大きな白い獣が猛スピードで接近してくる。獣に乗った人ではなく、獣を担いだ人が。

ヨビはその異常な光景に二度見三度見と繰り返して目を擦っている。

アカリはポカンと口を開けて、ヴィヴィアンは笑顔で手をブンブンと振っている。

近くまで来ると、白い獣が担いでいた人を足蹴にして私に飛びかかってきた。

 

 

「フハハ、久し振りだな雪白。どうしたんだ、こんなにじゃれついて。そんなに寂しかったのか?」

 

 

じゃれつく雪白に笑って相手をする。毛並みが少し荒れている気がする。毛繕いしてやらなくてはならないな。後は風呂の用意も必要だな。

 

 

「あの、雪白さん。ここまで運んだ人に向かって蹴りはないじゃないですか。蹴りは。それはそうとマスター、ヴィヴィアン姉さん、アカリ、と誰でしょうか?まあ、お久しぶりです。」

 

 

雪白にジト目を向けつつXがやって来て挨拶をした。

 

 

「ふむ、個性的な登場だったな。普通は逆ではないかね?それと、イライダはどうした?」

 

 

「いや、雪白さんが背中に乗せてくれなかったんですよ。それに、セイバーたる私が魔力放出で加速して運んだ方が速いんですよ。なんと言っても最優のセイバーですからね。イライダさんの方は、彼女から手紙を預かってますよ。」

 

 

渡された手紙に目を向けると、『妙な勇者に捕まった。取り敢えず、落ち着きがないから雪白と嬢ちゃんをそっちにやる。

その妙な勇者本人が言うには勇者達の教師をやっていた関係でアンクワールの教育環境向上のために活動しているらしい。

なにやらソイツに気に入られてしまって、貴女のように自立するべきだとかこの国では女性の地位が低すぎるだとか言う話を延々と聞かされて正直ウンザリだ。

もう少し時間がかかりそうだからアンタはそっちでゆっくりしててくれ。』とあった。

 

ふむ、教師か。確かにそんな人物がいた気がする。

名前は…………た、た、田中だったか? まあ、どうでもいいな。

 

 

「さあ、そろそろ離れてくれ雪白。これから夕食を作らなければならないからな。」

 

 

夕食と聞いて名残惜しそうにしつつも雪白が離れた。長旅による空腹には勝てなかったらしい。

そして、もう一人長旅の空腹に敗北を喫した人物がいた。

 

 

「久し振りのマスターの料理、楽しみです!」

 

 

「いや、食糧庫に保存していたものを食べていただろう?まだ余裕があったはずだ。」

 

 

「いえ、それでしたら数日前に食べきりましたよ。」

 

 

Xが何でもないように言う。

 

なん……だと……? 私は一般人の三ヶ月分ではなく、"Xを想定した"三ヶ月分を用意していたんだぞ。一体、どれだけのペースで食べていたんだ?

私は内心の戦慄を隠して笑って答える。

 

 

「そうか。ならば次からはもっと多めに用意しなくてはならないな。」

 

 

「お願いします!あっ、忘れるところでした。荷物をお返しします。」

 

 

Xから大量に鍵を入れたカバンを手渡される。

これで隔離研究室が再使用可能になった。

空間だけならまた作れば良いのだが、その中身がな。

数匹しか手持ちにいない蟲を増やし直すのは面倒だったから助かった。

 

その後は、合流した雪白とXも交えて夕食を取り、深夜には約束していた服の製作を始めた。

作り始めたら止まらなくなり、朝まで作業を続けて数十着も作ってしまったが、些末な問題だろう。多い分には良いはずだ。きっとアカリは気に入ってくれるだろう。

さて、試着に向けてカメラの整備でもするとしよう。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

王都の一角の古びた屋敷にて、ルワン家の長たるナクロプ・イグシデハーン・ノクル・ルワン・プラサートはハンター協会で蔵人達に絡んだ二人から報告を受けていた。

 

 

「蝙蝠系獣人(タンマイ)を買った北部人のクランドというハンターは、協会にて不遜にも堂々と我らにたてつき、嘘を並べ上げて奴隷の料金を不当にも六十万パミットなどとつり上げ、終いには暴力行為によって脅しをかける始末。これにはあの蝙蝠系獣人(タンマイ)の女も積極的に加担しているでしょう。ここは、我らが一門の威信をかけて制裁を加えるべきです。これからどうなさいますか、イグシデハーン様。」

 

 

蔵人に肩を外された男、クランクンドラップ・ノクル・ルワン・シンチャイは腸を煮えくり返らせて報告する。

もう一人の使者も厳しい表情だ。

 

 

「北部人か、奴らはどこまでも我らに祟る。だが、それならそれでやりようはある。…………しかし、ナバーめ、女一人制御できんとはな。王の容態が思わしくない。近い間に新王が擁立される可能性が高い。我ら一門の復興のために醜聞は避けねばならん。次はしくじるなよ。時は近いぞ。」

 

 

イグシデハーンは重々しくシンチャイに策を授ける。

シンチャイは膝をついて承知した。

 

 

「今に見てろよ北部人めが。我らにたてついた事をすぐに後悔させてやる…………!」

 

 

シンチャイは怒りによって、蔵人から押さえつけられた場所にまるで蟲が蠢くような痒みを感じて掻き毟る。

いくら、掻こうともその痒みが消える事は無かった。

 

 

 

 




まるで―――のような(直喩)

比喩表現です。大事なことなので二度言います。比喩表現です(迫真)



追記
すみません、アカリがヨビにさん付けしてる理由をつけ忘れました。
後日、何らかの形で付け足します。
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