シルバーウィング   作:破壊神クルル

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54話

IS学園にて期末テスト前に行われる一年生にとっての一大イベントの一つ、臨海学校の準備の為、イヴはシャルルと共にショッピングモールへと出掛ける事になった。

イヴ本人にとってはただの買い物だと思っていたのだが、鈴によるとこれは完全にデートだと言う。

その為、少しはお洒落をして行けと言う事で鈴の指導の下、おめかしをしてシャルルが待つ寮のロビーへと向かう。

ただその最中にイヴの中の獣が‥‥

 

『おい、一夏』

 

(なに?)

 

『今すぐ、私と変われ!!』

 

と、人格を変われと言ってきた。

 

(なんで?)

 

『デュノア君とお出かけ何てそんな羨ましい事を!!』

 

(却下だ!!)

 

『なんでさ!!』

 

(昨日の夜、お前が何をしたのか、忘れていないぞ!!しかも朝のアレも!!)

 

『あんなのただのスキンシップじゃねぇか!!』

 

(どこが!?一歩間違えれば二人そろって退学処分を受けてもおかしくはなかったんだぞ!!兎も角、お前が外でデュノア君に変な事をしない様にお前は引っ込んでいろ!!)

 

イヴは獣が出てこない様にピルケースから薬を取り出して飲んだ。

 

その頃、先に待ち合わせていたシャルルはソワソワして落ち着かない様子だった。

あのイヴとこうして二人っきりで出かけられるとは思ってもみなかったからだ。

 

「お、お待たせ‥‥」

 

その時、背後から待ち人であるイヴの声がしてシャルルが振り向くとそこには白いワンピース姿のイヴが居た。

 

「‥‥」

 

シャルルが思わずその姿に見入ってしまう。

 

「ん?あの‥‥デュノア君?」

 

「あっ、いや‥その‥‥アインスさん、そのワンピースとっても似合っているよ」

 

「えっ?あ‥うん‥‥ありがとう」

 

二人のその様子は初々しくまるで交際したばかりのカップルの様であった。

 

「そ、それじゃあ、行こうか?」

 

「う、うん‥‥」

 

二人はモノレール乗り場へと向かった。

 

「‥‥」

 

「‥‥」

 

モノレールの車内で二人が互いに向かい合う形で座席に座ったが、二人とも会話が思いつかない。

 

(き、きまずい‥‥)

 

(こ、此処はやっぱり、僕から会話を振った方がいいのかな?でも、なんて言おう‥‥)

 

イヴもシャルルは互いに俯いたり外の景色を見たりと視線を逸らしていた。

でも、いつまでも視線を逸らしている訳にはいかない。

この後、二人で買い物をするのだから‥‥

そう思ったイヴはチラッとシャルルの事を見る。

シャルルはGパンにカッターシャツ、マリンキャップを深々と被り、伊達メガネをかけていた。

帽子とメガネをかけるのはシャルルが世界で二番目に発見した男性操縦者でもあり、先日世界を震撼させたデュノア社の事件においてシャルルは関係者でもあるので、こうして正体が露見しない様にとの為なのだろう。

人の噂も七十五日。

その言葉通り、来年の今頃には人々の記憶にはデュノア社の事など忘れ去られているかもしれない。

 

「そ、その‥‥」

 

「ん?」

 

「でゅ、デュノア君もなかなか似合っているよ‥その服装‥‥」

 

「えっ?そ、そうかな?」

 

イヴに褒められて満更でもない様子のシャルルだった。

やがてモノレールはショッピングモールのある駅に到着して二人は降りた。

 

「デュノア君はこの辺とか詳しいの?」

 

「あっ‥‥実はあんまり‥‥此処に転校してから間がないし、あまり学園の外には出掛けていなかったから‥‥アインスさんは?」

 

「私は鈴やかんちゃん、のほほんさんとたまに遊びにいくからある程度は知っているよ」

 

「へぇ~」

 

「‥‥そ、それじゃあ‥はい」

 

イヴはシャルルに手を差し出す。

 

「ん?」

 

「デュノア君、この辺詳しくないんでしょう?迷子になったら大変だから‥‥」

 

「ま、迷子って‥‥僕はそんな年じゃ‥‥」

 

「いいからいいから」

 

「あっ‥‥」

 

イヴはシャルルの手を掴んで進んでいく。

そんな二人の様子を駅に設置されている自動販売機の影から見ている二人の影があった。

それは‥‥

 

「‥‥ねぇ、本音」

 

「なに?かんちゃん」

 

簪と本音だった。

二人はイヴがお洒落をしているのを見て外へ出かけるのだと判断し後をつけた。

すると、寮のロビーにてなんとシャルルと待合わせをしているではないか!!

