シルバーウィング   作:破壊神クルル

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19話

~side簪~

 

姉の不審な行動が気になった私は、思いがけず、離れで、姉と謎の銀髪少女との密会を目撃してしまった‥‥。

私は逃げるようにして離れから自分の部屋へと戻った。

部屋に戻ると、息を整えて先程、離れで見た光景が夢ではなかったのかと思う。

だが、姉の母性に満ちたあの顔‥‥

そんな姉にまるで赤ん坊の様に甘え、姉の乳房を求める銀髪の少女の姿は頭の中に生々しく、より鮮明に残っており、あの光景が夢ではなく現実なのだと実感させられる。

同じ女の子同士なのに、どういう訳かあの時の光景は卑猥には感じられず、むしろ神々しい光景にも見えた。

普段から人を食った様な性格のあの姉が‥‥

自分を見下す様な態度(簪視点)をとって来る様なあの姉が‥‥

他人には仮面を被って手の内を中々見せないあの姉が‥‥

あの姉が、まるで母親の様な顔をしていた‥‥

自分には一度も見せた事のない顔をした姉の姿があそこにはあった。

あの姉にあの様な顔をさせるあの銀髪の少女は一体何者なのだろうか?

少なくとも親類には居ない。

姉の不審な行動‥‥

あの子の正体‥‥

私の疑問は尽きない。

銀髪‥‥

嘗て本音と共に巻き込まれたバスジャック事件。

その時、本音を助けて犯人を捕まえたあの子も銀髪だった。

もしかしてと言う思いもあり、後日私はもう一度離れに行ってみようと思った。

 

それから数日後‥‥

 

私は虚さんにその日、姉がIS学園から帰ってこない事を確認した後、離れに向かった。

当主である姉の厳命で離れに通じる通路には誰もいなかったし、監視カメラの類もなかった。

私にはもってこいの状況だった。

誰にも知られる事もなく、そして誰にも会うことなく、私は離れに着いた。

もしかして、彼女もこの離れに通っているのかと思ったが、離れからは人の気配を感じる。

間違いなく、彼女はこの離れに居る。

私は注意深く、警戒するようにまずは離れの周りを歩きながら、あの子を探す。

すると、あの子は見つかった。

離れの廊下の壁を背にあの子は静かに眠っていた。

私はその光景を見て、思わず息を呑んだ。

 

綺麗‥‥

 

それが最初に抱いた彼女に対する私の感想だった。

太陽の光を浴びてキラキラと光る銀髪‥‥

着流している着物が妖艶さを醸し出している。

近くには錠剤の入った瓶が落ちており、まさか睡眠薬自殺!?

と思ったが、彼女が身をよじっているのを見て、その結果彼女は生きている事を確認できた。

眠っているので確証は持てないが、彼女はあのバスジャック事件のあの銀髪の子ではないかと思った。

それを確かめるためにもっと近づいてみないと‥‥

そう思った私の足が彼女とある一定の距離で止まった。

これ以上先に足を踏み入れてはいけない。

私の本能がそう告げている。

故に私はこれ以上先に足を踏み入れる事が出来なかった。

 

 

簪の判断は正しかった。

イヴは今、現在ちゃんと理性もあり、善悪の区別がつくが、生物兵器、暗殺者として体が反応するのか、睡眠中に見慣れない人物がある一定の距離に近づくと自然に迎撃する体制がついている。

一度でも彼女が起きている時に一緒にベッドに入って寝たり、彼女の方から一緒に寝ようと誘った人物はその迎撃対象から外れる。

しかし、簪とは一度バスジャック事件の時に顔を合わせ、楯無からの話を聞いただけで、そこまで親しい仲ではないので、今の簪は迎撃対象となる。

簪も暗部の家系の家の者。

昔から武術だって学んでおり、薙刀の腕前はそこいらの高校生よりは上であり、危機に関した直感も一般人よりは上である。

 

 

私は暫くその場から動けず、眠る彼女を観察した。

見れば見る程、彼女は綺麗だ。

髪の毛もサラサラできっと上質な絹糸のような手触りなのかもしれない。

胸だって私よりも大きい‥‥

姉はそんな彼女を独占している。

この離れという鳥籠に入れて、誰の目にも触れさせない様に隔離して、姉は彼女を花よ蝶よと愛でているのだろう。

どうして、姉ばかり‥‥

姉はどうして、私にはどう頑張っても手に入らないモノをホイホイと簡単に手に入れられるのだろう?

