束にデュノア社の事を依頼してから数日後、食堂にあるテレビに映るニュースにてデュノア社の倒産が報道されていた。
デュノア社は突如サイバー攻撃を受け、会社の裏情報がインターネット上に漏洩し、政府やIS委員会からの支援金の横領、脱税、従業員への給料や残業手当の未払い、労働基準を無視した超過勤務、シャルルの父であるデュノア社の社長の女性スキャンダルとありとあらゆる不正や悪事がドバっと噴出しフランス当局が調査に乗り出した結果、ネット上に書かれている事は全て事実と判明し、社長を含め不正や悪事に加担した会社幹部は全員逮捕され、会社は御取り潰し。
デュノア社の目玉商品であったリヴァイヴのライセンスは全て他のIS企業に持っていかれた。
「‥‥」
シャルルはテレビに映るフランス警察に連行されて行く父の姿をジッと見ていた。
これでシャルルは自由のみかと思われるが、まだ自由国籍を取得していないので、フランス政府はシャルルの証人喚問を要請しているが、今の所学園の特記事項によりそれを退けている。
後は卒業までに自由国籍を取得すればシャルルは完全に自由の身になれる。
しかし、仮に自由国籍を取得しても学園の卒業後は自由と裏腹に無一文なので、この先シャルルが生きていくには大学進学は諦め就職かISの選手になるしかなく、学園卒業後、シャルルの道は棘道なのかもしれないが、それはシャルル自身が望んだ結果でもあり、このまま父の会社の狗になり続けるよりは貧乏でも自由でいたかった。
学園の入学前にデュノア社の社長がシャルルに生活費と学費としてスイス銀行に残された貯蓄がシャルルの全財産となった。
永世中立国のスイス銀行に預けられていた為にフランス政府もシャルルの口座を差押えることが出来なかった。
またシャルルの父であるデュノア社の社長も逮捕されたので口座のお金を操作することは当然できない。
会社の人間も同じだ。
逮捕され連行されて行く父を画面越しに見るシャルル。
そんなシャルルの様子が心配なのかイヴはジッとシャルルの事が気になった。
親が犯罪者、逮捕されたとなるとその子供も自然と犯罪者の烙印を押されかねない。
そしてそう言う子は学校ではイジメの恰好の的になる。
それを心配してか楯無はすぐに行動に移し、集会を開いてシャルル本人とデュノア社の倒産、社長の逮捕は無関係である事を強調した。
しかし、それでも今までシャルルの事を夢中で追いかけていた生徒の数は確実に減っていた。
シャルル本人は別に気にしていないがその様子をイヴの深層心理の中から獣は見ていた。
愛した者が謂れのない事で迫害されている姿を見て獣は何とかシャルルを喜ばせたいと思った。
「ねぇ、ラウラ‥‥」
「む?なんだ?」
ある日の夜、表に出てきた獣はベッドで同衾しているラウラに尋ねた。
この日イヴの意識は放課後から獣に代わっていた。
元気のないシャルルを何とか元気づけようと色々方法を探していたのだ。
「男の人を喜ばすにはどんな方法が手っ取り早い?」
「むっ?変わった質問をするな‥まさかイヴには誰か意中の人がいるのか!?」
「あっ、いや‥その‥‥デュノア君、親が逮捕されて参っていると思って‥‥」
「ふむ、成程‥‥」
ラウラはしばし考えたがいいアイディが思いつかず、
「ダメだ‥思いつかん。よし此処は、優秀な副官からアドバイスを貰う事にしよう」
そう言って国際電話をかけてドイツに居るクラリッサと連絡を取った。
「もしもし、クラリッサか?私だ‥‥ああ、そうだ‥‥それで、男性を喜ばすにはどうすればいい‥‥な、なるほど‥‥うむ、わかった‥助言感謝する。分かったぞ、イヴ」
「何々?」
「一緒に寝てあげると男性は喜ぶらしいぞ」
「えっ?そうなの?」
「うむ、ちなみに日本では気に入った相手を『俺の嫁』とか『自分の嫁』とか言う」
「ふむふむ」
「なおその時は裸で寝ると効果が大幅に上がるらしい」
「おお、成程」
ラウラ(クラリッサ)からの助言を聞いて納得するイヴ。
「その他にも手料理を振舞うのも効果的な様だ」
「ほうほう」
ラウラから男性を喜ばせる方法を聞いたイヴ(獣)は一応納得した様子。
しかし、
(ちょっと!!まさか、デュノア君と裸で一緒に寝るつもりじゃないでしょうね!?)