そんなイヴとシャルルの姿を見ては後をつけずにはいられない。

そこで、簪と本音はイヴとシャルルに気づかれない様に二人を尾行していた。

その二人の眼前でイヴとシャルルは仲良さそうに手を繋いでいる。

二人の姿を見て簪と本音の目からは光が失われる。

 

「あれって‥手ぇ握っていない?」

 

「うん、握っているね‥‥間違いなく‥‥」

 

「そっかぁ‥‥見間違いでもなく白昼夢でもなく、やっぱりそっかぁ‥‥よし、(デュノア君を)殺そう!!」

 

簪は自らの周囲に青黒いオーラを纏いながら夢現を出現させてシャルルの抹殺を狙った。

 

「ほぉ~楽しそうな事をしているな」

 

その時、簪と本音の背後から声がした。

二人が後ろを振り返ると其処にはラウラの姿があった。

 

「ボーデヴィッヒさん!?」

 

「何でここに?」

 

「決まっているだろう。あの二人に混ざる為だ」

 

どうやらラウラも簪と本音とは別経由でイヴとシャルルの後を追っていた様だ。

簪と本音にそう言ってラウラはイヴとシャルルの後を追おうとする。

 

「ちょっと待って」

 

そこを簪が引き留める。

 

「なんだ?」

 

「み、未知数の敵と戦う為にはまずは情報が必要」

 

「そ、そうだよ。此処はまず、二人の後を追って関係を確認しないと」

 

簪と本音はイヴの中の獣がシャルルに惚れている事を知らない。

当然、ラウラもだ。

 

「成程、一理あるな」

 

簪と本音の説明を聞いて納得したラウラ。

こうしてラウラを含めた追跡隊はイヴとシャルルの後を追った。

 

その頃、某所にある束の研究室では‥‥

 

~♪

 

束の携帯が着信を知らせる音楽を奏でた。

 

「ん?この着信は‥‥」

 

束は流れてくる着メロに対して僅かながら顔をしかめる。

 

「‥‥もしもし。何か用かな?箒ちゃん」

 

嫌々な様子で電話に出る束。

 

「姉さん、もうすぐ臨海学校ですが、ちゃんと用意してあるのでしょうね?私の専用機」

 

「勿論用意してあるよ。白(バカ)に並び立つ紅(アホ)‥その名も『紅椿』」

 

束の言葉から箒は姉が約束通り自分の為の専用機を用意していた事に安堵した。

 

「臨海学校の二日目‥7月7日に持って行くよ」

 

「分かりました」

 

箒は専用機について用意されている事、受領する日が判明するともう用は無いと言わんばかりに電話を切った。

 

「‥‥」

 

箒からの電話が切れた後、束は暫くそのままの状態でいたが、その顔は無表情でまるで能面の様だった。

 

 

場面は変わり、再びショッピングモールへと買い物に来たイヴとシャルルに移る。

 

「そう言えば‥‥」

 

イヴは思い出したかのようにシャルルに声をかける。

 

「デュノア君は小、中学校の時、水泳の授業時はどうしていたの?」

 

シャルルは、上は女性であるので、当然男性には不釣り合いな胸をしている。

そんな女性の胸をしているシャルルが水泳の授業を受ければ周りが大騒ぎするのではないだろうか?

故にイヴは小、中学校の時、どうしていたのかを尋ねた。

まさか、水泳の授業は全部見学したのだろうか?

それとも女物の水着を着ていたのだろうか?

でもそれだと世界で二番目の男性操縦者と言う事実があっという間に崩れる。

デュノア社がシャルルの小、中学校の時教師、生徒に金でも掴ませたのか?

でも、あまりにも不合理すぎる。

殺し屋でも雇って皆殺しにでもしたのか?

イヴが様々な憶測を立てているとシャルルが真相を話す。

 

「その‥‥小学校の時は‥胸はあまり大きくなかったから誤魔化す事が出来たんだよ。中学の時は、学校にプールがなくて水泳の授業自体が無かったから助かったよ」

 

「へぇ~」

 

真相はイヴが予想していたモノとは結構違っていた。

 

「臨海学校の時はどんな水着を着るつもりなの?」

 

今回の目的である臨海学校の水着をシャルルはどうやって乗り切るのだろうか?

