たとえ気を遣おうと埃が舞う。
髪が落ちる。
部屋でスナック菓子を食おうものならカスが散る。
物が勿体無くてどこかに置いたまま捨て渋る。
───だが、我々には部屋を掃除するという必要がある。
ハタキを掛け、掃除機で吸い込み、雑巾で拭き取る。
要らない物と涙を呑み、ゴミ袋に捨てなければならない。
それが個室を貰い受けた者の義務だから
by.ぐだ男
今回はお掃除のお話です。
「さってと…」
要らないと決めた服に袖を通しエプロンとバンダナを纏った俺は、自分の部屋を睨み付けた。言い出しっぺが手本を見せねば何とするか。
「さぁ、我が汚部屋…掃除し切ってみせる!!!」
ハタキ・掃除機・塵取・箒・ゴミ袋etc…。フル装備を纏った俺は自らが面倒くさいと放置した汚部屋にケジメを付けるべく突撃した…。
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「あれ?マスター、そのゴミなんだ?」
「おはようモードレッド。こいつは俺が長年溜めてきた垢みてぇなもんさ」
朝…溜まったゴミを運んでいると、私服姿のモードレッドが声を掛けてきた。
「へぇ…あ!このゲームまだ動くじゃねーか!」
「ん?あぁ、俺のゲームボーイアドバンスか。もう使わないから捨てようと思ってたんだ」
「じゃあオレこのゲーム貰っていい?どうせ捨てんなら有効に活用してやるよ」
「いいよ。あげるよ」
「やったー♪」
ゲームボーイアドバンスを受け取ったモードレッドは嬉しそうに胸に抱くと走り去った……大体いるんだよな。勿体無くて貰うんだけどその内ゴミの1つになるパターンの奴。
「少し休むか…」
限界まで膨らんだゴミ袋達は廃棄室と決めた部屋(爆発事件前、俺を「負け犬」と笑ったマスター候補の割り当てだった場所)に捨て、後で担当者が纏めて処理する。
「ザマァみろってんだ」
ゴミ屋敷となった部屋に中指を立てた後、思い立ち出て行った。
他のサーヴァント達の部屋が掃除されているか抜き打ち調査をする為に……!!!
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case1…モードレッド
「抜き打ちチェックの時間だオラァッ!!!」
「何ぃいいいいいい!?」
呑気にごろ寝をしていたモードレッドは突然のマスターの来訪に仰天した。
「ちょっと!おい!乙女の部屋に入るタァどういう用件だよ!?」
「お前のゴミ袋出てねぇぞ!サボってんのか!?」
マスターに部屋を見せないよう手を大きく振って抵抗するモードレッドだったが、時既に遅し。
「菓子袋散らかってる!スナック菓子のカスが転がってる!マンガが床に散乱してる!これを怠慢として何とする!」
「え…あー……はぃ」
「やると決めた日にはやらないと後々後悔するぞ。こんな汚部屋…婦長に見られたりしたら……」
「私に何か御用で───────」
悪魔が降臨した…。
「この書籍はスナック菓子の油汚れが付着しており、即廃棄案件です」(ポイッ
「それはオレが父上から貰った本だ!返せ!」
「現在は電子書籍という便利な物があるでしょう?それにこちらの鎧もかなり汗が蓄積しています。1度洗いに出しなさい。クリーニング代は私が出しましょう」
ナイチンゲールによる怒涛の仕分け活動により、モードレッドが出し渋るゴミやそれに相当する物が次々とゴミ袋に入れられていく。さすがナイチンゲール。躊躇無くやってくれる。
「いいですか、世の中“形ある物は壊れる”のです。割り切らなければいつまでも前に進めません」
「オレの下着を捨てながら言うセリフじゃねぇだろ!」
凄まじい勢いで捨てられていくモードレッドの私物…だが、単に捨てる訳では無く、清潔な下着を新たに用意したり捨てるマンガの電子書籍を買ってくれているあたり成長を感じられる。
「こんな所で今回は許しましょう」
「オレの部屋の80%がごっそり挿げ替えられてるぅうううううううううう!!!」
モードレッド…全ては掃除をサボった自業自得だぞ……。
「マスター、他にも掃除する所があるのでしたら私もお手伝いしましょう。衛生的に良い部屋になるよう精一杯やらせていただきます」
「それは助かる。モードレッドもやるか?」
「───それなら、やり甲斐のある部屋を幾つか知ってるぜ」
思いついたモードレッドはニヤリと笑った。