まるで、神から愛されているかのようだ‥‥

私は悔しさがこみ上げてきて拳をギュッと握りしめ、離れを後にした。

 

 

そして、時は年末年始となり、受験生にとってはラストスパートをかける時期となった。

楯無は簪に受験生なのだが、初詣に行かないかと誘ったが、当然の様に断られた。

受験生勉強で忙しいと言う理由で‥‥

楯無は束の秘密研究所から帰ってからは、簪に幾度も接触を試みたが、簪の態度は日に日に楯無に対して辛く当たる感じになっていた。

楯無は確かに妹から嫌われる事をしたと自覚があり、こうして姉妹関係を修復したいと思っているのだが、相手の簪の方からまるで自分を拒絶するかのようになっていった。

一体なぜ、妹はまるで自分を目の仇の様にするのか楯無には分からなかった。

どうしてここまで関係が悪化しているのかも‥‥

そこへ、追い打ちをかける様に楯無のスマホがメールを受信した。

開いてみると、それは束からであり、添付された写真を見ていると、

 

『羨ましいだろう?青髪』

 

と言うコメントと共に晴れ着姿のイヴ、クロエ、束の三人が初詣に来ている写真だった。

年末、イヴは楯無に『年末年始は家族とゆっくり過ごしてください』と言って束の下へ行っていた。

 

「ちょっ、何をやっているのよ!!篠ノ之博士!!貴女、全世界に指名手配されているのに!!何を堂々と初詣なんてしているのよ!!」

 

写真を見て思わずスマホの画面にツッコミを入れる楯無。

晴れ着と髪型を変えているせいか周りに居る人達は自分のすぐ近くにあのISの生みの親が居る事に気がついていない様子だった。

そこへ、今度は束本人から電話が来た。

 

「‥‥はい」

 

楯無は不機嫌そうにその電話に出た。

 

「やっはろ!!あけおめ、ことよろ!!青髪、元気?メールは見てくれた?」

 

「篠ノ之博士‥‥」

 

「そんな不機嫌そうな声を出さないでよ、イライラしちゃって働きすぎ?乳酸菌足りている?ビールでも飲んでリラックスしな、娘(いっちゃん)の面倒は私がしっかり見ててやるよ」

 

「面白いことを言うじゃない、篠ノ之博士。気に入った。殺すのは最後にしてあげるわ」

 

「もう、青髪ったら古いんだ」

 

電話口からは余裕口調の束であるが、束と違って楯無の方は妹には避けられるし、唯一の癒しであるイヴは今、その束と共に初詣をエンジョイしてこの場に居ない現状に楯無の不快指数はかなり上昇していた。

 

「おーい、たばちゃん、何やっているの?お汁粉来たよ~」

 

電話口の遠くからイヴが束を呼ぶ声が聞こえる。

どうやら、イヴは神社でお汁粉を販売している店に居る様だ。

そして、今注文したお汁粉が来たみたいだ。

 

「あっ、うん。今行くよ!!じゃあ、いっちゃんが呼んでいるからもう行くね、それじゃあな、青髪」

 

束が嫌味ったらしく楯無に別れの挨拶を言うと電話は切れた。

 

「くっ‥‥」

 

楯無は本当に悔しそうに苦虫を噛み潰したような顔をしたが、

 

「ふっ、フフフフ‥ハハハハハ‥篠ノ之博士、甘いですね‥‥イヴちゃんがIS学園に入れば、夜はこれまで通り私と一緒に居る事が出来るんですよ‥‥」

 

楯無は悔しそうな顔から一転、不敵な笑みを零す。

IS学園の生徒会長権限を使って寮の部屋割りを此方で操作すれば、自分はイヴと同室になる事は可能なのだ。

そうなれば、放課後はずっとイヴと一緒に居る事が出来る。

 

「篠ノ之博士、精々一時の夢を楽しんでいなさいな、最後に勝つのはこの私なんですから、ハハハハハ‥‥」

 

先程の束とのやり取りが相当悔しかったのか、楯無はまるで悪の組織の女幹部のようなテンションで高笑いをした。

そんな楯無の姿に更識家の使用人の人達はちょっと引いていた。

 

 

そして、迎えたIS学園の入試試験。

IS専門の養成機関とはいえ、四六時中全部ISの授業をするわけではないし、IS学園は、実質高等教育と同じなので、入試には中学レベルの5教科とISによる実技試験がIS学園の入学試験内容となる。