 

「下は男物の水着で上はISスーツを着てその上からパーカーを羽織るつもり」

 

「成程」

 

シャルルの説明を聞いて納得するイヴ。シャルルが使用しているISスーツはその特殊な構造から上の胸を完全に隠している。

それをつけて上からパーカーを羽織れば胸を完全に隠せるだろう。

それにパーカーなら水に濡れても平気なモノもあるだろうし‥‥

イヴとシャルルが水着コーナーへと向かっている中、ある兄妹も買い物の為、ショッピングモールへと来ていた。

 

「しっかり持ってよ、おにぃ。落っことしたら承知しないんだから」

 

「いくらなんでも買い込み過ぎじゃねぇ?」

 

二人は赤い髪が特徴的で兄妹と直ぐに分かる容姿をしていた。

そして妹は兄に大量の荷物を持たせている。

女尊男卑の世の中となった今では珍しくもない光景であるが、二人は兄妹なので仲が良いと言えば仲の良い兄妹にも見える。

この兄妹こそ、百秋の知り合いでもある五反田兄妹だった。

 

「中三の夏は特別なのよ!!プール用水着、ビーチ用水着、勝負水着、ウルトラ勝負水着、超ウルトラ勝負水着、各種取り揃えていざって時に供えないと」

 

「あっそう‥それよりもお前、受験は大丈夫なのか?」

 

中三の夏と言う事は高校受験にも本腰を入れている者も多い。

 

「確かお前、IS学園を受けるんだろう?」

 

「‥‥」

 

兄の弾が妹の蘭に受験校を言うと蘭は僅かに顔をしかめる。

 

蘭は通っている中学校で行われるISの適性検査においてAランクをたたき出した。

これは蘭の通う学校では最高ランクであった為、蘭の担任の教師は蘭にIS学園への進学を勧めた。

蘭自身ISには興味があったのでIS学園への進学も良いかな?と思っていたのだが、進学に関して暗雲が漂った。

それは他ならぬ世界で初の男性操縦者の発見だった。

世界で初の男性操縦者、織斑百秋は兄の弾の友人ある事から当然、蘭も彼とは面識があった。

そしてその姉の織斑千冬ともだ。

蘭の学校でも百秋や千冬に憧れる者は多い。

かく言う蘭自身も昔は百秋に対して憧れを抱いていた。

しかし、それはもう過去の事だ。

何故、蘭が百秋に憧れを抱かなくなったのか?

それは第二回モンド・グロッソが行われた後、少したってからの事だった。

ドイツから帰国した後、百秋は五反田家を訪れた。

その時、彼は第二モンド・グロッソの決勝戦の時に誘拐された事を話した。

蘭を含めて皆驚いたが、こうして無事に帰って来た事にホッと安堵した。

そして彼は腹違いの姉である一夏が家出した事を話した。

一夏の名前が出た時、弾を除く皆が顔をしかめた。

近所では一夏の悪評がかなりたっていたので当然と言えば当然の反応だった。

ただ、この時蘭は兄だけが顔をしかめない事を見逃していた。

それから百秋は弾と共に弾の部屋でゲームをしていた。

蘭はこの時、母親からお菓子とジュースを持って行く様に言われて兄の部屋まで持って行く。

そして、この時彼女は百秋と兄の聞いてはならない話を聞いてしまった。

まず、第二回モンド・グロッソで百秋が誘拐されたのは本当だった。

ただ、この時、一夏も誘拐されており、彼女はその後行方不明になっているのだと言う。

そして家出して行方不明になるように百秋に指示を出したのは千冬だった。

千冬は一夏も誘拐されている事を知りながら敢えて彼女を見捨てたのだと言う。

そして、世間体を考えて一夏は家出をして行方不明になったことにしたのだ。

百秋が今日、五反田家に来たのも兄にその事を近所に触れ回る様に協力を求めに来たのだ。

二人の話を聞く限り、近所に流れている一夏の悪評は全て千冬、百秋、弾が流したデマだった。

デマを流しているだけならまだマシだった。

彼らの話は次第に下世話な猥談へと変貌していき、遂には蘭にとっては信じられない内容となった。

その内容を聞く限り、百秋と弾は一夏に対して強姦していたのだった。

蘭は当初信じられなかった。

自分の兄が‥‥そして憧れている先輩が強姦をしていたなんて‥‥

しかも百秋にとって一夏は腹違いとは言え、半分は血がつながった姉を強姦している事になる。

一夏の方から関係を求めてくるのであれば分かる。

彼女の悪評の中で『織斑一夏は援助交際をして金を稼いでいる』と言うモノがあったからだ。

しかし、百秋と弾の話を聞く限り決して一夏の方から百秋と弾へ関係を求めている訳ではなく、百秋と弾が一夏を無理矢理レイプしていたのだった。

蘭の中で千冬や百秋に対する憧れがこの時、崩れ去った。

だが、蘭はこれを家族に知らせる事は出来なかった。

自分が千冬、百秋、弾の三人が流したデマを信じていたように両親も祖父もこのデマを信じて一夏は織斑家の疫病神だと未だにそう思っている。

そんな中で今自分が聞いたことを話しても絶対に信じてもらえない。

それに両親と祖父は千冬と百秋に絶大な信頼をおいているし、弾は五反田家の長男で五反田食堂の大事な跡取りとして家長である祖父が大事に目をかけているので、弾が強姦をしていたなんて言っても信じないだろう。

