(旧)ユグドラシルのNPCに転生しました。   作:政田正彦

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ガチの最終章にして、最終話です。
思えば短いような長いような……あっという間の時間でした。
ここまで書けたのも一重に皆様の暖かい感想やメッセージのお陰だと思います。

今まで本当にありがとうございました。


12000字以上にもなってしまいました最終話、お楽しみください。


最終章(1/1)

 私の名前は好豪院英梨(こうごういん えり)

 

 ごくごく普通の、でもちょっとアニメとかラノベとか、そしてそれらの二次創作とかが、特に異世界物とかが大好きな、極めて普通~~~の女子高生です。

 

 今日もいつものようにベッドから目覚め、朝ごはんを食べ、学校へ行って、学業と部活に励み、そしてまた帰ってきて、夕御飯を食べて、TV見て、RINEして、ラノベの新刊情報やアニメを一通りチェックしたら、また明日も学校なのでベッドで寝る。

 

 そして、明日もいつものようにベッドから目覚め、朝ごはんを食べ、学校へ行って…………。

 

 

 でも、何故だろう。

 

 

 私は今、通学路でいつものように登校しているだけなのに。

 

 

 どうしてこうも心がざわつくのだろう?

 

 

 まるでここに居る事に酷く違和感を持っているかのようだ。

 

 

 

 私は「風邪でも引いたかな」と、背中に走るゾクゾクを風邪のせいにし、場合によっては早退する事も考えつつ、歩みを進めた。

 

 

 

 だが、その違和感は一向に収まらない。

 

 途中で友達の#####ちゃんと会って、アニメについて話しても、そのゾワゾワが消えてくれない。

 

 どうして?

 

 いつもどおり登校しているだけだよ、あたし。

 

 足を進めるごとに、それが、増していく。

 

 増して。

 

 手が震え。

 

 足がすくむ。

 

 ここは本当に私の居場所なの?

 

 

 「……うぁぁっ!!」

 

 

 そして、遂に違和感は最高潮へ。

 

 頭が割れそうなほどの頭痛に襲われ、目の前が真っ白になる。

 

 そして、次の瞬間目の前に現れたのは、先程まで居た、自分の家だった。

 

 

 目の前には、母と、父が居る。

 

 涙を、流しながら。

 

 

 

 「ちょ、ちょっと、パパ、ママ、なんで泣いてるの?」

 

 

 

 私の言葉は、彼らには届いていないらしく、二人はおいおい泣くばかりであった。

 

 ねぇちょっと、やめてってば。

 

 何がそんなに……

 

 

 

 そう思って、周囲を確認しようと後ろを見た瞬間。

 

 笑顔の自分の写真……

 

 

 

 

 

 自分の遺影と、目が合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ…………」

 

 

 それと同時に、次々に記憶が蘇ってくる。

 

 私が、気付いたら異世界、それもユグドラシルの世界で、NPCになったこと。

 その世界で出来た妹が死ぬのが見たくなかったから、身代わりになって死んだこと。

 その世界で私は、エレティカ=ブラッドフォールンという名前だった事。

 

 

 「あ…………あ…………!!」

 

 私は、絶叫した。

 

 あれだけの事があったのに、全ては私が死ぬ前に見た夢だったとでも言うの?

 

 あれだけの事をしたのに、全ては無意味だったと言うの?

 

 

 そんなの、あんまりじゃないか。

 

 そんなの、あんまりじゃないか……。

 

 こんなの、あんまりじゃないか……………………。 

 

 

 

 「嫌ああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………ぁぁぁああああああっ!!!」

 

 

 ガバッ!と音を立てながら起き上がる。

 

 

 周囲を確認するが、そこはいつもとまるで変わりない、自分の部屋。

 好豪院英梨の部屋だった。

 

 時刻は……真夜中、午前3時を指していた。

 

 着ていたパジャマは大量の寝汗でびちゃびちゃになっており、とてもじゃないが着替えないと気持ち悪くて寝られない。

 

 私は、多分このせいで悪い夢を見たんだろうなと結論付け、着替えるためにベッドから起きた。

 

 

 それにしても長い夢であった。

 

 

 朧げにしか覚えていないが、まさかユグドラシルのNPCに転生するだなんて……今日学校へ行ったら絶対にオタク友達に自慢しよう、そうしよう。

 

 私は自分の汗を拭き取り、自分の部屋で寝巻きを引っ張り出し、手早く着替えてから、酷く喉が渇いていることに気付く。

 

 体からあれだけ大量の水分が失われたのだから仕方ないかもしれない。

 

 私は体から出て行った水分を補給する為に、冷蔵庫の中のジュースを一杯飲み干しながら、何気なく、窓の外の暗闇へと顔を向けた。

 