午前中一杯と午後の一時間を使用して5教科の筆記試験を行い、その後はISの実技試験となる。

尚、実技に使用されるISは学園が所有する訓練機、打鉄とラファール・リヴァイヴが受験生に貸し出され、受験生は自分のスタンスに合った機体が貸し出される仕組みとなっている。

だが、自分の専用機を持つ者は訓練機よりもそちらの方が慣れている事から、自身の専用機で実技試験に望んでも良い事になっている。

最も専用機を用いて実技試験を受ける者は受験生の中で一人居るかいないか程度である。

去年の入試では、専用機を持っていたのは楯無一人だけであった。

そして、今年はイギリスの代表候補生ともう一人居ると言う情報が教師達の間に伝えられた。

やがて試験開始時間となり、入学試験が始まり、教室では受験生達がテストの問題用紙を睨み、筆記用具を走らせている。

教師はそれぞれ、教室の前と後ろから不正行為がないかを監視し、尚且つ、別の教員が廊下を歩きながら巡回を行う程の徹底ぶりとなっている。

日本人だけでなく、この学園の入試には各国から大勢の入学希望者が試験を受けに来る。

今のところ世界でIS専門の養成機関は日本にあるこのIS学園しかないので、受験生にとってこの学園の門は決して広くはないのだ。

そんな中、廊下を巡回しながら、試験会場である教室を一つ一つチェックしていた織斑千冬はある教室を見た時、信じられないモノを見たかのように大きく目を見開いた。

 

(私は夢でも見ているのだろうか?)

 

千冬がそう思うのも無理は無かった。

彼女の目の前には第二回モンド・グロッソで見捨ててそのまま行方知れずとなった妹と瓜二つの受験生がいたのだ。

自分の知っている妹と比べると、髪の長さと髪の色は違うが、顔立ちと瞳の色はまさに織斑一夏そのものだった。

慌てて手に持っていたタブレットで確認すると、画面にはその受験生が学園に提出した願書の情報が掲示された。

名前の部分には織斑一夏ではなく、イヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインスと明記されており、追加事項に専用機持ちと書かれていた。

 

(成程、コイツがイギリス代表候補生以外の専用機持ちか‥‥)

 

(しかし、コイツの顔は見れば見るほど、あの疫病神にそっくりだ‥‥)

 

廊下からでは横顔しか確認できないが、願書には正面を向いた顔写真が貼られており、その顔を見るとますます自分が見捨てた妹とそっくりな顔立ちをしていた。

世の中には三人、自分と似た顔を者が居ると言うが、ここまでそっくりな者がいるだろうか?

 

(まさか、奴は生きていたのか!?)

 

千冬の脳裏に一夏が本当は生きていたのではないか?と言う可能性が過ぎる。

 

(もし、仮にコイツがあの疫病神だとすると、この学園のレベルギリギリだな)

 

自分の知る一夏の学力はたかが知れている。

成長したとしても精々毛が生えた程度である。

その学力ならば、IS学園が決める合格ラインギリギリの所だろう。

 

(それに実技試験で結果を残せなければ、奴は不合格確実だ)

 

学力がIS学園合格のギリギリのラインならば、実技試験で挽回しなければ、合格は難しい。

 

(此処は一つ、IS学園教師の本気の実力を見せて奴に引導を渡してやるか)

 

千冬はタブレットを見ながらニヤリと笑みを浮かべ巡回を続けた。

 

 

午前中の試験が終わり、昼食兼昼休み。

IS学園の食堂は受験生の為に解放されていた。

イヴも食堂にて午後にある残り一科目の参考書を見ていると、

 

「はぁい、イヴちゃん」

 

楯無に声をかけられた。

 

「あっ、たっちゃん」

 

「どう?試験の出来は?」

 

楯無はイヴ入試の出来を尋ねる。

 

「大丈夫、年末もたばちゃんの所でたばちゃんに勉強を見てもらったから」

 

千冬はイヴ=一夏と勝手に決めつけていたが、それは確かに当たっていた。

だが、彼女の誤算は、イヴとなった一夏は基礎体力、瞬発力、反射神経等の身体機能の他に知力も上回っている事だった。

しかも年末年始にかけては世界が認める大天才、篠ノ之束からつきっきりで受験勉強を見てもらっていたのだ。

学科試験に関しては隙などある筈もなかった。

 

「そ、そう‥‥」

 

楯無としては年始の束との一件があるせいか束の名前をイヴの口から出してほしくはなかった。

 

「それよりも、たっちゃん」

 

「ん?なに?」

 

「実技試験って受験生同士で模擬戦をやるの?それともISを使って障害物レースみたいなことをしてタイムを計るの?」

 