表のイヴが獣に抗議する。
『ん?何っている?折角のアドバイスなのだから実行あるのみだろう?』
(なっ!?)
どうやら獣はラウラからのアドバイスを実行に移す気満々の様だ。
(何言ってんのよ!?ダメに決まっているでしょう!!)
『ん?何故だ?』
何故表のイヴが此処まで否定するのか獣には分かっていない。
(コイツ、全然わかっていない‥‥あのねぇ、そんな事をしてデュノア君が獣になったらどうするんだよ!?)
『おいおい、獣である私の前であのデュノア君がそれ以上の獣になれると思っているのか?』
(コイツ、獣の意味をはき違えている‥‥)
(いい、獣って言ってもお前みたいな血に飢えた獣じゃなくて‥‥)
『ああ、もうグダグダ五月蝿い!!お前は黙っていろ!!』
(ちょっと‥‥)
獣はイヴを強引に深層心理の檻の中に閉じ込めた。
(おい、コラ!!此処から出せ!!)
獣がシャルルに好意を寄せている事でイヴ自身も獣に対して甘くなっていた。
まさか、獣の力が此処まで強力になっていたなんて‥‥
此処はシャルルが紳士である事を祈るしかなかった。
その日の夜、皆が寝静まった深夜‥‥
イヴとラウラの部屋でイヴは自分にしがみついているラウラを起こさない様に自分のから引き剥がすと変わり身の術の様に自分の代わりに枕をラウラに抱きかかえさせて部屋を出た。
翌朝‥‥
「ん?」
シャルルが目を覚ました時、布団の中で何か違和感を覚えた。
何か柔らかいモノが自分の体に纏わりついている。
「っ!?」
シャルルの意識が段々と覚醒し、掛け布団を捲ると其処には裸姿で自分の体を抱きしめて眠っているイヴの姿があった。
「うわぁぁぁ!!」
イヴの裸姿を見てシャルルの意識が一気に覚醒する。
「うにゅ~‥‥うーん‥‥」
シャルルの大声でイヴも目を覚ます。
「あ、アインスさん!?なんで此処に!?」
「うぅ~もう朝?」
ベッドに横たわっていた体を起こすイヴ。
朝日の光がイヴの裸体を照らし神々しい姿となっている。
「『もう朝?』じゃないよ!!一体いつの間に入って来たの!?部屋には鍵がかかっていた筈なのに!?」
「この学園の鍵など私にとっては全くの無意味だ‥‥それよりも‥‥」
イヴはピッキングをしてシャルルの部屋に侵入した事を伝えるとシャルルへとにじり寄って来る。
「あ、アインスさん?」
裸姿でにじり寄るイヴにシャルルはタジタジ。
そしてシャルルはベッドの淵へと追い込まれた。
シャルルにもうこれ以上逃げ場はない。
追い詰められたシャルルにイヴは尚も接近し、体を密着する。
自分の足には彼女の柔らかい太ももの感触‥そして身体には女性を象徴させるイヴの胸と自分の胸が重なり合う。
キス寸前まで近づく彼女の顔。
「ねぇ、デュノア君‥‥元気になった?」
イヴはシャルルの耳元で優しく囁く。
しかし、シャルルにとってそれは魅惑の誘惑。
決して口にしてはならない禁断の果実を勧められている様な錯覚に陥る。
イヴの問いにシャルルは男の方の自分を意識してしまう。
朝の生理現象と共に裸姿のイヴに迫られた事で男としての反応が自己主張していた。
「う、うん‥元気になった!!元気になったからアインスさん、離れて!!」
シャルルは何とか獣になる前に理性で欲求を抑えてイヴを押し退ける。
「えぇ~いいじゃん。減るモンじゃないし‥‥」
しかし、イヴはシャルルの体から離れる事に不満な様子。
「で、でも、こ、困るんだ‥‥それ以上されたら‥‥」
シャルルは必死に理性を働かせて己の煩悩を制御する。
そんなシャルルの態度に業を煮やしたのか、
「えいっ」
イヴはシャルルの後頭部に手を回してシャルルの顔を自分の胸に押し付ける。
「むぐっ‥ふぁいんすふぁん(アインスさん)」
「フフ、デュノア君はやっぱりかわいいな‥‥このままたべちゃおうかな?」
「ふぁ、ふぁべないでくらふぁい(た、食べないでください)」
シャルルにとって天国と地獄の両方を体験した。
獣がシャルルを抱いてご満悦になった隙を見て、イヴが深層心理の檻を抜けて、
(いいかげんにしろ!!)
『グハッ!!い、一夏‥自力で脱出を!?』
(いいから引っ込め!!)