 

 

 

 

 

 …………そこには、腰に手を当てながら、ガラスのコップでオレンジジュースをがぶ飲みする、エレティカ=ブラッドフォールンの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 思わず、ブッと漫画の如く吹き出しそうになるのを堪えて、しかし思い切り気管に入って咳き込む。

 次に見間違いかともう一度確認する。

 

 すると今度はどういうわけか、窓に映るエレティカが自分とは全く違う動きをしており、なんというか、今咳き込んでいる私を、悪戯が成功して笑っているかのような目で、しかし、にこやかな、軽やかな、そんな顔でこちらを見つめていた。

 

 

 はっきり言って100%怪奇現象である。

 本当にあったやべー話。

 むしろ世にも奇妙過ぎるって話?

 

 

 であるのにも関わらず、私はなぜか彼女に恐怖を抱くことは無かった。

 

 私はしばらく呆然と彼女を見ていた……というか見つめ合っていたが、しばらくして彼女は恭しくお辞儀をすると、何やら口にして、くるりと後ろを向き、どこかへ歩いて行ってしまう。

 

 その後ろ姿を見て、なんとなく、そう、本当になんとなくだが私は、「ありがとう」と口にした。

 

 恐らくは彼女も同じことを言っていたのだろうと直感したからである。

 

 

 なにせ、彼女はもうひとりの私だ。

 

 ユグドラシルという世界で確かに生きた、私なのだ。

 

 きっと、あの人たちの所へ行くのだろうな。

 

 

 

 そんな事を想いながら、ジュースを冷蔵庫へと締まって、冷蔵庫のドアを閉める。

 

 

 もう一度窓の外へ目を向けるが、そこにはもう、銀髪の可憐な美少女の姿は無く、ただただ、ちょっと寝癖が酷い、いつもの私がそこに居た。

 

 もう届くことはないのだろうなと知りながら私は心の中で「元気でね」と言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼△ △▼

 

 

 

 

 

 「……エレティカ」

 

 

 耳元で、私の名前を呼ぶ声がした。

 …………いっけね!さては私寝てた!?

 目を開けると、そこには、私を心配そうに見つめるバードマン、ペロロンチーノ様の姿があった。

 

 私が目を覚ましたと思うと、ペロロンチーノは突然私の身体を抱き上げ、お姫様抱っこされ混乱する私を尻目に何度も何度も「良かった……」と、そして何度も何度も「すまない……」と謝っていた。

 

 というか何故私は布1枚を羽織ってあとはすっぽんぽんでいるのだろう?

私は脳をフル回転させ、現状を理解する。

 

 あー、要するに、上手くいったというわけだ。

私の蘇生は。

……まぁそうだろうと思ってはいたけれど。

 

 なんなら次目覚めるのは牢獄の中やもしれないと思っていただけに、少しホッとした。

 どう見ても私を処刑しようとかいう雰囲気じゃあなさそうだ。

 ないよね?

 

 「俺は……お前に、お前達に、なんて謝ればいいか……」

 

 「もういいのです……これで、良かったんです、ペロロンチーノ様……」

 

 

 実は数刻前まで腹の中では「何故何も言いに来ないんじゃ!!」と激怒していたのだが、それをおくびにも出さず、今はただペロロンチーノの頬を撫でた。

 もういいのです、という言葉も、本心から来るものとなっていき、ペロロンチーノの首に腕を巻きつけた。

 

 

 「エレティカ、どこにも痛みは無いか?体に異常とか……」

 

 「はい、至って健康です、どこにも異常は見られ……ん?」

 

 「…………あっ」

 

 

 私が自身の身がどこにも異常はなく、健康体であるというのを確認していると、腹のあたりにナニかが当たるのを感じる。

 ちなみに今は、私がペロロンチーノ様に、正面から抱きしめている、という状況である。

 

この位置……。

温度…………。

硬さ………………。

そこから導き出される答えは一つである。

 

 「……イヤ、コレハソノ……」

 

 「………………、ペロロンチーノ様…………その、すみません、でも流石に今はちょっと……」

 

 「こんのっ!ドスケベ色ボケバカ弟があぁぁああああーーーーッ!!!」

 

 「いってえぇぇええええーーーーッ!!!」

 

 

 ぶくぶく茶釜による鉄拳制裁により、パカァーーーンッと小気味のいい音が鳴り、ペロロンチーノは私をそっと離しながら、脳天に走る激痛に顔を歪ませ、仄かに涙をにじませていた。

 

 「ほんとあんたという弟は……!!際限の無いスケベだな本当に!!お姉ちゃん若干悲しくなってくるわ!!!」

 