イヴはこの後行われるISによる実技試験の内容を楯無に尋ねた。

 

「IS学園の実技は学園の教師相手の模擬戦よ」

 

実技試験の主な内容は別に口外してはならない訳ではないので、楯無はイヴに実技試験の内容を教える。

 

「学園の教師相手‥‥」

 

「そうよ、でも、勝敗は合否に大きく影響はしないわ。大抵は負けるから‥実技ではISの適正や動きを見るから‥でも、イヴちゃん、貴女の場合は力加減を忘れないようにね」

 

「う、うん」

 

楯無はイヴに実技試験の際は力加減を忘れない様にと釘を刺す。

本気を出されたら、相手の方が大怪我をするのではないかと心配しているのだ。

 

「模擬戦の相手‥あの人もやるの?」

 

「あの人?‥‥ああ、織斑先生ね」

 

イヴの言うあの人が誰なのか楯無はすぐに分かった。

楯無の答えにイヴは無言のまま頷く。

 

「あの人は実技試験には出ないわよ。あの人が出たら、普通の受験生じゃ、歯が立たないもの」

 

楯無は実技試験の担当者に千冬が居ない事を伝える。

そりゃ、ブリュンヒルデ相手に勝てる受験生なんて普通は居ない。

彼女が実技試験を担当すると判断基準が難しくなるので千冬は実技試験担当から外されていた。

 

「そう‥良かった」

 

千冬が実技試験には出ないと知り、ホッとした様子のイヴ。

例え、名前を変え、経歴を変えてもイヴの中では織斑千冬と言う存在はトラウマの一つでもあるからだ。

 

「相手の教師は試験直前まで誰になるか分からないけど、相手が使用するのも学園の訓練機よ」

 

「訓練機?」

 

「そう、学園で保有している打鉄かラファール・リヴァイヴ。でも、受験生で専用機がある人は専用機を使ってもいいのよ。私も去年の入試にはミステリアス・レイディを使ったから、イヴちゃんもリンドヴルムを使ってもいいのよ」

 

「わかった」

 

「実技試験は、私も会場の観客席で応援するから頑張ってね」

 

「うん、頑張る」

 

楯無はこれ以上、邪魔をしては悪いと思い食堂を後にした。

イヴは、まず残り一科目の学科試験の方を集中すべく再び参考書に目を戻した。

そして‥‥

 

キーンコーンカーンコーン

 

「はい、そこまで!!」

 

最後の学科試験の終了を知らせるチャイムが鳴る。

 

「筆記用具を置いて、答案用紙は裏にするように」

 

教室の教壇に居るが指示を出し、後ろに居るもう一人の教師と共に答案用紙を回収していく。

 

「次は実技試験だ。教室ごとに呼ばれる。呼ばれたら、更衣室で動きやすい服装に着替えて待つように」

 

答案用紙を全て回収し終えた教師はこの後の実技試験の事を伝え、教室から出て行った。

学科試験が終わり、いよいよ次はISに乗っての実技試験に受験生たちはざわつく。

受験生のその多くがこの後の実技試験が初めてのIS搭乗になるからだ。

不安・緊張・初めてのIS搭乗体験にワクワクしながら、受験生たちは実技試験の番が来るのを待つ。

受験人数が多いので、一度に全員を実技試験の会場に呼ぶことは出来ない。

故に教室ごとに呼んで実技試験を行う。

そして、イヴの居る教室に教師がやって来て、

 

「次、このクラスだ。更衣室で着替えて指示を待つように」

 

イヴの居る受験生たちの実技試験の番が着て、受験生たちは更衣室へと移動を開始する。

専用機持ちである国家代表候補生や企業のテストパイロットであれば、既にISスーツを支給されてはいるが、通常の受験生はまだ正式にIS学園に所属している訳では無いので、ISスーツは支給されていない。

また、肌に直接触れる衣服の為、レンタルも行ってはいない。

自前でISスーツを買って入試に落ちましたなんて恥ずかしい事はなるべく回避したいので、動きやすい服装と言う事で、ほとんどの受験生たちは自分らが通学している中学校の体操服かジャージを着ている。

イヴの場合は専用機持ちであり、ちょっと特殊な形状のISスーツであるが、このISスーツは専用機同様、束のお手製。

だからこそ、彼女は迷うことなく、束お手製のISスーツを纏う。

ただ、周りの受験生たちが体操服やジャージなのに一人だけ飛行服と言うのはかなり浮いてしまった。


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