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case2…巌窟王
「抜き打ちチェックの時間だオラァッ!!!」
「貴方の部屋にも掃除が必要です。」
「なっ!?何故バレた!?」
巌窟王ことエドモン・ダンテスの部屋は凄まじく汚かった。恐らく、監獄の雰囲気を出したいのか電灯は外され、ランプの明かりだけが灯る薄暗い部屋……はっきりと感じる黴臭い匂い…。ナイチンゲールの顔に青筋が幾つも立っている。
「モードレッド、例の物を」
「あいよ!」
モードレッドは外に待機していたサーチライトの電源を入れた。凄まじい閃光が部屋中を照らす。中の惨状は…口にしたくない。
「うわぁ……」
「これは……」
「いくらなんでも…なぁ」
そして、巌窟王は俺達の格好を見て、即座に逃げの体勢を取った為いち早く勘付いたモードレッドによって取り押さえられた。
「何をする離せ!」
「お前クセェんだよ!」
「この服はあの人から貰った大事な物なんだ!!!頼む!捨てないでくれ!」
「ではクリーニングしましょう……ふむ、貴方最後に風呂に入ったのはいつですか?」
「え……その…」
「では貴方の身体も丸洗いしましょう。モードレッド、取り押さえてください。脱がします」
「らめぇええええええええええええ!!!」
「なーにやってんだか」
取り敢えず、全体的に換気を行う。黴は暗く湿気のある場所で活性化する。オマケにランプの明かりしか無い部屋の為天井には煤が溜まっている。密室で火を灯すのは流石に危険と判断したようだが換気用の機器は最小出力でしか稼働させていない。どこまで雰囲気主義なんだよ全く……。
“お前見た目と言動に反してちっこいなぁ”
“う…うるさい!!!かなり気にしてたんだぞ!!!”
“垢がかなり出てますね。1日最低1回は風呂に入るようにしてください。1人の不衛生によって多くの人間が苦しむ事になります。仮にもここは実質軍事施設のようなものです。度を越した行動は今後控えるように…”
“…………もうやだえどもんおうちかえる”
哀れ…巌窟王………。まぁ、こっちは首尾良く進んだし、だいぶマシになったかな。黴にやられた私物は片っ端からゴミ袋にぶち込み、代替え品を用意。電灯も改めて装着。出力操作の為のリモコンも用意した。これで許してやっていいだろう。
「終わったぜ!マスター!婦長はもう少しエドモンの奴を洗うってよ」
「お疲れ」
「じゃあ次行こうぜ!」
モードレッドは俺の背中をバシバシ叩くと一緒に部屋を後にした。
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case2…ランスロット
「抜き打ちチェックの時間だオラァッ!!!」
「静かにしろモードレッド、今集中している所なのに」
ランスロットの部屋が汚いというモードレッドの告発に従い、部屋に入った(俺の真似をしてモードレッドが扉を開けた)が、その部屋は綺麗に整理整頓され、観葉植物があちこちに置かれていた。当の本人はパソコンと向かい合ってチェスをしていた。
「どこも汚くないじゃねーか」
「おかしいなぁ…前遊びに行った時は酷かったのに……」
「私も常識人だ。綺麗にする時はここまで美しく整理整頓する」
「感心するなぁ…」
「(おかしい…奴が大事にしてるアレがこの部屋には無い……)」
俺が感心する中、モードレッドだけは信用していなかった。周囲を見回し、首を傾げている。ランスロットは自信たっぷりに俺に告げた。
「用が無いのでしたら、今CPU相手のチェスで忙しいですので出て行ってくだされば────」
「皆様、お待たせしました。ナイチンゲール、遅れて参上しました」
「!?」
ナイチンゲールが登場した途端、ランスロットのキリッとした顔が一瞬変わった。
「なるほど、確かに整頓された部屋ですね」
「はい、ナイチンゲール嬢。必要な物だけを部屋に置いていますので」
「えぇ、確かに。“この部屋には”」
「(ギクッ!?)」
ナイチンゲールはスタスタと壁に向かって歩くとある一画のタイルを掴み、引っ張り始めた。
「まさか…隠し部屋!?」
「ご名答です。実は、カルデアの私室には緊急避難用のシェルターがあります。いざとなった際は一人分入れる場所ですのでそちらに避難すると良いでしょう」
ゆっくりと引き出された一画のタイル。青ざめるランスロット。ナイチンゲールがそれを1回右ひねりすると、シェルターの扉が開き………。