 「すんません!!本気ですんません!!俺の愚息がほんとにすみません!!!!」

 

 「あんたの娘の裸でしょう!!?それくらい我慢しなさいよ!!っていうかエレティカも「今はちょっと」って何!!?あんた娘になんて事言わせてんの!!?」

 

 「はいそのとおりでございます!!!返す言葉もございません!!!」

 

 そこには、ピンクの肉棒が、バードマン(起立)を大声で叱りつけるという何ともカオスな空間が広がっており、それを見守っていた配下の者達も、「え、これどうすればいいの」とモモンガの方へ目をやった。

 

 「はぁ……落ち着いてください、二人共」

 

 「「……はっ!す、すみません」」

 

 言いつつ、モモンガは二人から懐かしいものを感じていた。

 そういえばいつもそうこんなんだったなぁ、と。

 

 そして、正面に目を移せば、エレティカを囲む守護者に、一瞬、かつての仲間たちの面影を見て、言葉につまるものの、なんとかそれを口に出す。

 

 「改めて問う、エレティカ、どこにも異常はないな?」

 

 「はい。ちゃんと胸もあります」

 

 「ん゛っ、そ、そうか。して、記憶等にも異常はないか?最後に覚えている光景を教えてくれ」

 

 「最後の記憶…………そうですね……シャルティアの精神支配を肩代わりした所までは覚えています」

 

 「そうか、まぁ詳細な説明はデミウルゴスに任せるとして……」

 

 

 そこまで言ったところでモモンガが全員の方へ目を配る。

 

 

 「皆にも言っておくが、今回の件は、様々な情報を有しながらそこまで考慮しなかった私こそが最も責められるべきだ。エレティカの独断専行に言いたい事がある者も多いと思うが、今回に限り、エレティカの「妹を救いたい」という強い意思に免じて、その者の罪を不問とする。

 エレティカ、そしてシャルティア、お前達に罪はない。

 この言葉をしかと覚えておけ」

 

 「ありがとうございます……!」

 「ありがたきお言葉……」

 

 「そして、未だナザリックに帰還していないセバスだが、奴にはそのまま任務にあたってもらい、例の集団について接触がある可能性も考え、極秘理に監視をつける。

 アルベド、その監視の選抜はお前に一任する」

 

 

 平たく言えば原作と同じ囮のようなものであった、が、今回は情報源となる、傾城傾国のおまけ……いや、カイレと呼ばれていた老女を捕虜として既に手の内に収めている。

 

 が、その老婆から情報を聞き出そうとするも、「拷問をして情報を吐かせようとすると爆発して死ぬようになっている」と言われ、ニグンという男の部下からも学んだ事であったので、どうしたものかと思っていたのだが……。

 

 

 

 「その件の集団についてですが、ご報告があります」

 

 「何?」

 

 「いえ、また奴らが現れたという訳ではないのですが、以前モモンガ様がエレティカと共に冒険者として活動していた頃に捉えた女戦士、名をクレマンティーヌという女ですが、どうやらこの女、件の集団、名を”漆黒聖典”という組織の裏切り者であったという事が判明しました」

 

 「それは本当か!」

 

 なんと、偶然拾っただけ、そして偶然エレティカの件が重なっていたので放置していたクレマンティーヌが口を割り、漆黒聖典についての情報を得る事ができた。

 だが、どうしてそうなるに至ったか。

 

 ……それは、一言で言えばデミウルゴスの知能があったからである。

 

 

 どういうことか、一から説明すると……

 

 

 まず、クレマンティーヌに、「何故あそこに居た?あそこで何をしようとしていた?」というような質問を行った際、魅了状態であったクレマンティーヌが語る内容はこうであった。

 

 

 祖国を裏切って神器を奪ってやった

 風花【聖典】という者達に追われている

 だから、死の螺旋という魔法でアンデッドの大軍勢に街を襲わせ、その混乱に乗じて逃げようと計画していた。

 むしゃくしゃしてやった、後悔はしていない。

というのが彼女の言い分であった。

 

 

 そして、もう一人の、ペロロンチーノが捉えた老婆、カイレに「何故シャルティアを支配した?我々を狙っているのか?」と聞くと、ニヤリと笑みを浮かべなら勝気な態度でこう返された。

 

 

 愚かな化け物共め

 こんな事をして、我らがスレイン法国が誇る最強の部隊、漆黒【聖典】が黙っていると思うなよ。

 必ず……(以下略

 

 

 【聖典】

 

 デミウルゴスの脳内でそれがカチリと当てはまったとき、全てを理解した。

 

 

 つまりはクレマンティーヌは、祖国……「スレイン法国」を裏切った反逆者であり、風花聖典と呼ばれる組織に追われていた。

 であれば、シャルティアを襲った「漆黒聖典」についても知っているはずだ、と。

 

 ……大正解であった。

 

 デミウルゴスは早速クレマンティーヌに「漆黒聖典について知っているか」と”尋ね”てみた。

 すると出てくる出てくる敵の情報の数々!

