此処でまたもや事件を戻し視点を移す。
イヴとシャルルを追いかけてショッピングモールへとやってきた簪、本音、ラウラであるが、人混みの中でイヴとシャルルを見失ってしまいショッピングモール内に数多くあるレディース物の服屋を一つ一つチェックしている中、遠くの方で、
「キャァァァァ!!変態よ!!」
女性の悲鳴が聞こえた。
「ん?何かあったのか?」
ラウラがその悲鳴を聞きつけて何か起きたのかと周囲を窺う。
(この女尊男卑の世の中で変態行為をするなんて‥‥バカなんじゃない?)
簪は女性の悲鳴と変態と言う事で変態行為を行ったのは男性だと判断した。
そして女尊男卑の世の中で変態行為等と言う恐れを知らない行いをしたであろう男に対して同情する事は一切無く、『バカ』の一言で済ませた。
(変態‥どんなことをしたんだろう?)
一方、本音は変態と呼ばれた者が一体どんなことをしたのかとちょっと気になる様子だった。
その後もイヴとシャルルを探すも二人の姿は一向に見えない。
もしかして、もうショッピングモールを出てしまったのだろうか?
そう思っていると、
「本当なんですよ!!本当にあの女に強く掴まれたんです!!それにアイツはイヴ何て名前じゃない!!」
赤髪で長髪の男が警官に連行されて行くのが見えた。
こういう場合は裏口から連行していくものだと思うのだが、赤髪の男は市中引き回しの如く正面玄関から連行されて行った。
其処にはパトカーが既に待機していた。
連行しやすいと言う理由から正面玄関から連行されて行った様子。
近くの客はヒソヒソと陰口を叩いていた。
この女尊男卑の世の中で変態行為を行った赤髪の男の将来はお先真っ暗だろうが、簪はそんな事よりもあの赤髪の男から聞き捨てならない名前が出ていた。
今あの男は確かに『イヴ』と言った。
もしかしてあの男はイヴに対して変態行為を行ったのでないだろうか?
簪は今すぐにでもあの男を問い詰めたい衝動に駆られるも早くイヴを見つけたと言う思いもあった。
「かんちゃん、そんなにイヴイヴの事が心配なら電話かメールでもすればいいじゃん」
本音は簪にイヴと連絡を取れば?と言う。
確かにイヴに電話かメールを送れば彼女の居場所は直ぐに分かる。
しかし‥‥
「だ、ダメ。私達は今、お忍びでイヴ達を追いかけているの。もし、イヴに私達が後ろからあの青髪生徒会長みたいにストーカー行為をしていたなんてイヴに思われたらイヴに嫌われちゃうかもしれない」
(さりげなく、姉であるたっちゃんをディスっているよ)
簪の発言に心の中でツッコム本音。
携帯で連絡を取れば早いのだが、それだと自分達がイヴを尾行している事が彼女にバレるのを恐れた簪はあくまでも連絡は取らず、出会う時は偶然を装って出会いたいと考えていた。
そう思うと一刻も早くイヴを探さなければと思い焦る簪であった。
その頃、警察の事情聴取を終えたイヴは警察から非は弾にあると言う事でイヴはもう帰っていいと言う事になり解放された。
部屋から出ると部屋の前にはシャルルが待っていた。
「あっ、アインスさん。もう終わったの?」
「うん。もう帰っていいってさ」
「その‥ゴメンね、肝心な時に役に立てなくて‥‥」
シャルルはイヴが弾に襲われている肝心な時にトイレに行っていた事に関して謝る。
「いいよ。気にしていないし、最後はデュノア君、あそこまで怒ってくれたし‥‥」
(私だけでもあの程度の男なら対処できたけどね‥‥あっ、でもデュノア君私の為にあそこまで怒ってくれたんだよね‥‥)
これまでイヴの周りの男達と言えば、自分に対して己の性欲を満たす為に自分を犯すような連中か自分を実験動物にした奴ばかりで自分の事であそこまで怒ってくれるのは父、織斑四季だけだった。
そう思うとなんだか嬉しい様に感じた。
(あれ?でも、なんでデュノア君はあそこまで私の為に怒ってくれたんだろう?)