強引に体を奪還する事に成功した。
「‥‥」
しかし、奪還に成功したが、この時イヴの体はシャルルの顔を自分の胸に埋めている状況。
この現状にイヴは顔を真っ赤にして対応に困った。
体を奪還する絶好のチャンスであったが、外のタイミングは最悪であった。
(ど、どうしよ~と、とりあえず、デュノア君の顔を胸から退けないとね)
イヴはゆっくりとシャルルの頭を押さえていた手を退ける。
すると、シャルルの頭はイヴの胸からスルっと落ちてベッドに沈む。
「あ、あれ?」
「きゅ~ぅ」
シャルルは顔を真っ赤にして目を回していた。
顔を胸に押し付けられて窒息死かかったのか?
それとも刺激が強すぎたのか?
いずれにしてもシャルルにはすまない事をした。
そこでイヴはシャルルの為にお詫びを兼ねて朝食を作ることにした。
服を着て、自分の部屋に一度戻るとラウラはまだ夢の中にいた。
彼女を起こさない様に冷蔵庫から具材を持ってシャルルの部屋へと向かい、部屋に備え付けのキッチンにて調理を始める。
シャルルが再び目を覚ましたのは朝食の準備が出来てイヴがシャルルを起こそうとしたその時だった。
「あっ?起きた?」
「あ、アインスさん!?」
シャルルの眼前にはフリルのついた白いエプロン姿のイヴがいた。
先程の事もあり、シャルルはイヴの顔を見て顔を赤面させる。
「その‥‥さっきは‥‥ごめん‥‥」
そんなシャルルにイヴは自分がした事ではないが、シャルルに謝る。
「い、いえ‥そんな‥‥」
シャルルの方も対応に困った様子。
「あ、あの‥さっきのお詫びも兼ねて、朝ご飯‥作ったの‥‥一緒に食べない?」
「えっ?」
テーブルの上には美味しそうな匂いと湯気を出しているベーコンエッグにトースト、サラダとスープ、野菜ジュースが置かれていた。
「う、うん‥ありがとう」
シャルルがベッドから起き上がると、イヴは先にテーブルへと向かう。
その時にシャルルに振り返って、
「あっ、この場合裸エプロンの方がよかったかな?」
入学したての頃、楯無が自分を迎える時にやっていたあの姿で起こした方がシャルルは喜ぶかと思った。
「あ、アインスさん!?」
「フフ、冗談よ。冗談」
「まったく、心臓に悪いよ‥‥」
シャルルはホッとした様子で言うが、少し残念な気もした。
「今回の件については本当にごめん。でも、最近シャルル君、元気がない様子だったからもう一人の私もその‥‥心配していて‥‥あの子なりにシャルル君に元気になってもらいたかったみたいで‥‥」
獣の仕出かした行為の尻拭いをさせられるイヴであった。
「そ、そうなんだ‥‥最初はびっくりしたけど、もう僕は大丈夫だから‥父とはもう縁をきって赤の他人と思っているし‥‥」
「そ、そう‥‥」
「さあ、早く食べよう。折角の朝食が冷めちゃうし」
「え、ええ」
シャルルとイヴはこうして共に朝食を摂ることにした。
ただ、野菜ジュースを前にシャルルは戸惑っていた。
「ん?どうしたの?」
「い、いや‥‥」
「あっもしかして何か嫌いな野菜が混ざっていた?」
「そうじゃなくて‥‥」
シャルルは先日、イヴが見たとされる夢の事を意識していた。
流石にイヴに束の様に男女を入れ替える薬が作れるとは思えないが、状況がイヴの見た夢とかなり酷似しているのでどうしても意識してしまう。
シャルルはイヴが野菜ジュースを飲んでも何の変化が無い事を見てから自らも野菜ジュースが入ったコップに口をつけた。
当然、体に変化がある訳がなかった。
朝食が進んでいく中、シャルルも先程の事も段々と薄れていき普通に接する事に慣れてきた。
「そう言えば」
そこでシャルルがイヴに話しかける。
「ん?」
「もう直ぐ臨海学校だけど、アインスさんは準備って進んでいる?」
「えっ?準備?なんの?」
イヴはキョトンと臨海学校の準備とはなんだ?とシャルルに質問する。
「えっと‥水着とか?」
「えっ?水着?必要なの?」
臨海学校とは言え学校の行事なのだから向こうに行っても施設でISの実技か講義をするのかと思っていたイヴ。
「初日は自由時間があるみたいだから皆海水浴に行くと思うよ。それに昨日配られたしおりにもそう書かれていたと思うけど‥‥?」
「あっ」