 

 隊長はこういった風貌の方だ。

 隠匿される部隊であるため普段は一般人として市民に紛れている。

 その為結婚も出来る。

 他のメンバーの構成は、私の知る限りではこうだった。

 また、さらに”番外席次”という化け物が隠匿されている。

 こ、これ以上知っていることはない、だからお願いしますやめてそれだけは(以下略

 

 

 モモンガはデミウルゴスがクレマンティーヌから聞き出した情報を聞きながら、内心での口角を釣り上げた。

 そして他の守護者達も同様であり、見れば殆どのものがそれを聞いて暗黒微笑と呼ぶに相応しい笑顔を顔に浮かべていた。

 

 

 ど う し て く れ よ う ?

 

 

 エレティカは心の中で、「スレイン法国終了のお知らせ」とつぶやき、手を合わせておいた。

 

 仮に、もしこの世界の一般人がここに放り込まれたら、泡を吹いて気絶するだろう。

 

 

 「…………素晴らしい、素晴らしいぞデミウルゴス。

 まったく、自分達でも気づかぬ内にこんな拾い物をしていたとはな!

 後ほど頃合を見てその女を私の元に呼べ。

 貴重な情報源だ……せいぜい丁重に扱えよ?」

 

 「ハッ!」

 

 意外にも「敵の所在が分かった!面倒なことになる前にすぐぶっ潰そう!!」とはならなかった。

 

 今はまだ敵がなんなのかが分かっただけだ。

 

 スレイン法国が何を考えてあそこに居たのか、それが分からない以上、敵であるのか、そうでないのかも分からない。

 

 「出来るなら穏便に済ませよう」というモモンガの意見が尊重されることとなった為、よっしゃこの国つ~ぶそっとはならなくて済んだのだ。

 

 最も、それはエレティカが一言二言、「もう少し情報を集めてからでもいいのでは?」とか、「相手の目的がなんだったのか知ってからでも遅くはありません」とか、「事を荒立てないで済むならそのほうが……」といった事を囁いたからである。

 

 ともかく、スレイン法国に関しては、あちらからこちらに明確な敵対の意思が見られない限り、もう少し泳がせておいてやろうという結論に至った。

 

 そして次の議題。

 

 ワールドアイテムを所持する者が居ると分かった以上、それについて、対策を練らなければならない。

 ひいてはそれを持つ漆黒聖典などを含む、これから出会うかも知れない未知の敵に対して。

 

 

 「早急にナザリックの強化計画に入りたい。

 手始めに、私のスキルでアンデッドの軍勢を作り出そうと思っている」

 

 「それなのですが、モモンガ様のスキルですと、人間の死体を媒介にしたものでは、せいぜい40レベル以下の者しか作り出せませんよね?」

 

 「その通りだが……」

 

 「実は、リザードマンの村落を、アウラが発見しております。

 そこを襲撃し、滅ぼしてはどうでしょうか?」

 

 

▼△ △▼

 

 

  スレイン法国……その最奥に位置する場所にて。

 

 「スレイン法国最強の名を持つ漆黒聖典が、ヴァンパイアとバードマン一匹に敗れるなど……」

 

 そう言った老人の前には、それに膝をついて頭を垂れる一人の男。

 漆黒聖典において、隊長、と呼ばれる男の姿であった。

 

 「カイレ様がケイ・セケ・コゥクで仕掛けましたが……精神を完全に支配する前に反撃を受け、死者一名、重症一名となり、撤退が最善と判断したものの、そこをヴァンパイアの仲間だと思われるバードマンの襲撃により、ケイ・セケ・コゥクとカイレ様を奪われるという事態に陥ってしまいました」

 

 老人は一つため息をついた。

 いったいどんな化物が彼らの隙をついて老人一人攫う事ができるだろうかと。

 しかもそんな化物が二体、もしかしたらそれ以上に居るかもしれない。

 

 というか、何故ヴァンパイアとバードマンが手を組んでいるのか?