これがシャルルの事を意識し始めるきっかけとなった。
警察の事情聴取を終えたイヴは先程キープした水着を買いに再びあの水着店へと戻った。
その最中、
「あっ、イヴ」
「ん?かんちゃん?それにのほほんさんにラウラ」
簪と本音、ラウラの三人と出会った。
「ね、ねぇイヴ」
「ん?どったの?」
「さっき、変な男の人がイヴの名前を叫びながら警察の人に連れていかれたけどなんかあったの?」
「うーんとね‥‥」
イヴは先程更衣室であった出来事を簪達に話した。
「何それ!!何処のどいつなの!?ソイツ!?私が直々に制裁を与えてやる!!」
簪の周りからは青い炎が出ている‥‥様に見える。
しかも手にはいつの間に出したのか夢現が握られていた。
「まぁまぁ、かんちゃん落ち着いて」
イヴは簪を宥めると彼女は夢現を引っ込めた。
「それで、デュノア君はその時、どこに居たのかな?」
簪はイヴが襲われていた時、シャルルはどこに居たのかを尋ねた。
「えっと‥‥その時はちょっとトイレに‥‥」
「ちっ、つかえねぇ奴だ」
シャルルの言葉を聞いて簪は吐き捨てるように言う。
(なんかかんちゃんらしくないなぁ‥‥)
「うぅ‥‥」
簪の言う事は事実であり反論できなかった。
「そ、それでかんちゃん達も臨海学校の買い物に来たの?」
イヴは簪達も自分達と同じく臨海学校の為の買い物に来たのかと尋ねる。
「う、うん。そう」
まさか、イヴの後をつけていたなんて言えずにそれに同意する。
「それじゃあ、もう水着は買ったの?」
「ううん、これから」
「それじゃあ、私も今から水着を引き取りに行くからかんちゃんも一緒に行かない?」
「えっ!?いいの?」
「うん」
「行く!!行く!!」
まさかのイヴからの誘いに簪は歓喜し一緒に行くと言う。
それに対してシャルルは少し残念そうにした。
チラッ
そんな時、シャルルと簪が一瞬だけだが目が合った。
「…………はっ(笑)」
簪はドヤ顔をしていたが、その目はシャルルに言っていた。
(私の勝ちだと)
「むっ!?」
簪のその視線に対してシャルルは腹の内からなにかモヤモヤしたものが出てきて、
「アインスさん、行こう」
シャルルはイヴの手を引く。
「あっ、ズルい」
簪は一歩出遅れる形でイヴの手を握る。
「更識さん、女性をエスコートするのは男性の役目なんだけど?」
「そんな常識はもう古いわ」
「むっ」
「むむむっ」
バチバチバチ‥‥
シャルルと簪の目からは互いに火花が散っているように見えた。
「布仏、先程から簪の様子が少し変だぞ。一体何があったんだ?」
ラウラは簪の様子についていけずに本音に尋ねる。
「色々あるんだよ‥色々ね‥‥」
(まさか、かんちゃんがここまでイヴイヴにご執心になるなんて完全に予想外だよ‥‥)
「?」
本音の説明に納得できずに首を傾げるラウラだった。
そしてやってきた水着売り場。
イヴとシャルルに関しては戻って来たと言うべきだろう。
「これがすべて水着か‥‥この世にはこんなに様々な水着があったのか‥‥」
ショッピングモール内を歩いてイヴを探していた時に思っていたが、ラウラは数が豊富な水着に改めて圧倒されていた。
「すみません、さっきキープしてもらった水着を買いに来ました」
イヴは店員さんに声をかけてキープしてもらった水着を受け取る。
「イヴはどんな水着を買ったの?」
やはりイヴに対して興味があるのか、簪はイヴがどんな水着を買ったのかを尋ねる。
「うんとね、これだよ」
イヴは簪に黒いビキニの水着を見せる。
(く、黒!?黒のビキニ!?イヴがこれを着るの!?見たい!!直ぐに見たい!!)