大量のエロ本が雪崩のように出てきた。
「ははぁ……」
「なるほどぉ〜、勉強になるぜランスロット卿」(ニヤリ
「ッ!」
「避難用のシェルターに乱雑に積み上げるのは感心しませんね。いざとなった際に避難出来ないではないですか」
「私は逃げも隠れも─」
「地震が起きたらどうするのですか?誇り高き騎士道とかやらも意味無いでしょう?安全な場所は安全な場所として確保しておかねばいざという時に対応出来ませんよ?」
マシンガントークで責められるランスロットが可哀想になってきたな。先程の自信はどこへやら…完全に萎縮してしまっている。
「では仕分けを───」
「頼みます!その『純愛!ドスケベ娘との甘いひととき』は捨てないでください!あぁ!トリスタン卿から戴いたそちらの人妻本も駄目です!そちらの『ロリ巨乳メイドとのラブイチャ物語』はガウェイン卿からの借り物です!捨てないでください!お願いします!」
完全に性癖が暴露されてるわこれ………。
「私は本で無ければ困るのです!読んだ気になれないのです!どうか…どうか勘弁してください!」
とうとう土下座までするランスロット…だが、ナイチンゲールはそこまで責めなかった。
「まぁ、今回の抜き打ちチェックではこのいかがわしい本達以外汚れた物がありませんので大目にみましょう」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「ただし、本棚を用意してそちらに陳列するように。暗い所に配置した場合、黴が生える可能性が否定出来ません。その約束を守っていただけるのであれば…という条件が付きますがよろしいでしょうか?」
「はい!ありがとうございます!」
今回は穏便に解決出来たようだ。なるほど、避難用のシェルターか…後でチェックしておこう。
「ところで、なんでシェルターに隠したと気付いたんだい?」
「私が来た瞬間にランスロットの目線がシェルターに向いた為です。本当に何もないのでしたら目線が泳ぐ事は無い筈です」
「なるほど…」
ナイチンゲールの嗅覚と咄嗟の洞察力にはいつも感服させられる。
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case3…スカサハ
「スカサハの部屋が?」
「意外ですね。彼女はキチンと掃除しているイメージです」
「そう見えるだろ?違うんだよなぁ〜」
モードレッドは笑顔でそう言うと、俺の持っている合鍵で扉に手を掛けた。
「抜き打ちチェックのじk───」
「
開けた瞬間に飛んできた死の槍!だが、それはモードレッドに届く前にナイチンゲールが手で掴んで直撃を阻止した。いや、カンストしてるとはいえ何者だよホント。
「暴力に訴えるとは感心しませんね。スカサハ」
「───くっ」
彼女の背後を見ると…あぁ確かに。下着や戦闘服がベッドに散乱し、床もわたゴミや適当に纏めたゴミ袋が散乱していると典型的なOLのそれだ。
「確かにこれは酷いですね。掃除案件です」
「───すまぬな。戦いばかりに明け暮れている故、どうしても掃除から目を背けておった」
バレた為かスカサハは素直に自分の非を認めた。そういう態度は評価に値する。
「しかし、不潔な場所で眠る事は自身の眠りを不快にするどころか、病気になる可能性もあります」
「──ぐっ」
「この部屋は殺風景ですが、数少ない家具が汚すぎます。こまめに掃除出来るような人間になれば他人からも『素敵な女性』と評価される事でしょう」
「……なるほど。それも一理あるか」
ナイチンゲールはテキパキと掃除を済ませ、ベッドから洗濯物などを回収した。
「本日は非番にしますので1度ゆっくりお休みください。現在のベッドは洗濯しますが、夜中までに間に合う確証がありませんので今日はこの簡易ベッドで眠るように」
「…分かった。そうしよう」
俺達は洗濯物を運び、部屋を出た。1人残されたスカサハは見違えるようになった部屋を見て次から自発的に掃除をするようになったという…。
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case4…アルトリア編
「オレは父上の息子として、1番酷いこの汚部屋を告発する。一言言っておくが“覚悟してくれ”」
モードレッドは真剣な顔で俺達に告げた。まるで掃除してなかった奴が言える台詞では無いと思うけどな!