 

 「……どのように対処すべきか……?」

 

 そう口を開いたのは別の老人。

 彼の心中と言ったら、本当ならここで頭を抱えて転げ回りたいほどであり、それはこの場にいた誰にも言えることであった。

 

 「ニグンの陽光聖典は先日の件より消息不明……風化聖典は、巫女姫から神器を奪った裏切り者を追っている……」

 

 「割ける人員も無い以上、最低限の監視をつけて放置するしかあるまい」

 

 「それに、もしそんな化物を倒せる者が居たなら、それこそ警戒すべきであるかもしれんな」

 

 「……了解しました」

 

 そう結論づけたものの……彼らはまだ知らない。

 もう既にそのヴァンパイアは洗脳を解いて仲間たちの元へ帰還していることを。

 彼らはまだ知らない。

 その際の戦場跡が、この世のものとは思えない、想像を絶する戦場跡が残されていることを。

 彼らはまだ知らない。

 同じような実力の持ち主が二人や三人などと言う単位ではなく、かなり多数存在する事を。

 そして、そんな彼らのもとに、裏切り者が渡り、今まさに、その情報を化物に与える事になっているという、今度こそ頭を抱えて転げ回りそうな事実を。

 

 

 

 ▼△ △▼

 

 

 ところ変わって、エ・ランテル。

 

 そこで薬師をしていたンフィーレア・バレアレは、あれから数日後、恋をした女の子の為に、店を街からあの村へ移す気になった。

 というのも、モモン率いる、アインズ・ウール・ゴウンから、「自分達の為にポーションの製造を行って欲しい」という旨の話があり、その為なら協力を惜しまないという約束と共に、かの赤いポーションを研究用にいくつか貰ったからである。

 

 表向きは森で取れる薬草が豊富で、そこに移り住んだ方が研究の効率がいいからという理由である。

 

 アインズ・ウール・ゴウンとしても、今やユグドラシルで製造出来ていたアイテムの中、特に課金アイテムの中には、もう二度と手にすることのできないモノが数多く存在し、その筆頭が回復アイテムであったため、これらの研究は急務であり、その為に彼らの力が必要だったのは嘘ではない。

 

 

 「では、カルネ村までは私、ナーベがお供いたします。

 そこからは、私の同僚が既に村で警備にあたっていますので、彼女の指示に従ってください」

 

 「はい!わかりました!」

 

 

 そう言って彼らはエ・ランテルを離れ、カルネ村へと店を移したのだった、が、そのカルネ村の様相を見て驚く。

 

 「なんだい?あれは?」

 

 「前見たときより囲いが凄くなってる……!」

 

 それは木で組み立てられた、村全体を囲う、見張り台まで設置された大きな壁であった。

 これだと、ゴブリンはおろか、オーガでも、壊すのに時間がかかりそうだと思う程の。

 

 そして、門と思われる場所には、ンフィーを待つ、エンリという少女と、それらを警護する、プレアデスの一人、二房の赤く特徴的な三つ編みと浅黒い肌を持ち、背中には聖印を形どったような巨大な聖杖を背負っている女性。

 

 姉妹であるナーベと目が合うとにこりと微笑み、「ちわーっす」と軽い感じで手を挙げる。

 

 

 「モモン……様達に言われて、ンフィーレアさん達のお世話をさせていただく、ルプスレギナ・ベータ、っていうっす」

 

 

 彼らはまだ知らない。

 彼女が、社会人の常識であるほうれんそうが出来ない駄犬だと。

 彼女はまだ知らない。

 それが原因で至高の御方を大変お怒りさせてしまうことを。

 

 あるいは、それを事前に知っている誰かさんがお節介をしてくれるかもしれないが。

 

 

 

 

 ▼△ △▼

 

 

 リ・エスティーゼ王国の王都では、セバスとソリュシャンが潜伏しており、情報収集に勤しんでいた。

 

 「そろそろご休憩されてはいかがですか?セバス様」

 

 「あぁ、ありがとうございます、ですが、これを片付けてからにしましょう」

 

 そう言って、ソリュシャンが出した紅茶を一口口に含むと、再び書類に向かい直すセバスであったが、ふと窓の外を見ると、大きく雷が鳴り響き、閃光を発したのを見て、明日の天気を憂いた。

 

 そして、そんな雷雨の中ひた走る男が一人。

 

 男の名は、ガゼフ・ストロノーフ……王国最強の戦士長の名を持つ男である。

 王都の道を息を切らしながら走っていた彼であったが、ふと、視界の端で何かを捉える。

 

 その方向を見れば、そこには震えながら、刀を抱いて死んだように座り込む男が一人。

 その男に、ガゼフは一人、似た面影を持つ者を知っていた。

 

 「……アングラウス……?」

 

 そして、その名を呼ばれると、死んでいるかのように見えた男はゆっくりとガゼフの方へ顔を向ける。

 ひどくやつれており、生きる活力、生命力を感じない、死んだ目だ。

 