ビキニを着たイヴの姿を想像して興奮する簪。
「それで簪はどんな水着を買う?」
イヴは簪にどんな水着を所望なのかを聞く。
「えっ!?うーんと‥‥その‥‥で、できれば‥‥い、イヴと同じ様な水着が‥‥いい」
簪は俯きながら頬を赤く染めて自分が欲しい水着をイヴに伝える。
「うーんとね‥‥それじゃあ‥‥これなんてどう?」
イヴは簪の要望を聞いてフリルのついた黒いビキニ水着を簪に差し出す。
「うんいいかも」
簪はイヴの選んだ水着を気に入った様子。
「い、イヴ」
そこへラウラが声をかける。
「ん?どうしたの?ラウラ」
「その‥‥私のも選んでほしい‥‥その‥‥出来れば私もイヴや簪みたいな水着がいい‥‥」
ラウラもイヴに水着を選んでほしいと頼んできたのでイヴはラウラにも水着を選ぶことにしてあげ、彼女にはリボンがあしらわれた黒いビキニ水着を選んであげた。
そしてイヴは水着の他にエメラルドグリーンのパレオも購入した。
「のほほんさんは買わないの?」
イヴは本音にも水着を買わないか尋ねる。
「うーん、私はもう用意してあるよ」
本音は既に水着を用意していると言う。
(えっ?あれは水着だったの?てっきりアニマルパジャマかと思ってた‥‥)
簪は本音の水着をアニマルパジャマかと思っていた。
それほど、本音が用意した水着は水着らしからぬ形状をしているのだろう。
「あっ、でも予備に一着買おうかな?」
そう言って本音は白いビキニ水着を購入した。
水着を買った後、イヴ達はフードコートにて昼食を食べに行った。
イヴの隣には簪がちゃっかりキープして向かい側にはシャルルが座った。
やがて、各々の料理が手元に集まる。
イヴはオムハヤシ、シャルルはパエリア、ラウラはハンバーグ、簪はかき揚げうどん、本音はきつねうどんを注文した。
注文した料理が集まると、
「「「「「いただきます」」」」」
昼食が始まった。
そして昼食の時間が過ぎていくと、
「ね、ねぇイヴ」
簪がおずおずとイヴに声をかける。
「ん?なに?」
「その‥‥い、イヴのオムハヤシ一口貰える?」
「ん?いいよ。はい、あーん」
イヴはオムハヤシを一口スプーンに掬うと簪に『あーん』をやる。
「「っ!?」」
それに真っ先に反応したのは『あーん』をされた簪とイヴと向かい側に座るシャルルだった。
「あーん」
「うっ‥‥あ、あーん」
簪は顔を真っ赤にしつつもイヴから『あーん』をしてもらった。
(イヴに『あーん』して貰っちゃった‥それにこれってもしかして間接キス!?イヴとキス!?キスしちゃった!!)
イヴに『あーん』してもらって思わずイヤンイヤンと悶える簪。
それを見て面白くないのがシャルルである。
「あ、アインスさん。そのパエリア一口食べて見ない?」
シャルルはイヴにパエリアに食べないかを誘う。
「えっ?いいの?」
「うん。はい、あーん」
シャルルはパエリアをスプーンに掬ってイヴに食べさせる。
「あーん‥パクッ」
イヴはシャルルのパエリアを何の躊躇なく食べる。
(ああー!!イヴったら、デュノア君と間接キスを!!)
イヴの行動に少なからずもショックを受ける簪。
そんな簪に対してシャルルは、
「‥‥( ̄∇ ̄) ドヤッ!」
簪にドヤ顔を決める。
「くっ‥‥」
悔しがる簪。
更に追い打ちをかけるかのように、
「あ、あの‥‥アインスさん」
「ん?」
「その‥‥僕にも『あーん』をして欲しいな」
「うん。いいよ。はい、あーん」
(い、イヴ!!)
シャルルに平然と『あーん』をするイヴに対して更にショックを受ける簪。
(やっぱり性別のアドバンテージなの!?ううん、負けない!!)