昨日の放課後は獣がイヴの体を占めていたので、臨海学校のしおりの中身を見ていなかった。
しかし、臨海学校で水着が必要だとは知らなかった。
そしてイヴは学校から支給されたスク水以外持ってはいなかった。
「学校の水着じゃダメかな?」
「えっ?」
シャルルはイヴの発言に絶句する。
「お金が勿体ないし、臨海学校も学校の行事の一つなんだし、別にスクール水着でも良いと思うんだけどな‥‥」
「あっ、でも折角海水浴場に行くんだし、スクール水着じゃなくても‥‥それに皆もスクール水着じゃないと思うよ」
「そんなモンかな?」
「そうだよ」
「そうなのかな‥‥」
「ね、ねぇアインスさん」
「ん?なに?」
「水着が無いならさぁ、一緒に買に行かない?ちょうど学園も今日は休みだし」
「えっ?」
シャルルは何気なくイヴを買い物に誘ったが、シャルル本人にとってはかなり緊張していた。
「デュノア君も水着ないの?」
「う、うん‥急に日本に来る事になったから最低限のモノしかなくて‥‥」
シャルルも水着は持っておらず、イヴも持っていない。
丁度持っていない者同士だったので、
「うん、いいよ」
イヴはシャルルと一緒に水着を買いに行くことにした。
「ホント!?」
「うん」
「じゃあ、十時に寮の前で待ち合わせね」
「わかった」
イヴは食器を洗った後、シャルルと出かける為に寝間着から私服へと着替える。
待ち合わせ時間までもう少しあるので、イヴは臨海学校ではスク水以外の水着を持って行くのかを聞いてみた。
「はぁ?水着?当たり前じゃない。折角海に行くのになんで学園指定のスク水なんて持って行くのよ」
鈴はやはりスク水以外の水着を持って行く様だ。
「イヴはどうなの?」
「持っていないからこれからデュノア君と一緒に買に行くの」
「えっ?そうなの?それってデートじゃない!?」
鈴はシャルルとの買い物はデートだと言う。
「えっ?デート!?」
「そうよ!!」
「嫌だなぁそんな訳がないじゃない」
イヴはあくまでデートではないと言う。
「何言っているのよ、どう見てもデートじゃない」
だが、鈴はあくまでもデートだと言い張る。
「デート‥なのかな?」
「そうよ!!」
「うーん‥‥」
シャルルとの買い物をデートだと意識していないイヴ。
「それで、イヴ。アンタは折角のデートなのにそんな恰好でいくの?」
「えっ?」
今のイヴはTシャツにジーパンと結構ラフな服装だ。
だが、鈴が言うには今の服装は野暮ったいらしい。
「‥‥マズイかな?」
「そうね、デートにはちょっと野暮な服装ね」
鈴は今のイヴの服装にダメ出しをする。
「うーん、どんな服装がいいかな?」
「そうね、なるべくなら女らしい服装にしなさい」
「女らしい‥‥」
シャルルとの買い物をデートと意識していないが、鈴に女らしい服装と言われたので、一応彼女に見てもらう為、鈴を部屋に来てもらいイヴは着替えた。
部屋に戻った時ラウラは居なかった。
まだ食堂に居るのだろうか?
ラウラの行方は兎も角、イヴはシャルルと一緒に出掛ける為の服を鈴に見てもらった。
すると、
「なんで制服なのよ!?」
イヴは、制服はどうかと思い着てみると鈴はやはりダメ出しをする。
「ええーだって鈴が女らしいって‥‥」
「そりゃ確かに女子の制服だから女らしいと言えば女らしいけど、論外よ、論外」
「それじゃあどんな服がいいの?」
「えっ?うーんと‥‥こんな感じのやつよ」
鈴はスマホを弄ってファッション系のサイトの画像をイヴに見せる。
「ほうほう、成程‥‥じゃあ、ちょっと待っていて」
イヴはクローゼットの中を探り、服を探しそれを纏った。
「こ、こんな感じかな?」
今度は白いワンピースを纏ったイヴは鈴の前に姿を現す。
「そうよ、そんな感じよ!!やればできるじゃない」
鈴はワンピース姿のイヴを見て褒める。
「に、似合っているかな?」
「凄く似合っているわよ!!自信を持ちなさい」
「う、うん。ありがとう。鈴」
「いいって、いいって、それじゃあ頑張って」
「う、うん」
何を頑張るのかは分からないが、イヴはその後、つばが広い白のフェルトハットを被り、ハンドバックを持ってシャルルとの待合わせ場所に向かった。