 「……ガゼフ……ストロノーフ……」

 「……!?……ブレイン・アングラウスか……!?」

 

 

 彼らはまだ知らない。

 彼らの先に待つ数々の至難と、数奇な運命を。

 

 

 ▼△ △▼

 

 

 ナザリックのある一室

 

 「モモンガ様、件の女を連れてまいりました」

 

 「うむ、通せ」

 

 扉を開いて彼の前に現れたのは、以前見たときと何ら変わりない姿の、まるで山猫のような目で威嚇する女戦士……そして、スレイン法国の大反逆者、クレマンティーヌだった。

 

 クレマンティーヌはというと、突然現れた、この化け物共を総括、いやもしくはそれ以上の存在であるらしいオーバーロードを前にし、死を覚悟していた。

 

 なにせ今の彼女は手に枷をつけられ、持っていた武器の全てを、鎖を握る男によって奪われたのだから。

 

 「……殺すなら殺せ」

 

 「まぁそう怯えるな、私はなにもお前をとって食おうってわけではない。

 ……話をしよう」

 

 そう言って開かれたアンデッドの口からは、とんでもない内容の話が飛び出した。

 

 「私のために、その剣を振るう気はないかね?」

 

 「…………は?」

 

 このアンデッドの言い分はこうである。

 

 

 君が吐いてくれた情報は実に有益で助かるものだった。

 だからそのお礼として、私が目をつけていた者を殺そうと企んでいたのは目をつぶってやろう、なんならあのカジットとかいう男の命も助けてやってもいい。

 

 だが君自身の吐いた情報では、君は祖国を裏切り、反逆者として追われていると聞いた。

 

 だから、もし協力してくれるのであれば匿って、部屋を与えよう。

 武器を与えよう、力を与えよう。

 そして協力で貢献度が高いとなれば更なる自由を約束しよう。

 

 なに協力といってもそこまで難しい話ではない。

 

 

 「何をしろって言うんだ?まさかケツ振ってダンスを踊れとでも?」

 

 「まさか。

 今私達はある実験をしていてね……。

 自らの手で、迷宮……ダンジョンを作り出そうというものだ」

 

 「ダンジョン……?」

 

 「知らないか?その場所には魔物が多く生息し危険が多い代わりに、魔道具をはじめとしたアーティファクトや武器が多く産出される宝の山だ。

 それを私達の手で創造し、冒険者を引き入れる」

 

 「そんな事が……」

 

 可能なのか、と言おうとしたが、その目に宿る絶対なる自信、そしてここに来るまでに通った、まるで別世界だと言って遜色ない、ナザリックという場所の”絶対なる力”を前にして、虚言を言っているとは思えなかった。

 

 「一体何のために、そんな……」

 

 「そこまで君が知る必要はない。

 我々はそのダンジョンの試作品とも言える物を既に用意しているのだが……まだ調整段階であり、不確定要素が多い。

 であるから、君という人類最強の戦士とやらに、実験の協力を要請しているのだよ。

 つまりは、君に私達の作ったダンジョンに足を踏み入れる第一人者となってほしいのだ。

 無論、そこで手に入れた、私達の配置したマジックアイテムについては、褒美として君にくれてやろう」

 

 ちなみにそのダンジョンの製作者は、エレティカやペロロンチーノ辺りが外の世界へ行っている間暇だった為アウラやマーレを誘ってぶくぶく茶釜が作ったものである。

 

 作ってしまったあとになってから、「冒険者の戦いを見ることで現地の情報の収集に繋がる」「ナザリックの他に注意を向けさせる事で本物のナザリックの防波堤になってもらう」という言い訳を考えついたものの、それまではなにも考えずに迷宮を作っていたというのだから末恐ろしい。

 

 アルベドの裁縫の趣味然り、今回の件然り、暇になった女性がひたすらに趣味に走ると、時々時間を忘れてとんでもないものをつくる事があるとモモンガは学んだ。

 

 放っておいたら山を一つまるまる改造して要塞にでもしてしまいそうな勢いである。

 

 

 そうとも知らないクレマンティーヌは、まるで「どうだ、簡単だろう?」と言うように手を広げながら言うモモンガに対して、苛立ちでも怒りという感情は既に無く、多少自棄も入っているものの、「面白いじゃないか」と思った。

 

 良いように扱われている感があるのは癪だが。

 

 こうして、クレマンティーヌはほぼ毎日、ダンジョン……「リューゲ(偽りの)=ナザリック地下墳墓」へと足を踏み入れ、代わりにナザリックで部屋を一つ……この世界では考えられない程快適で豪華な部屋を割り当てられた。

 

 