それどころかそんなことを言えば逆に自分が一夏の様に蔑まれるかもしれない。

いや、蔑まされるだけならまだマシだ。

百秋は腹違いの姉も強姦するぐらいだ。

もしかしたら、自分も一夏の様に兄と百秋に強姦されるかもしれない。

その恐怖があり、蘭は今日まで一夏の事、そして三人の秘密を黙っていた。

そんな中、自分に高いIS適性があったことが判明した。

担任の教師の口からは自分のIS適性が高い事を伝えられ、IS学園への進学を勧められた。

家族はその事を聞いて大喜びだった。

ランクAと言う事は日本代表候補、ゆくゆくは日本代表になれるかもしれない。

それを聞いて両親は蘭にIS学園への進学を強く勧めた。

この時まで蘭自身もIS学園への進学を考えていた。

でも、テレビで百秋がIS学園へ入学した事を知り、更に千冬までもがIS学園で教師をやっている事を知り、蘭はIS学園への進学を悩んでいた。

家族はIS学園への進学を期待している。

でも、IS学園にはあの百秋と千冬が居る。

蘭は進学に関して頭を抱える事となった。

そんな中、本来は一緒に居たくもない兄に荷物持ちをさせてショッピングモールへと来たのだが、そこで五反田兄妹はある再会をした。

 

「「っ!?」」

 

五反田兄妹の前には白いワンピースを着た一夏が白金色の髪の男性と手を繋いで歩いていたのだ。

 

(あ、あれって一夏さん!?でも、髪の毛の色が‥‥)

 

蘭は自分の知る一夏と今、目の前を通り過ぎた一夏の髪の色が全然違うことに関して疑問を持ったが、それでもあの容姿は間違いなく一夏だと思っていた。

それは以前、百秋からIS学園に一夏とそっくりな奴がいると情報を得ていた弾も同様にアレはそっくりさんではなく一夏本人だと思っていた。

 

(もしかしてアイツが以前、百秋が言っていた疫病神のそっくりさんか?確かにアイツにそっくりだ‥‥いや、アイツ本人なんじゃねぇのか?)

 

イヴ(一夏)の姿を見て唖然とする五反田兄妹。

一方、イヴの方は五反田兄妹には気づかず、そのまま前を通り過ぎていった。

久しぶりに一夏の姿を見た弾はなんだかムラムラきてしまう。

 

(やべぇ、久しぶりアイツの姿を見たせいか無性にアイツを抱きたくなっちまった‥‥)

 

(中学の時にも思ったけど、アイツはやっぱりいい顔、いい体してんなぁ‥‥高校になって更に磨きがかかったんじゃねぇ?)

 

イヴの姿を見て昔のことを思い出したせいか弾のズボンの奥の獣が自己主張をし始める。

 

(IS学園は男子禁制の女の園だからな‥‥学園に戻られちゃあアイツを抱けねぇ‥‥此処は少し危険だが何処か人気のない所で‥‥アイツを‥‥)

 

弾は久しぶりにあった一夏(イヴ)を抱きたいと言う衝動がどんどん強くなっていく。

彼の中ではイヴはもう一夏としか見えていなかった。

イヴ=一夏なので良かったものをもし人違いだったらどうするつもりだったのだろうか?

 

IS学園は物凄く閉鎖的な学園であり、しかも男の自分がそう簡単には入れる所ではない。

一夏を抱くチャンスは一夏が学園外に出ている今しかない。

どこか人気のない所か多目的トイレにでも連れ込めば一夏を抱けるのではないかと思う弾。

弾の中の一夏は自分達には逆らえないひ弱な女だった。

自分一人の力でねじ伏せれば抱けると思っていた。

だが、弾は知らなかった。

今の一夏は弾の知る一夏でない事を‥‥

弾の知るひ弱な一夏はもう存在せず、今の一夏は世界最強の生物兵器である事。

また、世間では地上最強の兵器とされるIS‥しかも専用機を持っている事を‥‥

百秋は決して意図をもってイヴ(一夏)が専用機持ちである事を隠していた訳ではない。

ただ弾に言い忘れていただけだった。

それを知らない弾はまさに無謀な挑戦をしようとしていたのだった。

 

 


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