「い、イヴ」
「ん?」
「私のかき揚げうどんのかき揚げ、一口食べてみない?」
今度は簪がイヴに自分のかき揚げうどんの中に入っているかき揚げをイヴに食べないかと差し出す。
「えっ?いいの?」
「うん」
「じゃあ‥‥」
「はい、イヴ。あーん」
簪はベチャ漬けしたかき揚げを箸に乗せてイヴに食べさせる。
「あーん‥‥パクッ‥モグモグ‥‥」
「おいしい?」
「うん」
簪の問いに満面の笑みで答えるイヴ。
「じゃ、じゃあ、イヴ‥も、もう一度、『あーん』してくれない?」
「あっ、更識さんズルイ!!」
「デュノア君は男なんだし我慢するべき」
「どういう理屈!?」
そんなこんなで騒がしくも楽しい昼食タイムは過ぎて行った。
周りの席の人々はイヴ、簪、シャルルの様子を見て、『キマシタワー!!』と興奮する者、男であるシャルルに嫉妬の視線を送る者など様々であった。
そして帰りのモノレールの中、色々あったせいかシャルルも簪もすっかり疲れて寝てしまう。
枕は勿論イヴの肩だった。
二人はそれぞれイヴの左右両方に座り、息があったかのようにイヴの肩に自らの頭を乗せて眠っていた。
イヴは両肩に重さを感じながらも二人を起こさない様にジッと座っていた。
一方ラウラと本音は互いに互いの肩を乗せて眠っていた。
そして戻って来たIS学園の寮。
買い物に出かけた各自各々の部屋へと戻って行く中、シャルルは突然立ち止まる。
「ん?どうしたの?デュノア君」
「アインスさん、ごめんね」
シャルルが今日の事を謝った。
自分がイヴを誘わなければ彼女がショッピングモールで変態に狙われることもなかったからだ。
「ううん、そんな事ないよ。皆で買い物が出来て楽しかったし」
(過去の遺物も片付ける事も出来たしね‥‥)
イヴとしては弾を社会的に抹殺することが出来た事に関しては今回の出来事は決して無駄ではなかった。
「それにデュノア君、とてもかっこよかったし、嬉しかった」
イヴはシャルルが自分の為にあそこまで弾に怒ってくれたことも嬉しかった。
「これはそのお礼‥だよ‥‥」
「えっ?」
チュッ‥‥
「んっ」
「んぅ」
イヴは大胆だと思いつつもシャルルにキスをした。
それは僅かに一~ニ秒ほどの短いキスだったがシャルルにしては長く感じた。
「あ、アインスさん!?」
シャルルは手で自分の唇を抑えつつ裏返った声を出す。
「勇者にはそれなりの報酬を‥‥だよ。おやすみ。デュノア君」
イヴは微笑みながらシャルルに手を振って自分の部屋へと戻って行った。
「‥‥」
シャルルは呆然としながらイヴの後姿を見つめていた。
『ハハハハハ‥‥デュノア君にキスとはお前も随分と大胆な事をするじゃないか』
檻から出てきた獣がイヴに語り掛ける。
(うん‥‥そうかもね‥‥)
茶化す様に言った獣の言葉に対してイヴは冷静に返す。
『ん?おい、らしくないじゃないか』
(うん‥‥そうかもね‥‥)
『ん?おい、どうした?お前少し変だぞ?』
(うん‥‥そうかもね‥‥)
イヴは先程から同じ言葉しか発しない。
それに心なしかイヴの目がボォッとしているように見える。
『ん?まさか、コイツ‥‥』
獣はイヴの様子が気になり
『お前‥‥もしかして‥‥デュノア君に惚れたのか?』
(えっ?)
獣の問いにイヴは思わずその場に立ち止まり今の自分の気持ちを整理する。
だが、そう簡単に答えは出ず、
(‥‥そう‥なのかもしれないし‥そうじゃないのかもしれない)
『なんだ?その曖昧な解答は?』
(自分でもわからない‥‥これまでの人生で好きになった男の人はお父様ただ1人だけだったし‥‥これが恋愛感情なのか私にはわからない‥‥)
獣は確かにシャルルに惚れていたが、イヴ自身自分はシャルルに抱いた感情が恋愛なのか友情なのかはまだ答えを出す事が出来なかった。
イヴの中でシャルルに対する感情の答えが出るにはもう少し時間が必要だった。
『ったく、デュノア君にキスまでしといて何言ってんだか‥‥』
獣は深層心理の中でイヴに呆れていた。
だが、獣としては表のイヴがこのままシャルルとくっついてくれれば獣としてはやりやすい。
しかし、獣の純愛ロードは天災兎や青髪姉妹など障害が多いかもしれない。
「ふぅ~疲れた~」
ドサッ
部屋に戻ったイヴはベッドの上に倒れ込む。
そして先程獣に言われた事を改めて考える。
(私がデュノア君を好き?)
(あ~もう、アイツが余計な事を言ったせいで頭の中がモヤモヤする~!!)
獣に言われて尚更にシャルルの事を意識してしまうイヴ。
しかし、昼間ショッピングモールにて弾に襲われてシャルルに抱き付いた時、世間を味方につける為にシャルルに抱きついた時、本当にあれは演技だったのだろうか?
自分は無意識のうちにシャルルに甘えたかったのではないだろうか?
獣がシャルルに一目惚れしたように‥‥
半分同性とは言え、自分の為にあそこまで怒ってくれたシャルルに少なからず自分も惚れ始めているのではないだろうか?
それにさっきシャルルにしたキスも本当にただのお礼の為だったのだろうか?
イヴは顔を枕に埋めて悶えた。
「一体どうしたんだ?イヴの奴‥‥」
同室のラウラは悶えているイヴの姿を見てどうしたものかと声をかけるにかけられなかった。