 この事から下僕からはハムスケに次いで二番目の、「モモンガ様のペット」であると認識された。

 

 

 最初はモモンガに対し敵意100%だったクレマンティーヌも、ナザリックの力を知った後は、これなら祖国からの追っ手を簡単に振り切れるだろうと確信して機嫌を良くし、その上かつて無い程良い暮らしが出来るのを素直に喜んだ。

 

 加えて、数日前まで同じ場所に放り込まれていた自分と同じく捕まっていた人間達を見て、それらを虐める権利を「貢献度に応じて考えてやらなくもない」という返事を貰い、一層実験に励んだ。

 

 そしてモモンガはモモンガで、仲間が作った調度品や部屋に対して「なんっ、だこりゃァ!?こんな豪華な部屋見たこともねーぞ!?」と歯に衣着せぬ、手放しの賞賛を贈る彼女を気に入ったらしく、何かと気にかけてやることが多くなった。

 

 彼にとって100レベルに到達したNPCならまだしも、40レベルにも満たない彼女がいくら殺意を自分に向けたところで、せいぜいが爪を引っこ抜かれた野良猫にネコパンチされるようなものであったので、「裏切られるかも」という恐怖心無く接することができる存在は貴重であったのだ。

 

 「手始めに、そのダンジョンへ潜るのにこれを身につけておくといい。その悪趣味なビキニアーマーでは、すぐに死んでしまうかもしれないからな」

 

 「へぇーっ、サービスいいじゃん」

 

 上機嫌に新品装備と細剣を受け取ったクレマンティーヌは知らない。

 その後、彼女は受け取った細剣を使い、数々の敵(召喚されたアンデッドや余ってたゴミ同然のゴーレム)を打倒し、めきめきレベルを上げ、単騎でプレアデスに匹敵するほどの実力の持ち主になるのを。

 クレマンティーヌは知らない。

 モモンガから目をかけられているという事実が他の下僕達に嫉妬で人が殺せれば100回は死んでいそうな程嫉妬されているのを。

 

 ……後者はこのまま永遠に知らない方が幸せであろう。

 

 

 

 ▼△ △▼

 

 

 エ・ランテル、冒険者組合

 

 

 バタンッと大きな音を立てながらその両開きの扉が開かれ、そこから漆黒のフルプレートを纏う戦士が現れる。

 

 以前は彼に向かって馬鹿にするような声が多くあがったものだが、今では彼の名声、そして実力を知らないものは居ない。

 

 「あれが、王国三番目のアダマンタイト級冒険者……『漆黒の英雄』モモンと、銀色の幼姫(ようき)ティカ……」

 

 「噂じゃ、件のヴァンパイアとの戦いで、森の一角を焼き尽くしたのが彼らしいぞ」

 

 「まさか、それは人間のレベルじゃねぇぞ」

 

 「それが出来るひと握りってことだろう?俺は彼がアダマンタイト級、いや、それ以上の存在だったとしても、驚かないね」

 

 「ティカたんのちっちゃい足に踏まれたい……」

 

 「それな?」

 

 「成長したら一体どんな美しい令嬢になるんだろうな?」

 

 「それこそ、黄金を超えるんじゃないか?」

 

 「違いない」

 

 「馬鹿野郎お前!!ティカちゃんは今のままでいいんだよ!!今のままがいいんだよ!!」

 

 そんな冒険者たちの羨望のまなざしを背に受けながら、モモンは受付嬢に仕事の達成を報告する。

 

 「次の依頼を受けたい、いいものを見繕ってくれ」

 

 「すみません、今モモンさんに依頼する程の依頼は来ておりません……」

 

 「そうか、なら……むっ?…………それは丁度良かった。

 少し用事を思い出したので、何かあれば宿屋に来てくれ」

 

 「はい!黄金の輝き亭ですね?」

 

 既にマントを翻し、踵を返していたモモンはさっと左手を上げてそれに答えた。

 

 「では、これで失礼します」

 

 その後に続くティカは恭しくお辞儀すると、急いでモモンについて行った。

 

 

 

 冒険者組合を後にしながら、ティカは思う。

 

 もうこれから先、原作知識は使えない。

 もう既に運命は原作と大きく変わりつつあるからだ。

 

 だがそれを後悔することは無いだろう。

 

 

 私はまだ知らない。

 この先、原作からかけ離れた世界がどうなるのかを。

 

 

 だがそれでいいと思っている。

 

 原作からかけ離れた事で、今現在目の前で起こっている光景が、リアリティを増して行き、むしろ、ようやく、本当の意味でナザリックの物となれたような……この世界に溶け込んだような気がしたから。

 

 