「いえ、俄然やる気が出るというものです。行きましょう」
ナイチンゲールは扉に合鍵を挿して回す。そして、1度考えてから一気に開けた。
「抜き打ちチェックの時間だ、おらー!」
俺達の真似して開けたナイチンゲールが反則級に可愛いんだが…。
「確かに…これは酷いですね」
呆れ声が聞こえた為、俺も決心が付いて中を覗けた。
“足の踏み場が無い!!!!”
まず床!
漫画やらDVDのケースやら着替えやら空の菓子袋やらが一面に散らばり、汚れているとかいうレベルを超えている。
───ナイチンゲールの額に青筋が立つ
次に棚!
歴史の書物やらが敷き詰められているが、お菓子の景品と思われているフィギュアが所狭しと並んでいる。それで持って埃が被っているのだ。
───ナイチンゲールの拳がワナワナと震える
次にクローゼット!
私服がハンガーに掛けられているだけでは留まらず、それでも足りない為に無理矢理隙間に押し込められ、その隣には彼女が使わなくなった獅子の鎧が放置されている。
───ナイチンゲールの瞳孔が開く
そして、ベッド!
着替えが放り投げられている上に変な匂いまでしている。そして、そのベッドにはモードレッドの父上…つまりアルトリア・ペンドラゴンが涎を垂らし気持ち良さそうに惰眠を貪っていた…。
「むにゃ………もう…たべられませんよぉ……」
───ブチッ!!!
ナイチンゲールは一切の躊躇をせず、腰のペッパーボックスピストルを引き抜きアルトリアの顔スレスレ目掛けて掃射した。
────ズバババババババババババババババァアアアアアア!!!!
天を切り裂くような咆哮が部屋を蹂躙する。その音の濁流がアルトリアを心地よい眠気から引き戻すには十分であった。
「!?!?!?!?!?」
生命の危機を感じたのか、アルトリアは意識を覚醒させて飛び上がった。10秒程放心した後、彼女の瞳が怒りに燃えるナイチンゲールの顔を捉えた………。
「ひっ……!」
「
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「お疲れ様!今日は頑張ってくれた2人に労いだ。遠慮無く食ってくれ」
「「「かんぱ〜い」」」
たっぷり汗を掻いた俺達は熱い風呂で汗を流した後、俺が用意した夕飯を一緒に食べていた。今回はMVPであるナイチンゲールのリクエストより、故郷フィレンツェの料理「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」がテーブルに並んでいる。
「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」とはフィレンツェ風ステーキである。イタリアで最もやわらかいキアーナ(トスカーナ州)産の牛肉を用い、骨付きのまま分厚く切ったステーキで、味つけはオリーブ油、塩、胡椒のみ。
炭火で「アル・サングエ(血もしたたる)」という形容をつかうくらいのレアに焼く。肉の自然の風味が味わえる逸品である。
流石にキアーナまで牛肉を入手する事は難しかった為、肉を柔らかくする技術をエミヤから学び、それで代用している。
「及第点ですね。80%は再現出来ています」
「サンキュ、そう言ってもらえて俺も嬉しいぜ」
「美味い!ヤバイ!美味過ぎィ!!!」
料理に舌鼓を打ちつつ、ふと俺は家族の団欒にも似た空間だなと思った。ナイチンゲールの微笑みを脳内に焼き付けられただけでも今回の掃除はやった甲斐があった。
「また…」
「?」
「?」
「こうやって皆んなで飯を食おうな!」
そう言うと、2人はニコッと笑ってくれた………。
この小説を読んで自分の部屋を掃除しようと決意していただければ幸いです。
因みに私の部屋からは『ゲーム&ウォッチ』が出てきました(笑)