 「ガルガンチュアに起動を命じろ。

 ヴィクティムも呼び出せ。

 ペロロンチーノさんとぶくぶく茶釜さんにも声をかけておけ。

 コキュートスが戻り次第……せっかくだ。

 

 全階層守護者で行くとしよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユグドラシルのNPCに転生しました。

 

 

 第一部「主人公に”原作知識”がある場合」

 

 原作:オーバーロード

 

 筆者:政田正彦

 

 

 

 

 ―END...?―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼△ △▼

 

 

 ナザリック地下大墳墓、とある一室

 

 

 「ねぇ、ごめんって、謝るから……そろそろ離してくれない?」

 「ダメでありんす!!本当に姉様は……!!私がどれほど心配したかわかっているんでありんすか!?」

 「(それは私からも貴女に言いたいことなんだけどなぁ)」

 

 そこはエレティカの部屋である。

 部屋は天幕のついた黒いベッドだとか、赤や黒を基調とした調度品、仄暗い紫の光を放つ照明のエロティックな雰囲気、その周りに置かれた人形だとかで、いかにも、「吸血鬼の姫が住んでいそうな部屋」であった。

 

 そしてそんな部屋のベッドで姉に抱きついて離れないのは、彼女の妹であるシャルティアであり、全力でひっついて、甘えていた。

 

 「まったく……困った妹……」

 

 そう言いつつ、エレティカはシャルティアの髪を優しく撫でた。

 

 「もう二度と……こんな事をしないと約束して欲しいでありんす……」

 

 「分かった……シャルティアも、もう二度とあんな事やらかさないで。これは約束よ」

 

 シャルティアはそれに短く応えると、顔をエレティカの胸の中へ埋めた。

 エレティカはもう一度シャルティアの髪をなでると、慈しむような目で、妹が満足するのを待つことにした。

 

 だが、その直後になって気付く。

 この光景が純粋な姉妹愛からくるものではなく、妹の姉に対するそれ以上の愛が生んだ光景だということに。

 

 「ふへ……ふへへへへ……」

 

 「ちょっと、ンッ、くすぐった、アフッ……やめっ……シャル、ティア?」

 

 私はすっかり忘れていたのである。

 シャルティアを制作したのが誰なのかを。

 シャルティアの設定に書かれた「盛りすぎだろ!!」という性癖の数々を。

 そしてそんなシャルティアの、「両刀」「ロリ○ッチ」「死体愛好家」「巨乳好き」という設定上……スタイルの良いユリに次いで、自分はドストライクだという事に……。

 

 「(し、辛抱たまらんでありんす!!で、でも相手は姉!姉妹でありんすし!あぁでもおっぱい柔けええええ!!!)」

 

 「ちょっと?ねえ?聞いてる?シャルティア???ちょ、目が怖い!目が怖いんだけど!!ん、ひぁ、やめっ、ぁっ、く……んひぃっ……やぁぁ……」

 

 「ぁ……姉様、可愛い……(もう、姉妹とか、どうでもいいのでは……???)」

 

 「やめてぇ……」

 

 そして、そんな姉の反応も相まってシャルティアの勢いはみるみる激しさを増して行き、涙目になったエレティカの顔を見てついに辛抱が効かなくなった彼女の指がするりとエレティカの柔肌を羽根のように、探るように滑っていく度に幸福感と快楽を走らせていく。

 

 そして……

 

 「あっ……ヤダ、そこは、ダメ……」

 

 涙目で、恥じらうようにそう言う姉の姿を見て、とうとうシャルティアの中で、何かが切れる音がした。

 

 「姉様ぁ……そんな可愛い顔をされたら、私は、もう……」

 

 

 

 

 「……キ、キマシタワー……!!!(小声」 

 「馬鹿言ってないで早く止めてこい馬鹿弟!!」

 「アッハイ」

 

 こうして、事が起きる前に至高のお二人によって止められたが、もし止められていなかったら……。

 

 その後の姉妹間で繰り広げられることになる展開を……私はまだ知らない。 

 

 ……知りたくない……。

 

 

 

 

 END




 これにて、第一部完結となります。
 

ですが、色々なご指摘を受け、おかしい部分や説明のつかない部分、正直失敗したなと思う部分が多々あるので、ハッキリ言って満足の行く出来だったとは到底言えません。

なので、恐らく先の話になると思いますが、

シナリオの再構成を行いたいと思います。

いつになるとか詳しくはまだ分かりませんが、リメイク版として新規に次話投稿する形で、一話からやり直したいと思います。

多分秋頃……いや冬に差し掛かる頃かなあ……


ともかく、一先ずはこれを区切りとして一旦終わりと、させて頂きます。

今まで応援して下さり本当にありがとうございました。

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